〜5章〜
バタンッ!!!
「はっ!!!」
僕は大きな音に目を覚ました。あわてながら周りを見渡した。
「いてて…あーぁやっちゃったー」
笑いながら膝を抑えて痛みを感じていた女の子──否、女性の周りにはお茶がまかれていた。
僕は声をかけようとした瞬間、
「起きた!おはよう慶くん!」
痛みを捨てニカッと笑い立ち上がる。
「お、おはようございます。そんなことより足は…」
僕は息が詰まり記憶がフラッシュバックした。
──練炭をたいてから倒れた後、彼女は…!?──
「大丈夫ですか!?」
怪我をしたことに対しての声掛けではない。あの時倒れてしまった時、彼女も一緒にいたはずだ。僕は強引に彼女の肩を持ち、声をかけていた。見れば無事なことは分かるが、必死な僕は返答を待つことしか出来なかった。
「心配ありがとう!だけど僕は元気だよ!」
彼女は自分でも気づいていなかった僕の震える手を、暖かい手で覆ってくれた。この一瞬で張り詰めていたものが解けゆっくりとベッドに腰掛けた。
「さて!起きたのならもう大丈夫だね!次の仕事に行かなきゃだから…君もついてきてくれるかね?───助手くん?」
彼女は床にばらまかれたお茶を拭き、立ち上がった。今見れば、既に着替えられており、初めて仕事に着いて行った時と同じ衣装をまとっていた。僕が居なくてもきっと彼女は仕事へ出かけていたんだ。僕は要らないのでは…ふとそう思った瞬間…
──「──役にたててる。僕の……」──
役にたてている。確かに彼女は僕にそう告げた。なにかしたわけでもない僕に…今の僕には何が彼女の役にたつのか、何をするべきなのか分からない。だが、僕は彼女の助手じゃないか…たった2文字の役。それでも僕の役割。
「もちろんです!」
彼女に劣らずの笑顔で僕は応えた。
「今回はここですね。」
助手として仕事へついてきた僕は彼女に声をかけた。彼女の表情は真剣で、声をかけるのを躊躇うくらいに緊迫感が漂っていた。
「あぁ。・・・って!そんな硬くならなくていいよ助手君!たしかにはしゃいでいい場所では無いが、肩苦しいじゃないか?」
彼女は微笑み僕の緊張を優しく払ってくれた。
いつも通りの彼女の背中に僕は安心していた。
「今回は他殺…と見せかけた自殺現場だよ。」
彼女の口調は落ち着いていた。僕は一瞬たじろんだ…
「他殺…に見せかけた、自殺???普通は逆じゃないですか?」
よく…ではないが、聞くことが多いのは自殺に見せかけた他殺だ。一瞬彼女が間違えているのでは?と思ったが彼女からの言葉に嘘はないようだ。
「あっ、よく来てくださいました。中へどうぞ。」
僕の質問の応えを聞く前に依頼主──和泉さんからの呼びかけが入る。見た目は少し男性にしては低めの身長に、タレ目が特徴的だった。
部屋には丸い机を囲い3人が座っていた。右から和泉さん、和泉さんの奥さんの友達木村さん、隣に住んでいる山田さん。
今回亡くなられた方は和泉さんの奥さんであった。
「妻は……」
和泉さんは口を開き、関係性を語ってくれた。
木村さんとは学生時代から奥さんと仲が良く、山田さんとも年齢が近いことから3人で良く食事をする仲であったそうだ。
「単刀直入に言うと、殺した人はいないですよね。」
彼女はスパッと3人に声をかけた。3人は一瞬同様した様子だった。それもそうだ、彼女に依頼を頼んだ和泉さんを含め3人は「奥さんは誰かによって殺されたため、犯人を探して欲しい」と依頼し、ここに彼女が来ているのだと思い込んでいるからだ。
「えっ、と…た、探偵さん?」
山田さんが言葉を詰まらせながら声を発した。
「僕は探偵ではない。・・・ただの華月だ。」
「華月ってだ…」
僕は「華月って誰です?」と彼女に聞こうとしたが脳裏に蘇る記憶があった…
「────僕は、×××。×××って書いて×××。華月 ×××。」
しかし蘇る記憶には華月という言葉以外出てこなかった…僕は彼女の名前を知らない…いや、思い出せないでいた。






