なんか覚の煽りが絶好調すぎるのとなぜかそこに飯綱まで参戦を始めたからさあ大変。飯綱は覚みたいな手合いの煽り耐性高いと思ったんだけど、今日は機嫌でも悪かったんだろうか?……いや、まあ、練習の時からちょくちょく言い合いしてたの知ってるけど……。単純に相性が悪いのかな。あ、でも良く聞くと覚に噛みついてるように見せて金髪君煽ってるようにも聞こえるかも。なら、試合への布石か……?あいつ爽やかに見えた腹黒だもんな。スターティングメンバーの金髪君に地味に揺さぶりをかけてるのかもしれない。怖ぁなぁ。近寄らんとこ。俺は全然収拾がつく気配のないやり取りにそう決断を下し、覚と飯綱は放っておいてとりあえず試合に出るメンバーを選出し作戦を立てることにした。時は金なりって言うしな。時間は有限なので有効に使わねばならないので。
今回の試合は2セット先取で勝ちとなり、それ以外のルールで公式と違う点は以下の3つ。
*セット最初のサーブ権は挑戦者チームであること。
*デュースなしで1セット取るのに日本代表チームは25点、挑戦者のチームは15点必要であること。
*挑戦者チームはどれだけ選手を交代しても良いが、日本代表チームは3点以上間を空けなければ交代は出来ない。(なお、助っ人の選手はコートに1人のみとし、2人同時起用は出来ないものとする。)
と言うわけで、うちのチームは交代し放題なので特に気負わず選手を選べる。俺はタブレット片手に覚と飯綱以外を集めてスターティングメンバーを伝え、おおよその試合の流れの目標を共有してスターティングメンバーを運営スタッフに提出。後は試合が始まるばかりなのだが、未だに覚たちは大盛り上がりしている。なんであいつらあんなに元気なんだろう?正直めちゃくちゃ近づきたくない。でも覚たちを回収しないと試合が始められないので、俺は「腹を括るしかない」と戦場に行く兵士のごとく覚悟を決めて一歩前に……。進むはずだったのだが、始めの一歩を踏み出す前に俺の肩に手を載せて行動を制した人間がいた。
「三上。俺が行く」
「……岩泉さん?」
俺の肩をそっと引いて下がらせたのは岩泉さんであった。さっきは完全に静観の構えで腕組をしながらだんまりを決め込んでいたはずだが、肩を叩いた岩泉さんは宣言と共に恐れ知らずの足取りで渦中に突っ込んでいき、颯爽と覚と飯綱を回収してきてくれた。ごく自然でスマートな動きだった。あまりにスマートに回収してきてくれたので俺はうっかり岩泉さんに惚れるところだった。これがイケメン。全国放送でこんなイケメン行動が流れて大丈夫か心配になるレベルだったが、本人は全然気にしていないようで、覚と飯綱に「あんまりはしゃぐなよ」と注意までしている。飯綱が叱られてるなんて珍しいから口許が緩んじまうな。もっと叱られれば良いのに。でも岩泉さんは常識的な大人なので、2人が大人しく反省の意を示したら説教もお小言もなし。2人が大人しくなったのを確認してから満足そうに頷いてこちらを振り返り「よし、じゃあ試合するか!」と爽やかに告げてくるので、俺は残念な気持ちもありつつ大人な岩泉さんの対応にうっかり惚れるところだった。(2回目)
と、言うことで試合開始と相成ったわけだが、コートに立ったこちらのメンバーを見た瞬間いちゃもんをつけてきた男がいた。
「ハァァァンッ?!?!?!三上君おらんやん?!?!?!?!」
皆さん予想できていたかと思いますが、金髪君である。ついでに喧しエースも「?!なんでなんで?!」と喧しい。他の面子も言葉には出さなかったものの不思議そうにしているが、俺はその反応を丸っと無視して手元のタブレットに視線を移した。
ちなみにこっちのスターティングメンバーは以下の通り。
飯綱(セッター)
岩泉(オポジット)
宮(オポジット)
野沢(ウイングスパイカー)
雲南(ミドルブロッカー)
大耳(ミドルブロッカー)
小見(リベロ)
