釈尊は、生まれてすぐに七歩歩いて「天上天下唯我独尊」と言ったとかなんとか。
いやぁ、すごいよね。生まれながらにして天才だったわけだよ。
そんなことを、普通は生まれたばかりの赤ん坊が言えるのだろうか。確かあれって俺こそが最強! 天才! とかそういう意味じゃないでしょ?
頑張ってどういう意味なのか考えていたら、呪いの世界の目隠ししてる最強の男の覚醒シーンを俺は思い出してしまったので、俺ってば本当に救えない。真面目に考えて出てくるのがあのかっこいい男の覚醒シーンのみで、肝心な意味は頭に浮かんでこないなんて。
とはいいつつ、結局どういう意味なのだろう。悲しいかな、俺はそれなりの年数を大人として生きていたのに、よく意味をわかっていないのだ。
だのに、生まれたばかりで釈尊はそれを言ったのだ。しかも元々あった言葉じゃなくて、その場の即興で。すげえ! 天才だよ! やっぱり本物の天才は生まれた時から違うんだ。地頭から良いんだよ!
まあ、俺がこんなに長々と話してまで言いたいことは、それすなわち。
「稀に見る天才だ!!!」
「歴代で最高の頭脳の持ち主だ!」
「今すぐ担ぎ上げろ! 次期族長はこの方に間違いない!!!」
本物の天才を頭に浮かべてみろよ。
ほら、そうだろ。俺みたいな平凡な男は、みんなが今頭に浮かべたであろう天才とはほど遠い!
俺を抱え上げて、歓喜の涙を流す大人達の姿にフンと鼻を鳴らした。
◇◇◇
死んだと思ったら転生してたなんて、もう今時流行んないと思う。
だって、俺だったらその神様の提案を断るもん。いや、可愛い天使のお姉さんとかに言われたら頷いちゃうかもだけどさ。
では、そもそも何でこの話を出したんだってなると思うけど、理由は単純明白。俺が、それを実際に経験しているから。なんと、現在進行形で。
俺、英語嫌いだから現在進行形とか聞いたら鳥肌立っちゃうよ。やめとこうよこの話。
生まれた赤ん坊の脳内がこれだったら、お母さん達はきっととても嫌だろうな。でもごめんね。俺は昔から黙れない性格だから。黙るためには脳内で発散するしかないのである。
昔っていうのは、そう、前世。転生を経験しているのなら、そりゃありますよね前世!
みんな大好き転生おれつえー小説だったら、きっとしがない会社員で〜って感じなのだろう。そして例に漏れず、俺もそうだった。食うか呑むか寝るかしか楽しみがない、面白みも何もないただのサラリーマンだった。こんなところまでテンプレだなんて。ちょっとは個性出して行こうよ!
正直な話、神様と話した記憶もなければ、死んだ時の記憶もそんなにない。
よく知人には脳足りんだとか言われてたけど、そんな重要な記憶をなくすほどだったとはいざ知らず。まあ、俺は俺のことが一番好きなので気にしない。そんなこともあるよね! はい、この精神が大事!
でも、まじで異世界転生をしちゃったんだなぁとは、脳足りんの俺でもなんとなくは理解できた。
だって、俺を抱きかかえている おそらくは両親の見た目が。なんていうか、とってもすごい。すごくすごい。
キンキラキンのゴージャスな服が映える漆黒の肌に、光を反射してんのか自身で発光してんのかよくわかんない真っ白な髪。おまけにさっき思い浮かべてた某最強とお揃いのような蒼い瞳。
すげぇ。美って感じだ。両親がこれなんだから、俺もそうなのかもしれない。光栄です、父上母上。あなた達が美人で俺はとても嬉しいです。つまりは今世の俺もイケメンってことだから。
あ、ありがてぇー! 前世は非モテの人生を歩んでいた俺が、可愛い女の子にモテる人生を歩めるってこと!? やったー!
「麗。あなたは麗というのよ」
お母さんらしき人が言うには、俺はそんなお綺麗な名前らしい。いやでも、苗字と名前とがある日本人だった俺は、ちょっと短いなぁと思った。感想も阿呆である。
これは普通に俺がイケメンじゃなかったら許されない名前だ。名前負けしてんねって虐められる未来が見えてるから。まあ今世はきっと顔がいいって信じてるよ。まじで。虐められたくないからね俺。
あと、なんか画数が多い。いくら名字がなくたって、名前の欄から上下に飛び出しちゃうよ。俺の字、汚いから。
・・・そうだね、それなら今から練習するべきだね。口だけ人間が、一番ダサいものね。見た目はアレでも、中身は大人なのでプライドがあるのだ。しがないサラリーマンのプライドが。・・・自分で言ってて悲しくなって来たよ。
「・・・ッ!? うそ、あなた! この子、まだ二歳にもなってないのに、もう字を!?」
・・・あ、そうだった。
困惑した母さんの声を聞いて、焦って思わず持ってるペンをぶん投げてしまった。
だから俺は自分で言ってたことをすぐに忘れる脳足りんって言われるのだ。たとえ前世の記憶が有って中身が大人でも、今の見た目は子どもなのである。例の名探偵と一緒だ。メガネの彼ならきっとこんな失敗しなかったはず。
真実はいつも一つ! 俺は、まさに今、やらかしたということである!
