聞いて聞いて
カンカンカンカンッ、とディンの肩口に乗った幼な子の小さな手がしきりにヘルメットを叩く。
まあ待て、とディンは宥めるようにグローグーに返事したが、その切り返しもそろそろ4度目になる。あともう少しでアーマーの手入れが終わる、キリが良くなるところまで、と思ってグローグーの方を振り返ってやるのも結果的には怠っていたところ。
刹那、ディンは仰け反らされる羽目になった。ッカィィィイイン――と耳元で甲高くつんざく金属音に。
「その球を使うなっ……」
「ぐぐぅ」
操縦棹の先の小さなボールを躊躇いなくベスカーのヘルメットに当てるという、実力行使で振り向かせにきたグローグーをたまらず叱咤する。戦闘時に思いっきり振りかぶった棍棒を脳天にぶち当てられる衝撃に比べればなんということはないにせよ、鼓膜が危ういので切実にやめて欲しい。
ディンは全てのものを放り出した両手で小さな身体をしっかと目前まで引き寄せ、二度とやるなといつもよりきつめに「めっ」する。大きな耳をぺたんと寝かせて渋々頷くも、グローグーはいかにもぶすくれた顔。……はあ、とディンは肩を落とした。聞いて聞いてと盛んに請う幼な子をぞんざいにしたこちらにも非はあることだと認めて。
「悪かった、ちょっと集中してたんだ。――どうした?」
父の傾聴の姿勢を悟って、途端に神妙な顔で瞬き、ついでヘルメットにそっと触れる小さな手。そのほんのささやかな指先を優しくつついて、腹でも減ったか、とあやしながらディンは思った。きっと、グローグーはただ構われたかっただけのこと。
そんな取るに足らないとも思えるささやかな望みほど、他ならぬディンが叶えてやらねばならない。グローグーが、つつくディンの指先を握る。呼べば応えがある、その重要。
マンダロリアンには至って日常茶飯事である修羅場を収めた直後、いつもディンはまずグローグーを覗き込んでこう聞く。
「大丈夫か?」
グローグーはまっすぐディンを見つめ返して、こっくりと頷く。気丈に返してもそのぺったりと下がった大きな両耳を見るたび、この子は元来臆病な子なのだろうとディンは思う。なんといってもまだ幼い。
父親がこうだから、否応なく潜り抜けてきた修羅場の数が相当に幼い彼を鍛えてきたことには違いない。それでも性質はそう簡単に変わらないものだ。稀有なるフォースを生まれ持ってさえ、グローグーは一度として相手を傷つけたがらないから。
マンダロリアンの誇りにかけて向かってくるものは躊躇いなく屠ってきたディンとはあまりに対照的に、荒ぶるものをフォースでとどめ、宥め、争いを退けてきた小さな彼の。その姿勢を、歯痒いとも愚かともディンは思わない。むしろマンダロリアンには選びようない尊い取り組み方で、そしていかにもグローグーらしいことだと。
ディンが膝をついて窺うグローグーの背後には、部品を隅々までばらばらにされた戦闘ドロイドだったものが散らばっている。それでいい、とディンは思う。――お前はお前のやりようでやるべきで、足りないところがあれば俺が守ればいいと。小さな彼も時として大いなる力でディンを助け、何よりその存在そのものによってディンを力づけるのだから。
解釈違い
※暴力描写があります
「伝説の賞金稼ぎが、えらくちっこいのを連れてるな――」
四六時中グローグーを連れて歩くディンにとっては、正直よくある手合いだ。グローグーの小ささと幼さ、それに対するディンの思わぬ丁重な扱い方に、屈強なマンダロリアンの弱点と見て暗にでもあからさまにでも脅しをかけてくる者も珍しくない。
あとはこれはディンにはよくわからないことだったが、伝説の賞金稼ぎともあろう屈強なマンダロリアンが、なんだってそんなひ弱そうな小さいのを連れてるんだ――はっきりと解釈違いだ、といった言いがかりも時にある。繰り返すがよくわからない。
「大事に大事にしてんのか、ええ?」
名高く希少なベスカーに身を包んだ戦士の肩口にちんまりくっつく、あまりにアンバランスなグローグーのいとけなさに、嘲り笑う男の口調がいささかの興奮で高い息が混じり出す。
これも「解釈違い」と言いたがっている手合いのようだが、とディンは、おもむろに自らの利き手の肘をもう片方の手でたんたん、と叩いてみせた。それをはかりかねて無防備に瞬く男に、刹那、ディンはその顎を思いっきり振り抜いた肘鉄でぶち抜く。肉と骨の砕ける音。
ぁが……、と無様に呻いてたまらず膝から崩れ落ちそうになっている男に、ディンはゆったり告げる。
「ああ、おっしゃる通り大切だが、それが何か」
大切だから愚弄するならそれ相応に対処するし、と虫でも叩いただけのような落ち着き払った口調のディンを、血を流す口元を両手で押さえながら男が食い入るように恐れの眼差しで見つめている。父の怒りを買った愚かな男をただ見つめる幼な子の静かな表情をも。
「この子について、後顧の憂いがあるなら俺はそれを徹底的に断つことにしている」
目がぐるぐるとしてきた男に、難しい言い回しはよしとくか、とディンは朗らかなほどに。――なあつまり、死ぬか? と。






