金髪君の言う通りスターティングメンバーに俺はいない。が、俺はこの企画に参加しているものの「必ず試合に出なければならない」というような契約はしていない。集まったメンバーは誰でも試合参加する権利があるわけで、戦略的に俺以外のメンバーが試合に出ることはなんらおかしくはないことである。つまり別にルール違反ではない。極論を言えば俺が一度もコートに立たずに終わったとしても良いのだ。まあ、さすがにそれは後でお小言が飛んでくることがわかるからやらんけど。でも最初から出る必要は全くないことは確かである。
それに俺はこの場にはいるけど最初から「試合に出る」なんて一言も言っていないし。俺の姿を見て一部の人間が勝手に盛り上がって「俺が出る」と思い込んでいたようだが、そんなの俺の知ったこっちゃない。向こうのメンバーを見て誰を出すかは俺たち次第。金髪君も喧しエースも俺の苦手なタイプなので俺が出ないという選択肢は俺たちチーム的に正解なので外野は黙っていて欲しいものである。
しかし、俺の願いを察して黙る金髪君ではないわけで。
さっき覚にさんざん煽られたフラストレーションが溜まりに溜まっていることもあって、いつかのIHを思い出すかのような態度で俺に向かって吠えてきた。
「はーん?わかった!三上君怖じ気ついたんやろ?まあこんなカメラ回ってるとこでボロ負けしたないもんなぁ?わかんで、その気持ち!」
「えー?!そうなのミカミン?!」
「そっちのチームは皆バレーすんのもう趣味程度やろ?俺ら手抜きせんで試合するつもりやし、そら、点差が出来る可能性は高いわな~!ま!頑張ってや!」
ちなみに、たぶん金髪君的には煽っているつもりなんだろうけど俺には一切響いていない。なんなら俺以外のチームメンバーにも全然響いてなくて全員苦笑いしているまである。まあ、ここにいるメンバーは大体強豪校の出身で、かつ、金髪君とは同年代。ゆえにかつての金髪君の喧しさも、その性格もある程度知っているからこれくらいの発言ならスルー可能なのだ。つか、一部の選手は「まだあんな感じなんだ……」と成長しない金髪君に呆れているまである。
いやー、しかしこれほどまでに生温い空気も珍しい。金髪君は俺らの間に流れるなんとも言えない空気を読めないのか読まないのか……。でも多少なりとも読めたらこんなに喚いたりしないだろうから読めないのかな?それとも、空気読めていてのこの態度か?……うーん、分からん。もし読めててこの態度なら一周回って感心してしまうな。心臓鋼で出来てんのか?それにしたってすごいわ。俺にはとても真似できない。
(それにしても……。なんか、金髪君の言うことって全部的外れだな……。チームメイトの連中も教えてやればいいのに)
「無視すんなや!」ってお怒りですけど的外れな事を喚かれても反応出来ねぇんだよなぁ。誰か金髪君を嗜めて発言内容校正してやって欲しいけど日本代表選手のメンバーは金髪君を見守るばかり。これは「言っても無駄」だと思ってる感じ?あ、佐久早は「関わりたくない」って顔をしてるから見限られてるって可能性もあるか。なんにせよ金髪君に人望がなくて笑うしかない。
そもそもね、俺は今日勝てるなんて微塵も思っていないんだよ。たとえ点数差とかのルール的ハンデがあっても現役選手に大差で勝てると思う方がおかしいじゃん?それは俺ら含めて万人の共通認識だと思っているし、全国の茶の間に俺らのチームが負けるところが映ったとてそんなのわかりきっている結果なんだからなんとも思われないだろう。ま、俺らもボロクソに負けるのはプライドが許さないので気持ちだけは勝ちに行くつもりだし、そのための策もあるけど。それでも“運が良ければ勝てるかもしれない”程度の勝率だろうというのが俺らの見立てである。
一応何回か俺ら側の見せ場を作ってテレビ的に盛り上げるつもりでいるが、冷静に考えなくともこの試合の勝率は低い。そしてその事実は俺らのチーム全員に共有済みだし、皆「ですよね」という感じなので俺らのチームの誰一人、負けて悔しがる人間はいないのだ。だから負けても全然気にならないことを金髪君は気がついて欲しい。
あと手抜きしないのは当たり前だろ。そういう話をするってことは、手抜きするつもりが少しでもあったってことか?は?いくら相手が一般人だからってそれは失礼の極みでは???
