※注意※
何番煎じだろうと気にしない、降谷さん逆行ネタです。
以下の注意点が含まれます。
・安定の赤井絶対殺すマンな降谷零
・今度は工藤一家を引き込みたいという思惑から、工藤家に接触する気満々
・まだまだ出てくるのは先だけれど、主人公含めいろんなキャラを懐柔していきます。
・原作の通りには多分進まない
・逆行したら変態ホイホイにクラスチェンジ
・若干の腐向け要素がのちのち入ってくるでしょう(その時は腐向けタグつけます)
一番の注意点は、若いころや幼少期に、逆行零くんと接触した主要キャラの性格が恐らく原作と乖離が発生することでしょう。
出会いのタイミング、順番によって受ける影響はだいぶ変わりますし、唯一の記憶持ち逆行零くんが自分に都合よくなるよう変えていく気でいるので。
つまりは降谷零による、降谷と大事な人と日本に都合がよくなるように原作主要キャラを攻略()していくお話です。
はい、嫌な予感がした方はお逃げください!
逆行前の降谷さんの死にコナン君が絡んでいるのは今後の展開の為なので、ヘイトやら厳しめやらの意図ではありません。
終始降谷さんの視点なので、降谷さんが嫌いなひとは常に罵られておりますがキャラヘイトの意図はございませんので、ヘイト系のタグはつけないでいただけると嬉しいです。
繰り返しますが、原作は崩壊します。
長くなると思いますが、のんびりお付き合いいただけると幸いです。
1
中学生になって、もうすぐ一年がたとうとしている。この時期は前の時もそうだったけれど、基本的に平和だ。正直、宮野家を組織と切り離すことに成功し、黒田さんの事故も阻止できた時点で、しばらくやるべきコトはないのだ。もちろん工藤新一君はじめ、工藤一家と親しくなる必要はあるけれど……。
まあ、そこはもう少し新一君が大きくなってからでいいと考えている。あの子の場合、物心つく前から側にいる相手より、何らかのインパクトのある事件で出会う方が印象に残りそうだしね。
そんなに都合良く事件が起こるのか、という点に関しては心配していないよ。だって前の時、あの子は子どもの頃からいろんな事件に巻き込まれたり首を突っ込んでいったりしていたのだから。
毛利夫妻どころか、蘭さんや世良真純さんすら、赤ちゃんの頃から面識を得ることになってしまったし……。阿笠博士も、フサエさんと結婚したけれど、今もあの家に住んでいて、僕も良くお邪魔しているしね。
ちなみに、工藤家はまだ隣に引っ越してきてはいない。絵理さんから聞いた話によると、工藤夫妻は現在、工藤優作さんが独身時代に住んでいたマンションで暮らしていて、新一君が幼稚園に上がる前には家を購入したいと考えているようだ。
ならその頃くらいが、都合がいいかな、と思っている。
そんなわけで、僕はせっせと技術を磨き、知識を蓄え、ベビーブームなのか? と問いたいくらい赤ちゃんたちに囲まれ世話をして過ごしている。
とても平和で、穏やかな日々……なのだが。
「あー……。またか……」
学生寮のベランダに干していた洗濯物を取り込もうとしたところで、僕は思いっきり顔をしかめた。
この学生寮では、食事は朝晩食堂で出してもらえるし、大浴場やトイレ、食堂や廊下、談話室といった共用施設の清掃は管理会社が対応してくれる。けれど自室の掃除や洗濯は基本的に各自で行うことになっていた。
大浴場の横にランドリーがあって、洗濯機は自由に使っていい。しかし乾燥機はないので、みんな自室のベランダに洗濯物を干しているのだけれど……。
僕もまた、外に干していた洗濯物。しかし干していた下着や靴下の数が合わない。
一回くらいなら、風で飛ばされでもしたかな、と思わなくもないけれど……。これで三回目である。間違いなくアレだ。
下着泥棒ってやつだ。
……いや、中学生男子の下着泥棒って。
仮にこの近隣で、女性の下着を狙った泥棒がいたとしても、どう見ても男物の僕のパンツまで間違えて持って行った、なんてことはないだろう。他の寮生が被害にあったという話も聞こえてこないしなぁ。ということは、ピンポイントで狙われているということになる。
「まいったな……。流石にこう頻繁だと財布に響くぞ」
いや、もちろん一番の問題はそこではないのは重々承知しているが。ベルモットという後見人のおかげで金銭的に不自由はしていないけれど、だからって無駄遣いをしていいわけもない。
今回盗まれたパンツなんて、先週新調したばっかりだっていうのに。
盗られたパンツの行方も、その使い道も予想はつくが考えないようにしつつ、僕は残っていた洗濯物を取り込んだ。学校指定のジャージや、体操着、制服のシャツが無事だったのは幸いだ。こういうのって値が張るし、そうそう買い足すものでもない。何度も購入していたら、ベルモットにバレて面倒なことになりそうだし。
とりあえず、またパンツ買いに行かなきゃ。
はあ、とため息をひとつついて、僕は財布を持って部屋を出た。
***
たいした害ではないし、放っておこうと思っていた下着泥棒だったが、予定を変更してとっ捕まえることにした。それというのも、ヤツは絶対に盗んではならないものまで盗んでいったからだ。
そう――去年のクリスマスに、明美から貰った刺繍入りのハンカチを!
