舞香「うーーん...」
舞香は自宅の机の前で唸っていた。
YouTubeの企画でメンバー全員に手紙を書いてみようというものの準備段階で、舞香はみんなに手紙を書いていた。
普段思っている事、日頃の感謝、あのとき助かった事、最初はすらすら書けた。
舞香(杏奈、みりにゃ、しょこ、りさ、瞳、きゃーたん、さな、花菜ちゃんは書けた...)
だが後1人が中々書けない。
舞香(衣織に書けない...)
衣織には思っている事は沢山あった。
一緒に住んでいた事、いかりんぐとしてペアでの活動、等々。
だがいざ手紙を目の前にすると書きたいことが全然分からなくなった。
舞香(どうしよう...時間がない...もうちょっとで収録なのに...)
焦る気持ちとは裏腹に内容は全く思いつかない。
結局時間内に終わらず、舞香はスタジオに足を運んだ。
今日の収録のメンバーがそろい、YouTubeの企画が進んでいく。
杏奈「今日はツンツンデレデレな舞香ちゃんがみんなに手紙を書いてくれましたー!」
舞香「なにその紹介笑」
沙夏「おお~!」
花菜「楽しみ!」
今日の収録は、花菜、沙夏、杏奈、舞香。
衣織は居なかった。
舞香(衣織居なくて良かったぁ...)
内心安堵する舞香。
杏奈「じゃあ、舞香には手紙を読んでもらおうと思います!」
舞香「え!読むの!」
沙夏「そりゃあ、読まないと笑」
花菜「舞香ちゃん頑張れ!」
舞香「ほんとに恥ずかしいんだけど、渡すからみんな読んでよ」
杏奈「音読?」
舞香「黙読!」
黙読なら見てる人何も分からんじゃんと杏奈がツッコんだが相当恥ずかしいのか、舞香は折れなかった。
杏奈「じゃあ、1人ずつ黙読するので、見ている方はリアクションをお楽しみください笑」
そう言って杏奈、沙夏、花菜が手紙を読んでいく。
読み終わった3人は満足そうな笑みを浮かべて舞香を見ていた。
舞香「見るなよぉ...恥ずかしいじゃん...」
沙夏「舞香ちゃんいつもそんな事思ってくれてたんだね」
花菜「いつもありがとうってこっちの台詞だよ」
杏奈「これからもよろしくね」
3人が感想を言い。少し目頭が熱くなる舞香。
杏奈「おっとここでスペシャルゲストです!」
なんのことかわからない3人。
杏奈に促されゲストが入って来た。
衣織「どうもー野口衣織でーす!」
舞香「え...」
沙夏「衣織だー!」
花菜「今日来れたの?!」
衣織「うん!お仕事以外に早く終わったから来ちゃった笑」
舞香(...最悪だ。)
舞香は思った。
選りに選って書けていない衣織が来てしまった。
舞香(どうしよう...)