(はぁ……。だから金髪君と相対するの嫌なんだよな……)
ガキ気質と言うか、頭が足りていないというか……。本気で思っていない事でも頭に血が上るとすぐ余計なことを言うのが金髪君の悪い所である。大人なんだからもう少し考えて物を言って欲しいし言葉遣いも対外向けに何とかならないかな、と俺はこの数十分ですごくすごく思う。
まあ、な。本人の普段のプレーを見ていればそんなの言葉だけで金髪君が「手抜きする」となんて全然あり得ないことだというのわかるけども。金髪君はなんだかんだ言いつつもバレーに対して真摯なので、たとえ格下相手でも結局全力でバレーする奴である。そこは俺もいい加減知り合って長いので理解して認めるところだし、それを知っているから怒りは湧いてこないけどな。何度も言うけどこの企画はテレビ放送されるのだ。身内しかいない気安い場ではなく、公共の電波に乗って不特定多数の人間が見ることが出来る場所でする態度ではない。視聴する人間の中には金髪君のことを良く知らない人間が五万といるわけで。そんな有象無象に「自分は相手を舐めて掛かることがあります」なんて言っているも等しいことを軽々しく発言するのはプロとして良くないと俺は思う。あと単純に柄が悪いから印象的によろしくない。俺に子供がいたらこんな態度をするプロがいる世界に関わって欲しくない。
ので。
(う~ん……。この企画が終わったら所属チーム宛にご意見送っておこうかな……)
俺は金髪君の鳴き声をスルーして後日やることを脳内でメモをした。
いや別にね。金髪君が世間にどう思われようと勝手だけど。一応チームで正セッターを担っている以上チーム(ひいてはチームを擁する会社)の印象まで悪くするような言動は控えて欲しいところ。何せアイツの所属しているチームにはうちの佐久早もいるし。金髪君のせいでチームの印象が悪くなって、それが佐久早のイメージにも響いたらどうするんだって話。そんなことになったら許せない。金髪君もいい大人なんだからそれくらいの分別は付けられるようになって欲しいので、しっかりと会社でお説教されるようにきっちりご意見を送ることにして。
それとは別にこの数分で不愉快値が高まっている事があったので飯綱に視線を投げた。
「おい、飯綱」
「ん?」
それが何かというと。
「お前、後輩に舐められてんぞ」
「……ん?」
これである。
いや、ホント。金髪君の煽りは別にどうでもいいんだけど、金髪君が俺だけに集中・注目してないのが本当に解せない。
本日、俺たちのチームの助っ人は飯綱とツッキー君である。この2人はプロであり現役選手であるのだから金髪君たちが注目して警戒すべきはこの2人であるべきなのだ。それなのにさっきから金髪君は俺ばかり目の敵にしてからんでくるのが本当に不快で。
「まさか舐められたままで良いとか言わねぇよな?日本代表に選ばれたからアイツの方が上だなんて、まさかお前、思ってねぇよな?」
「ん~?いや、それはないけど」
「でもあいつは思ってるぞ。自覚があるのかないのか知らねぇけど、頭のどっかで絶対『自分は選ばれたから飯綱より上手いんだ』って思ってる。だからお前の存在を無視してんだろ。……お前、そんなふざけた認識をそのままにしておくなんて、まさかそんなことしねぇよな?」
なんか言語化したら腹が立ってきて、俺は目一杯飯綱を睨みつけて威嚇するように低い声を出した。俺の言葉に飯綱がきょとんと何もわかっていない顔をするので俺はさらに鋭く飯綱を睨み付けた。金髪君の言動に何も思うところがなさそうなのが腹が立つんだわ。お前、ここまでの金髪君の言動を見聞きして本当に何にも思ってないのか?マジで?という気持ちを言葉の裏に込めて唸るように問いかけたわけだが、飯綱はちょっと考えた後、何故かみるみる満面の笑顔になって……?は?何笑っとんだお前は。
「三上は、俺が宮に舐められてるのが嫌なんだ?」
「嫌とかそういう以前の問題じゃねぇだろ。同じポジションのプロを放っておいて一般人に絡むあの態度が腹が立つっつってんの」
「ふーん?」
なんか、意味深な相槌と満面の笑顔がめちゃくちゃ腹が立つな。コイツと知り合ってトップ3に入るぐらい腹が立つ笑顔だわ。お前俺の話聞いてる?爽やかに笑ってる場合じゃねえって言ってんだけど???
