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ガチ天女ムーブ天女6

ラドリカラドリカ

コメント、スタンプ、タグ、マシュマロありがとうございます!励みになります! この話を書いている途中で体調不良に見舞われたので多分なんかあります。夢主虐めすぎたって?それはそう。 次回予告:1年は組だョ!全員集合! 追記 26.05.15 またもや作品がランキング入りしました!!!皆様ありがとうございます!!! あなたの作品が2026/05/08~2026/05/14の[小説] ルーキーランキングに入りました! 25 位 追記 26.05.16 またもやランキング入りさせていただきありがとうございます!!!まさか20位以内に入ろうとは……! あなたの作品が2026/05/09~2026/05/15の[小説] ルーキーランキングに入りました! 19 位

今日はウキウキ保健委員会の日!!!んなわけあるかぁ!!!嫌じゃ!!!保健室に行きたくない!!!雑渡さんにあったらどうしてくれる!!!なんか微妙に体調悪い気がするし!!!より行きたくないわ!!!
 もし雑渡さんが居たら絶対「保健委員会と仲いいんだね」って嫌味言ってくるよ!!!だって私確かに距離近かったし!!!絶対嫌味言われる!!!今日は微妙に体調が悪いんだ!!!微妙な体調不良の時に尋問とかなに口滑らすかわかんないし嫌だからね!!!私!!!

 そうだ。気休めで神様に祈ろう。そうしよう。雑渡さん来ませんように!!!今日は絶対来ませんように!!!

 祈ってから朝餉を食べ、保健室へ向かう。朝一なら大丈夫でしょう!!!タソガレドキから忍術学園まで遠そうだしね!!!もう万全ってことよ!!!
 朝だから伊作くんじゃなくて新野先生かもしれないけど、そうしたら伊作くんのお説教も逃れられるしね。仙蔵くんが聞いたら完璧だ……!って言うだろう!
 さあかかってこい保健室!!!

「やあ。おはよう」
「おはようございます。雑渡様ですね。先日は醜態を晒してしまい申し訳ございませんでした」

 神は居なかった!!!ちくしょう!!!不運が移ったか!!!???最近色々あったもんな!!!にしてもなんで今日来るんだよ!!!朝早すぎてもはやおじいちゃんだよ雑渡昆奈門!!!

「そんなに固くならなくてもいいのに」

 雑渡の目は笑っていたが声は冷たかった。
 夢子は無意識に背筋を伸ばす。

「保健室によく通ってるようだけど」

 ひゅ、と喉が鳴る。

 監視されている。当然だ。わかっていたことなのに、実際に指摘されると心臓が嫌な音を立てた。何か合ったら確実に殺せるためにか。私は死にたくないんだけど。

「……定期健診と、薬草取りのお手伝いを善法寺様に誘われまして少々」
「へぇ」

 雑渡は頬肘をついた。

「伊作くんも熱心だねぇ。随分世話を焼いてるみたいじゃないか」
「善法寺様はお優しい方ですので」

 それが答えとして正しいのかわからなかった。でも他に言葉が見つからない。
 雑渡は細く目を眇める。

「保健委員を篭絡なんて早いじゃないか」

 空気が、ぴたりと止まった気がした。
 夢子は瞬きをする。

 篭絡!!!???そんな風に見えていたのか!!!???まずい!!!まずいぞ!!!仲がいいどころではなく篭絡!!!すなわち雑渡さん基準での死が待ってるのでは!!!???
 仲良くしてくれるのは嬉しいけどなあ!!!そんなつもりないんだって!!!信じてくれ!!!
 いや、天女の言葉信じるとか雑渡さんが1番しないやつじゃん。

「少し距離が近かったのは事実です。ですがそのようなつもりはありません」
「ない?」

 雑渡はくすりと笑った。

「でも実際、君の周りには人が集まり始めてる。保健委員に用具委員、1年は組とも随分楽しそうにしてたらしいね。さあ何故だろうか、天女様」

 見られている。どこまで?どこから?
 いや、それは今はどうでもいい。

 夢子の頭に浮かんだのは別のことだった。
 何故だろうか、天女様。それはすなわち雑渡さんは答えを知っている、そして天女関連のことで人を集めることができるのは。

 ”妖術”

 自分が関わったせいで周囲が危険視されてしまうかもしれない。自分がもしも妖術で篭絡していたら。伊作くんたちが疑われてしまう。シナ先生や小松田さん、吉野先生みたいに優しくしてくれた人たちにも迷惑がかかる。天女に取り込まれた人と、判断を誤った人と言われてしまう。私はきっとすぐ打ち首だ。
 普段なら考えないようなことを考えてしまう。篭絡してないって言いたい!でもしてないとは言い切れない。
 だって、あんなにもすぐ優しくしてくれるなんて、あり得ないじゃないか。あんなに距離が近くて、少し話しただけでもなんだってんだってくらい優しい。叶うならば、無害で居たかった。無害のままみんなと仲良くなりたかった。
 でも私は天女だ。学園に害成す存在だ。自覚があろうがなかろうが学園に対して害を成した罪は変わらない。
 その言葉が私を暗闇へと引きずり込んだ。

「申し訳、ございません」
「へぇ?」

 雑渡の眉がわずかに動く。

「謝るんだ」
「私の軽率な行動で、皆様にご迷惑をおかけしているのであればもっと距離を取るべきでした。善意に甘えて過ごしていたのがよくありませんでした。もっと自分の存在を自覚するべきでした。私は天女。害あるものだったのですね……無自覚でしたがまさか自分に妖術の力があったなんて……雑渡様、教えていただきありがとうございます」

 夢子は視線を下げる。
 やばい。泣きそうだ。自分は死ぬのか。元の世界に戻れるかどうかすらわからず。

「善法寺様方皆さんはお優しいだけなのです。私がそれに甘えてしまったのであれば申し訳なく思います。私はもう消されてしまうので申し訳なかったと言えないのが残念ですが」
「……」

