前提
超かぐや姫!の本編後の二次創作。彩葉が所長を務めている研究所の最寄りにあるコンビニでアルバイトをしている店員が、客として訪れる彩葉たちを目撃する話です。
◆
推し客が浮気をしてる。
その事実は、最近カプ厨に目覚めたばかりの俺の精神に多大な影響を及ぼした。
「え、朝・昼の時間に入りたくない?」
「……午後にできますか……?」
「い、いいけど……なんでそんなにこの世全てが憎いみたいな顔してるんですか……?」
バイトリーダーに心配されるレベルで顔に出てしまった。
そう、俺は俺が推していた酒寄彩葉なる客に会いたくなさ過ぎてシフトを変えた。
何故かって、次に推しを見た時に平常心を保てる気がしなかったからだ。
暫く時間を置けば、きっとこの五寸釘を打ち込みたい衝動も収まるはずだ……
そう考えて、深夜以外で彩葉さんの目撃例が少ない午後のシフトに切り替えた。
「落ち着く……心を乱されてばかりだったから、普通に仕事できるのがとても心安らぐ……」
同僚に変な目で見られつつ、俺は心穏やかに業務をこなす。
ー ぴろりろ ぴろりろ ー
「いらっしゃいませー」
来店音を知らせる間抜けな効果音と共に自動ドアが開き、二人組の客が入ってくる。
反射的に挨拶をして視線をそちらにやると、そこにいたのは二人組の美人だった。
淡色のノースリーブにカーキ色のパンツを合わせた、そのまま美容雑誌の表紙に起用されそうな長髪の女性と、ロゴ入りTシャツと白いミディ丈スカートにスニーカーを合わせ、オレンジのバッグを肩に掛けたショートヘアの女性。
(おぉ……)
綺麗どころと可愛いどころ、みたいな感想が漏れるほど絵になる二人。
なんなのこのコンビニ。ここってこんなに美女が集まる場所なの?
「芦花ー、彩葉ってシナモン平気だっけ?」
「平気だったと思うけど、一応かぐやちゃんに聞いてみる?」
「今忙しいんじゃないかなー。うーん、とりあえず避けとくか」
世間話をしながらコンビニの中のお菓子コーナーから数種類の菓子をカゴに入れていく。
口ぶりからして差し入れか何かだろうか。
あと、なんか聞いた覚えのある名前が聞こえた気がするけど、たぶん俺の幻聴だろう。
まさか、ねえ。来る美人来る美人全員知り合いだなんてそんなことないよね。
「ちょっと真実、買いすぎじゃない?」
「えー? 所員さんいっぱいいるから、多い分にはいいんじゃない?」
「そんなこと言って、帰る頃には真実が全部食べちゃうでしょ。食べ過ぎるよ?」
「……そーんなことないよ?」
可愛らしい会話が繰り広げられている。と思いきや、その籠に入っている菓子の量を見て驚く。
本当にとんでもない量の菓子や飲料が入っている。あれを全部食べるんだとしたら、本当に食べ過ぎだろう。
その後も何回かやりとりがあり、いくつかが棚に戻され、二人がレジにやってくる。
「お願いしまーす」
「はい」
レジで菓子や飲料をスキャンしていく。
その間、二人は店内を見回し、レジ横にあるイチバンくじの掲示を見つけたようだ。
「あ、ヤチヨちゃんのくじだー」
「売り切れちゃってるねー」
「ここ研究所からも近いし、もしや彩葉が全部買い占めたかー?」
「……ありえるね」
「冗談にならなかったね」
やっぱり彩葉って言ってる。この二人彩葉さんの知り合いか。
しかも口ぶりからして、どうやら彩葉さんはこの近くにある研究所に務めているっぽいな。
あー、推しの新情報に感謝ー……くっ、しかし今は正直考えたくない……!
