Novel10 days ago · 4.8k chars · 1 pages

影に夢見る

yoshiyayoshiya

novel/28205788これの後日談。藤丸視点の兄弟。 相変わらず全てを妄想で補っているので何でも許せる方向け。 オチが何か不穏じゃない?と思って全カットした部分を膨らませたやつです。そこそこの長さなので勿体なくなって…(貧乏性)

「おのれカルデアめ…余にここまでの屈辱を与えたのはこれで…何人目かなんて多すぎて数えるのも馬鹿らしいぞ…どいつもこいつも忌々しい…!」

始末書をせっせと書きながら自虐と恨み節を爆発させるのも、ある種の才能ではないかと立香は呑気に思ったりした。
現代っ子の立香からすると書類は電子で作成提出した方が楽だが、ジョンのように電子機器に慣れないサーヴァントはある程度自分に馴染み深い方法が許されている。聖杯から得た知識で現代英語をすらすらと書き綴りながら、口から絶え間なく漏れる呪詛の言葉。シュールでちょっと面白いなんて、他人事だから思えることだ。

ジョンが喚び出す影の兄二人とカルデアのサーヴァントであるセイバーの兄一人の間で突如勃発した争いについて、影の方は使役者としてジョンの管理責任が問われるので、こうして始末書を書かされている。リチャードはリチャードで、今頃部屋で同じようなことをしているのだろう。
ブリーフィングルームで己の使役するリチャードの影についてダ・ヴィンチの見解を聞いた後、ジョンは迷子になった子供のような顔で「少し考えたい」とだけ言って部屋に戻った。
その後のことについてはジョン曰く、一応世話になっているし、主人として気遣い、可能な範囲でなら自由にしてやらなくもないと検討していたところにセイバーのリチャードが現れ、喧嘩を売ってああなったとのことだ。
おそらく自分の心情についてはかなり強がりな装飾をしているのだろうが、大体の流れは合っているのだろう。

「兄上の影共…今は余が使役している以上、二度と勝手な真似はさせん…!」
「とか言いつつ今日の素材集めで大活躍だったね」

ジョンも同行してもらったが、その際は特に召喚することを躊躇う様子も無く、ライダーとバーサーカーの影達は、いつもと変わらず生き生きと斬ったり蹴ったりしていた。

「言っておくが、戦闘では変わらず俺の命に従っているし、勝手に出てきたとしても暴れるわけではない。使い魔としては及第点をくれてやってもいいくらいだ」
「本当にこの前暴れたのがイレギュラーだもんなあ」
「兄上がいけないんだ…やはり俺は兄上とは組まない。影のことも含めて、始末書に今後の対策として提案しておく」

三割くらいはリチャードと組みたくない言い訳に使っているのだろうが、実際一度騒ぎになっているのだから、危惧しているのも本心だろう。
リチャードはもちろんジョンと一緒に戦えることを心待ちにしているので、楽しみが一歩遠のいたことになる。

「よく考えたら兄上同士なんて穏やかに過ごせるわけがない。今日気づいたがバーサーカーとライダーも、どちらが出てくるかで微妙に揉めている気配がある。影の癖に我が強すぎるだろう」
「そっちも一枚岩じゃないんだ…」

セイバーのリチャードを相手にしていた時はチームワークを発揮していたらしいが、意外にも複雑な関係なのか。自分同士だからといっていって上手くいくとは限らないのは、カルデアでいくつかの事例を見ているので驚きはしないけれど。

「ジョンの意見は編成の参考にするから」
「もし兄上と俺が組まなければ明日にでも宇宙丸ごと滅ぶとでも言うなら、その時は考えてやる。それと、これから兄上の様子を見に行くんだろう。それなら…」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「いやあジョンにも迷惑をかけたな…あれから部屋の前で呼びかけるだけで怒られるんだ…」
「まだ部屋に行こうと思えるんだ…」