 雑渡は黙った。

 夢子は気付かない。
 自分の言葉がどれほど奇妙なのか。

 此度の天女はよくわからない。殺気を放っても臆さない。首を絞めても臆さない。
 自己抑制に優れており、いつ尻尾を出すのかと待っていたところにこの発言だった。妖術を使えるとは言ってないけど、見事に勘違いしているみたいだ。しかも散々な目に合わせた私にお礼まで言うとは。まあ面白いし本音が聞けそうだからそのままにしとこ。
 ……生徒に害するくらいなら死を選ぶ、ね。とても篭絡している人間の言葉とは思えない。 
 むしろ逆だ。自分から離れようとしている。出会ってから今まで嘘は見られない。どう見るべきか……
 あ、泣きそう。やりすぎちゃったかな?でも、今なら本音が聞けそうだ。

 雑渡は表情を変えないまま、ゆっくり口を開いた。

「今度は誰を篭絡する気なんだい?」

 試すような声音だった。

 夢子は一瞬だけ目を見開き、綺麗な礼をした。

「……そのように見えるのであれば、私はこの世を去ります。雑渡様の仰る通り、妖術が使えるのであれば……学園に害を成した時点で死ぬのは当然でしょう」

 その言葉に嘘偽りはなかった。
 雑渡はその返答に、ほんのわずかだけ目を細める。
 だがそれ以上は何も言わなかった。

「……まあ、君に妖術が使えるかわからないけどね」
「……へ?」
「あ、勘違いしちゃった?私は君が話巧みに篭絡したんだと思ったんだけど」
「い、いえ。そっか。そうでしたか」

 一気に肩の力が抜けて座り込む。
 ざ、雑渡さんのばかやろ---!!!私本気でここからいなくならなきゃって思ったんですからね!!!死も覚悟したんですからね!!!雑渡昆奈門のばか!!!
 もうやだ。泣きたい。というかもう泣いてる。元の世界の実家に帰りたい……変なこと考えすぎて気持ち悪い。
 やばい。ここからどうやって涙を誤魔化そう。雑渡さんの前で涙を拭うのは癪に障る。でももうすぐ来るであろう生徒に涙を見せる訳には行かない!!!ここでかかずにどこで恥をかけと言うのだ!!!
 夢子は勢いよく立つと、潔く涙を拭いた。

「ふうん。生徒が来るまで耐えないんだ」
「生徒様方にこのような姿をお見せする訳にはいきませんから。雑渡様を悪く見せるようなことはしたくありません」
「え、君、言ってることわかってる?」
「え、なにかおかしなこと言いましたか?」
「……くくっははははははははははははは!!!」

 殺気を放ち首を絞めた私に!!!生徒に悪く見せたくないと来た!!!面白い!!!
 一段と興味が湧いた。これも天女の妖術の1つなのかもしれない。警戒しなくては。それにしてもこの子はこの世のものではないようだな。善性が強すぎる。疑うことも傷つくこともあるのにそれでも揺るぎない善性。自己犠牲。
 これは保険委員会のみんなが気にするわけだ。

 そんなことを思っていたら伊作くんの足音がする。もう時間みたいだ。
 ガラガラと保健室の戸が開く。

「おはようございます……って、あれ?」
「やあ、伊作くん」
「あっ善法寺様、お邪魔しております」

 入ってきた善法寺伊作の声が止まる。

 夢子は反射的に礼をした。
 まずい。少しだけ涙が残っていたかもしれない。よく確認してないからわかんない!!!

「天女様、どうされましたか?また何か隠してますね」

 うっ!!!なんで気付くんだ善法寺伊作!!!目ざとすぎるぞ!!!
 伊作はすぐにこちらへ歩み寄ってくる。

「い、いえ。目に少しゴミが入ってしまいまして」
「ああ、擦っちゃだめです!余計傷つきますから!」

 夢子は慌てて目元を擦る。
 目の前で擦ったら泣いた目元もちゃらよ!!!どうだ!!!今度は私の勝ちだろう!!!善法寺伊作に圧勝なり!!!

 案の定、伊作はすぐ反応した。
 雑渡はその様子を横から見て、わずかに目を細める。

 ___本当に誤魔化した。

 泣かされた、とは言わない。責めない。助けも求めない。しかも自分を悪者にしないために、わざわざ理由まで作った。

「伊作くん。随分過保護なんだねぇ」
「え?だって目は大事じゃないですよ?あと!この人すぐ怪我を隠そうとするんですよ!過保護にもなります!」

 伊作は当然のように答える。

「ほら、夢乃さん。見せてください」
「いえ、本当に大丈夫ですので」
「だめです。そう言う人ほど大丈夫じゃないんだから」

 逃げようとする夢子の前に、伊作がしゃがみ込む。
 距離が近い。

 夢子は少しだけ困ったように眉を下げた。

「……善法寺様。近いです。私は害のある可能性がある存在なので離れてください」
「だめです。確認しないといけないからね。はい。抵抗しないでください」

 夢子はとうとう観念したように小さく息を吐く。
 雑渡は診察風景が面白すぎて真顔でウケていた。

「失礼しますね」

 この声に、夢子はそっと顔を上げる。
 伊作は夢子の目元を見ると、わずかに眉を寄せた。

「少し赤いな……本当にゴミでしたか?」
「はい」
「本当に?……うん。無事に流れていってるみたいですね。念のためもう擦らないようにしてくださいね」

 疑っている。でも追及はしない。
 一瞬、夢子が言いたくない時の顔をしていたことに、伊作はもう気づいていた。

「目薬使います?」
「いえ、お気遣いありがとうございます」

 雑渡は黙って二人を見ていた。

「……雑渡さん?」

 伊作が不思議そうに振り返る。雑渡はいつもの笑みを浮かべた。

「いやぁ。君たち、本当に仲良くなったなと思って」

 その言葉に、夢子の肩がびくりと揺れた。

「いえ、善法寺様は医療上の行為で優しくしてくださるわけであって別に仲良くなってはおりません」
「えっ」

 ゑ???えっって何???なんだか伊作くんがしょんぼりした顔なんだけど。え、何???何故???

