技術の進化とは四段階に別れていると考える。
第一段階、開発、新技術が生まれ、世界に衝撃を与える。
第二段階、量産、珍しい新技術がありふれたものとなって、旧世代を駆逐する。
第三段階、最適化、高性能化と言い換えてもいい、より優れたものへと進化を目指す。
第四段階、小型化、飽和した技術をもって、小型化を目指す、ここまでくればそのうち次の第一段階が発生して、次のサイクルへ向かうことになる。
我が酒寄研究所が誇るアバターボディ技術、すでに介護や工事現場、医療の場などで一定の成果を上げている技術、次に目指すべきは小型化ではないか?
幸いにもアバターボディやその他技術のおかげで、試作型のアバターボディを無駄に二~三体作っても問題ない程度には資金面の余裕もある。
「……流石にキモいよなぁ」
私の視線の先、PCのモニターに映るのは、いつだかの深夜二時に急成長して、オムライス食って、タコライスを私から強奪していた頃のかぐやの姿。
だぼだぼの黒いシャツ、亜麻色の長髪、今と比べると幼い表情。
もと光る竹に格納されていたデータのおかげで、かぐやの身体の成長段階はいつでも確認できる。
問題は、可愛いからと言ってミニかぐや義体を造ろうと考えた私の若干のキモさで。
はい、そうです、かっこつけてなんか色々捏ねてたけど、私利私欲でまた違うベクトルで可愛かったかぐやを再現したかっただけです。
あの子マジで一瞬で成長したから、あの状態と一緒にいれたの数時間ぐらいなのよ……。
あ、小型化とか進化の段階とかは割とどうでもいいです、てかマジでてきとー言ってただけだし。
「いや、なんだろう、本当にそこはかとないキモさと犯罪臭がするんだよ……」
「この時のかぐや小学生ぐらいだったもんなぁ……それをアラサー女が再現しようとしてますはちょっとなぁ……」
多分その案件の管轄は、酒寄研究所ではなく、警察の方だ。
「うーんヤッチョはいいと思うけどな~?ミニかぐや義体」
「ね、ミニヤチヨも作ってもらえばいいじゃん」
「この際彩葉のミニアバターボディも作っちゃえばいいよね」
「ね~」
……問題が更新されやがった、まさかのご本人様にこの欲望剥き出し新型アバターボディ開発計画が露呈してしまったのである。
「なぜ二人ともいる……」
絞りだすような呻き声で疑問を提示する。
「なんでもなにも」
「彩葉がかぐや特製お弁当忘れて行ったから届けに来たのです」
「なんでこんな近くまでって話なら、いろはがかぐやのデータを超真剣に見てて気づかなかっただけだよ?」
迂闊、あまりにも迂闊。
いや落ち着け、今はまだ本人から合意の上で提供されたデータを確認していただけでやましいことは。
「やっぱいろはって小さいほうが好きなの?」
「」
「ヤッチョがツクヨミで彩葉に絡む時もミニヤッチョの方が反応いい気がするけど、やっぱりそうなの?」
「」
「…………」
じーっと、二人はまっすぐに私の目を見てくる。
「…………そうよ!いいでしょ!?ミニかぐやはもう翌朝起きたときには成長してたし!ミニヤチヨはめったに見られないレア演出だし!愛でたいの!心ゆくまでちっちゃいかぐやたちを!」
はい終わった、流石にキモい。
けど、キモい発言聞いた割には二人ともほえーって反応で。
「因みになんだけど、いろは的にちっちゃいかぐやたちって何が違うの?」
かぐやが首を傾げながら聞いてくる。
「ね、かぐやもヤッチョも大きさこそ違えどそこまで変わらないよね?」
ヤチヨは、かぐやと逆方向に首を傾げている。
「あー……なんだろ、うまく言語化出来ないんだけど、今の二人にはキレイって感じが入ってるけど、ミニだと純粋に可愛い感じっていうか……」
「あー、いろは意外と可愛いもの好きだもんね」
「ヤッチョやかぐやより先にメンダコさんを現実に造り出したもんね」
「いやあのメンダコはただの試作品の一つであって……」
「でもそのただの試作品のメンダコさん、仕事中一人だとずっと抱っこしてるよね」
「うぐっ……」
「あ、あと、今日のワ○コこっそり録画してるよねいろは」
「彩葉のSNSのアカウント、犬とかの動画めっちゃいいねしてるもんね〜」
「録画はともかくなんでそっちもバレてんのよ!?」
「だって我管理者ゾ?」
「職権乱用!」
そんな感じでぎゃーぎゃー騒いでいるうちに、かぐやとヤチヨは私を挟むように移動して。
「いいよ?いろは、なんか色々気にしてダメって思ってそうだけど」
「彩葉が望むなら、かぐやもヤチヨもぜーんぶ応えるから」
「いろははかぐやの全部なんだから、なんだって受け入れるよ?」
「ヤチヨも、いいんだよ?ミニかぐやとミニヤチヨを可愛がり倒したいって欲望我慢しなくて」
「「ね?いろははどうしたいの?」」
そう耳元で囁かれる、反則でしょ、それは。
気付けば私のパソコンの画面には、義体小型化の研究名目で、ミニサイズKG型、YC型の開発指示を出した記録が映されていて。
「何してるんだ……私……」
「いろはちょれー」
「正直彩葉の欲望に応えたい以外にも、ミニアバターボディがどんな感じか気になったってヤッチョたちの欲望も混じってたのにね」
「はい……私は酒寄ちょろ葉です……」
まあもう指示出しちゃったし、頑張るしかないか……。
とは言っても、基本構造は既存のモノである程度流用効くし、パワーと稼働時間さえ削っちゃえば割と作ること自体は簡単なんだけどね。
問題は、こんな趣味丸出しの開発指示出して、みんなにどう思われるかという点で……。
ま、いっか!かぐやとヤチヨ侍らせてる時点で事情知らない人からしたらヤベー奴だし!
