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親子の胃袋をつかむお話

やがみやがみ

グローグーとマンドーにご飯を作るお話。 二次創作はもっぱら絵で表現することが多かったので、楽しんでもらえたら嬉しいです。 ▽感想やリアクションはこちらからも! https://wavebox.me/wave/cborberprud38w72/

「また飯を作ってもらえないか」

昼下がりのネヴァロ。市場で食材の買い物をしていたところ、名前を呼ばれたかと思いきやグローグーを連れたマンドーにそんなことを頼まれた。
以前一人で仕事に出向くマンドーに頼まれてグローグーを預かったことがある。その際、マンドーからなんでも食べる(それこそカエルなんかも!)と聞いていたから、それならとあまり気負いせず作り慣れた家庭料理を食べさせてみたところグローグーはいたく喜んでくれた。止まらないおかわりに最後はストップをかけたくらいだ。
その後無事仕事を片付け迎えにきたマンドーに対して、グローグーはどれだけ美味しかったかと力説してくれているように見えた。身振り手振りで感情を表す姿はとても可愛らしかったが、こちらとしては特別なものを作ったつもりはなかったので、ちょっと困ってしまったくらい。

「ご飯?グローグーに?別にいいけど……」
「すまない、金なら払う」

別にいいのに、と思ったが、真面目なこの男はそれでは納得しないだろう。 気を使わせたいわけでもないので---はそのまま受け入れた。

「えーっと、今日?」
「いけるか?」
「うん、いいよ」
「助かる」
「でもずいぶん急ね」
「こいつが聞かなくてな……」

よほど気に入ってくれたのだろうか。単にいっぱい食べさせてもらえたのが嬉しかった可能性もあるけれど……マンドーはぶっきらぼうに見えて愛情深く優しいから、グローグーが飢えてることはないんだろうなと思った。たまたまグローグーの好きな味だったのか、それとも一緒に過ごした時間が楽しかったのか、どちらにせよ嬉しいことに変わりはない。
マンドーが自身の左肩に乗っていたグローグーをこちらに預けようと抱き上げると、グローグーがマンドーの服を掴んでピッと引っ張った。

「ブブ……」
「どうした、食べたかったんだろ」
「ンーア」
「---が作ってくれると言ってる」

なおもグローグーは服を引っ張り続ける。何か言いたげな顔をして、大きな目でマンドーに自分の意思を伝えようと必死だ。その姿を見て、---はもしかして、と気がついた。

「あなたも一緒にって言ってるんじゃない?」
「キャァー」

嬉しそうな声を上げたところを見ると、どうやら正解らしい。小さな手をふりふりと踊らせてはしゃいでいる姿はなんとも可愛らしいものだ。
ただ、前回預かったのはマンドーが仕事で留守にする時だ。もし今回も仕事で留守にするからと声をかけられたのであれば、グローグーの望みは叶えられない。

「あなたはこれから仕事なの?」
「いや……今日はそういうわけじゃない」
「ふふ、じゃあグローグーがぐずったから私のところに連れてきたの?」
「抗議がすごくてな。皿とスプーンを持って大合唱だ」

想像して---はつい声に出して笑った。きっとマンドーも最初は無理だと断ったんだろう。グローグーは普段幼さのわりに聞き分けの良い子だなという印象だったが、そんな子が自分のご飯をまた食べたいと言って小さなわがままを言ったのだと思うととても愛おしかった。そしてそれを受け入れて応えるマンドーも、やはり優しい父親だ。

「じゃあ一緒に来たら?同じ部屋で食べることはできないんだろうけど、よければマンドーも食べて」

覗いたりしないから、と笑うと、少しの間考えるそぶりをしていたマンドーだったが、やはりグローグーの瞳の訴えに負けたのかやがて小さく頷いた。

「君が良ければ……世話になる」

任せてと快く請け負ったものの、客人が来るなら献立を考え直さなくてはいけない。二人増えるなら量も必要だ。ましてや一人が戦士の男と胃袋が底知れないこの子供だ。野菜は今から買うからいいとして、先ほど寄った肉屋にはもう一度足を運ぶ必要がありそうだ。

「荷物持ちよろしくね」

そう言って元々抱えていた袋をマンドーに渡すと、一緒に市場を歩き始めた。たくさんの武器を装備しながら手には食材の入った買い物袋、肩には小さな子供が乗ったマンドーの姿は一見アンバランスだがなかなか様になっている。子育てする父親の姿が板についてきたのかもしれない。
そうして寄ったばかりの肉屋にまた顔を出したところ、店主の男に不思議そうに尋ねられた。