爽やかなレモンクリーム色のコットン布地に、空色の刺繍糸で僕の名前を刺したハンカチ。狐のワンポイント柄まで刺してあるかわいらしいハンカチは、僕の精神年齢的にちょっと持つのが気恥ずかしい位であったが、中学生男子ならまあセーフだろうと言い訳して頻繁に使っていた。名前の刺繍が難しかったのか、ちょっとゆがんでいるところがまた可愛く、大切にしていたのに……!
これまで盗まれていたのはパンツとか、せいぜい靴下だったから油断していた。ついでとばかりにハンカチまで持って行くだなんて。
変態許すまじ。
とっ捕まえると決めたあとの僕の行動は早かった。道場のない日の放課後、秋葉原の電気街に赴き、必要機材を調達し、ベランダにしかけた。気付かれないように巧妙に隠した監視カメラだ。阿笠博士に頼むまでもなく、小型のカメラくらいいくらでも売っているのだ。
監視カメラを設置して三日後、囮のパンツ――新品を何度か洗濯したやつにくいついた変態の姿を、しっかり確認することができた。犯行時間は夜中――ではなく、僕が学校に行っている真っ昼間のことである。まあ、学生寮のベランダは、雑草の生い茂った細い路地をはさんで川に面している。昼間でも人通りなんてほとんどないから、誰かに目撃される心配なんてほとんどないような場所だ。犯行はさぞ用意だろう。僕の部屋は二階だけど、部屋の前の桜の木を伝えばベランダに忍び込むのは難しくないし。
犯行はたやすいとはいえ、悪いことをしているという自覚はあるのだろう。犯人は帽子とマスクでしっかり顔を隠していた。服装も、ジーンズに黒いフード付きパーカーと目立たないものだ。しかしあちこちにしかけたカメラのお陰で、人相はばっちり確認できた。
あとはコレを警察に提出するだけ……だったのだが。
犯人の映像から、僕はそれが誰であるのか、心当たりができてしまった。
相手は、男である。誠に遺憾ではあるが、コレはまあ最初から予想はついていた。変態野郎に付け狙われるようになってはや六年超。すっかり慣れっこなので今更男に付け狙われたからといって気にしたりはしない。のだが。
……寮の管理人じゃないか、こいつ。
えっ、学生寮の管理人が入居者の下着を盗むとか。いや、犯行はより容易だろうけれど……。……うん、これはもしかして……。
僕はまず、部屋中を確認した。幸い、自室は常から警戒していただけに、盗聴器や盗撮用のカメラは見つからなかったのだけれど。
しかし、共用部分はそうはいかない。周囲に溶け込む為にも、あまり怪しい行動はしないようにしていたのが徒になった。学生寮には小さいながら、各個室にユニットバスもついている。僕はだいたいシャワーですませていたけれど、たまにヒロと大浴場を使うこともあって。毎日使う場所ではないからと、油断していた。
案の定――大浴場と脱衣場の天井や、壁の照明のネジに小型カメラが仕込まれていたのだ。
これはもう、僕だけの問題ではない。
すぐさま警察に通報したところ、学生寮どころか、学校までも蜂の巣をつついたような大騒ぎになったのは言うまでもないだろう。
後日、管理人室の壁一面に、僕の隠し撮り写真や盗んだ下着や、ゴミ捨て場から盗んだプラスチックのスプーンやらストローやらがコレクションとして貼られていたと聞いて。
僕は将来のために、今後写真NGを押し通す理由にしようと心に決めた。せめてそのくらいには利用させてほしい。心底ぞっとしたのは事実であるのだから。
2
