ネヴァロの中心地から少し外れた路地裏に、私の構える診療所はある。
普段は刃物傷やブラスターで撃たれた傷、骨折や毒の治療、はたまた子供の発熱や食中毒まで、ありとあらゆる病人けが人がやってくる場所である。
私と医療ドロイドのビビの2人で切盛りしていて、普段はひっきりなしに患者のやってくる診療所なのだが、今日は開店休業状態。
「本日の患者数は前日比で75%減少しています」
「みんな健康なのよ、いいことじゃない」
「経営面では問題があります」
私はビビに、お茶にしようかとオイルを出し、お湯を沸かしながらクッキーの缶をあける。
それと同時にチリンとドアベルが鳴り、一つの人影が入ってくる。
全身シルバーのアーマーに身を包み、顔も隠している。
「マンダロリアン…?」
実際に見るのは初めてだが、特徴的なアーマーを見てそう呟いた。
「すまない、バクタスプレーを分けてくれないか。」
私の方へ歩きながら彼はそういう。
しかし私は腕や脇腹のアーマーの隙間が血で汚れているほうが気になった。
「バクタスプレーはいいけど…ケガをしてるの?」
彼は少しの沈黙のあと「スプレーを分けてくれないか」ともう一度私に言った。
「答えになってないわ、奥に入って。バクタスプレーは診察が終わってからよ。」
処置室の扉を空けて、彼に入るように促す。
彼はこちらへ来ることもなく何か言いたげに右手をあげる。
ハァ、とため息をついて「治療は自分でする、スプレーだけ欲しい」と先ほどより語気を強めて言った。
苛立ちは感じたが、医療従事者としてけが人に診察もせず薬だけ渡しておしまいというわけにはいかない。
「いいから入りなさい。感染症がないかだけでも診てあげるから」
私がそういうと彼はまだ何か言いたげにしていたが、諦めたようにゆっくりとこちらに歩いてくる。
処置室に入り、なかのベッドに腰掛けるのを見届けて扉を閉める。
「腕と…脇腹?化膿してるかだけでも見せてくれない?」
医療スキャナーを手に近付くと、観念したようにアーマーを取り外し傷口を見せる。
「酷いわね…この止血、自分で焼いたの?発熱はない?」
「熱はない、血も止まっているが…痛みが引かない」
医療スキャナーを当てると、中が膿んでいることがわかる。
「膿がたまってるわね、切って膿を出して洗わないと…」
ビビ、準備して、と声をかけながら手袋の準備を始める。
「アーマーを外して、傷口を出して。」
観念したように脇腹を露わにする彼。
切開の前に消毒をし、麻酔にスプレーを傷口周辺に吹きかける。
「治療を受ける気になってくれてよかったわ…痛かったでしょう、すぐ治してあげるから」
メスで切開をして、中の膿を出す。
洗浄をしてバクタパッチを貼り、手早く処置を済ませる。
「はい、これでおしまい。あと、次から傷口焼くのもうやめなさい。医療キットをあげるから、次からはこれを使って。」
服を戻しアーマーをつけながら私の差し出す医療キットを受け取る。
「いくらだ」
「治療費だけでいいわ、その医療キットはあげるから、ちゃんと使って。」
一瞬迷う素振りをみせるが、私が使ってね、というように医療キットをグイと彼に押し付けると、「助かる」と言って懐から出した医療費をビビに渡す。
「またケガしたら来なさい、ちゃんと治療させてくれるなら安くしといてあげる」
出口に向かって歩く彼にそういうと、少し振り返り頷いたように見えた。
「お大事に」と声をかけ送り出し、診療室の扉を閉めた。
マンダロリアンの診察をしてからひと月ほどが経っただろうか。
数人の患者が訪れ診察をしていると、ベスカーアーマーの男が、今度は浮遊式のベビーポッドに乗った緑色の子どもを連れてやってきた。
患者のもとを離れ、彼に声をかけに行く。
「ひさしぶり、今日は可愛い子が一緒なのね。」ベビーポッドのなかの子供にこんにちは、と声をかけると、嬉しそうに小さな手をパタパタと振ってくれた。
「ちょっと待っててね、こっちの患者さんが終わったら診てあげるから…」
そう彼らに伝えると、「今日は診察じゃないんだ」という言葉が返ってくる。
「…わかった、ちょっと待ってて」
そう言って診察室の患者のもとへ戻った。
残っている患者の診察を済ませ、薬の処方などビビに任せると、マンダロリアンの彼のところに声をかける。
「こっちの部屋にどうぞ」と、処置室の隣の休憩室に二人を通す。
「診察じゃないってことは、医療キットの補充かしら?」
そう聞くと、「あぁ」と短い返事が帰ってきて、以前渡した医療キットを開いて見せてきた。
中身を見ると、バクタパッチ数枚とスプレー、止血パットや鎮痛剤など、使われた形跡が見て取れる。
「ちゃんと使ってくれてるのね…嬉しいわ。止血パットも…もう傷口は焼いてないみたいね」
使った分を補充するのでいいのね?と言いながら補充分のパッチなどを医療用トレーに乗せていく。
その手をとめることなく、世間話のようにベビーポッドの赤ちゃんの話を聞いてみる。
「子持ちだったのね、可愛い赤ちゃんじゃない」
「…俺の子どもじゃない、拾ったんだ」
「子どもを拾って育ててるの?」
びっくりして振り返り2人を見る。
「同じ種族のもとに返すつもりだ」
「そういう活動もしてるの…優しいのね」
トレーに乗せた補充分を医療キットバッグにつめ、はい。と彼に差し出す。
「その子のためにも、これが必要ってわけね。」
「あぁ、助かるよ。」
そういって医療キットの補充分としては少し多めのお金をテーブルに置いて出ていこうとする。
「ちょっと多いんじゃない、こんなにもらえないよ」
「前回の医療キットの分だと思って取っておけ」
また、というように手を挙げて、浮遊ポッドとともに診療所の出口へ向かう。
そう思うと浮遊ポッドが急に止まり、私のおやつ用に置いてあるクッキー缶に、緑の赤ちゃんが手を伸ばしている。
「クッキー、食べる?」
キャッキャというように手を伸ばしクッキーを取ろうとするその子を見て、保護者である彼に目配せする。
「…1枚だけだぞ」
許可が出て小さめのクッキーを1枚手渡す。
「…このクッキー、私が作ったものなの。よかったらこの子に、持って帰って」
缶ごとクッキーを彼にさしだすと、彼は缶に目を落とした。
少し迷った素振りを見せながら浮遊ポッドの赤ちゃんを見る。少しの沈黙のあと「…また頼む」そう言ってクッキーの缶を受け取ってくれた。
緑の赤ちゃんはぺろりとクッキーを平らげ、もう1枚というように手を伸ばしている。
「あとでな」といって、今度こそ二人は診療所から帰っていった。
続く


















