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兎の巣穴、蛸の潜窟。

カルネカルネ

獣人の子供🐰🐙と高校生🦊さんの話、第十話です。 これで最終回になりますが、一旦の区切りをつけただけなので今度は『🐰🐙高校生編』でお会いしましょう。それではご査収ください。

私たちの旅は、まだ始まったばかり。
 太陽はようやく真上を越えたばかりで、残された時間はたっぷりとあった。

「いろは見てー!」

 元気な声が砂浜へ響く。

「ん?」

 彩葉が顔を上げる。
 すると。

「じゃーん!」

 かぐやが両手を突き出していた。
 その手の中には。

「……カニ?」

 小さなカニが数匹。
 ちょこちょこと足を動かしている。

「捕まえた!」

 かぐやは得意げに胸を張った。

「すごいでしょ!」
「すごいけど、指挟まれても知らないからね。」
「大丈夫!」

 その瞬間。

「痛っ!」
「言ったじゃん……。」

 即座にツッコミが飛ぶ。
 かぐやは慌ててカニを砂浜へ逃がした。

「くっそ〜、カニめ……!」
「いや、今のはあんたが悪いでしょ。」

 彩葉は呆れながらも笑う。
 そんなやり取りをしていると。

「彩葉!」

 今度はヤチヨだった。

「ん?」

 振り返る。
 ヤチヨは濡れた髪をかき上げながら歩いてくる。
 その手には何か握られていた。

「これあげる!」

 そっと差し出される。

「お。」

 彩葉は少し目を丸くした。
 ヤチヨが持ってきたのは綺麗な貝殻だった。
 白と薄い桃色が混ざったような色。
 光を受けて少しだけ輝いている。

「海の底に落ちてた。」
「貰っちゃって良いの?」
「うん、あげる!」

 彩葉は半ば強引にその貝殻を受け取る。

「綺麗だね。」
「でしょ〜!」

 ヤチヨは少しだけ嬉しそうに頷いた。

「いつも頑張ってる彩葉にプレゼント。」
「ありがと。」

 彩葉は大事そうに手のひらへ乗せる。
 すると。

「プレゼント!?」

 かぐやの耳がぴくりと動いた。

「かぐやも集める!」

 そう宣言した次の瞬間。
 ばしゃばしゃばしゃっ!
 海へ向かって走り出す。

「あっ。」

 彩葉が嫌な予感を覚える。

「かぐや、あんまり遠く行かないでよー!」
「大丈夫ー!」

 返事だけは元気だった。
 そして。

「あっ。」

 綺麗な貝殻を発見する。
 さらに。

「こっちにもある!」

 夢中になる。
 一つ拾う。
 また一つ拾う。

 気付けば。
 どんどん沖へ進んでいた。

「えへへ、いろはにプレゼント……」

 かぐやは上機嫌だった。

「いっぱい見つけた!」

 集めた貝殻を見せる為に彩葉達のいる砂浜の方を振り向く。
 その時。

 ふっ。
 足元から砂の感触が消えた。

「……え?」

 もう一歩踏み出そうとする。
 当然のように地面があると思った。
 けれど。
 そこには何も無かった。

「わっ!」

 身体が沈む。
 慌てて足を動かす。
 届かない。

「えっ。」

 もう一度。
 届かない。

「ヤバっ!?!?」

 一気に顔色が変わった。

「や、ヤチヨ!」

 ばしゃばしゃ。
 必死に手を動かす。

「いろはっ!!」

 その焦るかぐやの叫び声を聞いて。

「だから言ったでしょ……!」

 彩葉は呆れながらも即座に海へ飛び込んだ。
 数秒後。

「ほら、捕まって。」
「う、うん!」

 彩葉に腕を掴まれる。
 そのまま浅瀬まで引っ張られた。
 ようやく足が地面へ着く。

「はぁ……」

 かぐやは大きく息を吐いた。

「し、死ぬかと思った……」

 彩葉は額を押さえる。

「あんまり遠く行かないで、って言ったでしょ。」
「ごめんなさい……」

 しゅんと耳が垂れる。
 反省しているらしい。

「まぁ何事も無かったから良いけど。」

 彩葉はため息を吐く。

「遊ぶのは良いけど、ちゃんと周り見なよ?」
「はーい……」

 今度は結構しょんぼりしてそうな返事だった。
 ヤチヨはそんな二人を見ながら小さく笑う。

「かぐやらしいね。」
「らしくない方が良いと思うんだけど……」

 彩葉がぼやく。
 けれど、無事だったんだからそれでいいかな。と思いながら私はかぐやの頭をそっと撫でた。

 それからしばらく遊んで。
 気付けば三人とも少し疲れていた。

「ふぅ……」

 彩葉はビーチチェアへ腰を下ろす。
 その隣では。

「あっつい……」

 かぐやがぐったりしていた。
 すると、ヤチヨもパラソルの下へ戻ってくる。

「涼しい……」

 海風が吹く。
 ぱたぱたとパラソルが揺れる。
 遠くでは子供達の笑い声。
 波の音。
 カモメの鳴き声。

 三人はそれを眺めながらしばらく何も言わなかった。
 ただ海を眺める。

 青い空。
 青い海。
 どこまでも続く水平線。
 その景色は、不思議と見ていて飽きなかった。

 パラソルの下。
 波の音を聞きながら、三人はのんびりと休憩していた。
 海風が心地良い。
 かぐやはビーチチェアにもたれ掛かり、ヤチヨは膝を抱えるように座っている。

