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【一発ネタ】リチャード一世→ファレナ成り代わり主人公のせいでレオナの胃が痛い話

雨の木雨の木

現代→リチャード一世(Fate)→ファレナ(ツイステ)の多重転生主人公です。弟のためにお家騒動を画策する兄VS兄の企みを阻止しようとする弟のお話です。 非常に設定が特殊かつ頭のおかしい主人公なので、何卒自衛をお願いいたします。 【注意書き】 ※主人公以外のFate関連キャラクターは出てきません。 ※現代→リチャード一世(Fate)→ファレナ(ツイステ)の多重転生成り代わり主人公です。 ※主人公の性格はリチャード一世がベースとなっています。原作のファレナは登場しません。 ※主人公の倫理観が吹き飛んでいます。頭バーサーカーを通り越して頭オーロラの域に入っています。 ※主人公→レオナ(ジョン)に向ける熱量がなんだか重くなってしまいました。 ※尻切れトンボです。 ※過去捏造がたくさん入っています。 ※作者はツイステ7章攻略中&Fakeアニメ履修中です。  設定を追えていなかったり、解釈違いがあったりしたら申し訳ございません。 過去作にいいね、ブックマーク、感想コメント・スタンプ、タグ付け、フォローしてくださりありがとうございます! 成田先生のFakeコラボイベシナリオが最高だったので、滾って書き散らかしました。もったいない精神でアップいたします。 【2026/5/31追記】 今作もいいね、ブックマーク、感想コメント・スタンプ、タグ付け、フォローありがとうございます! ファレナの心理描写パートが冗長だったので、いろいろと整理しました。 6ページ目に登場人物についてを追記しました。 【2026/6/1追記】 登場人物についてを一部修正しました。 この話は正直人を選ぶネタだと思っていたので驚いています。皆さまありがとうございます。大変励みになっております!

今作につきまして、話の内容が特殊です。キャプションの注意書きをよく読んでいただき、どうか自衛をよろしくお願いいたします。

 マジフト大会に関連して発生した傷害事件の数々。学園長からの依頼を受け、事件の犯人たちを監督生たちはようやっとの思いで追い詰めた。
 サバナクロー寮生たちの企みが暴かれ、メインターゲットだったマレウスは健在だ。それを知った瞬間、レオナは手のひらを返した。

「俺は降りる」

 レオナは面倒くさそうに言い放つ。その一言に、ラギーは信じられない思いでレオナを見た。
 今この瞬間まで、ラギーは嬉しかったのだ。怠惰なレオナが計画に参加してくれたことが。ラギー含めたサバナクロー寮生のために普段は重い腰を率先して上げてくれたことが。
 ラギーはスラム育ちだ。スラムでは夢を持てなかった。その日暮らしがやっとの環境では、夢を持つより腹を膨らませる方が重要だったからだ。
 一般市民やお貴族様に人気のある絵本や小説を見て、冷めた目で「こんなののどこがいいスかね」、と鼻で笑っていた。そんなラギーが、NRCに入ってようやく夢を持てた。レオナをキャプテンとしたサバナクロー寮生マジフトチームで優勝するのだ。
 だが、それには強大な障害があった。マレウス・ドラコニアだ。世界で五本指に入るほどの魔法士。これまでの試合内容をもとに、試合直前まで対策を練りに練った。ここまでしたんだ、このチームなら、と信じて臨んだ昨年の大会。

 ラギーは悟った。アレは無理だ。ラギーたちがいくら工夫を凝らした作戦を練ろうと、マレウスの足元にも及ばなかった。つまらなさそうな表情で、ただゴールに向かってディスクを投げるマレウスを誰も止めることはできなかった。虫ケラのように蹴散らされて終わった。
 あまりの試合内容に涙すら出ない。呆然と言葉もなく無得点のスコアボードを見つめるラギーや寮生たちに、レオナは頭を下げた。

「全部、俺の責任だ。このチームを優勝まで導けなかった。悪かった」
「そんな! 寮長は悪くねぇ! あいつが……ッ! こんなのマジフトだって俺は認めねぇ!!」

 そうレオナに返した先輩の顔をラギーは覚えていた。プロチームに所属したいと言ってた3年生だ。4年生になるとインターンが忙しくなるため、実質これがスカウトの目に留まる最後にして絶好の機会だった。せっかくの機会を不意にされた悔しさは人一倍だっただろう。
 その言葉を皮切りに、サバナクロー寮生の間で、言葉はなくともマレウスに対する敵意が高まっていくのをラギーは感じ取る。ラギー自身もマレウスに対しての敵対心が湧き上がっていた。
 ゴクリと唾を飲み込み、決意を込めた表情でレオナは言う。

「一年。一年だ。俺に時間をくれ。来年こそはあのトカゲ野郎を引きずり降ろしてやる。――お前ら、世界をひっくり返す気はあるか?」

 弾かれたようにラギーたちはレオナを見た。世界をひっくり返す、だなんて――なんて、心が沸き立つ響き!
 この日この瞬間、サバナクロー寮生は本当の意味でレオナを『王様』と決めた。この男にどこまでもついて行くと決めたのだ。
 そうして入念に準備を重ねた一年。たとえ不正な手段だとしても、ラギーは自分が誇らしかった。実行犯。一番重要な役どころだ。「お前ならやれるな?」と言われた時の興奮を今でも覚えている。
 それが、夢まであと一歩、あと少しのところで「俺は降りる」、だって? ラギーの高揚感が急速にしぼんでいく。縋るようにレオナを説得しようとした。だが。

