「…………ねぇ、作之助さんって、何者なの?」
コナンの目線の先には大柄で体格の良い男がいる。
男───作之助は問いに対して特に表情を変えずに答えた。
「俺は、しがない小説家だよ」
◆
突然だが、俺は転生者である。
しかも3度目の転生を果たした。
いやなんでこんなにも転生してるんだと思ったが、正直よく分からないので考えることは辞めた。
1度目の人生は平々凡々のペーペーだった。死因も老衰だ。天寿を全うご苦労さま! な最期だったのだ。
しかしそんな人生とは打って変わって2度目の人生はスーパーハードだった。
なんか気づけば暗殺者になって人を殺していたのだ。
いやどうして、と思ったが、既にその時には倫理観はお留守となっていた。
しかも身体能力が非常に優れており、敵なしと言っても過言ではなかった。更に、数秒先の未来を視るというチート能力まで備えられていたのだ。何だか物語の主人公のようなスペックとストーリーである。
だがある本との出会いによって、人間に対する興味を再び見出すことができ、暗殺者からただの裏社会の人間になったのである。
正直違いがよく分からないが、人を殺す人生よりは数倍マシだろう。
そしてなんやかんやあって、プツリと何かが切れて気づけば銃を持って男と対峙していた。
しかも相打ちで、最期に見たのは年下の友達の顔だった。
そして現在3度目の人生を俺は謳歌しているのだ。
しかも念願の小説家になることが出来たし、カタギとして生きている。
これ以上ない幸福だ。
だからこそ、俺の幸福を壊すような輩には容赦しないと決めた。
幸い、この世界ではカタギとして生きている。だから人を殺さない程度の力で、身内や子供達を守ろうと決意を更に固めたのであった。
萩原研二には双子の兄貴がいる。
名前は萩原作之助。
上から千速、作之助、研二という姉弟構成だが、作之助だけ少し名前の雰囲気が浮いていた。
だが両親が言うには、この子は作之助! と天啓が降りたらしい。
……冗談な気がしてならないが、今は特に触れないでおこう。
ちなみに作之助は姉と弟に比べて非常にクールだ。
何が起きても動じないし、感情の起伏も2人に比べると小さい。
「いってー!!!」
「直ぐに終わるから大丈夫だ」
「作ちゃんもっと優しくしてーー!!」
「十分優しいだろう」
こんなふうに研二や幼馴染の松田が怪我をして帰ってきた時は血相を変えずに、慣れた手つきで手当てをしてくれた。
「金を寄越せ! こっちは銃持ってんだ! 大人しく「危ないだろう」ッ!?」
「嘘でしょ何やってんの作ちゃん!?」
そしてコンビニ強盗に遭遇した際は、護身術など習っていない、まだ幼いはずの作之助が華麗に、冷静に撃退してみせたことが例に挙げられる。
その時は思わず研二は叫んでしまったが、そうなってしまうのも無理はないと言えるだろう。
更に、アクセル全開の千速と松田を唯一止めることが出来る存在でもあるのだ。
「離せっ! 納得いかねーんだよ! なんで、なんで親父がっ!!!!」
「落ち着け、松田。今は我慢しろ。……大人になってから、其の怒りをぶつければいい」
いや松田を羽交い締めにして完璧に止めてはいるが、変なことを吹き込んでいる気がする。……今は気のせいということにしておこう。
ちなみに千速の場合は至って単純だ。
千速が他人と少し喧嘩した際、最終的には作之助が羽交い締めにして止めるのである。
「離せ作之助! 今殴らずしていつ殴るんだ!!!」
「今殴れば更に大事になる。今は辞めておけ」
「でも!」
「辞めておけ」
「ッ、…………分かった」
そしてこのように、千速でさえ作之助のなんとも言えないプレッシャーと力(物理)には逆らえないのだった。
実際、作之助は昔から身体の動かし方が上手かった。
護身術や空手は習っていないはずなのに、的確に相手をのしたり、パルクールも心得たりしているのだ。
だが身体能力が化け物であることには徐々に慣れて、反応することも減った。
慣れとは恐ろしいものだ。
そんな化け物みたいな身体能力を持っている作之助だが、それをひけらかすことはなかったし、なんなら現在の職業はそれらと無縁の小説家である。
正直どうして小説家になったのかは分からないが、それでも文字を書いている時の作之助は少し雰囲気が柔らかいように思える。
だから2人は「まぁそんなものだろう」と考えることにして気にすることはなくなった。
