どうやら土いじりを好むようだ――とは、キャビンに定住するようになってから気づいたディンだ。
キャビンの近くにある池のほとりからグローグーがいつまでも戻らないので、いったい何匹の蛙を食っているのかと見かねて覗き込んだら、ちょっとしたことになっていた。
浅くだが掘り返された地面。土でできた、小さいが丸みを帯びたなかなか見ものの造形物が連なっている。ほお、とディンは思った。
その傍らでグローグーは、よっこらしょと屈み込んで小さな手を池の水で湿しては、土を捏ね上げる助けとしていた。いじらしいほどの地道さに、ディンは次の日には小ぶりなバケツ、スコップ、先を丸めた熊手などひと通り差し入れてやる。それらを見た大きな黒目はきょとんとしていたが、ディンが身を屈めて使い方を実演してみせると途端に「なるほど!」の顔つき。
道具を揃えたことによりグローグーの仕事は大いに捗り、ほぼ毎日頭から浴びたように泥まみれで帰ってくる。一回池の中をくぐってからこいとディンは言いたいくらいだったが、黙って抱え上げて(歩かせるとキャビンの床に茶色の小道ができる)シャワールームに連行するのが日常となった。
念入りにお湯を浴びて、小さな体の隅々まで拭き上げてもらい、「さっぱりした」とそのあどけない表情で父に告げるまでがルーティンかのようだ。楽しそうでなによりなことだが――、とディンは思案を続ける。
ディンはカルガの伝手を辿ってキャビンの傍らにドロイドと重機を動員し、そこそこの範囲の地面を掘り返させ、さらに柔らかい土を混ぜさせた。ついでに水道設備も引き込み、レバーひとつで水が出せるようにもする。敷石で囲えば境界もはっきりとして見栄えが良くなるだろう。
なかなかの規模の「工事」(といっていい)を視察するついでに、孫の顔を見に来た祖父かのようにグローグーを構いに来たカルガは、小さな子を抱っこしながら呆れと笑顔半分でディンに話しかけた。
「おい、マンドー。言われた通りの手配はしたつもりだが、これで足りそうか?」
「ああ、十分だ」
「なかなか大掛かりじゃないか。ところでこりゃ何事だ?」
「子供が遊びやすいように」
聞いたカルガは吹き出しそうな顔をしたが、腕をゆすってグローグーをあやしながら笑って話しかける。
「だとさ! よかったなあ、おい? 俺はお前の話を聞いた時、てっきり畑でもやり出すのかと。お前に限ってまさかとは思ってたんだ」
「畑」
「だってこりゃ、まるきり農民のやる客土(かくど)って作業だぞ。固い地面を掘り起こして、土壌を混ぜてって」
ディンは、カルガの腕の中の我が子を見た。大人たちの親しげな話し合いの雰囲気に安堵して、きょときょと視線を巡らせているグローグーの。
「この土は畑に向いているのか」
素朴に聞くディンに軽く眼を瞠ったものの、カルガはすぐさまにこやかに上級監督官らしい「実務」に対応した口ぶりで応じる。
「今から足せばいい、必要なら肥料も用意してやる。ここいらは溶岩地帯だが、畑作もできなくもないんだぞ。ちいと水はけがよすぎるが、まあ面倒見が良くないとそもそも畑なんてこなせないからな。なあおい、やってみろよマンドー。畑作は街づくりみたいに楽しいぞ、じっくりやれば結果が追いつくところなんかな」
「お前がいうと実感があるな」
いわゆる自給自足の手段はマンダロリアンのコミュニティにもあったはずだが、戦闘部隊一本だったディンには正直あまりその分野の知見がない。だが。
「できなくもないかもしれない」
「ぱとぅ」
「そうだそうだ、やってみろ!」
そういう流れで、ごく狭い範囲でだけやってみることになった。
季節に合った初心者向きの作物を始めるにあたり、やはりグローグーが腕を発揮した。畝を立てるような地道な作業でも、黙々とでも実に楽しそうに取り組み、かつ見栄えよく仕立て上げる。種を埋め込む小さな手の、その所作も丁重なこと。
そうかと思えば、ディンがホースを操って水をやろうとすると、きゃーっと前に飛び出してきて水遊びしたがる。
日光と放水の掛け合わせで虹が生まれれば、興味津々に見つめるつぶらな目。
ディンは、そうした我が子の佇まいをいつまでも眺めていたい心地がした。
日々はそうして過ぎて、やがて土から双葉が芽生えた。あっさり取って食っちまうかもな、とディンは鷹揚に我が子を眺めていたが、グローグーはまじまじと生まれたての若葉を見つめるばかり。
次の日も、その次の日も、グローグーは目覚めるなり小さな畑へ駆けていって、今日その日だけの作物の顔つきを確かめに行く。そして、すっかり心得た畑の面倒見をひと通り終えると、満ち足りた顔つきで遊ぶためだけに土を捏ね上げ始めるのだ。
それを見ながらディンは、土を入れ替えた日のカルガの言葉を時々思い起こす。彼は、弾んだ口調でさらりとしたことを言ってのけたものだ。ここいらじゃ根菜や葉物ができるんだぞマンドー、保存に向いてるからぜひ作れ、と。
『たくさん作って、どっさり溜め込んで、――ずっとこの子とここにいろよ、マンドー』





















