SIDE:ローゼマイン(本郷麗)
神官長室に向かうわたしはもう開き直っていた。
以前読んだ本好きの下剋上の小説の内容をできる限り思い出した結果、あの本の通りになるなら、この先のわたしの人生は決して楽しいものでも楽なものでもないと確信したからだ。
__フェルディナンド様と結婚できた後は幸せになれるかもしれんけど、それまでの道のりが悲惨すぎるんよね…。あんな人生死んでもごめんやし、10年近くも耐えられる気がせんのよなぁ。
正直お貴族様というもの自体が性に合いそうにない。生まれてから外交官の父の都合で海外を転々として、関西人の暑苦しい両親に育てられたのがわたしだ。「自分の意見ははっきり言わなければいけない」と言われて育ったわたしに、奥歯にものが挟まったようなお貴族様の婉曲表現が飛び交う世界で生きていけるのか不安でしかない。苦しいこと、辛いことの連続で、これからあの本に書かれていた人生を送るのかと思うとゾッとする。
どうせ一度死んでるんだし、あの未来を変えられないなら、フェルディナンド様に処分された方がマシというのが一晩悩んでわたしが出した結論だ。
【マインの記憶と小説の内容を思い出しながら麗が書き殴ったメモ】
ジルヴェスター様の養女……既に血判を押してしまっている。どうせ領主候補生になるならフェルディナンド様の養女の方が良かった
流行……現時点でジルヴェスター様、フェルディナンド様に把握されているのはリンシャン、髪飾り、製紙業、印刷業(金属活字は納品済み、色インク完成、ロウ原紙は未完成)、書字板、カルタ、トランプ、聖典絵本、カトルカール、クッキー、イタリアンレストラン準備中(ジルヴェスター様招待予定)
毒を盛られて2年眠る……回避一択!
ディッター……売られた喧嘩は買う!
ヴィルフリートと婚約……あんなワガママ坊主の子守りは無理!
アレーンドナドナ……フェルディナンド様はエーレンフェスト(私の傍)に必要!早めに手持ちの仕事を減らすには?
王族に脅されてグル典取得……逆に脅す?グル典は読んでみたいからコッソリ取得?
ディートリンデ……関わらない一択!
ゲオルギーネ……本当に悪い人?
アレクサンドリア……海と遊び場はほしい
SIDE:フェルディナンド
「わたくしは本須麗乃ではありません」
隠し部屋に入ってくるなりローゼマインはとんでもない話を始めた。
「どういうことだ?詳らかにせよ」
「フェルディナンド様は先日、わたしの、いえ本須麗乃の記憶をご覧になりましたよね?」
「ああ」
「わたくしは、マインと本須麗乃の記憶を持つ別人ということです。恐らく、家族との繋がりが絶たれて絶望したマインが熱に殺され、麗乃と同じ世界で死亡したわたくしの魂が死んだマインの身体に宿ったと考えております。5歳の頃マインの身体に麗乃の魂が宿ったのと同様の現象でしょう」
「意味がわからぬ」
「わたくしにも意味が分かりませんが、これが事実なんです」
「なぜ私に話した?」
「今までの関係性から、ジルヴェスター様やカルステッド様になら隠し通すことはできても、フェルディナンド様にはわたくしが元のマインではないと気付かれると思ったからです」
「……」
「説明が難しいため、もう一度記憶を見ていただいても構いませんよ。それともわたくしを処分されますか?」
「なぜそんなことを?」
「だって、わたくしがエーレンフェストに害があると考えられたら処分されるおつもりだったでしょう?」
「……」
「さらに不思議なことに、わたくしはこの世界、ローゼマインが14歳になるまでの人生のことを前世の小説で読んだことがあるんです。小説の世界に転生したといいますか…。ですので、フェルディナンド様が今考えていらっしゃることも予想がつきますし、フェルディナンド様の過去も未来も存じております。そして未来で起こることを知っているからこそ、小説に書かれていた通りの人生を送るくらいなら今殺された方がマシと考えたまでです。マインの記憶と小説の知識からフェルディナンド様なら信用できると考えておりますが、そのくらいの覚悟を持って今お話しております」
「……君の言いたいことは理解した。もう一度記憶を確認させてほしい」





