話は変わるが、研二は作之助を尊敬している。なぜだと言われると、研二は決まってこう言った。
「強くて、かっこよくて、すげぇ優しいから」
その時の研二は本当に心からそう思っているようで、瞳が少しキラキラと輝いている。
そしてそれは大人になっても変わらない。いや、むしろ尊敬の念が強まったように思える。
なぜなら研二は作之助に命を救われているからだ。
そして同期の命すらも救ってくれたからだ。
しかも子供には滅法優しい。否、むしろ宝物のように、壊さないように大切に扱っていると言えるかもしれない。
◆
今から7年前、研二は作之助に命を救われた。それは研二がマンションに仕掛けられた爆弾の処理に当たっていた時のことだ。
研二は爆弾を分析して、小休憩を取って松田に電話していた。
そして松田に防護服着てねーのかよ云々と小言を貰って軽く流していたのだが、突然後方の扉がバン! と勢いよく開けられたのだ。
研二が思わず振り向いてポカンとしていると、凄い勢いで双子の兄貴である作之助が飛び出してきて更に唖然とする。
しかしそんな研二をお構いなしに、作之助は研二に近づいてなりふり構わぬと言った様子で叫んだ。
「逃げるぞ!!!」
「え」
作之助は滅多に叫ぶことがないので研二は再び呆けていると、作之助は小さく舌打ちをしてなんと肩に研二を担いだ。
もう一度言おう。
高身長である研二をサラッと肩に担いだのである。そして勢いよく階段を駆け下りていった。
その類まれなる身体能力に戦々恐々としつつも、作之助の背中を少し叩いた。
「ちょ、っと作ちゃん!?」
「舌を噛むぞ。口を閉じろ」
「え、いや、なん、で、なんで作ちゃんがここに!?」
「口を閉じろと言ったはずだ。死にたいのか?」
「ッ!」
この時初めて作之助を怖いと思った。
作之助は生まれた時からずっと研二と一緒で、隣でクールに生きていたはずなのに。
いや、今までだって怖いと思った時はあった。だがここまで本気で言っていることはあまりなかったはずだ。
「ここは直に爆発する。だから逃げているんだ」
「え!?」
もう何がどうなっているのかさっぱり理解出来なかった。
爆発するだなんて、確かに爆弾は解除されたはずだ、そう思っていると、突然耳に強烈な爆発音と同僚の悲鳴のようなものが微かに聞こえた。そして視界に爆発で弾け飛んだ大小問わない瓦礫が映り込む。
思わず目を守る為に片腕で覆うと、作之助が小さく音を漏らしていた。
「くっ……! 研二ッ」
「うわっ!?」
研二を担いでいた作之助は急に研二を踊り場で下ろして、そして瓦礫などから研二を守るように上から覆いかぶさった。
「さっ、」
「お前は自分の命だけ考えろ!」
「!」
「頼むから、」
その時の作之助の顔はよく見えなかったが、声しか聞かなくても何となく彼の心情を察せたように思う。
だって、あの作之助から振り絞るような、消えそうな声が出てきたのだから。
研二は後で松田に怒られるなー、なんて呑気に考えながら、大人しく縮こまって少しでも作之助の負担を減らすことにした。
◆
「萩ーー!!!!」
爆発のほとぼりが冷めた頃、崩壊することはないと作之助がなぜか断言して階段から降りてみると、松田がこちらへと凄い勢いで駆け寄ってきた。
「あ、陣平ちゃ」
「テメェマジでふざけんじゃねーぞ!!!!!」
「がはっ!?」
そして何となく想定していた通り、綺麗に松田にぶん殴られてしまう。
研二はいってー! なんて大袈裟に叫びながら、地面へと倒れ込んだ。
すると松田はそれを全て分かってか、研二の胸ぐらを掴んで怒鳴り込んできた。
「お前防護服着ろって何回言えば分かるんだ! この大バカ野郎が!!!」
「ご、ごめんって陣平ちゃん……」
「マジで、死んだんじゃねーかとか思っちまった……」
怒鳴り込んだかと思えば、突然振り絞るように言葉を紡いできた。
そして研二と目線を合わせて、今度はデコピンをしてきた。
これが地味に痛い。
「ごめんな。ホント。流石に懲りたわ」
「次はねーからな」
「へーへー」
「……てかお前、よく無事だったな」
松田は色々と叫んで冷静さを取り戻したのか、研二の身体を見て呟いた。
多少の擦り傷や、たった今松田に殴られた怪我以外は大きな怪我はなかった。
むしろあの爆発でよくほとんど無傷でいられたな、と感心してしまうくらいには無事なのだ。
