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【閑話休題】TRACE-0

かにぴかにぴ

存在しないヒーローチームの結成と、存在しない事件の解決!? 夢小説は自由なので連載中にこのように完全なる幻覚を書くことも許されています。 Q.なぜ突然こんな連載に関係ない話が連載としてアップされたの? A.これからこの事件解決後の覚悟ガンギマリ使命感モリモリの行方不明者捜索専門特殊チームが来日して、No.2ヒーローの息子誘拐事件にとりかかるからだよ。 【デフォルト名前】 轟 陽火(はるか) あかりさまだったり火継だったり呼ばれている男。何も知らずに平和に生きてるが、今更になって“ガチ”の人達があらわれるとはね。

その始まりを、はっきりと語れる者はいない。

 誰が最初に手を伸ばしたのか。
 誰が先に、声にならない声を拾い上げたのか。
 誰が地図にない場所で、帰らぬ誰かを探しに行ったのか。
 ​───────その記録は、残されていない。

 今からおよそ八十年前、まだ“ヒーロー”という存在が法制度として整備されきっておらず、社会の片隅で光と闇がせめぎ合っていた時代があった。
 それは現代のように、ヒーローランキングやTV出演で名を馳せる者たちが表舞台を駆けていた時代とはまるで違う。

 個性の善用はまだ手探りで、国家がそれを管理しようとする一方で、個々の正義が混沌とぶつかり合う時代だった。

 当時のアメリカでは、ヒーローは基本的に個人主義の象徴であり、チームを組むことはむしろ“弱さ”の証とみなされていた。ヒーローとは己の個性と信念で闘い、栄光を手にする者。
 メディアに映る彼らは鮮烈で、華やかで、誰よりも強くあらねばならなかった。

 複数での出動や連携を重視していたのは、軍出身のヒーローか、法執行機関の支援下にある特殊部隊のみ。

 それ以外の“個人ヒーロー”たちは散らばっていた。
 小さな街角で交通整理をしていた者もいたし、野良犬の保護と夜回りをしていた者もいた。市民から「便利屋」と呼ばれ、時に嘲笑され、戦闘能力のなさを揶揄されるような、名もなきヒーローたち。

 そういう者たちがある時、自然と集まりはじめたのだ。

 明確な招集はなかった。「結成式」もなければ、「規約」も存在しなかった。
 誰かが声を上げたわけではなく、誰かを選んだわけでもない。ただ、ひとつの共通点だけが、彼らをゆっくりとつないでいった。

 彼らは、“行方不明者を捜していた”。

 当時、行方不明者の捜索はヒーローの仕事ではなかった。

 完全に警察の管轄であり、個性を持つ者の介入はかえって問題視されていた。
 特に、証拠も情報もないまま感情的に動くことは“非論理的”とされ、ヒーロー活動として認められなかった時代である。