「族長様を! 族長様を呼んできて!」
「ああそうだ、今すぐに!」
なんか、すごい大事になっているよ。困るね。
大の大人たちが走り回って、まだ身体のちいこい俺はその振動で上下に揺れた。思考を放棄することにしたのである。
・
なんかさ、俺が生まれた家、とんでもない部族のトップだったらしいよ。
俺につきっきりで一族の歴史を教えてくる ばあやの話を半分に、なんとなく頭の中を整理しようと頑張ってみる。
あの後、俺は族長───俺の祖父にあたる人と謁見した。たとえこの一族であってもそう会えないくらいには、なんかすごい人らしい。いつかは父さんにその位が移るらしいが、それが何年も先延ばしにされているくらいには、天才なんだとか。父さんも頭良さそうなのに、俺のおじいちゃんすごい!
俺がさっきやらかしたことを、父さんと母さんはそれはもう誇張しておじいちゃんに話すものだから。いつのまにか俺はとんでもない神童として崇められることになっていたのだ。・・・いやどういうことだ。流石に諸々の事情をぶっ飛ばしすぎていると思う。
というのも、この一族が頭脳重視の戦闘部族だったからだろう。
俺はよく知らないが、宇宙三大傭兵部族・・・? てのが、この世界には居るらしい。なんか、めちゃめちゃ強い夜兎族に荼吉尼族、それと集団戦最強! な辰羅族。
で、そこに並び立つとかそういうわけではないけど、別の高い位置にはいるよねってのが俺の出身たるこの部族らしい。・・・いやなんだそれは。なんだそれはが続いてる。難しい。
まあ、別に強いとかじゃなくて例えるなら戦略重視の超学歴社会? てきな? そういうことなのかな。
いやばあやはこんなカスみたいな言い方してないよ。脳足りんの俺が勝手に訳しただけだよ。
その三つの族に比べて身体能力が高いとかそういうわけではないけれど、頭が代々メチャメチャに良いから、そこで挽回してるって感じなんだって。へえ。そうなんだ。難しいことはよくわかんないね。ばあやは今確実に時間を無駄にしているよ。阿呆でごめんね。
でも、考えてみてほしいのだ。
俺はなぜ、その天才一族で神童扱いされてんの?
そう、何回も言ったが、俺って阿呆なのだ。
ただ、なぜか前世の記憶を保持してるだけで、その実、持ってるのは冴えないサラリーマンの思考力のみという。
パッケージ詐欺にもほどがある。バナナジュースのバナナの果肉が少ないとかそのレベルじゃなくて、これは一つも入ってないレベル。
申し訳なさすぎる! でも、俺悪くなくない!? いや悪いか! 一歳にして急に立ち上がって自分の名前練習し始める子ども、怖すぎるもんね!?
この頭脳重視の部族だったから良かったものの、一般家庭だったら何処かしらの研究所にでも連れて行かれていたところだった。さすがにこの歳で人体実験はごめんだよ。いや何歳でもごめんだよ。
「麗様でしたら、過去のこの一例、どう為されるので?」
あ、一人脳内会議をしていたせいでばあやの話、一つも聞いてなかった! や、やっべー! 困ったぜ!
神童とか呼ばれてる手前、怖いのである程度は努力で頑張ってたんだけれども。やはり、俺って根本の部分が終わってるからこう言うことになっちゃうんだよね!
うんうん考えてみるが、どうしようまじでわかんない! ていうか、こんな齢も一桁の子どもにそんなこと聞かないでよ! わかるかぁ!!!
「麗様ほどの方になると、戦略の一切を他言すらもしないと・・・そういうことでしょうか?」
「・・・そうだね。いつどこに鼠が居るかわかったものじゃない」
「・・・・・・! 麗様、それは!」
それっぽいことを言われたので、それっぽいことを返した。スパイ系のできる親玉みたいなことを言ってみたよ。無駄にキメ顔をして。
そうしたらなぜだか、ばあやの目が見たことないくらいに見開かれて。かと思えば、俺の周りにいる護衛達が急にワーワー騒ぎ始めて、天井をゴン! って持ってる長い杖? 槍? でぶん殴った。
え、なになに。こわいこわい。みんな情緒不安定なの!? やめてよ! 俺、豆腐メンタルなんだよ! 大きい音出さないで!