「僕、少しは天女様と仲良くなったと思ったんですけど……勘違い、でしたね」

 そんなこと言っちゃいけないんだって!!!天女は害あるものなの!!!私も害の可能性があるの!!!そんな顔で言われたら……!!!罪悪感が……!!!

「あーいけない天女様が伊作くんを泣かせたー」
「えっ」
「悲しいなぁ……僕だけだったんだ……」
「ち、違います!違くもないんですけど、善法寺様に仲良くなったと思われるのは非常に嬉しいです。ですが私は天女です。あまり仲良くなっては善法寺様の評判に関わってしまいます。ですので___」
「天女様!その天女だからって言うの禁止にしてください!」

 えっ、君、今までしょぼくれてたはずでは?え?

「え、悲しまれていたはずでは」
「哀車の術だね」
「えっええ!」

 まさか自分がかかるとは!!!善法寺伊作、恐るべし……
 というか雑渡さん気付いたなら言ってくださいよ!!!雑渡さんの意地悪!!!冷徹!!!勘違いさせ野郎!!!

「ほら、天女様。あ、僕が天女様って言うのもよくないかも。夢乃さん」
「ゆ、夢乃さん!?それは距離が近いです!!!雑渡様も何か言ってください!」
「うーん。いいんじゃない?」

 こ、こいつ、今まで生徒と距離近いって脅しておいて……!!!伊作くんの前でいい顔をするんじゃない!!!雑渡昆奈門!!!だめだ。雑渡昆奈門に対しての文句が止まらない。

「善法寺様!私が天女であることは変えられません!」
「……わかりました、今はそれでいいです。手を見せてください。怪我の状態を確認します」

 夢子は手を差し出した。伊作は包帯を解き確認する。
 かぶれも広がっていない。疱瘡もなし。ちょっと手が熱いのが気になるけど誤差の範囲内だ。安静にしていればすぐ落ち着く程度のものだろう。
 薬を塗り、処置を終える。

「はい。大丈夫です。念のため今日は安静にしていてくださいね」
「安静、ですか。ありがとうございます。では、失礼します」

 夢子は綺麗な礼をして、保健室を後にした。
 保健室の戸を閉めた瞬間。す、と背中に張りついていた緊張が途切れる。

「っ……」

 視界が揺れた。慌てて廊下の柱に手をつく。
 これは疲れが溜まっているな。
 腹もいや~な感じで痛い。自室に戻ろう。

 夢子は足早に保健室を後にした。

 部屋に戻った瞬間、全身から力が抜けた。
 机に手をつき、そのまま座り込む。

「あー……」

 熱い。体は微熱を持っているような倦怠感がある。頭の熱が顕著だ。額だけものすごい熱い。頭がぼうっとする。腹がキリキリと痛む。心因性か?ただの熱にしては熱の出方がおかしい。
 今日は勉強はやめたほうがいいかもしれない。
 そう思うのに、机の上の本へ目が向いてしまう。

 ___だめだ。

 休むのはよくない。迷惑をかけないようにしないと。今日くらいと思いたかったが今日止めてしまえばこの先ずっとやれないような気がした。
 夢子は荒い呼吸のまま炭を擦り、震える指に力を入れて筆を持つ。
 だが文字を書こうとした瞬間、ぐにゃりと線が歪む。

「……だめだこれ」

 とうとう筆を置いた。

 昼餉の時間。正直、起き上がるだけでも辛かった。意地で平静を装い、膳を受け取る。食べなければ。せっかく作ってもらったものを残すのは申し訳ない。

「いただきます……」

 熱い。味がよくわからない。それでもなんとか口へ運ぶ。
 途中で吐き気がした。でも止めなかった。食べなきゃ。大丈夫。吐く限界はわかってる。まだ大丈夫だ。

 食べ終わる頃には、もう座っているだけでも辛かった。

 夕方。起き上がれなかった。熱が上がったのだろう。寒い。でも熱い。喉が乾くのに、水差しまで遠い。頭が重い。身体が鉛みたいだ。

「……まずい、なぁ……」

 でも呼ぶ相手もいない。
 大丈夫。一晩寝れば治るかもしれない。もしだめそうならシナ先生がなんかしらしてくれるだろう。そう思って目を閉じた。

 伊作は夢子の部屋の天井裏に潜んでいた。
 昼の監視の雷蔵から「ぐったりとしていてどうやら調子が悪いようです」と引き継ぎを受けた。監視が終わった後僕を呼ぼうか迷っていたらしい。ちなみに僕は夢乃さんの昼の手の熱さが気になって元々の監視役だった三郎に変わってもらった。
 天井裏から夢乃さんの様子を見る。
 部屋の中は薄暗かった。その中央で、夢子が布団に倒れ込むように横になっている。

