Novel4 months ago · 1.4w chars · 1 pages

そうだ、お金持ちの友達の誕生日に私をプレゼントしよう。

ちはちは

可愛い女の子が好きな藤沢紗綾は、クラスメイトである綾小路織江に心酔している。理由はとても単純で、織江が今まで見てきた女の子の中で一番可愛いからである。可愛い、頭も良い、性格も良い、家も裕福。足が悪いという先天的な物を除けば、何一つ欠点が無い女の子の隣を勝ち取った紗綾だったが、彼女は大きな壁にぶち当たる。  それは織江の誕生日プレゼントを何にするかという大きな悩みだ。お金持ちである織江はほとんどの物を手に入れることができる。一体何をプレゼントすれば織江は喜んでくれるのか、必死に頭を悩ませ、紗綾がたどり着いた答えは「自分自身をプレゼントする」という答えだった。  きっと喜んでくれる、そう思っていた紗綾だったが、突然織江の雰囲気が激変し────。

私のクラスには超が何個もつくほどの美少女がいる。

 綾小路織江ちゃん。大和撫子とは彼女のために作られた言葉。

 そう言っても差し支えない程、織江ちゃんは清楚で、綺麗で、可愛い。

 紫がかった艶やかなストレートの長髪。あどけなさと大人びた雰囲気を掛け合わせた顔立ち。丁寧な言葉遣いや気遣い。儚く、それでいて堂々とした立ち居振舞い。

 完全に完成された超絶美少女。私の語彙力ではどう頑張っても表現しきれない程、織江ちゃんは可愛い。

「おはようございます紗綾。今日もお出迎えありがとうございます」

 杖で身体を支えながら、リムジンから姿を現す織江ちゃん。

 今となっては見慣れた光景だが、やはり緊張感が身体に走る。ここで何か粗相をしたら大変な事になりそうでとても怖い。

「おはよう織江ちゃん!今日も可愛いね!」
「ふふ、ありがとうございます紗綾。紗綾も可愛いですよ」

 にこりと笑みを浮かべる織江ちゃん。あまりの可愛さに私の頬がだらしなく緩む。

「え~?織江ちゃんの方が何万倍も可愛いよ~。あ、荷物持つね!」
「いつも助かります紗綾」
「えへへ、私に任せてよ!」

 私は織江ちゃんからカバンを受け取り、胸を張る。私は織江ちゃんのパシリであり、騎士であり、左手なのだ。何故右手じゃないかというと、右手は流石におこがましいかなと思ったからだ。

「それではいってきます」
「いってらっしゃいませ織江お嬢様」

 ぴしっとスーツに身を包んだ女性が、織江ちゃんに恭しく頭を下げる。

 私は彼女にぺこりと一礼してから校舎へと向かう。

 織江ちゃんは可愛い。頭も良くて、性格も良くて、しかも家もお金持ち!詳しくは知らないけれど、毎日リムジンで登校しているところから、大体は察しがつくだろう。

 お嬢様で、可憐で、お勉強も出来る。

 もはや弱点が無いのでは?

 そう思ってしまう程非の打ち所がない女の子だが、織江ちゃんには一つだけ欠点がある。

 織江ちゃんは生まれながらにして足が悪いのだ。

 私の隣を歩く織江ちゃんは杖が無ければ、今の様に歩くことが出来ない。運動はもちろんのこと、他の人が歩く速度の半分の速さでしか歩くことが出来ないのだ。

 もし私が神様だったらこんな設計ミスはしないのに……おのれ神様めっ!

 可愛い子には旅をさせよとか言うけど、私は可愛いなら絶対に旅させずに可愛がるべきだと思うんだよ!

「紗綾。難しい表情をしていますが……どうかしたのですか?」

 織江ちゃんが不思議そうにこちらの顔を覗き込んでくる。可愛いっ!

「えっと……織江ちゃんの可愛さについてちょっと考えてたというかなんというか……」
「ふふ、紗綾は本当に可愛い女の子が好きなのですね」
「この世に可愛い女の子が嫌いな人なんていないんだよ織江ちゃん?特に織江ちゃんは私が今まで見てきたこの中でもトップレベルの美少女……どうしてこんなに可愛い子が私の隣を歩いているのか不思議でしょうがないよ……」

 話しているうちにだんだんと冷静になって来た私は、今の自分の境遇に大きな疑問を抱く。

「あれ?もしかしなくても私みたいな一般ピーポーが織江ちゃんみたいな可愛くて、清楚なお嬢様と一緒に居たら良くないのでは?織江ちゃんは優しいから言わないだけで、私と居るのはつまらないと感じている可能性だって──んっ」

 ぶつぶつと独り言を呟いていると、私の唇に織江ちゃんの人差し指が当てられる。

 柔らかっ……というか白っ!あと細っ!