びっくりしすぎて固まっていたら、天井からなんか降って来た。おお、誰だい君は。
「侵入者だ! 捕えろ!!!」
何人かの護衛が俺の元に残って、その他大勢がすごい勢いで例の曲者を追って行った。ちなみにこの間、数十秒ほどしか経っていない。もうなんか、頭が追いつかないよね。なんだったの今の奴。
その騒がしい状況から現実逃避するように目を逸らせば、これまたブルブルと震えているばあやと目が合った。
「れ、麗様・・・貴方様は、いつから侵入者にお気づきで・・・」
「たまたまだよ」
いやまじで。
俺が一番びっくりしてるからね。やめてね。
ていうか侵入者ってなに。俺命狙われてる感じなの。そりゃそうか! なぜか俺が周りにいる子達に次期族長だ! とかなんとか言われてるの、知ってるからね!?
いやだー! 死にたくない! 元しがないサラリーマンに命を狙われる族長とか荷が重いって! やめた方がいいって!
「ああ、・・・我ら狂花族は、これから先も、きっと安泰でしょうね・・・」
だんだんと俺の目が死んでいくのがわかる。
やめてください。俺みたいな鼻垂れ小僧に、由緒正しきな歴史ある部族の命運を託さないでください。
◇◇◇
歴代、稀に見る天才だと持て囃されたのが現族長様であったのならば、歴代、稀に見る鬼才だと称されたのは麗様である。
一族の中でも一等美しいその容姿も合間って、浮世離れした存在に思えてくるほどに。彼の方は幼き頃から類稀なる才能を発揮し、まだ齢も一桁だと言うのにいくつもの命運を左右する危機からこの星を救って来たのである。
彼の方は、そう悩む様子もなく。何にもないことのように、いつもさらりと言ってみせるのだ。
「今日は星でも見上げてみようかな」
その日の朝、突如として呟かれたお言葉。しかし、それを聞いた族長はすぐに警戒態勢を敷いたのである。当時は、若を信じろという族長の言葉を認めぬ者も多く居たのは仕方がないのかもしれない。いくら麗様が天才と持て囃されていたとはいえ、まだ五歳の童子の言う戯言だろうと。
しかし、侮ってはならなかったのだ。これは単に空の星々に憧れた少年の台詞などではなく、実際に突如として他の星から攻めてきた天人たちを表す言葉だったのだから。
このようなことが幾度となく繰り返されればその度に、自然と麗様の言葉の信頼性は上がってゆく。
そして、麗様の類稀なる才を見抜いていた族長が亡くなれば、通常であれば息子が次を継ぐ者である。だがしかし、実際に族長としての立ち位置に立ったのは孫の立ち位置に在る麗様であった。
族長たる彼の方の遺言と、父たる息子の判断のもと、真にこの星の歴史を守れるのは麗様であると。そう、結論づけられたからである。もちろん、それに民からの批判は一切と生まれなかった。
麗様が族長となったのは僅か齢十五の頃であったが、その頃には星中の民すべてが彼の方を、彼の方の凄さを。それはもう、理解してしまっていたから。
「貴方様は、いったいどこまでの未来が見えているのですか」
「未来? そんなものは知らないよ。俺は神でも何でもないのだから」
「そんな、ご冗談を。私共には、族長様の考えの一切を理解できないほどに、貴方様の思考は深く広い。今も、きっと幾千もの情報を辿っているのでしょう」
いつも口元に笑みを浮かべて、余裕の表情を崩さぬ、───もはや、我らの神の様な御方。貴方様の瞳に入れるのならば、いくらだって命を賭しましょう。
◇◇◇
よくわかんないうちに知らない人たちからも崇められててめちゃめちゃ怖いんだけど。
なに、何がどうしてこうなったの。なんで父さんは族長になってすぐ俺にその座を明け渡したの。意味わかんないよ! 俺まだガキンチョよ!? どうしたんだ父さんは、母さんと喧嘩でもしてフライパンで殴られでもしたのか。気をつけなさいよ、どの世も女性は一番強いんだぞ。絶対、女性には逆らっちゃだめなんだぞ。
そしてもちろん、こんな子どもに星の命運なんて絶対に任せちゃだめなんだよ。滅んだからって俺のせいにしないでね。不平不満は俺に族長させてる父さんに全て言ってね。
とかなんとか、考えつつ。思い出すのは当時、族長の座に着いた時のことである。
戴冠式にて、長々となんか難しいことをいう目の前の奴の言葉を右から左に流して。なんか、それっぽいタイミングになったな、というときに。
「謹んでお受けいたします」
いや何言っちゃってんの俺ー!?!?
断るどころか有無も言わずに受け入れちゃってるよ!!! じゃあ、お前が悪い!!!
