あてんしょん!
文章が変です!
n番煎じかも
捏造祭り
デタラメ祭り
ネタバレあり
乙骨美冬の成り代わり
原作の厳格な美冬さんはいない
作者は豆腐メンタルなので攻撃的なコメントなどはお控えください!
それでも良いよって方は次のページにどうぞ!
「えっ、」
「あ、」
「……知り合いか?」
「この前の任務で……呪術高専に入ったんですね。」
「は、はいっ!」
「じゃあ改めまして、乙骨依織です。よろしくね。」
Q.命の恩人に再会し、名前を聞いた時の気持ちを答えよ。
A.はわわ私将来この人のお嫁さんになるの〜〜〜〜!?!?
美冬はどこにでも……はいないが、その部分だけを除けばごく普通の女の子である。
『うううぉぁああああぇええ』
『ニクイニクイニクイニクイ』
『いかないでいかないでいくなここにいろ』
『おまえ、見えてるな?』
どこにでもいない理由はお化けが見えるからである(後に呪霊という名だと知った)。
美冬には少しだけ不思議な力があった。ハサミでもカッターでも、なんならそこら辺の石っころでも、お祈りをして呪霊に投げつければ大抵のものはすうっと消えるのである。美冬はこうして呪霊とやらから逃げて生き延びてきたのだ。
「依織は同じ訓練で大丈夫だな。」
「はい。」
「美冬は……っと悪い、名字の方が良いか?」
「いえ、名前で大丈夫ですよ。伏黒先生。」
「分かった。で、お祈りを込めた物を投げつけて呪霊を消していた、だったか?」
「はい。いなくなれ〜!って願って投げつけてました。」
「美冬のそれは、無意識のうちに恐らく呪力を込めてたんだろう。」
「そうなんですね。」
それでも稀に物を投げつけても消えないやつはいる。そうなったら逃げるが勝ちであるが、その日は違った。格が違う、と本能で分かるのだ。震えて足は動かず、美冬は割と真面目に死を覚悟していた。
「呪力を込めるのは……俺より乙骨先輩とかの方が得意なんだよな……。」
「乙骨……?乙骨って、さっきの、」
「………………父親だよ。」
だがしかし美冬は死ななかった。同い年くらいの少年が助けてくれたからだ。その少年は他にも用事があったようですぐにいなくなったが、後から駆けつけた人達に美冬は保護され、『呪術高専』という存在を知った。
「……呪力操作については後でまた考えよう。それで、美冬。」
「はい。」
「お前はどうして呪術高専に来た。」
なんて答えたものかな、と美冬はちらりと横に立つ少年を見た。保護してくれた人達によると、美冬はかなり呪力総量が多いらしい。普通の人を10、ちょっと多い人を20とすると、美冬は100くらいはあるそう。ただまぁ先程話題に出た人物のように500とか1000いう化け物もいるらしいが。
「…………私は呪力総量が多いらしくて、それだけあったら私みたいに死にかけた人を沢山助けられるかもって。」
「……そうか。」
すっ、と少年が美冬から視線を外したのが分かった。やはり綺麗事を言っていると思われたのだろう。だがしかし、これは1割くらいの理由である。
「というのは建前で、呪霊の前で動けなかった自分が情けなくって。」
「そう……うん?」
「まぁあの時はどんなに頑張っても倒せはなかったと思うんですけれど、一矢くらい報いてやりたかったなって。なんで私が理不尽に殺されなきゃいけないんだって怒りが沸々と。すみませんよく母には血の気が多いと言われるのですが。」
「…………つまり?」
「えっと……呪術高専に来たのは私の血の気が多かったから……ですかね……?」
まぁこれも1割くらいの建前ではあるが。一瞬の沈黙があって、少しして盛大に吹き出す声が聞こえてきて美冬はきゅっと眉を潜めた。
「いや、あの、うん、理由が理由だから分かるけどね?そんなに笑う?」
「ふふっ、だってあの状況で怒ってたの?僕が来なきゃ死んでたのに。それで呪術高専来たって……あーダメだおかしい、あははっ!」
「割とデリカシーないな君。来る理由なんて人それぞれでしょ。そういう乙骨くんはどうして来たのよ。」
とうとう蹲って笑い始めた少年ーーー乙骨依織が顔を上げる。
「僕は家が呪術師の家系だからね。」
「そうなんだ。乙骨くんは、」
「依織で良いよ。」
ようやく立ち上がった依織が、お手本のような笑顔を浮かべた。
「名字、嫌いなんだ。」
「まあね、あの2人が両親だと少しキツいものはあるよね。」
遅れて合流した同級生と寮に向かって歩きながら、美冬はその話を聞いていた。
「両親共に宿儺戦を生き延びた猛者。父親の方は今や現代最強なんて呼ばれてる。そんな父親にそっくりなんだ。コンプレックスの塊だろうね。」
「そうかな、見た目はともかく中身はあまり似てないような…………、」
「あれ、親御さんに会った事あるのかい?」
「あ、いや、資料で見た感じね。」
「ふーん?ま、確かに彼の人は戦闘以外では穏やかに微笑んでるような人だしね。」
「やっぱりそうなんだね。」
「うん……と、寮についたか。じゃあこれからもよろしく、美冬ちゃん。」
「私も!呪術初心者だけど色々お願いします、千陽ちゃん。」
部屋に入ってベッドに寝転がり、美冬はぼんやり宙を眺める。
「ここが呪術高専…………。」