 簡単に折れてしまいそうなほど、華奢な織江ちゃんの指と手に、私の視線が吸い寄せられる。

「紗綾。私はあなただから一緒にいるのです。あなただから隣に居て欲しいと思うのです。だからそれ以上自分の事を卑下するのはやめてください」
「織江ちゃん……ごめんなさい」
「分かれば良いのです」

 ふわりと笑った織江ちゃんの笑顔に見惚れる。

「……かわいい」

 私の口から自然と言葉が零れ出る。

「ふふ……紗綾も可愛いですよ」

 そう言って笑う織江ちゃんに、私はまた見惚れてしまうのだった。

 私は藤沢紗綾。どこにでもいる平凡な女子高校生。勉強運動趣味嗜好、その全てが平凡でありきたり。量産型女子高校生という言葉が良く似合う女の子。

 身長156cm。胸もお腹もお尻もちょこっとだけ出ている、魅力もエロスも何も感じない身体、そして街でよく見かけるミディアムカットされた黒髪。

 紗綾を探せを出版したら、間違いなくサイ〇リヤの間違い探し並みの難しさを誇るだろう。

 強いて他の子と違う所を挙げるとすれば、可愛い女の子が好きなのと、細かい事は基本的に気にしない性格であるところくらいだ。

 それに比べて────。

 黒板に何かをかき込む先生の目を盗み、私はちらりと視線を横にスライドさせる。

 ……横顔尊いいいいいいい!!

 私の推しである織江ちゃんの横顔を見た私は、頭を思いきり机にぶつける。

「藤沢、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ!ちょっと頭を整理したかっただけですっ!」
「そ、そうか……」

 授業中に「ガンッ」という音を立てたらそりゃあ注目される。

 周りからの視線に私は気まずさと恥ずかしさを噛み殺しながら、そっと織江ちゃんの方を見る。

 織江ちゃんは口元に手を寄せ、くすくすと笑っていた。

 お、推しが私を見て笑っている……!う、嬉しい!でも流石に恥ずかしいっ!

 私は赤くなっているであろう顔を見られない様、教科書を持ち上げる。

 織江ちゃんは特別な女の子だ。

 モデルの様な身長にスラリとした身体。私が織江ちゃんに勝っている所と言えばお腹の大きさと、辛うじて胸の大きさだろう。あ、お尻も私の方が大きいかも……あ、あんまり嬉しくないなぁ。

 頭脳明晰で、周りからも慕われていて、お金もあって、可愛くて綺麗で……ハンディキャップさえなければ、きっと運動神経も良かったはず。 

 そんな特別な女の子の隣に私はどういう訳か鎮座している。

 普通であれば、織江ちゃんの隣は1軍女子の陽キャか、織江ちゃんみたいに可愛い女の子が居座る場所だ。

 しかぁし!織江ちゃんの隣にご注目ください!

 そこに居座っているのは1軍女子でも、美少女でも、傘をさしているト〇ロでもない。

 そう、それは紛れもなく奴(紗綾)さ~!

 織江ちゃんの隣を独占しているのはなんとこの私、藤沢紗綾なのである。ちなみに高校生になって半年が経つが、一度もこの座を譲ったことはありません。いえい。

 織江ちゃんに特別扱いされるという、私史上最も偉大な出来事。他人に誇れるものが少ない中で唯一誇れる事。

 しかし、そんな偉人である私には今、最大の悩みが訪れていた。

「織江ちゃんの誕生日……何あげたら良いんだろう……」

 学校から帰宅し、ベッドで横になりながらぽつりと呟く。

 最大の悩み、それは織江ちゃんの誕生日プレゼントである。

 再三になってしまうが、織江ちゃんはお嬢様だ。毎日リムジンで登下校をしているし、織江ちゃんは今タワマンに住んでいるし、お昼ご飯もめちゃくちゃ高価なものを食べている。

