Novel29 days ago · 3.5k chars · 1 pages

霧雨

タチバナ ユズルタチバナ ユズル

友達に勧められてドラマのS3の途中まで履修中の新参者です。グローグーぐうかわ〜〜〜映画までには観終えたい! 告知のPedroさんの愛情いっぱいなグローグーへの絡み方に頭パァンして生まれた代物です。現実の父ちゃんにもチューして欲しいグローグー。それと、ハマりたて期に探り探り書いたSS2本もおまけに。

どこかの星に降り立って、賑やかな街へ近づくその短い道中に、霧雨に降られた。
 降られた、というほどのこともない、当たりのごく優しい雨である。
 実際、雨天に遭うと決まって自らのマントの中にグローグーを庇おうとするディンも、この暖かい雨の前には鷹揚だった。
 グローグーは、甘やかな花の匂いの混じる湿っぽい空気に包まれて、きょろきょろしながら歩いた。グローグーの歩調に合わせる、ゆっくりとしたディンの足音を聞きながら。

 その夜、グローグーは夢を見た。
 やけに明るい部屋の広い円卓について、グローグーは父と隣り合って座っていた。
 父、きっと父だ。背格好が、佇まいが、――グローグーがたった一度きり見た顔貌が、父と同じであったから。
 だが、父にしてはやけに華やかで、開けっ広げなその男の雰囲気に、グローグーは目を離せないまま首を傾げた。幼な子の仕草をおかしげに、微笑ましげに眺めて、その後ろ頭をくすぐる男の手の、温かく慕わしげなこと。ぴっぴぴっ、とグローグーの大きな耳が震える。
「グローグー」
 水を含んだ海綿の如く、触れただけで滴りそうなほどの愛情をその声から感じた。めいっぱい愛されることから永く離されていたグローグーをいっぺんに潤した慈しみ。ああ、この人は父だ、とグローグーは思った。少し違う姿形、けれど確かに同じ魂を宿して。
 グローグーは、自分がディンに愛されていることをとうに知っている。それでも、父によく似たその人の唇が頭のてっぺんにそっと触れた時、もっともっと途方もない愛情を思い知った気がした。触れた箇所はごく小さいのに、グローグーの全身を取り巻くように湿っぽく温かな膜に包まれる感覚。ああ、あの好ましい霧雨――
 そこで目が覚めた。

「なに、なんだ」
 ディンは怪訝な声を出さずにいられない。グローグーが、今朝っからディンのヘルメット(つまり顔)周辺にまとわりついて、やたらとつついてくるのだ。ディンがうるさがって地面に降ろしても、フォースまで使って果敢にまた元の位置へ飛んでくる。
 ふざけているのか戯れているのか、あるいは一番あり得るのは食べ物を要求している可能性――十分に食わせているはずだが、とディンは首を傾げっぱなしである。
 スターファイターに乗り込み星間移動の段となっても、運転席までやってきたグローグーがディンの腕に乗り上がって小さな手でヘルメットの縁に触れようとする。グローグー、とディンは厳しい声で呼ぶ。「それ」にいたずらに触れるのはマンダロアの教義を弄ぶにも等しく、遊び半分では済まされないことだと。
 へにょん、とグローグーの大きな耳と共にその意気があからさまに下がったのが眼前のディンにもわかって、ますます混乱させられる。そう表情が変わらないように見えても、彼のことならばディンにはわかる。何と言っても他ならぬ我が子だ。
「グローグー」
 心がけて優しい声を出して、どうした、と問うても。
 グローグーは拗ねたように「とぼとぼ」という擬音の相応しい様子で自らのミニマムな搭乗席へ退いていく。夢の中で受けたような温かい口づけがまた欲しくて――とは、幼すぎてまだ言葉を持たないグローグーには伝えようがなく、当然ディンにも読みとりようがないのだった。

 専用のミニ搭乗席で、グローグーはしばし一人遊びに興じた。レイザー・クレストの操縦席のレバーの先端にあった、お気に入りの小さなボールを手で転がして。
 そうして、胸を締めつけるほど幸せな夢を反芻する。まぶすような霧雨に身を投じたように、淡く優しい世界。
 恋しいのとも、切ないのとも違う、ただ不可思議に懐かしく愛おしい、父によく似た人。
 ふいに。グローグーは薄暗く蒼い宇宙空間を一瞥すると、おもむろに細く狭い通路へ潜り込んだ。やがて、にゅいっ、と顔を出したのは運転席のディンの腕の中。
 小さな身体をねじ込まれた腕は、緩やかな動きでグローグーを招き入れ、確かに組み直された。低いディンの寝息が聞こえてきて、アーマー越しの腕に三本指の手を添えてグローグーはぱちぱち目を瞬かせて。
 眠りに落ちていようと不審な気配には即座に銃を向けるこの屈強な戦士も、グローグーなら懐深くまで迎え入れる。
 グローグーは優しい抱擁に身を委ねると、居心地のいい態勢を探してうずうず身じろぎした後、目を薄め、ほどなく閉じた。