「あー、ホントそれね。兄ちゃんが助けてくれなかったら、……多分、死んでた」
「あ? 作? んでここにいんだよ。てか本人はどこいった?」
研二の言葉に目を丸くしながらも、辺りを見渡して作之助を探すが、それらしき人影は今のところ見られない。
それに対して今度は研二が目を丸くした。
「へ? 俺の後から降りてこなかった?」
「いーや。お前しか降りてこなかったぞ」
「え!? 嘘!? じゃあ幻覚……って、なわけあるか」
「……作がお前を助けたのか?」
「うん、そう。俺を肩に担いで勢いよく階段駆け下りてさぁ。ちょっと怖かったよね」
「お前もう一回殴るぞ」
「え」
「なんでそう呑気でいられんだ! 死にかけたんだぞ! てか作も作で死にかけてんじゃねー! なんで避難してねーんだよ!」
「それ本人に言ってよ……」
「チッ! ……俺は作を探してくる。お前は上司にこってり絞られてろ!」
「へーい」
ビシッと指さして、松田はマンションの敷地外へ勢いよく飛び出したのを見送った研二は、ゆっくりと立ち上がった。
「あーあ、こりゃ始末書書かされるかなぁ。……まぁ、命に代えられるものはねーか」
今度美味いカレーでも奢ってやらないとな、なんて思いながら、研二は警察官の喧騒の中へと歩いていった。
研二と別れた松田は、しらみ潰しに探そうとしても無駄だと思って携帯を開いて作之助に電話をかける。が、応答はない。
それに少しイラつきながらも、まだそう遠くには行ってないはずだと考えて、大通りの方へ向かう。が、やはりそう簡単に見つかりそうにない。
仕方がないから後で問い詰めるか、なんて諦めかけていると、突然携帯が鳴り出した。
松田が急いで出ると、そこからは作之助の声がした。
「作! テメェ今どこにっ!」
『松田、今云う場所に急いで来て呉れ』
「はぁ!?」
そうして場所を言うだけ言ってブツリと電話は切られた。
昔から少しマイペースな部分があったが、今となってはそれも憎いと言えよう。だが作之助は昔から世話焼きで、優しいのだ。
だからこそ、嘘は滅多につかない。
松田は言いたいことはとりあえず飲み込んで、急いで作之助が言った場所へと向かうことにした。
「見つけたぜ、作! ……って、何やってんだ。人を地面に押し付けて。しかも路地裏だぜ」
松田が駆けつけると、そこには男を押さえつける作之助がいた。
作之助は無表情なのに対し、男は大量の汗を浮かべて必死に抵抗している。
あまりにもアンバランスな光景に思わず固まると、作之助は更なる爆弾を投下してきた。
「コイツが今回の爆弾魔だ」
「……は?」
「爆弾魔は基本的に爆発物の近くにいる場合が多いからな。あとは勘だ」
「いや意味わかんねーよ」
(コイツが殺気を大爆発させていて分かりやすかったなんて、言えるわけないしな……)
男は離せ! やクソが! などと悪態をつくが、作之助は相変わらず冷静だ。
「……もし本当に犯人だとして、一般人のお前が出しゃばるんじゃねぇ。こういう荒事は俺たち警察に任せな」
「分かっている。だが……コイツは研二を殺そうとした。だから絶対に野放しにするわけにはいかないんだ」
作之助は静かに、しかしそこには確かな意志が垣間見えた。
昔からそうだ。
作之助は家族や友人のことになると途端に敏感になる。
特に子供には滅法優しい。
逆に言えば、そんな存在に手を出そうとすると彼は途端に苛烈な存在へと変貌する。
今だってそうだ。
研二が死にかけたから、こうして静かに犯人を狩った。
「そうかよ。じゃあこれだけは教えてくれ。なんであのマンションにいた? なんで避難しなかったんだ?」
「あそこにいたのは偶然だ。俺はあそこに住んでいるからな」
「はぁ!? 初耳だぞそれ! お前大学卒業したあとは海の見える家を買ったって言ってたじゃねーか! その為にコツコツバイトして……!」
「あの家は仕事部屋だ。執筆が終われば此方へ戻っている。アクセスはこっちの方が善いからな」
「いや確かにそうだけど……一言あっても良くねーか?」
「忘れていた」
「おいおい……」
「それと、避難しなかった理由だが…………勘だ」
「勘?!」
「俺の勘は善く当たる。松田も知っているだろう」
あぁ、そうだ。
作之助の勘はよく当たる。
それこそ恐ろしく思ってしまうくらいにはよく当たる。