「支払いはいかがいたしますか?」
「あ、ふじゅペイで」
「はい。タッチお願いします」
ふじゅー!という軽快な決済音が鳴り響き、会計が終了する。
商品をエコバッグに入れた二人は、店を出て行った。
このコンビニでバイトをする限り、どうやらどの時間帯でも彩葉さんの関係者との接触は免れないようだ。
これは、少し腹をくくる必要がありそうだなぁ……
◆
そんなことを考えていた日の夜、急遽バイトの一人が体調を崩したと連絡が入った。
特に予定もなかった俺はそのシフトを引き受ける。
午後のシフトが終わった後、そのまま夜のシフトに入る。
特にトラブルもなく、通常通りの作業をこなしていく。
この辺は住宅地なので、この時間帯の客は帰路に立ち寄るサラリーマンがチラホラいるくらい。
何事もなく終わりそうかなと思っていた頃、客の来店音を知らせる間抜けな効果音が鳴り響く。
「いらっしゃいませー……」
視線を向けると、午後に来店した長髪の美人……確か芦花さんと呼ばれていた人と、俺の推しカプの片割れ、かぐやさんの二人が並んで入って来た。
俺の脳内で緊急会議が開催される。
『なぜこの二人が一緒にいるんだ!?』
『かぐやさんは浮気女酒寄彩葉から芦花さんに乗り換えたんだよ!』
『かぐやさんはそんなことしない!』
『現実を見ろピュアピュア男子!』
『恋愛は理屈じゃねーんだよ!』
『でも芦花さんと彩葉さんは知り合いなんだぞ!?』
『三角関係!?』
『興奮してきたな』
『NTRやんけ!』
『バカな。ただの女友達でしょう、常識的に考えて』
『そうそう。ま~ったく脳内ピンクなんだから俺らってば』
『待て!!! 俺たち、見てみろ! あの芦花って人の左耳を!!!』
俺は自分の中の俺に言われて、姉妹のように仲睦まじく買い物を始めた二人を凝視する。
芦花さんの左耳。ピアスがついている。
『それがどうしたって言うんだい俺』
『知らんのか。女性が左耳にピアスをするっていうのは、特別な意味があるんだぜ!』
『どういう意味だ?』
『欧米圏では、左耳のピアスは同性愛者を示すらしいぜ……!』
『なにぃ!? なぜ俺のくせにそんな情報を!?』
『さっき休憩中にショート動画で見た』
『ニワカじゃねーか』
『俄だろうと膠だろうとどうでもいい! 可能性の話をしているんだ俺は!』
『落ち着け俺!』
脳内会議が盛り上がりすぎている。
だがしかし、よもや彩葉さん、かぐやさん、芦花さんの三人での三角関係だとしたら……
俺は一体誰を推せばいいんだ……!
「この時間だと惣菜パンくらいしか無いねー。あ、カット野菜が残ってる。これ買っておこう」
「かぐやちゃんは栄養のこと考えられて偉いねー。いつも栄養さえ取れればいいって横着するからね……」
「そんなん、かぐやの目の届く範囲にいる内は許さないよ! あ、でもこの前長期間メンテに入った時はやっぱり食生活終わってたみたい」
「またかぁ……ちょっと目を離すと……」
会話の内容を完全には理解できないが、どうやら夜食になるものを買いに来たようだ。
不健康な食生活にならないよう務めています的な会話かな。
「あ、そーだ。ハンドクリーム切れてたから買って行かなきゃ」
「あ、かぐやちゃん。私の使いかけがあるから、これ渡すよ」
「お、ありがと~芦花……あれ、これ本当に使いかけ?」
「って言って渡さないと、遠慮してくるから」
「あ~……うん。お気遣い感謝します、芦花様~」
「はいはい、気遣ってますよ~」
冗談交じりにハンドクリームの受け渡しが行われている。
どうやらシュリンクを剥がしただけの新品を、使いかけだと言って譲渡しているようだ。
距離感近いながらも互いを尊重している、とても仲の良い友達……か?
ギリ友達か……?
駄目だ、俺のピンク色の脳みそでは恋愛感情との線引きが出来ない……
そんなことを考えていたら、二人はスイーツコーナーの前を通り過ぎる。
その時、かぐやさんがしゅっと手を動かし、四つのデザートをカゴに放り込んだ。
(お、かぐやさんいつもの調子でデザート入れてる。芦花さんはどういう反応をするんだろう)
カゴを持っていた芦花さんが、重さが変わったことに気づいたのか、カゴを見てちょっと困ったように眉を潜めてかぐやさんを見る。
「うーん、ちょっと多いかなぁ。私らもほら、結構良い年齢だし、ね?」
「えぇ? そんなに気にすること無いと思うんだけどなぁ」
「気にしてるから綺麗なんだよー」
「おぉ……美容のプロっぽい……!」
「美容のプロやらせてもらってま~す。と言うわけで、これは戻してねー」
「む~……」
「あ、かぐやちゃんの分はいいんだよ?」
「かぐやだけ食べるのは違うじゃん。なら我慢する」
「んー……なら、これにしよ。寒天ゼリー」
「これなら食べてもいいの?」
「いいよ。ほら、丁度四つあるから」
「うん」
かぐやさんが芦花さんに言われて寒天ゼリーをカゴに入れる。
あの我儘放題なかぐやさんが、あっさり引き下がって言うことを聞いている。
しかも不満を抱いた状態で終わらせず、妥協案を提示して最終的に機嫌良くさせるのにも成功している。
完全にコントロールしているのでは……!