「っ……夢乃さん!?」

 慌てて天井裏から降り、駆け寄る。
 顔が赤い。呼吸も浅い。
 額へ触れた瞬間、伊作は息を呑んだ。

「熱っ……!」

 熱がある。高熱ではないが倦怠感が強く出ているのか僕が触れてもびくともしない。
 なのにこの人、誰も呼ばずに、一人で耐えていたのか。

「夢乃さん、大丈夫ですか、夢乃さん!」
「……あ……」

 薄く目が開く。
 焦点が合っていない。

「善法寺、さま……?」
「なんで言わなかったんですか!」
「……大、丈夫。かなって……」
「そういう問題じゃないでしょう!」

 思わず声が強くなる。
 だが夢子はびくりと肩を震わせ、小さく身を縮めた。

 しまった。
 伊作はすぐ息を吐く。

「……ごめんなさい。怒ってるわけじゃないんです」
「……すみま、せん……」

 また謝る。この人は苦しい時まで謝るのか。
 伊作は眉を寄せた。

「立てますか?」
「大丈夫、です」

 起き上がろうとした夢子の身体がぐらりと傾く。

「危ない!」

 あれ?歩けない?なんで?
 夢子は混乱した。

 伊作は夢子の体を咄嗟に支える。体も熱い。
 あまりに酷い様子に顔をしかめた。

「保健室行きますよ」
「でも、ご迷惑を……」
「行きます」

 ぴしゃりと言い切る。
 夢子は弱々しく目を瞬いた。

「失礼します」

 そう言って伊作は夢子を俵担ぎした。

「わっ……!?」
「暴れないでくださいね。落ちますから」
「じ、自分で歩け、」
「無理です」

 即答だった。
 夢子はぐったりしたまま、小さく息を吐く。
 今はもう、腕1本動かすのも辛かった。

 伊作はそんな夢子を担ぎながら、保健室へと歩みを早めた。

 保健室へ運び込まれた頃には、夢子はもう目を開けているのも辛かった。
 夢?夢だよね。俵みたいに運ばれてる気がする?なんで?歩ける気がするんだけどな……あっ、やべ、考えてると気持ち悪い。

「失礼します!」

 勢いよく戸を開けた伊作に、保健室に居た新野が目を丸くする。

「わっ!どうしましたか伊作くん」
「夢乃さんが熱を出して……!」

 ベッドへ降ろされる。
 背中が柔らかい感触に沈んだ瞬間、全身から力が抜けた。

「夢乃さん、わかりますか?」
「はい……」

 返事をしただけなのに息が上がる。
 頭が重い。身体が鉛みたいだ。さっきまでの俵担ぎもあるだろう。気持ち悪い。
 熱で苦しいというより、“動くための気力”が全部削り取られている感じだった。

 新野が額へ手を当てる。

「んー……そこまで高熱じゃないですね。ちょっと待っててください」

 体温を測られ、薬草茶を用意される。
 伊作はその間も落ち着かなかった。

「昼の時点で少し熱かったんです。なのにこの人、何も言わなくて」
「伊作くん、落ち着きましょう」
「でも!」

 夢子はぼんやりその声を聞いていた。
 申し訳ない。また迷惑をかけている。保健室は嫌いだ。自分が何の役にも立てないことを実感してしまうから。

「……すみま、せん……」

 小さく呟くと、伊作がぴたりと黙った。

「どうして謝るんですか」
「……手間を……」
「だから、そういう問題じゃないんです」

 強くなりかけた声を、伊作は途中で抑え込む。
 夢子はその気配に小さく肩を縮めた。

 やっぱり怒ってる。当然だ。こんな状態になるまで黙っていたのだから。保健委員会センサーがだめだと言うのだろう。
 そしてでかい声で喋らないでくれ。頭に響く。

「……ごめんなさい」

 また謝る。
 伊作は額を押さえた。

「新野先生、これ飲ませてもいいですか?」
「はい。少しずつですよ」

 差し出された湯呑みから、薬草の匂いがした。
 夢子はなんとか身体を起こそうとする。

「支えますね」

 伊作が背を支えた。

「……自分で、できます」
「今は頼ってください」

 夢子は少し迷ってから小さく、失礼しますと呟いた。

 湯呑みに口をつける。
 一口。
 二口。

 半分を超えたところで気持ち悪さが込み上げた。

「っ……」

 夢子の顔色が変わる。
 伊作はすぐ湯呑みを取り上げた。

「無理しないで」
「でも……何か腹に入れないと……」
「今は食べることより休むことです」

 夢子は苦しそうに息を吐いた。

「……もう少しくらいなら……」
「十分です」
「でも……」
「十分です」

 きっぱりと言い切られる。
 夢子は困ったように眉を下げた。
 何で伊作くんは弱った優しくしてくれるんだろう。天女なのに。雑渡さんに言われたから離れなきゃいけないのに、なんで。
 思った言葉が意図せずに口から出ていく。

「……善法寺様は、どうしてそんなに……優しいの、でしょうか……私は、天女です。皆様に害を成す可能性が、あります。なのに、どうして……」

 伊作は少し黙った。それは、簡単に答えられる問いではなかった。
 天女は危険だ。実際に被害にもあったし、同室、委員会、下級生。みんなを巻き込んだ。警戒が必要なのも事実だ。

 でも、目の前にいるこの人は。苦しくても「迷惑をかける」と謝って、倒れるまで無理をして、それでも誰かを傷つけないようにしている。

 少なくとも今の伊作には、この人を放っておくほうが、よほど間違っているように思えた。

「……夢乃さん。僕は、あなたが天女かどうかより、苦しそうにしてる人を放っておけません」

 夢子は目を瞬いた。

「保健委員会、ですもんね……」
「そうです。だからせめて、倒れる前に頼ってください」
「ははっ、夢みたいだ」

 夢子はそう言うと夢の世界へと落ちていった。
 ただ、伊作の言葉がもし本当であったならどれほど幸せなんだろうと思いながら。

 翌朝。いつも起きる時間を大幅に過ぎた時間に、夢子はゆっくり目を開けた。

「ち、遅刻だ!」

 頭はまだ重いが、昨日よりはましだ。熱っぽさも引いている気がする。体が鉛のように重いが何とかなるだろう。腕を動かしても気持ち悪くならない。

 いける。

 夢子はそう判断した。

 そっと身体を起こす。少し眩暈とえぐい倦怠感がしたが、倒れるほどではない。これくらいなら問題ない。今日は事務仕事に戻らなければ。昨日はおやすみだったから迷惑をかけずに済んだが、これ以上休んで迷惑をかけるわけにはいかない。
 夢子は静かにベッドを抜け出し、着替えを手に取った。

「……どこへ行くつもりですか」

 低い声に、肩が跳ねた。

 うわ~~~!!!善法寺伊作!!!なんでここにいるの???見てたん???恥ずかしいやろがい!!!