 それでも、彼らは動いていた。

 家族を捜してほしいという老婆の声に、
 昨日から戻らないという少年の情報に、
 消えた友達の靴を持って交番に駆け込んだ少女の涙に、

 彼らは耳をふさげなかった。
 それが「任務」と呼ばれなくても、報酬が出なくても、人気もランキングも関係なく、彼らは夜の街を歩いた。

「子供を探してほしい」
「妹が帰ってこない」
「帰り道が分からなくなったんじゃないか」

 ​───────どれも、ヒーローが受ける依頼としては軽んじられていた。不人気ヒーローが人気稼ぎのために警察の邪魔をしている、そう石を投げられることもあった。

 犯罪の確証もなく、事件性も不明。だが、誰かが泣いていた。誰かが待っていた。
 それだけで、彼らが立ち上がるには、諦めずに戦い続けるには十分だった。

 集まったのは、記録に残る限り十数人。どこかで名前を聞いたことがあるような者もいれば、本当に誰にも知られていないような者もいた。

 空を飛べる者は一人もいなかった。
 壁を壊せる者もいなかった。
 銃弾を弾く皮膚も、時を止める能力もなかった。

 だが、彼らには「捨てられた声を無視できない」という力があった。

 そしてそれは、間違いなく、この混沌とした時代に何よりも強く輝く光。

 “正義”であり、“愛”だった。

 彼らの活動は、長く“非公認”のままだった。

 どれほど多くの行方不明者を見つけようと、どれだけ家族のもとに命を還そうと、
 公には一切記録されず、功績として評価されることもなかった。
 それどころか、“警察の業務を侵害する行為”として注意勧告を受けたり、
 “メディア映えしないヒーローの焦り”だと酷評されることすらあった。

 それでも、彼らは活動を止めなかった。

 金にならず、名も残らない。
 それでも​。やめる、という選択肢だけは持っていなかった。

 記録によれば、彼らが初めて正式に“チーム”として協力したのは、ある年の夏。
 山間の町で起きた連続児童失踪事件。
 行政は捜索を打ち切り、警察は「自発的な家出の可能性」を示していた。

 だが、彼らはあきらめなかった。
 聞き込み、捜索、地元の人間すら立ち入らない森林地帯を延々と歩き、人身売買を狙ったヴィラン組織の痕跡を辿り、廃村の地下でかすかに息づく二人の姉弟を見つけ出した。

 熱中症寸前、脱水と衰弱。命の灯はかすかだった。だが、彼らを抱き上げ「助けに来た!」と励まし、与えられた希望は彼らの命を地上に繋げた。

 誰も報じなかった。名前も公表されなかった。
 けれど、あの町に生きて帰った子供たちと、彼らを抱きしめた家族の記憶には、確かに“ヒーロー”が存在していた。

 それから、彼らは「呼ばれる前に来る者たち」として、徐々に、都市伝説のように語られ始める。

 深夜の電話に応じるヒーロー。
 失踪現場に先回りしている無名の人物。
 遺族の葬式に名乗らず花を送る影。

 記録のないヒーローたち。
 功績の裏に立ち続けた影たち。
 消えた命を、なかったことにしない者たち。

 個性の公共利用に対する理解が徐々に進み、
 ヒーローと警察の協力体制がようやく制度として整備されはじめた時代。
 組織的な連携の重要性が再評価される中で、アメリカ合衆国ヒーロー庁はついに、長らく記録の隅に埋もれていた、あの無名の集団の存在を“公的に承認”する判断を下した。

 だが、そのときにはもう、最初の“彼ら”はほとんど姿を消していた。
 顔ぶれは何度も入れ替わり、名簿に残された者たちの多くは、若者たちへと世代を譲っていた。
 創始者たちの姿を直接知る者はわずかで、記録と証言の断片を頼りに、初期の活動は後年になってようやく掘り起こされることとなる。

「父はよく『俺はヒーローだ』なんて嘯いていたけど、まさか本当だったのか?」
「曾祖母が……聞いたこともなかった」

 公表されたときにはじめて、家族の中にいた無名のヒーローの記憶を知った者も多かったという。
 それは、墓前の花が語らぬ言葉を持っていたような、静かな驚きだった。
 誰にも語らず、ただひっそりと、“誰かを助けたことがある”だけの人々が、血縁の中に眠っていたのだ。

 名もなき者たちが積み上げた記憶の灯が、やがて国の制度に届いたその瞬間、彼らは“公式な存在”として時代の表舞台に姿を現した。

 そして、彼らに新たな名と、立場が与えられた。

   TRACE-0

 “ゼロ”は、出発点。すべての始まりであり、また、何もないところから誰かを辿るという意味でもあった。

 “TRACE”は、痕跡。消えた命、失われた希望、踏みしめられた願いの軌跡を、たとえどんなに微かなものであっても、最後まで辿る者たち。

 今、TRACE-0はアメリカを代表する“国際特殊救助対応部隊”としてその名を刻んでいる。
 だが、その礎となったのは、派手な個性でも、名声でも、制度でもなかった。