自分の記憶の中の言葉だけど、流石にツッコんじゃうよ。
そう、当時の俺は、なんとこう言って族長の座を受け入れてしまったのだ。いやでも、断れる雰囲気じゃなかったから。
そもそも俺は父さんの戴冠式だと思ってたのに、なんか急に矛先が俺に向いてきたからね。まじでびっくりだよ。びっくりしすぎて、思わず頷いちゃったんだよ。
阿呆、阿呆、このバカアホ野郎! 頭が悪いから悪口のレベルも低い! なんてこった!
何見た目だけは賢そうなこと言ってんだお前! ちゃんと断れ! ノーと言える大人になれ!
でも、俺の我儘全部聞いてくれた母さんと父さんに、あんな目で見られたら誰だって断れないと思う。
ちょっと、俺の言葉に敏感すぎる時もあったけどね。ただ天体観測したいなーって言っただけなのに、なぜか軍を配置し始めた時なんて流石にびっくりしたよ。あれは天体望遠鏡欲しいなアピールだったんだけど。結局なんだったんだろうね、アレ。
そうして過去を振り返って現実逃避してみるも、勝手に視界に入ってくる目の前の大量の書類にゲッソリとする。
いやだいやだ。夢にも出てきそうだよこれ。しんどいて。族長になってからもうすぐ十数年になるとはいっても、辛いものは辛いのよ。一生慣れないからねこんなの。族長は何年やったってしんどいからね、わかるかい。
「麗様。昨日、貴方様が警戒していた星を仕留めました。相手方の上が降伏すると言っておりますが、如何しましょう」
「ああ、任せるよ」
「わかりました。貴方様の意思を汲み取り、奴らを我らの傘下にいたします」
ねえなに。今の話何。めちゃめちゃ怖くない? 俺そんなの知らないんだけど。昨日そんな物騒なこと言ったっけ。また俺の知らないところで俺が何かやってるよ。俺って実は俺が知らないだけで何人も居たりするのかな。ドッペルゲンガーやめてね。
でもさ、知ってるよ。俺は何もやってないのに、この側近くんがすごすぎて、いつも知らない俺が何かやってるんだよね。ウーン、意味がわからない! これ、言葉のバグ?
「鎧くん。君は本当に優秀だね。俺が居なくても、君が居れば何とかなるんじゃないかな」
これ本気と書いてマジのやつね。
だって、俺何もやってないのよ。基本的に俺じゃなくて側近くんこと鎧くんがいつも何かすごいことしてるからね。ワハハ。
にこ、といつも通り愛想笑いを向ければ、鎧くんはバッと効果音が鳴るくらいの勢いで顔を背けた。なんで。
「そんな・・・戯れを。貴方様が居なければ、この星は回りません。貴方様を置いて、誰が族長になれると言うのですか?」
え、君でしょ。何なら俺よりも君のが向いてるよ。
鎧くん、めちゃめちゃスーパー最強だし、スーパー頭良いし、スーパー筋肉えぐいし、大丈夫だよ! いけるいける。何かと指揮を取ってるのも俺じゃなくて君だしね! 俺はいつも適当なことほざいてるだけだから。昨日のその警戒? とか、指示した記憶ないもん。全部鎧くんがやったことでしょ、きっと。
顔を背けていた鎧くんが漸くと此方へと顔の向きを戻した。おお、ポーカーフェイス。
なんて、雑談をしていても目の前の書類にポイポイ判子を押すだけの作業からは目を背けられない。しんどい。単純作業が一番しんどい。ちなみにこれ、俺は何の資料なのかもわかってないからね。渡されたから頑張ってやってるけど。
ハンコの色が薄くなってきたので、インクを探すために動きを止めれば、鎧くんがバッと突然此方を向いて、積み重なってる資料の一番上の物を持ち上げた。
「・・・これは! 麗様、さすがです。すぐに対処して参ります」
「??? ああ・・・」
なにが??? とは口に出さなかった俺は、とても偉いと思う。
ちなみに後日、それは他の星から来たスパイによるなんかめちゃめちゃすごい工作された資料だったと鎧くんから報告を受けた。
いや、それに気づいた鎧くんがすごいと思う。俺全然わかんなかったよ。馴染んでたもん。たまたまインクが切れて動きを止めただけだからね。何一つ気づいてないからね。だから、またそうやってキラキラした目でこっちを見ないで。頼むから。
◇◇◇
狂花族───それは今現在、名を知らぬものは居ないというほどの種族である。
宇宙三大傭兵部族と並び立つ戦闘能力が無いのにも関わらず、いくつもの星を潰してまわり、仕舞いには己の勢力として拡大していっているという恐ろしい種族である。それも、現在の族長になってからというものの、その勢いは年々増していると言う。
そんな危険極まりない奴らに、まだ目を向けられていなくとも、常にどこの星も奴らを警戒している。それ程までに、予測もつかぬことを成し遂げてきた種族。できるはずがないことを、繰り返し、成功させてきた、恐ろしい生き物。
そう、それが。
───地球に来たとなれば。
それに加え、普段は星の外に出ることがない族長たる男までもが此処へ足を向けているらしい。ただ、星の中心で指示を・・・誰にも考えつかないような戦略を立てている、あの男が。
ただでさえ、地球はあらゆる天人に気に入られて無理矢理開国させられたと言うのに。そこへ、あの狂花族が、・・・族長が、来るとなれば。
普段人前には出てこないために、その鬼才と名高い男を実際に目にしたことがある者はそう居ない。だのに、ここまで、遠い辺境の地球にまでも名を馳せている。ともすれば、奴の恐ろしさがわかるというものである。
そんな、恐ろしい生き物が。
今までは、どの星を侵攻しようとも、出張っては来なかったトップが。
地球に来た理由。そんなの、一つしかないだろう。
数多くいる天人が気にいる場所───地球を。奴は、・・・奴らは、手籠にするつもりに決まっている。
◇◇◇
ねえ、みんな! この世界にも、地球があるんだってさ!!!