 あ、一応説明しておくが、織江ちゃんは別に金持ち自慢をしているわけではない。例えば織江ちゃんもたまに学食の日がある。

 がしかし、本人曰く毎日学食でご飯を食べるのは健康上良くないから、という理由で栄養管理がしっかり為された、重箱のお弁当を持たされているらしい。

 これを聞いた時の私は「流石にお嬢様なんだね……」と呟き、織江ちゃんに「ちゃんとお嬢様ですよ?」と返されたことがある。流石にあの時は失礼過ぎたかもしれないと思いました。紗綾、反省の極みでございます。

 閑話休題。この世のありとあらゆるものを手に入れられそうな財力を持っている織江ちゃん。そんな彼女に、私は一体何をプレゼントすればよいのか分からないのだ。

 化粧品とかが無難かなぁと思ったが、きっと織江ちゃんはブランド物の化粧品を使っているだろう。
 ではアクセサリーはどうかと思ったが、これも私では想像も出来ない程高価なものを身に着けているに違いない。

 消え物も、食べ物も頭に思いついた何もかもが、「でも織江ちゃんはお嬢様だし……」の一言で片付いてしまう。

 手作りのお菓子も一瞬だけ考えたが、日頃から健康を意識している織江ちゃんの健康を、私自ら壊すというのは憚られたため、この案は没になった。

 しかし、この手作りお菓子というアイデアは、この悩みを解決するための一筋の光だった。怪我の功名、棚からぼたもち、竹の中からかぐや姫……最後のはちょっと違うか?

「くふふ……よしっ、これならいけるぞっ!!」

 それから数日が経ち、織江ちゃんの誕生日がやって来た。

「おはよう織江ちゃん。。今日も可愛いね!そして誕生日おめでとうっ!!生まれてきてくれてありがとう!!」

 誕生日当日。今日も今日とてリムジンで登校してきた織江ちゃんを笑顔で迎える。私の笑顔を見て、織江ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。可愛すぎる。

「おはようございます紗綾。それとありがとうございます。とても嬉しいです」

 それから執事さんといつものやり取りをして、私と織江ちゃんは校舎へと向かう。

「本日の主役……まぁ織江ちゃんはいつも主役なんだけど、いつもよりも主役な織江ちゃんには特別なプレゼントを用意してるんだ!」
「まぁ、本当ですか?それは楽しみです」

 自信満々に告げる私を見て、織江ちゃんはくすりと笑う。

「紗綾。本日の放課後は何か予定がありますか?」
「え?特にないよ?」
「でしたら、私の家に来ませんか?俗に言う誕生日パーティーをしたいのです。……とはいっても、私と紗綾二人きりのパーティーですが」
「え」

 織江ちゃんの言葉に私はピタリと止まる。

 誕生日パーティーへのお誘い。それ自体はとても嬉しい。というか嬉しすぎて今すぐ「ひゃっほー!!」とか叫びながらグラウンドを走り回りたいくらいである。

 しかし、そうさせなかったのは織江ちゃんの言葉から滲みだしている寂しさである。

 誕生日というのは他の人比べて、基本的に華やかな物だ。

 誰かから祝福され、家族や友人と集まってパーティーを開いたり、普段は食べない豪華な物を食べてはっちゃけたりする日。

 しかし、織江ちゃんの言い分だと、彼女の誕生日を祝ってくれる家族は家にいないことになる。家族から祝われることが無いというのは、思っているよりとても悲しい。

「織江ちゃん……わ、私色んな人に声掛けるよ!織江ちゃんの誕生日パーティーなんだから、もっと盛大にしないとっ!」
「……お気遣いありがとうございます。ですが、その提案には頷けません」
「えっ……でも……」
「紗綾がどう思っているかは分かりませんが、私は寂しくなんてありませんよ?両親からはしっかりとお祝いのメッセージをもらいましたし、クラスメイトの何人かからはもう既に祝福の言葉を頂いていますので」
「え、クラスで私が1番じゃないの?」

 衝撃の事実。家族や使用人さんは置いておいて、クラスで1番におめでとうを言うのはこの私だと思っていた……。え、辛い。なにこれ、新手のNTR?

