Novel1 months ago · 1.3w chars · 1 pages

萩原家の末っ子と周辺の話 1

せろせろ

オリキャラ・千速・その他周辺キャラの絡みが欲しくて作りました。 恋愛要素は重千がたまに。恋愛小説にするつもりはないので、メインはキャラの絡みと背景ストーリーです。 書きたいものだけ書いてます、設定はぐちゃぐちゃなので耐えられる方はどうぞ。 2026/05/15追記 ルーキーランキング82位ありがとうございます 2026/05/16追記 ルーキーランキング48位ありがとうございます

存在するはずのない妹がいます
自分用の延長。設定ガバガバ・キャラ崩壊・捏造など注意してください
書きたいものを書きたいままに書いてます。しっかり練られた小説が読みたい方は他の素晴らしい小説へ。それでもいい方はどうぞ

 よく晴れたある日。風の流れも穏やかで、まさにお出かけ日和だと言わんばかりに雲ひとつない空。俺と蘭は、神奈川のとあるビルで開催されるサッカーのポップアップストアに向かうべく駅に降りていた。横浜のストア限定で選手のサインが置かれていると言われたら、ファンとしてそれを見に行くしかなかった。
 蘭に頼んだら快く承諾してくれてよかった。今度新一として電話してやらなきゃなと、目の前の蘭を見て考える。

「あっコナンくん、あのビルじゃない?」
「うん!…あれ?なんか行列できてるね」
「ほんとだ…」

 エレベーターの前…というより、線が引かれてずらりと行列が並んでいる。飾ってあるポスターやスタッフの格好を見たところ、おそらく狙いのイベントの行列なんだろうが。
 近寄って見ると札を持ったスタッフが声をかけてきた。どうやら来場者が多く人数制限をしているらしい。名前を書いて待っているように頼まれ、とりあえず一覧に名前を連ねた。

「お兄さん、これってどれくらいかかるかなぁ?」
「あー…結構人が多くてね、1時間半とか2時間とかかかっちゃうかもなぁ。ごめんねボク?」
「んーん、大丈夫!ありがとねー!」

 子供らしく笑って手を振り、蘭姉ちゃんのところに走っていく。聞いたことをそのまま伝えれば、残念そうに眉を下げた。

「そっかぁ…コナンくんどうしよっか?先にお昼食べに行っちゃう?」
「そだね!ついでに観光してもいいし…僕お腹すいちゃった!」

 じゃあ、と言って近くの飲食店を調べだす。しかしさすがは横浜、店の数なんて山ほどあるものだ。逆に迷ってしまったため、歩きながら気になった店に入ろうという結論になった。
 カフェ、ラーメン屋、ファミレスに居酒屋。俺はなんでもいいため、蘭の食べたいものがある店について行った。

「…あっコナンくん、イタリアンとかどう?パスタ食べたい気分かも!」
「うん、僕も食べたいな!」
「じゃあそこのお店にしよっか」

 ガラス製のドアに手を伸ばした瞬間、中から何かが割れる音と怒声、悲鳴が聞こえる。驚いたのも束の間、誰かが蘭の開けようとしたドアを押し破って飛び出してきた。急なことに弾き飛ばされるように尻餅をついた蘭にあわてて駆け寄る。

「蘭姉ちゃん大丈夫!?」
「う、うん…それより何かあったのかな」
「誰かー!食い逃げです!捕まえて!」
「!あいつ…!」
「あっちょっと待ってコナンくん!」

 店員が叫んだ声を聞いて、俺は急いで逃げた男を追う。スケボーに乗ろうかと考えたが、何せ人が多く走れそうになかった。
 後ろから蘭が追いついてきた頃にはずいぶん遠くに逃げていた。流石に追いつかないかと歯を食いしばる。角を曲がって姿が消えた後を追い、ひらけた場所に出る。どこに行った、黒いフードをかぶっていたはずだ。辺りを見回しながら進んでいくと、ある場所で3人の男が座り込んでいた。

