Novel2 years ago · 1.3w chars · 1 pages

成り代わりだと思ったけど成り代わりにならなかった話2

みかんみかん

〈要約〉 某サッカー漫画である笛の三上亮に成り代わったと思ってたら笛の世界じゃなくて困惑しながらなんとなく流されるまま生きてる話。 「三上亮」をご存じの方が意外といらっしゃってめちゃくちゃ驚いてるし嬉しかったので続きを書いてしまった…。(でも目標のシーンまではいかなかった……。) せっかくだからあと2シーン書きたいところを書き終わるまで頑張ってみようと思います。 あと余力があれば違うキャラの視点版とか書けたらいいなぁと思いました。 *なんでも許せる心の広い方向け。 *(ないとは思いますが)如何なる理由があろうとも転載等の行為は固くお断りします。 *合わないと思ったら回れ右してください。自衛、大事。 *読了後の文句は一切受け付けていません。 ふわっと知識なので口調とか設定とか違うかもしれないのは大目に見て欲しいです。 各学校の設定や特色は一応ファンブックも参照したけど多分に私の独断と偏見が混じってるので捏造がひどいかも。 あんまり絡んでないのにタグつけていいか判らんかったけどわかりやすいかと思って名前出したキャラだけタグ付けました。 今回の話だと飯綱さん以外はほぼ出てないです。 とりあえず友情寄りで書いたつもりですが、私の根が腐っているので将来的にはどっかのルートに入るんじゃないかなと思います。

ついに、中学校3年を卒業してしまった。
 結局『ホイッスル!』の原作が始まることなく、俺が『三上亮』の顔をしている意義も意味もわからぬまま迎えた高校1年の春。
 俺は新しい制服に身を包んで指定された教室の自分の座席に腰かけ、麗らかな春の日差しに思いを馳せた。

 中学三年の受験。俺は「バレーに命を懸けていないので推薦がもらえるはずもない」と思っていたのだが、なんと2校からスポーツ推薦のお誘いを貰った。

 推薦のお誘いを貰った高校の一つは音駒。昔強かった守備力の高さが特徴のチームで、おそらくゲームメイクするセッターが欲しかったんだと思う。俺のプレースタイルは自分で練った戦略に従って一連の流れを重視する。攻撃は可能であればするが無理なら繋ぐだけで良いという攻撃に重きをおかないスタイルだ。だから攻撃よりも守備力を重視する音駒と相性が良いと判断されたんだろう。
 もう一つの高校が梟谷。こっちは音駒と反対で攻撃型。強豪だからセッター候補なんていくらでも居るだろうに、と推薦の話に首を傾げていたが、風の噂で強力なスパイカーを獲得したとの情報を得た。つまりはおそらく、同年代のセッターを始めから組ませて育てようという目論見とみた。

 どちらもセッターとして買ってくれているらしいが、正直バレーは中学で終わろうと思っていたので推薦の話はちょっと……。とはいえ、お誘いを受けているのにスッパリ「行きません」と断るのは後々後輩への推薦話に影響するかもしれない。そう思うとすげなく断るのは気が引けて、とりあえず2校の試合の映像をいくつか取り寄せて検討している体を装うことにした。

 そうして思った。たぶん、どちらの学校も合わないだろうな、と。

 音駒は全体的にレシーブもディグもレベルが高い。ブロックもリードブロック主体だがドシャットが出来ないこともなく、要所要所で効果的にブロックを成功させては相手に圧を与えて、レシーブで繋ぎながら虎視眈々と相手のミスを誘発する手管は勉強になる。このプレイを見ていると俺のプレースタイルと相性は良さそうなのだがいかんせん問題が一つ。
 俺のレシーブ能力の問題だ。
 プレーの相性は良くても、俺自身がそこに入って上手くやれるかと言うのはまた話が別である。俺もバレー界隈では身長が低い方であるからブロックよりもレシーブを練習したが、俺の能力値は俺が一番理解している。俺のレシーブ能力は音駒レベルに全然届いていない。もしかしたら入学して3年間死ぬ気でみっちりレシーブを練習したら音駒で戦えるレベルの能力を手に入れられるかもしれないが、俺は高校生活は将来を見据えた勉強メインにいきたいと思っている。よって、例えバレー部に入部しても居残り練習までするつもりはないのだ。居残り練習なしで音駒のレベルのレシーブ力を身に付けられるかがわからない状態では、俺が音駒に入っても足手まといか弱点になる未来しか見えなかった。
 あと気になったのは音駒の偏差値が俺の学力からは少し低いこと。これは謙遜する必要もないくらい純然たる事実で、担任も「三上の成績をみる限りもう少し上を狙える」との評価をもらっているから間違いない。それに、狙っている大学に行くにはもう少し勉学に力を入れている高校が良いと思う。担任からも「入りたい大学があるならもう少し偏差値が高い学校の方が安心だろう」という助言もあったし、俺は音駒の推薦の話は丁寧に断った。