 振り返ると、保健室の隅にいた伊作がこちらを見ていた。どうやら薬研の整理をしていたらしい。

「ぜ、善法寺様。おはようございます。昨日は多大なご迷惑をお掛けてしまい申し訳ございません」
「おはようございます。それで、どこへ?」

 返事はあった。伊作くんはいつもの笑顔だ。だが目が笑っていない。
 ここでトイレって誤魔化すか?いや!伊作くんが誤魔化されるわけがない!!!正直に言おう。そして仕事をする権利をもぎ取るのだ!!!

「事務室へ。私には仕事がありますから」

 言った瞬間。
 伊作の眉間に皺が寄った。

「は?」

 珍しく、間の抜けた声だった。

「熱は昨日より下がっております。ご迷惑をおかけしましたし、本日から復帰を___」

 立ち上がった瞬間、胃が痛み手をついてしまう。
 しまった!!!まだ調子が悪いみたいじゃないか!!!いや調子は悪いんだけどね!!!あ、やばい、気持ち悪い。ベッドに座ろう。

 ベッドに座った夢子に伊作が近づいてくる。

「だからだめだって言ってるでしょう!」

 思ったより強い声だった。

 ひぃ。弱ってるときに怒鳴らないでくれ~~~!!!緊張させないでくれ~~~!!!ただでさえ心因性の体調不良なんだから優しくしてくれ~~~!!!みかんゼリー食べたい~~~!!!

 伊作はそのまま夢子を座らせると、額へ手を当てた。

「まだ熱があります」
「でも微熱ですので」
「微熱でも昨日倒れたんですよ!?」

 ぴしゃりと言い切られる。
 夢子は少し困ったように目を伏せた。

「ですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけには」
「じゃあ倒れたら迷惑じゃないんですか!?」

 保健室が静まり返る。

 うお!!!正論パンチ!!!耳が痛え!!!腹がキリキリする。あっもう働かなくていいかな。伊作くんのせいで悪化しましたって言っておこう。うん。全部伊作くんが悪い。
 いやいやいやだめだろう。ここはノット勤め先。優しい女中仲間もいっぱい居なければ、更に優しくてハイパー仕事が早い女将さんだっていないのだ!
 そしてここは私の一挙一動が疑われる忍たまの世界!!!仕事に穴を開けたら『来て2か月と半分くらいで体調を崩し、仕事に穴をあける天女』としてのレッテルが!!!私の築き上げてきた真面目で勤勉なイメージが崩れてしまう!!!新卒と子持ちとその他にしか許されないだろ!!!あっ!!!昨日勉強してない!!!もう終わりかもしれない……

 夢子は腹の痛みで肩を丸めた。
 それを見た伊作も言った後ではっとした顔をする。

「……すみません。怒鳴るつもりじゃ」
「いえ……私が悪いので」

 夢子は俯いたまま、小さく息を吐いた。

「でも、働かなければ」
「昨日、何も食べられてなかったでしょう」
「薬草茶を少し……」
「それを食べたとは言いません」

 夢子は返事に詰まる。
 言い返せない。確かに食べられなかった。
 でも。

「……皆様、お忙しいですし」
「忙しいからこそです」

 伊作は静かに言った。

「無理して倒れる人が一番困るんです」

 夢子は黙った。
 せ、正論パンチ~~~!!!痛い!!!痛すぎる!!!確かにフォローも必要だし!!!体調不良なんてなんともありませんみたいな顔できないやつが仕事場に居ても困る~~~!!!
 もういいや。休もうかな。吉野先生もといパパは休んでって言ってくれそうだし。小松田さんもなんだかんだ優しいから休んでって言ってくれそうだ。
 社会人としておやすみの連絡だけはしたい。これくらいなら許されるでしょう。
 もういいや。仕事ができないから殺されるようならそんな世界滅んでしまえ。

「わかりました……ですが事務室にお休みの連絡だけさせてください」
「夢乃さん?さっき立ってふらついてた方はどなたですか?僕が行ってきます。だから休んでてください!」

 そう言ってぷりぷり怒りながら外に出ていってしまった。怒鳴られると怖いけどこれはちょっと可愛い。
 仕事を休むなんて何年ぶりだろう。
 夢子はベッドに体を預けて、寝る体制を取った。

 コンコン、と言う音で自分が今まで寝ていたことを知る。
 ガラガラと戸を開ける音とともに入ってきたのはシナ先生だった。

「シナ先生!昨日はご迷惑をおかけしてすみません」
「いいんですよ。昨日は夕餉を持っていったら誰もおらずびっくりしました」
「あっ夕餉!すみません。熱で倒れて善法寺様に運んでいただきました」

 夕餉運んでくれたのに申し訳ね~~~!!!切腹ものだろこれ。でもシナ先生の声が優しくて寝そう……さすがママみが深い……

「頑張るのもいいですが、体を壊しては元も子もありません。私たちは貴女の頑張りを見ています。しっかり休んでくださいね」

 病室に長居してはいけないので、と、そう言って去ってしまった。

 マ、ママ~~~!!!一生ついていきます!!!シナ先生が貴女って言ってくれた!!!これは5億ママポイント入りました。圧倒的優勝です。ありがとうございました。
 ちゃんと叱るところは叱って褒めるところは褒めてくれるママ最高~~~!!!シナ先生って忍たま世界でも随一の優しさだよな。
 シナ先生を裏切らないためにも!!!睡眠をとって、とっとと直そう!!!

