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レースに集中してるクロノにキスしても気づかれない説

プリンボタンプリンボタン

もう少しで久々の五週連続投稿になるから頑張りたいです

「うーん…ないなぁ…」

ある日のこと、俺は資料を探しに図書室に足を運んでいた。

「にしてもすごい本の量だな…この中から目当てのやつを見つけるのは骨が折れるぞ…」

トレセンの設備はすごい。
ジムには最新の機器がズラリと並び、ニンジン農園はグラウンドと同じくらいの広さがある。
図書室もそうで、世界中から集められた珍しかったりそうでもなかったりする本が所狭しと詰め込まれている。
だがそのせいで…という言い方をするのは変かもしれないが、お目当ての一冊が中々見つけられない。
そんなにレアモノというわけではないのであるにはあるのだろうが…

「……お、あったあった!これだ!」

ちょこんと収められていた探し物をようやく見つけて、それを手に取る。
よしよし、これでやっと作業に取りかかれるぞ。

「ん?」

ふと向こうの方を見てみると、机の上に本がどっさりと山積みされていた。
誰かが俺みたいに探し物しててあちらこちらをひっくり返して回ったのだろうか。
放ったらかしにしておくのもアレだし、片付けておこう。
そう思って近づくと、本の山の中から声がしてきた。
しかも、明らかに聞き覚えのある声だ。

「あれ?クロノ?」

そこにいたのは、俺の担当バのクロノジェネシスだった。
積み重なった本の塔の中心でちょこんと座るその様は、まるで小動物である。

「クロノも何か探してるのか?一緒に探そうか?」

「……………」

「おーい?」

「……………」

話しかけても彼女は微動だにせず、ただ眼前の本を見つめてぶつぶつと小さな独り言を繰り返すのみ。

「このレースでは彼女は四着だけどこれは天候による影響もありうる次のレースの日の天気予報は晴れとなれば彼女の順位は更に上をいくはずやっぱり次の優勝は彼女でしょうかいやでもこちらの方も興味深い…」

なるほど、レースの本を読んでいたのか。
ならばこちらの声は聞こえちゃいまい。
レースのことになると自分の世界にどっぷり浸かって帰ってこないのはクロノのあるあるだから。

「時々休憩するんだぞー」

静かにこの場から立ち去ろうとして…唐突に思った。
今のクロノは話しかけられたことさえわからないくらい自分の世界に入っている。
それなら一体、何をどうしたら俺の存在に気づくのか?と。
言うならば、ほんのちょっとした悪戯心だ。

「……」

そーっとクロノの頭に向けて手を伸ばす。
狙いは耳だ。
ウマ娘の耳はそんなじっくり見たことも触ったこともないので、純粋に興味があった。
触り心地は…おお、めっちゃいいなこれ。
柔らかくてふわふわ…冬毛になる時期はもっといい感じになるのだろうか。
優しく触れるだけでなく、軽くにぎにぎしてみたり、ダックスフンドみたいにぺにゃっと折ってみたり。
押さえていた手を離すと、反動で耳がぴこんっと飛び跳ねる。

「…おもしろ」

しばらくそうして遊ばせてもらったが、クロノの視線はこちらと合わない。
まだ気づいてないみたいだ…ならば。

「ほっぺ柔らけ〜」

つんつんと頬をつついてみる。
思わず感想を零してしまうくらいぷにぷにだ。
両手でこねくり回して思い切り堪能したいけれど、さすがにそんなことしたら気づくだろう。
まあそこまでしなくても頬をつつかれたら普通は気づきそうなものだが、クロノの目はまだ資料の方だけを見ていた。

「これで気づかないのすごいな…どんだけ面白い本なんだ?」

ぐいっと顔を近付けて、資料の内容を覗き込もうとする。
これだけ凝縮しているのだ、さぞかし興味深い内容に違いない…

「…すごい綺麗な目だな」

資料よりも、クロノの顔を見てそう感じてしまった。
大きくてくりっとした青い瞳。
芦毛もあってそれがより映える。

「可愛いなぁ…」

おっといけない。
常日頃から思っていることなのだ、今更改めて気を取られるものではないし、わざわざ口にするほどの感想でもなかろう。
さて、クロノはどんな本を……

「うおっ」

その時だった。
バランスを失って、体を前のめりに倒してしまったのは。
机に置いてあった本に手を置いて支えにしてしまって、体重によってずるりと滑らせてしまったせいだった。
幸いずっこけるまでには至らなかったが…いや、幸いではないか。
俺が引いたのは、一人でずっこけた方が何倍もマシだったレベルの最悪だ。
体勢を立て直す前に、クロノの頬に唇をくっつけてしまったのだから。

「…!?!?」

瞬時に己の犯した重罪ぶりを理解して、全身の細胞が跳ね跳んで体を後方に下がらせる。
やってしまった!やらかしてしまった!!
頭の中がその言葉でいっぱいになる。
冷や汗が流れ出て、血の気が引いていくのがわかる。
対するクロノは…微塵も動じていなかった。
何事もなかったかのように、ただ静かにちょこんと座っているのみで。

―――き、気づいてない…のか…?

それを確かめる勇気はなかった。
もし声をかけて返事をされたら、俺の人生は終わる。
どうか気づいていませんようにと願いながらこの場を去る選択しか、俺は選べなかった。

「ご、ごめんなクロノ…本当に…」

せめてもの謝罪は口にしておいたけれど、これくらいで償えるものでないのは理解している。
もし後で追及されたら、全力で土下座し腹を斬って詫びよう。
それと、もう二度とあんなくだらない悪戯はしないでおこう。
そう心に決め、俺はそそくさと廊下を早歩きで通り抜けた。
探し物の本を図書室に忘れてしまったことに気づいても、取りに戻る気は起きなかったのだった。

・・・・・

ドッ、ドッ、ドッ。
無音だった図書室には、いつの間にか壊れたバイクのエンジン音のような爆音が轟いていました。
あれから何分か経ったのに、体はまだ硬直したままで。
私はもう何が書いているのかさえ理解できない資料を、ただ握りしめていました。

『可愛いな』

トレーナーさんの言葉が、あの感覚が、頭の中で何度も何度も蘇って積み重なっていくようでした。
増々騒々しくなっていく鼓動も相まって、気を抜いたら感情が破裂してしまいそうです。
トレーナーさん…あれって嘘じゃないのかな…
私のこと、本当にかわ…かわいいって…

『綺麗だな』

「〜っ!」

ダメです、これ以上覚えていたらおかしくなってしまいます。
早く忘れないと…早く忘れて、代わりにレースの知識を詰め込んで…

『大好きだよ』

そ、そんなこと言われてません!
何をしているのでしょうか私は…あのキスだって、ただの事故でしかないのに。
別に思いを通わせて唇を重ねたわけでもないのに、都合のいいように解釈をねじ曲げたりして、私は…

『クロノ』

「め、めにしゅきぃ…」

今日、私はちゃんとトレーナーさんの目を見てお話できるでしょうか。
そもそも、トレーナーさんに会いに行く勇気を出せるでしょうか。
授業開始を告げるチャイムが学園中を駆け巡っても、私はまだ岩のように重い腰を上げられずにいたのでした。

— End —

Comments 2

もちもちだんご1 天前

クロノの長いお耳をはむっ……ってしたい……

P
prayer2 天前
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Sakuria
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