しかし俺の言いたいことをわかっているだろう飯綱が笑顔を崩すことはなく、腹が立つので蹴っ飛ばしてやろうかと思ったがカメラが回っているのでそれも出来ず。イライラと舌打ちすることしかできない俺に、笑みを崩さぬままの飯綱は「三上は俺にどうして欲しい?」なんて聞くから。
俺はただでさえキツめの顔をさらに鋭く歪めた状態で飯綱を睨みつけながらただ一言吐き捨てた。
「アレ、実力で黙らせろ」
「ははっ。りょーかい」
苛立ちのあまり命令口調になってしまったが、長い付き合いの飯綱が今さら気にすることはなく。顎で金髪君を示した俺の要望に笑みを浮かべたまま了承を示した飯綱は、「まあ、見てろよ。まずは1点、ご機嫌斜めの三上に献上するよ」なんて軽口を叩きながら足取り軽くコートに移動していって。芝居がかった台詞になんか知らんがカチンときた俺は、コートに向かう背に「1点じゃ足りねぇ。1セット取ってこい」と投げつけ、それを隣で聞いていた覚に「それはちょっとムリかも」と突っ込まれることになった。
いや、俺も無理だなって思うけど。でも気持ち的にはささっと1セット取るぐらいボッコボコにして欲しいっていう、ね!気持ちなんだよ。わかるだろ?え?ちょっとわかんない?そこはわかるって言ってくれよ、マブダチ。
腹立たしさを呑み込んでようやく試合が始まった。ここまで来るのにすごく長かった気がするのは気のせいではないだろう。久々に騒がしい金髪君たちに絡まれた俺はすでに精神的疲労が甚だしいが、まだ試合は今からなんだよなぁ……。
ちなみに金髪君たちは岩泉さんが黙らせた。
怒鳴るでも暴力に訴えるでもなく、静かな声で名前を呼ぶだけでやつらの口を閉じさせた岩泉さんの勇姿は忘れない。すごくかっこよかったのでここに記しておく。あまりにかっこ良いので惚れるところだった。(3回目)
アップは収録前にしているので軽く身体を解したら試合開始。サーブ権は挑戦者である俺たちのチームに譲られているのでこちらの攻撃から。
ちなみにスタート位置はこう。
影山 角名 ∥ 大耳 野沢
古森 宮 ∥ 治 小見
星海 木兎 ∥ 南雲 飯綱
(OUT→桐生)|(OUT→岩泉)
向こうは俺が最初にサーブすると思ってたから守備固めた布陣。こっちは前衛両サイドにブロック上手い人材置いてブロック重視の布陣。なお前衛真ん中の治はブロック専門じゃないけどガチガチブロックで向こうに警戒させるより「あそこなら抜けそう」と思わせて油断を誘うための配置である。あと同じ顔が前面にいることで金髪君の集中力をちょっとでも欠けさせれば良いな、という希望込みの配置である。
こちらの人員のサーブ技量であちらの布陣の守備はまず崩せないな、というのが俺の見立て。もちろん初っ端であろうとリリーフサーバーの制度は利用できるけど始まったばかりだしそんなに1点先取したいわけでもない。それに、サーブを取られることがわかっているなら取られるなりにやりようはあるので。
(だろ?飯綱)
ちなみに現在俺は「全然出る気がありません」とばかりに用意されたパイプ椅子に悠々と腰かけて試合を眺めている。何なら足も腕も組んで「どこの監督だよ」とツッコミが入りそうな態度である。もちろんわざと。この態度で金髪君の頭に血が昇って冷静さを欠いてくれないかな~、という希望的態度である。効果のほどは……、柳眉をつり上げてこちらを睨んでいるのを見るに多少効果はありそうだな。期待していたほどではないけど。
なお、俺が動かないからリリーフサーバーとしても出ないと理解した金髪君が眉をつり上げたまままた何か言うつもりだったのだろうが、それよりもうちのチームの……、えーっと、カンペ代わりのタブレットによると野沢さんがボールを受け取って位置についたので金髪君は口を閉じて試合に意識を切り替えた。うんうん。こういうところはプロだな。
―ピー!