それを聞いたら、テンションも爆上げするに決まっているのだ。
俺の前世の母星!!! それが、地球!!!
別に帰省本能とか、そういうのがあるわけではないけど、それでもやっぱり馴染みのある星だからね。流石に今世の生まれ故郷が一番だとしても、好きな星ランキングだったら地球が見事第二位に入ると思う! いや、別に他の星を知らないとかそういうわけじゃないからね! 火星とか、水星とか、金星とか・・・すいきんちかもくどってんかいめい! までなら、わかるよ! 流石にね! この世界にもあるのかは知らないけど!
まあ、今はそんなことどうでも良い!
地球、あるならそりゃ行くよね! 観光に!!!
「鎧くん、俺は地球というところへ行ってみたいな」
「・・・・・・地球、ですか?」
「うん」
「なるほど・・・最近は、あの夜兎族の星海坊主を地球で見たという話も聞きますし───何より。あそこは資源が豊富だと聞きます。確かに、次に狙うのは地球にすべきなのかもしれません」
「いや、地球はダメだ」
「な、なぜでしょうか」
え? そりゃ好きな星ランキング2位だからだけど。
キョトン、とした顔で見ていれば、急に鎧くんが目の前で土下座し始めた。なんで!?
「申し訳ありません。族長の考えを凡の私が理解できるはずがないと言うのに、出過ぎた真似を!!!」
「・・・・・・」
もう、この子は何かと本当に大袈裟だよね。流石に俺でも、こう何回も見てたら慣れてきちゃったよ。
「理由はそう難しくないよ」
「・・・ですが、!」
「それでは、出かける準備をしよう」
「・・・・・・はい?」
「うん? 何か難しいことでも言ったかな」
「い、いえ。あ、・・・あの、麗様も、ご一緒に向かわれるので・・・?」
「そういうことになるね」
是と頷けば、鎧くんの身体がワナワナと震え始めた。
だって観光行きたいもん。そんな、撮ってきた写真だけもらって観光した気分になんてなれないよ俺。いくら脳足りんとは言ってもね、俺は面倒臭い脳みそをお持ちなんだよ。一番最悪な進化を遂げた人類なんだよ。いや今世は人類じゃないけどね!
目を見開いて固まってしまった鎧くんを置いて、俺は早速と準備に取り掛かった。いやー楽しみだね。地球といったらやっぱり日本だよね! たこ焼き食べたいし、寿司食べたいし、すき焼きだって食べたい。あ、富士山も見たいよね! 俺が亡くなった時代から、どれくらい時が進んでるんだろう。楽しみだね!
・・・・・・なんて、思っていたのに。
俺は今、タイムスリップでもしてしまったのだろうか。
え、これさぁ、江戸時代とかそこらへんじゃない? ちょんまげしてる人がたくさん居るし、なんか着物着てる人もチラホラ。・・・かと思えば、洋服の人もいる。え? どういうこと? どの世界線なんだこれは。
そもそも、江戸時代にこんな、今の俺みたいな天人って存在居たかな? 俺が勉強サボってたせいで正解がわかんないんだけど。いやでも、流石に中学生レベルの知識問題だよね。間違ってなければ、そんな馬鹿なことあるはずないんだけど。
というか、今普通に車乗ってるしね。
あの、貴族が乗ってそうな黒くて長いやつ。リムジンだっけ。すごい、前世も含めて人生で始めて乗ったよ! でもそんなの俺手配した覚えないんだけど。また鎧くんがなんかやったのか! 絶対そうだよ、そう言う顔してるもん。
まあ、いい。そこらへんの人々にすごい目を向けられている異端すぎる存在になってるけど、まあ、いい。俺は懐の大きい男なので、許しちゃいます。こんな、明らかにボンボンですを体現してる恥ずかしいムーブをさせられても、許しちゃいます。
まず初めにたこ焼き食べに行こうよ。そうしたら俺の機嫌は戻るよ。
ウキウキと外を眺めていたら、だんだんと、なんか、格式高い景色に変わってきて。
・・・・・・んんん?