美冬は呪力総量こそ多いが、肝心の術式が無い。それでもこの世界に飛び込んだのは、理由があったからだ。一応その目的は果たせたものの、新たに思い出した事もあって少しだけため息を吐いた。
「宮國千陽ちゃんと、乙骨依織くん。私の……同級生。」
ーーー冒頭、美冬は自分が『どこにでもいる女の子』ではない理由に呪霊が見える事を挙げたが、その理由がもう一つ増えてしまったからだ。
「…………私、『乙骨美冬』かあ………………。」
そう、美冬は転生者であった。
『呪術廻戦』という漫画がある。その漫画には『呪術廻戦0』という前日譚があり、『呪術廻戦モジュロ』という続編があった。そして続編に出てくる主人公の母親は『乙骨美冬』と言った。その事を、美冬は恐らく後に夫になるであろう『乙骨依織』の名前を聞いて思い出したのである。
「モジュロ……履修してないぞ…………。」
が、しかし。美冬はモジュロの内容をほとんど知らない。登場人物や前作まで出てきたキャラの人間関係辺りしか知らない。美冬の知識は本編までで止まっているからだ。何故ならーーーそこまで考えて美冬は飛び起きた。
「おおお推しCPが見れるって事…………!?」
何故なら、前世の美冬はゆたりかまきまい大前提のゆたまき推しだったからである。
そう、モジュロでは第一話でいきなり推しCPが死んでいた。ちょっとは覚悟していたもの、やはりショックで前世の美冬はモジュロを見るのをやめた。そして細々とSNSで流れてくる情報だけ確認していたのだ。
「わ、わ、わー!」
美冬は枕に顔を埋めてちっちゃく叫んで、足をバタバタさせた。そして再び思い出した。
「……依織くん失踪してなかったっけ?」
こいつはやべえ。シングルマザー確定の未来は避けたい。美冬は眉間に皺を寄せた。そうならない為にはどうすれば良いものか。
「…………とりあえず依織くん観察するか。」
要するに失踪しそうな原因を探ればいいのだ。
「はい死んだ。」
「もう一本お願いします……できればもう少しお手柔らかに……。」
「別にいいけど、美冬さん弱いからすぐ死んじゃうよ?」
「依織くん、オブラートってのを覚えて。事実でも美冬さん傷ついちゃうからね。」
観察して分かったこと。乙骨依織という人間は優秀で生真面目で、ちょっぴり神経質な人間であること。
「依織くん。千陽ちゃんとパフェ食べに行く約束してるんだけど一緒に行かない?」
「ごめんね、鍛錬があるから。というか美冬さんは鍛錬しなくていいの?呪力操作もまだ上手くできないって嘆いてたよね。それでいいの?」
「息抜きは必要だからね。それからオブラートに包んでね。」
それから両親と何か確執があること。多分、仲自体はそれなりに良い……というか愛されている事は分かる。ただ依織が両親に対して複雑な思いを抱いているのは事実だろう。
「っ………………、」
「……あの、美冬さん、今のって本気?」
「オブラート!!!!!!」
あとナチュラルに煽りを入れてきやがるコイツ。無自覚なのが尚更悪い。
「美冬ちゃんも飽きないね。」
「まぁね…………。」
机に座って報告書を書いてる美冬に、千陽が笑いかけた。
「キツくないのかい?」
「うーん、もうちょっと口を慎めよとは思うけれど、全部私の為を思って言ってくれてる事だからね……。」
それに、と美冬が続ける。
「誰よりも努力して頑張ってるところ、知っちゃったから。」
「……彼は優秀だよ。今の呪術の世では十分すぎるくらい。ただね、比較対象が悪すぎる。皆、宿儺戦を生き延びた者達だから。それで昔ながらの古い考えの連中に口さがない事も言われてたそうだ。彼の父親に擦り寄ろうとする奴もいるだろうし。」
「依織くんも大変だね…………。」
実践に勝るものはない。その言葉が指すように、最悪の呪霊がいた時代で戦ってきた人達に、学生用として調整された任務をいくら重ねたって追いつけないだろう。
「それでも追いつこうと頑張ってるところが良いと思うんだけどな…………。」
「彼の周りに美冬ちゃんみたいな子がいるのは、さぞ安心するだろうね。」
「でもあのなんでもストレートに言う癖は辞めさせたい。」
「それは同感だ。どうにかならないかな。」
「まぁ見ててよ。」
「何をだい?」
千陽が首を傾げたその時、がらりと教室の扉が開いた。
「あれ、美冬さんに千陽さん。」
「依織くん。」
「えーと、」
依織は口を開きかけて少し迷ったあと、困ったように微笑む。
「ちょっと息抜きしたら一緒に鍛錬する?ほら……僕達ってまだ弱いから。」
「おお。」
千陽が少しだけ目を見開き、美冬はドヤ顔をした。
「マシになったじゃないか。」
「私が育てた。」
「なんの話?」
「オブラートの話。」
「……まだダメだった?」
「上出来上出来。おいで依織くん、ほっぺに花丸書いてあげようね。」
「やめてよ……。」
「赤で書いてあげるから。」
「もっと嫌なんだけど。」
そうは言いつつも依織は椅子を引いて美冬の隣に座る。それから手元の報告書に目を落とした。
「何やってるの?」
「うっかり呪具壊しちゃってごめんなさいの報告書書いてる。」
「呪力込めるの、まだ苦手?」
「お祈りだと思ってた時の方がマシだったね……。」
「美冬ちゃんは自覚して蛇口が壊れちゃったタイプか。」
「千陽ちゃんは?」
「教えるのが上手な師匠がいたからね。伏黒先生も教え方は悪くないけれど、あの人は滅多に呪具は使わないだろう。感覚が違うのかもね。」