「……ふふふ、安心してください紗綾。あなたからの祝福の言葉が1番嬉しかったですし、それが覆ることはありませんよ」
「そ、それならよかった」

 皆さん聞きましたか?私のおめでとうが一番嬉しかったですって。嬉しさと尊さで体が爆発しそうですよね。……あ、やっぱり今すぐ爆発しますね。

「……でも本当にいいの?私とふたりきりのパーティーで。私だけだとつまらないと思うよ?」

 嬉しさを噛み締めるのも束の間、私の頭の中に一抹の不安が浮かび上がった。

 織江ちゃんと二人きりと言うのは嬉しい。久しぶりにお家にも遊びに行けるし、織江ちゃんの誕生日をめいっぱい祝えるのは光栄極まりない事だ。

 しかしながら、私一人だけでは織江ちゃんを退屈させてしまうのではないか。年に一度しか訪れない誕生日を、私のせいで、無駄にしてしまうのではないか。ふとそう思ってしまったのだ。

「つまらない、なんてことは絶対にないですよ。……前々から口酸っぱく言っているつもりでしたが、理解していないようなのでもう一度言わせてもらいます。私は紗綾と居てつまらないと思ったことは一度たりともありません。紗綾は自分を過小評価する癖があります。もっと自信を持ってください」

 むっ、不機嫌そうな表情で織江ちゃんは私に愛のあるお説教をする。

「ごめんなさい……以後気を付けます」
「分かれば良いのです。……少し長話が過ぎましたね。このままではHRに遅れてしまいます」
「そうだね。……今日の放課後、楽しみにしてるね!」
「はい。私も今から楽しみで仕方ありません」

 そう言って笑い合い、私と織江ちゃんは教室へと向かった。

 長くもあり、短くもあった授業を乗り越え、待ちに待った放課後がやって来た。

「ふふふ……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「わ、分かってはいるんだけどね?でもやっぱりその……落ち着かないというかなんというか……」

 織江ちゃんのお家に向かうべく、私は今リムジンに乗り込んでいる。

 とても座り心地が良く、きっとリラックスできる空間なのだろうが、私は借りてきた猫状態。背筋を伸ばし、膝上に手を置きながら真っ直ぐと織江ちゃんを見つめている。面接か。

「前乗った時も同じような反応をしていましたが、何度見ても面白いですね」
「あ、あはは……」

 お嬢様には庶民の反応が面白いらしい。小馬鹿にされてはいるが、織江ちゃんを笑わせることが出来たのならむしろ良い事なのでは?

 リムジンの乗り心地を噛み締めること数十分。ようやく織江ちゃんのお家に到着した。

「自分の家の様にくつろいでくださいね」
「それが出来たらリムジンの中で固まったりはしないよ織江ちゃん……」

 織江ちゃんの部屋に招待された私は苦笑いを浮かべる。

 部屋が広い。ベッドでかい。なんか見たことのない装飾品とか家具がある。

 一度見たことがあるが、それでもやはり慣れることのない織江ちゃんの部屋に、私はソワソワが止まらない。

「あれ?前来た時はこんなモニター無かったよね?」

 織江ちゃんの部屋は私の記憶と少しだけ違う所があった。前に来た時には無かったはずの超巨大モニターが設置されていたのである。

「気付きましたか紗綾。以前紗綾が遊びに来た時に『動画とか一緒に見れたらなぁ』と呟いていましたので、最高画質の物を設置してみました」
「oh......」

 流石は織江お嬢様っ!私達(庶民)には出来ないことを平然とやってのけるっ!そこに痺れる、憧れるぅ~!

「さぁ、そんな床に座ってないでソファでゆっくりしましょう?」
「あ、うん」

 見るからに高価なソファに座るのが憚られた私は、床に腰を下ろしていたのだが、流石に言及されてしまった。くっ……これが資本主義社会かっ……!

 それから私と織江ちゃんはのんびりとした時間を過ごし、お腹が空いてくる時間帯になった。

「お、美味しそうっ……!」

 夜ご飯のお供を許可された私は、目の前に並べられた豪華な食事に目を輝かせる。

「うふふ、今日はパーティーですからね。いつもよりも華やかでなくては」

 織江ちゃんの言葉に、私ははっとなる。いけないいけない、目の前の料理に目を奪われてしまったが、今日の主役は織江ちゃんなのだ。私は花より団子ではなく、花よりも団子よりも織江ちゃんでなくてはならないのだ。

「織江ちゃん、改めて誕生日おめでとう。そして私と出会ってくれて、私と仲良くしてくれて本当にありがとう。こうやって織江ちゃんの誕生日を祝う事が出来てすごい嬉しい。生まれてくれてほんっっっっとうにありがとう!」

 溢れ出る祝福の気持ちを織江ちゃんに全てぶつける。織江ちゃんと出会って半年しか経っていない。それでも、私はクラスの誰よりも織江ちゃんのことを好きだという自信がある。