「お前らが目ぇキラキラさせて夢語ってんのが……あの馬鹿野郎のようで可笑しかったから、少し付き合ってやっただけだろ」
「ふ……ふざけんなよ! なんだよそれ!」

 そうしてぶっきらぼうに語られるレオナの本心の数々。それを聞いたラギーをはじめとしたサバナクロー寮生は当然反発した。
 抗議の声を聞いたレオナは、眉間にしわを寄せた。現実を直視させるため、あえて強い言葉を使ったが、それがかえって反発を強めたようだった。
 サバナクロー寮生は悪気なくレオナを[[emphasismark:夢に引きずり込もうとする >・]]。『夢』、それはレオナがこの世で一番嫌いな言葉だった。
 レオナの苛立ちと共に、彼の周囲が少しずつ変化していく。チリチリと空気が乾燥し、少しずつ風に乗って砂が舞い始めた。レオナが持っていた競技用の箒も、乾燥し、ひび割れ、やがて細かい粒子になって地面の上にさほど大きくない砂山を作った。
 レオナのユニーク魔法、『王者の咆哮』。その効果はすべてを干上がらせて砂に変えてしまう、一歩間違えれば危険な魔法だ。それを一番近くに居たラギーへ容赦なく浴びせかけながら、レオナは笑った。
 先程までレオナの一番近くにいたラギーは、かすむ視界の中でレオナを見ていた。レオナの態度に少しの違和感を覚えたからだ。苛立ち、怒りを宿したサマーグリーンの瞳のその奥、[[emphasismark:冷静さが宿っている >・]]ことに、普段からレオナの世話をしているラギーだけが気が付いた。

「どれだけ実績があって努力しようと……俺は絶対に王にはなれない! 第二王子だからだ! お前らも、同じなんだよ! 『夢』なんて語ってたところで、現実は何も変わりゃしねぇ! 現実を見ろ!」

 肩を怒らせ、血反吐を吐くような勢いで怒鳴ったレオナ。次にギロリと監督生やハーツラビュルの面々を睨みつけ、吐き捨てた。

「お前らもだ! 部外者はすっこんでろ!」

 その言葉にジャックが一歩前へ出る。

「昨年の試合、あんただけは最後まで諦めていなかった! 俺はそんなあんたに憧れてここに入学したんだ! 俺の憧れたあんたは、どこにいっちまったんだ!?」
「どいつもこいつも……! 勝手に俺に夢みてんじゃねぇ! お前も消えろ!!」

 怒りの標的を変更したレオナは、ジャックを干上がらせようと一歩近づいた。
 その瞬間、ジャックはユニーク魔法を使用する。突然のことに驚いたレオナの隙を見逃さず、リドルのユニーク魔法の首輪がレオナの首にかけられた。
 魔法が使えなくなり、レオナのユニーク魔法が止まった。その間に監督生たちは干上がる寸前のラギーを救出する。

 その様子をじっと見ていたリリアが「呆れた男じゃ」とつぶやいた。耳ざとく拾ったレオナはリリアをにらみつけるが、その視線をリリアは一笑に付した。
 レオナが実力行使に出るまで、リリアは怒っていた。マレウスやディアソムニアの寮生を未遂とはいえ傷付けようとしたこと、マジフト大会の勝負を穢したこと。
 しかしレオナの本音を聞いているうち、レオナの態度に怒りを通り越し呆れかえっていた。

「報われぬからと怠惰に生き、思惑が外れたとたんに癇癪を起こす。臣下に当たり散らすその狭量――その器で王になろうなどと、笑わせる」
「……は、ハハッ! 分かってんじゃねぇか!」
「何がおかしい?」

 リリアに欠点を指摘され、憤るどころか大声で笑い始めたレオナ。リリアは理解できないものを見る目でレオナを見た。

「『俺が王に向いてない』なんざ、とっくの昔に聞き飽きた言葉だ。今までずっと、誰と比べられ続けたと思ってるんだ?」
「『獅子心卿』か」
「そうだ! 勇敢で立派な第一王子様だ! 毎日毎日、侍従どもも飽きもせずによくやるもんだ」

 リリアははあ、とため息を吐いた。憐れなものを見る目でうつむくレオナを見つめる。

「ファレナ殿が競争相手ではなかったら、お主もそこまで歪まなかったのかもしれんな。じゃが、いくら相手が悪かったとしても、その腐った心根ではどうにもならんだろうよ」
「……お前に何がわかる?」

 リリアの言い分を聞いていたレオナが顔を上げた。激情を煮詰めたようなドロドロとした、地獄の窯の底から響いてくるような声だった。

「黙って聞いてりゃ外野がキャンキャン吠えやがって。お前らが……お前らのせいでこんなことになっているんだろうが……!」

 レオナの表情が憎悪一色に染まっていく。ギラギラと輝く瞳が、剣呑な光を宿していた。

「俺は絶対に王になってはいけねぇんだよ……! たとえ何があろうともだ!」
「な、何を……?」

 これまでとは正反対の事を言い出したレオナに、周囲は困惑の視線を向ける。それと同時に、レオナの負の感情が暴走し、それと比例するように高まった魔力は一箇所に集まり、やがて――ブロットの化身を形作った。
 監督生をはじめとするハーツラビュル寮に属する面々にはその光景に見覚えがあった。オーバーブロットだ。

「絶対に俺にはどうしようもない理由なら、まだ救いようがあった! あの馬鹿野郎のせいで、届くはずの夢を諦めざるを得なかったっ……! 俺の一投手一投足に国の命運がのしかかってくる、その重圧が、苦痛が、絶望が……お前らにわかるかぁアアアアアッ!!」

 オーバーブロットの最中、レオナはいつかの日の夢を見た。十数年前の、今でも続く後悔の日だ。

 当時、今では考えられないほどレオナを取り巻く環境は悪かった。侍従たちはレオナと兄を比較し、ファレナを褒めそやすダシにレオナを利用していた。
 ファレナは天才だ。何をやっても通常の何倍も速く的確に技術や知識を習得していく。時には教師の間違いを指摘する事さえあった。
 レオナ自身、自分より兄の方が優秀だと分かっていた。でもそれを認めてしまうと自分自身が無価値になる気がして、いつも虚勢を張っていた。
 その日だって、飽きもせずににファレナと比較を始めた侍従たちに嫌気がさしていた。陰口にいちいち傷つく自分自身が嫌で、そっと自室を出た。
 夕焼けの草原の王宮はとにかく横に広い。城塞を兼ねているせいもあるだろう。人目に付きにくい城壁の上で、沈みゆく夕日に照らされながらべそをかくのが嫌なことがあった時のルーティーンだった。