そんで始まった試合。試合開始のホイッスルと同時に野沢さんがボールを投げて跳んだ。
打ったサーブは練習した通り、古森と星海のちょうど間へ一直線。ノータイムで打たれたサーブに、ネットの向こうのやつらがほんの少し揺れたものの、奇襲にも充たない不意打ちに崩れるようでは日本代表なんて出来ない。それを裏付けるようにボールは古森がレシーブして、俺たちの予測通り金髪君から喧しエースへ。最短で上げられたボールは喧しエースの打点ピッタリにハマり、気持ちよくフルスイングで打たれたストレートは完成直前のブロック2枚の間をすり抜けて。
その先に待ち構えていた小見さんに見事レシーブされてコート内に上げられた。
「んなー?!」
自身のスパイクによほど自信があったらしい喧しエースが、上げられたボールを目で追いかけて悔しがる。ちょっと威力を殺しきれていないが文句無しの好レシーブに味方も観客も沸き、解説が小見さんのプレーを称えながら簡易プロフィールを紹介している声が響いた。
(さすが強豪校出身者。良いレシーブだ)
ここ数ヶ月トレーニング漬けで体力と勘を取り戻したとはいえ、数年バレーから離れていたとは思えないレシーブに思わず拍手を贈る。まあ、俺は練習の時から小見さんを見ているのであんまり心配はしていなかったけど。数年越しとはいえちゃんと身体に染み込ませたフォームを早々忘れる事はなかったのだと、練習1回目でちゃんと確認できていたので、位置取りさえ間違えなければ……あ、あとは喧しエースのパワーに小見さんが負けないかだけ気になったけど全然大丈夫そうで良かった。
とはいえ、ボールはまだ床に落ちていない訳で。点が決まるまでは油断できない。
外野の声など気にせずボールの行方を追えば、上がったボールの真下には飯綱がしっかり滑り込み、こちらも最短でライト側へ送ろうとしているところだった。セットアップ先には助走を完了して跳躍しようとしている大耳さんがいて、強い踏み込みで高く跳んだ大耳さんの振り下ろした腕ジャストに運ばれたボールは、ブロックに邪魔されることなく相手コートに叩きつけられた。
『速攻決まったー!!!挑戦者チーム先制点奪取―!!!』
驚愕交じりの歓声。まさか日本代表チームから先制点を取るなんて思っていなかっただろうから結構盛り上がっており、比例して日本代表チームは悔しそうに顔を歪めた。木兎なんかは「くっそー!結構良い感じに打てたのに小見め~!」と分かりやすく地団駄を踏んで悔しがっているのでとても胸がすく思いがする。
「ワハハ!残念だったな!木兎!お前のスパイクは昔アホほど取ってるからな!多少威力が上がってても取れるんだよ!」
「ナニー?!?!」
悔しがる木兎に小見さんがドヤ顔をしている。作戦を伝えた時は「今のアイツのスパイク上げられるか分からないぞ」なんて弱気な発言をしていただけに上手くいったのがよほど嬉しいんだろう。まあ、今の作戦、小見さんが上げられるかどうかにかかっていたので、嬉しいのも分かる。俺が想像していたよりも小見さんは緊張していて、作戦成功と同時にプレッシャーから解放されたんだろうな。
(うんうん。これで小見さんは緊張も解れただろうから、ここからは問題ないかな)
小見さんの最終目標が試合で活躍してテレビ関係者の目に留まることだったからか、今日、メンバーの中でも特に緊張していたのが気がかりだったんだけど、この様子ならもう大丈夫だろう。小見さんが練習通り動けたおかげで先制点に繋がった今の動きも、全員に共有していたものの本番で上手くいくかは別問題だったので気にしていたけど大丈夫そうで安心である。
(最初の1点が取れたことで雰囲気も良くなった。身体の強張りもちょっとは解けたみたいだし、今日は想定より良い試合になるかも)
たった1点。たかが1点。金髪君は「まだたかが1点やん!勝負はこれからや!」とか吠えてるけど、15点でセット勝利になるこちらのチームにとってこの1点は“たかが”ではなく大きな1点だ。負けるって分かっている試合だけど、それでも1セットくらいは奪取して日本代表チームの鼻を明かしてやりたかったので、その希望が叶いそうでちょっと頬が緩んでしまった。いかんいかん。まだ1点目だぞ、俺。
(さて、ここからどう点を取るか……)
今の手はそう何度も使えない。試合早々の速攻だから不意を突けた感が否めず、要はラッキーだっただけの1点だ。試合が進めばブロックの反射速度も上がるだろうし、何より古森が何度もボールを取り零す事はないだろう。たぶん次は意地でも取りに来る。それに速攻は本来日本代表チームの十八番みたいな空気もあるのであちらの選手は慣れている。さっき点が取れたのはうちのチームが速攻が出来ることをあちらが知らなかったから上手く行った面もあるため、ここからは速攻を使っても防がれる可能性が高い。
(さあ、どう出る?)