 次に梟谷の方。こちらは偏差値的にはちょうどいい。「梟谷グループ」というものがある学園だけあって豊富な資金にに見合った優秀な教員が多く、文武両道を掲げて運動も勉学も、もちろん部活動にも力を入れている学校だ。あと図書館がデカい。調べたところ意外と幅広い分野を学ぶことが出来そうな学校なので興味はある。
 バレー部としての梟谷はスパイカー主体の攻撃的なチームだ。よって、今の俺のプレーではあまり馴染まない。入部するならプレースタイルの見直しと再構築が求められるだろう。しかもスパイカーの性格が俺と合わなかったら調整が難航することもあるだろうし、音駒とは違った苦労が目に見えている。強豪というだけあって全体的にどのポジションもレベルが高く、練習も厳しい。杜中学校レベルの練習しかしていない俺はきっとすぐに体力の限界を迎えて脱落しそうな気がする。
 それに……まあ、せっかく強力なスパイカーを獲得したんだ。俺が監督ならセッターも優秀な人間が欲しい。とはいえ、中学で活躍しても高校で活躍できないことなんてザラにある。誰か一人に目をつけて熱心に勧誘して、そいつがセッターとして花開かないなんてことがあればせっかくのスパイカーも本領発揮せずに一緒に崩れてしまうかもしれない。となれば、だ。梟谷が取る最善の手は、めぼしいセッターに声をかけて何人か招聘すること。そこから練習でふるいにかけ、メインのスパイカーと相性がいいセッターを選んで育てて正セッターに据えるのが一番だ。怪我とかの心配もあるし、できれば控えのセッターも欲しいところだろう。それはつまり、最終的に複数のセッターが手厚く育ててもらえて、かつ、試合に出られる可能性を秘めているということである。ただ、そういう可能性は裏を返せば、たくさんセッター候補が呼ばれるだろう梟谷のバレー部に入っても最終的に俺が選ばれない可能性もまたあるということで。梟谷からの推薦をもらった時、俺の頭では「候補に選ばれるかわからん練習の厳しい梟谷に俺がわざわざ行く必要あるか?」という疑問が頭を占めた。というか将来バレーボーラーになりたいわけでもないし何なら高校ではバレーやらないつもりの俺が梟谷でセッターをやりたい人間と同じ舞台に立つのは失礼極まりないと思う。だから、梟谷の推薦も丁寧にお断り申し上げた。

 まあ、色々ぐちぐち理由を並べ立てたが、要は「バレーはしないつもりなので推薦は受けない」である。もちろん、すげなく断っては、推薦の話を持ってきた顧問と一緒に高校について調べてくれた担任の顔に泥を塗るようなものである。それは良くない。こういうのは下手な対応を打つと後々自分に不利な状況を生み出しかねない。慎重に、各方面に配慮を見せることが重要である。時と場合には因るが権力にはおもねっておいて損はない。
 よって、俺は立つ鳥跡を濁さずの人生を歩むため、何重にもオブラートに包んで断る事を決意。断りを入れるのは推薦の話を貰った数日後とし、俺は顧問と担任に「高校では部活より勉強を優先したい」「高校でもバレーをやりたいという熱意のある人間の邪魔はしたくない」という理由をふんわりいい感じに伝えた上で受験は一般入試を受けることを伝えた。
 実際、顧問も担任も俺の「悩みに悩んで決めました」という表情と声に騙されて「三上が決めたなら」と推薦をくれた2校に角が立たないよう断ってくれることを快諾してくれた。こういう小手先的で姑息な手を取るのはちょっと「三上亮」っぽい気がする。