「こんなところにいたのか、レオナ」

 こういう時に限ってレオナを見つけることがファレナは得意だった。
 優しげに笑い、三角座りをしているレオナの横に腰を下ろす。レオナは額を膝頭に強く押し付けた。ファレナに泣いている顔を見られたくなかったからだ。

「ここからの夕日は一等美しく見えるな! レオナは景色がきれいな場所を探す天才だ!」

 溌溂と笑うファレナは、レオナが泣いている理由を無理には聞き出そうとしない。それがかえってレオナにはありがたかった。泣いている理由が兄と比較されたから、だなんてレオナのプライドがファレナ本人に言うことを許しはしなかった。
 黙っているレオナに対して、ファレナは好き勝手独り言のように言葉を投げかける。一方的に会話を続けるこの時間が、レオナにはどうにも居心地を悪かった。
 だからかもしれない。いつでも余裕たっぷりな兄の鼻を明かしたくて、ちょっとした意趣返しのつもりでレオナは言ってしまった。

「お兄様は……オレのことなんかどうでもいい。そうだろう?」
「そんなことないぞ? どうしてそう思うんだ?」

 不思議そうに首をかしげるファレナは、次のレオナの言葉に目を見開く。

「だって、お兄様はオレを通して別の誰かを見てる。オレだけじゃない。……きっと、だれが相手でも同じだ」
「……」
「お兄様のことを皆度量の広い王の器だって言うけど、本当は違う。お兄様にとって、全部が夢みたいなモンなんだろ? 目が覚めれば消えてしまうって。だから何もかもがどうでもいい。違うのか?」

 ハッ、とファレナは息を呑んだ。口を開き、閉じて、ふっと笑った。膝に顔をうずめる弟の肩を掴み、無理やり視線を合わせた。
 爛々と赤い瞳を輝かせるファレナがレオナの目に飛び込んでくる。

「……凄いな! レオナ、よくわかったな!? いつから気が付いていたんだ?」

 ファレナの問いに「だいぶ前からだ、お兄様」とレオナは力なく返す。もしや、と思ってはいたが、本当にそうだったとは。

「いや、まったくもってその通りだ。だが安心してくれ。こんな状態でも――」
「ふざけるな! 安心なんかできるか!」

 レオナはいきり立って、ファレナの胸倉をつかんだ。ファレナと目が合う。赤い瞳に写った自分は、顔をくしゃくしゃにして今にも泣きそうだった。

「オレを見ろ。夢なんか醒めてしまえばいい! それでココが現実だって、理解しろ!」

 寝起きのような表情で、ファレナはパチパチと数回瞬きをする。ようやくレオナとファレナの目が合った。
 ジョン、とファレナの吐息と共に唇が小さく動いた。レオナは知っている。かつてキングスカラー家の家系図や王宮に努めている者の名簿をくまなく探したことがある。でも、『ジョン』なんて名前の人物はひとりも見つからなかった。
 そうだ、この無神経な兄はどこの誰かも知らない人物とレオナを重ねて見ているのだ。それを聞いているレオナがどんな思いをするか、何も知らないで!

「ふざけるなよ! どうしてお前が第一王子なんだ! オレだったら、きっと……!」
「レオナ……?」
「こんな現実も見れないバカと比べられ続けるのか!? これまでも、これからも! ふざけるなよ、チクショウ……!」
「レオナ」
「なんなんだよ、本当に。オレが先に生まれてさえいたら、全部手に入ったのに! 王様になれたかもしれないのに……!」
「なんだ、レオナ。お前、そんなに王様になりたかったのか?」

 あっけらかんと「言ってくれれば良かったのに」とのたまう兄に、レオナの怒りのボルテージが上がっていく。
 思わず頬を打つべく振りかぶった右手は、パシリと乾いた音を立てて兄の手に止められた。

「いいぞ!」
「……は?」
「レオナ、お前が次の王様だ!」
「そんなこと、できるわけがないだろう!」
「俺を信じろ! レオナ! 無茶を通すのは慣れているんだ、俺は!」
「夢しか見ないバカを信じる奴がどこにいる? オレはごめんだね」
「む……まあいい。でもこれだけは信じてくれないか、レオナ。俺は本来、王様をやってはいけない存在なんだ」
「……はぁ? なんだよそれ」
「経験談だからな。この意味はレオナにもいずれわかるさ!」

 力をなくしたレオナの右手を離すと、ファレナはレオナに笑いかけた。
 ファレナの笑顔を見て、レオナの背筋があわ立つ。ギュッと心臓が掴まれたような心地がした。漠然とした不安が胸を締め付ける。
 ファレナはとても嬉しそうだ。上気した頬、楽し気に吊り上がった口角。そして、獣のようにギラついた瞳。
 そこにいたのは、寛大で勇敢な第一王子でも、優しいレオナの兄でもなかった。ファレナ・キングスカラーと同じ顔をした、見知らぬ男だった。
 レオナは悟る。眠れる獅子を起こしてしまった、と。

「お前が王の座に就くまでに[[emphasismark:掃除 >・]]は済ませておくからな! 約束だ!」

 翌日、レオナの不安は的中した。
 ファレナが自身のユニーク魔法を使用して、レオナの陰口を叩いていた侍従を消し飛ばそうとしたのだ。侍従を庇ったレオナのおかげで狙いが逸れ、王宮に大穴を開けただけで幸いにも死傷者は出なかった。
 キファジに厳しく理由を問い詰められたファレナは、平然と「約束を守ろうとしただけだ!」と説明した。
 この事件以降、レオナを取り巻く環境は劇的に改善されていった。理由は言うまでもなく、ファレナのおかげだ。
 だが、それとは反対にファレナの周囲は段々悪くなっていく。躊躇なく人に向けて危険性の高いユニーク魔法を使おうとし、そして反省の様子はない。
 諫めようとしたまともな臣下は遠ざけられ、ファレナを傀儡にしようと腹に一物を抱えた人物ばかりがファレナの取り巻きになっていく。