怒りが冷めるまでそっとしておく、という選択肢はないらしい。
リチャードは誤魔化すように笑っている。始末書の進行を聞いた時と同じ表情だ。
好奇心から初めての電子で書き始めてみたら、自分の思考速度に、慣れないキーを打つ指が追いつかず難儀しているらしい。

「俺も反省はしているんだ。そもそも決してあんな大事にしたかったわけではなく…」
「ジョンはあの影…使い魔の仕事を取るような宣言を大声でしたのが駄目だったんじゃないかって」

もしダ・ヴィンチの言う通り、影が自らの意志で戦い続けているのなら、相応しい戦場を与えてやるだけだ。
というのがジョンの弁だ。あの一件で逆に吹っ切れた部分もあるようだった。

「それも次からは気を付けると言ったんだけどなあ。扉越しに」

そんな兄の謝罪も虚しく、弟はアマテラスさながらに岩戸に閉じこもって、この夏日の焦げ付く太陽のような男を曇らせているらしい。然もありなん。

「ところで、影の俺は俺に対しては随分獰猛だったが、ジョンには忠実か?」
「ジョンの言うことを聞かないのは、俺はあの日初めて見たよ。ジョン本人もそう言ってた」
「そうか。まあそうだろうな」

立香の答えに、リチャードは納得した様子で頷いている。質問というより、自分の考えが正しいかどうかを確認しているようだった。

「突然抱きかかえられても全く警戒していなかったからな。俺がやったら怒って暴れるんだろうが…しかしこんなことがあったら、あいつらも怒られるか?」
「自由行動はさすがに保留になったよ。あと影達のこと考えたら、やっぱりリチャードとは組まない方が良いって」
「…っ、そうか。うん、痛み分けってところか…」

そうやってしゅんとしながらも張り合うような様子を見るに、ジョンの考えもあながち間違いではないと確信する。会わせたらまた争いになる予感がした。

「あと、一応、ジョンからの伝言を預かってるんだけど」
「本当かマスター!!」

前のめりでリチャードが詰め寄ってくる。
扉一枚隔てて顔すら見られず怒られる日々で、ようやく許された伝言だ。その表情は一気に光が差し込んだような明るさだった。

「そんなに期待されると困るけど」

と言いつつも、リチャードなら文句でも何でも喜ぶだろうと、ジョンの伝言を一字一句違わず伝えてやる。
いいのかなこれ、と少し思ってしまったが、なるようになるだろうと気楽に考え立香は息を吸い込んだ。

―大方、俺に命じられて考えることを放り出して戦う影がカルデアでの自由まで手に入れそうになって、悔しくなっていきなり喧嘩売ったんでしょう。兄上は案外そういう子供じみたところがありますからね…もう二度とやるな!!

「以上!」
「ジョンがそんなことを…?」

伝え終わると共に、リチャードの目が更に輝きを増した。
今の伝言にそこまで喜ぶ要素があっただろうか。立香は首を傾げる。
まるで円卓の騎士達やゲオルギオス、ベオウルフのような、リチャードが憧れてやまない英雄達を発見した時のような光。
微笑ましいようでいて同時に湧き上がる、本能が警鐘を鳴らすような、積み重ねた経験がこれはいけないと告げるような感覚。
ジョン、もしかしてこれは失言かそうじゃないかで言ったら失言の方なんじゃないかな。なんて心の中で呼びかけてみる。
当たり前だが、答える声は無い。

「うん…ジョンの困り事を解決したかっただけなんだが…そうだな…確かにあの時俺は…」
「リチャード?」
「やっぱりジョンはすごいな。俺が思い至っていなかったところまで分かってしまう」

リチャードは喜びのあまり一周まわって表出する感情が無になり、今は自分の中でゆっくりと咀嚼しているようだった。
腕を組んで考えたり、視線をあちらこちらと忙しなく動かしたり、かと思えば静止したまま動かない。

