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キスもできない二人の話

さゆさゆ

マンドー夢 ※色々捏造注意、映画の少し後くらいの時空 恋人の顔を見ることができないことに思い悩む夢主とそれでも彼女のそばにいたいマンドーの話 マンドーもまた教義と愛の間で引き裂かれているのかも、と考えて泣いてます (反応いただけると喜びます!) https://wavebox.me/wave/8hlumi6px69aw8ft/

恋人がいる。とても優しくて真っ直ぐな人。ひとたび戦闘となれば右に出るものはいないと言われるほど強いくせに、人間関係の構築は妙に不器用で、最初のうちは中々その本音に辿り着くことができなかった。
 非情な一匹狼。他者を寄せ付ず、近付きもしない。そんな張り詰めた空気を感じながらも、同じ賞金稼ぎとしてそれなりの時間を共に過ごしていけば、見た目とは裏腹な人物像を知ることができた。
 一体いつからだったのだろうか。次第に恐れは消え、好奇心は色形を変えていった。見かければ駆け寄って話しかけて、態度が軟化すれば嬉しくて、そうしているうちにふと気付いたのだ。寝ても覚めてもこの人を考え、無事でいてほしいと願う自分がいることに。
 けれど、マンダロリアンの道を行く男には迷惑な話だろうと思っていた。帰る場所を求めるような人ではないとも。
 時折その薄暗い部分に触れ、死に急ぐような背中を見送っては堪らない気持ちにさせられた。それでも、彼はただただ教義に従い生きていく。心の奥にひた隠しにされた弱さも、計り知れない自己犠牲も、他人の理解を必要とはしないのだ。
 だから友人の枠からはみ出さず、時々顔を合わせては軽口を言い合うくらいの距離に留めていた。不安を押し殺して、あなたなら大丈夫だと笑って過ごしてきた。
 危険な仕事に赴くことを止めなかったのは、余計なお世話だと突き放されたくなかったからだ。結局のところ、ただの自己保身だった。
 そんな状態で月日が経ち、大怪我をきっかけに仕事を変えた。そしてネヴァロで事務仕事に就いていた時、久しぶりにその人に出会った。
 マンドー、と唇は喜びに震えながらその名を紡いだ。本当の名前はディン・ジャリン。面と向かって呼べたことはない。もうそんな距離には戻れないと思っていた。それでよかったのに、思いがけない再会は自分達の関係を面白おかしく変えてしまったのだ。
『会えてよかった』
 向けられた声は以前よりもずっと穏やかで、彼にも何か大きな変化があったのだろうと察した。
 詳しく話をすれば今は子連れで銀河を飛び回っているとかで、一時は多くの賞金稼ぎに命を狙われていたようだけれど、状況は少しずつよくなってきているとも教えてもらった。
 そこからだ。マンドーと定期的に顔を合わせることが増えて、彼がネヴァロを訪れる際にはわざわざ声をかけてくれるようになった。
 時が経つにつれて都市部は様相を変え、集会所が学校になり、街は豊かで美しい場所になっていった。カルガなんて今や上級監査官だ。新しい保安官によって治安は守られ、子供達の笑い声が明るい通りに響いている。
 そして、マンドーは養子を迎えた。緑色の小さな子供、グローグー。郊外に家を構え、かつての冷徹さはついにどこかに消え失せてしまった。
 そして自分達またこれまでとは違う関わり方になって、特別な形へと進化していったのだ。
『共にいよう、俺達に許される限り』
 そんなことを言われて、まさかの三人暮らしが始まった。そうはいってもマンダロリアンの二人は相変わらず宇宙を飛び回っていて、基本的には自分が家を守ることになっている。
 今日もそうだ。ブラーグの世話をしては空を見上げ、飛んでくる機体はないかと思いを馳せつつ仕事に行き、また家へと帰ってきた。
 はあ、とナマエはため息をついた。妙に物足りなさを含んだ音になって思わず自嘲する。夜になるといつもこうだった。寂しくも幸せな日々が続いていて、これ以上何を求めるのかと自問してみるが答えは出てこない。
 ベッドを独り占めしながらぼんやりと天井を見つめた。二人が帰ってきたら何をしようとか、あれを作って食べようとか、そんなことだけでいいのに、この頃は余計なことも考えてしまう。自分達の未来や関係について、どうにもならないことにまで思考を巡らせてしまうのだ。
 マンドーは優しかった。会えない時間が長引けば、戻ってきた時にそれを埋めるように接してくれる。言葉にしなくても多くを感じ取ってくれて、思っていた何倍も愛情深い人なのだと思い知らされた。
 でも、それだけのことをしてもらってもなお埋まらない場所がある。胸の奥の更に深いところに穴があいているような感覚があって、どんなに愛や思い遣りを注がれても、どこかに流れていってしまうみたいだった。
 マンドーは他者に顔を見せない。それはマンダロリアンとして生きると決めた彼の、決して破ることのできないルールだった。
 だから自分には、その頬を撫でることも、瞳を見つめることもできない。唇を重ねて吐息を分け合い、額を合わせて愛を囁くこともできないのだ。どれだけ思い合っていたとしても決して許されない行為だった。
 肌の色も瞳の色もわからない。知らない。それでよかったはずなのに、納得していたことなのに、どうして今更こんなことで思い悩むのだろうか。
 向けられる愛情を信じるべきなのに最大の証明を求めていた。特別な証がほしいなんて身勝手な願いだ。子供じみた我儘なのに、いつまでも手放せなくて、そんな自分が嫌いになりそうだった。

