Novel2 years ago · 9.1k chars · 1 pages

逆行降谷は主要キャラを攻略したい。・19

夏の海夏の海

主人公一家囲い込み作戦の巻。

※注意※
何番煎じだろうと気にしない、降谷さん逆行ネタです。
以下の注意点が含まれます。

・安定の赤井絶対殺すマンな降谷零
・今度は工藤一家を引き込みたいという思惑から、工藤家に接触する気満々
・まだまだ出てくるのは先だけれど、主人公含めいろんなキャラを懐柔していきます。
・原作の通りには多分進まない
・逆行したら変態ホイホイにクラスチェンジ
・若干の腐向け要素がのちのち入ってくるでしょう(その時は腐向けタグつけます)

一番の注意点は、若いころや幼少期に、逆行零くんと接触した主要キャラの性格が恐らく原作と乖離が発生することでしょう。
出会いのタイミング、順番によって受ける影響はだいぶ変わりますし、唯一の記憶持ち逆行零くんが自分に都合よくなるよう変えていく気でいるので。
つまりは降谷零による、降谷と大事な人と日本に都合がよくなるように原作主要キャラを攻略()していくお話です。
はい、嫌な予感がした方はお逃げください!
逆行前の降谷さんの死にコナン君が絡んでいるのは今後の展開の為なので、ヘイトやら厳しめやらの意図ではありません。
終始降谷さんの視点なので、降谷さんが嫌いなひとは常に罵られておりますがキャラヘイトの意図はございませんので、ヘイト系のタグはつけないでいただけると嬉しいです。
繰り返しますが、原作は崩壊します。
長くなると思いますが、のんびりお付き合いいただけると幸いです。

 1

「新一くんって、エスパーみたいだね」

 生まれて初めての謎解き。ホームズみたいに偉そうにかっこよく決めたのが良かったのか、保育園でみんなすごいと言ってくれた。ドキドキしながら、でも浮かれてるなんて思われたくなくて。
「バーロー、エスパーなんかじゃねぇよ。こんなの初歩的な推理だ」
 そう言ってちらっと、泣き虫なんて言わないでと涙ぐみながら強がっていた子を見る。あの子もすごいって、ワトソンみたいに言ってくれるかと思ったのに。
「当てっこ上手なの、零お兄ちゃんみたいだけど、お兄ちゃんはあんなにえばりんぼじゃないもん」
 え、えばりんぼ!?
 ぷくっと頬をふくらませて、ちらっと睨まれる。なんだよ、誰だよ零お兄ちゃんって! ていうかオレのどこがえばりんぼ……!?
 ちょっとホームズっぽく偉そうに言ってみただけじゃねぇか!
 保育園の転園初日は、オレにとって衝撃的な幕開けだった。