 ただ、名もなきヒーローたちの、たった一つの共通点​───────
 『誰かの帰りを待つ声に、背を向けなかった』という記憶が、代を重ねた今も変わらず息づいている。

「行方不明者が1名、72時間を過ぎています。どうか力をお貸しください」
「小さな島国でたった一人を見つけてる間に、ワタシ達はアメリカで10人見つけられます。
ならば祖国を優先するのが、フツウでは?」

 ​───────そして、通話はそこで静かに切られた。

 7年前、アメリカの国際特殊ヒーローチーム《TRACE-0》は、日本の要請に応えることができなかった。その理由は、当時アメリカ国内で発生していた未成年個性者の連続誘拐事件にある。

「翼を持つ子供たちが消えていく」

 それは10年前、アイオワ州の小さな町で始まった。飛行能力を持たない、翼型の個性を持った少女が忽然と姿を消した事件──初動は単なる失踪として処理された。

 しかしそれから数年のうちに、“翼を有する個性”の未成年者失踪例が、アメリカ各州で相次いで報告され始める。
 どの子も、年齢は6歳から14歳前後。翼の形状や性質は異なるが、共通していたのは「飛べるかどうか」ではなく、「翼を“持っていた”」という一点だった。
 実際に被害に遭った子供たちの中には、飛行能力を持たない個性​……たとえば個性《ドードー》や《カカポ》のように、「飛べないが翼を有する」個性も多く含まれていた。

 一方で、反重力・空中制動など飛行能力を持ちながらも翼のない個性の子供たちは誘拐の対象外とされており、誘拐現場では「友人を助けようと必死に飛びかかったにも関わらず、翼がないために置き去りにされた」という証言も複数残されている。

 この不可解な選別が行われていた背景には、「翼」という器官そのものに対する何らかの研究的価値あるいは信仰的執着が存在すると見られており、TRACE-0はこれを極めて重大な事案と判断。全隊員を動員して全米規模の捜索を開始していた。

 この未曾有の誘拐事件が国家規模の混乱へ発展するのに、時間はかからなかった。
 「なぜ守れないのか」とヒーロー制度への不信が爆発。自警団が暴徒化し、暴力が暴力を呼ぶ連鎖。子を守るために我が子の翼を折る親、個性を隠す子供たち。SNSでの分断、流言飛語、敵味方の線引きの曖昧化。翼のある子供を「不吉」とする差別感情の拡大。
 アメリカ全土が不安と怒りで燃えていた。TRACE-0はこの最悪の炎の中で、情報を辿り、各地に散らばる命の火を拾い続けていた。

 中でもヒーロー《ペンデュラ》の個性“サーチ・リンク”は、誘拐された子供たちの“命の気配”を感知できる数少ない能力であり、彼女の行動なしには事件の全容解明は不可能とされたため、7年前のあの日、日本への派遣は断念せざるを得なかった。

“誰かの帰りを待つ声に、背を向ける”

 これは、TRACE-0発足後はじめての、苦しい選択だった。前任者から立場を引き継いだばかりの若きペンデュラは、日本からの連絡を冷静な口調で拒否したあと、己の無力さに血が出るほど唇を噛んで耐えた。

 祖国を、優先する。助けを求める命を、数で判断した。たった一人を救うために、祖国の数十人、数百人を、見捨てる訳にはいかなかった。

 副官であるホロ・グリッドから、日本へは正式に以下のような形で返答が届けられた。「現在進行中の国内未成年大量誘拐事案において、我々は一刻の猶予もない任務を遂行中です。国境を越える力を失っていることを、どうかご理解いただきたい。あなた方の苦境もまた、我々の痛みと重なっていることを信じてください」​───────この言葉の中に、彼らがどれほど家族を、行方不明の轟️陽火を案じているか。その温度は届かない。