俺の認識が間違ってなければ、此処、国のお偉いさんがいるところじゃないの。アメリカでいうホワイトハウス的なやつ。いや多分それとは全然違うんだろうけど。なんでなんで、別に俺外交したいなんて言ってないはずだよね、どうして。
・
護衛、という名目で見張りに取り付けられたのは、あらゆる厄介事を担う真選組であった。
今までも他の星のあらゆるVIPの護衛やら雑用やらを任されてきたが、ここまでの存在を目にするのは初めてである。
明確に、地球を、乗っ取りに来た奴らを。
そうだ。表では護衛のためと言っているが、いざとなれば荒事も辞さないというのが上の見解である。だがしかし、誰もがそんなこと無駄だと察しているはずだった。
この戦闘民族には、鬼才と呼ばれる頭脳を持つ男が頭に居るのだから。きっと、此方のそんな考えなどお見通しに決まっているのだ。神が如く頭脳を持つ男を前に、隠し事などできるはずがないのだから。
だがしかし、彼方だって真に攻めてくる時以外は穏便にことを済ませたいはずなのだ。故に、そう表立って殺意を向けてくることはないだろう。
現在、目の前で薄らと美しい笑みを浮かべているこの男の脳内に。今、どれほど難しく、恐ろしい考えが広がっているのか。
真選組はおろか、国の中枢に位置する人間も、すべて。理解できるはずがないのだから。
「・・・鎧くん、あとは任せても良い?」
「な、族長様、なにを」
部屋中に、ずらりと並ぶ面々に興味などないとばかりに。部屋に入って椅子に座り、未だ数分しか経っていないのに、族長と呼ばれたその男は。
「俺は、他にすることがあるから。俺がいなくても、この場は事足りるだろう」
どれだけ、地球人のことを舐め腐っているのだ、この男は───!!!
部屋に入った瞬間・・・否、きっと此処にくるまでもずっと、その端正な顔に浮かべられた余裕の表情は、一切と崩れない。これほどまでに地球人をこけにして、歓迎も受けず、話し合いにも参加しないとは。
「・・・・・・失礼ですが。国を納める者同士で話をしたいのです。おわかりいただけますか」
「ふ、国を・・・ね。それならば、なおさら」
もう聞く耳も持たないと言った具合に、その男は椅子から立ち上がった。もう此方には興味の一つもない、というような顔をして。
・・・今、奴が見ているのは、決して目の前に居る人間などではなく、その先の、この星から得られる資源なのだろう。己以外の種族、全てを下に見て、あらゆる星を潰しては配下に置く。残虐なこの生き物の脳内には、利益しかないのだ。
下に見ているから、同じ生き物とも思っていない。そんな、冷徹な目を向けて。
「じゃあ、そこの。黒髪の。そうそう、腰にマヨネーズつけてる。あの子を借りてくよ」
「な、何を!」
「護衛、って。俺は聞いてたんだけど。違うのかな?」
やはり、此方の意図を!
全てを見据えているのであろう、その青い瞳から。誰もが目を離せなくなってしまう。いつでもお前らを、お前らの国を。潰せるのだという、そんな目から。
・
流石に、ちょっとというか、かなり興奮したよね!
だってさ、部屋に入ったらあの、マヨネーズの人とバズーカの人と、ゴリラの人が居たんだよ! あれでしょ、あれあれ! ぎんたま、みたいな名前のやつ! 俺、そういう方面に詳しくはないけど、流石に知ってるよ。前世、たまたまテレビで流れてきたら見てたし! でも遠い記憶だから、詳しくはわからないのだけど。
だがしかし、なるほどね。ここがあのアニメの世界だったのならば、現状にも納得できるよね。
そりゃあ江戸時代だけど、天人が侵入してきたから、不思議な部分が発展してるんでしょう。乗り物とか食べ物とか色々。
だから、つまり! この現状を見て諦めていたたこ焼きも、寿司も、すき焼きも! 現代レベルの美味しさで楽しめるのだということだ!
そうとなれば、こんなつまんないところ抜け出して観光に行くしかないよね!
そもそも、俺、こんな会議あるとか知らなかったし! というか、初めから観光目的で来たんだから、なーんにも知らないよ。国のトップだろとか言われても知らない。父さんに言ってね、苦情は全てそっちへ!