名門進学校の学生寮で起こった盗撮事件は、それはもう大変な騒ぎになった。それというのも、犯人が学生寮の管理人で、中高一貫男子校である学園の理事長と親戚関係にあったせいである。
遠縁で、それほど親しく付き合いがあったわけではないが、縁故採用であったことは間違いなく。
そんな男が、男子学生の下着を何度も盗み、入浴時を狙って盗撮までしていたのだから、騒ぎになるのも当然だった。もちろん、徹底的に標的となった生徒の名前は流出しないようにしているし、世間的には大浴場へしかけたカメラのせいで不特定多数の生徒を狙っていたように思われている。その結果、件の学生寮は一時閉鎖され、寮全体を徹底的に調査することになった。費用はもちろん学園持ちだ。特待生以外は、そこそこお高い寮費を取っているのだから、保護者を安心させるためには必須の出費だったろう。
不幸中の幸いで、特定生徒へのストーカー行為の一環で仕掛けられたものであった為、盗み撮り映像も写真もネット上には流出しておらず、犯人のパソコンとスマホの中と、プリントアウトされたものだけだった。これが違法サイトに児童ポルノとしてアップされていたりしたら、もっと大騒ぎになっていただろう。
寮生の保護者のなかには、標的になったのは特定の生徒である、というのは説明を受けており、自分の子どもが変態の欲の対象になったわけではないとはいえ……。そんな変態を雇う学園に子どもを預けてよいものか、などと騒ぐものもおり、事態が沈静化するにはまだまだ時間がかかりそうだった。
……もっとも、本来、このような事案は俺の管轄ではないし、関わることもないはずなのだが。担当者並みに詳しく把握することになったのは、もちろん理由がある。
変態の標的となったのが、俺とももう長い付き合いとなった零だったせいだ。
あいつの変態ホイホイは嫌というほど知っていたが、成長するにつれてあいつの逃げ足がすさまじくなったお陰で、ここしばらく警察沙汰になることもなく。こうして俺のところまであいつ関連で情報が上がってくるのは久しぶりのことだった。
「それで、その犯人、ちゃんと実刑を受けるんでしょうね?」
「受けたとしても、長くても十年もしたら出てきてしまうんでしょう? 子ども相手の犯罪だっていうのに、罰が軽すぎるんじゃなくって?」
「秀吉に聞いたけど、あれ以来あの子、写真や動画を撮られることに拒否反応を示すようになってしまったそうじゃないの。まったく、許しがたいわね……」
クリス、アマンダ、メアリー。口々になじるように俺を睨んでくる女性陣に、何故俺が責められねばならぬのだ、とうんざりしてしまう。本当に勘弁してほしい。
この三人、アマンダとメアリーは元々、メアリーの夫である赤井務武を介して知り合いだった。その二人とクリス・ヴィンセント……あの組織の幹部、ベルモットが交流を持つことになったのは、今回の事件の渦中……変態の標的となった零がきっかけである。
アマンダとメアリーはクリス・ヴィンセントが組織関係者だとは知らない。ただ、零の後見人である、とだけ紹介している。クリスからすると、ラムに狙われていたアマンダ・ヒューズと、組織に消されたはずの赤井務武の妻、メアリー・赤井が零と関わるのはあまり歓迎できることではない。とはいえ、零に自分の素性がバレていないと信じているクリスとしては、彼女たちとの交流を制限することもできず。せめてふたりの人となりを直接確かめたいと希望したので、一度「後見をしている子どもが世話になっている相手に挨拶を」という名目で引き合わせたのだが……。