特に犯罪方面の勘は凄まじいものだ。
この道を通るのは辞めろ、と言った次の日には、その近くで殺人事件が起きた時があった。これをテレビで知った時は研二と2人で詰め寄ったものだ。
「そりゃあ……! はぁ、もういい。で、本当にそいつ犯人なんだろうな?」
「あぁ。これが爆弾の起爆装置だろう」
作之助は片手でしっかりと犯人の動きを押さえたまま、犯人のポケットから小さな長方形の形をしたものを取り出した。
あまりの手際の良さに最早感動している自分がいる。
「……お前、マジでそこらの警官より優秀なんじゃねーか?」
「そんなことはない。俺はただの駆け出しの小説家だ」
「駆け出しの小説家は普通男を担がねぇし、スタントマンよろしくな動きもしねーし、こうやって犯人嗅ぎつけて捕まえることもねーよ!」
松田はつい叫ぶが、それに作之助は表情を変えることは終ぞなかった。
ちなみにこの後、研二は上司にこってり絞られたし、松田にもう一度殴られかけたし、作之助からは静かに、しかしプレッシャーをかけられながら少し説教を食らって散々な目にあったようだ。
まぁ、自業自得である。
「ただいま、姉さん」
作之助が姉である千速の家へ帰ると、千速が笑顔で出迎えてくれた。
「おう! おかえり、作之助」
「あ、おかえり〜作ちゃん!」
姉弟の笑顔による出迎えは少しだけ作之助の口角を上げさせる。
“昔”も出迎えてくれる人間はいたが、何度言われても嬉しいものは嬉しいのだ。
それに安心する。
あぁ、今日も生きてくれている、と。
作之助が少しだけ物思いに耽っていると、それを打ち払うかのごとく松田が研二の部屋から顔を出した。
「よ、邪魔してるぜ」
「……松田、お前この前も来ていなかったか?」
「悪いか?」
「いや」
「ならいーじゃねーか。千速もいるしな」
「ふ、そうだな」
松田と軽く会話を重ねていると、千速が少し眉を下げて尋ねてきた。
「作之助、お前帰ってきて大丈夫なのか? この前忙しいって言っていただろう」
「あぁ、だがもう作業は粗方終わった。もう少しで刊行されるから、買って呉れると嬉しい」
「勿論買うさ! お前の話は面白いからな!」
「確かに。何だかリアリティあるよね。表現が生々しいし。読んでると追体験しているみたいで変な気分になる。……あ、褒め言葉だからね!?」
「よく書けるよなー、すげぇよ作」
「ありがとう」
次々に出てくる褒め言葉に、再び口角が上がるのを感じた。
“昔”は幼少期に色々とあったせいで、感情を表に出すことがめっきり減ってしまったが、カタギとして“今”を生きていくにしたがって、次第に表情筋が柔らかくなったのではないかと自負している。
実際その通りだろう。
まぁそれでもお前は分かりにくいとよく言われるのだが。
「高校の時は驚いたなー。まさか作ちゃんが小説家になるなんて聞いたときは。全然それっぽい素振りもイメージもなかったからさ。てっきり俺はスポーツ系の何か、またはスタントマンとかをするかと思ってた」
「俺がスポーツ? 冗談は辞めて呉れ」
「いや冗談じゃありませーん。ホント、昔から謙虚というか、卑下しすぎというか……」
「まぁまぁ! いいじゃないか! それより作之助、また収入の一部を寄付に注ぎ込んだってな。寄付もいいが、自分を蔑ろにはするなよ。本末転倒だからな」
千速の言う通り、作之助は収入の一部を寄付している。
主に孤児院や世界で苦しんでいる子供に対する寄付だ。
「嗚呼」
「あぁって、それだけかよ」
「あはは。でも姉ちゃんの言う通りだぜ。ま、作ちゃんがビンボーになっても、俺が養ってやるよ」
「お、いいなそれ。目いっぱい慰めて甘やかしてやろう」
「……それも、悪くはないな」
「お、作実はやっぱりブラコンシスコンか?」
思わず零れた一言に、すかさず松田が反応した。ニヤニヤと笑っており、非常に楽しそうだ。
「いやー、そこまではいってないと思うけど」
「よぉし! 今日は研二の奢りだ! 腹いっぱい食べるぞ! 陣平も来るだろう?」
「行く」
完全に場は千速のペースに呑まれているが、研二はそれを跳ね返して反論した。
「ちょっと待てよ姉ちゃん! なんで俺が奢るの!? 話の流れ的に作ちゃんが奢る感じでしょ!」
「俺は別に構わない」
「なんだ文句があるのか、研二。たまには私達姉弟に奉公しろ」
「えーー!」