まあ、とは言っても。流石に責任全部無視していくのも、うちの星の評判に関わるしな。そこで小さい脳みそを使って考えたところ。
俺が此処にいる意味はまじで全くの皆無なのだから、俺より優秀な鎧くんのこと貸してあげれば全て解決なのでは、ということに気づいた。そうすれば、俺も観光に行けるし、みんなからしても、無能が居なくなったことで会議が円滑に進むのだから、なんて一石二鳥なんだろう!
そういう意図で軽く話しただけなのに、なぜか各方面からめちゃめちゃ睨まれてるんだけど。えー、なんで!? 俺何か悪いことしたかな。
国を納める同士? そんなふうに俺を思ってたの? 俺、普通に傀儡だからね。俺が何か成し遂げたこと、無いからね。全部運か、優秀な部下たる鎧くんのおかげだからね。
なのに、俺が発言するたびに空気がピリつく。い、いやだ。そんなあいつやべーよって目で見ないで。それに此方を睨んでくるみんなの顔を見ていたら、前世の上司の怒った顔を思い出してトラウマを刺激されるよ。困るよ。やめてね。
なので、俺は事前に護衛を務めてあげるよって言ってくれていた優しい集団の方に目を向けた。鎧くんを置いていく場合、信頼できる人を一人は身近に置いておきたいからね!
そうなれば、思いつくのが彼! マヨネーズくんだ! なんかめちゃめちゃ此方のことを睨んできてるけど、きっと根は優しい人なはず! そうじゃないと、あんなにアニメにたくさん登場しないでしょ、きっと! 善人の塊でしょ? 多分!
そういうわけで、とんでもない殺気を向けてきてるマヨネーズくんをお供に、俺は街へと繰り出したのであった。もちろん、部屋のとんでもないピリついた空気から逃げるため!
・
土方十四郎にとって、目の前の男は名目上は護衛対象である。だがしかし、実際にはこの地球にいる者からすれば危険対象以外の他でもないのだ。
会議の様子から見るに、同族以外は生き物として見ているのかも怪しい。明らかに此方を下に見ているであろう態度に、何を考えているのかわからない、その微笑みばかりを浮かべる気色の悪い表情、そのすべて。この男が、化け物たる所以を表しているようである。
なぜ、自分だけが奴に呼ばれたのか。
なぜ、表では友好な関係だと表そうともしないのか。
なぜ、鬼才とまで言われたこの男が、わざわざ地球にのみは足を向けたのか。
何一つ、理解できない。
だがしかし。理由はわからないが、こうして己のみがこの男の傍に居ることを許されたのだ。この機会を無駄にせぬように、この男の意図を読む。それが、今己に課された使命なのだと。
基本的に、何があろうとも取り乱さぬようにしているが、流石に。この男の前ではじとりと手汗をかいてしまう。いつ、何を、どのようにして。奴は、この地球を。
「ねえ」
「あァ? ・・・はい」
いや、ごまかせてないでしょ! なんて脳内の山崎が突っ込んでくるものだから、ぶん殴って追い返した。黙ってろマジで!
だがしかし、この失態も。まさか、この男が話しかけてくるとは思っていなかったからだ。
「君の名前は?」
「あなた様のような方に、言えるような名前は持ち合わせておりません」
「どうして。俺が聞きたいと言っているのに?」
「・・・あなた様の護衛を承っております、真選組副長。土方十四郎と申します」
この男が、そんな末端の人間に興味など持つはずがない。なにをたくらんでやがる。
立場上、丁寧に扱えと言われているが。しかし、少しでも何かあれば刀にすぐ手が向かうだろう。こんな薄気味悪ィ男を、どう信頼しろというのか。
「敬語、いらないよ。君は俺の部下ではないからね」
「・・・・・・」
「そんなに信用ない? 俺が何かしたのかな?」
しているだろ。現在進行形で。
何もかも下に見ているかのようなその笑みが、一番わかりやすい。
「では、十四郎くん。一緒にたこ焼きを食べようか」
「は???」
これはマジでアウトでしょ! と脳内で叫ぶ山崎を今度こそぶん投げた。
なんだ、何をたくらんでやがる!? 此処で俺とたこ焼きを食うことで、何か奴にとって利益があるのか!?
・
なんで俺この人にずっと殺気を向けられてんだろう。
えーっそんな嫌われることしたかなぁ。こんなつまんねー会議、俺と一緒に抜け出しちゃおうぜ・・・⭐︎がダメだったってこと? 今はもう古いネタなのか。王道じゃないの?