「コナンくん、あれ…!」
「えっ…?」

 そこにいたのは、黒っぽいフードのついた服を着ている3人。ぶつかったのか何やら揉めている様子で騒いでいた。
急いで駆けつけて声をかける。

「ね、ねえ!お兄さんたちでこっちから走ってきたのは誰!?」
「はぁ?なんだこのガキ」
「あなたですよね、急にぶつかってきて!」
「ちげーよ!そっちが急にぶつかってきたんだろ!?てかこいつだって走ってきやがったんだよ!」

 おいおいまさか、と3人を見やる。同時にぶつかってしまったこの男たちは背格好もほとんど同じで、後ろから走って追いかけただけの俺達には犯人が区別できない。ギャイギャイと騒ぎ立てる容疑者たちを尻目に、おろおろしている蘭に目を向けた。

「こ、コナンくん、警察には通報したけど...誰が誰だかわかんないね」
「うん...とりあえず警察が来るまで逃げないように見張っておこう」

 そう話していると、遠くからサイレンが聞こえてきた。さっき通報したばかりなのにと路地の方に目を向ければ、ブロロン、とエンジン音とともに2台のバイクが現れた。

「そこの2人!ちょっと話を聞きたいんだが...」

 到着した白バイから青い隊服の警察官が降りてくる。近くでパトロールでもしていたのだろうか。
とにかく今はラッキーだった。

「あ、お巡りさんちょうど良かった!この人たちが、」
「...ん?君は...」

 説明しようと口を開いた時、上から女性の声が降ってきた。どこかで聞いたことがある、芯の通った心地の良い声。も、もしかして。パッと上を向けば特徴的なタレ目とばちりと目が合う。

「千速さん!?なんでこんな所に!」
「それはこっちのセリフだ少年。まさかこんな所で君に会えるとはな!」

 ハハハ、と愉快に笑う千速さんに、蘭も驚いたようにパチパチと目を瞬かせている。確かにここは神奈川だが、まさか会えるとは思っていなかった。顔見知りがいるなら話は早い。着いてきて、と千速さんの腕を引っ張り、男たちの元へ向かった。

「さっき入ろうとしたお店で食い逃げがあって、僕と蘭姉ちゃんで追いかけてきたんだ。ただ見失ってここまで来た時に、あの3人が...」
「なるほど、格好もほとんど同じ...それで誰だかわからなくなってしまったという事だな?」

 うんと頷けば、一緒に来ていた白バイ隊員に情報を共有していた。彼は頷くと無線で何かを共有し始める。
 しばらくして集まってきたパトカーと店の店員に事情を説明し、操作が開始される。

 店の店員いわく、顔は入店時既にマスクとサングラスをつけていたため分からないらしい。逃走中にどこかに捨てたであろうから、今は警察が必死に捜索中だ。

「それで?一旦持ち物から見させてもらうぞ」
「おっ、遅かったな重悟」
「お前が早いんだよ。パトロール中に悲鳴を聞いたって言ってたが、それがこの事件か?」
「あぁ...近くの市民に話を聞いたら、男が向こうに走っていって、それを誰かが追いかけていったと聞いてな。現着してみたら彼らがいたというわけだ」
「彼ら、ねぇ...」

 千速さんの言葉を繰り返しながら、じとりとした目で俺と蘭のほうを見てきた。きっと、「どこにでも現れるなこいつら」とでも思っているのだろう。返す言葉はないため苦笑いをして頬をかいた。

「まあいい。じゃあ1人ずつ、そっちの男性からいくぞ」
「あ、僕も行く!犯人目撃してるし、何か気づけるかも!」
「ったく、大人しくしてろよ?」

 はーいと元気に返事をして、離れた場所で荷物を広げる男の元へ向かった。
 1人目の麻田という男はレストランを経営しており、今は食材の買出し中で急いでいたという。持ち物はタバコにライター、財布とスマホ。食材はどうしたのかと聞けば、これから行くところだったと半ギレで怒鳴られた。
 2人目の島村という男は大学生で、持ち物は財布とスマホ、勉強道具にシューズ袋。陸上部に所属しているらしく、集合時間に遅れそうになり走っていたという。汗をかいて慌てている様子だった。
 最後は白井という男。持ち物は車の鍵と財布、スマホ、それから一冊の本だった。近くの公園で本を読んでいたようで、遠くに止めた車に戻るところだったらしい。