 この事件を解決したら、駆けつけよう。TRACE-0の主要メンバーはそれを合言葉に、自らを奮い立たせて任務にあたった。

 第二位に至るほど、著名なヒーローの家族。
 ヒーローの家族へ向けた、悪意。その先の、残虐性。それを、彼らは苦しいほどにわかっていた。かつて先代達が、救えなかった命の中に、同じ存在があるから。

 やがて調査の手が及ぶにつれ、事件の背後に浮かび上がったのは、かつて倫理規定違反で学会を追放された個性研究者、ハロルド・ブリッジ博士による《セラフ計画》の存在だった。博士は、かつて“空を統べる神の再臨”を信奉する少数思想集団に関与しており、彼の研究は次第に「翼こそが進化の証であり、神性の器官である」という狂信的理念に傾倒していった。

 セラフ計画の目的は、「人類が“翼を持って生まれた理由”を明確化し、それを人為的に再構築すること」。
 対象となった子供たちは、選別され、解剖され、改造され、中には「神の器」として育成される個体すら存在していた。

 TRACE-0チームリーダー、ペンデュラによる魂感知型の個性が核心となり、隠匿施設の発見に成功。
 ペンデュラは、閉じた瞳の奥に“縁”を結んでいた。彼女の個性《サーチ・リンク》は、離れた場所へ伸びる細い糸のように、幾つもの命へ繋がっていく。
 淡く、かすかに震えるその糸の先──たしかに、まだ生きている子供たちがいる。

「……間に合う。生死の揺れが、まだ落ちていない。ワタシにはまだ、彼らが視える」

 低い声に、ミラーセラピストがそっと笑んだ。柔らかな微笑みは、チームの空気をわずかに溶かし、湿度を与える。
「大丈夫ですよ、リーダー。あなたの判断は正しいから。ここでおしまいにしましょう。」

 ホロ・グリッドは器用にタブレットを操作しながら、淡々と言う。
「動線は特定済み。五つの拠点に分散しているが、移動パターンから“中心”が割れた。メインはここの地下施設だ。ここで逃がしたら面倒だが……今回は、それにも備えた」

「そう! 今度こそよ、苦節六年! あ、私が入ってからって意味ね、ずっとこの事件追ってるんだもの。ここらでトドメよ!」
 トレイルリンクが皆を鼓舞するように明るい声をあげる。彼女が名付け育てた小動物たちの多くは、彼女の個性……一時的に感覚を共有し索敵を行う為に、敵地奥へ潜り命を零していった。その度に涙を流し悲しみ痛みを背負いながらも、彼女は“救う”為に歩みを止めない。

「……間に合わせよう。家族が待っている。こんなもん、見て見ぬふり出来るかっての」

 バーストパスの低い声が放つ誓いに似た言葉。車内に満ちるのは、決意と、静かな怒り。

 彼らだけでは、見つけ出すだけでは、“完全なる勝利”には届かなかっただろう。
 TRACE-0が五つの主要拠点を同時に叩く作戦を組み上げたとき、何度計算しても結果は“失敗”へ傾いた。施設構造の複雑さ。セキュリティの層。檻の中の子供たちが耐えられる残り時間。
 どれを取っても、単独突入では間に合わない。