「ねえ」
「あァ? ・・・はい」
うわぁ! 声がもう怒ってるよ! むりむり、俺は打たれ弱いんだよ、やめておくれよ。
「君の名前は?」
「あなた様のような方に、言えるような名前は持ち合わせておりません」
「どうして。俺が聞きたいと言っているのに?」
「・・・あなた様の護衛を承っております、真選組副長。土方十四郎と申します」
えーん、これ誰ですか!?
アニメで見た彼の口調と全然違うんですけど! やだやだ、こんなこわいマヨネーズの人見たくなかったよ!
ていうか何で俺はこんなに警戒されてんだろ。ただ、地球を愛してマース! って観光に来ただけなのに!
「敬語、いらないよ。君は俺の部下ではないからね」
「・・・・・・」
「そんなに信用ない? 俺が何かしたのかな?」
無視だ! みんな、これ絶対無視してるよ!
なんで! 観光を楽しみに来ただけなのにこんな辛い思いしなきゃダメなの!
早くも俺の全肯定botこと鎧くんのことが恋しくなってきた! 長いこと星から出ず、決まった人としか話してこなかったせいでコミュ障極めちゃってるのかこれは! 俺が悪いのか!? それともマヨネーズの彼がコミュニケーションを放棄してるのか!? どっちなんだい!
仕方ない。流石にこの世界の主要キャラであろう彼に嫌われるのは、ちょっとというかかなり辛いから!
「では、十四郎くん。一緒にたこ焼きを食べようか」
「は???」
媚を売るしか、ないよねー! 奢ったげるよ! そして、一緒に観光しよう! マヨネーズの君!
・
正直なことを言っていいのなら。一つ言わせてもらいたい。
このマヨネーズの人、すごいね。なんか、あの。すごいと思う!
たこ焼きが全部マヨネーズで埋まったよ! もうたこ焼きじゃないよこれ! マヨネーズだよ!
俺がジッと見つめていれば、仕方ねーな、なんて顔でマヨネーズを此方に渡してきた。いや、いらないよさすがに。もう必要な分はかかってるんだよ。
「・・・地球は、良い星だね」
「・・・!!!」
たこ焼き美味しい! やっぱ地球最高! の気持ちで言っただけなのに、急に顔色を変えてマヨネーズの子は此方をすごい目で見てきた。
え、なんで今刀に手がいったの。やめてね。怖いことやめて。
「物騒なことはよそう。どうせ、いずれはわかることだ」
「なにを、考えてやがる・・・!」
え? 俺が警戒される必要はないってことだよ。観光に来てんだもの。
さっきまで楽しそうにマヨネーズかけてたのに、そんな急にシリアスな顔しないで。やめてね。
「ここに、住みたいくらいだよ」
心から、そう思ったから。にこりと、隣の彼に笑みを向けたら。
───それと同時に、刀が、俺の首に。
はえ?
●麗
前世はただの一般人。これといった特徴もない、どこにでもいるサラリーマンだった。
わずか一歳にして字を書くという大きなミスを犯したせいで、とんでもない神童なのでは!? という誤解を生み、そこから奇跡みたいなことばかり起こって鬼才の族長とまで呼ばれるようになった。
何かと命の危険もある族長は普通にやりたくなかったし、普通に辞めたい。
しかし、若い頃から族長をやらされている上に、完全実力主義の種族なので普通に辞められないし終わらない。可哀想。
漆黒の肌に真白の髪、青い瞳を持つのは狂花族の特徴。めちゃめちゃ強いとかそういうのではないけど、頭がめちゃめちゃ良い種族。戦略でブイブイ言わせてる。
地球観光楽しい! なんかすごい殺気向けられるけど楽しい! 地球やっぱり好き! 地球に住みたい! だって元日本人だもの!
のつもりで言ったのに、なんか刀向けられた。なんで?
●鎧くん
麗曰くスーパー最強でスーパー頭良くてスーパーなんでもできる人。とても有能。
麗を崇拝してるせいで色々と拗らせてる。
●麗の星の方々
わーい! 麗様こと族長様がすべて!
たくさんの星を侵略して取り入れる文化は昔からのやつ。麗の知らないところでどんどん規模が拡大している。とてもこわい。とても強い。とても頭が良い。
この昔からの文化のせいで、他の星の人々からは族長たる麗がめちゃめちゃ怖いやつだと勘違いされてる。実際、麗はマジで何もしてない。侵略? そんなのしてたんだ! くらい。主人公は意外と自分の大切なもの以外には冷たいのかもしれない。
●元族長のおじいちゃんならびに両親
うちの子、とんでもねぇ神童だ!!!
●土方十四郎
「物騒なことはよそう。どうせ、いずれはわかることだ」からの「ここに住みたいくらいだよ」イコール「抵抗したところで無駄だよ。ここを一生俺たちの土地にするから♡」だと解釈(完全なる誤解)






