「車を遠くにとめてまでわざわざ公園で本を呼んでたのか?」
「し、自然が感じられるところが好きなんだよ!今朝買った本で、早く読みたかったってのもあって。ほら、本持ってただろ?」

 本、と言われて男の持っていた小説に目を向ける。『銀色の鳥籠』と箔で押された表紙を見て目を見開く。
 これは確か最近発売した小説で、本屋で見かけたことがある。有名な作家ではなかったが数年前から頭角を表している作家で、俺自身何冊か他の本を読んだことがあった。ただ、その時は手持ちが足りずに諦めたんだったなと思い出す。

「コナンくん知ってるの?」
「え、あ、うん!この間本屋さんで名前見かけたんだ」
「へぇ〜、綺麗な名前…千速さんも見たことあります?」

 隣で同じように容疑者の荷物を見ていた彼女に蘭が声をかける。だが彼女は目を少し見開いたまま本を見つめていて返事はなかった。千速さん?ともう一度声をかけてやっと気付いたのか、ああと言って笑った。

「私はあまり本は読まないが…なるほど、このミステリー小説を読むために公園に行ったということか。今朝買ったというなら、レシートは持ってないのか?」
「い、いや、捨てちまったからねぇよ」

 明らかに動揺した様子の男と千速さんのやりとりに、どこか違和感を覚えた。と言っても些細なもので、それが犯人特定に役立つかわからない程度のものだが。

 結論から言うと、犯人は白井という男だった。確認したところ本屋で彼の姿は目撃されておらず購入履歴も残っていなかった。そうこうしている間に警察が彼のものと思われるマスクとサングラスを発見し、掘られたイニシャルから彼のものだと特定されたのだ。高岡自身も諦めたように自白し、そのまま事件が解決した。
そして俺たちは結局昼食を食べ逃し、イベントに書いていた名前も時間が過ぎて無効だった。ガックリと肩を落とす俺たちに、横溝警部と千速さんは元気を出すよう慰めてくれた。

「なるほど、イベントで神奈川まで来ていたのか。大変な目にあったな」
「あはは…期限も切れちゃったし、このままどこかでご飯食べて帰ろっか。そうだ、この近くに大きな本屋さんがあるんだって。せっかくだし、そこ見てく?」
「!僕行きたい!」

 先ほど話に出た本もついでに買いたいし、ちょうどいい。もしかしたら見たことない推理小説も見つかるかもしれないし行く他ないだろう。
 そんな話をして盛り上がっていたら、横溝警部がそういえばと口を開いた。

「千速お前、よくあの本がミステリー小説だって知ってたな。名前だけ見りゃファンタジーかSFだと思ってたが」
「え?あ、あぁ…きっとどこかで見かけたのを覚えてたんだよ。そんなことより、早く戻るぞ。少年、またな!」
「あ?おい、ったく…お前さんたち、明日事情聴取があるだろうからできれば近くに宿取っといたほうがいいぞ。じゃあまたな」
「あ、はい!ありがとうございました!」

 そうして横溝警部は、先に白バイへと戻っていった千速さんを小走りで追っていった。
 俺がさっき感じた違和感。あれは、千速さんのことだった。自分でも本を読まないと言ってたのに、なぜジャンルのわかりにくいタイトルの小説を知っていたのだろうか。本屋やどこかで前に売り出されるタイプの小説でもなかったはずだし、確認しなければ得られない情報なはず。
 顎に手を当てて考えていると、蘭がどうしたのと声をかけてきた。慌ててなんでもないといい、歩き出した隣に追いつく。

 まぁ、本を一冊知ってただけで事件性はないだろうけどと、その時はまだ思っていた。

______________________________________

 警察署に戻りバイクを駐車させ、自動ドアから中に入る。頭に今回の事件のことがふとよぎった。
 私は『銀色の鳥籠』という小説を知っていた。知っているだけじゃない、読んだことだってある。本は普段読まないから、内容を完全に理解できたとは言えないが。
 あの時迂闊にミステリーだと口にしたのは不味かった。何か不思議に思われているだろうか。重悟あたりは気にしていないだろうが、きっとあの少年ならそんな小さなことから何かを探り始めるのかもしれない。