俺はこの後の展開を頭の中で何通りか思い浮かべて飯綱に視線を送ると、向こうもちょうどこちらを向いたところで、目が合った瞬間ニッコリ笑われてイラっとした俺は反射で舌を出してしまった。いかんいかん。つい、癖で……。でも飯綱のドヤ顔染みた笑顔は腹が立つんだ。許して欲しい……。などと誰に許しを乞うているかわからない反省をしたところで俺は選手交代のために審判に声をかけた。
『あ、挑戦者チーム、交代ですね。大耳選手を下げて、次は温川選手が入ります』
交代してもらったのは大耳さんと同じミドルブロッカーで、俺と比べたら断然背が高い温川さん。百沢選手の元チームメイトであるが大耳さんと比べると少々身長は低いので壁の圧的には若干心許なくなった感が否めず、外野から見たら「なんで交代するのだろう」と疑問に思われるかもしれない。しかし、これは俺たちが今回の企画に参加するにあたって定めた目標を達成するためなので仕方がないのである。ん?どういう目標かって?それは「試合終了までに全員最低でも1点獲得する」だ。はい、そこ~。「無理じゃね?」とか言わない。目標は手が届くか届かないかで設定するもんだし、別に目標が達成できなくてもペナルティがあるわけでもないんだから好きに設定させてくれ。あ。なお、リベロに関しては「5点以上得点阻止」である。リベロは攻撃できないのでね。
それと、この「全員」に助っ人2人は入れてないのであしからず。助っ人の2人はあくまでも「助っ人」なので、あまり得点に絡めたくないというのが俺の考えなので。とはいっても飯綱はセッターだから否が応にも得点に絡んでしまうのだが……。まあ、それは仕方がない事だ。飯綱を活躍させたくなきゃ俺が代わりに出ればいい話だが、ツッキー君だけ登用して飯綱は出さなかったら何のために指名したかわからなくなるし、コートに居るのにセッターの仕事をさせなかったらそれこそ何のために助っ人に来てもらったかわからなくなる。よって、助っ人2人には平等に試合に出てもらうつもりだし、飯綱はきちんとセッターとして活躍してもらわなければならないので得点に絡むのはやむなしとみている。でもあくまで助っ人は「助っ人」。助っ人に頼りすぎると番組の趣旨がおかしくなっちゃうので出来るだけこの2人にはフォローに徹して貰うことにしている。
話を戻して。
今回の俺たちの目標が「全員点を獲る」としたので、点を獲れた人間は点を獲ってない人間と交代することは全員納得していることであるから、最初の一点を取った大耳さんは開始早々で悪いけどいったん下がってもらったというわけ。
なお、「日本代表チームから(リベロを除く)全員1点ずつ獲得」という目標は当初チーム内でも「無謀では?」という声はあった。「12点以上取る」ならまだしも「全員1点ずつ取る」というのは「ちょっと難しいのではないか?」ってな。まあそりゃ、そう思うのも無理はないが、目標を立てるなら「達成可能な目標」よりも「手が届きそうな目標」の方がいいと俺は思っているのでこの目標を掲げることを推した。別に「日本代表に勝つ」とまでは言っていないのでこのぐらいの目標は妥当だと俺は思っている。いくら「無理だろうな」と思っていることでもやっぱ勝負事は強気でいかないといけないって思うのでね。気持ちで負けてたら勝てる勝負も勝てなくなるし、普通に「負け確」みたいな空気で試合するのは相手に悪いし見ていても面白くないので、こういう目標を立てて目指すのもいいかな、と思っての進言である。