やはり只物ではない、芦花さんとやら。
「レジお願いします」
「はい」
レジに辿りついた二人。
俺はカゴの中の商品をスキャンしていく。
その間も、二人の会話は続いた。
「あ、そうだ。今度私が監修したリップ出るんだけど、かぐやちゃんに似合いそうな色があるからプレゼントするね」
「え、ほんと? やった、芦花のヤツ全部可愛いか好き~」
かぐやさんが芦花さんの腕に抱き着いて嬉しそうに飛び跳ねる。
その様子を見る芦花さんの視線が、優しい。優しすぎる。聖母か何かでしょこれ。
(彩葉さん、もうかぐやさんは大人の女、芦花さんに籠絡されてしまったみたいです……)
彩葉さん。ミステリアス銀髪美少女と浮気なんかするから、こんなに可愛らしい子を取り逃がすんですよ。かーもったいねぇ。
とか思っていたら、再び来店音が店内に流れる。
「あ、良かったまだ買い物してた」
入ってきたのは、見覚えるのある銀髪美少女。
そう、俺の心をある意味乱しまくった主原因、彩葉さんの浮気相手、ヤチヨさんだった。
(え。え……え!? ここの三人が……知り合い……!?)
なんだ、ここでキャットファイトでも始まるのか!?
そんな風に心配している俺を他所に、三人の穏やかな会話が始まった。
「真実は電車で帰ってったよー」
「お見送りご苦労様、ヤチヨちゃん。ヤチヨちゃんの分もデザート買ったよ」
「わーい」
ヤチヨさん、嬉しそうに芦花さんの腕に抱き付く。おお、かぐやさんとヤチヨさんに挟まれた美女サンドイッチの完成だ。
って、違う違う。
そうじゃない。え、距離違くない?
恋敵の距離ではない。友達の距離でもない。
「お会計は」
「あ、ふじゅペイでー」
かぐやさんがポケットから端末を取り出そうとしている間に、芦花さんがしれっと端末をかざして決済してしまう。
ふじゅー、と軽快は効果音が鳴って、かぐやさんが驚いた顔をする。
「え!? 芦花なんで!? 買ったのほとんどウチのだよ!?」
「デザートがあったから」
「むしろそれしか無かったでしょー!? 今はちゃんとお金あるんだから、大丈夫なのに!」
「ごめんごめん、つい。癖で、あれこれあげたくなるの」
「むー……」
「よくわかんないけど、ヤッチョもム~……」
「ちょっと、あはは! 二人とも、ハムスターみたい。写真とっていい?」
三人はそんな風に終始仲良く会話しながら、コンビニを出て行った。
俺は三人が立ち去ったコンビニ内で、再び脳内会議を開く。
『俺の推し……女を侍らせる悪い女だと思ったけど……』
『本命も愛人も寝取られてるやんけ』
『可哀そうすぎない?』
『いや、かぐやさんを取られたからヤチヨさんに乗り換えた可能性もあるぞ』
『だとしたら乗り換え早くない? 電車かよ』
『だとしてもどっちも取られてない?』
『いや、まて……もう一つ可能性がある』
『どうせくだらないことだろうけど何?』
『4P』
『無い』
『一番無い』
『興奮して来たな』
『倫理観どうなっとるん』
『女友達でしょ』
『いや、昼間の真実さんとの距離と明らかに違ったでしょう』
『むぅ、一理どころか千里ある』
脳内が煩すぎて頭痛がしてきた。
俺の脳の処理限界が近い。そろそろ結論を出さなくては、焼け切れてしまう。
「つまり……俺の推し客は、甘々系の美少女二人に良い様に振り回された挙句、大人の魅力を持つモデルに全てを奪われた……ってコト?」
結論出たな。
不憫で可哀そうな女、彩葉さん……俺だけは推してるから……そんなに落ち込むなよ。
イマジナリー彩葉さんに励ましの言葉をかけて、俺は満足して仕事に戻った。




















