なつかしいよ
ネヴァロの郊外のキャビン周辺が様変わりしていることに、この度も前触れなくその地に降り立ったルーク・スカイウォーカーはやや興味深げに辺りを見回した。それなりの範囲が畑として耕され、暖かい季節に見るからの豊穣で覆われている。
近づけば、ベスカー製のヘルメットに内蔵されたセンサーで既にルークの来訪を察知していたのだろう、キャビンの玄関先でディン・ジャリンが仁王立ちであった。前回同様まるで歓迎されていないのを容易く感じるものの、意に介さずルークは口を開く。
「農夫になったのか?」
そうと軽口を叩いても許されそうな畑の規模だ。見ればトマトにとうもろこしに茄子に、ラディッシュやアーモンドまで。ずいぶん色々と育てているようである。子供の趣味だ、とディンは素気無い返事でさっさと背を見せて畑に向かってしまう。
しかしこのスケールと種類では、大の大人が全力をもって協力せねば成立しないのでは、とルークは思う。その上、畑は種々の彩りの作物が収穫を待つばかりなのがひと目で見て取れた。
子供の趣味にしてはどれも上々の大きさと出来栄え、とルークは観察より興味の優る眼差しで畑を見つめる。超然として静穏な佇まいを常とするジェダイである彼が、どこか無防備な振る舞い。
そこへ、馴染みある、よく知っている、どころか他ならぬルークが制御を教えたフォースの気配。歩み寄れば、種々の苗と苗の間にもぎ取られたトマトやら茄子やらがぷかぷかと宙に浮かび、いくつものそれらを大きなカゴにぽんぽんと誘導するグローグーがいた。ルークは笑い出したくなる。「子供の趣味」に大いに活かされているフォースを見て。
細々としているが大量な「収穫」の制御に集中していたと見られるグローグーは、突然のルークの登場に気づくとたださえつぶらな目をさらに見開いた。同時に驚きで崩れるフォースのバランス、哀れ墜落しそうになる野菜たちを、ちょいと掬い上げるように手を動かしたルークのフォースが難なく宙で「受け止めた」。
空気中に安定して静止する野菜越しに見つめ合う師弟の穏やかな沈黙に、――聞こえよがしに被さるディンのため息。ルークは横目でそちらを見やって、
「弟子のフォースの上達を喜ばしく思っている」
嘘偽りなく呟きながら、グローグーから引き継いだフォースで野菜たちを流れるように同じカゴの中へ。このように、生活の一部として「普段使い」にすることが上達の秘訣なのだろう、と感心しきりのルークに。
「もうあんたの弟子じゃない」
針で突き込むようにぴしゃりとしたディンの声。うちの子だ、という牽制に張り詰めた響き。デジャヴに微笑ましい気持ちでルークは、失礼、と片手を上げる。
「元弟子の、だ。グローグー、よくやっているな」
元師匠の言葉にぴぴっと耳を動かしたグローグーが、おもむろに動き出す。効率的かつ円滑なフォースによる収穫とは裏腹に、小さな体が小さな手で手近なトマトを一つもぎ取るまでのゆっくり、ゆっくりしたひととき。太陽の照りつける下で、大人二人はただじっと見守っている。
「ぱとぅ」
ようやく差し出されるトマト。ありがとう、と屈み込んで受け取ったルークは、赤い収穫物を手に転がして興味深そうに眺める。
「いいな」
思いがけず、素朴な声の響きだった。それだけで彼が偉大なるジェダイには見えなくなって、ディンは内心いささか面食らっている。
「――こういうのを育てるなら、楽しかったかもしれない」
「こういうの?」
ディンが言葉の細かな引っ掛かりを拾い上げて返すと、ルークは微笑んだ。
「かつて水分農家をしていた、退屈この上なかったが」
懐かしいよ、と呟いて、ルークは徐にトマトにかぶりつく。ジェダイというよりか、まるでただの青年のような身振りで。
しゅわしゅわソーダ
ディンが些か呆れてしまったことには、テーブルに広げられたその小さな米菓たちの一つ一つがご丁寧にフィルムで包装されている。その半透明なフィルムには彩り豊かに細かな絵柄まで印刷がなされ、子供にとってはいかにも目に楽しいと思われた。