 これまで全く手を焼かなかったファレナの突然の心変わりに、キファジをはじめとする侍従は大いに動揺しているようだった。
 レオナはキファジとのチェスの対戦を利用して、ファレナの心変わりの真相を話して聞かせた。そしてレオナが推理したファレナの本当の狙いも。
 それを聞いたキファジの表情と言ったら! チェスの駒を取り落とし、顔を両手で覆ってブツブツと自問自答を繰り返す。冷や汗が滂沱のように流れ落ち、カッと目を見開いて狼狽していた。
 それをチェス盤を挟んで眺めていたレオナだったが、キファジを笑う気には到底なれなかった。自身もひどい顔をしていた自覚があったからだ。
 もしこの推理が当たっていたならば、兄は稀代の狂人として歴史に名を残すことになるだろう。レオナは自身の推理が外れていることを切に願った。しかし優秀な頭ではこの推理が大方当たっていることも理解できてしまう。

 あの日から十数年。
 王宮には多種多様な人々が勤めている。それを見ているうちにレオナは他人の感情の機微に鋭くなった。兄が心の奥底に仕舞いこんでいた本心にも、なんとなく気付けるほどに。
 あの馬鹿野郎は、感情のブレーキが壊れている。[[emphasismark:止まらない >・]]のではない。[[emphasismark:止まれない >・]]のだ。そんな野郎が勇敢とは笑わせる。それなら俺がブレーキになってやればいい、とレオナは思う。
 兄の目論見をすべてぶち壊した後、指をさして笑ってやるのが当面のレオナの『目標』だ。叶うか分からない『夢』ではない。実現しなければレオナが困る。何より、兄の企てるバカ騒ぎに国や民衆を巻き込むつもりは毛頭なかった。

 ファレナを人から獣に変えてしまったのはレオナだ。その責任を取らなければならない。それはレオナが夕焼けの草原の第二王子だからではない。ファレナ・キングスカラーの弟としての責務だ。馬鹿な兄を持つと弟は苦労する。だが、不出来な兄をフォローするのが弟の役目だろう。
 兄が何かをやらかす前に止めなければならない。レオナは覚悟を決めると同時に夢を捨てた。
 もうレオナは『王様になりたい』なんて夢を持つことはできなくなった。夢を叶える一番の障害が除かれた瞬間、今度は夢自体を捨てないといけなくなるなんて。
 まったくひどい話だ。これが全部夢ならどれほど救いがあっただろうか。だがいつもレオナの目の前に横たわるのは冷たい現実だった。

 レオナはこの十数年、ずっと後悔を抱えている。

 NRC学園長から生徒の父兄に宛てられた手紙とロイヤルゲストへの招待状に目を通し、ファレナ・キングスカラーは笑みを浮かべた。
 数時間前に他国の首相と会談を終わらせたばかりだ。たまには可愛い弟の顔も見ておきたい。
 窓の外には一面の雲海とどこまでも広がるスカイブルーがあった。それを横目に、チャーター機を操縦する機長と侍従へ「おーい!」と声をかける。

「急用ができた! すまないが、賢者の島に立ち寄れるか?」
「可能です。如何なされましたか?」
「レオナの顔でも見ておこうかと思ってな! NRCではマジフトの大会が行われているそうだ」
「承知いたしました。早急に手配いたします」
「ああ、それと酒も用意してくれ」
「酒、でございますか?」
「ああ、レオナが指揮するんだ。優勝以外はありえないだろう? 祝いの品だ! とびっきり良い酒を頼む!」
「かしこまりました」

 侍従は機内の通話機を手に取ると、すぐに電話をかけ始めた。
 レオナと顔を合わせるのは数年ぶりとなる。ずっと慌ただしく夕焼けの草原の内外を飛び回っていたため、タイミングが合わなかったのだ。最愛の弟が王宮に戻る期間が短すぎる、と何度NRCに苦情を入れようとしかか分からない。一度実行したところ、ものすごい剣幕の弟に電話越しで叱られたが。
 学校に堂々と酒を持ち込むのは咎められるかもしれないが、金が大好きな学園長にちょっとばかりの心付けをすれば、すぐに口を閉じるだろう。
 ここにキファジがいなくて良かった、とファレナは思った。もしキファジがいたとしたら、きつい皮肉と一緒に苦言を呈されていたところだ。
 雲海の下にある賢者の島に想いを馳せ、ファレナは鼻歌交じりに深々と席に体を預けた。

「今からですと、マジフトの大会が終わった後の到着となります」
「構わない。急な予定変更だからな! レオナの雄姿を見れないのは残念だが、仕方ないか!」
「それと、チェカ様もNRCを来訪されているようです。お会いになられますか?」
「そうだな。そうするか!」

 軽く笑いながら機嫌よくファレナは続けた。

「いい機会だ。最初に会うのはレオナだが、その後時間があるならチェカにも会いに行こうか!」

 マジフト大会が終わった後の保健室で、小さな闖入者がやってきた、その少し後のことだった。
 扉がコンコンとノックされると共に、「失礼する!」と扉越しにくぐもっていても分かる快活な声がした。

「ああ、レオナ。ここに居たのか!」

 保健室にやってきたのはライオンの獣人だった。金に赤の差し色が入った髪。襟足だけ長く伸ばし、三つ編みにしている。動きに合わせてゆらゆらと揺れる様子はまるでライオンの尻尾のようだ。
 レオナとの血縁を感じさせる、美しい顔立ちの青年だ。レオナと対照的な赤い瞳がひたりとレオナを見据えた。
 青年を見た瞬間、周囲の反応は二つに分かれる。片や音もなく固まったエースやジャックたち。片や時世に疎く、首を傾げた監督生やグリムたち。
 「あいつ誰なんだゾ?」と声を上げようとしたグリムに先んじて、エースがグリムの口を覆う。モゴモゴとエースの手を退けようとするグリムに対し、エースは小声で「シッ、絶対に失礼すんな!」と鋭く注意を促した。

