──あたたかく、力強い大樹に阻まれて、手が届かない。何度も、何度も名前を呼んだ、自分のせいだと泣いて叫んで、ただ、届かない無力感でいっぱいだった。どうすればよかったのか、おれが早く首を切れていれば、力をもっと扱えていたら外へ行こうとしなければ、ただ、必死に呼びかけて、手を伸ばして。それでも、守りたかった小さな背中は離れていく──
叫んだ声の余韻で、起きたことに気づく。この速い呼吸音は自分のものだ。深く息をしようと努めながら、盆にある水差しに手を伸ばす。冬の冷たい空気にさらされ続け、さらにいきなり動いた喉に違和感を覚えたからだった。冷たさが喉を通りすぎ、胸の辺りにじわりと広がってゆく。大きな心拍で体が揺れているようだった。
落ち着け、春の代行者の席はまだ空いている。まだ、生きている。
震える手で、寝巻きの襟を掴む。まだ、呼吸が落ち着かなかった。遠くなった耳が、わずかな声を拾う。
「──せいさま、狼星──、──てもよろしいですか」
浅い眠りのせいで、頭がうまくはたらかない。今日は随分と薬の効き目が悪い。ため息をつくと、開けようとした体勢の、障子の奥の人影が、びくりと肩を振るわせた。
「っ申し訳ありません! 凍蝶様は、ちょうど席を外しておりまして……」
「……いや、いい。大丈夫だ、問題はない」
軽やかな足音が焦ったように近づく。
「しかし……ぁ、凍蝶さ──」
言うと同時に、障子が開いた。曇天を背景に、血の気の引いた顔の凍蝶が立っている。片手には通信端末。話し声で起こさぬように、と離れて連絡をとっていたのだろう。彼は、急足で布団のそばに近づき、ひざまづいた。
「狼星、大丈夫か」
「ああ……何か、進展は?」
端末は画面が消えていて、相手が誰かはわからない。だが、出て行ったばかりのさくらとも思えないから、大体見当はつく。定期連絡と思えど、聞かずにはいられなかった。凍蝶が、顔を歪ませて、目を伏せた。ゆるりと首が振られる。そうかと返して、平常を装った。
それでも、焦燥感が胸をえぐるようだった。
彼女が連れ去られた時からずっと残っている、怒り。
自分を突き刺そうにも行き場のない、あの氷の小刀のような思いが、春のない四季が巡るたび大きくなっていく。
代わりたい。今どこにいるんだ。
世界でいちばんやさしい、俺の春。
「……雛菊様を見つける前に、お前が倒れては元も子もないぞ。まだ起きるには早い。もう少し──」
「いや、もう寝る気にはなれん。今日は早めに発つ」
掛け布団をのけて立ち上がる。外は、白銀に覆われていた。夜のうちはひどく降ったのだろう。だが、今は薄まった雲の隙間から、黎明の空が顔を覗かせていた。天から山の端につれて、空が青から橙に変わっている。ああ、雛菊の瞳は、あんなふうな、やさしい色だった。
助けたかった。
会いたいよ、雛菊。
真っ盛りの冬の凍る空気を吸い込んで、弱音の代わりにはきだした。
