 昼頃。保健室の戸が静かに叩かれた。

「失礼します」

 入ってきたのは吉野先生だった。手には湯気の立つ椀を持っている。
 ひい!!!吉野先生に来させてしまった!!!申し訳ない!!!ここは立って謝罪をしないと!!!

「吉野先生!本日はご迷惑を___」
「まずは座ったままで、落ち着いてください」

 先に制される。
 夢子は少ししゅんとしながら布団へ戻った。

「善法寺くんから聞きました。無理をしたそうですね」
「……申し訳ございません」

 吉野は小さく息を吐く。

「天女様。仕事というのは、一人で抱えるものではありません。体調を崩した人間が無理をすると、結局もっと大きな迷惑になります。休むべき時に休むのも仕事のうちです」

 正論パンチ!!!うっ!!!シナ先生の5億ママポイントが無ければ倒れていた……
 迷惑って言われちゃった。いや本当のことなんだけどさ。でも心因性の体調不良なんです……万が一そこから風邪を引いたら迷惑になるだろって?それはそう。

 淡々とした声音だった。叱責というより、教え諭す声。
 夢子は黙って聞いていた。

「事務室の仕事は今日は小松田くんたちと片付けています。あなた一人が抜けた程度で崩れるほど、うちも脆くありません」

 そう言って吉野は椀を差し出す。

「おかゆです。食べられそうならどうぞ」

 優しい湯気が立っていた。美味しそうな卵がゆだった。

「……ありがとうございます」

 夢子が受け取ると、吉野は少しだけ表情を和らげた。

「真面目なのは長所です。ですが、自分を壊すほどになると短所になります」
「……はい」
「返事ができるなら大丈夫ですね。では、私は戻ります」

 言うことだけ言って、吉野はあっさり戸口へ向かう。
 本当に短い見舞いだった。でも去り際、ほんの少しだけ振り返る。

「早く治してください。あなたが居ると事務室が助かるのは事実ですから」

 それだけ言って、吉野は静かに出ていった。

 5億パパポイント入りました~~~!!!全てがこの布石だったとは!!!このリハクの目を持ってしてもry
 でも、嬉しかったな。本当にパパみが深かった。叱ってくれるところも、体調を気遣うところもとっても優しかった。
 ……優しさに慣れたら、もっときつくなるだけなのにな。
 私は今、優しさに触れられるほど強くない。もっと、強くならなくては。
 善意に慣れるな。悪意に飲みこまれるな。
 私は天女なのだから。

 その少し後。勢いよく戸が開いた。

「夢乃さ~~~ん!!!」

 小松田だった。
 夢子はびくりと肩を跳ねさせる。

「こ、小松田様……」
「無理しないでって言ったじゃん!!」

 うるうるした目で詰め寄られる。

 うっ!!!胃が痛い!!!ごめんって!!!うわーーー!!!罪悪感がすごい!!!そんなうるうるした目で見つめないでくれ!!!罪悪感が!!!仕事よりも小松田さん泣かせた方が罪悪感が強い!!!

「す、すみません気が付いたら倒れてまして……」
「そう!それ!昨日急に倒れたって聞いてすっごい心配したんだからね!?」

 小松田は今にも泣きそうだ。
 夢子は罪悪感で完全にしおしおになった。

「本当に申し訳なく……」
「謝ってほしいんじゃないよぉ!」

 ぐす、と鼻を啜る音。
 夢子の胃痛が悪化した。

「今日の仕事ね、吉野先生と僕でやったんだよ。でも夢乃さん居ないとちょっと寂しかったなぁ」

 その言葉に、夢子は目を瞬いた。
 寂しい。そんな風に言われるとは思わなかった。
 そんなこと言われるとちょっと嬉しくなっちゃう!!!10億小松田さんポイント入ります!!!

「でもね!」

 小松田はびしっと指を向ける。

「ぜ~ったい、ちゃんと治ってから来てね!夢乃さん、絶対無理するもん。僕知ってるんだから!」

 その声は叱っているのに、どこまでも心配そうだった。

「だからちゃんと治して。心配だから……ね?」
「……はい。小松田様」

 夢子は小さく微笑み、そう返した。
 これは15億小松田さんポイントだ。そう思った。

 小松田が帰ってしばらくした後。保健室の空気は再び静かになっていた。
 夢子はぼんやり天井を見上げる。
 なんだか今日は、たくさんの人に優しくされている気がする。5億ママポイントと5億パパポイントと15億小松田さんポイントを貰ったからかな。めちゃくちゃ調子がいい。

 ___いや、だめだ。

 甘えるな。私は天女だ。ちゃんとしないと。
 そう思った時だった。

「失礼します」

 静かに戸が開く。
 入ってきたのは新野だった。

「あっ、昨日はありがとうございました。自己紹介が遅れてすみません。私、夢乃と申します」
「いいんですよ。昨日は大変でしたね。私は新野洋一と申します」
「先ほどまで騒がしくしてしまってすみません」

 新野は柔らかく笑う。

「元気な声が聞こえるのは悪いことではありませんから」

 そう言って枕元へ来ると、様子を見るように夢子の顔を覗き込んだ。

「熱は昨日より下がっていますね。顔色も少し良くなっています」
「お騒がせして申し訳ございません……」
「ふふ。本当に謝るのが癖なんですねぇ」

 責める響きはない。むしろ穏やかな声音だった。
 それなのに夢子は、なぜか少しだけ居心地が悪かった。
 なんでだろう……伊作くんを思い出す……なんか自分の中のもの全部見られてる感がえぐい。それか優しい雑渡さんみたい。優しく尋問してきそうな感じ。
 まあ、新野先生に限ってないか。

「他の先生方から聞きました」

 新野は椅子へ腰掛ける。

「ここへ来てから、ずっと頑張り続けていたそうですね」
「いえ、当然です。天女の身でここに置いていただいているので。この学園には感謝しかありません」

 反射のように返す。
 すると新野は、うんうん、と頷いた。

「そうですね。感謝する気持ちは大切です」
「はい」

 うーんもしかして新野先生は反天女派かな?まあ天女のせいで傷ついた人々を見ていると思うしそりゃそうだよね。よし!新野先生にこれ以上ご迷惑をかけないように早く治さなくては!!!