日本代表チームに対し「(リベロ除く)全員1点取る」と言うことは「最低12点取る」という事と同義である。ただし先ほども言ったように12点取れば良いのではなく、頭に「全員」と付いているのが難しさに拍車をかけている原因で、提案しておいてなんだが俺も「ちょっと高望みしすぎかな」とか思ったしメンバーも最初にこの目標を提示したら「難しいのでは?」とさっきも言ったけど弱気な発言する人間が多数いた。まあ、全員1点取ることを目標にしていることがバレれば最後の方は点を取っていないやつをマークされてしまう危険性もあるわけで。警戒されている中で得点を取る難しさは全員が理解しているから難色を示すのも無理はない。有名なエース選手とかならマークされ慣れているだろうけど大会で大活躍するタイプのエースになるような人材はだいたいプロになっているのでこのチームにはいないしな。一応、何人かはチームのエースをしていたアタッカーがいない訳ではないが、それでもめちゃくちゃ有名だったかって聞かれると目を反らすだろう。辛うじて治くらいは結構名が知れた選手だったらしいけど、それは同じコートにいた兄弟とセットだったらしいし。治に関してはチーム内に尾白選手やりんがいたのでそこまでキツイマークはなかったと本人も、そして赤葦や黒尾さんとか有名選手に詳しい人間も証言していたから有名というにはちょっと弱い。
ゆえに、俺の立てた目標は試合が進む毎に達成が難しくなるもので。ただでさえ実力差がある相手にそんな縛りプレイをするのは日本代表を舐めているととられても仕方がないものだ。
でもやる前から「出来ない」なんて言うのは違うだろ?試合に勝つのは無理だろうけどこういう小細工が必要な目標を達成するのは俺の得意とするところだし、厳しいとはいえこの目標を達成するだけの勝算はある。それに、スポーツ選手なんて勝つことに貪欲な人種の集まりな訳で、しかも相手が日本代表選手とはいえ元はチームメイトだ。元チームメイトに怖じ気ついている姿を見せたい人間はいないし、有名になったかつての先輩or同輩or後輩には見栄を張りたい人間も多い。そういう心理をうまく突いてやる気を引き出すのは黒尾さんが得意なので任せたところ、最終的に目標に同意した上で覚悟を決めて出演を決意した。
そんな彼らは目標達成するためにそれはもう(現役時代には劣るが)バリバリ練習を重ねてかつての感覚を取り戻して今日ここに居る。一応、俺も岩泉さんも全面サポートで練習メニューとか日々の食事とか助言をしたが、それを実践するかどうかは各々に任せたところ、なんだかんだ言って全員素直に受け入れてガチで身体づくりをしてきてくれた。そんで、各自自分に合ったメニューを粛々と熟して無理のない範囲で熱を入れて練習を重ねたことで自信がついたのか、最後の方は自ずと弱気な発言は消えていったし、「全員1点取ること」を目指すことに前向きになってくれた。ゆえに今日、彼らの熱意と覚悟は高く、「久しぶりにバレーした一般人」というお茶の間の認識を必ず覆してくれると俺は信じている。
と、まあ。こうして目標を全員が納得・了承しており、得点できた人間を交代させることは全員分かっているので誰からも文句は出ない。つか、ごちゃごちゃ言ったけど結局は「せっかく集って今日に向けて練習してきたんだから全員1回は試合に出ないとなんのために呼ばれたのか分からないだろ」ってのが本音なんだよな。で、出るからには活躍しないと。これ全国放送だからメンバーの知り合いも見てるかもだし、それなのに「控えにいるだけで活躍しませんでした」って言うのはちょっと言いにくいと思うので何がなんでも全員見せ場を作りたい。そのための目標であり、得点した奴から順番に場外に出るシステムにすることによって効率よく全員得点に絡めそうだしいいんじゃね?と俺は思うのが本音である。(あと皆が活躍してくれたら俺の存在感薄れるからそれも狙っているのもある。が、これは皆には秘密である。)