衣織は楽しみ楽しみと口に出しながら手紙を待っている。
その姿にとても罪悪感を感じ先ほどとは違う意味で目頭が熱くなる。
杏奈「え!舞香?!」
沙夏「どうしたの?」
気づいた杏奈と沙夏が舞香に駆け寄る。
舞香「衣織...ごめん...」
そう言って衣織宛の手紙を渡す。
舞香「衣織の手紙書けてない...」
申し訳なさそうに衣織に言う。
舞香「...書きたい事も...想いもいっぱいあった...」
泣きながら伝える舞香。
舞香「書けなかった...形にできなかった...」
ごめんと何回も衣織に言う舞香。
衣織「ねぇ舞香、知ってる?白って全部の色を反射する色なんだって」
衣織は優しく言う。
衣織「私分かった。この真っ白の手紙は舞香の想い全部反射してるから真っ白なの」
衣織「嬉しい。こんなにも舞香の想いが伝わって来て」
衣織の言葉を聞いても、舞香は首を横に振った。
舞香「違うよぉ…」
もう泣いていた。
舞香「だってみんなには書けたのに…」
舞香「衣織だけ書けなかったんだよ…?」
衣織「だってさ」
衣織「本当に何も無かったら、白紙にもならないもん」
衣織「私のこと考えて悩んで、悩んで、悩んで」
衣織「それで書けなくなったんでしょ?」
舞香は何も言えなかった。
図星だったから。
衣織のことを考えて。
一緒に住んでいた頃のことを思い出して。
ライブの帰り道を思い出して。
楽屋でくだらない話をして笑ったことを思い出して。
悩んだ時に助けてもらったことを思い出して。
気付けば何時間も経っていた。
でも一文字も書けなかった。
舞香「…うぅ...」
また涙が零れる。
衣織はそんな舞香を見て笑った。
衣織「ほらね」
舞香「...ほらね...じゃない…」
衣織「じゃあ聞くけど」
衣織は白紙の便箋をひらひらさせる。
衣織「舞香、私のこと嫌い?」
舞香「嫌いなわけないじゃん!」
即答だった。食い気味だった。
全員が笑う。
沙夏「早い早い笑」
花菜「0秒だった笑」
杏奈「過去最速じゃない?笑」
舞香「だって...!」
涙目で反論する舞香。
衣織は満足そうに頷く。
衣織「うん」
衣織「知ってる」
舞香「…っ」
衣織「だから大丈夫」
その言葉が優しかった。優しすぎた。
舞香はとうとう顔を覆った。
杏奈「完全に泣いてるじゃん」
沙夏「舞香ちゃん感情ぐちゃぐちゃになってる笑」
花菜「かわいいなぁ」
舞香「かわいくない!」
泣きながら反論する。
衣織はそんな舞香の隣へ移動した。
椅子を引いて。
自然に当たり前みたいに。
舞香の肩をぽんぽんと叩く。
衣織「ねえ」
舞香「なに…」
衣織「私ね」
衣織は少しだけ考えてから続けた。
衣織「貰った手紙の中で」
衣織「これが一番嬉しい」
スタジオが静かになった。
舞香「…なんで」
衣織「だって」
衣織は白紙の便箋を見つめる。
衣織「私のために悩んでくれた時間が見えるから」
舞香の目からまた涙が溢れた。
衣織「みんなへの手紙は完成したんでしょ?」
舞香は頷く。
衣織「でも私だけ完成しなかった」
舞香「…うん」
衣織「それってさ」
衣織は照れくさそうに笑った。
衣織「ちょっと特別ってことでいい?」
その瞬間舞香は完全に決壊した。
舞香「うぅ...ひっくっ...泣」
沙夏「泣きすぎだって!笑」
杏奈「舞香笑」
花菜「衣織さんずるいなぁ笑」
衣織自身も少し焦る。
衣織「え!?そんな泣く!?」
舞香「だってぇ…!」
言葉にならない。
悔しい。嬉しい。恥ずかしい。
全部混ざっていた。
すると杏奈がニヤニヤしながら口を開いた。
杏奈「ちなみにさ」
衣織「うん?」
杏奈「舞香、衣織の手紙だけ家で何時間も悩んだらしいよ」
舞香「杏奈!!」
杏奈「どうしようってずっと相談きてたもん笑」
花菜「あはは笑」
衣織は少し驚いた顔をした。
そして本当に嬉しそうに笑った。
衣織「そっか」
その一言だった。
でも舞香には分かった。
ああ。
この人は本当に喜んでるんだなって。
衣織は白紙の手紙を丁寧に封筒へ戻す。
そして宝物みたいに胸に抱えた。
衣織「これ持って帰ろ」
舞香「だから何も書いてないって!」
衣織「書いてあるよ」
舞香「書いてない!」
衣織「舞香の全部が」
その言葉に。
また舞香の目から涙が零れた。
結局その日、誰よりも泣いたのは手紙を書いた本人だった。
そしてこの動画が公開された当日。
いかりんぐがトレンドに入った事は言うまでも無い。



