「……あー、もっとうるせえのが増えやがった」
「あーっ! おとうたま!」

 うんざりしたレオナの声をかき消すように、チェカの嬉しそうな叫びが保健室いっぱいに響き渡る。
 それを聞いていた監督生は目を剥く。チェカはこの青年を父だと言った。つまり、この自分より少し年上くらいに見える青年が、夕焼けの草原の第一王子で、レオナの兄だということだ。とてもではないが信じられなかった。

「おっ、チェカもここに来ていたか! 相変わらずレオナが大好きなんだな!」
「うん!」
「ハハ、元気そうで何よりだ! レオナが少し苦しそうだから、腹の上から退いてやってくれ。チェカは良い子だからできるな?」
「はぁい!」

 レオナたちを置き去りにして和やかな親子の会話が始まった。
 やっとエースの手を口から外したグリムが、「やい! 何しやがるんだゾ、エース!」と抗議の声をあげる。

「悪かったって。でもお前絶対『あいつ誰なんだゾ?』とか言うだろ?」
「相手は夕焼けの草原の国王代行だぞ!」

 小声でグリムに謝りながら説明するエースに、ジャックも補足を入れた。グリムは不思議そうにファレナを見る。

「あいつ、そんなに有名なのか?」
「夕焼けの草原のファレナ・キングスカラーって言ったら……なぁ?」
「絵本の題材にもなるほどだな。ニュースにもよく取り上げられているから、知らない人はそうはいない」
「そうそう。いろんなとこ飛び回って、魔物退治とかやってんの」

 二人の説明を聞いた監督生は首を傾げた。

「え? でも国王代行なんだよね。そんな危険なことしていいの?」
「それについては問題ない。本人の希望もあるし、なによりユニーク魔法が強力だからな」
「俺、昔ドキュメンタリーで見たわ。『エクスカリバー』っつったら、ビームがドーン! って出てさ。強そうな魔物が一撃だぜ? 信じられるか?」
「見ての通り、明るい人柄だし度量も広い。あの人のファンも多いぞ」
「あ、あの!」

 デュースの緊張した声に、監督生たちは雑談を止めて振り返る。
 いつの間にかデュースが頭を深く下げ、マジカルペンとハンカチをファレナに差し出していた。

「お、俺ずっとファレナさんのファンだったんです! サインください!」
「あのバカ何やってんの!?」

 驚愕したエースのツッコミが炸裂する。虚を突かれたファレナが不思議そうにデュースを見た。

「うん? 俺のか?」
「はい! あ、俺デュースって言います。絵本の『ファレナ王子』、ガキの頃何度も読みました。すごく面白くて!」
「ハハ、それは絵本の作者に言ってくれ! 俺は絵本のモデルになっただけだからな! でもそうだな、俺のサインで良いのなら」

 ファレナはペンを受け取り、ハンカチにサインを入れた。デュースは喜色満面の笑みを浮かべてサイン入りのハンカチを受け取る。

「ありがとうございます!」
「いいさ、これくらい。……素直そうでイイ後輩じゃないか、レオナ! この学園でも楽しくやれてそうで安心したぞ!」
「オニイサマの心配りが嬉しすぎて涙が出てきそうだ。ああ、本当にな」
「なんだ、心配されるのは嫌か? だが俺はレオナの事をずっと気にかけているぞ。可愛い弟だからな!」
「……そうかよ」

 皮肉が全く通じない兄相手に、頭が痛そうにこめかみを押さえるレオナ。この親子に苦労しているんだな、と生ぬるい視線が集中した。

「それで? お優しい兄貴は一体何の用でここに来たんだ」
「おお! 忘れるところだった!」

 瞳を煌めかせたファレナは、チェカの背をポンと叩いた。

「チェカ、さっきお前のお付きが探し回っていたぞ。行って安心させてやれ!」
「ええー!? やっとおじたんを見つけたのに!」
「レオナとここで待ってるから、お付きを見つけたらここに戻って来ればいいさ。さあ、行ってこい!」

 チェカは返事を返すと渋々保健室を後にする。小さな背を見送り、「さてと」とファレナはレオナと向き合った。

「レオナ、その傷はなんだ? 誰につけられた」
「……兄貴には関係ねぇだろ」
「関係あるさ! 教えてくれなければ、俺がどうするかレオナは理解できているだろう?」
「なっ……」

 にこやかに言い放つファレナに、レオナが絶句した。

「俺としても無関係な人を巻き込みたくはない。正直に言ってもらえると助かるんだが」
「正気か?」
「ああ! 正気だ! お前はいずれ王になるんだ! 昔の約束はまだ続いているし、ちゃんと果たすさ」
「そんな世迷い言、まだ言ってんのか」
「俺は本気だぞ? お前は王を望んでいるし、俺よりずっと良い王になる。絶対にだ」

 話が平行線になりかけたところで空気を読まず「ちょっと!」と割って入る声がした。エースだ。

「話が見えないんすけど。レオナ先輩さぁ、ずっと王様になりたかったんすよね?」

 なあ? と同意を求められたデュースや監督生がおずおずとうなずいた。

「先輩のお兄さんはレオナ先輩を王様にする気満々じゃん。説明、してくださいよ!」
「……君は?」
「エース・トラッポラっす。レオナ先輩のオバブロに巻き込まれたんだ。俺らも当事者なんすけど?!」
「オバブロ? レオナ、どういうことだ?」

 真顔の兄と後輩に詰め寄られ、レオナは大きくため息をついた。

 マジフト大会にまつわる一連の事件の話を聞いて、ファレナは難しい顔で腕を組んだ。

「レオナ」

 静かな声でファレナが呼んだ。その声音にレオナの尻尾がピンと張る。

「なんだよ。反省しろってか?」
「お前が[[emphasismark:必要だと思った >・]]から事件を起こしたんだろう。俺が気になるのはオーバーブロットのことだ。体は大丈夫なのか?」
「ハッ! お優しいことで」
「大丈夫そうだな。方法はちょっとまずかったもしれないが、まあ問題ないだろう! そんなことより酒を用意したんだ。祝勝会ではなく慰労会にはなってしまったが、受け取ってくれ」
「……なに?」