「あ、お疲れ様です萩原小隊長。先ほど妹さんからお電話がありましたよ」
「…妹から?何か言っていたか?」
「今は外で対応中だということを伝えたら、退勤したあたりに直接掛けてみると」

 廊下ですれ違った部下からの報告に少し驚き、それから礼を言って足早にロッカールームへと向かう。今日はもう退勤の時間だったからそのまま着替え、勤務状況を確認してから外へ出た。
 スマホを取り出し着信履歴を調べる。何もきていないということは、私からかけるの待っているということだろう。一コール、ニコールと繰り返し3コール目に差し掛かったところで、ぷつりと音声に切り替わった。

「もしもし、千速だ。今終わったところで電話に出れなくてすまなかった」

 そう声をかければ、私よりも少し高く、ゆっくりとした落ち着いた声が耳に響く。

『ううん、大丈夫。こっちこそ急に掛けてごめん。病院から結果届いたから、一応連絡しとこうかなって。明日持ってくね、お姉ちゃん』
「ああ…ありがとう、涼架」

 この世でったった1人の、愛しい妹の声がした。

 案の定、次の日事情聴取に呼ばれた俺たちは、神奈川県警本部の受付で入場の手続きを行なっていた。パスを首から下げて案内された場所で、昨日の事件についての詳細を確認していき、終わった頃にはお昼過ぎだった。

「ありがとう横溝警部!入り口まで案内してくれて」
「ありがとうございました。あの、今日は千速さんいらっしゃらないんですか?」

 別れ際、蘭がそんなことを横溝さんに聞いた。一度会った時から、どうやら千速さんの美しさとバイクのテクニックに見惚れて憧れているらしい。彼女は女性ではあるが、俺からしてみれば少し複雑な気持ちで見守ってはいるけど。

「あいつは今日非番だよ。妹と合うらしい」
「へぇ~妹さんがいたんですね。千速さんに似て綺麗なんだろうなぁ…!」

 キラキラとした目で自分の世界に入っていく蘭に苦笑いをしながら、まあ確かにと考える。
 あの顔立ちの整った千速さんの妹となれば、男性からよくモテるんだろうなと想像できる。横溝警部はハッと軽く笑った。

「顔はそっくりだが、妹の方がよっぽど落ち着きがあって大人しいな。だがまぁ笑った顔はそっくりだし決断力も行動力もあるし、マイペースでからかい癖はあるし…やっぱり流れてる血は一緒だな」
「へぇ…じゃあ、妹さんも警察の人なの?」
「…いや、あいつは、」

「重悟」

 ぴくりと眉が動き、少し横溝さんの声が低くなった時、後ろから声がして振り返る。そこには私服姿の千速さんが立っていた。驚いた顔で蘭が振り向いた。

「あれ?千速さん、今日は非番だって…」
「引継ぎで忘れてたことがあってな、ちょっと戻ってきてたんだ。そしたらうちの可愛い可愛い妹の話が聞こえてきたもんだから、混ざらないわけにはいかないだろう?」
「…悪い、少し世間話が過ぎた」

けらけらと笑う千速さんとは対照的に、横溝警部は少し気まずそうに謝っている。気にしていないという様子で、千速さんは笑う。

「別に彼らならいい。うちの妹は持病があってな、普段は在宅で仕事をしているんだ」
「あ、そうなんですね…ごめんなさいずけずけと…」
「構わないさ。君たちは…昨日の事件の事情聴取か。協力に感謝する」