 と、いうわけで俺は推薦を蹴って受験は一般入試で受けることにした。とはいえ、運動部に所属していても俺の成績は学年で上から数えた方が早いぐらいである。なんといっても前世というアドバンテージと緩いバレー部生活のおかげで勉強する時間は十分取れていたので。成績は上位、模試の結果も上々とくれば高校は選びたい放題といっても過言ではなかった。人生勝ち組である。(余談だが、そのことを赤葦にドヤ顔で自慢したら平坦な声と無表情で「そうですか。よかったですね」と淡々と返されてちょっと凹んだ。)
 で、数ある高校の中で、俺が将来に向けて勉強したい分野をしっかり学べるor勉強したい分野に強い大学を目指せそうな偏差値が高い高校をいくつかピックアップし、担任とも話し合いを重ねて熟考した。そこから俺の自宅との距離、通学手段等々を加味して精査した結果、俺が選んだのは井闥山学院高校という学校だった。

 この井闥山、学院というだけあってデカい。梟谷と良い勝負するぐらいデカい。学問に力を入れているので通常の科目も普通の高校より深く学ぶ事が出来るのが特徴で、学科も細かく別れていて選びたい放題な上に週に数回は自分で選んだ授業を受ける事が出来るという。要は大学のようなシステムである。将来について学びたいことを生徒に選ばせて学ばせる姿勢は俺にとってとても魅力的だった。なぜなら生徒自身にやる気があればあるだけどれだけでも学ぶ事が出来るということだからだ。
 しかも学院というだけあって大学も併設されている。あまり事例はないが、学校側の推薦があれば大学の研究棟への出入りも、教授へのコンタクトを取って研究への質問も可能だという。ここできちんと学びきる事が出来ればどんなに良い企業へ就職できるか。考えるだけで笑いが止まらない。手厚い支援に鳥肌が立つなぁ。
 なにより、この学校を選んだのは「海外交流」を売りにしていること。交換留学や短期ステイも行っているのが良い。なんせ「三上亮幸せ計画」のために諸外国の言語の取得を独自に進めてきたがやはりテキストとCDでのリスニングだけでは限界があったのだ。自分の発音が最良なものかもイマイチわからないのも良くない。やはりちゃんとした教師に教わって、可能なら留学でもして自分の語学力がどれだけのものか、現地でどれだけ通じるか試したい。
 担任も「少々偏差値が高いので進学先として選択をする生徒はほぼいないが、三上なら大丈夫だろう」と背を押してくれた事だし、俺は俺の将来のために努力は惜しまない男なので、入試のみならず面接での応答も練りに練って最後まで気を抜かず、万全の態勢で井闥山学院の入試に挑んだ。

 結果はもちろん文句無しの合格。俺はやれば出来る男なのだ。

 さすがに首席を取る事は出来なかったが仕方がない。上には上が居るものだし、下手に首席を取って目立っても良いことがあるとは限らないのでそこは気にしていない。や、マジで気にしていないから。マジで。……まあ、ちょっと?ほんの少し?小指の先ぐらいは「あんなに勉強したのに」と思わなくはないが?テストだって数学以外は満点は取れなかったが限りなく満点に近い点数を叩き出したはずなのに首席じゃなかったのは驚きましたけど?別に1位を取れなくても死なないので首席になれなかったことは気にして……………………いな………………………………………………いや、まあ……若干悔しいが?!?!?!ああ!悔しいとも!!!!!悪いか?!?!あー!もう!!英語と世界史の凡ミスさえなければ……!!国語で漢字のド忘れさえなければ……!!!何より日本史で人物名さえ間違えなきゃ……!!!くっそ!!藤原も北条も徳川も子供に似たり寄ったりの名前付けんのヤメロよ!!!ややこしいんだよ!!!!!あいつらが個性的な名前を付けてくれていたら文句無しの満点で俺が首席を取れたのに!!!!!!バカ!!!俺のバカ!!!!!!