「マスターはサーカスの猛獣を知っているか?」
「え? そりゃ、本物は見たことないけど、どんな感じなのかくらいは」

唐突な話題転換。しかしリチャードは、微妙についていけてない立香に構わずやや興奮しながら語ってくれる。

「俺も最近本で読んで知った。その本ではライオンが意地悪な主人にこき使われて大変そうだったが、退屈ではなさそうだった」
「そう、なんだ…?」
「最後ライオンはサーカスから出て、自由になって終わった。いや、それはそれで良い結末だとは思うんだ。意外だっただけで…」

珍しく歯切れの悪い物言いだ。
物語はハッピーエンド。鎖に繋がれた獣は解き放たれ、どこまでも自由に駆けていくというのに。
リチャードは、そこに別の幸せへと至る道を見たのだろうか。

「ジョンとあの影が話しているのを聞いた時、その話を読んだ時のことを思い出した」
「…どうして?」

言いようのない感覚に促されて、立香は問う。リチャードは相変わらず上機嫌に微笑んでいる。

「ほら、サーカスは煌びやかで騒がしくて、楽しそうだろう。自由は無くても、爪と牙を振るって喜ばれるのは嬉しい。退屈な迷宮に閉じ込められるより、余程上等な生活をしている! 主人さえ最高なら飼われたいくらいだ!」

サーカスでライオンがやるのは火の輪くぐりやジャンプとか、そういう安全なやつで、少なくともその牙と爪で肉を噛み千切り、皮膚を引き裂いたりする機会はないはずだ。
ジョンが言うにはリチャードは物語を結構都合よく解釈するとのことなので、今回も都合よく想像を膨らませたのかもしれない。なんて物騒なサーカスだ。

「あの影達はサーカスのライオンみたいなものだ。最高の主人に命じられるまま暴れたら良い。敵を屠れば認められるし、近くで守ることもできる。だから羨ましいというのは、言われてみればその通りだな! そこに自由行動までつくなら夢のようじゃないか! 」
「羨ましい…」
「全く、ジョンは本当にすごいな…」

紅く灼けるような瞳の、人を惹きつける光のその奥に、荒れ狂うような歓喜と、飢えた獣の渇望を見たような気がして、立香は体全体に戦場にいる時のような緊張感が走るのを感じた。
羨ましいのか。
殺されて傷になり、霊基に縫い付けられ、残滓となっても、大切なものを害そうとする敵に牙を剥き続ける、その有り様が。

「俺もカルデアで名のある英雄達…何よりあの円卓の騎士達と会えて、共に戦い、手合わせまで出来るという生活をしているわけだから、これはこれで夢のような日々ではあるけどな! 」

リチャードは正直に、率直に、心のままにあの影達の在り方と現在の自分を同列に語る。その紅い瞳には緑の妬心が微かに光っているようにすら見えた。
だから立香も、本当にそれが夢のような日々なのではないかと錯覚する。

「両方得たいなんてのは、少し欲張りすぎか」

いいや、錯覚ではないのかもしれない。大切な人と離れることなく繋がれて、鎧となり剣となり、命じられるままに力を振るうだけで、その暴虐を肯定される。
それは、追いかけ夢見てきた幻想に出会い、同じ時を過ごせることと同じくらいの幸福なんじゃないか、なんて。

―兄上はいかにも調子の良いことを言うし、それが正しいことのように聞こえるかもしれないが、騙されるなよ。うっかり取り込まれたら…

爛々と灼けるように輝く紅から目を離せなくなった立香の頭の中で、突如ジョンの声が想起された。

―取り込まれたら、QPがいくらあっても足りなくなるぞ!

冗談めかしているが心底うんざりした顔で、しかもかなり本気の目をして言ってくるものだから、立香もついつい本気で頷いた記憶がある。
なんだか、何がとは言わないけれど結構洒落にならない気がしてきた。
立香は急に脳内に出てきてくれたジョンに感謝しながら、酔いを冷ますように首を振る。

「とりあえず、羨ましくなっても喧嘩は売らないように!」
「返す言葉も無い! ジョンの言う通り、子供じみたことをした…」

そう言って反省した様子のリチャードの瞳は、夜の星のように、微かだが確かな光があるのみだった。

— End —

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