「式神いるもんね。千陽ちゃんのお師匠さんも呪具使う?」
「使うけれどまた系統が違うかな。美冬ちゃんの場合はむしろ…………、」
そこまで言って千陽は少し視線を揺らす。うん?と美冬が千陽の顔を覗き込む前に、依織が声をあげた。
「それで美冬さん、僕に花丸くれないの?」
「恐ろしい子ね依織くん…………。」
こりゃウブな女の子は簡単に落ちるでえ……と謎の関西人を出現させつつ、美冬は赤ペンを手に取ると遠慮なく依織の頬に花丸をつける。そんな依織に千陽が揶揄うように言った。
「そういえばさっき、『僕達は弱いから』と言っていたけれど、私も入るのかい?」
「入るでしょ。一番弱いのは美冬さんだけど。」
「依織くん花丸没収ね。」
「ちょっと、バツ書かないで!」
「本当の事でも言わないのが優しさってものだよ。」
「言わないと美冬さん突っ込んで死んじゃうでしょ。」
「クソ、前科があるから何も言えないな……。」
ぎゅ、っと目を瞑った美冬を見ながら、依織が頬を擦る。
「美冬さん、これ水性?」
「優しいから水性だよ。」
「じゃあいいや。」
「ふふ、依織くんの頬が芸術的になっているね。私は遠慮しておくよ。」
「千陽ちゃん、私まだ何も言ってない。」
「君の目を見れば分かるさ。」
「うぐ、」
3人でそうしてわいわい喋っていれば、再び教室の扉が開いた。
「お前ら、まだ残って……どうした依織、その芸術的な頬は。」
「美冬さんのせいです。」
「そうか……美冬、後で職員室に寄るように。」
「えっそんなに重罪だったんだ…………。」
「お前らも早く帰れよ。明日任務があるだろ。」
「はい、先生。」
依織と千陽は既に単独任務が許されているのだ。美冬はちょっぴり悲しい気持ちになった。
「じゃあ2人とも、また明日ね。」
「君は当たり前のように明日の約束をするね。私達は呪術師なのに。」
「だって2人とも強いもん。私さえ生き残っていれば会えるじゃん。私弱いけどさ。」
「じゃあ僕達の為に早く強くなってね。」
「善処しまーす。」
ひらりと手を振って依織と千陽が教室を出ていき、残った美冬は担任の伏黒を見上げる。
「はい先生、報告書書けました。」
「まだ物に呪力を込めるのは苦手か。」
「苦手ですね……全然分かんない。」
「そうか。」
伏黒は何かに悩んでいるようだった。しかしすぐに首を振り、口を開く。
「明日の放課後から特別鍛錬をつけようかと思うんだが、やるか?」
「伏黒先生がつけてくれるんですか?ありがたいですけれど。」
「いや、俺じゃない。」
そうして伏黒が、まっすぐ美冬を見た。
「特別講師だ。」
「特別講師の乙骨憂太せんぱ……乙骨術師だ。」
「ドゥワーーーーーーー!?!?!?!?!?」
美冬はひっくり返った。
「どうした美冬。」
「ファ、ファンファンファンファンファンで、」
「今救急車通ったか?」
「誰がサイレンの音じゃい!!!!!!」
全速力でツッコミを入れてから美冬は我に帰る。それからそうっと視線を上げた。
「こんにちは、乙骨憂太です。依織と仲良くしてくれてありがとう。美冬ちゃんって呼んでいいかな?」
「こちらこそ生まれてきてくれてありがとうございますあと息子さんの頬を芸術的にしてしまい申し訳ございません。」
「どうしよう伏黒くん、微妙に話が噛み合わないんだけど…………。」
「すみません先輩。いつもはもう少しマシです。」
なんだかとっても不名誉な事を言われてる気がするが、今の美冬はそんな事を気にする余裕もない。だって前世の推しが目の前に立ってる。そりゃ彼の息子の依織は顔こそ似てるけれど、全然別人だと分かる。
「エッ、アッ……握手してもらってもいいですか?」
「ふふ、どうぞ。」
「ウワーーーー!!!」
喜び勇んで握手をしてもらってから、美冬はふと気づいて伏黒を振り返った。
「私今からこの方に教わるんですか!?!?」
「そうだが。」
「心臓持ちませんけど!!!!」
「お前そんなに先輩の事好きだったのか?」
「ミーハーなの!カッコイイ人すぐ好きになっちゃうの!ガチ恋じゃないから許して!アイドルにキャーキャー言ってるようなものです!」
一気に捲し立ててから、美冬はそっと憂太の方を見る。にこっと笑ってくれたのでとりあえず拝んだ。
「尊い……依織くんとは違った良さがある……。」
「ちゃんと先輩の話を聞け。お前の為に来てくださったんだから。」
「いてっ、」
「ふふ、僕も呪具に呪力を込めて戦うからね。呪力量も多いし、きっと役に立てると思う。」
「絶対に覚えこみます……。」
「一緒に頑張ろうね。」
「あかんこれは沼。」
これがメロいという感情……!と美冬はちょっぴり感動する。しかしすぐに我に返って背筋をただした。
「乙骨先生、よろしくお願いします!」
「憂太でいいよ。他にも乙骨はいるからね。」
「エッそんな許されるんですか!?!?あっ『僕は許そう、でも伏黒くんは許すかな!』ってやつですか!?!?」
「美冬ちゃんって面白い子だね。」
「ほどほどにしてほしいですけれどね。」
美冬、やるっきゃねぇモードである。
「聞いたよ美冬ちゃん、一人で呪霊祓ったって?」