 とまあ、心の中でハンカチを噛み千切る勢いで荒れようと、今さら過去の過ちを悔いても仕方がないのでこの悔しさはこれからの勉学に励むエネルギーに換えるとして。ひとまず第一志望の井闥山学院に入学はできたのでよしとすべきだし、首席を取れなかったとはいえ、入試の結果を見るに上位には食い込んでいるはずである。常に上を見据えて1位を取るための努力と上昇姿勢は必要だが、そこだけに拘って周りが見えなくなっては良い結果を残せない。過去は忘れず、上を見据えて努力すること。大丈夫だ。俺は過去に囚われない男。

 と、まあそんな心の荒れ模様は置いておいて、本日入学式を終え、教室で学院についての説明を受け、自己紹介を終え、つまらないチュートリアルを終えてさあ、帰って選択授業の精査でもするか!と意気揚々と帰路に就いたのわけだが……。

 俺は今、過去5本の指に入るぐらい困惑している。

「なあ!あんた杜中の三上だろ?!うわー!あんたも井闥山だったのか!」

 その理由は単純明快。廊下で突然長身イケメンになんか良くわからんがフレンドリーに話しかけられているからである。

 お前は誰だ。

 イケメンはひとしきり感動の再会的な雰囲気で色々捲し立ててから「飯綱掌」と名乗った。
 どうやら中学でバレーをしていて、俺の事も大会会場で見て知っていたらしい。ポジションは俺と同じでセッター。大して強くもない他の学校の人間を「ポジションが一緒だから覚えていた」とか言うこいつのバレーに対する姿勢には感服するわ。すげーな。俺には出来ないことだ。
 強豪校に在籍していたそうだが、すまんが俺は知らん。俺がバレー狂いなら強豪校のエースや有名になっている強いやつの情報も追っかけるのだろうが、俺はサッカーやるまでの繋ぎにバレーをしていた半端者なのでその手の情報に疎い。一応中学の時に対戦校の情報は集めたがそれ以外はスルーしており、強豪校でも対戦していなければ知らないのだ。……いや、今嘘吐いたわ。訂正しよう。対戦相手でも対戦終わったら忘れちまうから、もしかしたら過去に対戦してたかもしれない。覚えてないけども。
 で、そのイケメン飯綱君……いや、同級生だし呼び捨てで良いか。飯綱は以前大会で見かけた俺を廊下で偶然見つけて、同じ学校であったことを喜んで声をかけた、というのが事の真相らしい。こわ……。普通、顔を知っているだけで「おっ、声かけよ!」ってなるか?俺はならんぞ……。コミュ力高すぎだろう、こいつ……。これだから陽キャは……。
 飯綱は俺がドン引きしている間もなにやら嬉しそうに話しかけてきていて、終わりが見えない。色々話しかけてくれているところ悪いが、俺は早く選択科目の精査をしたい。よって、俺は早く帰りたいので飯綱のお話はほぼほぼ聞き流して、飯綱の話には「ああ」とか「へえ」とかいかにも「興味ありません」という態度を貫いているのだが、飯綱は全然めげる様子がない。心臓が強すぎる。仕方がないので話しかけられている状態のまま帰路へと歩みを再開させて会話を終わらせようとしたのだが、飯綱は普通に俺の隣を陣取って付いてきた。なんだ?行き先が同じなのか??すごく自然に隣に並んでいかにも「俺たち旧知の仲です」というスタンスで振る舞われてしまって俺はどうすれば良いかわからないんだが?こんなグイグイ来るタイプ、俺の回りには居なかったから対処の仕方がわからない。わからないから俺はそっとしておくことにした。君子危うきに近寄らず。早くどこかへ行って欲しい。
 しかし、俺の願いとは裏腹に飯綱は全然去る気配を見せなかった。ついでに会話(というか一方的に飯綱が喋りかけてくるだけだが)も途切れず、どうすれば会話が終わるのかわからないまま廊下を進み、階段を降り、下駄箱に向かうものの飯綱は話を終わらせる気配も立ち去る気配もなく付いてきた。こいつどこまで付いてくる気なんだ……?もしかしてこのまま家まで付いてきたりして……。そうなったらどうしたらいいのか……。Hey、S○ri。突然距離を詰めてくるイケメンの対処法を教えてくれ。え?検索結果がありません?
 心の中のS○riがポンコツで役に立たない事に舌打ちをしても事態は良くならない。相変わらず飯綱は隣を陣取って喋りかけてくるので俺は困惑したまま数分歩き続けた。そうしてどこまで飯綱が付いてくるのかわからない不安を抱えたまま歩き続けていたわけだが、玄関が見えてきた辺りで希望が見えた。神は俺を見捨てなかったのだ。
 なんと、あれほどぴったり俺に付いて歩いていた飯綱は下駄箱に着いた時点でようやく方向を変えてどこかに消えたのである。いや、消えた、というか十中八九自分の下駄箱へ向かったんだろうが、俺としてはチャンスであった。
 玄関前は部活の勧誘で人で溢れている。このまま速やかに靴を履き替えて人混みに紛れればあいつを上手く撒くことが可能だ。なにせ俺のクラスの下駄箱は正面玄関口の真ん前。靴を履いてすぐに出ることが出来る高立地条件の場所にある。これなら俺が靴を履き替えて出るまでの時間は飯綱より絶対早い。勝った。何に勝ったか良くわからないが謎の勝利の味を噛みしめて俺は最短ルートで下駄箱へ向かい、靴を取り出した。