その場で年齢も立場も違う三人の女性は、どうしたわけか意気投合してしまったのである。
「いっそ学校の近くにマンションを買おうかしら。寮にそのまま居させるのは不安だわ……」
クリスの財力ならば、マンションのひとつやふたつ買い与えるのはたいした負担ではないだろう。問題は、彼女は組織の眼を欺くためにも、同居することはできないことにある。表向きは、仕事の拠点がアメリカにあるから、ということにはなっているが。
「中学生を一人暮らしさせるのはねぇ……。ボディガードもかねた使用人を置くのはどうかしら?」
「提案したのだけど、あの子、必要ないって、窮屈になるからいらないって言うのよ」
アマンダの出した案は、クリスも既に検討済みだったらしい。しかし零はかたくなに頷かなかったという。メアリーなどは「零くんは自立心が強いものねぇ……」と言うが、実際には自立心だとか言うよりも、四六時中誰かが側にいる生活なんてしたら、暗躍しにくくなるからごめんだ、というところだろう。あの子どもが見た目通りの「子ども」ではなく、せっせと裏で動き回っていることを知っているのは、この中では俺とアマンダくらいだ。アマンダの方は、零の本音も察しているのだろう。あらあら、と苦笑していた。
「黒田、いっそあの男、二度と塀から出てこれないようにできないかしら」
「無茶を言うな。流石に終身刑にできるような罪状じゃない」
「何よ、公安なら罪状のねつ造くらいお手の物でしょう」
じとっと睨んでくるクリスに、俺は盛大なため息を落とすことで応える。こんなことでそんな違法行為ができるわけがないだろうに。
「次に雇われる管理人は、ウチでも徹底的に身辺調査をする」
約束できることはそのくらいである。本来、公金を費やしてすることではないが、クリスは今や公安にとって重要な情報源となる協力者だ。クリスとの司法取引には、零の身柄を守ることも条件に含まれているので、そのくらいならばなんとか対応できるだろう。
その後も、クリスはアマンダやメアリー相手に、零がすっかり写真や動画がトラウマになってしまったと嘆き続けた。
俺にはその程度であの零がトラウマになんてなるとは思えず、恐らく何らかの理由で自分の姿を記録に残したくないだけだろうと思うのだが……。
その何らかの理由、が。将来的に自分と同じ職につくことを想定してのものだというのは……できるだけ考えたくない未来予想図であった。あんなのが部下になるなんて、爆弾を抱え込むようなものだとしか思えなかった為である。
****
兄さん、久しぶり。元気にしてるかな?
僕達は元気だよ。真純も大分大きくなったんだ。最近は離乳食をあげはじめたんだけど、好き嫌いはないみたいでよく食べてくれるよ。
実は今、友達から料理を習ってるんだ。真純の離乳食、僕が作ってるんだよ。すごいでしょ?
母さんは市販のものでいいっていうんだけど、赤ちゃんってお皿ひっくり返したり、半分も食べなかったりすることもあるからさ。小分けして冷凍保存できるように自作したほうが経済的だしね。
そうそう、僕も中学生になったよ。入学式には、母さんが真純も連れてきてくれたんだ。三人でとった写真添付するね。それから、羽田のお兄さんの弟子にしてもらったんだ。今は奨励会っていうのを目指してるんだ。浩司お兄さんが、僕には将棋の才能があるって言ってくれてね。週に四日は羽田さん家に通ってるよ。すっごく楽しいんだ!