「でも、ここで体調を崩しましたね」

 夢子は瞬きをした。
 なんだ?嫌な予感がする……話の切り込み方が伊作くんそっくりだ。でも伊作くんより逃げ場がない感じがある。ということは怒られるのか……?天女があまり好きではない人に怒られるのちょっと心が痛いな。
 でも新野先生が私情で怒る姿はあまり想像ができない。
 どっちにしろ今!!!今怒られそうになってんだ!!!今を考えないと!!!

「……はい」
「つまり、今のやり方では無理が出るということです」

 あっ!!!正論パンチやめてください!!!事実陳列罪で逮捕しますよ!!!だがここは保健室!!!むしろ逮捕されるのは体調管理を怠った私!!!アウト!!!チェンジで!!!

「人はですね、張りつめ続けると壊れるんです」
「……」

 夢子は言葉に詰まった。自分が自室でもどこでも神経を張り詰めていることに自覚があったからだ。

「夢乃さんは、とても真面目な方です。気を張って、周囲へ迷惑をかけないように頑張っているのでしょう」
「それは、当然のことです」
「ええ。でも“当然”を続けた結果、倒れてしまいました」

 逃げ場のない言葉だった。
 ひい!!!怖い!!!伊作くんみたいに逃げられない!!!ってか夢乃さんって言った!!!???そこまで嫌われてないっぽい?だとしたら……あの肯定は覚えが……

 はっ!一時期悩まされた不眠で行った精神科の先生の感じだ!!!普段はどこでもすぐ寝れるのに寝れなくなっていったやつ!!!生活習慣まるまるだめで超だめだしされたやつ!!!最初はうんうんって聞いてくれたのに後から刀でぶっ刺して来る感じだ!!!思い出したぞ!!!あの時の恐怖が今ここに!!!っていらんわ!!!
 だが思い出したからと言ってこの状況が変わるわけではない!!!
 まあ、つまりだ。私の当然は私の体にとっては当然ではなかった。だからガタが来てしまった。でもどうすればいいと言うのだ。この苦しみは誰にも分かち合っていいものではない。それは被害者の心を殺すことになりかねないからだ。

 夢子は布団を握る。

「最初は少しだけでいいんです。その重荷を下ろしてみませんか?」

 夢子は俯いた。

 重荷。

 そんなふうに考えたこともなかった。
 頑張るのは当たり前で。働くのは当たり前で。気を遣うのは当たり前で。無理をするのも当たり前で。嫌悪されるのも当たり前で。
 そうしなければ、自分はここに居てはいけないと思っていたから。居られないと思ったから。当然の対価だから

「……でも、下ろし方がわかりません」

 気付けば、そんな言葉が零れていた。
 新野は少し目を細める。

「じゃあ、一緒に考えてみましょう。」

 新野は優しく微笑んだ。

「むしろ、壊れるまで抱え込まれるほうが周囲は心配します。伊作くんも、小松田くんも、吉野先生やシナ先生だってとても心配していましたよ」

 夢子は黙り込む。迷惑ではなく、心配。
 その言葉が、まだうまく飲み込めなかった。

「急に全部を変える必要はありません」

 新野は立ち上がる。

「少しずつでいいんです。“気を抜いても大丈夫”を覚えていきましょう。そのための保健室ですから」

 そうして薬草茶を準備し始めた。

 薬草茶を飲んでからかお見舞いのおかげかなんか調子がいい。倦怠感は残るけど、ふらつかないでトイレにも行けるようになったし、足取りもしっかりしてる。流石心因性の体調不良!!!治りの速さが段違いだぜ!!!変に放置するとなる速さも段違いになるんだけどね!!!
 さっき新野先生が見てくださって「夕飯の量で帰れるかどうか考えましょうか」って行ってくださったので、トイレでこっそり腕回してきた。目眩もなし!これで行けるだろう!

 途中保健委員会のみんなが様子を見に来てくれた。左近くんや数馬くんはちょっと距離があったけど心配してくれた。う~んみんないい子。

 そして何故かさっきから伊作くんがいる。私が心配でまだ居るそうだ。
 いや~~~なんというかお医者さん包囲網って感じがして私はとっても苦手なんだが。
 伊作くんに授業の予習とかあるでしょ?帰りな?って丁寧に言ったら「夢乃さんが目を離した隙に悪化するからです!」って言われちゃった。ぴえん。

「失礼します夕餉をお持ちしました」
「お手数をお掛けしてすみません。ありがとうございます」
「いいんですよ。では、失礼します」

 シナ先生だ~~~!!!今日のご飯は肉じゃが!!!とっても美味しそう!!!胃に優しい!!!ありがとう給食のおばちゃん!!!

「夢乃さん……少なすぎませんか……?」

 伊作くんが言う。
 君らの若い子たちの胃袋とは違うのだよ!!!年齢が違うのだよ年齢が!!!君らの思春期真っ盛りの胃袋そんなに言うなら分けてもらうぞ!!!私だって焼肉食べ放題で驚かれるほど食ってみたかったわ!!!これでも最近は掃除仕事でちょっとだけ胃袋が大きくなったんだよ!!!悪かったな小食で!!!

「いえ、私は胃袋が小さいのでこれくらいでないと食べきれないんです」
「に、新野先生」
「そうですね。女性の平均よりは少ないですが平均の範囲内だと思いますよ」
「ありがとうございます」
「そ、そんな……」

 そんな驚かんでもらえるか。普通やって!!!新野先生が普通って仰ったならこれが免罪符じゃ!!!どうだ善法寺伊作!!!参ったか!!!