 例えばここで俺が180cmオーバーの大男だったら、俺が先に人混みに突入しても人混みから頭一つ分抜けて見つけやすいだろう。だが幸か不幸か俺の身長は去年から変わっていない。運動部なら俺ぐらいの身長はざらにいるので人混みに入ればまず見つからないだろう。……言っていて虚しくなってくるなぁ。あまり考えていると悲しくなってくるので考えたくないが、この際、あの陽キャの権化である飯綱を撒けるなら我慢することにして、俺は履いた靴で地面を数回叩いて人混みに突入した。
 つもりだった。

「三上!」
「うわっ!」

 華麗にフェードアウトするつもりの俺は玄関から外に出てたったの2歩進んだだけの場所で名前を呼ばれて肩を叩かれた。誰に?もちろん、飯綱に、だ。
 人混みに突入するまであと半歩というところだったのに俺の逃走は呆気なく終わりを迎え、「撒ける」と安心していたところに声をかけられた俺は驚いて声を上げた。驚いて跳ねた俺の肩に乗っていた飯綱の手は、俺が驚いたことに驚いたように引っ込んで、代わりに飯綱は俺の正面に移動して逃走経路を塞ぎつつ心配そうに顔を覗き込んできた。こいつ……俺を逃がさないつもりか……?!

「ごめん、そんなに驚くとは思わなかった」
「……あー、いや。……うん。大丈夫。俺も声出して悪かったな」
「おー」

 自然に逃げ道を塞ぐテクに恐れおののきながらなんとか言葉を返す。しっかりと視線を合わせて謝られたら、こちらも謝らねばならない気がするのは俺が日本人だからか。覗き込まれるということは俺より飯綱の方がデカいということで、身長差を強調するような仕草にイラッとしながらもちゃんと言葉を返した俺は偉いと思う。……まあ、何が「大丈夫」なのか俺でもわからないが、ちゃんとした言葉を返しただけ先程よりは対応が良いと思ってくれた……、のかどうかわからないが、飯綱は俺の返事にニカリと爽やかに笑って再び俺の隣に移動した。いや、お前まだ付いてくるんかい。

「こんなに早く靴を履き替えるなんてな。やっぱり三上も楽しみにしてたのか?」
「?あ?何を?」
「??何をって……、部活の見学だよ」
「部活の、見学……?」
「そー。今週は仮入部期間で、今日は全部活見学しか出来ないって話さっきしただろ?混ざるのはダメだけど見学だけでも部の雰囲気ぐらいはわかるじゃん?これから3年間入る部活がどんな雰囲気か、俺も気になるからこれから行こうと思ってるんだ。三上も行くんだろ?一緒に行こうぜ!」

 隣に並んだ飯綱はさりげなく人混みから俺を守りつつどこかに向かって歩みを進めていく。お前、将来モテそうだな。なんて茶化すことも出来ず、俺はスマートすぎるエスコートに流されどこに向かっているのかわからないまま飯綱に付いていくことになる。再びお喋りを始めた飯綱は機嫌が良く、話の流れからどこぞの部活へと誘われているらしいことがわかったが、ちょっと嫌な予感がして俺は初めて飯綱へと自主的に言葉を発した。