 絶対に、どう考えても怪しい。
 保育園の先生の一人……江舟とかいうヤツは、毛利蘭っていう子を狙ってるに違いないのだ。だってあの子を見るときの目がおかしかった。おかしいと感じたところを指摘しても、ヤツはずる賢くて、のらりくらり言い逃れしてしまう。
 保育園の園児たちも、あの男のおかしさに気付いていない。蘭って子も、まったく疑わずにあの男に懐いている。
 ちくしょう、なんでみんな真剣に聞いてくれないんだ。父さんには……まだ、もうちょっと証拠が揃ってから話したいんだよな……。
 そう考えていた時だ。
「あっ、零お兄ちゃんだ!」
 毛利蘭の弾んだ声に、思わず振り返る。保育園には次々保護者たちが迎えに来る時間だ。迎えにくるのはほとんど母親たちなのだけれど、保育園の玄関で歓声をあげて駆け寄った蘭を抱き上げたのは、金髪の高校生だった。
「お兄ちゃん、どうしたの!?」
「絵理さんが急用できちゃったから、代わりに迎えにきたんだよ」
「毛利さんの代理の方ですね、先ほど電話いただいた……」
「はい、降谷です。蘭ちゃんを迎えにきました」
 江舟が声をかけると、高校生は蘭を抱えたまま笑顔で名乗った。
 降谷零、というのがフルネームなのだろうか。金髪に、青い目。日焼けしたのか、小麦色の肌。金髪ってことは不良なのかと一瞬思ったけど、目の色や顔立ちも、ぱっと見て外国人のように見える。ってことはハーフかなにかなんだろう。茶色いチェック柄のスラックスと、ベージュのブレザーはこのあたりではあまり見ない制服だ。
 こいつが、蘭が言ってた「零お兄ちゃん」か。
 蘭のやつは、よっぽど嬉しいのかニコニコ笑いながら、あのねあのねと話しかけている。
高校生は、それを笑顔で聞きいていたけど、やがてオレと目があった。
 見ていたのがバレたのかとドキッとする。
「こんにちは。蘭ちゃんのお友達かな?」
「……別に」
 友達っていうほど、仲がいいわけじゃないし。
「その子、新一くんだよ」
「ああ、前に蘭ちゃんが言ってた、ホームズみたいな子か!」
「えっ」
 ホームズみたい、という言葉に、心臓が跳ねた。ホームズみたいって、オレのことだよな?
「ほーむずってなぁに?」
 蘭はホームズを知らないらしい。なんでだ、あんなに格好いいのに!
 あれ、でもじゃあ、蘭がオレをホームズみたいだってあの人に教えたわけじゃない、のか?
「シャーロック・ホームズ。推理小説の主人公の探偵だよ。うーん、とっても頭がよくて、いろんな秘密を見抜いてしまうんだ。ほら、この前蘭ちゃんが新一くんのこと話してくれただろ? 当てっこが上手だったって」
 初めてオレが保育園に来た日にした謎解きを、蘭は「零お兄ちゃん」にも話していたみたいだ。それを聞いて、ホームズみたいって思ったってことだよな……!?
 カアッと顔が熱くなってくる。嬉しくてニヤけそうだ。でもそんなのカッコ悪ィから、ぎゅって口元に力をいれてなんとか堪えた。
「新一くんは、シャーロック・ホームズ、好きかな?」
「う、うん……」
「ならちょうど良かった、これあげる」
「え?」
「僕のバイト先のクーポン券。シャーロック・ホームズをモチーフにしているブックカフェなんだ」
「ホームズの!?」
「そう。結構本格的でね、家具はみんなイギリスから輸入したアンティークで、ホームズの下宿先を再現したスペースもあるんだよ」
 ホームズの下宿先!
 もちろん再現だから本物じゃないのは解ってるけど、絶対見てみてー!
「ずるーい、蘭もいく!」
「うん、蘭ちゃんにもあげる。土日はどっちかだけで、火曜日と木曜日の夕方からは絶対いるから、良かったらお母さんやお父さんと遊びに来てね」
「いいの?」
 クーポン券には、ドリンク無料って書いてある。初対面なのに、なんでこんなのくれるんだろう。嬉しいけど不思議に思ってたら、高校生はしゃがんでオレに顔を寄せると、内緒話をするように小さな声で言った。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。あの先生のことで」
 そうしてちらりと視線を向けた先には、他の保護者の対応をしている江舟先生がいて。ほんの少しだけ鋭い眼差しに、オレは理解した。
 この人、あいつが怪しいって気付いてるんだ!