「つまりね、『お前を絶対に消す』という強い意志が必要だった訳ね。今まで殺傷能力が低い物にしか呪力込めてなくて、全然込められないか破壊するかだったんだけど、刀にしたらすんなりだった。」
「中々に物騒だね。」
くすくすと笑う千陽に対し、依織はどこか腑に落ちない顔をしていた。
「……なんで刀にしたの?」
「え、かっこいーじゃん。」
「私とお揃いだもんね。」
「千陽ちゃん…………!そう!お揃い!」
「千陽さん刀って……ああ、シン・陰流か。」
ようやく納得顔をした依織が頷く。そんな依織に見えない角度で、パチリと千陽がウインクをした。
「千陽ちゃん大好き。」
「私もだよ。両思いだね。」
「えへへ!あっ依織くん悲しい顔しないで。もちろん依織くんも大好きだからね。」
「別に悲しい顔してないけど。」
「男の嫉妬は醜いよ、依織くん。」
「からかわないでよ、もう…………。」
……何となく、何となくだけれど、美冬は依織に特別鍛錬の事を言えていない。普通に友達の親が先生なのが気恥ずかしい気持ちもあったし、言う機会が無かったと言えばそれも当てはまる。
『美冬さん。それ、何?』
ただ初めて刀を使った時の依織の声が、どこか硬かった気がして。
「なんで私が刀使うのにそんな顔するのさ。」
「見てて危なっかしいよ……自分を顧みない振り方してるし。」
「じゃあ依織くんが教えて。」
「……いや、僕は刀使わないから。」
「おや?昔は使ってたじゃないか。」
「だとしてももっと適任がいるよ。」
「依織くんが良い。依織くんじゃなきゃやだ。」
「ほら熱烈なラブコールだよ。答えてあげなきゃ。」
半ば意地になってそう言えば、依織が溜め息を吐く。
「…………分かった。教え方下手でも文句言わないでね?」
「ありがとう!依織くんが友達で良かった!」
「お世辞とか良いから。」
「お世辞じゃないよ、本当の事だよ。」
渋々と、でも少しだけ緩んだ口元を見てようやく胸のしこりが取れた気がして、美冬もまた笑った。
「刀の構え、依織に習ってる?」
「ビョワ、」
うっかり力が抜けた手から刀が吹っ飛び、くるくると舞ったそれを憂太がぱしりと掴んだ。
「すみません!!!」
「急に何かあっても動揺しない事。術師としての基本だよ。」
「はい…………。」
「でもいきなり話しかけちゃってごめんね。」
ふわ、と微笑んだ憂太が刀を美冬に手渡す。
「依織に似てたから、懐かしいな〜って。」
「あ、はい。依織くんに教わってます。教えるの上手で。」
「ね。僕は感覚派というか……ちょっとそういうの苦手だから、真希さんに似たのかな。彼女、教えるの上手いんだよね。」
「ソウナンデスネ。」
「なんで片言…………?」
突然推しCPを浴びたからです、とは到底言えず、美冬は曖昧に笑みを浮かべた。
「……うん、ちゃんと呪具にあった分の呪力が込められてる。もう大丈夫そうかな。」
「ありがとうございます!」
「頑張ったね。偉い偉い……と、頭撫でちゃまずいかな。」
「私の頭でよろしければいつでもお撫でくださって構いません!」
「そんな硬くならなくても。」
そう言いつつ優しく頭を撫でられ、美冬は目を細める。推しに頭を撫でられるなど、とんでもないご褒美である。
「凄く頑張ったからご褒美あげなきゃね。何か欲しいものとかしてほしい事とかある?僕にできる事ならなんでも、」
「なんでもとかそんな気安く言っちゃダメですよいいですか憂太先生これから『なんでも』は奥様と依織くんにしか言っちゃいけないですからね分かりました?」
「わ、分かりました…………。」
ノンブレスで言いきった美冬は、しかしすぐにグッと唇を噛んだ。なんとも魅力的な言葉だったからだ。美冬にはちょっとやってみたい事があったが、もうめちゃくちゃ不敬である事は分かっていたので。そんな美冬の葛藤が分かったのだろう、憂太が恐る恐る美冬の顔を覗き込む。
「あの、1回だけなら……、」
「それもマジで奥様と依織くんにしか言っちゃダメなやつですからね。」
「ごめんなさい…………。」
それでもちらちらと顔を見る憂太に音を上げ、美冬は口篭りながら言葉を紡いだ。
「……凄く不敬で失礼な事なのは分かってるので言うだけなんですけれど、額の傷に触ってみたいな……なんて。」
「……え?」
「すみません腹切ります。介錯お願いします。」
「待って!!予想外だっただけだから!!別に触るくらいなら大丈夫だから!何の変哲もない傷跡だから!」
即座に刀を取った美冬に慌て、憂太が視線を合わせようとしゃがむ。そして美冬が右手に持っていた刀を手放させ、そのままその手を己の額に当てた。
「ね?」
「とんでもねぇなこの人。依織くんと別系統で行動が誑しだもん。」
「えっ、」
誑し……と若干ショックを受けている憂太を横目に、美冬はもう開き直って傷跡をなぞる。
「……ちょっとぼこぼこしてる。」
「まぁ、実際に切ってるからね。大丈夫?気持ち悪くない?」
「まさか!気持ち悪くなんてないですよ。だってこれは憂太先生の頑張った証でしょう?」
そういうと憂太は少し驚いたように目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。
「優しいね。化け物とか非人道的だとか色々言われたけれど、頑張った証って言われたのは初めてだよ。ありがとう、美冬ちゃん。」
「おうふ…………。」