「待て待て待て待て。部活の見学なんて俺の今日の予定にはないが?」
「……え?」
「え?じゃなくて」
「でも、さっきお前もここでやるのか聞いたらやるって言ってたじゃん」
「……はぁ?」

 手を上げて一旦話を遮る。なんかすこぶる俺には都合の悪い解釈をしている気配がビンビンしているからマジで待て。ステイだ。
 話を遮った挙げ句、きつめの口調で質問をしたにも関わらず飯綱は特に気にした様子もなく質問に答えてくれる。ここでちょっと言葉が足らないのはいただけないが、俺の失礼な態度に腹を立てないのは人間出来ている。なんて心が広いんだ。将来モテそうだな。
 それにしても俺が“何”を“やる”って言ったって???知らんわ。身に覚えが無さすぎる。つか主語が欠けているので何の話をしているのか全然わからんし、俺がその発言をしたのはいつだよ。……いや、わかっている。飯綱のこの話し方から察するに、さっき俺が聞き流していた時間に何事かを尋ねられて、それに俺が適当に頷いたんだろう。が、それは俺の意識下を離れた間の話なのでやっぱり俺は知らん。知らんったら知らん。

「身に覚えがねえよ。つか主語を省くな。さっきからなんの話をしてんだ?」

 とりあえず、そう。主語を明確にしないと何も始まらないので俺は根気強くもう一度、飯綱に尋ねた。俺の問いに飯綱もようやく俺たちの間になにやら齟齬が生じ、意思の疎通が出来ていないことを理解したらしい。少し思案するような顔をした飯綱は俺の質問に答える前におもむろにどこかへと向かっていた足の向きを速やかに変え、人混みを抜けて邪魔にならない端に寄ると、キリリとした顔の良さを全面に押し出した顔で朗々と答えを口にした。

「何の話って、そりゃ、俺とお前の共通する話題なんてバレー以外ないんだからバレー部に入部する話だろ?」

 何言ってんだ。という顔をする飯綱に、俺は何言ってんだ、と返したかったが我慢した。偉い。つか、共通の話題ぐらいバレー以外にもあるだろうよ、例えば勉強の話とか!
 微妙にズレたツッコミを心の中で入れるのは、嫌な予感が当たってしまった現実を見たくないから。バレーをしていた俺を知っていて声をかけたのなら当然そういう可能性―つまりはバレー部に誘われる―があったことに気が付いていた。気が付いていて必死に目を背けて話を聞かないふりをしていたのに。それをこんなに堂々と正面から突き付けられて俺は口を閉じるしかなかった。俺は高校ではバレーをやらないことをこいつは知らないのだろうか。(言っていないので知らないだろうというツッコミは受け付けてねーから)なんてことだ。

 バレーはやらない。バレーはサッカーをするまでの繋ぎだ。バレーとは俺の中でそんな位置づけであり、そうして半端な気持ちのままバレーを続けてきた不誠実さを目の前の男は知らない。知らないから、まっすぐにバレーに向き合ってきたであろう男は曇りのない眼で俺をバレーに誘うのだろうな。

 なんて残酷で怖い男だ。俺はそう思った。

「お前、さっきなんか上の空っぽかったのはデフォルトじゃなかったんだな。話しかけられてるのに余所事考えて話を聞かないってのは褒められたことじゃないぞ。あと人の話をちゃんと聞かないと将来詐欺とか悪徳商法に引っ掛かったりとかするかもしれないから気を付けろよー?」