 私が織江ちゃんに抱いている親愛の気持ちが、少しでも織江ちゃんに伝われば良いのだが────。

「……ありがとうございます咲綾。今までの誕生日の中で今日が1番嬉しいです」

 1輪の花が咲いた。朱色に染まった頬と、僅かに潤んだ瞳、心から嬉しそうに笑う織江ちゃんに私は呼吸を忘れて見入ってしまう。

「かわいい……」

 言葉が零れる。今の織江ちゃんは、かわいいという言葉では括れない程の破壊力を持っているが、語彙力の無い私には可愛いという言葉でしか表現することが出来ない。こんなタイミングで己の脳みその貧弱さを呪う事になるとはゆめにも思いませんでした。

「咲綾。私今日1日、あなたからの誕生日プレゼントを楽しみに待っていました。その……これ以上我慢することが出来ないので、今貰っても良いですか?……紗綾?」
「……へ?あ、ごめんっ!織江ちゃんが可愛すぎて普通に意識が飛んじゃってた!」

 大人びている織江ちゃんが見せた子供らしい態度に、私の脳が耐えきれなかったらしい。一瞬だけではあるが、完全に意識がどこかへ行ってしまっていた。

「た、誕生日プレゼント!誕生日プレゼントねっ!」
「はい。その……ぱっと見物らしきものは見当たらないのですが……」

 普通プレゼントというのは可愛くラッピングして贈るものである。実際今日の織江ちゃんは多くの人から可愛く包装されたプレゼントを受け取っている。

 しかし、私の持ち物はカバンだけ。さらにその中にも包装された何かは一切入っていない。

「ふっふっふ」
「紗綾?」

 怪しげに笑う私を見て、織江ちゃんがこてんと首を傾げる。はい可愛い。

「織江ちゃん。私、織江ちゃんの誕生日プレゼントについてここ最近ずっと悩んでたんだ」
「そうだったんですね。私のためにたくさん悩んでくれてありがとうございます紗綾」
「えへへ~。……こほん、それでね?織江ちゃんって買おうと思えば大抵のものは買えるでしょ?」
「そうですね。……ですが、紗綾から貰った物は、そこらのブランド物よりも価値がありますよ?」

 さらっと嬉しすぎることを言う織江ちゃんに心臓を撃ち抜かれる。私はこのまま尊死するんだろうなぁ……。いや駄目だっ!織江ちゃんに誕生日プレゼントを渡すまでは死ねないっ!三途の川を平泳ぎしながら戻って来てやるからなぁ!

「ええっと……でね?何をプレゼントしたら織江ちゃんが喜ぶかなぁってたくさん考えた結果、いいアイデアが浮かんだの」
「そうなんですね。すごく楽しみです……それで、プレゼントは一体────」
「それはねぇ~……この私ですっ!」

 私は自分の胸に手を当てながら堂々と宣言する。

 織江ちゃんが欲しいと思っても中々手に入れることが出来ない物。それは「人間」だ。

 もちろん労働力として人を雇う事は出来る。しかぁし!労働を買ったとしても人間の心を買う事は出来ない。

 何十億、何百億とお金を積んだら、もしかしなくても人の心すら買う事が出来たかもしれないが、それで買った人の心に価値が付くだろうか?いや、付くことは無いっ!

 ではそこで問題です。織江ちゃんのことが好きで好きで仕方がない女の子が一人います。その女の子が織江ちゃんの誕生日の日に女の子自身……すなわち身も心もプレゼントしたら織江ちゃんはどう思うでしょうか?

 答えは簡単!一生裏切らない下僕が出来てとても嬉しいっ!

「……えーっと、お、織江ちゃん?」

 しかしながら私は完全に失念していた。私はどこにでもいる平凡な人間であるという事を。こんなどこにでもいる量産型の人間をプレゼントされても嬉しいどころか、ただただ反応に困るだけだということを。

 え、やばい。どうしよう。ノリと勢いで絶対に喜んでくれると決めつけてたけど、冷静に考えたら全く持って嬉しくなくない?ついでに言うと今日「私」以外のプレゼントを持ってきていないから詰んでない?あんなに楽しみにしておいて、とか期待させたのにプレゼント無いとか……やばい。本当にやばい。非常事態宣言とかのレベルじゃない。

 この気まずすぎる状況を打開するべく頭を回すが、全くと言っていい程アイデアが思い浮かばない。

 私このまま何もプレゼント渡せなかったら、部屋から追い出されるのはもちろんのこと、友達関係を解消されてしまうのでは……?流石にそれだけは嫌だっ!私の唯一のアイデンティティがっ!唯一の心の拠り所が無くなってしまうっ!

