「青春とは嘘であり、悪である」――。
そんな俺の崇高なモットーは、この「男女の貞操観念が逆転した世界」においても、特に修正の必要はないらしい。
「あ?」
比企谷八幡の朝は、酷い違和感とともに始まった。
天井の模様が違うことに気づく。たしかに自分は千葉の公立高校に通う、どこにでもいる(と自分では思っている)冴えないぼっちの高校二年生だったはずだ。だが、鏡の前に立った彼が着ていたのは、見覚えのない白を基調としたセーラー風の制服。そして、手元にある生徒証には「県立大洗女子学園」という謎の校名と、自分の写真が載っていた。こんな制服を持っていない。だが元着ていた制服がないどころかどんなのかすら忘れていた
そして窓の外に広がるのは、見渡す限りの青い海と、巨大な鉄の構造物――学園艦の甲板だった。
「……女子学園、だと? 何の冗談だ。共学に一文字足しただけの嫌がらせか?…夢か。夢であってくれ。そうでなければ、俺の脳が本格的にバグを起こしたかだ」
だが、一歩外へ出れば、その疑念は確信へと変わる。
歩いているのは女子ばかり。たまに見かける男子は、まるで壊れ物を扱うように周囲を伺い、厚化粧をしている者さえいる。
そして、何よりも八幡を戦慄させたのは、街中の至る所に貼られたポスターだった。
『強く、逞しく。男を守れる立派な女性に――戦車道、生徒募集中!』
「……は?」
思わず声が出た。
「(戦車。あの、鉄の塊で撃ち合う物騒な代物か? それが「女性の嗜み」だと?)」
八幡の記憶にある「大和撫子」の定義が、音を立てて崩壊していく。
すれ違う女子生徒たちは、誰もが自信に満ち溢れ、道を行く数少ない男子たちを「あら、今日も可愛いわね」と言わんばかりの、品定めするような目で見ているのだ。
「(……逆転してる。男女のパワーバランスが、俺の知る世界と完全に真逆だ)」
記憶にあるはずの「雪ノ下雪乃」や「由比ヶ浜結衣」の顔が霞んでいる。代わりに、この世界での「日常」が、濁流のように押し寄せてきた。
ここは弱肉強食のサバンナだ。そして、男は「守られるべき愛玩動物」あるいは「観賞用の花」として扱われている。
「学校遠いだろ」
記憶にないのになぜか覚える道。校門へと続く坂道。大洗学園へと続く長い坂道。俺は自分の存在を消し、風景の一部になりきって歩いていた。だってこの世界ヤバそうなんだもん
しかし、この世界の「捕食者」たちの目は節穴ではなかった
「ねえねえ、君! ちょっと待って!」
チッ、捕捉されたか。チャフを撒いて逃げたい……
一人の派手な茶髪の少女に呼び止められた。
なんか…この世界で代表するような「肉食系」みたいなやつだ
「君、新入生? それとも転校生? すっごいミステリアスな雰囲気だよね! 目の腐り具合とか、絶滅危惧種の野良猫みたいで超クール!」
この世界の男子なら「あ、あわわ、女の子に話しかけられちゃった……!怖いよぉ」と頬を染めて俯くのが正解だろう
「……褒め言葉にしては、だいぶ独特な語彙だな。俺はただの比企谷だ。お前のようなキラキラした人種に関わると、俺の存在が浄化されて消滅する。構わずに先へ行ってくれ」。俺はただの通行人Aだ」
相変わらず自分を徹底的に見下すよくわからない話をした。これで気味悪いと思って逃げると思ったが
「『比企谷くん』ね、覚えた! 浄化なんてさせないよ、むしろ私が汚して……じゃなかった、仲良くしてあげる! 私、武部沙織!!」
逆にこいつの心に火をつけた。あれー?
「ねえ、放課後暇? どこか美味しいお店でも連れてってあげよっか? もちろん、お代は私が持つからさ!」
武部は頬を赤らめ、悶えるように身をよじった。この世界だと男子は女子に優しくされると顔を赤らめて感謝するのが常識だ。…いらんわこんな新しい常識
「結構だ。女子にエスコートされるくらいなら、一人でコンビニのイートインコーナーで10円のガムを噛んでいるほうがマシだ。……それと、距離が近い。パーソナルスペースを侵すのは宣戦布告とみなすぞ」
「……っ! なにその、突き放すような冷たい態度……! 逆に燃えちゃうんだけど!」
なにを言っても無駄な気がしてきた
武部は頬を上気させ、スマホを取り出した。
「あ、そうだちょっと待って、今のセリフ、SNSにメモっておかなきゃ! 『自立系男子、降臨!』って!」
暴走する武部。これは俺が悪いのか?