 にっこりと笑う千速さんに蘭が顔を赤くする。こりゃしっかり射抜かれてんだなと苦笑いをした。

「じゃあ、私はこれで。またな、少年」

 横溝警部と千速さんに別れを告げ、警察署を後にした。

 時間を確認するために開いたスマホに映った二人の写真に目を細める。自分とよく似た顔の二人が、ピースをしてこちらを向いていた。2つ下の研二に6つ下の涼架。どちらも大切な弟妹だ。
 研二は警視庁で爆弾処理班に所属している。陽気で誰にでも物腰柔らかなところがあり、いつも周りに誰かがいた。整った顔立ちに甘い声、そしてそんな気性だ。モテないわけがないが、しょっちゅう女の子が入れ替わっていて涼架が呆れていたのを覚えている。

 それと比較して、涼架は反対ともいえる性格だった。
 基本的に大人しく、何考えているの?と周りの人間に言われるようなタイプだった。だからといって受け身かと言えばそうではなく、むしろやると決めたらとことんやるし行動力はある。かと思えば、妙なところで楽観的。どうやらマイペースなところは私たちに似たらしい。私と研二は涼架の事を溺愛しているし、過保護の自覚はあるから、逆に大人しくなっても不思議ではないが。

 その過保護が加速したのが、涼架が中学生の冬だった。妹がひどい頭痛で病院に救急搬送されたのである。その前から風邪をひいていて引きずっていたのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
 14歳で記憶障害が残ると診断されたとき、私も研二も涼架も、両親でさえも、ことの重大さを理解しきれていなかった。少し前の記憶がなくなると簡単に説明されたときもちろん衝撃はあったが、想像ができなかった。
 だが、人生を狂わせるような病気であるとすぐに分かった。一週間後の朝、涼架の部屋から悲鳴が聞こえて驚いて駆けつけたら、顔面蒼白で何かをぶつぶつと呟く妹がいた。ただ事ではないと病院に駆け込み、医師からの説明を食い入るように聞いた。

「涼架さんの症状は、極めてまれなものです。世界で似たような症例が見つからず、我々も打つ手がなく…そのため、これからどのような基準で発症するのか、記憶がなくなるのか、症状はどのようなものなのか調べていく必要があります」

 つまり何も分からないのだということは、当時二十歳の私には十分すぎるほど伝わった。

 それからは発症し次第病院へ通う日々。何十回も繰り返して、データを集めるほかない。そして数年がたったころ、発症は睡眠から目覚めたときが多いこと、主に前回の発症から現在までの記憶がなくなり、状況や動機が分からなくなること、すでに会得した技術や技能はなくならないことなど、ある程度の結論が出た。対策のしようがないため、だから何だ、と言えばそれまでではあったが。

 妹の生活は変わった。私と研二の生活も変わった。過保護が加速して大学で離れていても毎日構ったし、研二も高校の部活をすっぽかして帰ってくることが多くなった。
 ほとんどが目覚めるときとはいえ完全ではないため迂闊に外に出られない妹は、いつから始めていたのか物書きの仕事に就いた。昔から本をよく読んでいたし思考能力は私とは比べ物にならない。病気さえなければ、これ以上ない天職だったのだろう。書いては忘れ、必死にメモを取り読み返す妹を何度も見てきた。それでも続けているんだ、応援しないわけがない。本を普段読まない私や研二でも、出版されたときは一番に買いに行って拙い感想を送ったものだ。

 そんな大切でしょうがない妹との久しぶりの外出だ、喜ばないわけがない。壁に掛かった時計を見やる。まだ昼を回ったところで、待ち合わせは夕方。ゆっくり引継ぎを終わらせても十分間に合うだろう。

 横浜の一角、お世辞にも綺麗とは言えない路地裏に続く控えめなサイズの鳥居。そこから続く林と昼なのに薄暗い境内。次の舞台はここかなと、手でフレームを作って覗き込む。それから写真を一枚二枚と撮り、フォルダを確認した。よし、良い感じに映ってる。この舞台に合う謎解きも考えなきゃなと大きく息を吐いた。お姉ちゃんとの待ち合わせはまだまだ先だし、近くのカフェ…いや、適当なベンチで案出しでもしていようかな。

