「「「…………」」」
かぐやと彩葉と三人で目の前の珍妙な存在を無言で見つめる。
具体的には……ドラゴン?っぽい着ぐるみ?寝間着?を纏い、ニッコニコでこちらを見つめるヤチヨを。
「えっと……ヤチヨ……どうしたのそれ?」
埒が明かないと思ったのか、遂に彩葉が切り込んだ。
すると、ヤチヨはゆっくりと首を動かし彩葉の方へ顔を向け。
「芦花の好きなとこ発表ドラゴ〜ン!!!!」
そう高らかに宣言した。
……理解が追いつけないでいるうちに、ドラゴン……ヤチヨがすぐそばまで迫っていた。
「まずね〜料理してる最中に〜」
『うん……彩葉最近疲れ気味だしもうちょっと味濃くしとこうかな』(芦花の声真似)
「って彩葉のこと考えながら細かく調整してるとこ〜」
「因みにこういう時はヤッチョとかぐやにもちゃ〜んと相談してくれるんだよ〜どっちかと言うと繊細なお味が好きなかぐやも安心♪」
呆気にとられているうちに発表とやらが終わる、いや待て、まずはということは二個目以降が存在するということで。
大慌てでヤチヨを静止しようとするも、ソファの背中側に居たかぐやに掴まれ阻止される。
「ちょ!?かぐや!?」
「アー、ヤチヨ二身体ノ制御ガ奪ワレター」
「そんな機能ないでしょ!?」
あまりにわざとらしい棒読みで言い訳を始めたかぐやを尻目に、ドラゴンが次の行動を始める。
一縷の望みをかけ彩葉の方を見るけど、楽しそうに笑っているだけで。
「次はね〜、家に架かってきた電話とか、宅配便の対応で、『はい、酒寄です』って名乗ったあとちょっとニコニコしてるとこ〜」
「この前宅配便のサインに酒寄って書いて対応した時はもうすっごいニッコニコだったよ〜♪」
「かぐや〜!?ヤチヨー!?」
「彩葉も楽しそうだし止められないよごめん芦花」
二人への抗議は虚しくスルーされる。
「でねでね、次はね〜!洗濯物取り込んでアイロン掛ける前に、周りに誰もいないの確認してから、彩葉の白衣を愛しそうにぎゅってしてたとこ〜!」
「なんでバレて……!」
「あー……芦花、この家って芦花の部屋以外は身体なかった時に使ってたウェブカメラだらけだから……ヤチヨから隠れるのほぼ無理だよ」
そう言えばそうだったと、己の浅はかさを呪いながら真っ赤になる、これいつまで続くんだ!?
「それとね〜、時間が空いたときに〜スマホで私たちと撮った写真を見返して笑ってるとこ〜!」
「芦花、スマホの容量が写真で圧迫されるの気にしてたから、ツクヨミクラウドに無料で1TBの領域確保しといたよ★」
もはやかぐやへの抵抗を諦める、なんだこの羞恥プレイ。
「あとはね〜、彩葉が残業で遅くなったとき、文句言いながらも彩葉が帰ってくるまで一階で待ってあげてるとこ〜」
「この時に芦花の側にいくと、手持ち無沙汰な時は頭撫でてくれるのも好きだよ〜」
「えっとね〜彩葉が帰ってくると嬉しそうに玄関まで迎えに行くとこ〜」
「あれヤッチョやかぐやより先に気付くけどどうやってるの?人間よりセンサー類優れてるんだけどヤッチョたち」
「あとはね〜、新作の化粧品とかチェックしてる時に『彩葉はこっちの色が好きかな』って言ってるとことか〜、自分の分そっちのけで『これ彩葉似合いそう、こっちはかぐやかな?』って私たちのこと考えてくれること〜♪」
「他にはこれとか〜あれとか〜それとか〜」
ヤチヨの発表は全然止まらない、小っ恥ずかしくて熱くなってきた。
「これとかそれとか、ヤッチョとかぐやのこと、受け入れてくれたこととか」
「あとあと他にはね〜!もう芦花すっごいんだよ〜!」
並べ立てられた言葉の中に紛れこませたヤチヨの伝えたかったこと。
この不思議な生活を、宇宙人と電子の歌姫を受け入れてくれたことへの感謝を、照れ隠しに色んな好きに混ぜて。
まあ思った以上に紛れ込まずはっきり伝わってしまっているんだけど。
本人もそれに気付いたのか、ドラゴンのフード部分と自らの銀髪で見えにくいが、耳が真っ赤になっているのが見える。
やがてまくし立ててた言葉は尻すぼみになって止まってしまい。
「……えっと、そんな感じだったり?」
幕引きまでは考えていなかったらしいヤチヨがどうにか誤魔化そうとしている。
そんな相方に呆れたのか、かぐやは私を掴むのをやめてくれて、それに甘え身を乗り出しヤチヨの頭に触れる。
「ありがと、私もヤチヨのこと好きだよ」
一瞬驚いたような表情をしたヤチヨはすぐにえへへと笑い始めて。
「私もね、ヤチヨの好きなとこいっぱいあるよ」
そんなヤチヨの袖を掴む。
え?とこちらを見上げるヤチヨの横に、私の意図を察したらしい彩葉が座る。
「「ヤッチョの好きなとこ発表ドラゴンでーす」」
今更ヤベッみたいな反応を見せるがもう遅い、嬉しかったが、恥ずかしいのは恥ずかしいので同じ目に遭ってもらおうと、彩葉と二人でヤチヨの好きなとこを言いまくる。
ヤチヨアホだな〜みたいな顔をしてるかぐやさん、次はあなたですよ?