 ファレナが持つ手提げの中には高そうな瓶が入っていた。ラベルを一目見たラギーが叫ぶ。

「ロイヤル・ルージュ! しかも1945年もの……!」
「うん? 知ってるのか?」
「世界最高峰の、しかも奇跡の当たり年っスからね! 市場価値は計り知れない超希少ワインッス!」
「俺はワインにあんまり明るくないんだが、まあレオナが喜ぶならそれでいい」
「ふざけやがって!」

 ファレナの手に持つワイン瓶を奪い取るなり、レオナはユニーク魔法を発動した。
 ワイン瓶が砂になって、保健室の床にサラサラと落ちていく。

「レオナ先輩! あんたオバブロしたばっかりなのにユニーク魔法使うとか何考えてんだ!」
「あ゛ぁーーっ! ロイヤル・ルージュが!! 何千万マドルすると思ってるんスか!?」

 サバナクロー所属の後輩二人がそれぞれ信じられないという表情で叫んだ。

「俺は観客を巻き込んで傷害事件を起こした!」
「うん」
「マレウス・ドラコニアに危害を加えようとしたんだぞ!?」
「ああ」
「立派な外交問題だろうが!!」
「そうだな。それがどうした?」
「どうしたって……」

 レオナは唖然とした。

「レオナは細かい事を気にするな。ここはNRCだぞ? 学園長にちょっと言っておけば問題ないさ。すぐに緘口令を敷くだろう」
「な、何を……言って……」
「反抗期か? こんなことでお前を王位継承候補から外すはずがないと、お前なら分かるだろう?」
「待て」
「茨の国から何か言われても問題ない。何かあれば全部俺が責任を取るつもりだ!」
「それ以上口を開くんじゃねぇ!」
「機嫌を直してくれないか。せっかく数年ぶりに会えたんだ。怒っている顔より笑っている顔の方が良い」

 レオナの暴挙に成り行きを見守っていた周囲だが、キングスカラー兄弟のやり取りを聞いているうちに驚愕の表情に変わっていく。
 すっとラギーの目が据わった。レオナがオーバーブロットする直前、会話の内容からもしや、と疑っていたが今ようやく確信が持てた。この男こそがレオナの悩みの種だ。事の次第によっては、ラギーはファレナに牙を剥けることも辞さなかった。
 ファレナは周囲の反応を気にせずにっこり笑う。

「話がそれてしまったな。さあ、レオナ。教えてくれ。その傷は誰につけられたんだ?」

 ファレナ・キングスカラーは多重転生者だ。
 最初の生では21世紀の日本に、次の生では12世紀のイングランドに、そして三度目の生ではここツイステッドワンダーランドで産声を上げた。
 正直、日本での生活の事はよく覚えていない。変なサブカルチャーの知識は大量にあったから、いわゆるギークというヤツだったんだろう。
 次に生まれたイングランドでの人生こそ、ファレナにとって一度目の生のようなものだ。実際、記憶の大半をイングランドでの生活が占めている。日本の記憶はファレナにとって便利な知識は多いが厄介なもの、という認識だった。

 イングランドでは王室の三男坊に転生した。名前はリチャード。
 転生したと自覚するや否や、「凄いぞ! 夢みたいだ! 俺、『主人公』みたいじゃないか!?」という錯覚をした。 そう、錯覚だ。この錯覚がリチャード当人にとってこれから続いていく間違いの始まりだった。
 リチャードは幼い頃に冒険と称して無鉄砲にも一人森へ行き、遭難しかけたことがある。幸いにも城へ戻ることができたが、あの時は森の中で途方に暮れた。
 後日、世話役の顔ぶれが一新されており、理由を訊ねればリチャードを止められなかった責任をとって暇を出されたという。反省はするものの、自身の心から沸き立つ情動を押さえきれず、その後も護衛や家庭教師は不定期に変わった。リチャードを溺愛していた母も、この点はさすがに問題視をし始めた。
 リチャードは将来領主になる。自らの情動に対して、自己矯正方法を身につけなければならなかった。リチャード自身も「俺、いつか絶対に致命的なやらかしをしそうだな?」という確信を持っていたので、母の意見には賛成だった。
 母が目を付けたのは英雄譚だ。この時代の人々のイメージで紡がれる英雄譚は、理想そのものだ。それが逆にリチャードにとって都合が良かった。 現代日本の知識上触りしか知らなかった英雄譚の数々はリチャードを[[emphasismark:酔わせた >・]]。
 周囲の人々が「英雄願望に取り憑かれた」と揶揄するくらい、リチャードは英雄譚を意識して生活するようになった。ひょっとすると、日本でのギーク的性質がうまくかみ合ったのかもしれない。

「アーサー王を目指すだけで、この時代の常識に適応できる! 俺は英雄になる! きっとやれるさ! 俺は『主人公』なんだから!」

 自己矯正手段を得て人知れず安堵していたリチャードだったが、そうは問屋が卸さなかった。
 最初は良かった。持ち前の天才性が味方して、うまく騎士道をロールプレイできていたと思う。だが、戦争に参加したころからすべての歯車が狂っていった。
 弟のジョンが指摘したように、英雄譚には煌びやかな活躍がある一方、凄惨な負の側面もあった。リチャードはそれを忘れていた。
 リチャードが英雄になろうとすればするほど、英雄から遠ざかっていく。理想が遠のいていく。
 皆は凄いな、とリチャードは思った。もうリチャードには何をどうすれば自分を抑制できるのか解らない。自分自身が止まらない。止められない。
 リチャードにとって最大の不幸は、自身に絶大なカリスマがあることだった。リチャードの「英雄譚への酔い」が部下へ、民衆へと広がっていく。皆が功績と活躍に目が眩み、リチャードという英雄に[[emphasismark:酔って >・]]いた。
 リチャードも酔いつぶれそうな自分自身を必死で保っていた。酔いで自分の感覚を麻痺させなければ、臆することなく剣を手に取って戦えなかったと思う。
 虐殺に手を染めた時、リチャードは「もう英雄にはなれない」ことを内心悟っていた。