「あの織江ちゃん……その──」
「ふふ……ふふふふふふ……」

 今まで聞いたことのない、不気味さを感じる織江ちゃんの笑い声に、瞬きが繰り返される。

「ふふふふふふ……あ、ごめんなさい紗綾。紗綾からのプレゼントが嬉しすぎて感情を抑えられなくなってしまいました」
「え、あ……そ、それならよかったぁ~」

 私は後頭部に手を当てながら、愛想笑いを浮かべる。一瞬だけ感じたぞわっとした何かは一体……い、いや、あれはきっと私の勘違いだろう。ひとまず織江ちゃんが喜んでくれたみたいで良かった~。

「よしっ!じゃあご飯食べ──」
「あ、夜ご飯の予定はキャンセルです紗綾」
「え」

 なぜっ!?こんなに美味しそうなご飯が並んでいるというのにっ!?

「で、でも……せっかくのご飯が冷めちゃうよ?」
「後で温めれば問題ありません。それと紗綾」
「えちょっ!?」

 織江ちゃんが制服の襟元をそっと掴む。そしてそのままくいっと織江ちゃんの方に引き寄せられ、私の顔と織江ちゃんの顔がぶつかりそうなほど近づく。

「紗綾は既に私の物なのですから、私の言葉にはちゃんと従ってください。もし次同じように反抗した場合は……お仕置き、ですからね?」
「ひゃ……ひゃい……」

 ギラリと妖艶に輝く瞳に貫かれ、丸まっていた私の背中が、ピンと真っ直ぐになる。

 な、なにっ!?織江ちゃんがすごい積極的なんだけどっ!?しかもなんかえっちな雰囲気がすごくすごい!後私の語彙力もすごくすごいっ!

 突然の出来事に頭が真っ白になる。正常に機能しなくなった私の脳内はバクバクとうるさい心臓の音で支配される。

 か、顔近い……。肌白っ……まつ毛長っ……!可愛すぎっ……!!

「……ふふ、良い子ですね。それではベッドの方に移動しましょうか」
「は、はい……」

 にこりと笑う織江ちゃんの指示に私は頷くことしか出来なかった。

「え……と……織江ちゃん。わ、私は一体どうしたら……?」
「そこに仰向けになってください」
「こう?」
「はい。……よいしょっと」
「っ!?!?」

 杖を立てかけ、ベッドに腰かける……と思われた織江ちゃんは、どういう訳か私の上に跨って来たのである。

「え、あ、え!?」
「あんまり暴れないでください紗綾。私は足が悪いので、少しの揺れで転んでしまいまいます」
「ご、ごめん……じゃなくてっ!こ、これは一体どういう状況なの!?どうして織江ちゃんは私に馬乗り──んむっ!?」

 ふにっとした何かが唇に触れる。驚きのあまり一瞬理解できなかったが、少し遅れて織江ちゃんが私にキスをしたのだと理解した。

 頬に触れる織江ちゃんの華奢な手。朱色の柔らかい唇。そして直接伝わる織江ちゃんの熱が私の脳みそをじっくりゆっくりと溶かしていく。

 時間にして十数秒程。しかし、永遠にも感じられた僅かな時間が終わりを迎える。

「……織江……ちゃん」
「うふふふ……いかがでしたか?私のファーストキスは」
「え、あ、その……す、すごく柔らかくていい匂いがして……よ、良かったです……」

 いや良くないよ!?何自然と感想を言っているの!?そこは何でキスをしたのか聞くとこでしょうがっ!?