「ねぇ、彩葉。」

 不意にヤチヨが口を開いた。

「ん?」

 彩葉が顔を向ける。
 ヤチヨは少しだけ言いづらそうに視線を泳がせた。

「今更だけどさ。」

 一拍置く。

「ホントに大丈夫だったの?」
「えっ。」

 彩葉は瞬きをした。

「な、何が?」
「今日の旅行の事。」

 ヤチヨは続ける。

「ただでさえ私達のせいで大変そうだし。」
「そうそう!」

 すると、かぐやも身を乗り出した。

「あと最近ずっと忙しそうだったよね!」
「……。」

 彩葉は数秒黙った。
 そして。

「なに。」

 少しだけ笑う。

「心配してくれてるの?」
「うん。」

 ヤチヨは素直に頷いた。

「今日の旅行も。」

 視線を落とす。

「彩葉に迷惑掛けてないかなって。」

 かぐやも同じように頷く。

「かぐや達、お金とか全然分かんないし……」

「……はぁ。」

 彩葉は小さくため息を吐いた。

「まったく。」

 そして。
 ぐしゃぐしゃ、と。

「わっ。」
「ふぁっ。」

 二人の頭を同時に撫で回す。

「い、いろは!」
「髪ぐちゃぐちゃになる……!」

 二人が慌てる。
 けれど彩葉は気にせず二人を撫で回す。

「子供が一々そんな事考えなくて良いの。」

 いつもより少しだけ優しい声だった。

「心配してくれてるのは嬉しいけどね。」

 彩葉は撫でる手を止める。

「私はあんたらの事を迷惑だなんて思った事、一回も無いし。」

 そして少し笑う。

「これからだって絶対思わないよ。」
「……。」

 ヤチヨが目を丸くする。

「ほ、ほんとに……?」
「ほんとに。」

 彩葉は即答した。

「それにさ。」

 海へ視線を向ける。

「元はかぐやのお願いだったとは言え、私が勝手に連れて来たんだから。」
「え?」
「気にする必要ないよ。」

 二人は顔を見合わせた。
 彩葉は肩を竦める。

「まぁ、ここ最近忙しすぎてたし。」

 遠くで波が砕ける。

「たまには息抜きしたいかったんだよね。」

 少しだけ空を見上げる。

「それに。」

 今度は二人を見る。

「三人で海に来れて、私は楽しいけど。」

 口元に小さな笑みを浮かべた。

「二人は違った?」

 その瞬間。

「ちょー楽しい!」

 かぐやが即答した。

「海大好き!」
「わ、私も!」

 ヤチヨも慌てて続く。

「すごく楽しい!」

 その返事を聞いて。
 彩葉は少しだけ目を細めた。

「良かった。」

 短い言葉だった。
 けれど。
 その顔は、どこか安心したように見えた。
 かぐやとヤチヨはそんな彩葉を見つめる。

 そして。
 どちらからともなく笑った。
 潮風が吹く。
 波の音が聞こえる。