「沙織さん。あまり彼を困らせてはいけません。初対面の方に対して、少し距離が近すぎます」
長い黒髪の、陶器のような肌を持つ美少女が静止させた
「……。周囲の女子に媚びることも、自分を飾り立てることもしない。それは、まるで……一本の枯れ木のような、完成された孤独を感じます。……失礼、私は五十鈴華と申します」
大和撫子のような五十鈴は丁寧に頭を下げる
「枯れ木って。せめて枯山水とか言ってくれ。……お前ら、さっさと学校行け。俺みたいなゴミと関わってると、お前らの『女子力』とやらが目減りするぞ」
なんか物腰低そうだけど、武部と一緒にいる時点であれなんで俺は早足で去っていく。
背後で「待ってよー、比企谷くーん!」という叫び声が聞こえたが、全力で無視を決め込んだ。
しかしこの「徹底した拒絶」は、彼女たちにとって未知の魅力――圧倒的な「強気なオス」の象徴に見えていた。ということを俺は知らない
ようやく沙織を撒いて昇降口に辿り着いた八幡。そこで掲示板を前に立ち尽くす少女を見つけた
短めの茶髪に、どこか頼りなげな瞳。西住みほだ。
この世界において女子は「強固で、決断力があり、男をリードするもの」とされる。
しかし、彼女の佇まいは、八幡の失われた記憶の中にある「女子」に近い、繊細なものだった。
彼女は「戦車道復活」の文字を見て、幽霊でも見たかのように震えていた。
「……おい、そこ。邪魔だ。入るなら入る、避けるなら避ける。どっちかにしてくれ」
八幡は死んだ魚のような目を向けて、ぶっきらぼうに声をかけた。
「あ……ごめんなさい!」
跳ねるように振り返ったみほは、八幡の姿を見て、目を見開いた。
この世界において、男子が女子にこれほどぶっきらぼうに、対等な口調で話しかけることは珍しい。男子はもっと、淑やかで、謙虚であるべきなのだ。
「……あ、あの、あなたは?」
「…比企谷だ。お前、顔色が悪いぞ。低血圧か? それとも、学校に来るのが嫌で仮病の口実でも探してるのか。もしそうなら、俺も混ぜてほしいんだが」
「えっ、いえ、そういうわけじゃ……」
みほは戸惑った。しかし、八幡の冷めた視線の奥に、不思議な安心感を覚えた。
周囲の女子たちが向けてくる「西住家の娘」としての期待や、あるいは「弱々しい子」に向ける同情。それらが一切ない、ただの「邪魔な奴」を見る目。
それが、今の彼女には救いだった。
「比企谷さん…。私、西住みほです。よろしくお願いします」
「……ああ。よろしくなんてされるほど、俺に関わっても得はないぞ」
八幡はそれだけ言うと、彼女を追い越して校舎へと消えた。
みほは、その背中をしばらく見つめていた。
彼女はこの世界で、「女子らしくない、弱々しい自分」に劣等感を持っていた。そこに現れた、自分を「守るべき対象」ではなく「対等な一人の人間」として扱い、あまつさえ体調を気遣う男子。
「……不思議な人。男の子なのに、あんなに堂々として……」
彼女の胸に、小さな火が灯った瞬間だった。
見知らぬ世界のせいか色んな人種に会って声をかけた。忘れるな八幡。お前がぼっちだということを
教室に入る。だが奇妙なことに俺の席は西住みほの隣だった。さらにその前後の席には、先ほどの武部と五十鈴が座っている。ギャルゲーかよ
「あっ、比企谷くんだ! また会ったね!」
武部が目標を捉えたように嬉しそうに声をあげる。
「(……これが世に言う『詰み』か)」
とりあえず俺はこの世界の神が嫌いになった
だがあとは普通に学校だった。そして武部からたまに変な視線があったがとりあえず無視して昼休み。
「比企谷くん…ううん!ヒッキーもみぽりんも一緒に食べよう!」
「おいヒッキーやめろ」
「なんで!もう私たちすごく仲良いよ!仲良すぎるよ!」
一度の会話でどんだけ進んでんだこいつ
食堂は女子たちの熱気に包まれていた。
俺は一人でパンを食べようとしていたが、沙織に強引に連行され、西住、五十鈴と一緒にテーブルを囲むことになる。
「ねえねえ、みほりんは何でこの学校に来たの?」
唐突に武部が尋ねる。
「私、戦車道のない学校に行きたくて……」
西住が俯きながら答える。そういえばポスターもそうだったよな
その瞬間、学内放送が流れた。
『生徒会からのお知らせです。今年度より我が校では戦車道を復活させます。経験者、および興味のある生徒は放課後、生徒会室まで来るように。……特に、西住みほさんと比企谷八幡くん。君たちは「強制」です』