 萩原涼架、これが私の名前であり、そこから文字ってつけたのが鈴鹿萩。私の作家としてのペンネームである。
 高校生の時に気まぐれで書いた長編小説を投稿してみたら、賞は取れなかったけど編集者の目に留まったみたいで話を持ち掛けられた。本を読むのは好きだったし、私の病気について話しても諦めそうな人たちではなかったから、なんとなくで始めてみたらいつのまにか職になっていたのだ。私もびっくりである。

「…さてと、もどるか」

 ノートに雰囲気を軽くメモしたしもうここに用事はないかな。くるりと踵を返して、賑やかな通りのほうへと戻っていく。
 薄暗い路地から一歩踏み出した瞬間、足に誰かがぶつかったような衝撃を受けた。びっくりして下を向けば、そこには小さな男の子。蹴っ飛ばしてしまったのかと思い、慌ててしゃがんだ。

「ごめんね僕、怪我はない?痛いところは?」
「コナン君!大丈夫?」

 高校生くらいの女の子が駆け寄ってきて尻もちをついた男の子――コナンという少年に声をかける。大丈夫だと笑っているけれど、急に出てきてぶつかった私に非があるのは明らかだ。

「立てる?ちゃんと前を見ておくべきだった、ごめんね」
「あ…うん、ありがとうお姉さん。僕もきょろきょろしながら歩いてたから、ごめんなさい。お姉さんは大丈夫?」

 小学生くらいだと思うけど、この年でこっちの心配もしてくれるなんて最近の子は賢いものだ。大丈夫だよと笑うと、二人はなぜか目を見開いて呆然としていた。何だろう、顔に何かついていたかな。

「あの、どうかしましたか?」
「あ、いや…なんか知り合いに似てて」
「お姉さん、こんな暗い路地で何してたの?」
「え、」

 声がした下の方を向くと、少年はきらきらとした瞳でこちらを見つめている。その顔にどこか見覚えがあって、思わずしゃがむ。視線を合わせると、予想していなかったのか少年はたじろいでどうしたのと聞いてきた。
 じっと見つめる。目を見て、髪型を見て、眼鏡を見て。どこかで引っかかるけれど、記憶から答えが呼び起こされることはない。いくつもなくしてきた記憶のうちの一つに、彼が存在していたのだろうか。

「ねぇ少年。君、テレビに出たことはある?それか雑誌とか」
「え?えーっと…まあ、何回か…」
「あぁ、だからかな。君の顔に見覚えがある気がして。有名人だったんだ」

 はは、とほほに汗をかいて苦笑いする少年に、隣の女の子が口を開く。

「コナン君はキッドキラーって呼ばれてて、そのたびテレビに取り上げられているんです!だからそのせいかも…あ、ごめんなさい、私毛利蘭って言います。こっちは江戸川コナン君」
「江戸川…コナン…すごいね、日本のミステリー作家の姓にイギリスのミステリー作家の名を付けるなんて。将来は立派な文豪かな?」
「あ、あはは…お父さんがミステリー好きで…」

 なぜか焦っている様子だけど、誇っていいのにと不思議に思う。まあ知らない人から急に声をかけられたら、小学生ならおどおどしてもおかしくないけど。よっこらせ、と力を入れて立ち上がる。自己紹介してくれた蘭さんに今度は目線を合わせた。

「私は萩原涼架です」
「萩原って…やっぱり、萩原千速さんの、妹さんですか…!?」
「え、姉を知ってるんですか」

急に出てきた姉の名前に驚くと、二人は納得したように笑った。話を聞けば事件で何度かお世話になっていたみたいで、面識があるという。よく似た妹がいるなんて世間話をしてるくらいには、きっと仲がいいのだろう。まさかこんなところで出会うなんて思ってなかったけど、仕事中の姉を知る人に出会ってなんだかうれしくなった。

「姉は何か言ってましたか?それか、重悟さん…あの、坊主頭の警察官なんですけど」
「よく似てるって言ってたよ!落ち着きがあって大人しいって」
「でもどうせ通ってる血は同じだなんて言ってましたよ?」
「ちょ、蘭姉ちゃんそれ言っていいの?」
「へぇー…そんなことを…」