 頭を抱えたくなったが、織江ちゃんが私に覆いかぶさっているため、腕を自由に動かすことが出来ない。

「紗綾はその……初めて、でしたか?」
「あ、うん……私も初めてだった……よ?」
「……ふふ、ふふっ、ふふふふふふっ」

 普段の織江ちゃんからは想像もつかない笑い声に思わず気を取られそうになる。しかし、彼女の笑い声よりも、背筋がゾクッとするような笑みに、思わず口がぽかんと開いてしまう。

「あぁ……紗綾……紗綾っ!」
「んひっ!?」

 織江ちゃんが私のことを抱きしめながら、胸に顔を埋める。

「ずっと……ずっとこうしたいと思っていました」
「ちょっ!?く、くすぐったいんですけどっ!?」

 私の胸に頭を擦り付けながら、私の身体をなぞるように撫でる織江ちゃん。私の名前を呼ぶ声と彼女の手つきが妙にいやらしく、織江ちゃんの動きに呼応するように、私の身体がぴくぴくと揺れる。

「紗綾は敏感なんですね。いじめ甲斐があります」
「は、鼻☆塩☆塩!!」
「あまり大きな声を出さないでください紗綾」
「あ、ごめん。……じゃなくてっ!こ、これは何!?一体どうしちゃったの織江ちゃん!」

 私は一度織江ちゃんに待ったをかける。織江ちゃんを一度どかそうかと思ったが……降りる気配が一向に見当たらなかったため、私は織江ちゃんを膝上に乗せながら、話を続ける。

「私は説明を要求しますっ!私の所有者である織江ちゃんには説明の義務があると思いますっ!」
「説明ですか……。咲綾、私はあなたのことが好きです」
「……へ?」

 織江ちゃんの突拍子の無い告白に、私は気の抜けた声を出す事しか出来なかった。

「私は他の人よりも体が弱く、他の人よりも裕福な家庭に生まれました。杖が無くては歩くことが出来ない私を心配してか、今まで多くの人が私を助けようとしてくださいました」

 先ほどまでとは別の雰囲気を纏った織江ちゃん。私は織江ちゃんの話にただ耳を傾ける。

「小さい頃は、皆優しい人なのだと思っていました。体の不自由な私が孤立しない様にしてくれる。私の周りにいる人は全員、思いやりに溢れた素晴らしい人なのだと思っていました……ですが、それは私の勘違いでした」
「それは……」
「詳しくは話しませんが、私に良くしてくれた皆さんは、私の家が裕福だからそうしていたのだと気付かされたのです」

 きっと私のことを気遣ってくれたのだろう。詳しい事情は話してくれなかった織江ちゃんだったが、彼女の表情はとても暗かった。

「その時から私は自分に近づいてくる人たちのことを信じることが出来なくなりました。この人も、あの人も、優しそうに見えるあの子も、皆私が裕福な家の子だから仲良くしているのだと、疑心暗鬼になってしまったのです。どうです紗綾?私はとんだ臆病者だと思いませんか?」
「……思わないよ」
「ふふ、言わせたみたいになってしまいましたね」

 彼女の言い方的に、織江ちゃんにとっては既に昇華しきった、過去の出来事なのだろう。

 しかし、儚く笑う織江ちゃんの笑顔がとても痛々しく見えた私は、我慢できなかった。

「紗綾……?」
「私は……私はちゃんと、紗綾のことだけ見てるから……」

 私の想いと熱が伝わるように、彼女の細い体が折れてしまわない様、優しく、それでいて出来るだけ力強く織江ちゃんを抱きしめる。

「……はい。ちゃんと分かっていますよ、紗綾」

 それから私と織江ちゃんはしばらくの間、互いの事をぎゅうと抱きしめ合っていた。

「ねぇ?紗綾」

 どのくらい時間が経っただろうか。背中に回していた手をするりと引いた織江ちゃんが口を開いた。

「どうしたの織江ちゃん」
「私と紗綾が初めて出会った時のことを覚えていますか?」
「もちろんっ!いや~……あの時の衝撃と感動は生涯忘れることはないね~」

 私と織江ちゃんの出会いは、少しだけ特殊だった。というよりも、私が織江ちゃんに対して失礼極まりなかった。

 高校初日、見慣れない道を歩いて、校門にたどり着いた私が目撃したのは、リムジンからゆっくりと姿を現した織江ちゃんを見て、私は一目惚れした。

「えっ!?可愛い!?天使!?」

 そして一目惚れのあまり大勢に聞こえる声で独り言を叫んでしまったのだ。

「実はあの時、笑いを堪えるので精一杯だったのですよ?」
「あはは……私は恥ずかしさで死にそうだったよ……」
「……高校生になっても、私の周りには今までと同じような人しか寄ってこないと思っていました」
「織江ちゃん……」
「ですがあの時、私を、私だけを見ている女の子と出会えました」