 明くる日の朝、二人が帰ってきた。予定よりも早い帰還に嬉しくなって、グローグーの好物を作って食べ、三人で昼寝をしてから彼をアンゼラ人のところに送り届けてきた。
 ネヴァロに帰ってきた際はこうして彼らの元にも泊まりに行くことが増えていた。単に仲良しなのか、子供なりの気遣いなのかはわからない。グローグーを抱いて眠るのだって幸せな時間なのだから、どうか後者でないことを願うばかりだ。
 そんなことを考えながら、家に戻ってきたナマエはマンドーと二人ベッドに横たわっていた。
「……それでね、ようやくわたしを覚えてくれたのか、最近お世話がしやすくなった」
 ブラーグの反応がよくなったと報告をして、名前をつけてみようかと提案する。マンドーはこちらの髪を指で梳きながら、そうだなと頷いてくれた。
 聞き流されているのか、顔が見えないからいまいちわからない。彼は二人きりになるとこうして触れてくることが多く、それにばかり集中しているように感じるのだ。
「ぱっと見は似てるけど、目とか結構違うの。段々と可愛く思えてきた」
「そうか」
「ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる」
 そう答えながらも手はこちらの腰を撫でていて、ナマエは少し呆れてしまう。けれど、彼にとっては大事なことなのだろう。もしかしたら、存在を確かめるような行為なのかもしれない。
 果てのない銀河から帰ってきて、ほっと息をついているわずかな時間。ただの自分でいられる時間。それを共に過ごす相手として選んでもらえたことは光栄だ。
 でも、もしそうならば言葉でも伝えてほしいと思ってしまう。顔が見られないなら、特別な言葉で愛情を形にしてほしかった。不安を消し去って、埋まらない場所を塞いでほしかった。
「……マンドーの瞳はどんな形なの?」
「さあな、形容したことがない」
「じゃあ、色は?」
 不意にそんなことを聞いた。質問に対してマンドーは暫し沈黙する。考えるような、思い出すような素振りもあって、ナマエはじっとヘルメットを見つめてみた。
「……ブラウンアイズ」
「え?」
「そう呼んだ奴がいた」
 マンドーの回答に今度はナマエが閉口する。ブラウンアイズ。そう呼んだということは、その人は彼の瞳の色を見たということだ。教義を遵守するマンダロリアンが何故、と胸のあたりが嫌な感覚に襲われる。
 ヘルメットを脱いだ? それとも脱がされたのだろうか。いずれにせよ、自分には許されないラインを超えた者がいるということだった。
「顔を見た人が……いるの?」
 ショックが苛立ちめいたものに形を変えていくが、努めて冷静に再び問うた。身体を撫でていた手が止まる。ほんのわずかな間隔。けれど、それが答えだと理解してしまった。
「見た奴は死んだ」
 ぽつりと返されたひと言。そこに偽りがないのか見抜こうとしてみるけれど、やはり何もわからない。言葉以外に発せられることを受け取れない。その瞳を覗き込めたらきっとすぐにわかることなのに、自分には一生そんな機会は訪れないのだ。
 もしも、もしもあるとしたら、その事実が消えてしまう状況でだけ。
「じゃあ、わたしが死ぬ時も……顔を見せてくれる?」
 思わずそう聞いてしまって、後悔もこみ上げてきたけれど、我慢できなかった。たった一度だけ許される時が来るならば、きっとそれしかないと思ったから。
 けれど、マンドーはまた黙り込んでしまう。恐らくこちらの顔を見ている。何を言っているのかと呆れているのか、答えに迷っているのか。ただ即答しなかったことが、彼の心を示していた。
「……その状況でも、やっぱり悩むんだ」
 ずきずきと心臓が痛くなる。悲しいのか悔しいのか、腹立たしくもなってきた。二人の空気に殺伐としたものが混ざり始めたからか、マンドーの手が頬に伸びてくる。ナマエは顔を逸らしてそれから逃れた。
 行き場をなくした指に罪悪感を感じてしまうが、ぎゅっと目を瞑って紛らわせた。だって、ほしいのはそれではない。いつだって言葉がほしいだけなのに。
「死なせない」
「誤魔化してる」
「違う、考えたくないだけだ」
 嫌な想像をさせるな、と引き寄せられるが、ナマエはベスカーアーマーを押し返した。マンドーが息を呑んだ音がして、また悪いことをした気分になる。
 けれど、何でもないふりができない。平気な顔で触れ合いを続けられるほど気丈なたちではなかった。
「……頭を冷やしてくる」
 風に当たろう。そうすれば少しはマシになるかもしれない。
「ナマエ」
「一人になりたいの」
 掴んできた手を振り解いて、ナマエはベッドから降りた。呼び止められたのも無視して家の外に出る。