 夏の日差しは相変わらず眩しかったけれど。
 今だけは、不思議と穏やかな時間が流れていた。

パラソルの下。

「はぁ〜……」

 かぐやがぐったりとビーチチェアへ沈み込む。

「もう動けない……」

 耳までしんなりしていた。

「さっきまであんな元気だったのに。」

 彩葉が苦笑する。

「だって朝からずっと遊んでるもん……」

 かぐやは恨めしそうに空を見上げた。
 隣ではヤチヨも同じように椅子へ身体を預けている。

「私も……」

 ぽつりと呟く。
 流石に少し疲れたらしい。
 海へ入って、追い掛けっこして、泳いで、貝殻を集めて。
 気付けばかなりの時間遊んでいた。

「まぁ。」

 彩葉は笑う。

「朝からあんな遊んでたし、そりゃそうか。」
「……。」
「……。」

 二人は返事をする気力すら無いらしい。
 そんな様子を見て、彩葉は少し考える。

「……あ。」

 ふと思い出したように声を上げた。

「じゃあさ。」
「?」

 ヤチヨが顔を上げる。

「確か、この近くに有名な神社あるらしいんだよね。」
「神社?」
「うん。」

 彩葉は頷く。

「このまま帰る時間までだらだらするのも良いけどさ。」

 一拍置く。

「折角ここまで来たんだし、行ってみない?」

 その瞬間。
 かぐやの耳がぴんと立った。

「行く!!」

 さっきまでの疲労感はどこへ行ったのか、かぐやはいきなり立ち上がった。

「復活早っ。」

 彩葉は思わず笑う。

「私も行きたい。」

 ヤチヨも小さく手を挙げた。

「よし。」

 彩葉は立ち上がる。

「それじゃ着替えてから行こっか。」
「うん!」
「はーい!」

 返事だけは相変わらず元気だった。

 神社へ着いた頃には、すっかり午後になっていた。

「おぉー!」

 最初に声を上げたのはかぐやだった。
 目の前には大きな鳥居。石畳の参道。木々に囲まれた境内。

「すごい!」

 かぐやは鳥居を見上げる。

「めっちゃ大きい!」
「有名なところらしいからね。」

 彩葉が答える。

「テレビとかでも見た事あるよ。」
「へぇー!」

 かぐやはきょろきょろと辺りを見回した。

「なんか神様の家って感じ!」
「まぁ、間違ってはいないかも。」

 彩葉は苦笑する。
 一方。

「彩葉。」

 ヤチヨが少し困った顔で声を掛けた。

「ん?」
「お参りって何すれば良いの?」

 その問いに彩葉は「あー」と声を漏らす。

「そういえば知らないか。」

「まず手を洗う。」
「うん。」
「それからお賽銭入れて。」
「うん。」
「鈴鳴らして。」
「うん。」
「二回お辞儀して、二回手を叩いて、お願い事して、最後にもう一回お辞儀。」
「……。」