美冬は心臓を押さえて後ろへ飛び退いた。メロい男の柔らかい笑みほど危険なものは無い。危うく乙骨憂太夢が始まる所である。
「私が本命に一途な女で良かったですね…………!」
「良かったね…………?」
やや首を傾げた憂太が、何かに気づいてさらに表情を明るくした。
「真希さん!」
「まっッッッッッ、」
「おー。」
「どうしたの?」
「高専に用があったんだよ。さっき依織にも会ってきた…………で?」
美冬は再び心臓を押さえる。無理もない、第2の推しが出てきてしまったのだ。真希はそんな美冬を見つめ、それから口を開く。
「コイツが憂太の弟子か?」
「ででででで弟子など!!!滅相もございません!!!身に余りすぎます!!!烏滸がましいです、」
「えっ……弟子だと思ってた……良い子な弟子ができて嬉しいなって……、」
「憂太先生の一番弟子ですよろしくお願いいたします。」
「情緒大丈夫か。」
憂太がちょっぴり悲しい顔をしたので、美冬は羞恥心とかそこら辺を全て捨て去って一番弟子を名乗った。
「あの…………あの、真希さんとお呼びしても……?」
「いいぜ。お前は美冬……だったか?」
「美冬でございます。」
「ん。」
すっと伸ばされた手が美冬の頭に乗る。それからくしゃりと頭を撫でられた。
「依織と仲良くしてくれてありがとな。」
「はひ…………。」
ニヤ、と笑った顔があんまりにもカッコよかったので、美冬はもう目がハートになっている。手も胸の前なんかで組んでしまってもう乙女状態だ。
「カッコイイ……憧れる……好き…………。」
「うん、僕もそう思うよ。」
「ほあ。」
突然の推しCPを供給されたので美冬は倒れた。
「美冬さん、髪の毛食べちゃってるよ。結んであげるから後ろ向いて。」
「息をするように私を誑すのはやめてくれない?」
「変な事言わないでもらえる?視界の端でチラついて鬱陶しいんだよね。」
「全てストレートに伝えてくれる、これぞ依織くんクオリティね。」
美冬はソムリエのような顔をして後ろを向いた。そんな美冬の髪を、骨張った手が一括りにする。
「今日は風強いからね、ありがと依織くん。」
「どういたしまして。」
「でもそろそろ休まない?朝からずっと動きっぱなしじゃん。」
「今日は任務が無いんだから朝から鍛錬しなきゃ。」
む、と美冬は眉を潜めた。
「……前から思ってたんだけど、依織くんは何がしたいの?」
「……どういう事?」
「ずっと、何かに焦ってるように見える。」
「なんだ、そんな事。」
なんて事ないように依織が答える。
「いまの呪術師は全盛期に比べて弱くなっていってる。だから僕は少しでも強くなって牽引しないといけない。」
「それ、依織くんがやらなきゃいけない事?誰かに言われたの?」
「別に言われてないけど、僕がやらなきゃ。」
「…………そう。」
……何故その時そう思ったのかは分からない。ただ、ああダメだ、と直勘的に感じた。このままだと良くない、そう思った。
ーーーだから美冬は賭けに出た。
「私ね、今憂太先生に呪力操作習ってるんだ。」
「……え?」
「それで思ったんだけど、」
「依織くんってさ、お父さんにそっくりだよね。」
ひり、と空気が焼きつき、依織が美冬を振り返る。
「美冬さんまでそんな事言うの?」
美冬は悲しそうに微笑んだ。本当はこんな事言いたくなかった。けれどこうでもしないと、彼の本音は聞けないだろうから。
「優しくて、強くて、誰かを守るために頑張ってるの。本当にそっくり。」
「聞き飽きたよ、その言葉。」
「でも似てない所もある。依織くん口悪いし、ちょっと神経質だし。」
「悪口言ってる?父さんの劣化版でごめんね。」
「すぐ、一人になろうとするところ。全然似てない。」
「…………何が言いたいの。」
「…………なんて、言えばいいかなあ。」
曖昧に口ごもって、悩んで、美冬は口を開く。
「私達まだ子供だよ。呪術界の未来なんて大人達に任せとけばいいじゃん。どうして一人で思い詰めるの。」
「父さんは僕と同じ歳の時に当主代理になってた。次世代の僕らもそう強くならなくちゃいけない。」
「それ言われるとそうだねとしか言えないけど、依織くんは憂太先生じゃないんだよ。」
「知ってるよ、それくらい。」
そうして吐き捨てられた言葉は、これまで聞いたどんな声より冷たいもので。
「それでも僕は『乙骨憂太』と『禪院真希』の子供なんだよ。僕はあの人達にならなきゃいけないんだ。それがどんなに苦しい事か分かる?」
「なんでならなきゃいけないの?そうしろって誰が言ったの?憂太先生や真希さんは言わないよね。伏黒先生だって言わない。誰に言われたの?」
「君には関係ない。」
美冬の目を見ないまま、依織は美冬に背を向ける。
「関係ない事ないでしょ。」
「一般家庭出身の君が?呪術界の事なんて、ほんの少し前まで知らなかったくせに。」
「今そういう話してない。私は依織くんの話をしてるの。」
「呪術界に入って何聞いた?両親どちらの才も受け継がなかった落ちこぼれ?中途半端な術式?うんざりだ、もう聞き飽きたよ。それでもやらなきゃいけない辛さが分かるの?」
呪いのように紡がれた言葉。
ーーーああ、これが本音だ。あまりにも多くの人からそう言われ続けて、彼を縛った言葉だ。
「というか僕、美冬さんが父さんに習ってるって知らなかったんだけど。」