 風は少しだけ冷たくて、ふうと息が溢れていった。けれど、心の方はまだ火傷のような感覚があった。気付かないうちに無数についていた傷が、思わぬ言葉を聞いて騒ぎ出したみたいだ。
「マンドーの馬鹿……」
 ベンチに腰掛けてそうぼやいた。あんなにも教義を守ってきたくせに、どうして顔を見せたのだろう。状況によって選択肢に上がるならば、死に際にくらい見せてくれたっていいはずなのに、どうして頷いてくれないのだろうか。
 そこまで考えても、何となく答えが見えているからまた腹立たしかった。マンドーは優しい人だ。曖昧な約束はしない。無用な期待を持たせることもしない人だった。
 だから、できるかわからないことを簡単には口にできないのだ。知っている、そういう人だということは。だから、好きになった。愚直なまでに己の信念を貫いて、そのために傷つく人だから。だから、こんなにも愛おしく思える。
 この先の未来でも彼の笑顔は見られないかもしれない。涙を拭うことも、互いが映る瞳を覗き込んで、そうしてから唇を寄せ合うこともできない。恐らくは永遠に叶わない夢なのだろう。
 本当は理解している。覚悟していたことだった。マンドー自身が抱く葛藤も、やるせなさも、全部抱き締めてそばにいるつもりだったのに。
「ナマエ」
 ドアが開いて、同時に名を呼ばれた。隣に座ってきた恋人は、いつも通りの気遣いでブランケットを肩にかけてくれる。それにまた泣きそうになってしまう。震える唇を噛んで、ナマエはその人を見上げた。
「……まだ怒ってるか?」
 どこか不安そうに響く声。頭を傾ける癖も今はどこか怖気付いているように見える。普段は容赦なく敵を追い詰める最強の男が、自分の前ではこんなにも無防備だった。
「怒ってる」
 素直に答えれば、マンドーは少しの間固まってしまって、困ったような空気を纏いながらゆっくりと手を握ってくる。そして、すまない、と低く呟いた。
「許してくれ」
 縋るようなひと言につい苦笑いしそうになった。真剣な声色は彼らしくて、決してふざけてはいない。罪人に仕立て上げるつもりはないのに、こうして真っ直ぐ謝罪されてしまえば、いつまでも臍を曲げてはいられなくなる。
 思い返せば、そんな人柄に恋をした。不器用なくせにこちらの感情には敏感で、怒ったり悲しんだりしていればそれを見逃さないでいてくれる。面倒くさい反応をしてしまっても、根気良く向き合おうとしてくれる。
 ディン・ジャリンが何者かは関係ない。どんな顔をしているかも。信じられることはいくつもあった。愛の証明だって、十分なほど彼は示し続けていてくれた。
「わたしが……我儘だった。嫉妬したの、あなたの顔を見た誰かに」
 ナマエは正直にそう告げた。反省が進めば喉が熱くなって、途端に申し訳なくなってくる。マンダロリアンの生き方を否定したいわけではない。物足りなさの理由をそこに繋げたいわけでもなかった。
 不安だった。この日常に慣れてくるたびに、普通と比べて勝手に塞ぎ込んで、腹を立てて、でもどうすることもできなかったから。抑えきれなくなって彼を苦しめるのなら、もっと早くに聞いてもらうべきだった。
 そんな後悔を巡らせながら、ごめんなさいと呟いた。マンドーのヘルメットに手を伸ばして、指を滑らせる。
 今、どんな表情をしているのだろうか。同じようにぎこちない笑みを浮かべているのだろうか。涙目でも構わない。目に見えないなら好きに想像する。それでいいような気がした。
「そっちに入れて」
 マントを指差せば、マンドーはすぐに肩にかけてくれる。そのまま腕の中に収められて、ナマエはベスカーに頬を押し付けた。
「……わたしのこと好き?」
「ああ」
「ちゃんと言って」
 自らも腕を回しながらそう求めた。口下手な性分には少し荷が重いお願いだろうか。沈黙の中には単調な蛙の声だけが響くから、仕方ないかとアーマーに指を滑らせる。そうしていれば、自分を抱く力がわずかに強まった。
「愛してる」
 はっとしても後頭部に回った手が顔を上げることを許してくれない。どうやら聞き間違いではなさそうだった。
 大人しく目を閉じて、もう一度とねだってみる。繰り返される囁きに何だか夢心地になって、触れているところから溶けていきそうだった。
 はあ、と熱い息を吐いた。溢れてきた涙は拭わずにいよう。きっとすぐに気付いて、その指が拐っていってくれるから。

— End —

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お待ちしてました😍 胸がギュッとなりつつも優しい気持ちになりました。 ずっと仲良く暮らしてほしい!

Sakuria
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