 軽口ではあるが俺を心配する言葉に内心舌打ちをする。俺は詐欺にも悪徳商法にも引っ掛かったりしねぇよ。と心の中で反射で反論したが、俺の中に急にイマジナリー赤葦が出てきて「いや、先輩って案外抜けてるところがあるので危ないと思います」なんて飯綱の言葉を肯定するので、俺は苛立ちながらイマジナリー赤葦におにぎりを与えて黙らせた。俺は、詐欺とか悪徳商法には、引っ掛かったりしねぇ。
 そんな苛立ちとは関係なく、不誠実とは正反対で性根の真っ直ぐな、誠実を絵に描いたような男が、不誠実な俺の心配をしてくれる。それはとても居心地の悪い事だった。
 少し話しただけでもわかる。こいつは、飯綱掌という男はバレーが好きで、バレーに真剣に取り組んでいる、バレー一筋の人間だ。そんなバレーを愛しているだろう男と対峙するには俺は役不足だ。
 「三上亮」にすら成れなかった俺が、もうかれこれ10年近くバレーをしているのにバレーと向き合おうとしない俺が、ただまっすぐバレーを愛してきただろう男を正面から見るには、その存在は眩しすぎた。
 きっと飯綱は俺がバレーを辞めたということを理解できないだろう。そしてたぶん、飯綱の中で俺が高校でもバレーをすることは確定事項で、それを覆すのはとても難しそうな気がした。
 しかし、飯綱には言わねばならない。理解はしてもらわなくて結構だが、俺がバレーをしないという選択肢を取った事実だけは納得してもらわねばならなかった。
 俺はもう高校ではバレーをしない。高校ではバレーではなく「幸せ三上亮計画」の遂行のため、将来への投資のための勉強をすると決めたのだ。
 それに、この井闥山学院高校でバレーをするということは、すなわち、高校生活3年間飯綱と付き合い続けることを意味する。けれどそれは少々俺にはキツ過ぎる。なぜなら飯綱掌という男の光は俺には強すぎるから。きっと長く付き合ったら太陽に焼かれて三上亮という存在が灰になる。そんな気がして、俺は飯綱の視線から逃げるように目を伏せた。

「三上」

 それでも太陽のような男は「逃がさない」とでも言うように俺を呼ぶ。暖かな日溜まりのような声で俺を呼ぶのだ。勘弁してくれ。

「お互い井闥山学院高校に入学出来て、こうして会えたんだ。ここからだとあと少しで体育館だし、せっかくだから一緒にバレー部見学してみようぜ」

 「断らなければ」と強く思った。この声に耳を傾けるのはまずいと、そう強く思ったのに飯綱の手が俺の手を掴んだ瞬間に言葉は喉の奥に消えてしまった。
 バレーをやる、大きく力強い手が俺の手に絡まって、俺は握られた手を振り払えないまま気が付いたら飯綱を追って動き出していた。俺よりも少し大きい男は、子供のように屈託ない笑顔を俺に向けて「早く」と急かす。俺はその笑顔に精一杯の渋い顔を向けるものの歩みは止められないまま。
 近づく体育館の建物を憎々しげに睨み付ける俺はどう伝えたらこの男に「高校ではバレーをやらない」という事実を納得させられるのか脳内で忙しなく考えながら体育館へとドナドナされていった。

 急募、飯綱を言いくるめることが出来る話術。

 イマジナリー赤葦、おにぎり食べるのに夢中なところ悪いが、なんか良いアイディアないか一緒に考えてくれ。え?無理?お前……そんなにきっぱり言うことなくない?

☆高校ではバレーやらないって決めてたのにバレー部に引きずられていった成り主

 推薦なんて来ないだろうとたかを括っていたらなんと2校からお誘い貰ってびっくりした。でもバレーやらないって決めていたからごめんなさいした。
ちなみにお断りしなくて推薦使って高校進学してバレーをすることを決意していたルートだと

*音駒に進学していたら→黒尾さんとは煽りコンビ、夜久さんとは普通にマブ、海さんは癒し枠。疲れると海さんの傍にすすすって寄っていって寝るので三年トリオの間で密かに「ネコチャン」呼ばわりされている。知らぬが仏。考えていた通り音駒のスタイルとは相性が良いので普通に正セッターの座をゲットできてしまったからさあ大変。懸念通り音駒のレシーブ力には遠く及ばなかったため一人だけレシーブ練習多めにさせられる羽目になる。南無三。居残り練習はしないって言いつつ3回に1回は黒尾さんの口車に乗せられてレシーブ練習する羽目になる。けど、研磨君が音駒に入学して3年が引退したらさっさと正セッターの座を研磨君に押し付けてトンズラこく。(なお逃げられるとは言っていない)