 ヤチヨは固まった。

「覚えられる気がしないんだけど。」
「私も!」

 いつの間にかかぐやまで参加している。

「大丈夫大丈夫。」

 彩葉は笑った。

「私もうろ覚えだから。」
「ホントに大丈夫かな……」

 ヤチヨは少し心配するような表情になった。

 手水舎で手を清めたり。
 境内を散策したり。
 大きな御神木を眺めたり。
 三人はのんびりと神社を歩いた。

「なんか落ち着くね。」

 ヤチヨがぽつりと呟く。

「確かに。」

 彩葉も頷いた。
 海の賑やかさとは全然違う。
 聞こえるのは風の音と木々のざわめきだけ。
 それが妙に心地良かった。

「ねぇ見て!」

 かぐやが何かを発見する。

「あそこにも鳥居ある!」
「本殿じゃない方かな。」
「行ってみたい!」
「はいはい。」

 そんな風に歩き回っているうちに。
 やがて三人は拝殿の前へ辿り着いた。

「じゃあお参りしよっか。」

 彩葉が言う。
 二人も頷いた。
 お賽銭を入れる。
 鈴を鳴らす。
 そして。
 二礼二拍手一礼。
 三人はそれぞれ目を閉じた。

 かぐやは願う。

『いろはとヤチヨと、ずっと一緒に暮らせますように!』

 難しい事は考えない。
 ただ、それだけだった。
 今みたいな毎日が続けば良い。
 それが一番の願いだった。

 ヤチヨは願う。

『皆仲良しでいられますように。』

 海で遊んだ事。
 一緒にご飯を食べた事。
 電車で笑った事。
 全部楽しかった。
 だから。
 この時間が続いてほしい。
 そう思った。

 そして彩葉は、

『……。』

 一瞬だけ考える。
 お金とか。
 仕事とか。
 将来とか。
 考えれば色々ある。
 けれど。

『まぁ。』

 小さく息を吐く。

『二人が元気でいてくれれば、それでいいかな。』

 それだけ願った。

「終わったー!」

 最初に目を開けたのはかぐやだった。
 両手を合わせたまま振り返る。

「ねぇねぇ!」

 そして。

「二人は何お願いしたの!?」

 興味津々だった。

「私は──」

 ヤチヨが素直に答えようとして。

「あ。」

 彩葉が口を開く。

「お願い事って口にしたら叶わなくなるんじゃなかったっけ?」
「えっ。」

 ヤチヨが固まる。

「そうなの!?」
「多分。」

 彩葉は曖昧に答えた。

「うろ覚えだけど聞いた事ある気がする。」
「危なっ!」

 かぐやが目を見開く。

「危うく叶わなくなるところだったじゃん!」
「い、言わなくて良かった……」

 ヤチヨも本気で安堵していた。
 彩葉はそんな二人を見て少しだけ笑う。
 すると。

「じゃあ!」

 かぐやが指を立てる。

「お願いが叶ったら教えてね!」
「う〜ん、どうだろ。」

 彩葉は苦笑した。

「叶うかなぁ。」
「えっ。」

 かぐやが目を丸くする。

「そんなヤバいお願いしたの!?」
「別にヤバくはないけど。」

 彩葉は少しだけ空を見上げる。

「叶うかどうかは私が決める事じゃないしね。」
「?」

 かぐやは首を傾げた。
 意味はよく分からなかったらしい。
 一方で。

「……。」

 ヤチヨは少しだけ彩葉を見つめていた。
 きっと。
 彩葉らしい願いだったんだろうな、と。
 なんとなく。
 そんな気がした。

 境内を吹き抜ける風が、三人の髪を優しく揺らした。

 帰りの電車を待つホーム。
 三人はベンチへ並んで座っていた。
 夕方の風が心地良い。
 海で遊んだ疲れもあって、どこかぼんやりとした空気が流れている。

「楽しかったねー!」

 かぐやが足をぶらぶらさせながら言う。

「うん!」

 ヤチヨも大きく頷いた。

「めっちゃ楽しかった!」
「そうだね。」

 彩葉も笑う。
 少しだけ考えてから。

「……また来よっか。」

 そう言った。
 二人の目がぱっと輝く。

「ホント!?」
「やった!」

 そして。

「じゃあ明日も来よ!」

 かぐやが元気よく提案した。

「それは無理。」

 彩葉は即答する。

「えぇ〜!?」