「……ごめんね、言う機会がなくて。」
「あったでしょ、いつでも。結局君も僕の事を父さんに会うまでの繋ぎだと思ってるんだろ。」
「思ってないよ、そんな事。」
「もういいよ、この話は終わり。」
「終わってない。」
きっと美冬でなければダメだ。彼の両親はその縛りを解こうとしただろう。彼の師だってそうだ。けれど彼らは依織の『内側』の人間だ。近すぎて声が届かないのだ。けれど『外側』にいる美冬の声ならば、届くと可能性はあると信じていたい。
「聞いて依織くん。私、」
「もう僕に構わないで。」
「聞いてほしい話があるの。」
「僕にはない。」
「待ってってば。」
「父さんの所にでも行ってれば?君の大好きな『先生』にでも泣きつけばいいじゃん。」
「なんでそんな話になるの。」
「違った?乙骨家の落ちこぼれにはうんざりだって……、」
話が堂々巡りとなり、とうとう美冬はーーーキレた。
「今そういう話してないって言ってんだろどアホ!!!!!」
急に声を荒らげた美冬を見て流石に止まった依織をバシバシ叩く。そんな事を言う顔も知らない奴に怒っているのか、それを自虐する依織に怒っているのか、そんな依織に声を荒らげてしまった自分に怒っているのか、もうよく分からなくなってしまった。
「なんでそんな事言うの!?なんで私の大好きな依織くんを貶めるような言い方するの!?誰だよそんな事言った奴!!!」
「は…………、」
「私の大好きな依織くんの事そんな風に言わないで!!」
ーーー少なくとも、美冬は。
『大丈夫?』
一般家庭出身で、呪術の世界を知らなくて、
『は、はい…………。』
乙骨憂太も禪院真希も知らなかった美冬は、
『良かった。』
ただの乙骨依織という人間に恋をしていたのに。
「なんで分かんないかなあ!私ずっと、依織くんが良いって、依織くんじゃなきゃやだって、ずっとそう、そう言って、」
「み、美冬さん、」
「確かに憂太先生の事は好きだよ!!でもそれは推しっていうか真希さんとセットというか憂太先生の真顔と笑顔のギャップかわいいとか真希さんの口元だけあげる笑い方メロすぎて滅とか夫婦並んでると絵になるなとか乙骨真希ってめっちゃ良い響きじゃんとかそういうやつじゃん!!」
「……いや、それはそれでちょっと複雑なんだけど。」
勢いに任せてとんでもない事を口走った気はしたが、それでも気持ちは収まらず美冬は依織を睨んだ。突然おろおろしだした依織がそっと美冬の頬に触れた事で、ようやく目から涙が零れている事に気づく。
「……分かんないよ、私には。依織くんが周りの人にどれだけの事を言われてどれだけ傷ついたか、分かるなんて言えない。でも知ってる事はあるよ。」
「知ってる、事って?」
「依織くんが凄く頑張ってる事。消えない目の下の隈だって、剣だこだらけの手だって知ってる。短い間しか一緒にいないのに、よく知っている。」
「…………。」
「初めて会った時、助けてくれた時、引っ張ってくれた手がぶっきらぼうだったけど優しかったのも知ってる。そんな依織くんだから好きになったの。呪術界に入ればもう一度会えるかもしれないって、そんな不純な動機まで抱えてて、また会えて嬉しかった。」
「……聞いた事ない、そんな理由…………、」
「私を無視しないで。依織くんにとってはただの同級生になるけど、依織くんにあんな事言わせる奴らより依織くんの事大事に思ってる自信あるよ。」
そうだ、それだけは自信を持って言えるものだ。それをずっと伝えてきたつもりだった。ただ依織と一緒にいたくて、彼の笑っている顔を見ていたかった。こんな、こんな、苦しそうな顔などさせたくなかった。
「なんで一人で悩むの。なんで一人で頑張ろうとするの。それもそんな、依織くんの事をちゃんと見ない奴らの為に。」
「…………、」
「そんな奴らの為によりよい呪術の世界を作る?バッカじゃないの、そんな事したって意味ないじゃん!!」
「っ、美冬さんに何が分かるって、」
「分かんないよ!依織くんを依織くんとして見ない人の為に頑張って何が良いの!?なんでそんな人達を大切にするの!?そんな人達より私を大切にしてよ!依織くんを依織くんとして見て、大事に思ってる私が笑ってる世界でも作ってろバーカ!!!!!!」
「バッ……!?」
「自分が自分がって思い詰めて閉じこもって一人になろうとすんな!!!絶対一人にしてやんないから!!!」
何も答えない依織にも腹が立って、美冬は叫んだ。だが呆気に取られたような顔をした依織を見て少し冷静になる。
「…………ごめん、ウザかったよね。ちょっと頭冷やしてくる。」
「っ、待って、」
「ついてこないで。もっと酷い事依織くんに言っちゃいそう。」
涙でぐずぐずの顔のまま教室を出ようとして……前を見ていなかった美冬はそこにいた人物に鼻からぶつかった。
「っ、すみませ…………え、」
「………………えと、こんにちは?」
「………………よお。」
ーーーまぁテンプレと言っちゃテンプレだが、そこには乙骨憂太と乙骨真希が立っていたのである。
「キャーーーーーーーーッ!?!?!?!?!?」
美冬は実に乙女らしい高い声で悲鳴を上げた。そのままバックステップで咄嗟に距離を取り、今まで喧嘩(?)をしていた依織をなんの躊躇いもなく盾にする。