*梟谷に進学していたら→木兎さんとは個人的にはあまり相性が良くないもののなんだかんだ文句言いつつ腐れ縁みたいなノリで3年間過ごす事になる。セッターとしては相性が良く、木兎さんの最高打点ドンピシャなセットアップをするので木兎さんからは懐かれている。が、居残り練習は断固としてしないので木兎さんはそこが不満。他の3年メンバーとは普通に仲良し。特に木葉君とはなんとなくノリが合って一緒に居る。赤葦君に自分の技術全部教えているので赤葦君のセットアップは成り主とほぼ同じ。ゆえに木兎さんも当然赤葦君を気に入るので成り主は赤葦が入学してきたらさっさと正セッターの座を明け渡して自分はトンズラする。(なお、逃げられるとは以下略)

以上です。

 井闥山で未来の主将に見付かってしまい絡まれてバレー部へと連行されるが隙を見て逃げたい。(逃げられない)この後飯綱さんから井闥山のバレー部は全国常連校であることを聞いて白目を剥くことになる。
 実は井闥山のバレー部が強いことを知らなかったのは成り主だけ。杜中のバレー部一同は成り主のバレーの能力を買っていて「三上のやつ高校ではバレーやらないつもりらしいぞ」「えー?!嘘でしょ?!」「あの人ならもっと上目指せますよ?!」「だよなー?!」って(本人抜きで)大盛り上がりした挙げ句こっそり顧問に「三上(先輩)にもっとバレーして欲しいです」って直談判。顧問も成り主の能力を買っていたので担任に相談しており、担任は気を利かせて(成り主にはありがた迷惑)勉強できる最良の環境+バレーの強い高校を探してお勧めしてくれていたのだと成り主が知るのはあと何年後かの未来の話。
 状況の打開策をイマジナリー赤葦と一緒に考えたかったのに「無理ですね」と一刀両断されて頭を抱えた。

☆中学の大会で気になってた成り主見かけて声をかけた飯綱掌

 成り主のゲームメイクとサーブ精度に感銘を受けていつか話をしたいと思っていたら高校で成り主発見。嬉しさのあまり気安く声をかけた。
 反応薄いけど人見知りしてるか入学初日で緊張してるのかと思って全然気にせず喋り続けた猛者。
 なんやかんやいってこの後3年間成り主を気にかけ世話を焼き、クラスが違うのに昼飯も一緒に食う仲になるし、朝が弱い成り主をお家まで迎えに行って朝練に引き摺り出してバレーさせ続ける姿はもはやオカン。授業以外は一緒にいるので同級生のみならず先輩後輩先生にまでニコイチ扱いされる未来が待っている。コミュ力だけでなく旦那力も高い男。
 コミュ力お化けなので成り主も最終的に絆されて飯綱とバレーするのも悪くないかなと思わせることが出来るし、このあと成り主と連絡先を交換し、家族以外で2番目に成り主の携番をゲットする男である。こいつ、やりおる……。
 あとそう遠くない未来、周りから成り主のマブ友認定されている事実に佐久早と古森から嫉妬の目を向けられることになるとは思ってもみない。

☆イマジナリー赤葦

 成り主の心の中のS○riが役に立たなかったので急遽相談役として誕生した存在。見た目は2頭身のぷにぷに可愛い系。本物の赤葦をモデルとしており意外と論理的にアドバイスをしてくれる存在だが、成り主から生まれたくせに成り主に甘々とはいかず、完全な味方とは言い難い。
 出来ないことはきっぱり「出来ない」って言うドライな性格だけど成り主の敵を排除する時は「出来る出来ないではないです。ヤる。この一択です」と殺意増し増しで容赦がない。それ以外は時々真顔で裏切ってくるので要注意。
 あと、おにぎりが好きなのでおにぎりを与えると途端にそれ以外どうでも良くなってしまうのでおにぎりを与えるタイミングは考えましょう。

— End —

Comments 12

つぶれ梅8 个月前
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すばる10 个月前
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O
o2 年前
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鈴音2 年前

他校ルートも気になります…うう、素敵作品すぎる。ありがとうございます😭

C
ce_lest_ia2 年前

おにぎり食べるのに夢中なイマジナリー赤葦、かわいい!!!!

2 年前
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すてら2 年前
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マオ2 年前

続編待ってました!ありがとうございます‼

なる2 年前
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かげやまさん2 年前
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和泉2 年前
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ふうり2 年前
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Sakuria
Where every work blooms
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