 心底嬉しそうに笑う織江ちゃんを見て、私も思わず笑みが零れる。

「それと紗綾と仲良くしたいと思ったきっかけは、私がお金持ちだと知って最初に言った言葉です」
「え、私なんて言ったっけ?」
「私が『私の家は裕福なのです』と言ったら、『あ、だからそんなに可愛いんだっ!』と返したのです。ふふふ、この人は本当に私しか見えていないんだなぁと思いましたよ」
「え、えへへ……そのくらい織江ちゃんが可愛かったってことだよっ!」

 あまり記憶には残っていないが、どうやら過去の自分は織江ちゃんに気に入られる発言をしていたらしい。グッジョブ、過去の私。

「私は、私のことをちゃんと見てくれた紗綾のことが好きです。一人の人間として、女の子として、愛しています」
「え」
「紗綾と触れ合いたい。紗綾を独り占めしたい。紗綾と人前では出来ないようなことをしたい。紗綾と友達になって、一緒に過ごすようになってから、ずっと……ずっとそう願っていました」
「そう……なんだ……」

 織江ちゃんが私のことを……?嬉しい。すごく嬉しい。こんな幸運なこと二度とないかもしれない。でも、それと同時に本当に私なんかで良いのかと思ってしまった。

「どうして私がこんなことをするのかの説明は、私が紗綾を愛しているからです。それに──」
「それに?」
「自分の事を私にプレゼントするくらい、紗綾も私のことが好きなのでしょう?据え膳食わぬは何とやら。なので、ご飯を食べる前に、紗綾をいただいてしまおうかと」
「いやいやいやいや!?!?」

 何しれっと言ってんの!?新手のセクハラじゃん!

「あら?紗綾は私のことが嫌いなのですか?」
「嫌いじゃないけどっ!大好きだけどもっ!……というか、紗綾は女の子でしょ!?据え膳は食わなくても恥じゃないって!」
「お互い同意の上なら何も問題ないですね」
「いや問題大ありだよ!私みたいな女の子が織江ちゃんに釣り合う訳が────」

 「釣り合う訳が無い」そう言おうとした私の口は、織江ちゃんの唇によって塞がれた。

「んんっ!?」

 それどころか、私の口内にぬるりとした何かが侵入する。そしてそれは、私の舌の先から根本はもちろん、口内のありとあらゆるところを蹂躙してしく。

 今まで感じたことのないぞわぞわと、頭の中で響き渡るぐちゅ、ぐちゅ、という卑猥な音が、私の理性をぐずぐずに溶かしていく。

「んっ……ぷはっ……」
「はぁ……はぁ……おり……えちゃん……」

 ぺろりと唇を舌で舐めた織江ちゃんは、蠱惑的な笑みを浮かべる。

「私の大切な人を悪く言う子にはお仕置きです。……もし次同じような事を言ったら、もっとすごい事をしますからね?」
「は、はぃ……気を付けます……」

 先程から心拍数が高いせいか、胸の辺りが苦しい。それと顔が熱い。尋常じゃないくらい熱い。

「ふふ、紗綾は良い子ですね」
「んっ……」

 織江ちゃんが私のことを優しく撫でる。先程のキスとはまた違う感覚に、私の喉から自然と甘い声が漏れ出る。

「……織江ちゃんに撫でられるの、好き」
「……やっぱり誘ってますよね?」
「誘ってないけどぉ!?」

 私は織江ちゃんに違うときっぱり言いつけるが、織江ちゃんの耳は特定の言葉だけを聞き入れないのか、織江ちゃんは再び私のことを押し倒した。

「本当に嫌なら私を振り払ってください。足の悪い私をどかすくらい簡単でしょうから」

 確かに私はすぐにでも織江ちゃんをどかすことが出来る。しかし、そんなことをすれば織江ちゃんを傷つけてしまう。怪我はしないかもしれないが、それでも痛い思いをさせてしまうのは明白だ。

「……私がそんなこと出来るわけないでしょ」
「ふふ、紗綾ならそう言ってくれると思っていました。まぁもし断ろうとしたら、私の所有物だからと押し通していましたが」
「最初から逃げ道は無かった!?」
「では、双方合意ということで……たっぷりと愛を確かめ合いましょうか」
「ちょまっ!?」
「安心してください。この部屋には誰も入ってこない様に言いつけてありますから」
「そういう心配をしている訳じゃないんですけどね!?」

 ふかふかのベッドの上で、私に覆いかぶさる織江ちゃん。

 それから私がどうなったのかは……ご想像にお任せしよう。

— End —

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