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『『『彩葉!誕生日おめでとう』』』

翡翠石翡翠石

超ネタバレ注意です。 彩葉さんのお誕生日のお話です。

「ねえ芦花、彩葉との思い出話して♪」
「おねが〜い♪」

彩葉は研究所で何かあったらしく泊まり、彩葉居ないとつまんない!とかぐやもヤチヨも私の布団に潜り込んできて昔話をせがんで来る、そんな状況だった。

「思い出話って言われてもなぁ」

「ヤッチョもかぐやも知らない彩葉のお話でお願いします」
「そうなると学校でのお話だよね、学校はかぐや一回しか行けなかったし」

「あぁ、彩葉の制服強奪して紛れ込んだ時の」

『彩葉は本物の生徒だし!私服でも大丈夫だよね!』
そんなことを言われて制服を奪われ、休日に学校に行かされた彩葉の微妙な表情を思い出す。

「ん……五月だし、あの話かな」

思い出すのはかぐやが来るちょっと前のエピソード。

―――

「あ、私今日誕生日か」

進学校なので土曜日だろうと学校がある、そんな世知辛い事情によって登校した土曜日。
授業も終わり、スマホで何かしていた彩葉の何気ない一言。
最初は世にも珍しい彩葉の不器用なアピールかとも思ったが、どことなく気の抜けた表情と喋り方から、本当に忘れていて不意に思い出し、口をついて出てしまっただけだと気付く。

「「え!?」」

そこまで理解して真実と声を揃えて驚く。

そんな驚く!?と驚く彩葉に驚いた。
というか私も真実も内心では、自分の誕生日なんて普通忘れんだろうとちょっと引いていて。

「てか今日!?」
「もっと早く言ってよ~……せめて朝〜」

「いや本当に忘れてて……SNSのマイページで風船飛んだから思い出しただけだし……」

「なんも用意できないじゃ~ん……」

お祝い事、というかそういうので騒ぐのが好きな真実が口をとがらせながら不満をこぼしている。

「いやいやいいってそんな……誕生日なんてもう十年ぐらいお祝いしてないし」

彩葉がさも当然のように言い放った一言は、今日十七歳になったばかりの少女の口から出るにはあまりにも異質で。
仮に自分が忘れていようが、両親が、祖父母が祝ってくれるという常識を持っていた私と真実は凍り付いてしまう。

時折顔を出す彩葉の異様さ、その根底にあるのは家庭環境、そこまでは私たちもこの一年間の付き合いでなんとなくわかっている。
だが彩葉は、どれだけ親しくなっても家のことを話してくれない、わかっているのはお母さんとなんらかの確執があるらしいことだけ。
そんな中で彩葉が漏らした家庭環境の欠片は、私たちの理解を超えていた。

彩葉が親元を離れて二年目だ、十五歳までは祝う機会はあったはずなのにこんな言葉が出てくる。
彩葉は、去年の真実の誕生日を自然に祝っていた、誕生日を祝う文化がないご家庭だったわけでもない。
それが意味するところは、ある時を境に祝われなくなってしまった、ということで。

真実もそれに気づいてしまったのか、絶句していて、真実の立ち位置が彩葉の後ろだったのが唯一の救い。
彩葉の正面に立つ私は必死に平静を保つ、信じられないとでも言いたげな表情を見せてしまえば、彼女は私たちから離れていってしまう。
その確信にも近い直感に従い、いつも通りの表情を張りつけた。