結局この後、研二は全員分の食費を奢ることとなり、少し懐が寂しくなったようだ。
ドンマイである。
そこには静かにこちらを見つめる、背の高い男がいる。赤銅色の頭髪に顎には無精髭、それでいて何も考えていないかのような、意思の読めない顔をしている。
男は小説家だ。
しかも以前から話題になっており、その人気はうなぎ登りだ。
男が現在執筆している小説は、裏世界のちょっとした日常などを描いており、時にはシリアスで苛烈なアクションの描写を差し込むそのギャップに魅了された人間は多い。
そんな男は今、別の男から得物を向けられていた。
事の始まりは昨日まで遡る。
男───萩原作之助はショッピングセンターに来ていた。
目的は買い物である。
近々双子の弟である研二の誕生日を迎える為に、そのプレゼントを買いに来たのだ。
だが作之助はそういうことに少し疎い為、何をプレゼントに買えばいいかを悩んでいた。
弟ならばきっと何を買っても喜んでくれるだろうが、それでも一等喜んで欲しい。
だから悩みまくっていた。
研二は車などが好きだし、機械をいじることが好きだ。
しかし作之助はそういうことに拘りが無いため、プレゼントに見当が付かずにいるのである。
「…………車関連のものを買うか」
少しだけ方針が決まり、早速それ関連のコーナーに向かうことにした。
そして件のコーナーに来て数十分。長考した末に、作之助は無難にキーケースをプレゼントすることに決めた。
作之助はレジで早速購入し、満足していた所で嫌な臭いを嗅いだ。
それは“今”では滅多に嗅ぐことのない、血の臭いだった。
作之助は急いでその臭いを追うと、そこには警察が既に到着しており、捜査を開始していた。
それに少しホッとしつつも、その場を離れようとしたが出来なかった。
なぜならその捜査現場にまだ幼い少年がウロウロと歩いていたからだ。
「……………………」
止めるべきなのだろうが、警官が何も言わないということは許容しているということだろう。
ならば下手につつくべきではないか、そこまで考えて帰ろうとした。ら、少年がパタパタとこちらへ駆け寄ってきたのだ。
作之助は少年と目を合わせるように、その場でしゃがみこんだ。
「どうかしたか?」
「ねぇお兄さん、ここでね、殺人事件が起きたの。それで犯人がまだこの場にいるって警察の人達が言ってるんだ。お兄さん、誰か怪しい人見かけなかった?」
「いや、俺は今ここに来たばかりだし、普段からここに住んでいる訳ではない。だから犯人のことは分からないな」
「ふーん、そっか。ありがとうお兄さん!」
「嗚呼。……君、あまり危ないことには関わらない方が善いぞ」
「わかった! 気をつけるよ!」
そこで少年とは別れ、作之助は無事に帰宅した。
そしてニュースで事件が解決した旨を見て安心した翌日。
つまり今日。
作之助は、研二からオススメされた喫茶店を訪れた。
扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴り響き、中々に趣きある店だ。
なんて少し感動していると、見覚えのある顔が店員としてそこにいた。
「いらっしゃいませ」
「……………………」
研二の紹介で数年前に何度か会ったことがある。まぁそれっきり会ってはいないのだが、それでも弟の友人ということで顔をよく覚えていたのだ。
……いや、それ以外に1度だけ出会ったことを思い出した。
アレは2年前くらいだっただろうか。
「お客様、カウンターでも宜しいでしょうか?」
「───嗚呼、構わない」
思考の海に浸かりかけていたが、店員の声で現実へと引き戻される。
「お客様、来店は初めてですよね?」
「嗚呼。双子の弟にオススメされた」
「ほぉー」
あ、表情が少し引き締まった、なんて呑気に考えていると、店員は作之助をカウンター席へと案内してくれた。
作之助がチラリと店員を見るが、やはり見覚えがある。声もそうだ。
作之助が色々と疑問に思っていると、それを察してだろうか。
店員は口を開いた。
「僕の名前は安室透です。最近バイトとして雇われた新人なので、お客様と似たようなものですね」
「安室………………生き別れの兄弟?」
「はい?」
「いや。なんでもない。サンドウィッチと珈琲を頼む。弟から絶品だと聞いたんだ」
「……承りました。ではどうぞごゆっくり」
散々疑っていたが、安室の回答によって合点がいった。