「あれ、どうしたんだい?」
「実は急にお客さんが増えちゃって」

そう言って---が後ろで買い物袋を持って立つマンドーを手で示すと、店主は何度か---とマンドーを交互に見て……なにか意味ありげな笑みを浮かべ頷いた。「グラムおまけしておくよ」なんてサービス付きだ。
来店した時は店主が不思議そうな顔をしていたのに、商品を受け取って店を後にする時は今度は---が不思議そうに首を傾げていた。

「サービスなんてラッキーだけど、なんでかな?」
「……さあな」

グローグーの可愛さにサービスしてくれたのかも、と言うと「こいつは売り物に手を伸ばして金を払う前に食ったことが何度もある。ネヴァロでサービスしてくれるような店はもうない」と否定された。父親は大変だ。
それなら余計になぜだろうと思ったが、得をしたのならまぁいいかと深く考えるのはやめにした。

「プァー」
「ふふ、美味しいの?嬉しい」

せっかくだから前回作って好評だったものと、今日は大人の男も食べるから量が必要だろうと別の品も作った。
グローグーが何を喋ってるかはわからないけれど、目の前でせっせと食べている表情と声色からして今回もお気に召したもらえたらしい。

「今日はマンドーもいるからね、いっぱい作ったからたくさんおかわりできるよ」
「ンァー」

そんなことを話しながら食べていると、隣の部屋と繋ぐ扉が開いた。マンドーが空になった皿の乗ったお盆を持って入ってくる。

「もう食べたの?早いわね」
「職業柄、どうしてもな」

そのままグローグーの隣に座ると、嬉しそうに食べる子供の顔を眺めた。ヘルメットで顔こそ見えないが、きっと穏やかな表情をしているんだろう。

「ねえ、聞いてもいい?」
「ん?」
「どうだった?ご飯。人に作ることなんてほとんどなかったから……実はちょっとドキドキしてた」

自分一人で食べるために作るのと、誰かに食べてもらうために作るのとではかかる労力は全然違う。同じ料理でも下処理は丁寧になるし、味付けも目分量とはいかない。よかったら食べて、と自ら軽く誘ったものの別に自分の料理に特別自信があるわけではなかった。

「ああ、正直……」
「……」
「美味かった」

ぽそりと、噛み締めるように言ったその言葉は、それが心からの言葉だとわかるには充分な響きだった。---も安心してつい顔が綻ぶ。突然の料理の依頼だったが、どうやらおもてなしは成功したようだ。

「ほんと?嬉しい」
「普段はあまり凝ったものは食べない。仕事中は特にな。味よりも、手軽さや効率重視だ。」
「そうだよね……正直言って気になってたの。あなたたちって普段どんなもの食べてるんだろうって」
「店で買うか、何か焼くか……そんなもんだな。だから、その……こうやって作ってもらうのは新鮮だ。うん、ありがとう」

そう言われて、---はつい目を見張る。この男は出会った時からいつも冷静で、はしゃぐことはおろか喜怒哀楽の大きな起伏は見たことがない。少なくとも自分の前では。
それが、そんな男が……これは確実に、照れていると思った。ヘルメットを被っていても、視線が定まっていないことが首の動きでわかる。そんなリアクションをされるとは思ってもいなかったので、---もなんだかむず痒くなってしまう。

「喜んでもらえたなら私も嬉しいよ」
「……ああ」

元々口数の多い男ではないが、なんとなく照れくさい沈黙が続いた。---も自分の食事を続けながら、後もう少しで食べ終わるグローグーのことを二人でしばし見つめた。とても穏やかで、優しい時間だ。

「……あのね、おかわりまだあるよ。せっかくならもう少しどう?」
「いいのか?」
「もちろん」

よそうね、とマンドーの皿を手に取った時、アピールするように声が上がった。グローグーが「ぼくも」と言うように---を見ている。

「はぁい、もちろんあなたもね。ちょっと待ってて」

二人分の皿を手にキッチンに移動して、蓋をしていた鍋を開ける。さっきと比べてどれくらい食べる?なんて聞きながら改めて皿に盛る。なんだか、これはまるで……
家族みたいだ、とつい思ってしまったら、---は自分の顔に熱が集まったのを感じた。いけない、顔が赤くなってしまう。どうしたのかと問われればもっと取り乱してしまうだろう。---はよそった皿をその場に置き、平然を装いながらグラスに一杯水を入れると、その場で口にしながら考えた。

これからたまにうちに食べに来るのはどう?あなたたちの好きなもの作ってあげる……なんて。誘ったら喜んでくれるだろうか。まずはグローグーが歓喜の声を上げて、それを見たマンドーは一度遠慮して、でもきっと……そんな気がする。
肉屋の店主のあの意味ありげな笑みを思い出した。今ならあの時、店主が何を思ったのかなんとなくわかる。

---は自分の中に新しく生まれた気持ちがあることをこの時確かに感じていた。

— End —

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