 ***

 翌日の火曜日。オレは母さんに頼んで、降谷零という高校生がバイトしている、ブックカフェ・シャーロックに車で連れ来て貰った。
 保育園の迎えは十七時から十八時の間。今日母さんは十七時に迎えに来てくれて、ブックカフェについたのは十七時半。なんでか、父さんまでついてきた。
「父さん、仕事はいいのかよ」
「ちょっと行き詰まっていてね。息抜きだよ、息抜き」
「ふたりとも、着いたわよ。それにしても、ちょっと奥まったところにあるし、まるで隠れ家みたいなカフェね」
 建物の裏手に、小さな駐車場があって、駐められるのはせいぜい車が二台くらいだ。店の裏口側の壁沿いにバイクが一台駐めてあるのは、従業員のだろうか。
 赤いレンガの建物は、ベイカー街221Bをまねしたわけじゃなくて、古い洋館を改装したものみたいだった。壁から吊り下げられたアイアンプレートには、ホームズの横顔の形でくりぬかれ、店名が白文字で記されている。
 住宅街にぽつんとあるカフェは、母さんが言うように隠れ家みたいだ。
 父さんが扉をあければ、カランとドアベルが鳴った。コーヒーの匂いと、古い本の匂いのする空間は、まるで本当にホームズの時代の書斎にでも入り込んだような内装だ。入ってすぐのホールは左右の壁を本棚や絵画で埋められていて、どっしりした机がカウンター代わりに置かれている。レジなんかの電子機器は、焦げ茶色の皮の衝立で覆われていて、目立たないように工夫されていた。
 机の横の壁はアーチ型の両開き扉があって、大きく開かれている。扉の向こうにテーブルや椅子が並んだカフェスペースが見えた。
「ほう……。なかなか本格的だね。家具もすべてアンティークとは」
 父さんも感心したように店内を見回している。ホールの本棚には、洋書がほとんどで、日本語の本は古いものが少しあるだけだった。
「いらっしゃいませ」
「あっ」
 カフェスペースから出てきたのは、昨日会った高校生だ。今日は高校の制服じゃなくて、白いシャツにグレーのベストと黒いスラックス、それから腰に黒いエプロンを巻いている。ネクタイも黒で、これでテールコートを羽織ってエプロンを外せば、執事のようだ。
「まぁ、素敵ね!」
 母さんが弾んだ声をあげる。元女優で美形も見慣れてるはずなのに、ミーハーなんだよなぁ。でも普通に高校生が着てもコスプレっぽくなりそうな格好なのに、零お兄さんには……なんだろう、なじんでる? バイト先の制服だから、着慣れているのかもしれない。
「やあ、新一くん。さっそく来てくれたんだね」
「う、うん……。ねぇ、あいつのことで聞きたいことって何?」
「とりあえず、席に案内するね。お話はそこで聞いてもいいかな?」
 零お兄さんはそう言って、オレ達をカフェスペースに案内してくれた。そこで「あらっ」と声を上げたのは母さんだ。
「英理じゃない、久しぶりね!」
「有希子、優作さんも新一くんもお久しぶり」
 カフェスペースにはひとりだけ先客がいて、その人はオレには見覚えはないけど、母さんの友達みたいだ。オレとはオレがもっと赤ん坊の頃にあったことがあるそうだけど、流石に覚えてない。
「英理、蘭ちゃんは一緒じゃないの?」
「今日は母さんたちに預けて来たのよ」
 そう言って、英理さんはちらっと零お兄さんを見た。それにピンと来たのはオレ……じゃなくて父さんだ。
「もしや、蘭ちゃんのことで彼に相談を?」
「ええ……まぁ……」
「あの子のこと? もしかして、あの先生を調べてるの!?」
「まあまあ、新ちゃん。ひとまず座って、何か注文しましょう。立ち話もなんだし、ね」
 すぐにも話を聞きたかったのに、母さんに宥められてオレ達は英理さんと同じテーブルに座った。母さんが英理さんの隣で、母さんの向かいには父さん。オレは英理さん向かい側だ。零お兄さんは母さんと父さんにはコーヒーを、オレにはオレンジジュースを出してくれた。
「ほう、美味いな」
「あら本当、美味しい」