きっと生き別れの兄弟で、互いにそのことは知らないのだろう。
作之助が勝手に納得していると、隣に昨日会った少年が座った。
「お兄さんって誰からこのお店を紹介されたの? ボクの知ってる人かも!」
「萩原研二だ。知っているか?」
「あ、知ってるよ! 爆弾解体する人だよね!」
「嗚呼。正解だ。そうか、研二と知り合いか」
「うん! ボクね、この間色々と教えて貰ったの!」
「色々……何を教えて貰ったんだ?」
「車のことだよ!」
「そうか。……長かっただろう」
「あー、あはは、でも楽しかったよ!」
「それなら善かった」
子供が笑っているとこちらも嬉しくなる。こうして平和な世界に生まれて自分はラッキーだ、と考えていると、安室が珈琲とサンドウィッチを出してくれた。
「ありがとう」
「いえ」
「あ、そう言えば自己紹介してなかった。ボクは江戸川コナン。この上の階で探偵をやってる毛利のおじさんの所でお世話になってるんだ」
「そうか。俺の名前は萩原作之助。あまり似ていないが、一応研二とは双子で、兄に当たる」
「じゃあ作之助さんって呼ぶね!」
「嗚呼。よろしく、コナン」
「うん!」
2人で仲良く談笑しながら。作之助はサンドイッチを口に含んだ。
サンドイッチは絶品だった。
確かに研二が太鼓判を押すだけはある。
そうして半ば夢中に食べ、あっという間に平らげた。
「美味いな」
「でしょー! 安室さんのサンドイッチは凄く美味しいんだ。学校の皆ともよく食べるんだー」
「そうか。……なぁ、ここに咖喱はあるか?」
「ありますよ」
「辛さは如何程だ?」
「中辛でしょうか」
「……そうか」
安室が正直に答えると、作之助の雰囲気が少し萎んだ。
それは初対面である安室達から見ても明らかであった。
「作之助さんはカレーが好きなの?」
「嗚呼。辛ければ辛い程善い」
「なるほど、辛党なんですね。それなら多分お客様のお口には合わないでしょう。ウチはスパイスから取り扱っているわけではないので。すみません」
「構わない。此処は専門店ではないからな」
そこまで言って作之助の視界に数秒先の映像が映り込む。
作之助はすぐさまコナンを抱っこして隣の椅子から一つ隣の椅子に座らせた。
それはとても素早く、コナンが認識する間もなく行われていた。
そんな状況にコナンが困惑していると、扉が勢いよく開かれて、目出し帽を被った2人の男が入ってきた。
「おい! お前らそこを動くんじゃねーぞ! 今すぐ金と車を用意しろ! 動いたらコイツの喉を刺す!!」
2人組のうちの1人が、作之助の首に得物を突き出した。
腕を少しでも前に出せば、首を刺してしまう距離である。
「分かりました。なのでその人をどうか解放してください!」
「だったらさっさと今言ったもん出せ! 車もだ!」
男がそう叫んでいるが、3人の心中は今この瞬間一致した。
(いや、ここ駐車場ないから車用意するの無理だろう……)
しかも今この場にいる人間は安室とコナンと作之助だけである。車を用意出来るのはパッと見安室と作之助だけだが、作之助は現在人質となっているし、安室はお金の用意がある。だから車を用意出来るのはしばらく時間がかかりそうであった。
ちなみに梓は現在、客の入りが少ない時間帯だからと行って買い出しに行っており、幸運にもこの場にはいない。
だからと言ってバカ正直に色々言っても、2人を余計に刺激するだけだ。そうなってしまえば作之助の命が危ない。
特に安室は降谷として、同期である研二の家族をこんな所で喪うわけにはいかないと考えていた。
そして安室が会話を紡いで、お金の用意をしていると、外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
状況から察するに、強盗して警察に捕まりそうになった2人の、偶然駆け込んだ店がポアロだったようだ。
迷惑極まりない話である。
「クソ、クソ! もうサツが来やがった!」
「おい、どうする!?」
2人が揉め合っている今がチャンスだ。
そう認識した安室とコナンが動こうとしたその瞬間、作之助が後ろに仰け反って男に頭突きをした。
そして怯んだ隙に得物を奪って店の奥に蹴り飛ばし、完全に気絶させる。
その後、流れるようにもう一人の男に近づいて首を締め上げて気絶させた。
あっという間の制圧劇である。