今度兄さんとも対戦してみたいなぁ。
たまには返事くらいしてよね。
……よし、送信。
メールに入学式の写真を添付してみたけど、はてさて、兄は返事をくれるだろうか。
まぁ、多分……というか、九割方返ってこないだろうなぁと思ってるけどさ。
何かしら用件があって送ったメールの場合は、短くても返事してくれるのだけれど。近況報告的な内容の場合はまったく返事がないのだ。一応、眼は通してくれてるのだろうと思うんだけど……。多分、元気そうだな、と思って終わりなんだろう。兄さんの性格だと。
僕ら一家が日本に来て、はや十ヶ月。僕の中学進学とあわせて、僕らは赤井というファミリーネームを名乗ることをやめて、母さんの旧姓である世良と名乗るようになった。これは今のところ、兄さんには内緒にしている。身の安全の為だっていう母さんの説明に、僕は納得しているけど……父さんを捜すのだと単身アメリカに行ってしまった兄さんには、受け入れがたいだろうから。
まあ、父さんは生きてるはずだっていう兄さんの気持ちも、よくわかるんだけどね。僕だって、父さんが死んだなんて思いたくもないし。
とはいえ、長期休みにもまったく帰ってこないのはどうかと思う。母さんだって、口では馬鹿息子、って悪態ついてるけど、兄さんのこと心配しているし、顔が見れないのを寂しく思ってるだろうに。
せめて元気にしてるって写真の一枚くらい送ってくれてもいいのになぁ。
「秀吉くん、どうしたの? 難しい顔して」
「え、ああ。何でもないよ。兄さんにメールしたところでさ。返事くらいしてほしいなあって思ってただけ」
「ああ……。秀一くんだっけ?」
母さんの妹である、エレーナ叔母さんの家のリビングで、膝に真純を抱えてメールを打っていたのだけど、知らないうちにしかめっ面になってしまってたみたいだ。明美ちゃんに心配されてしまった。
「いつもお返事ないの?」
「滅多にないかなぁ」
近況報告の場合はほぼ返事はない、と素直に答えたら、明美ちゃんはなんとも言えない表情になった。言葉にするなら、信じられない、だろうか。
「お兄ちゃんたちなら、明美からのメールを無視なんて絶対しないよ」
「だろうねぇ」
明美ちゃんの言うお兄ちゃん達、というのは、実の兄弟じゃなくて幼馴染みの零くんと景光くんのことだ。物心つくころからずっと一緒に居る二人のことを、明美ちゃんは実の兄のように慕っている。面倒見のいい二人は、僕や真純のこともよく面倒を見てくれるので、僕も密かに兄のように思っていたりするくらいだ。
実際、零くんも景くんも、僕がメールしてもすぐレスくれるもんね。明美ちゃんのことを無視なんて絶対しないだろう。解る。
「兄さんは筆無精だから。まあ、マイクおじさんから元気にやってるって聞いてるから、心配はしてないけど」
「そっかぁ。今年の夏休みは帰ってきてくれると良いねぇ」
「そうだねぇ」
多分帰ってこないんだろうなぁ。
という言葉は飲み込んだ。可愛いいとこに、会う前から悪印象をもたれては流石に兄さんが可哀想かなって思ったので。いや、でもちょっといい気味だって思わなくもないかな。だって兄さんいつも可愛い女の子たちにきゃあきゃあ言われてて、僕は全然で、羨ましかったもんなぁ。
まあ、明美ちゃんにとってはお兄ちゃんたちが世界で一番カッコいい、らしいので、秀一兄さんの写真を見ても「メアリー伯母さんと似てるね」くらいの反応だった。明美ちゃんならお兄さん紹介してよ、お兄さんのこと教えてよ、なんて言ってこないので安心だ。ああいう女の子たち、ちょっと怖いんだよね……。
ちなみに明美ちゃんも、そういう系統の女子を毛嫌いしている。小学校で零くんや景くんを巡っていろいろあったらしい。解る。女子に詰め寄られて、根掘り葉掘りふたりのことを聞かれたり、対抗心を持たれて睨まれたりして困惑する明美ちゃんが余裕で想像できた。僕は今零くんたちと同じ中学に特待生として入学したばかりだけど、男子校なのでそういうことに巻き込まれる心配はないのは良かったと思う。学生寮は、零くんと景くんがいるなら楽しそうだなって思ったんだけど、母さんひとりで真純のお世話をするのは大変だからね。僕が手伝ってあげないと。ってことで、エレーナ叔母さんの家の近くのマンションに引っ越してきたばかりだ。