「はぁ……マジでみんなになんて思われるか……」
割り切れなかったよちくしょう。
「いろはって気にしいだよねぇ」
「そこが可愛いんじゃないかぐや♪」
「まあそれはそう」
そうこうしているうちに、私の指示書を読んだであろう部下からのチャットが届いた。
その内容は、子供向け義体の開発で難病の子供たちに希望が〜みたいな、私を称賛する内容で。
「ぐぬぉ……100%私利私欲なのになんか評価されてるぅ……」
「いろはがすっげえ捻れてる」
「やったことは自分の欲望に従っただけなのに、人格者扱いされて罪悪感で捻れてるね」
「いろは〜腰やるよ?」
「さっきから骨ばきばき鳴ってて怖いんですけど〜」
まだ軽蔑されたほうがマシだったと思いながら捻れる。
やめてそんなに純粋な考えで私を見ないで……。
―――数ヶ月後
「ただいま〜」
ドアを開けると、ととと……と軽い足音が聞こえてきて。
「よ!芦花!おかえり♪」
お気に入りの黒いシャツがワンピースのようになるサイズ感のかぐやと、おかえりの言葉が飛んできた。
「おー、ミニアバターボディ完成したんだ?」
「どーお?ちょーぜつキュートなミニかぐやちゃん♪」
「可愛い〜、ナデナデしていい?」
「むしろやって♪」
目に『なでで、構って』って書かれてたのが見えたのでノッてあげる、アバターボディに引っ張られてヤチヨとかぐやになるのだから分かってはいたが、ミニだと子供っぽくなるのか。
「なんかこの髪色のかぐや久しぶりだね〜」
「芦花は初めて会った時だけじゃない?見たことあるの」
「だよね〜、あとはもう金髪だったもんねかぐやちゃん」
「お!かぐやちゃんって久しぶりに言われた気がする!」
「この小ささはかぐやちゃんでしょ〜」
撫でてもらえて嬉しかったのか、かぐやは満面の笑みで、なんか……大型犬っぽい感じだった。
この可愛さはだいぶ反則な気がする、彩葉が色々悩みながらもミニアバターボディを作るワケだ。
「あれ?そういえばヤチヨは?」
普段なら私の帰宅時、暇なら飛んでくるヤチヨがおとなしい。
「あー……ヤチヨはねぇ……」
リビングに入ると部屋の隅っこで体育座りでいじけてるいつもの身体のヤチヨが居て。
「ヤチヨのミニアバターボディって、かぐやより一回りちっさいから難航してて……」
「先にミニかぐやだけ出来ちゃってしょげてると……」
「芦花〜!かわいそうなヤッチョを慰めて〜!」
「はいはい」
よよよ〜……と泣きながら飛び込んできたヤチヨを受け止めると、負けじとかぐやまで飛び込んできた。
「ちょ!?二人とも!?」
「ろか〜なぐさめて〜」
「あそんで〜!」
普段より遠慮がなくなって甘えたがりになったかぐやと、結構本気でいじけてるヤチヨに挟まれる。
これ、二人ともミニになって更に甘えん坊が加速したらどうなるんだ……?
「あーもーはいはい……」
まあ仕方ないので二人とも受け止める。
正直、仕事帰りだしもう少しのんびりしたいが諦めだ。
「あれ?そういえば彩葉は?」
「いろはならミニKG型完成間際デスマーチを乗り越えて部屋で泥のように眠ってるよ」
「あー……じゃあしょうがない、今日はみんなでお風呂入ろっか」
「「いいの!?」」
「芦花いっつもヤチヨが誘っても一緒入ってくれないのに!」
「毎回拒否られるヤチヨ見て鉄壁〜って思ってたのに!」
「ま、たまにはね?」
いじけてたのも忘れたのか狂喜乱舞するヤチヨと、意外〜と私の顔をしげしげと見つめるかぐやを連れてお風呂へ向かう。
恥ずかしいか恥ずかしくないかで言えばだいぶ恥ずかしいが、彩葉の安眠のためなら仕方ない。
…………と、思っていたのだが、お風呂から上がったら一人だけ仲間外れにされたと知った彩葉がいじけて、『芦花は彩葉のために恥ずかしいの我慢してだね!』とヤチヨに怒られたり。
私の努力あんま意味なかったなぁと思いながら、ミニかぐや誕生の日は終わるのであった。






