安室とコナンは唖然とするしかなかった。
「何か縛るものはないか? ……嗚呼、警察に突き出せば済む話だな。二人共怪我はないな?」
「う、うん……」
「ならこの二人を警察の元へ連れていこう」
「は、はい……」
全然ついていけなかった。
というか作之助は終始焦りを浮かべなかったし、汗一つ流さなかった。悲鳴もあげなかった。
どこまでも凪いでいたのだ。
「…………ねぇ、作之助さんって、何者なの?」
コナンが問う。
なぜなら作之助の動きは到底素人のものとは思えなかったからだ。
あんな動きが出来るならば、もしかしたら───なんて考えすら浮かんでいた。
まぁバカ正直に答えるバカはいないだろう。それでも、問わずにはいられなかった。
「俺は、しがない小説家だよ」
作之助はどこまでも落ち着いていた。
何事もなかったかのような、そんな感じ。
コナンの問いに答えて満足したのか、作之助は2人を引き摺って外へと出ていってしまった。
「……ねぇ、安室さん」
「彼は一般人だよ、……多分ね」
「えー、でも……」
「彼は白だ。真っ白なんだよ。どこまでも。でも、確かにあの動きは常人には到底出来ないものだ。まるで歴戦の猛者のような───そんな感じだよ。でもね、彼は僕の同期の命を救ってくれた。だから僕は彼を信じている」
「救った?」
「まぁね。長い話になるから詳しくは言えないけど」
「ふーん。まぁ、安室さんがそう言うのなら」
それだけ言ってコナンも作之助に続いて外へと出ていった。
その場には安室ただ一人だけだ。
「……不思議な人だよ、本当に」
◆
「おいてめー作! 何強盗に巻き込まれてんだ! 無事だから良かったものの、一歩間違えればお陀仏だって聞いたぞ!!」
件の事件からしばらくして、作之助が家でテレビをボーッと見ていると松田と研二が突撃してきた。
2人には合鍵を渡してあるので、最早第二の家のような扱いなのだろう。
家主を前にしても堂々としている。遠慮が全くない。
まぁそれが彼ららしいと言えばらしいのだが。
「心配かけたな」
「まぁまぁ陣平ちゃん、落ち着いて」
表情を変えない作之助と、松田を宥める研二に松田はピキりと血管が再び浮かび上がる。
「なんでお前ら揃って何ともない顔出来んだ!? 特に萩!」
「えー、だって作ちゃんだよ? そんな簡単にくたばるわけないでしょ」
「………………」
「確かにコイツはタフなやつだけどよぉ……はぁ、作。お前この後暇か?」
「嗚呼。特に予定はない」
「なら付き合えや。飲むぜ」
「分かった」
「お、いいね! 飲んじゃお飲んじゃお!」
「せっかくだから班長も誘うか」
「えー、班長? 確か最近奥さん妊娠してなかった? 辞めた方がいいんじゃない? それに作ちゃんとはあんまり関わってないし」
「………………それもそうだな。よし、いますぐにいつもの店行こうぜ」
「分かった」
作之助が頷いたのを見て松田は口角を上げる。それに無事も確認できたので上々だ。
松田はなんだかんだ作之助を心配しているのである。
まぁ作之助には滅多なことはないと信用してはいるが、それで心配するなと言われて出来るわけがないのである。
こうして3人で居酒屋に行くことが決定したのだが、その道中で作之助が衝撃的な言葉を口にした。
「そういえば、あのポアロの店員なんだが」
「あぁ、安室ちゃんね」
「ふ、…それがどうした?」
「きっと生き別れの兄弟がいるに違いない」
「ブッ!」
「ぐ、ちょ、まって。それは予想外。流石作ちゃん。……く、くは、あはははっ!」
「やっべー、腹いてー……! くくく……!」
クソ真面目な顔で呟くものだから、作之助以外の2人は吹き出して大笑いし始めた。
こういう所があるから、作之助は面白いのだ。きっとそれを分かっていて研二はポアロを作之助にオススメしたのだろう。
「何か可笑しいか?」
「いーや、何も、……く、あははっ!」
「よぉし作! 今日はしこたま笑わせて貰った礼に俺らで奢ってやる!な、萩!」
「いいね、賛成!」
「? いつの間に奢られる側になったんだ……」
「いいからいいから。ほら、早く行こう!」
「作、たらふく食えよ!」
「…………ふ、嗚呼。そうさせてもらおう」
2人が笑っていると作之助も嬉しくなり、つい笑いが零れた。
そして同時に思った。
こんな人生を歩めるなんて、なんて幸せなのだろう。と。