 おもむろに。
 地面に立つグローグーが、その小さな両手をディンに向かって差し伸ばす。
 抱っこしろ、というわけである。
「……」
 ほんの一拍、ディンは小さな我が子を見つめた。
(飛んで来れるじゃないか)
 彼の稀有なる力・フォースをもってすれば、グローグーは自らの意思でディンの腕の中へぴょんとやって来れるのに。
 実際ディンは、グローグーに突如ヘルメットの正面へ勢いよく飛んで来られて視界を遮られたことも一度や二度ではない。
 飛びついてきたその小さな身体をはっしと掴んで、どうした、と身を屈めて聞いてやる時のグローグーの父を見つめる一途な眼差し。
 そのように彼はいつでも、ディンの関心を引こうとするときは割と手段を選ばない。今は亡きレイザー・クレストの操縦席でも、ボタンを押し放題だった。
 そのグローグーが、ディンに向かって両手を伸ばしている。
 抱っこ待ちのその態勢、出会ったばかりの頃はしょっちゅう見た懐かしく愛らしい仕草である。ディンは身体を下げ、グローグーを抱え上げた。
 目の高さを合わせ、どうした、と問うてやる。
 小さな腕を盛んに振って伸ばすので、更に近づけるとディンの胸元にしがみついてきた。
 ふうふう、かふかふ、と忙しくしていたグローグーの息継ぎがふいの深呼吸に宥められる。目を閉じたグローグーのそのゆっくりと上下する背中を、ディンは無意識に撫でていた。
 構われたがりが親の愛情を試し、報われて満ち足りる様をじっと見下ろす。指で優しく掻いてやると、ぴぴぴっと振れる大きな耳。ぐぐぅ、と幼い声が愉快げに震えた。

 スターファイターの運転席と、グローグー専用の小さな搭乗席とは、通路で繋がって行き来できるようになっている。もちろんグローグーにしか通れない、細く狭い空間。
 スターファイターの傍らから運転席をヘルメット越しに見やって、ディンはやれやれと肩をすくめていた。もう30分ばかりグローグーが通路に籠城している。拗ねて引きこもって、ディンを困らせている。
 わがままが過ぎると赤子に腹を立てるのも詮ないことだが、ディンとて忍耐に限りのある人の子だ。些細なきっかけでいつにも増して強情っぱりを発揮してままならないグローグーに、ダンク・ファリック、とうめいた次の瞬間には「勝手にしろ!」と怒鳴りつけていた。
 その迫力ある怒声にグローグーは小さな全身を見るからに竦ませて――その瞬間にディンに後悔を突きつけて――、ディンには届かない細く狭い通路にぴゃっと引きこもってしまった。
 以来、30分の沈黙である。苦い後悔やら、それでも収まりきらないふつふつやらもあったのだが、それらはとうに鎮まり切って気まずさばかりディンの胸に立ち込めている。
 ディンには見えぬ通路内で、グローグーはいたく静かだった。もしや寝落ちているのではと幼な子にありがちな呑気な展開を期待してもみたが、狭い空間でじっと息を詰めているのが伝わってくる。グローグーが梃子でも動かない頑固者に変貌するのは、誰よりディンが知るところだ。
 いっときは、通路内に腕を突っ込んでその小さな体を引っ張り出してやろうかというところまで昂った心も、今はとてもいたわしくてできない。さりとて、その狭さの中でじっと身を縮めている見えない姿を想像し続けるのもやるせない。
 程なく、観念した。ディンは息をつく。
「なあ」
 心がけて穏やかな声で呼びかけた。
「いつまでもそうしていることはないだろう。出てこいよ」
 言い終わってから、我ながらだいぶ居丈高な物言いだとディンは気付かされる。グローグーもお気に召さなかったようで、通路の奥ではぴくりとも動く気配がない。
「グローグー」
 なだめて、懇願を帯びた響き。
「俺が悪かった。頼む、顔を見せてくれ」
 数秒の沈黙の後、ほんの微かな衣擦れの音。やがてひょこっと見えた大きな耳とつぶらな瞳に、ディンは無意識に肩を緩めた。小さな身体を両手でそっと掬い上げる。くうん、と鼻を鳴らしたような赤子の喃語が、たった30分で無性に懐かしかった。この子がいなければもはや、その短い時間さえディンにはつまらないのだ。

— End —

Comments 4

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chari6 天前
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🐼っKO🐼11 天前
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神咲晶15 天前
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M
myyy28 天前
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Sakuria
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