叔母さん家が近いってことは、零くん達の学生寮も近いから、すごく嬉しい。
知り合ってまだ数ヶ月だけど、一つ年上の新しい友達は、本当に物知りで賢くて強くて、なんというか最強なのだ。料理も上手だし。赤ちゃんのお世話もプロのシッター並みだって母さんも驚いていた。そんなふたりの指導のお陰で、僕も結構な子守戦力に成長していると思う。多分。
ほら、真純だって母さんの次の次の次くらいに僕に懐いてるし。え? 僕の前は誰かって? プロシッターな零くんと景くんだよ。なんか、抱っこの仕方からして違うみたい。僕にはその違いがよくわからないんだけど……。まあ、二人は去年から宮野家の末っ子である志保ちゃんのお世話をしてきたわけで、年期が違うのだ。僕はまだまだこれから成長するからいいんだ。うん。
あ、こら真純、僕の髪を食べようとするんじゃない。ぺっしなさい。
「ところで明美ちゃん、さっきから何作ってるの?」
返事が来る様子もない携帯をソファーの前のローテーブルに置いて、真純を抱っこし直して隣の明美ちゃんの手元に眼を向ける。彼女の小さな手には、刺繍枠にピンと貼られたレモンイエローの布地があった。そう、僕と話しながらも、彼女はずっとせっせと手を動かしていたのだ。実に器用である。
今、宮野家のリビングにいるのは僕と真純と、明美ちゃんと明美ちゃんの隣で眠っている志保ちゃんだ。エレーナ叔母さんと母さんは買い物に出かけてて、厚司叔父さんは隣の部屋でお仕事中だ。ドアは開けっぱなしなので、厚司叔父さんの背中がリビングからもちょっとだけ見える。
「ハンカチに刺繍してるの。ほら、この前変態さんに盗まれちゃったって、お兄ちゃんが落ち込んでたから」
「あー」
明美ちゃんが言っているのは、ちょうど春休みに入る直前くらいに世間を騒がせた事件のことだ。中高一貫の名門男子校の学生寮で、盗撮事件があった、というやつ。世間的には脱衣場や大浴場にしかけられた盗撮用カメラが大きく取り上げられてたけど、一番重い犯人の罪状って窃盗なんだよね……。何を盗んだのかって? 零くんの私物……。うん。パンツとか靴下とか。要するに下着泥棒だ。
下着と一緒に明美ちゃんから貰った刺繍入りハンカチを盗まれたとかで、零くんはとっても怒っていた。あれだけは絶対返して欲しいって警察の黒田さんにも言ってたらしいんだけど、なんだか、犯人にすごく汚されてしまっていたらしくって? もう使える状態じゃないからって諦めたみたい。それで最近零くんは落ち込み気味なのだ。
変態に下着泥棒されたのが解った時も、犯人捜しの為に自分でベランダに監視カメラ設置したという話をした時も、盗撮されてたことに気付いた時もけろりとしていた零くんだけど、よっぽど大事にしてたハンカチだったんだろう。明美ちゃんにも盗まれてごめん、って謝ってた。そんなの零くんが謝ることじゃないって明美ちゃんは怒ってたけど。
「見て! 前より綺麗に刺繍できたの」
「本当だ。すごいね、明美ちゃん」
既に零くんの名前がアルファベットで縫い取られていて、狐のワンポイントデザインも完成している。明美ちゃんが今刺してるのは狐の横のお花。前は名前と狐だけだったらしいから、少しグレードアップだ。
この動物刺繍のハンカチは、クリスマスに明美ちゃんが僕らにプレゼントしてくれたもので、景くんのは三毛猫柄だった。僕のはリスで、将棋の駒が横に並んでたんだよね。羽田さんのおうちで見せたら、みんなすごいって褒めてくれて、僕も嬉しかったなぁ。
「できたぁ!」
話しているうちに、刺繍は完成したみたいだ。明美ちゃんはハンカチを刺繍枠から外して、お急ぎでアイロンをあて、ラッピング用の袋に入れた。なんでも、夕方にクリスさんと零くんが遊びに来る予定らしい。
今日は日曜日なのにふたりともいないな、と思ったら、零くんの後見人のクリスさんが来日しているからだったみたいだ。クリスさんはエレーナ叔母さんとも仲良しだもんね。
そうして、十六時頃に母さんたちが帰ってきて、その一時間後に零くんとクリスさんが訪ねてきた。零くんが、明美ちゃんからのサプライズプレゼントにとても喜んだのは、言うまでもないことだろう。





















