「……す、素敵な、お話でしたね」
「……あっ、ああ、そうだね」
スタッフロールの流れる中、少し上擦った声で会話を交える。
俺はソファーの背もたれに体重をかけながら、ちらりと隣にいる彼女の様子を窺った。
ふんわりとした金色の髪、天使の羽を思わせるような髪飾り、右耳には白い耳カバー。
ヴィクトワールピサはほんのりと頬を染めながらも、じっと画面を見つめている。
……どうやらスタッフ名前一人一人までしっかりと見るタイプらしい、俺も見習わなくては。
『トランさんから映画をオススメしてもらったんです、一緒に見ませんか?』
事の発端は、ピサからのそんなお誘いだった。
彼女がトランセンドから映画を薦められるのは今回が初めてではない。
日本の古い邦画から海外のマイナーな洋画まで、紹介される映画は多種多様。
共通しているのはどれも面白いということと、ピサの趣味に合致しているということだった。
今回も例に漏れず、映画そのものは素晴らしいの一言。
役者の演技は臨場感に溢れ、演出も洗練されており、すっかりと映画の世界観に引き込まれてしまう。
そして、ストーリーはシンプルかつ王道的。
愛する二人が引き裂かれ、様々な困難を越えて再会し、最後に幸せなキスを終了といったものだった。
ただ────そのラストのキスシーンが、何だか妙にねっとりとしていた。
感動の再会からのカタルシス、という演出の意図はわからないでもない。
ただ、10分近くじっくりと濃厚なキスを見せつけるのは、どうなのだろうか。
しかも無駄に細かい音まで拾って、カメラアングルも妙に凝ってたし、突然ジャンルが変わったのかと思った。
「……ん?」
スタッフロールが終わって画面が暗転した直後、ちょんと右手の指先に何かが触れる。
視線を向けてみれば────ピサの左手が、さりげなくこちらの方へ伸びていた。
「……っ」
ピサは赤らんだ顔で前を向いたまま、ゆっくりと指先を絡めて行く。
柔らかくて、暖かくて、そして少しだけしっとりとした彼女の手。
それはまるで、何かをねだっている赤子のようだった。
じんわりと、心の奥底から悪戯心が湧いて来る。
俺は彼女の求める“何か”を理解しながら、あえて気づかない振りをすることにした。
「どうかした?」
ピサの左手を摑まえるように、ぎゅっと手のひらを合わせて握りしめる。
いわゆる、恋人繋ぎというやつだった。
直後、彼女は手をぴくんと震わせて、ハッとしたような顔をこちらへと向けた。
「あの、その、えっと、ですね…………何でも、ありません」
「そっか」
耳をぴこぴことさせながら、ピサは困ったような笑顔を浮かべていた。
求めるものとは違うが、これはこれで嬉しい、といったところだろうか。
彼女は何か言いたげにしていたが、やがて諦めたように目を伏せてしまう。
そしてしばらくすると、今度はふんわりとした何かがファサファサと背中を撫でつけて来た。
「……ピサ?」
「…………っ」
背中の感触の正体は、ピサの尻尾。
彼女は顔を真っ赤に染めながらも、尻尾で撫でてくるのをやめない。
物欲しそうな熱っぽい瞳でちらちらとこちらを見つめ、時折これ見よがしに指先で自らの唇をなぞっていた。
────ああ、なんて愛らしくて、いじらしいのだろう。
直前まで、すぐに応えてあげたいという気持ちも、もう少し焦らしたいという気持ちが鬩ぎ合っていた。
しかし、ピサのそんな姿を見た瞬間、その天秤は一気に片側へと傾いてしまう。
「ピサ」
俺はピサと正面から向き合い、空いている方の手で彼女の顎の下に触れる。
そして、くいっと持ち上げながら顔を近づけていく。
「……!」
ピサの耳と尻尾がびくっと立ち上がる。
そして、彼女はそっと目を閉じて、まるで差し出すかのように唇を少しだけ尖らせた。
お互いの距離が少しずつ詰められて行き、やがて、その瞬間へと辿り着く。
「…………ちゅ」
唇が、触れ合う。
ほんのりと暖かい、ふっくらとした感触。
その瑞々しさと柔らかさはとても心地良くて、何度も、触れたくなってしまう。
「んん……ちゅ……はぁ……ちゅう……ん……っ」
お互いに啄むように、何度も何度も唇を重ねた。
段々とお互いの体温が上昇して、徐々に呼吸を乱れたものへと変わって行く。
熱気と息苦しさに思考が麻痺する中、とろんと蕩けたピサの瞳が煌めいた。
「はむ……んちゅ……あむ……ちゅっ……ふふ……ちゅー……」
ピサは唇で唇を挟み込みながら、はむはむと甘噛みをする。
いつの間にか彼女の両腕は俺の背中に回されていて、身体も抱き合うように密着していた。
柔らかな膨らみの奥から、トクントクンと響く確かな心音。
お互いの呼吸と鼓動が次第に融け合っていく。
「ちゅ……れろ……はむ……ん……ちゅう……れろ……んちゅ……ふあ……ちゅ……」
ちらちろと遠慮がちに唇を舐めていたピサの舌先が、ついに咥内へと入り込んできた。
長くて肉厚な舌が味わいつくようにじっくりと口内を這い回り、ぞくぞくした快感が背筋を襲う。
甘ったるい匂いに理性がかき乱されて、気づけば俺の腕もまた、彼女の背中に回されていた。
その瞬間、ピサの目は薄く細められて、その舌が俺の舌へと絡みつく。
「れろ……んちゅ……あっ……ちゅ……んん……れろ……はぁ……はむ……れろ……ちゅちゅ……っ」
ぴちゃぴちゃと、淫靡な音が部屋の中に響く。
ふりふりと妖艶に揺れるピサの尻尾は、まだまだ足りないと言わんばかりだった。
ああ、いつもこうだ。
唇を重ねるまでは主導権を握れるのに、唇を重ねてからはされるがまま。
こうして彼女に貪られて蹂躙されるのを、悪くないと思っている自分がいるのも、また事実だった。
思考を放棄して本能に導かれるまま、この甘美な時間へと沈み込んでいく。
こうして────俺とピサは映画よりも長くねっとりとしたキスシーンを繰り広げるのであった。














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