「そうでしょ。零くんの煎れる珈琲、専門店顔負けなのよ」
「英理も零くんもひどいわ、こんな素敵なところでバイトしてるなんて、どうして教えてくれなかったの?」
「すみません、ここでバイト始めたの、本当に最近なんですよ」
「えっ」
「有希子、君も彼と知り合いだったのかい?」
 零お兄さんに親しげに話しかける母さんに、驚いたのはオレだけじゃなかった。父さんも知らなかったみたいだ。
「あら、優作さんには前に話したじゃない。英理たちの結婚式の時に、可愛い子達を紹介してもらったって」
「あ、ああ……。そういえば、言っていたね……」
 英理さんたちの結婚式は、父さんは仕事で行けなかったから、零お兄さんと会ったことがなかったみたいだ。
「それじゃあ、そろそろきちんと紹介してくれないかな」
「うふふ、ごめんなさい。新ちゃんから零くんのコト聞いて、びっくりさせようと思って黙ってたの。零くんてば凄く料理上手でね。英理を通して知り合ったママ友の、エレーナさんとメアリーさん姉妹の子ども達が赤ちゃんの時から面倒見てて、離乳食や子ども向けのおやつにも詳しいのよ。いろいろ教えて貰ってたら仲良くなったの」
「初めまして、降谷零です。有希子さんにはお世話になってます」
「あら、世話になってるのは有希子や私の方よね」
「ほんとそうよ」
 よくわからないけど、英理さんの結婚式で、母さんは英理さんのママ友や、零お兄さんと知り合ったみたいだ。子どもの世話が得意で、育児で相談出来る人が少なかった母さんは、ママ友や零お兄さんにいろいろ相談してたらしい。ママ友はともかく、高校生に? と思ったけど、あの子……蘭もすごい懐いてたもんな。
 オレと父さんも改めて零お兄さんに自己紹介した。零お兄さんは父さんの本を読んでるらしくて、会えて嬉しいと笑顔だ。
「……では、新一がホームズが好きだというのは、有希子が話していたのかな」
「んー? 私、話したかしら? 新ちゃんの話は、偏食克服のためのレシピ相談が中心だったと思うけど」
「そうですね、それは聞いてませんでしたけど」
 母さん、高校生に何を相談してるんだよ。ちょっと呆れて母さんを見上げていたら、零お兄さんはオレを見てふ、と笑みを浮かべた。
「――中間の推理をすべて抜き取り、出発点と答えだけを相手に示せば……。安っぽくはあるがびっくりさせる効果は十分にある」
「……!」
 あの日の朝、オレが読んでいたホームズの言葉だ。
 びっくりするオレに、零お兄さんは目線を合わせて笑みを深めた。
「蘭ちゃんから聞いた新一くんの推理が、ホームズのこの言葉にそっくりだったから、もしかして、って思ったんですよ」
「ホウ……」
「あ、あってる!」
 すげー! たったそれだけで、オレがホームズの真似をしたって解ったのかよ!?
「それで、新一に聞きたいことというのは、蘭ちゃんが関わっているんだね?」
「ええ、実は英理さんに相談を受けまして」
「私から説明するわ。実は少し前からあの子、保育園で他のお友達に意地悪を言われることが多くなってるみたいだったの。私にはそういうこと言わないんだけど、志保ちゃん……私のママ友の子で、蘭のひとつ上の子に電話で話してたのを聞いてしまって。でも私や小五郎には知られたくないみたいで、それとなく聞いても何も言わないから、零くんに話を聞いてみてもらえないかってお願いしたのよ」
 零お兄さんは、英理さんのママ友達一家と小さい頃から家族ぐるみで仲良くしていて、蘭のことも赤ちゃんの時から面倒を見ていて、蘭は本当のお兄さんみたいに懐いてるそうだ。昨日零お兄さんが蘭を迎えに来たのも、蘭から話を聞き出すのと、保育園での様子を見るためだったらしい。
「今日は、蘭から聞き出した話を教えてもらう予定だったんだけどね……。昨日連絡帳に、蘭が他の子をいじめてるので注意して欲しいって書かれていたのよ」
「いじめ? それ、江舟先生が書いたの!?」
「ええ、そうよ」