「ちょ、美冬さん、」
「ねぇ待って無理無理無理いつから?いつからいた?ねぇ依織くん私何言ってた?何言ってた私?」
「わ、割といろいろ……、」
「どこから聞いてたかによって私の命運が変わるんだけど。」
「あの……あの、依織が僕に似てるねって所から…………、」
す、と美冬が静かな笑みを浮かべた。
「全部聞かれとるやないかい…………。」
「あ、えっと、うん!あの、僕もそう思うよ!ね!乙骨真希っていい響きだよね!うん!」
「お前ちょっと黙ってろ。」
真希が素早く憂太に裏拳を入れた後、居心地悪そうに美冬の方を向く。
「アー……悪かったな、色々聞いちまって。相手の親に聞かれながらの告白とか、気まずいよな。」
「いえ別にそれはいいんです……いずれ伝えるつもりではあったので……別に恥ずかしい事ではないので……むしろ私が依織くんの事大好きだよって証人が増えて良かったので……。」
「は……恥ずかしい事言わないでよ。」
ぽかんとしていた依織の顔が、ようやくぶわりと赤くなった。それを横目に真希が首を傾げる。
「じゃあなんでお前そんな項垂れてんだ?」
「……どちらかというとその、憂太先生と真希さんの事を変な熱量で推してる事がバレて恥ずかしいっていうか、推しCPとして見ていた事が申し訳ないというかあの、すみません私実は変な人で…………、」
「悪ぃ、割と最初から変な奴だとは思ってた。」
「ご、ごめん、ちょっと前から不思議な子だなとは思ってて。」
「神は死んだ。」
美冬は依織の肩に顔を埋めた。
「むり……耐えられない……ヘイJuri、伏黒先生の影に潜らせてもらう方法を教えて……、」
『すみません、分かりません。』
「分かりませんじゃねぇよ分かるんだよテメェを分からせてやろうかア???????」
「美冬さん、スマホにキレないで。」
美冬が依織に縋りながら崩れ落ちたせいで依織も膝をつく。美冬を気にしながらも少し気まずげに両親を見上げ、そんな息子を見ていた真希がやがて踵を返した。
「行くぞ、憂太。」
「え、どこに?」
「決まってンだろ。心当たりを全員ブッ殺しにいくんだよ。」
「なるほど!さすが真希さん!僕も行く!」
「待って。」
「妻全肯定憂太先生ありがとうございます……。」
「美冬さんも待って。」
力無く縋り付く美冬を振りほどく事は簡単だったが、そうする気にはなれなくて依織もまた教室の床に座った。それでも最善を尽くそうととりあえず伏黒に『両親を止めてください』と送ったが、即座に『無理』と返ってきたので諦めた。
「美冬さん、あの…………、」
「依織くんごめんね、こんな変な奴が同級生で……、」
「…………ううん。」
依織の肩に顔を埋めているせいで美冬の顔は見えない。未だに熱の残る頬をあおいで、依織はそっと口を開いた。
「……さっき言ってたの、全部本当?」
「本当だよ……嘘吐いてどうすんの……だからこんなにダメージ受けてんのよ……というか半分くらい依織くんのせいじゃん……責任取ってよ……。」
「僕のせいなの?。」
「ごめん八つ当たり……でもほんとにあの二人には本当に聞かれたくなかった……羞恥心エグい……ごめんね先に宣言しとくけど今マジで死にそうだから話しかけられても何も聞いてないから…………、」
もごもごとそう言う美冬に、依織はなるべく位置を変えないようにして美冬の正面に向き直る。
「……なにか気を紛らわせるために違う話でもする?」
「うん、そうだね…………。」
「学校には慣れた?」
「うん、そうだね…………。」
「美冬さん、呪力込めるの上手くなったよね。」
「うん、そうだね…………。」
「次の任務一緒だっけ?頼りにしてるから。」
「うん、そうだね…………。」
「危なくなったら助けてあげる。」
「うん、そうだね…………。」
「凄いな、本当に話聞いてないや。」
「うん、そうだね…………。」
感心したように依織は頷いた。それからそっと顔を近づけ、美冬の耳元に口を寄せる。
「ねぇ、本当に僕の事一人にしない?」
「うん、そうだね…………。」
「僕の事だけ見てくれる?」
「うん、そうだね…………。」
「ありがとう。責任、ちゃんと取ってあげるからね。」
「うん、そうだね…………。」
その言葉を聞いた瞬間、依織は至極嬉しそうに微笑んだ。己に縋る美冬に手を伸ばし、その左手を掴む。
「う、わっ!?あれ!?依織くん!?ごめん依織くん、私ぼんやりしてて、あれ、なんの話してたっけ……?」
「約束だよ、美冬さん。」
「約束!?!?ちょ、ほんとにごめん、自分の情けなさに落ち込んでて聞こえてなかったかも……じゃない、なに、なんの約束…………?」
依織は、ただただ美しい笑みを浮かべて言った。
「約束だよ?」
雲ひとつない空、爽やかに巡る風、重たく沈む呪い。
「今回の任務はとある病院になりまして……、」
美冬は補助監督から説明を受けていた。目の前の補助監督は微妙に美冬から目を逸らしつつ淡々と話す。
「……以上です。何かご質問はありますか?」
「大丈夫です、ありがとうございます。」
「更に詳しい内容はそちらの依頼書に載っておりますので……それではご武運を。」
丁寧に説明を終えた補助監督は、やっぱり美冬から微妙に目を逸らしつつ足早に立ち去った。美冬はちょっと現実逃避しようとして……諦めて口を開く。
