「お、芦花とヤチヨから帰るコールだ」
今日あの二人は冬物の服を買いに出かけている、夜ごはんは家で食べるって話だったから連絡あるまで調理は待っていたのだ。
「よっこいしょ」
意外と遅かった帰りの連絡のせいで、完全にソファに根が張っていたお尻を引きはがす。
このソファ、マジで座り心地よすぎて半ば人食いソファになってるんだよなぁ。
主な犠牲者?ヤチヨと限界状態の彩葉、しょっちゅう動けなくなってるよ。
極まれに芦花が捕まってるけど超レア現象なんだよねぇ、完全に気の抜けてる芦花ってめっちゃレアだからもっと見たいのに。
それはさておき、キッチンへ移動し用意を進める、今日の晩御飯は圧力鍋さんでサクッと作る肉じゃがさんだ。
いいよね、圧力鍋、彩葉におねだりして買ってもらったけど最高だよ。
おかげで最近の我が家は、私が料理当番の日はほぼ煮物系になっている、まあちゃんと洋食和食でローテーション組んでるから文句は出てないのだが。
「よっしゃ、始めますか」
とりあえず野菜洗って皮剥いて食べやすいサイズに切って……あ、彩葉降りてきた。
「いろは?お仕事終わったの?」
「ん~……」
在宅勤務を終えたのか、二階から降りてきた彩葉の様子を確認すると……。
あ、今日の彩葉ちょーお疲れの自動運転モードだ。
ふらふらと何かを探すように彷徨ってる、あ、ロックオンされた、狙いは私だったか。
「かぐや~……」
「ちょっと~、かぐや今料理中~」
「ん~……」
「ん~じゃなくて~」
お疲れモードの彩葉が後ろから私の腰に抱きついてくる、もたれかかる様になってるあたり今日は重症だなぁ……。
「いろは、かぐや今包丁使ってるから危ないって」
「や~……」
「やーじゃないよも~……」
まあにんじんと玉ねぎ切るぐらいだし……いっか、幸いにして、彩葉特製のこの身体なら彩葉にもたれかかられてる状態だろうがびくともしないし。
トントントンと、小気味いい音と共ににんじんが小さくなっていく、彩葉も気持ちのいい音だなって思ってくれてるかな?
にんじんを処理し終え、玉ねぎに移る、残念ながら玉ねぎは適当に四等分にするだけなのでいい感じの音はしない、無念。
問題はじゃがいもなのだが……。
「いろは?流石にじゃがいも切る時は危ないからちょっと離れて?」
「ん……」
流石にここまで言えば離れてくれる、だいぶのそのそとした動きだし、めっちゃ名残惜しそうだけど。
私から離れた彩葉は、食器棚の前に座り込んでいるようだ。
離れてくれたならと、じゃがいもの処理を開始する、明日の朝も肉じゃがで済ませるつもりだから多いんだよ、じゃがいもの量。
超硬いはずのじゃがいもに、まるでネギかなんかを切っているようにサクサクと包丁が入る。
アバターボディのパワーのおかげだ、流石にこの量のじゃがいもをレンチンしたり下茹でしたりは面倒なのでごり押しさせてもらいましょう。
アバターボディによる圧倒的パワーと、天才歌姫かぐやちゃんの料理スキルによって、あんなにあったじゃがいもは数分で食べやすいサイズに加工されてしまったのでした。
「よし、おっけー」
「かぐや~……」
「おわ、また来た」
じゃがいもの処理を待っていたらしい彩葉が再び私に抱きついてきた、こりゃ本当に重症だなぁ。
そういえば取引先の企業の担当者が変わって色々大変みたいなことぼやいてたっけ。
お疲れ甘えんぼモードの彩葉は可愛いけど、ここまでお疲れなのは看過できないなぁ……。
今度研究所のみんなに相談……はしても意味ないか、一番えらい彩葉が出てなお面倒なことになってるんだし。
そうなると芦花とヤチヨに相談して、疲れを取ってあげる方にシフトした方がよさそうかな?