「……なにそれ十年って、じゃあ私たちで盛大にお祝いしてあげようか?」
「そうそう!ホールのケーキ買ってどーんとお祝いしよ!」

「いやいやいや悪いよ!?」

両手を前に突き出してわたわたしながら遠慮する彩葉はいつも通りで、多分私の表情は普通に見えているんだろう、よかった。

「そう言われても去年私の誕生日だけお祝いしてもらったし悪いよ……あれ?」
「そういえば芦花の誕生日もお祝いしてなくない?いつだっけ?」

「え、四月五日だけど」

そういえば、去年誕生日を迎えた時には二人と知り合ってなかったし。
今年は春休み期間中だったので言い出すタイミングがなかったのだ。

「「過ぎてるじゃん!?」」

彩葉と真実が口をそろえて突っ込んでくる、ごめんて。

真実の目が光った気がする、騒ぐ大義名分と、遠慮がちな彩葉を押し切る錦の御旗を見つけたと気づいたのだろう。

「彩葉!今日バイトは!」

「えっと……ごめんこの後夜まで入ってる……」

彩葉もそれを察したのかマジかみたいな顔をしていて。
それはそれとして誕生日にまでバイト入れるのはどうなんですかと心の中でツッコミを入れる。

「じゃあ今日は難しいし明日!芦花と彩葉の誕生日会やろう!」

正直一か月も前のことを改めてお祝いされるのはむず痒い、だがここでそれを言い出せば彩葉も遠慮してしまうのは目に見えている。

「え~?いいの?ありがと真実!」

だから全力でノることにした、羞恥心とか諸々は投げ捨てるためにあるのだ。

「ホールケーキ二つ買ってきて両方ろうそく十七本立てちゃおう!」

「「それはちょっと」」

「なんでぇ!?」

真実さん、それはちょっと乙女的にNGです。
……いや、普段食べなさすぎる彩葉にならホール一個丸々食べさせてもいいのか?
というか今までの誕生日の分も食べさせるべきでは?