 変だ。蘭は他の子に意地悪なんてしてない。むしろ意地悪を言われて泣きべそかいていたほうなのに。あの先生はソレを知ってるはずなのに、なんでそんなこと言ったんだ?
「昨日蘭ちゃんに話を聞いた限りでは、逆みたいだったんだけど、どうかな? 新一くん」
「そうだよ。意地悪言われてるのあの子の方だ。やっぱりアイツ、何か企んでるんだ!」
「やっぱりってことは、変なところがあったんだよね? 何があったんだい?」
「それが――」
 アイツの怪しいところを、ひとつずつあげていく。途中で母さんに、茶々を入れられたりしたけど、零お兄さんも英理さんも真面目な顔で聞いてくれた。
「……新一くん、江舟先生は、毎日蘭ちゃんが寝る場所を指定してるって言ったよね? もしかして、蘭ちゃん、いつもお昼寝から起きるの、最後なんじゃないかな」
「そうだよ。いつも一番最後までグウグウ寝てるんだ」
「そう……」
「ふむ……」
 オレの答えに、零お兄さんだけじゃなくて、父さんまで難しい顔をしだした。それに文句を言ったのは母さんだ。
「ちょっとォ。ふたりだけで何か解ったみたいな顔してないで、ちゃんと説明してちょうだい」
「ああ、すみません。やっぱりその江舟先生の言動はおかしいと思って」
「だよね! アイツ絶対悪い奴だよ!」
「零くん、あの先生……。やっぱりそういう……?」
 英理さんは娘が悪い奴に狙われてると解ったからか、顔が青くなっている。そんな英理さんに、零お兄さんは「いえ」と首を横に振った。
「僕の見た限り、そういう系統の人ではないかと」
「そういう系統って何?」
「んー、何ていうか……たまーに、小さい子どもが好き過ぎて、誘拐したり閉じ込めたりするような人がいてね。僕はそういう人はたくさん見てきたから、すぐ解るんだ」
「好きすぎて……誘拐するの?」
 何でか、困った顔で零お兄さんは説明してくれたけど……。
 好きだから独り占めしたいとか、そういうのかな? 好きなのに悪いことをするって、変なの。
「江舟先生はそういうタイプではなさそうなんだけど、新一くんが言うように、蘭ちゃんを見る目が狙い定めてるように感じたんだ。僕が迎えに行ったとき、蘭ちゃんが僕に懐いているのをみて警戒している様子もあったからね」
「だからオレに、アイツのこと聞きたいって言ったんだね!」
 やっぱりアイツは悪い奴だったんだ!
「でも、先生が蘭ちゃんを特別扱いしてるみたいだけど、一応理由はちゃんとあったのよね?」
「もっともらしい理由はつけていますが、他の意図があると思いますよ。例えば……。わかりやすく贔屓することで、蘭ちゃんを園内で孤立させる、とか……」
「そう……。さらに他の子をいじめている、と連絡帳に書くことで、親に身に覚えのないことで叱られるよう仕向けている……。それを繰り返せば、家庭内でも孤独感を覚え、優しくしてくれる先生に依存しやすくなるだろう。狙いはそのあたりかな。幼児性愛者ではないなら、何が目的でそんなことをしているのか、が謎だが……」
 母さんの疑問に、零お兄さんと父さんが交互に答える。ヨウジセイアイシャってなんだろう。聞くのはなんかカッコ悪いから、あとで調べよう。
「実は、散歩コースが変わったという話は蘭ちゃんからも聞いていたので、昨日その公園に行ってみたんですが……。その公園、隣に病院があって、公園に窓が面した心療内科の病棟に、江舟という女性が入院していたんです」
「ホー……。もうそこまで調べたのかい」
「シンリョウ内科……?」
 内科は解るけど、シンリョウってなんだろう。思わずつぶやけば、零お兄さんが説明してくれた。
「心の病気が元で体調が悪くなった人が入院するところだよ。名前や年齢からして、多分江舟先生の奥さんじゃないかな。江舟先生は、明日遠い公園にコースを変えた理由を説明すると言っていたんだろう?」
「うん」
「多分先生は、こう言うんじゃないかな。奥さんが長いこと入院してるから、子ども達が元気にしてる姿を見せたかった、とか」
 悪戯っぽく笑って、零お兄さんはそう予言した。