あと安全圏に居ると思ってる彩葉もだよ?
結局、それからはお互いの好きな所を四人で言い合うなんてわけのわからない展開になって。
それが可笑しくって笑っちゃって、笑い疲れた四人で床に寝転んで。
「あー疲れた〜……ヤチヨの思いつきでえらい目にあったんですけど」
「最初にやられた私が一番恥ずかしかったんですけど〜?」
「えへへ……思い立ったら行動しちゃうタチでして……」
「私とかぐや完全に貰い事故なんですけど〜」
「なんかヤッチョだけワルモノになってる!?芦花にノった彩葉もわるわらべでしょ〜!?」
なんてくだらないやり取りをしながら、謎のドラゴン事件は終りを迎えるのであった。
「ところでヤチヨ、このドラゴン?って元ネタってあったりするの?」
「ミッ(断末魔)」
「あ、ヤチヨがショックで……」
「あ〜芦花がインターネットVRおばあちゃんいじめた〜」
「これ私が悪いの……?」
「「うん」」
「えぇ……」
おまけ
オレンジ色に染まる部屋、アイロン待ちの洗濯物の山の横に座る私の手には、彩葉の白衣があった。
「……」
他にもやるべきことはあるし、さっさとアイロンを掛けてしまうべきなのだが、とある邪念が頭から離れず動けない。
思い出すのは、時たま見かける、この白衣を嬉しそうに抱いているかぐやとヤチヨの姿。
この間は二人で彩葉の代わりにこれを抱いて寝ていたっけ。
……別に私は匂いフェチとかそういうわけではない。
それにこれは洗濯済みであって匂いも洗剤と柔軟剤のものになっているはずで。
はずなのだが、さっさとアイロンを掛けることができず悶々としている。
脳裏を過る二人の幸せそうな表情がそうさせてくれないのだ、そんなに良いものだろうか?
「……シワになっちゃうかな」
アイロンを掛けるのだから多分問題ない。
……好奇心には逆らえない。
周りを見渡し、誰もいないことを確認する。
えいっと彩葉の白衣を抱き締める。
案の定、匂いは洗剤と柔軟剤に置き換えられている、いるのだが、抱き締めると微かに彩葉の匂いを感じる。
思わずもう少し力を入れてしまう、少し強くなった彩葉の香りと、在宅勤務の際にずっと着ているせいで、彩葉のトレードマークとなっている白衣を抱き締めているという実感が謎の高揚感を呼んで。
五分ほど堪能してパッと離す、少し赤くなっているであろう顔を誤魔化すかのように、いそいそと白衣からアイロンを掛けていく。
かぐやとヤチヨの洗濯物を片付け、最後に彩葉のクローゼットに白衣と、他の彩葉の洗濯物を仕舞う。
そこまでして、急に恥ずかしさが追い上げてきて両手で顔を隠しながらうずくまる。
「はしたない……」
もう二度とこんなことしないし、墓場まで持っていく秘密にしようと誓う。
のろのろと立ち上がり、自分の部屋へ逃げ帰る。
誰にも見られてなくて本当に良かったと思いながら。
……まあ結局カメラ経由でヤチヨに見られてたし、一週間後にはまたやってしまうので誓いなんて意味がなかったんだけど。























あまりにも微笑ましいw