 思わず眉間にしわが寄る。あの人、随分と勝手を言ってくれるじゃないか。姉とご飯に行けるようにこの間手を貸してあげたことを忘れたのだろうか。呆れてはぁとため息が漏れる。

「良い情報がもらえました。今度会ったら一言文句を言っておきます」
「あ、でも基本的に褒めてたよ…!?」
「もう…すみません、いつも姉がお世話になっていたなんて知らずに。姉が時々話していた少年は、もしかしたら君の事だったのかも」

 賢い小学生がいると言っていたのを覚えている。他にも何か言っていたけど、ノートを見なければ分からないかもしれない。
 ふと視界に映った時計塔をよく見れば、しばらく時間が経っていた。このまま足止めをするわけにもいかないし、そろそろ別れよう。

「じゃあ、私はこれで。機会があったら、姉の事をよろしくお願いします」
「こちらこそ!ありがとうございました」
「じゃあまたね、少年」

 薄く笑みを浮かべ、頭に手をポンと置いてそう口にする。それから彼らとは反対方向に歩き出した。
 この時二人が、私の口調や仕草に姉が重なって見えていたことを、私は知る由もない。

 待ち合わせの時間ギリギリに、レストランに駆け込んでいく。結局あれもこれもと作業をしていたらあっという間に時間になってしまった。重悟にかっ飛ばさせて正解だったな、なんて考える。
 店員に声をかけて案内されたのは奥の個室。姉弟で集まるときは大抵人目を気にしなくていい場所だった。部屋に入れば、メニューを眺めている妹の姿が目に入った。私に気付いて、ぱたりとメニュー表を閉じる。

「遅かったね。何かあったの?」
「遅れて悪いな。いやただ、作業してたらあっという間に時間が過ぎてただけだ」
「はは、お姉ちゃんらしいね」

 半分くらい呆れが混ざっている笑い声を聞きながら向かいに座る。もう注文するものを決めているようで、私にメニュー表を差し出してきた。

「何にするんだ?」
「久々にパスタかなあ、ナポリタンが食べたい気分。お兄ちゃんは結局無理だったんだ?」
「ああ、どうしても人手が必要らしくて半泣きで電話がかかってきた。それよりお前、もしかしてまたゼリー飲料を飯と呼んでるんじゃないだろうな?久々のパスタって、米は食べてるのか?水もちゃんと飲んでるか?」

 そんな話をすると、妹は明らかに目を泳がせた。昔っから集中すると他のものに興味がなくなる人間だったから、一人でこもるようになってから食すら放棄することもある。だから時々こうやって問い詰めてやらなきゃいけない。

「いや、でも、一昨日はちゃんと食べたよ。納豆ご飯」
「昨日は?」
「えーと…お、オレンジジュース」
「そんなんで足りるわけないだろ!ほら、全部私がおごるから好きなものどんどん頼むぞ!唐揚げとポテト…サラダも頼むか」

 タブレット型の注文票から、目についたものをポイポイと入れていく。苦い顔をしているあたり、食べなければいけないと自覚はしているのだろう。拒否はせずに、ちゃっかりこれもあれもと注文を増やしていく。食べきれなかったら私が全部食べればいい。

「最近仕事はどうだ?」
「ちょっと落ち着いたかなあ。この間、新刊が出たばっかりだから少しお休みできそう」
「お、あれだろ?銀色の鳥籠!私には難しかったが面白かったぞ」
「お兄ちゃんにも一応送ったけど、忙しそうだから読まなくてもいいよって言ったんだよね。そしたら意地でも読むって返ってきて笑っちゃった」

 先に運ばれてきたサラダをとりわけてもしゃもしゃと食べる姿を、肘をついて眺める。

「発症は?最後は2週間前のままか」
「うん。だからいつも通りに行けば今週か来週だと思う。…そうだ、昨日病院行った時の診断書、はい」

 涼架は思い出したように鞄から紙を数枚取り出し机の上に広げた。一枚手に取り読み込む間に、次々と料理が運ばれてくる。

「前回からの進展はなし、か」
「睡眠薬だけもらってきた。昔みたいに発症するたびに行かなくてもよくなったし、このまま定期健診でいいって。あ、お姉ちゃんそれ一口ちょうだい」
「ん?ほら、」

