「これ、美味しそう〜」
カフェの新作スイーツのポスターを見ながら何気なく言ったその言葉。
期間限定の苺タルト。
隣を歩いていた侑はポスターをちらりと見て、小さくため息を吐いた。
「……お前さ」
「ん?」
「もうちょいあいつ見習うたら?」
「……え?」
あいつ、なんて名前を出されなくても誰か分かってしまう。
「いや、あいつならそないな事言わんやん」
まただ。
また、幼馴染。
「欲しいなら欲しいって言うし、遠回しな言い方せんし、てかあいつこない甘いもん食わんやろ、あんなほっそいし」
別に欲しいなんて言ってない。
買ってほしいとか、連れて行ってほしいとか、そんな事一言も言っていない。
本当に美味しそうだなと思っただけ。
細いしって何。私はデブだとでも言うの。
幼馴染は素直に甘えられて、美人でスタイルがいいけど、私はそうじゃないと言いたいの。
つっかかってやりたいのに、喉が張り付いて声が出ない。
「俺忙しいねん。アイツみたいに空気読むなりせぇや。隣におんねんから分かるやろ」
また。
また。
また。
美人で。 頭が良くて。 優しくて。 誰にでも好かれて。 所作も綺麗で。 完璧な幼馴染。
昔からずっと比べられてきた。
親にも、先生にも、友達にも。
そして今は、彼氏のアツムにまで。
「……せやね」
今、彼女は上手く笑えているだろうか。
侑は気づかない。
彼女がどれだけ傷ついているか。
どれだけ比べられるのが嫌か。
片割れと比べられて、侑は嫌じゃないのだろうか。
彼女の顔色に気づかないまま、侑は続ける。
「少しは参考にしたったら?」
ぼとり、心の中に何かが落ちた。
黒い感情が、滲んでいく。
「なぁ」
アツムがようやく彼女を見る。
「そない好きなら」
彼女の声は、自分でも驚くほど冷たかった。
「私じゃなくて、私の幼馴染と付き合えばよかったやん」
漸くやらかしたと思ったのか、顔を強ばらせる侑に気づいたけど、もう止まらない。
「美人で、頭良くて、優しくて、完璧なんやろ?」
「いや、そうやなくて」
「私やって知っとるよ」
ずっと知っている。
誰よりも隣にいたから。
ずっと比べられてきたから。
「私があの子になれんことくらい」
張り付いた喉が痛い。我慢した目の奥が熱い。
それでも意地で水滴は落とさない。こういう所が可愛くないのだろうと分かっている。
「私は私やねん」
侑が何か言いそうだったのを、踵を翻して遮る。
「今日は帰るわ」
背を向けて、足早に歩き出す。
後ろから名前を叫ばれるけど、無視してイヤホンを耳に押し当てた。
ほとんど走るようにして帰れば、丁度塾帰りの幼馴染が向かいからやってきた。
「あれ?どないしたん?」
「……」
これで、幼馴染の性格が悪かったなら。
何か、致命的な欠点があったなら。
そう思ってしまう自分が、そんなだから、あんな結末になったんだと自虐の笑みをこぼす。
「…侑と別れた」
「はぁ?うちの大事な幼馴染泣かして、あの男!」
「もうえぇよ」
「えぇ訳ないやん!なんやの!ちょこっとバレー上手いからて!」
ぎゅうと抱きしめてくる幼馴染から、柔らかな香りがする。
美人は香りも上品だ。
「……もう、疲れた」
「ん、ん。せやな。今日はもうなんもせんとこ!あ、せや!ママがな、ケーキ買うたんやて!食べへん?」
「……えぇよ、私太ってるし」
「何言うとんのー!?そんで太ってたら世界中メタボまみれやん!痩せてるから!?」
「あんたほどやないやん」
「私は陸上やってんのやからそらそうやって」
食べよ?泣いてカロリー使うやん。
柔らかく笑う幼馴染のまつ毛が揺れて、泣いている彼女と同じように泣きそうな顔をする。
「……私、男運ほんま悪いけど」
「んー?」
「幼馴染には恵まれたわ」
「なんそれーめっちゃ可愛いこと言うやん〜!男運ないんやなくて男の方が見る目ないだけ」
「......そう、かな」
「そうやよ。こない可愛いもん」
私の大事な幼馴染やもん。
ほら、家行くで。
綺麗な手に引かれて、慰めのケーキを頬張るために、幼馴染の家まで、並んで向かっていった。
Novel4 days ago · 1.7k chars · 1 pages
いつだって完璧な幼馴染と比べられるから、もう疲れた
すずめ@タグ大喜利大歓迎幼馴染が悪く無い系のを書きたかったやつ。 続き書く気はあんまりない。覚書用。
— End —
Comments 5
ま
まめすけ3 天前

チ
チェリ3 天前
幼馴染さんと付き合えば最高だと思いました…!!(そういう話じゃない)
U
ume3 天前

小
小鳥。3 天前




