「あの……さ。依織くん、近くない?」
美冬は最初一人で任務の依頼書を見ていたはずだ。それは依織と一緒の任務であって、元々教室にいた美冬が先に説明を受けていたのである。それから少し遅れて別の用事で呼び出されていた依織が戻り、一緒に説明を受けていたのだが、いかんせん距離が近い。どれくらい近いかと言うと、美冬のすぐ後ろに立って、美冬の背後から持っている紙を覗き込んでいるくらい近い。なんなら依織の顎が美冬の肩に触れそうなくらいに近い。しかし依織はゆるりと首を傾げた。
「そうかな?」
「そうだと思うけど…………。」
「僕と美冬さんだと身長差があるから依頼書を見るのに近くなっちゃうのかも。ごめんね。」
「あーうん、別にいいんだけど。もう一枚依頼書貰ってこようか?」
「いいよいいよ。補助監督さんも忙しそうだし、美冬さんに手間かけたくないし。というか依頼書も持たせてごめんね。僕が持つよ。」
そう言うや否や、依織は後ろから手を回して依頼書を摘んだ。その位置は美冬が依頼書を持っている手のすぐ上。何となく手を離しづらくなり、美冬は少し遠い目をした。あー今日もいい天気だなーてかあそこにいるのはもしや乙骨夫妻。高専に何か用があったのかな2人並んでると眼福やでホンマ。謎の関西人が出ても仕方ない状況である。
「美冬さん。」
「アッハイ。」
「集中。ね?」
すぐ横から視線を感じるのは地味に怖いんだよ依織くん。もう一度遠くに目をやればこちらを見ている乙骨夫妻と目があった。憂太先生にこにこ顔で手を振ってるな、その笑顔プライスレス。真希さんは……なんかゴメンみたいな顔をしているどういう顔ですかそれ。そこまで考えて美冬は溜め息を吐いた。
とりあえず無言の笑顔で左薬指を撫でるのはやめて欲しい。
人物紹介
乙骨美冬(成り代わり)
5人目が産まれた辺りで『コイツ全然失踪しねぇな???』ってなった
乙骨依織
よりよい呪術世界<<<<<<<<<<<<<<<妻が笑ってる世界
宮國千陽
ふっ、おもしれー同級生達(年齢不詳)
伏黒恵
教え子が問題児ばかりで頭抱え
乙骨憂太
可愛がってた弟子が義娘になって嬉しい(純粋な喜び)
乙骨真希
うちの家系の愛が重くてごめんとは思ってる
乙骨家の子供たち
長男は母似
長女は父似
次女は突然変異
次男は祖母似
三女は祖父似
5/22追記:おまけの突然変異ちゃんと家族の話
作者が楽しいだけなので読まなくても大丈夫です
『乙骨家の突然変異』
それは、私を指す言葉である。誰に似たのか白銀の髪を持ち、家族の誰も持っていない空色の瞳を持っていた。父や祖父は深い青の瞳をしているけれど、それとは違う輝く色。家族の中にいれば嫌でも目につく異質な存在だった。
けれど両親が私を愛してくれたから、私は私を嫌いにはならなかった。祖父母もそうだった。顔はお父さん似てるねとか、雰囲気は母親似だなとか頭を撫でてくれたから、私は私を好きでいられた。
そんな祖父は、よく『五条先生』の話をよく私にしてくれた。私と同じ白銀の髪に空色の瞳を持つ人。私達の遠縁で、祖父の恩師。かつて呪術界最強の名を欲しいままにしていた人。
これも何かのご縁だねと祖父は笑って、色々な話をしてくれた。任務の話だったり、初めて出会った時の話だったりと色々話してくれて、私はそれを聞くのが大好きだった。その場には母もいてにこにこわくわくしながら一緒に話を聞いて、そんな時間が大好きだった。
いつしかそれは家族が集まる時間になっていた。きらきらした目で話を聞く兄。何かの参考になるかと真面目に聞く姉。いかに五条先生が強く優しく素晴らしいかを嬉しそうに喋る祖父。に、まとわりついてぶら下がる妹。祖父の隣で『コイツの喋ってる事全部ウソ』みたいな顔をする祖母。の、膝の上をドヤ顔で陣取る弟。そんな家族を楽しそうに笑って眺める母。を、至極幸せそうな顔で見つめる父。
ーーーああ、冷静になって考えれば、大分カオスな空間だったのかも、と現実逃避しようとしてできず…………巡は視線を戻した。
「お母さんは絶対許さないからね!そりゃあ巡が自分から望んで選んだ事なら応援するけど、巡を利用しようとして五条家に養子入りさせて、挙句何処の馬の骨とも分からない方との結婚なんて絶対に!何があっても!許しません!」
「うんうん、全部美冬さんの言う通りだね。どうする?五条家の一部の方々には滅んでいただく?」
「コラ依織!そんな事言っちゃいけません!そりゃ僕だって五条先生の親戚じゃなければ滅ぼしても良かったかなって思ってる一部の方々はいるけど。」
「分かってるよ。父さんじゃあるまいし、さすがにそこまでしないって。」
「もう、ほんと、ほんと…………何笑えない事抜かしてんだって感じ!!!!!!あっやべ、」
「父さんあの一部の方々母さんの事醜女って呼んでた。」
「行こうか依織。」
「止まれ憂太。美冬、お前も依織を止めろ。」
「依織くんステイ。」
拝啓、顔も知らぬ五条先生とやらへ。この心配性な家族を安心させる為に私は一刻も早く最強とならなければいけません。種類は違えど、あなたもこんな焦りを抱えていたのでしょうかーーーなんて再び現実逃避をした巡の耳に、大爆笑する男の声が聞こえたような気がした。