 そうして死ぬ間際、矢傷の熱にうなされながらリチャードはようやく酔いから醒めた。馬鹿みたいな話だ。

 ツイステッドワンダーランドに転生した時、リチャードの時のような「英雄譚への酔い」は醒めていることを自覚していた。
 この世界は元リチャード一世、現ファレナにとって麗らかな春の午睡で見る夢のような、優しい世界だ。英雄譚を目指さなくても良い。戦う必要もない。
 かつて国を傾けた自覚があるだけに、玉座だけは座りたくはなかったが、そこは弟にでも押し付けておけばい。
 ファレナはこの夢の世界を夢のまま終わらせるつもりだった。でも、やはりファレナの思い通りにはいかない。

「オレを見ろ。夢なんか醒めてしまえばいい! それでココが現実だって、理解しろ!」

 レオナの叫びに、自身を射抜く緑の瞳に、かつての自分が目を覚ます。
 「王になりたい」とレオナが打ち明けたとき、ファレナは歓喜のあまり叫びそうになった。
 長らく待ち望んでいた一言だ。狂乱の炎が静かにファレナを包み込んでいく。

 レオナやキファジたちにとって不幸だったのは、たった二つの事柄だった。
 一つ目はファレナが持つ現代日本の知識の中に『ダークヒーロー』という概念があること。
 二つ目はリチャードから『ジョン欠地王』への王のバトンが失敗した記憶を持つことだった。
 この二つが最悪にかみ合い、ファレナを[[emphasismark:レオナの為なら悪事も迷わず手を染める >・]]怪物へと押し上げた。

 邪知暴虐の王、ファレナ・キングスカラーを討った『英雄レオナ』は民衆に喜んで迎え入れられる――そんな夢のような光景がパッとファレナの脳裏をよぎる。
 ジョンが王座を継いだ時は、リチャードの影響が強すぎた。それではダメだ。
 レオナが安心して政治を動かせる基盤づくりが必要だ。そのために、政敵となりうる人物には退場してもらわなければならない。まずは妻とその家族、そして両親。最後にはファレナ自身。排除対象の優先順位を決めた。
 レオナの為ならこの程度の犠牲は致し方ない。ファレナの中の天秤はもう傾いてしまっていた。
 息子のチェカはどうするか悩みどころだ。レオナ宛に「俺としてはチェカを生かしておいてくれると嬉しい! だが、将来反レオナ陣営の旗頭にさせられる可能性はある。まあ、生かすも殺すも最後はレオナに判断を任せるぞ!」という内容の手紙を書き綴った。その手紙を自身の死後にレオナに届くよう手配すれば問題ない。

 二回目の生では弟のジョンに殺されることを望んでいたが、終ぞ望みは叶わなかった。戦下手なジョンにそれを望むのは酷だろうという、なけなしの兄心が勝ったからだ。
 だが、このツイステッドワンダーランドにはレオナがいる。手ずからチェスを手ほどきし、戦争の作法を教え込んだ弟が。
 ファレナは自身のカリスマを悪用して、レオナに反旗を翻しそうな人物を自身の周りに集め始めた。少しずつ内紛の準備を整えていく。
 キファジとレオナが結託して何やらコソコソしていたが、ファレナにとっては小さなことだ。

 恥も外聞もない、血で血を洗うような泥沼の後継争いをしよう。
 この数百年にわたるツイステッドワンダーランドの平穏を破る事さえ、今のファレナにとっては細かい事だ。ファレナの名声が地に落ちたとしても、レオナが何の憂いもなく王様を続けられるなら安いものだ。自分の死という運命も、ファレナは喜んで受け入れらる。
 ファレナはクリスマスを待ちわびる子供のような笑みを浮かべた。今度こそ最高に楽しい戦いができそうだ!

 ファレナはもはや怖れない。
 ――もはや。
 それは裏を返すと、[[emphasismark:かつては怖れていた >・]]、ということに他ならない。
 巧妙に隠してしまったが故にファレナ自身もいつしか忘れていた。「自分がどうなってしまうのか」ではなく、「自分が周りに何をしてしまうか」を怖れていることに。
 かつて、リチャードは人を愛した。愛したが故に怖れたのだ。自身の非人間性が、愛する人を焼き尽くしてしまうことに。
 いくら英雄譚という鋳型で自身を固めようと、溶鉄は触る者を火傷させる。リチャードは自分自身の危険性を十分に理解していた。

 誰も気が付かないはずのその本心を、ジョンだけは理解した。そしてツイステッドワンダーランドではレオナが理解していた。
 だからファレナにとって二人は特別なのだ。賢く、優しい弟達を愛している。

○登場人物について
・ファレナ・キングスカラー(主人公)
今作の主人公。現代→リチャード一世(Fate)→ファレナ(twst)成り代わりの多重転生者。
外見は第一・第二再臨のリチャードそのまま。唯一の違いはライオンの耳と尻尾がついているか否かくらいです。
情動(本能)に忠実すぎる性格。善悪の判断はつけられるもの、その善悪よりも自身の情動が優先されるので自分の行動の歯止めが全く効ききません。

だいたいこいつのせい。ジェネリックプランタジネット兄弟の兄の方。
ジョンとレオナがパーフェクトコミュニケーションを叩き出してしまったばかりに、なんだか大変なことになってしまいました。
リチャードの時はセイバー寄りの思考や性格をしていたけれど、ファレナはライダーやバーサーカー寄りになっています。
家族は普通に好きです。公明正大な両親も、ちょっと野心的な妻も、息子のチェカだって可愛い大事な家族です。
ただし、最優先のレオナの邪魔になりそうなのでファレナの優先順位的に排除対象になってしまうだけです。現実って悲しいね。