 食べていたデミグラスソースのオムライスをねだられて、一口文掬ってスプーンを向けてやる。ふふん、と満足げに口に含んで笑う顔に私も自然と笑みがこぼれた。

「慣れることは絶対ないけど…ある程度は態勢がついたから。仕方ないことだって書いておけば、諦めがつくしそっちの方が私も楽だし。だから昔みたいに無理に心配しすぎないでいいよ。お姉ちゃんにはお姉ちゃんの人生があるんだから」
「何度も言ってるだろ?私の人生はお前と研二がいてやっと成り立つんだから、そんな心配をしなくていい。私はお前たちが生きてくれてたらそれでいいんだよ」

 しんみりしたいわけではないが、私たちは会うと必ずこの話になる。もう癖のようなものだ。暗い話ではない、お互いの価値観の違いで、尊重するべきところ。
 涼架は見た目よりもずっとものを考えているし、冷静に分析している。何考えてるか分からない、なんて言われていたこともあるが、姉からすれば顔を見るだけでなんとなく分かるものだ。

「涼架、お前は私たちの中で一番頭がいいし、よく考える割に口に出さないし、頑固だし、マイペースにどっかに歩いていく」
「えっ急にすごい言うじゃん。褒めてる?貶してる?」
「褒めてる。自分の道があるからこそ信じているが、それが思った方向に進まなかったときに一人で抱え込むようなことはするなよ。愚痴でもネタでも何でも、いくらでも話してくれ」

 私はお前の姉なんだから、と言って笑えば、目をぱちぱちと瞬かせてしばらく何も言わなかった。頭の中で言葉をかみ砕いているような、そんな長さの沈黙だった。

「…私はお姉ちゃんのことが大好きだからこそ、迷惑をかけたくないって気持ちはあるよ。でも黙っているのが一番悪いのも知ってる。すぐ忘れるとしてもこうやって時々会って、ご飯を食べて、一緒に過ごせていることが何よりも幸せだから。それを維持するためならなんだってできる」

 珍しく饒舌に、淡々と話す妹を、今度は私がじっと見つめる番だった。私としては迷惑をかけてほしい、ただこいつにも優先するものはある。無理強いをするつもりはない。つまりは、ただそう考えているということをちゃんと分かっていてくれるなら、なんだっていいのだ。

「そうだな、私も同じ気持ちだ。忘れても何度だって言ってやるから安心しろ。…お、唐揚げ来たぞ」
「やった。あっレモンかけないでね、私そのまま派だから」

 空気は一転、ほら食え食えと目の前にどんどん皿を出してやる。それからは本の話か最近の事件の話か、世間話をだらだらと続けていた。

 食事も終盤に差し掛かり、デザートにとプリンを頬張っているとき、そういえばと涼架が口を開いた。

「ここに来る前、お姉ちゃんの知り合いとあったよ。毛利蘭ちゃんと江戸川コナン君」
「二人にあったのか!よく気づいたな」
「そっくりだって言ってたよ?あと重悟さんが余計なこと言ってたってことも」
「ははは、今度会ったら文句の一つでも言ってやればいいさ!少年はどうだった?不思議な子だろ?」
「うん、どこかで見たことある気がしたんだけど…キッドキラーだって言ってた。昔テレビで見たんだと思うけど」

 そうか、覚えてはいなかったか。グラスに入った氷をゆらりと混ぜながらふとそう思う。
 昔研二が爆弾処理中に巻き込まれ大怪我を負った事件。数年後に幼馴染の陣平も観覧車の爆弾により命を脅かされたが、最終的にそれ解決したのがあの小さな少年だ。研二にも陣平にも、警察にも止められなかった犯罪者を彼が止めた。敵を討ってくれた。
 数か月前は大騒ぎして毎日のように話題に上がっていたが、一か月もせずに記憶がなくなってしまい、彼の事も忘れてしまったようだった。その後触れる機会があっても、覚えていないのはある意味当たり前と言える。また会う機会があればこっそり教えてやるとしよう。

— End —

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