で、次に問題になるのが「誰がどの選手と交代させるかを決めるか」なんだが、監督とかがいればその人が決めるのだが今日は野良チームなのでいない。じゃあ誰が決めるのか、となるが、これはあらかじめメンバーにも了承を得て立候補がない限りは俺か飯綱が決めて良いことになっている。戦略を立てるのはセッターの仕事だし良いかと思って提案したら通った形だな。
実際問題、うちのチームはキリが良い場面なら何度も交代可能なルールだけどこの選択は意外と難しい。
攻撃が得意な面子を先に使っちゃうと後々苦しくなるのは目に見えているし。かといってプロ相手に攻撃する選手を選んで順番に得点できるように出来るかというとそれもちょっと厳しい。ので、この「得点した選手から交代」という前提は直前に「可能な限り」という文言が付くため必ずしも得点したら交代させる必要もないんだけど、今回は始まったばかりで相手に俺らの狙いがバレていないと思うので交代しておこうかなというところ。一応交代宣言後に控えのチームメイトを見たが誰も声を挙げなかったし、チラリと飯綱を見たがこちらも微笑むだけで特に希望はないようだし、交代する温川さん本人の拒否もなかったので交代はスムーズになされた。本当はアタッカー入れてもよかったんだけど、今の先制点であちらのチームのやる気が上がった気配がするので守備を固める方向がいいかなという判断だ。
(黒尾さんでもよかったけど、まだ早いしな……。誰も手を挙げないなら無難な選択をする方が良いよな)
まだ試合は序盤だし誰が入っても点を取られる時は点を取られるのでそんなに既往必要な半だろう。というわけで、今回の交代は「防御力を落とさない方向でいってみようという」判断で温川さんを指名したが、試合が進めばこの交代は覚みたいに「若利君と絶対にマッチアップしたい」なんていうリクエストもあったりするわけで。まあ、今回若利が出るかは分からないので若利がでなくても覚にはちょっとでも試合に出てもらうつもりだし、本人もそれは了承している。とにかく、そういう立候補があった時は優先的に交代枠を使っていい事とした。やっぱり「あいつと対峙したい」という欲は誰しも持ってるし、「やりたい」という積極性を持った選手が入れば士気も上がるし一石二鳥。もちろん、「アイツとは絶対にやりたくない」という消極的意見も士気にかかわるので遠慮なく言っていいことになっている。自己分析による戦略的撤退、あるいは、逃げるは恥だが役に立つってやつだ。わざわざ苦手な人間と対峙する必要はないよな。
つまり、俺が最初のメンバーに入らなかったのがこれにあたる。赤葦には悪いんだけど俺は喧しエースとか金髪君と当たるのはちょっとな……。相性悪いし飯綱の方が上手くやるから良いか、って感じでスターティングメンバーから外した俺である。飯綱が居たら一言二言小言とかが飛んで着たりなんだかんだ理由付けしてスターティングメンバーに捻じ込まれたかもしれないけど、奴は覚と一緒になって金髪君を弄りに(あるいは煽りに?)言っていたので難なく俺の希望が通ったので今俺はちょっと機嫌がよかったりする。
ま、俺に限って言えばツッキー君も出さないとだから飯綱と交代したら代わりに出ることになっているので、その時に苦手な相手がいてもいずれはコートに入らなきゃいけないんだけどな。それはもう腹を括っているので別にいい。
と、言うわけで目標達成のために大耳さんと交代した温川さんには「空中戦警戒。対策練習通りに」と耳打ちして見送って、コートに向かう温川さんは俺の指示に頷いてからコートを出る大耳さんとハイタッチをして交代した。(その際また金髪君が「三上君やないんかい!」と喚いたが全員でスルーした。)
さーて。試合は始まったばかり。入れは高みの見物を継続させてもらうとしますか。


