「じゃあ彩葉にホール一個で私と真実でもう一個を半分こしよっか」

「芦花!?」

「流石芦花!話がわかる!」

正直ホール半分でもアウトな気がする、しばらくは登校時に二駅歩こう、そう心に誓いながら、今日のところはとりあえず解散となるのであった。

―――

「はっぴばーすでーいろろかー!はっぴばーすでーとぅーゆー」

真実の歌い終わりに合わせて、彩葉と二人で目の前の二つのホールケーキに立てられたろうそくを吹き消す。

「てかそこ略すんかい」

「芦花版と彩葉版で二回歌ってたらろうそく垂れそうだし……」

「流石にそれぐらいの時間は大丈夫……なのかな?ろうそくまで立てるの数年ぶりだしわかんないや」

「これ私本当にホール一個丸々いくの……?」

彩葉の前には小ぶりとはいえホールケーキが丸々一つ、因みに私たちは既に真実の用意したかなり豪勢な夕飯を頂いている。

「十年お祝いしていないということは……!十年分ケーキを食べ損ねたということ……!私の前でそんなこと言ったらもう見逃せないよ……!」

彩葉に遠慮させない口実なのか、食べるのが大好きな真実としての本音なのか、おそらく両方が含まれたロジックを力説する真実と。

「それに彩葉~?最近また体重減ったでしょ?今日ぐらいはちきれるぐらい食べときなって」

最近また食事の量が減ったように見える彩葉を見逃せない私によって、彩葉の退路は塞がれていく。

「うぇ!?なんで体重のこと……」

「こんだけ一緒に居たらなんとくわかるって、美容系インフルエンサーとして顔色とか気になっちゃうしね」
「あ、真実の体重の増減も分かってるよ」

「嘘ぉ!?芦花こわ!?」
「美容系インフルエンサーってそんな技能あるの……こわぁ……」

嘘だよ、彩葉があまりに分かりやすいのとずっと見ているからわかるだけ。

「ま、まあ芦花の謎技能は聞かなかったことにしよ、とにかく彩葉は食べられるだけ食べちゃって、残った分は持ち帰れるようにするから」

「……わかった」

真実の持ち帰れるという言葉で彩葉の退路は完全に塞がった、彩葉は諦めと嬉しさの混じった苦笑を浮かべながらナイフを……。

「あ!彩葉ちょっと待って!」

「え!?なになに?」

「記念写真撮ってなかった!ナイフ入れちゃう前でよかった~」

「そういうのってろうそくに火灯ってる状態でするもんじゃない?」

「……細かいことは気にせず~」

忘れてたな完全に、まあ私も忘れてたし。

「ほら彩葉も芦花も寄って寄って!」

ケーキの奥側に私と彩葉が寄り添って並びポーズをとる、カメラマンの真実によって、ぎこちない笑顔とピースの彩葉と、私の一瞬が切り取られる。

「彩葉がちょっと撮られ慣れてない感出てるけどいい感じ~」

「……半目になってたりしない?」

「ん?大丈夫だよ~?ご飯美味しそうに撮るために写真それなりに上手いんだよ私!」
「ほらお二人さんもう一枚!私もいーれて!」

そう言われ、タイマーでも使うのかと思って見ていると、真実はまさかのセルフィーで撮ろうとしていて、慌てて二人してポーズを取り直す。

「よし!いい感じ!」

満足気な真実の様子を見る限り、今回も彩葉は半目で写ることを逃れたようで。

「じゃあ芦花、プレゼント渡しちゃおうよ」
「そうだね、というわけで彩葉、これ、お誕生日おめでとう」
「私からも~おめでと~」

そう言って私と真実はカバンからプレゼントを取り出して彩葉に渡す。
私からは彩葉に似合いそうだなと思った化粧品のセット、真実のは私と一緒に選んだ洋服だ。

「え!?プレゼントはなしって……」

彩葉の金欠はわかっているので事前にそう説明していた、だが金欠を理由にすれば彩葉が傷ついてしまう。

「我々は既にもらってしまっているのですよ……」
「その通り、だからこそ彩葉に秘密で我々だけで用意したのです……」

「そんなの渡したっけ……?」

「「彩葉ノート」」

「あれは都度お返し貰ってるし……」

「それがですね、あれのおかげで我々の勉強時間は圧縮されておりまして」
「その分インフルエンサーとして活動できるからその分……ね?ちょっとしたパンケーキとかだと還元が足りないかなぁって」
「そういうわけだから受け取ってよ、ね?」

「……ありがと、二人とも」

そこまで説明してようやく彩葉は受け取ってくれた、実はそんなに儲かってないがそこは内緒だ。

「じゃあ彩葉も受け取ってくれたことだし」
「倒しますか、これ(ホールケーキ)」

「倒すってやっぱ半分の二人でもきついんじゃん……」

「そりゃあねえ……でもこういうおバカなことが許されるのも誕生日だし?」

「真実誕生日って言えばなんでも許されると思ってるでしょ……」

バレた?と笑って誤魔化す真実を呆れたような目で見た彩葉は、諦めてナイフをケーキに入れる。
本日の主役が先陣を切ったので私も真実もそれに続いた。
真実チョイスのホールケーキは、シンプルな見た目なのに頬が落ちるほど美味しく、流石真実と感心しているうちにあっという間になくなってしまう。
やっぱり食に関しては真実に一任するのが一番だなぁと再確認しつつ彩葉の方を見ると……。

「嘘やん……全部食べてもうた……」

あれだけ無理と言っていたのに、食べきれてしまった彩葉は恥ずかしそうに両手で顔を覆っている、珍しい方言彩葉だ。

彩葉、楽しんでるじゃん?と真実と顔を見合わせ、こっそりとピースでお互いの健闘を称える。
十年分のお祝いにはとても届かないだろうが、少しでも彩葉にとっての何かを取り返せていればいいなと思いながら。