 ――そうして、次の日。
 本当に、江舟のヤツはその通りのことを言ったんだ! すごい、当たってる……!
 あの子が零お兄さんも当てっこが上手って言ってたけど、アイツがどんな言い訳するか、事前に当てるなんて。
 それだけじゃない。零お兄さんは、多分アイツはお昼寝の前に、蘭の飲み物に睡眠薬をまぜて眠らせているはずだって言っていた。蘭は特別眠りが深いとか、一度寝たら起きないっていうタイプじゃないから、いつも一番最後まで起きないっていうのはおかしいって。それでオレはずっと注意深くアイツを監視してたんだけど、本当にあの子の飲み物に何か粉薬を入れていた。
 家に帰って、オレは父さんや母さんにこのことを教えたら、母さんが英理さんに連絡して、大人達はいろいろ相談しあってた。実は父さんも、今日一日オレ達の後をつけて江舟のヤツを見張ってたんだって。
 それから数日もたたないうちに、江舟は誘拐未遂で逮捕されて、保育園では都合により辞めたと発表された。父さんが知り合いの刑事に相談して、ヤツの企みを阻止したんだ。
 動機は、娘さんが家出してから奥さんがショックでノイローゼになってしまって、代わりの子どもを浚って育てようとしてたんだって。
 聞いても、よくわからない理由だ。
 江舟たちが捕まったあと、オレたちは英理さんにブックカフェ・シャーロックに招待された。父さんやオレのお陰で誘拐を未然に防げたから、お礼がしたいっていわれたんだ!
 別にオレが犯人を捕まえたわけじゃないって言ったら、零お兄さんが、オレの頭を撫でてこう言った。
「君が注意深く観察して、おかしなところを見つけてくれたお陰さ。お手柄だったね、小さな探偵さん」
 父さんが感心するくらいだった人に手放しで褒められて、カアッと頬が熱くなる。なんだコレ、すげー嬉しい。
 英理さんと、仕事で不参加だけれど英理さんの旦那さんのおごりだとかで、この日はシャーロックで夕食をごちそうになった。出された料理は零お兄さんと、お同じくバイトの景光お兄さん――零お兄さんの親友がほとんど作ってくれたと聞いて、オレも父さんもすごくびっくりした。だって、どれも本当に美味しかったんだ。
 普段はサンドイッチやフィッシュアンドチップス、キドニーパイといった軽食やスコーンやケーキといったスイーツがメインらしいけど、特別にいろんなパスタや肉料理までいろいろ出してくれた。蘭はふたりのお兄さんにとっても妹みたいなものだから、お礼に張り切って作ってくれたんだそうだ。
 ブックカフェ・シャーロックは、その日から、オレ達一家の行きつけのお店になって。
 オレがふたりの高校生を零兄、ヒロ兄と呼んで、兄のように慕って頼りにするようになるのも、すぐのことだった。
 二人を通して、志保や真純、快斗といったやたら頭の回る奴らと知り合って。蘭も交えて、オレ達が零兄たちを取り合って喧嘩しながらもそれなりに仲良く遊ぶ……いわやゆる幼馴染みってやつになるのは、ほんの数ヶ月後のことである。

— End —

Comments 61

ありす1 个月前
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けい10 个月前
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アーク11 个月前
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瑠璃2 年前
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瀬月2 年前

囲い込み作戦楽しいですね! 誤字報告です 3ページの英理さんが「絵理さん」になってますー。訂正お願いします汗

鏡子2 年前
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I
irico2 年前
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ゆん2 年前
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2 年前
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ちょぼちょぼ2 年前
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塩キャラメル2 年前
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ちゃんちゃん☆2 年前

おおぅ…一家全員を囲いこむとは! しかも優作氏にも信頼得ていれば、原作みたいな偏った方角には行かないのかなーと。 しかし、ひょっとしてこのシリーズでの蘭ちゃんの初恋って、零だったりするんだろうか。新一もまっとうなライバルのおかげで、変な目立ちたがりな部分が減ればいいですね。

Sakuria
Where every work blooms
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