「流石にしんどいよ……。」

 ヤチヨも首を振った。

「時間も無い。」
「そんなぁ……」

 かぐやが不満そうに頬を膨らませる。
 その後も。

「来週!」
「無理。」

「じゃあ再来週!」
「無理。」

「なら来月は!?」
「それなら考えとく。」
「やった!」
「まだ決まってないからね?」

 そんなやり取りが続く。
 ヤチヨも途中から混ざり始めて。

「今度は別の場所がいいなぁ。」
「例えば?」
「山登り、とか?」
「楽しそう!」

 わいわい。
 やいのやいの。
 二人の会話は止まらない。
 彩葉は苦笑しながらその様子を眺めていた。

 ふと。
 視線を駅の入口へ向ける。
 建物の隙間から。
 ほんの少しだけ海が見えた。
 夕陽に照らされた海。
 橙色に染まる水平線。
 今日一日遊んだ場所。

「……。」

 彩葉はしばらくその景色を眺める。
 そして。
 ぽつりと呟いた。

「……帰りたくないなぁ。」

「「えっ。」」

 二人の声が綺麗に重なった。
 彩葉は思わず振り返る。 

「……何その顔。」

 二人ともものすごく心配そうな顔をしていた。
 ヤチヨがおずおずと口を開く。

「い、彩葉。」
「ん?」
「なんか辛い事とかあった……?」
「ないけど。」

 即答だった。
 すると今度はかぐやが慌てて身を乗り出す。

「じゃ、じゃあまだ遊んでいこうよ!」
「え?」
「もっと海見る!? お土産屋も開いてるし、多分木刀もまだ買えるよ!」
「なんで私が木刀買いたいと思ってる前提なの。」

 思わず突っ込む。
 かぐやは真面目な顔だった。

「じゃ、じゃあやっぱり明日も来る!?」

 焦った表情のかぐやを見て、彩葉は苦笑する。

「だから無理だって。」
「うぅ……」

 二人はますます不安そうな顔になる。
 その様子を見て。
 彩葉は首を傾げた。

「二人とも、なんか変だよ?」
「だ、だって!」

 かぐやが勢いよく言う。

「いつもの彩葉なら『早く帰りた〜い』って言うじゃん!」
「私のイメージおかしくない?」
「でも言いそうじゃん!」

 ヤチヨが真顔で頷く。

「彩葉が『家に帰りたくない』なんて言ってるところ見たこと無いもん。」
「まぁ、それは確かに……?」

 彩葉は少し考える。
 言われてみればそうだった。いや、ホントにそうだったかな……?
 旅行したのなんて大昔すぎて記憶に残っていなかった。なんとか思い出そうと考え込んでいると。

「ねぇ彩葉。」

 ヤチヨがふと尋ねる。

「ん?」

 彩葉は視線を向けた。

「今日、ホントに楽しめた?」

 少しだけ不安そうな声だった。
 彩葉はその意味を理解する。
 今日一日。海へ来て、遊んで、観光して、沢山歩いて。
 そのほとんどは、かぐやとヤチヨに付き合う形だった。
 だからこそ聞きたかったのだろう。
 彩葉自身は楽しめたのか、と。
 けれど。

「もちろん。」

 返事は即答だった。

「帰るのが惜しく感じるくらいにはね。」

 そう言って彩葉は笑う。

「……そっか。」

 ヤチヨも安心したように微笑んだ。
 その様子を見ていたかぐやも嬉しそうに頷く。

「ま、でも。」

 彩葉は肩を竦める。

「やっぱり我が家が一番かな。」
「えー!」

 かぐやが即座に抗議した。

「毎日こんな遊んでたら疲れちゃうし。」

 彩葉は苦笑する。

「かぐやは毎日でも来たい!」
「皆が皆、あんたと同じ体力持ってると思わないでよ。」
「むー。」

 頬を膨らませる。

「じゃあ一人で来るもん!」
「危ないから絶対ダメ。」
「えぇ〜……」

 即却下だった。
 そのやり取りを見ていたヤチヨが小さく吹き出す。

「ふふ。」

 そんな他愛もない会話を続けていると。
 ホームへ電車が滑り込んできた。

 帰りの車内。
 流石に疲れたのか、行きの時ほど騒がしくはない。
 窓の外では夕日が街を橙色に染めていた。
 三人は並んで席へ座る。
 ガタン。
 電車が動き出す。
 心地良い揺れ。
 穏やかな静寂。
 そんな中。