―――

「食べ過ぎた、どう考えても食べ過ぎた」

会場として提供されていた真実の家からの帰り道、駅に向かう私の隣で、彩葉はお腹を摩りながらボヤいていた。

「明日は早めに家出て二駅ぐらい歩こうかなぁ」

「私もそれやろ……一緒に歩く?」

「……いいね、七時に〇〇駅集合ね」

棚から牡丹餅的な幸運が転がってきたことを喜びつつ歩みを進める。
駅まであと少しといったところで彩葉が立ち止まった。

「彩葉?」

「……芦花、誕生日をお祝いしてもらえるってこんなに嬉しいんだね」

暗がりのせいで彩葉の表情はよく見えない、純粋に楽しんでもらえたのか、それとも家族への思いが浮かんでいるのか、ここからではわからない。

「……でしょ?来年も再来年も、ずーっと私たちがお祝いしたげるからさ」

私が、と言いかけて、私たちに修正する、危なっ……。

「……ありがと!来年は芦花の誕生日もちゃんと当日にお祝いするからね」

そう言いながら歩みを進め、電灯に照らされた彩葉の表情は明るくて、少しだけ安心する。
そのまま私の横まで歩いてきた彩葉は、私のカバンに何かをねじ込んで。

「うわ!?ちょ、彩葉!?」

「芦花も誕生日おめでと!まあ安物なんですがプレゼント!」

「もぉ……大丈夫って言ったのに」

「考えることは一緒だったね」
「帰ろ、芦花」

そう言って手を引かれた先は、ちょっとだけ駅まで遠回りの道、そんな不思議な選択に異を唱えることはせずに、少しだけ伸びた二人だけの時間を享受する。
こうして彩葉の一日遅れの、私の一か月遅れの誕生日は幕を閉じた。

―――

「―――ってことがあってね~彩葉の闇を感じて当時はビビったよ」

「芦花さぁ……」
「彩葉ばっか言われるけど芦花も割と問題あるよね」

「え!?なにが!?」

「いや最後の彩葉の行動、あそこでがっといけば絶対彩葉落とせたって」
「かぐやその時居なかったんでしょ?」

「……だって怖いじゃん?」

「彩葉がああなったのって芦花が原因じゃない?」
「相互干渉で難易度上げていくのか……」
「まあおかげで現状があるんだけどさ……」

かぐやとヤチヨからのジト―とした視線が痛い、なんとか話題を逸らさなければ。

「そ、それにしても彩葉らしいよね、五月十日に泊まり込みの仕事で誕生日を職場で迎えるって」

『誤魔化した』『逃げた』という声は聞かなかったことにする。

「……まあそろそろ時間だし準備しよっか」
「芦花の恋愛チキンっぷりは今度追及しよっか、かぐや」

勘弁してほしいと思いつつ、時計を確認する。
昔話をしている間に、時計の針は日付の変更を告げようとしていた。

「所員さんから彩葉は所長室で一人だって連絡来たよ」

「じゃあ行きますか」

ヤチヨはアバターボディを抜け出してツクヨミへ、私とかぐやはスマコンを取り付けてツクヨミへ移動する。
ヤチヨが普段やっている彩葉のタブレットでの連絡、あれを使って最速で祝福を伝えに行くために。

―――

昼頃に起きた問題はどうにか片付いた、今は事後処理を行っている所員のみんなからの報告を待っている段階で。
コーヒーでも淹れてくるか、と席を立とうとしたとき、ふと時計が目について座りなおす。

やがて日付が変わった瞬間に、職場に設置されたタブレットが勝手に動き出す。
一瞬驚いたけど、なんとなく、私の愛する人たちならそうしてくれるという予感はあって。
予感してたなんて言うと、『あの彩葉が自分の誕生日を覚えてる!?』って言われちゃいそうだけど。
芦花と真実が祝ってくれたあの日から、私の誕生日は毎年誰かにちゃんと覚えてもらっていたの、だから私も忘れられなくなっちゃった。

画面に映し出された三人が声を揃えて祝福する。

『『『彩葉!お誕生日おめでとう!』』』

— End —

Comments 5

窪浪潤26 天前
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wtlkn1 个月前

あふたーが甘すぎてヤバイ 芦花さぁ…

放課後延長戦1 个月前
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ちょこツ1 个月前
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Sakuria
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