“昔”では考えられなかった。
“昔”は“昔”で楽しいこともあった。しかし同時に苦しいこともあった。
だから、苦しいことが一切ない“今”の人生は、まるで劇薬のように作之助をハマらせた。
だから、この生活を懸命に守りたい。
だから、この生活を害する者を野放しにはしておけない。
「研二、松田」
「んー?」
「なんだよ」
「今度は俺に奢らせて呉れ」
「はっ、そりゃあ楽しみだな」
「作ちゃん印税いっぱい貰うだろうし、あやかっちゃおうかな」
▽成り主
萩原家の長男であり、萩原研二の双子の兄。二卵性双生児。
外見は姉弟と似ていないが、本人達はめちゃくちゃ仲が良い。
身体能力や異能力は健在で、コナン世界じゃ完全にチート。小説家の皮を被った化け物。
しかし本人は一般人だと言い張っている。嘘つけ。
生まれた時からカタギだが、前世での経験はそう簡単に拭えないので、分かる人には何となくコイツ……みたいなことは思われている。動きが素人じゃねぇ。
多分灰原に会えば怖がられる。雰囲気は一般人ぽいが、多分接触すると本能で理解してそう。
ペンネームじゃなくて本名で小説家活動をしており、今回で人生3度目を謳歌中。
最初は全然有名じゃあなかったが、さる著名な作家の目にとまって日の目を浴びる機会を得た。それ以降、順風満帆に名を売ってそこそこ有名に。
原作の時間軸では太宰と安吾と過ごした日常をぼかしながら書いており、描写がリアルで没入感があると話題に。
前世の凄惨な経験のせいで、今世の人生を失いたくないと強く思っている。かといって前世の楽しかった経験も忘れたくないので、書きたいことを終えた後は備忘録的な感じで書いている。
※読者はそんなこと全然思っていない。
本編で萩原研二を救済したし、犯人も経験と殺気で逮捕したので、松田は爆処のままで元気に生活することに。
諸伏も一応生きている。成り主が廃墟の描写をするためにウロウロしていたら降谷に会い、少し会話をしたため死を回避した、という話があったが、書ききれないためここに記しておく。
伊達は早朝に散歩していたら偶然会い、未来予知で回避。書ききれな(ry
続きはあった方が良いでしょうか。
書くなら警察学校と絡んでほしいし、探偵団とも話してほしいし、昴さんと絡めるのもアリ……かな。
ちなみに救済は警察学校組だけかな。
▽萩原研二
成り主の双子の弟。
極たまに(切羽詰まった時?)成り主のことを兄ちゃんと呼ぶ。
成り主のことは性格含めてめちゃくちゃ尊敬している。そもそも命の恩人だし。
昔から不思議ちゃんだなー、とか身体能力えっぐ、とか思っているが、最近慣れつつあるしそれも魅力だなーと思い始めている。
成り主のちょっとズレた発言を聞くのがツボ。一生そのまんまでいて欲しい。
▽松田陣平
萩原家と長い付き合いで、男2人とは親友。そして千速に惚れている。
成り主が萩原を助けてくれたことに対して深く感謝しており、コイツが困ったことがあれば手を貸す、助けるとか思っている。
だが成り主は困ったことをあまり口に出さないし、いつの間にか自分で解決しているので少しそれが嫌。そして守るべき存在とか思われていることを何となく察しており、それにも腹が立っている。
それと、成り主が近所の老人に捕まって長話を聞かされ、約束の時間に来ないことに一番ブチ切れているのはこの人。
老人より俺らを優先しろとか思ってそう。
▽萩原千速
可愛い弟2人がいて、しかも毎日楽しく過ごしているようでニッコニコ。
時々家に集まって家族でご飯を食べたりしており、それが至福の時。
成り主の書く小説が凄く好きで、発売日に速攻で本屋に突撃している。
▽江戸川コナン
なんかすげーやべー人だと思っている。
でも安室が白だと言うのならそうなのかな、ととりあえず信じることに。
しかし灰原が怯える素振りを見せた途端野良猫のように威嚇するかもしれない。
▽安室透
多分成り主には頭が上がらない。
だって同期の命を救っているから。それに普段から特に子供などに優しいから、そんな成り主に害そうとする輩が現れた暁には、社会的にも色々と抹殺していそうな感じはする。
それはそれとして、最近成り主が妙に生暖かい視線を送ってくることに疑問を抱いているし、松田と萩原が喫茶店に来る度に吹き出すのでぶん殴りたいと思っている。
