徹頭徹尾レオナの為だけにお家騒動を画策しています。ファレナとしてはレオナが勝つ出来レースのつもりです。
ただし、手を抜いて負けるのはダークヒーロ―としても『英雄的行為』ではないので、[[emphasismark:全力 >・]]でレオナと争うことになります。
その結果、レオナが勝てばファレナの目論見どおり『英雄レオナ凱旋ルート』に入ります。……そのレオナもファレナの実弟です。それを国民たちが受け入れられれば、の話になりますが。かなりの確率で民主化するんじゃないでしょうか?
逆にファレナが勝てば『魔王ファレナ爆誕ルート』に入ります。その結果、暴君ファレナが無理やり民衆を[[emphasismark:酔わせて >・]]、戦乱の火がツイステッドワンダーランド中を焼いていくことになるでしょう。

・レオナ・キングスカラー
今作の胃痛枠その①。ファレナ被害者の会名誉会長。ジェネリックプランタジネット兄弟の弟の方。
レオナ当人としては『ジョン』ではなく、自分を見てほしかっただけなのにどうしてこうなった……?という気持ちでいっぱいです。
強いて言うなら言葉選びがクリティカルだったのが悪かったです。
「王様になりたい」という夢をファレナに打ち明けてしまったばっかりに、夢と家族を天秤に載せざるを得なかった。不憫ですね。
なんだかんだチェカ君やサバナクロー寮生達から慕われているほど面倒見がいいので、夢と家族なら家族を取ると思っています。
兄の言う「掃除」の対象に兄自身や息子のチェカは含まれていないよな……? と戦々恐々しています。残念。しっかり入っています。
もしレオナがお家騒動勝利ルートを辿った場合、チェカの処遇を丸投げする手紙が届いてブチギレすることになります。

兄の方が王の器(カリスマ)もあるし、周囲の支持が圧倒的に高い。だが当の本人が王座に消極的、というのが見ていてイラつく原因になっています。
ただし、変なところで兄が自身を全肯定することは分かり切っているので、政治に関してはよほどのことがない限り口を挟まないようにしています。
兄が金銭面に無頓着なので、そのフォローを行った結果金勘定が原作より得意です。政敵には「守銭奴」と嫌われる原因にもなっています。
兄の息子であるチェカも兄のような怪物にならないよう、陰ながら面倒を見たりしています。

あの兄があんなに幸せそうな、嬉しそうな顔で呼ぶ『ジョン』がどんな人物か物凄く興味があります。もし対面した場合、互いに気に入らず皮肉のぶつけ合いになるか、兄の苦労話で盛り上がるかしそうですね。

・キファジ
今作の胃痛枠その②。ファレナ被害者の会副会長。
ファレナが絵本のモデルになるくらいの人気の裏には、この人の並々ならぬ努力が詰まっています。
お家騒動で万が一ファレナが玉座に就いた場合、キングスカラー家どころか夕焼けの草原が全世界から総スカンを食らうルートが確定します。
現在レオナ派閥筆頭でも侍従長としてファレナの手綱を握っておかなければならない状況に胃を痛めています。
最近抜け羽がちょっと増えた。

・チェカ
何も知りません。
優しい父となんだかんだ言いつつ心配してくれる叔父が大好きです。

・王宮に勤めている人々
ファレナの侍従を消し飛ばそうとした一件は、「弟を刺客から守るために仕方なく魔法を使った」というカバーストーリーでもみ消されています。
でも聡い人はファレナを「この人危険では……?」と感づいています。夕焼けの草原王宮は女性が多いので、女の勘というヤツです。
王宮内での事を知らない民衆にはファレナが圧倒的に人気ですが、実のところ王宮内ではレオナの方が人気だったりします。

・NRCの人々
もし誰かが傷の原因について口を滑らせた場合、NRCにエクスカリバーをぶちこもうとするファレナが見れることでしょう。
その前にレオナが「この傷の落とし前くらい自分でつけさせられないと思ってんのか?」と説得するのが最適解になります。
NRCの未来はレオナに託されています。

・監督生
一般通過監督生。何も知りません。
ちょっとだけジョン君が監督生だと面白そう? と考えましたが、その結果湿地王になるのでやめました。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました!

— End —

Comments 65

猫木乃伊6 天前
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ネコ6 天前
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さかなな6 天前

どうなるんだ…?と戦々恐々としていたところに湿地王で爆笑しました

リノ8 天前
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にしな8 天前
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ねふたいらー10 天前
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こう@返信遅れ中…11 天前

根底に愛があるからとんでもねぇことになったというか、なってるというか…微睡んでた獅子王を叩き起こしたら獣になってしまったというか… 家族として自分を見ろよ!したらこんなピタゴラするとかある?

和歌11 天前

レオナさんお労しい……勝利ルートも民衆はファレナ派が多いってことはジョンくんみたいに石を投げられる運命になりそうだしマグナ・カルタが成立しそうだなぁ……これ魔王ファレナルートだと人理の危機でジョンくんカウンター召喚アゾるルートが発生しそうだしうーん、オバブロするよこれは……

,
,11 天前

これはこれは…いけませんねぇキチンとシリーズ化して連載して頂かないと…

暁月11 天前

レオナさん可哀想……いつのまにやら世界の平穏を背負わされてるし、平穏に家族にと天秤に乗せられたら、自分の夢なんて選べないよね…… 兄の魔王化という最悪のルートを回避するには、胃を痛めながら兄をフォローし続けるか、『勝利』するしかない。成人してるとはいえ学生が背負う重さじゃない……

ゆきうさぎ11 天前

これはファレナの異常性を理解すればリリア、顔真っ青にしてレオナに謝罪するレベルなんじゃ……?と思います。虐殺をも辞さないってのを理解したら、戦争経験者だからこそ、この平和を壊す破壊者が生きているってかなり危機感覚えるのでは……?しかも、カリスマ性や実力的に可能っていう事実……。

なつき11 天前
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Sakuria
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