食堂が静まり返る。武部と五十鈴の視線が突き刺さる。
「……なんだと?」
放課後。HRが終わり、八幡は呼び出しを受けた。たどり着いたのは、重厚な扉の生徒会室。
「ようこそ、比企谷くん。待ってたよ」
「比企谷くん…」
ソファーにどっかりと座り、干し芋を頬張っているのは、生徒会長の角谷杏。その後ろには、険しい表情の河嶋桃と、穏やかに微笑む小山柚子が控えている。
さらにもう一人。先に呼び出されていた西住みほが、真っ青な顔で立っていた。
「……なんの用ですか。俺、これからスーパーのタイムセールに行かないといけないんですが。あ、自炊する男子って珍しいですか? 悲しいかな、これが生存戦略なんです」
「ははっ、相変わらず面白いねえ。まあすぐに終わるよ」
「――というわけで西住ちゃん。君が戦車道を選んでくれないと、こっちも困るんだよね」
角谷杏が干し芋を齧りながら、冷徹な笑みを浮かべる。
「……すみません。私、戦車道だけは、どうしても……」
「西住! 伝統ある大洗の戦車道を復活させるのだぞ! それを家元の娘である貴様が断るとは何事だ!」
みほの声は震えていた。
「ふーん。あ、比企谷くんも。君には戦車道の『マネージャー』をお願いしたいんだよ。男子のマネージャーなんて前代未聞だけど、君ってなんか他の男子と違うからさ」
と、八幡がこの世界じゃない記憶を持っているのを知ってそうな雰囲気だが…知らないだろうと予測
「却下します。戦車なんて、ガソリン臭くて、狭くて、暗くて、三密の極みじゃないですか。俺は広々とした孤独を愛してるんです」
八幡の拒絶に、河嶋桃が机を叩いて立ち上がった。
「比企谷! 貴様、会長直々の指名を断るつもりか! そもそも、男子がマネージャーとして女子の役に立てるのは、この上ない名誉だろうが!」
「名誉で腹は膨れません。それに、俺は女子を支えるより、女子に養われたいタイプなんです。ヒモ志望の俺に、そんな重労働を押し付けないでいただきたい」
「ヒ、ヒモだと……!? なんという破廉恥な……っ!」
「えっ?」
桃が顔を真っ赤にして絶句する。
八幡は知らないがこの世界の男子は、清廉潔白で、献身的な美徳を求められる。八幡の放った「養われたい」という言葉は、最大級のセクシャル・ハラスメントに近い衝撃を彼女たちに与えた。
「……西住、行くぞ」
「えっ…ひゃっ」
八幡はこのままでは拉致が空かないとわかり、強引だがみほの腕を掴み、生徒会室を後にした。
「悪い。ああいうのはとにかく逃げるが勝ちだと思った」
「……比企谷さん、ありがとうございます」
廊下に出ると、みほが涙を溜めて頭を下げた。
「……勘違いするな。俺は、俺自身が嫌なことを押し付けられるのが嫌いなだけだ。お前を助けたのは、そのついでだ」
「でも…ありがとう///(お、男の子に腕…触られちゃった///)」
これで終わり…なことはなく
生徒会は諦めなかった。
数日後の昼休み。八幡が屋上で一人、マックスコーヒーを啜っていると、扉が勢いよく開いた。
そこにいたのは角谷杏、河嶋桃、小山柚子。そして、なぜか無理やり連れてこられたような西住みほ、武部沙織、五十鈴華の姿もあった。
「しつこいな、生徒会。俺のストーカー被害届を受理してほしいのか?」
「ははっ、手厳しいねえ」
杏は柵に腰掛け、八幡を見下ろした。
「でもね、比企谷くん。君はまだ分かってない。この学園艦で、生徒会の命令に背くことがどれだけのリスクか。……君だけじゃない、西住ちゃん。そしてそこにいる友人たちにも、相応の『不利益』が生じることになるんだよ?」
「……っ。それ、脅しですか?」
八幡の目が鋭くなる。
「政治だよ。……ねえ、西住ちゃん。君が戦車道をやらないなら、君の友人たち……武部さんに五十鈴さん。彼女たちにも、一番過酷な強制配属になってもらうことになるけど、いいかな?」
「そんな……!」
みほが絶句する。沙織と華は顔を見合わせたが、二人はみほの手を握った。
「みぽりん、私たちのことは気にしないで! 嫌なことは嫌って言っていいんだよ!」
「そうです。友情とは、代償を求めるものではありませんから」
しかし、河嶋桃が追い打ちをかけるように、八幡に向かって指を指した。