「いろは、もうちょっと待って?あとお肉用意して圧力鍋セットするだけだから、そしたらかぐやのこと好きにしていいから」
無言で離れて元の位置に戻っていく、彩葉のためにもさっさと鍋を火にかけて、圧力鍋さんを眺めるだけの時間にしなければ。
冷蔵庫から取り出した牛肉をいい感じにカットする、元から切れてるタイプなのでそこまで加工の手間はかからない。
あとはお野菜お肉の順番で圧力鍋さんに放り込んで、かぐやちゃん秘伝の割合の調味料を回しいれる。
で、圧力鍋さんの説明書通りにセットして……あ、しらたき入れ忘れてた。
彩葉に内心謝りながら、しらたきの下ごしらえをさっと済ませて圧力鍋さんに放り込む。
今度こそ圧力鍋さんをセットして、ピンの様子を確認する。
ピンが上がり、蒸気が出始めたら弱火にして、あとは待ち時間だ。
「お待たせ、いろは♪」
手を洗って、食器棚の前で待っていた彩葉の隣に腰掛ける。
彩葉はこてんと、身体ごとこちらにもたれ掛かってきて。
「お疲れだねいろは」
「……つかれた」
「この前言ってた取引先の担当者変更?」
「うん、嫌な人ってわけじゃないんだけどさ、急な異動らしくてもーいろいろミスだらけで……」
「あちゃー、それでいろはが対応してるんだ」
「みんな頑張ってくれてるからこれ以上負担押し付けられなくてね……」
「それでいろはがちょーお疲れモードじゃダメじゃん」
「そうなんだけどぉ……ま、先方もマズいと思ってるのか対策進めてるらしいし、もうちょっとの我慢だよ」
「そっか、じゃあ美味しい美味しい晩御飯と、お風呂の時はかぐやちゃんがお背中流してあげるから、頑張って、彩葉」
「うぅ……かぐやすきぃ……」
「かぐやもいろはのこと大好きだよ~」
「あ、ところで今日の晩御飯ってなに?」
「え、嘘でしょ調理工程のほぼすべて見てたのに!?」
「いや……かぐやぎゅーってしてるときはかぐやの背中だけ見てたし、それ以外はぼーっとしてたから……」
「えぇ……今日の晩御飯は肉じゃがだよ、味は保証するから楽しみにしててよね♪」
「かぐやの料理で美味しくなかったのほとんどなかったしそこは疑ってないって」
「ほとんどってなにさ……」
「いつだかのパクチーたっぷりの料理はちょっと……ごめん……」
「あれかぁ……いろはパクチーダメだもんね」
そんな話をしているうちに、加熱時間が過ぎたから火を止める、あとは圧力が抜けるまで放置したら美味しい肉じゃがの完成だ。
そしてそのタイミングで、玄関からヤチヨの騒がしいただいまと、芦花の優しい声のただいまが聞こえてくる。
二人が身支度を整えて、食卓につくまでの間にちょうどいい感じに圧が抜けて完成するはず、我ながらナイスタイミングである。
「いろは、二人とも帰ってきたし晩御飯の支度しちゃうね」
彩葉に断りを入れて、離れる前にぎゅってして、お皿やらの準備を始める。
私に甘えて少しは回復したのか、彩葉も手伝ってくれるみたい、二人でテキパキとお皿を用意して、完成した肉じゃがやご飯をよそって。
芦花とヤチヨが手洗いうがいや着替えを済ませてリビングに戻ってくるタイミングで、晩御飯のすべての準備を整える。
流石かぐや、タイミングぴったしと褒めてくれる芦花に『天才歌姫ですから♪』なんて返して食卓につく。
さあ皆さん召し上がれ、かぐやちゃん特製肉じゃがを。





