「あ、そうだ!」

 かぐやが何かを思い出したように声を上げる。

「ねぇ、いろ──」

 そこまで言って。
 言葉が止まった。

「?」

 ヤチヨが首を傾げる。
 かぐやは隣を指差した。

「や、ヤチヨ……!」

 かぐやは何故か小声で囁く。

「あれ見て……!」
「ん?」

 ヤチヨも視線を向ける。
 そして。

「あ。」

 思わず声が漏れた。

 彩葉が眠っていた。
 窓へ軽く頭を預けながら。
 規則正しい寝息を立てている。
 夕日が横顔を照らしていた。
 どこか穏やかで。
 どこか安心しきったような寝顔だった。

「……珍しくない?」

 かぐやがこそこそ声で言う。

「彩葉がこんなぐっすり寝てるの。」
「確かに。」

 ヤチヨも頷く。

「でも。」

 彩葉の寝顔を見る。

「今日は私達に沢山付き合ってくれてたしね。」
「そっか。」

 かぐやも納得したように頷いた。

「今はそっとしとこっか。」
「うん。」

 しばらく二人は静かに彩葉を見つめる。
 そして。

「あ。」

 かぐやが何かを思い付いた。

「でも……」

 ごそごそ。
 彩葉の鞄へ手を伸ばす。

「ちょっ。」

 ヤチヨが慌てる。

「何してるの?」
「しーっ。」

 かぐやはスマホを取り出した。
 そして。
 そっとカメラを向ける。

 カシャッ。
 小さな電子音。
 画面には。
 気持ち良さそうに眠る彩葉の姿が映っていた。

「これでよし……!」

 かぐやは満足そうに頷く。

「バレて怒られても知らないよ?」

 ヤチヨが呆れたように言う。

「大丈夫大丈夫。」

 かぐやは笑う。

「彩葉はこんなんじゃ怒んないし!」
「どうだろ。」
「大丈夫!」

 根拠は無かった。
 けれど。
 二人は小さく笑い合う。

 その後も。
 起こさないように声を潜めながら。
 今日あった事を話したり。
 写真を見返したり。
 神社で何をお願いしたのか想像したり。
 他愛もない会話を続けていた。
 窓の外では夕日がゆっくり沈んでいく。

 その隣では。
 彩葉が静かに眠っている。
 旅行の終わりを惜しむような穏やかな時間だった。

— End —

Comments 12

名無しその31 小时前

ほのぼの小学生編完!?次は高校生編!?楽しみにしています

放課後延長戦1 小时前
Sticker
I
i1 小时前
Sticker
K
katfle2 小时前

可愛い二人さんに癒されてます。次の高校生になって、彩葉さんと組み合わせが楽しみです。

ハルマキ@イグニスター2 小时前

現実を受け止められないですが、続編楽しみです応援してます。全裸で

幽樹2 小时前
Sticker
R
ri3 小时前

高校生編楽しみに待ってます!!

D
dbkt3 小时前

幸せな日常をありがとうございました!高校生編が楽しみすぎます!

雪見だいふく3 小时前
Sticker
雪見だいふく3 小时前

三人全員幸せで最高でした!高校生編楽しみに待ってます!

しおん3 小时前

彩葉がかぐやとヤチヨのおかげで変わっていく描写好きすぎる...

ヨツ3 小时前
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Sakuria
Where every work blooms
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