「それだけではない! 比企谷! 貴様がマネージャーをやらないなら、貴様の今後の単位は保証せん! さらに、貴様が愛好しているその不健康な飲料の販売も、学園艦内ですべて禁止にしてやる!」
「なんか俺だけ重くないですか?」
「ま、それは君が男の子だからかな。男の子って就職とか…あ、比企谷くんはヒモを目指してるんだっけー?」
バカにされるが八幡は単位はどうでもいいが自分の生命線であるマックスコーヒーが断たれるのはまずい。
「わかった。やってやるよ」
どうせ逃げても無駄だとわかり、了承する
「比企谷さん!?」
みほ、沙織、華が同時に叫ぶ。
「……その代わり、西住のことは解放しろ。それと武部、五十鈴だっけ?こいつらもだ。俺一人を戦車道という『女子の園』に放り込めば、あんたたちの面目は立つだろ。マネージャーが一人いれば、形式上は戦車道部として成立する。……俺が、あんたたちの戦車を全部一人で磨き、書類を書き、女子どもに顎で使われてやるよ。それで満足か?」
八幡の言葉は、自己犠牲そのものだった。自分を極限まで卑下し、泥を被ることで、他人を救おうとする――彼特有の、呪いのような優しさ。
「比企谷くんがマネージャーをやる。それは魅力的な提案だね。でも、戦車には『経験者』が必要なんだよ。比企谷くん一人じゃ、戦車は動かせない。……西住ちゃん、君はどうする? 比企谷くん一人が、泥にまみれて責められるのを見てる?」
「……えっ?」
「彼がマネージャーになれば、整備も、補給も、他校との交渉も全部彼がやる。もしチームが負ければ、全部マネージャーの責任にされるだろうね。……君、彼を一人にするの?」
「!、おいその言い方は…!」
八幡が叫ぶが、みほの表情は変わっていた。
彼女の脳裏に、先ほど自分を庇ってくれた八幡の背中が焼き付いている。
彼を、あんなに孤独を愛して、静かに生きたがっている彼を、こんな野蛮な戦場に一人で行かせるわけにはいかない。
「……ダメです。比企谷さん、そんなの……そんなの、絶対にダメです!」
みほは、八幡の前に飛び出した。
「比企谷さんは、いつも自分を悪く言って、一人で全部抱え込もうとします。……比企谷さんが、あんなに嫌がっていた戦車道に、私を助けるために入るなんて……。そんなの、私が許せません!」
みほは振り返り、杏を真っ直ぐに見つめた。
「会長。……私、やります。戦車道、やります!」
「みほりん!」
「西住……お前、何を……」
「でも、条件があります! 比企谷さんがマネージャーをやるなら、私も、沙織さんも、華さんも、みんなで一緒にやります! 比企谷さんを一人にさせません! 私たちが、比企谷さんを……支えますから!」
「……っ!」
八幡の心臓が、ドクンと跳ねた。
守ろうとした相手から、逆に「守る」と宣言された。そんな経験、これまでの人生に一度もなかった。
「あはは! 面白いことになったね!」
杏が膝を叩いて笑う。
「それでお二人は?」
「もちろん! ヒッキーを一人で女子の群れに放り込むなんて、心配でできないもん!」
「私も。比企谷さんの傍で、戦車道という厳しい道の中に咲く一輪の花でありたいと思います」
沙織と華も、迷いなく頷いた。
「あーあ、決まっちゃったね」
杏がパンパンと手を叩く。
「比企谷くんはマネージャー、西住さんは戦車道。……これで大洗女子学園戦車道、本格始動だ」
「(……クソ。助けるつもりが、共倒れになったか……)」
八幡は天を仰いだ。だが、横で少しだけ安心したように微笑むみほを見て、毒気を抜かれた。
「……西住。お前、馬鹿だろ。せっかく逃げるチャンスだったのに」
「えへへ……。比企谷さんが、あんなにかっこよく助けてくれたから。……一人にはできないよ?」
「……チッ。共倒れだ。全員バカばっかりだ。……効率が悪すぎるだろ、こんなの」
八幡は顔を背けたが、その耳は赤くなっていた。
こうして、史上初の「男子マネージャー」比企谷八幡
彼を取り巻く少女たちの戦車道が、最悪で最高な形で幕を開けた。
フィーです
AIです。ほぼ9割AIですよ。やればできるねAIって。褒めるよAI。だから嫉妬してやるよ人間らしく!?
みなさん的にはこれはあり?




















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