「でももう少し食べましょうね。1か月後くらいに量を増やしましょう」

 うっ!!!返して私の免罪符!!!返してくれ新野先生!!!新野先生は私の味方だと!!!思って……ないな。いつでも病気の敵!!!健康の味方!!!私の味方ではないね!!!

「が、頑張りますね」

 新野先生から目を逸らしつつご飯に向かう。うん!いい香り!

「いただきます」

 そうして食べた食事はあっという間だった。

「ごちそうさまでした」
「ちゃんと食べられたようでよかったです」
「これで今日は自室に帰れそうですかね」
「食後30分だけ様子を見て大丈夫そうならにしましょうか」

 やった~~~!!!あばよ保健室!!!そしてありがとう伊作くん!!!そして新野先生!!!私は閉塞的な保健室から旅立ちます!!!
 そして待ってろ仕事!!!調子全快は難しいがある程度こなすならもう全然楽勝よ!!!でもできれば最初は書類整理がいいな!!!

 食後30分。夢子は保健室のベッドで静かに仕事の復帰やガチ天女ムーブについて考えていた。
 そろそろだろうか。気持ち悪さもない。眩暈もしない。倦怠感は置いておいて、腹痛も落ち着いている。
 これは完全勝利と言っても過言ではないのでは?

 夢子はそっと立ち上がる。
 よし。ふらつかない。

「新野先生。大丈夫そうです」

 その声に、新野が振り返った。
 隣では伊作がものすごく疑わしいものを見る目をしている。

「本当に?」
「はい。目眩も吐き気もありません」
「夢乃さん、“ありません”って言う時大体無理してますよね」
「偏見です」

 そうだそうだ!!!偏見だぞ!!!私だって嘘付かずに申告することぐらいあるわい!!!

 だが伊作は全く信じていない顔だった。
 新野はそんな二人を見ながら、穏やかに口を開く。

「では少し歩いてみましょうか」

 夢子は素直に頷き、保健室の中を端から端まで歩く。足取りは昨日よりずっとしっかりしていた。
 新野はその様子を見て、小さく頷く。

「……大丈夫そうですね。今夜は自室へ戻っても問題ないでしょう」
「ありがとうございます……!」

 やった~~~!!!帰宅許可!!!保健室脱出成功!!!
 勝った!!!私は勝ったぞ善法寺伊作!!!今度こそあばよ!!!保健室!!!

「ただし」

 新野がにこやかに続けた。

「今夜は勉強は控えるように。何かあればすぐ保健室へ来てください」
「かしこまりました」

 か、勝てね~~~!!!これが大人の余裕ってやつ???いや、医者の性だろう。何気に勉強しようとしていたことがバレてる。伊作くんといい、医者って読心術でも持ってないといけない感じ???

 新野は頷いて、戸口の方を見る。

「では伊作くん。部屋まで送ってあげてください」
「はい!」
「えっ」

 夢子は思わず顔を上げた。
 そんな介護みたいな!!!まだ20代なんです!!!健康体なんですよ!!!???

「い、いえ!そこまでしていただかなくても!」
「途中で倒れたら困りますからねぇ」
「でも___」
「送ります」
「はい……」

 伊作が完全に逃がさない目をしていた。
 だめだ。これは勝てない。潔く負けよう。

「では新野様、看病いただきありがとうございました。お手数をおかけしました」
「いいんですよ。私が言った件、少しずつでいいので考えてみてください」

 保健室に出る前に丁寧に礼をする。新野先生はにこやかに微笑んでいた。
 荷を下ろす……か。

 保健室を出る頃には、外はすっかり夜だった。これじゃ勉強できないな。
 廊下を歩きながら、夢子は小さく息を吐く。

「……なんだか、たくさんご迷惑をお掛けしました」
「……夢乃さん、あなたを気にかけてくれる人はたくさんいました。でも、それは迷惑だからじゃないんです。心配だからなんですよ」

 夢子は少しだけ目を伏せる。
 まだ、その違いはよくわからない。この世界の迷惑と心配の境界線なんて、今まで考えたこともなかった。どちらも天女という言葉がノイズになってよくわからなかった。

 部屋の前へ着くと、伊作は足を止めた。

「今日はちゃんと休んでくださいね」
「もちろんです。新野様にも念押しされていますしね」
「本当に守ってくださいね……?では失礼します。お大事になさってくださいね」

 伊作は笑顔で微笑む。その笑顔を見て、夢子は少しだけ目を丸くした。
 こんなふうに誰かに見送られるの、いつぶりだろう。笑顔で、お大事にって。言われたのなんて久しぶりで。
 なんだか、そのなんでもない言葉が胸に沁みた。

「……ありがとうございました。善法寺様」

 夢子は静かに頭を下げた。

 部屋に入りすぐ布団を敷き、横になった。最近寝つきが悪かったが今日はちゃんと寝れる気がする。
 夢子はそのまま目を閉じた。

— End —

Comments 24

龍龍8 天前
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すてら27 天前
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未空27 天前
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ソア28 天前

初めましてです!新作嬉しい!次回も楽しみです!!

紫音29 天前
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ぐみを29 天前

新作、喜びの舞🐶💃🕺🪩✨♬ヤッター‼15億小松田ポイントに笑いました🥹こまちだ…いいやつだね君は。伊作君の過保護も分かります…夢主気づいたら倒れてます…今回がそうであったように😭無理しないで…!シナ先生にママみ、新野先生吉野先生にパパみを感じるのは自然の摂理✨

都咲29 天前
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水無月1 个月前
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S
sound1 个月前
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C
crux-c1 个月前
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てぃー1 个月前
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まめ1 个月前
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Sakuria
Where every work blooms
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