しかし、いつもは大皿にざらっとあけられたスナックに馴染んだグローグーは、反射のように一つ取り上げたもののぴったり閉じたフィルムの感触に阻まれて首を傾げている。ぱう? とディンを振り返って。
見かねたディンが小さな手からそれをそっとつまみ取り、こうじゃないか、と端のギザギザから互い違いにフィルムを引っ張って縦に裂く。それをじっと見つめていた幼な子は、ついでディンによって差し出される白いおかきを当然のように開いた口で受け止めた。
ごりごりごり、と小気味よい咀嚼音の途中、――んまいっ、と語る見開いた目とピンと立った耳。
口をもぐもぐ動かしながら、グローグーはいそいそと次の個包装を手に取る。ディンのお手本の手つきをそのままなぞって、びっ、と次に開封するのは梅ざらめ。鼻先へ持ってきて、すうと吸い込む甘じょっぱい香りはいかにも異国情緒に溢れている。これも食べると、酸っぱ甘い! でもいける! じゃくじゃくじゃく、と噛み締め続けながらまた手を伸ばして。
ごま油の風味豊かなおかきの香ばしいこと。興奮した様子でグローグーは同じ色柄のパッケージを探し出し、んっ、とディンに突き出した。はいはい、と我が子からのお裾分けを受け取ると、それを開封したディンはちょっとヘルメットをずらしてから、空いた袋をグローグーの傍らのガラの山の中に足す。塩味といい程よい固さといい、確かに美味いが、と我が子と同じ咀嚼音をヘルメットの中に低く響かせつつ。
「ほどほどにしとけよ」
ふんふんふん、と鼻息荒くグローグーは次々フィルムをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、咀嚼を続ける。海苔巻き。濡れおかき。昆布入り。海老。歌舞伎揚。美味い、美味い、いくらだっていける、だってこんなにある!
30分後。
しょーーーーーーーんんん、と打ちひしがれた風情でグローグーが椅子の上に横になっている。テーブルに山と積まれた個包装のガラを、ディンは数える気にもならない。けぷん、と嘆かわしげな吐息と共に、ぐるぐるするのだろう胸の辺りを小さな手で押さえて。
「食べ過ぎだ」
ディンは呆れた声。初めて食べたグローグーには預かり知らぬことで、米菓はあまり食べると胸が気持ち悪くなる。
「まあ、そうして学ぶことだ」
「ぐうん」
過ぎたるはなんとやら、身をもって覚えるのが一番だ。説教よりよほど効くに違いない。そう思いつつディンは、ふと立ち上がった。人のいるカウンターに歩み寄って「ソーダを頼みたい」とスタッフに一言。
「いや、子供が飲む。アルコールは抜きだ。ああ、そうだな――」
2分もするとしゅわしゅわしたグラスを持ち帰ってきた父に、グローグーは緩慢に首を持ち上げる。ほら、とそのまま差し出された。
「しっかり持つんだ。離すぞ」
身を起こして受け取ったひんやりするグラスに、そっと小さな口をつける。一口飲んで、グローグーはちょっと考えてから。続けて、くっくっくっ。
「ぐぅ」
無糖の炭酸が、途端に胸をすっとさせる。父を見上げると、ただ軽く頷き返される。グローグーは黙って続けてグラスを傾けた。――っけぷ、と飲み干して。
うん、と一人頷いたグローグーは、丁重にグラスをテーブルに置くと、おもむろに次の個包装に指を伸ばす。途端、いやどうしてだやめとけ、とディンの手が手に重なり静止された。
「またすぐぶり返すぞ。いいかげんお腹を休ませろ」
「くとぅ?」
「そうだ、もうだめだ。今日はもう我慢だ」
しょん、とまた下がる耳の端。その瞬間にけぷんとまたしゃっくり。ほら、身体がだめだって言ってるだろ。ディンに噛んで含めるように諭されて、むっつりしつつ小さな頷き。
そして、ディンが白と赤の模様が入った布を取り出すのに、グローグーはぱっと目を奪われる。グローグーの大事なものを包むときだけ使う布。
ディンは残りの米菓の個包装を拾い上げては裏返した布に積むと、大人の人間の手に一握り程度には集まったそれを包んで、きゅっと結び目を作る。
「持ち帰っていいそうだ。明日、食べていいぞ」
ほら、自分のは自分で持て。グローグーは、ぱきゅっ、と声を上げて、前のめりにそれを受け取った。






