 けれど、彼らはもう“孤立した善意”ではなかった。
 アメリカ合衆国は、国民は、ヒーローは、ひとつの巨大な“チーム”として立ち上がることを選んだのだ。

 その中心に立ったのは、アメリカ最強のヒーロー。

《スターアンドストライプ》

 TRACE-0からの要請に応じて彼女は迷いなく前に出て、力強く宣言する。

「なぁに、間に合わせりゃいいってことだろ?」

 その一言が、まるで火打石の火花のように全土へ伝播した。彼女の号令とともに、全米のヒーローたちが一斉に動き出す。

 《アイアンセイント》《ハルシオン・メサイア》《ラストフロンティア》《ブレイブレンジャー》《スカイスプリット》《エグゼクター・ママ》《サムライ・カイシャク》《レインボーアート》《メロディーポップス》《N4》《ホーリーストロング》《クオンタム・フェザー》《ミニットマンMk-Ⅲ》《ミズ.オレゴンサンストーン》《マキシムマキシマ》《Mr.チーボーガー&ノーペプシ》《エルビスサンドイッチ》《イエローステップ》《アガペ》《スタートレイル・ノヴァ》《サンシャインタイタン》《ドン.サンセット》《ホープ・ホライゾン》《ドリフトシーカー》《キャリングレディ》《ギャラント・ピースメイカー》……。

 政府公認のS級ヒーローから、地域の片隅で人知れず働く無名のヒーローたちまで。

 その名が、夜明け前の霧を裂くように立ち上がる。
 こうして、史上最大規模の個性型誘拐壊滅作戦が静かに開始された

 誰もが“正義のため”だけで動いたわけではなかった。
 家族を守るため。名誉を守るため。自分の教え子の、小さな翼を守りたかった者もいた。「自分の力を証明したかった」という浅い欲望に突き動かされた者すらいた。

 それでも──────
 この日、誰一人として、引かなかった。

 集結したヒーロー達は各々の個性をもって救助作戦に参加した。最も活躍したのは星条旗の化身、スターアンドストライプ。

 そして、ヒーロー《コーラス》。
アメリカでは珍しい控えめな“支援ヒーロー”であり、その名をニュースで目にする者はほとんどいない。理由は簡単で、彼の個性“エコーポート”は、ひとりではほとんど何の意味も持たないからだ。

 彼自身が強力な光を放つことも、敵を打ち倒すこともできない。
 翼を広げて空を飛ぶことも、建物を持ち上げることもできない。

 彼の個性は己の声を通して、他者の個性と同調しそれを拡散させる。ただそれだけ。しかし拡散すればするほど薄まっていく、儚い力。
 光線は、彼を通れば三方向へ漏れ広がるほのかな灯へ変わる。
 奇跡的な治癒個性でさえ、瓦礫の底で泣き叫ぶ誰かを「痛みの底からそっと救い上げる」程度の静かな奇跡へと姿を変える。

 コーラスは、自分では決して主旋律を歌わない。だが、主旋律が輝くための“和声”として、欠かせない存在だった。

 アメリカのヒーロー社会は苛烈な成果主義だ。派手さ・人気・視聴率。それらが“価値”の尺度となる世界で、彼はずっと脚光と無縁のまま、淡々と息をしていた。

 災害時には避難誘導のスピーカーを調整し、医療個性を地域一帯へ薄く広げ、大規模作戦ではリーダーの号令に個性を乗せて即座に全隊へ共有する。
 危険な現場では、センサー系個性を建物全体に反響させて隊員たちが迷わぬ道を作る。

 いつも目立たない。いつも裏方。
 だが、「居なければ成立しない」名脇役。
 今回も同じだった。ただ、ひっそりと、誠実に。自分にできることを懸命に。

 判明した五箇所の施設に設置されたスピーカーから、コーラスのエコーポートが響く。五方向へ薄まり分断された個性は、一般的なヒーローの個性ならば“意味を失うほど弱体化する”だろう。ただし、それは“普通の個性”の場合だ。

 スターアンドストライプという、一国の象徴が放つ力の前では、五分の一などハンデにすらならない。

 スターアンドストライプが触れたのは、五つの拠点のうちただ一つ、中心に据えられた制御核だった。硬質な金属の感触が手袋越しに伝わり、彼女は短く息を吸う。世界を塗り替える“宣言”は、触れた対象にのみ宿る。それが《新秩序》の絶対条件だ。

 だが、この戦場は一箇所では終わらない。四つの檻は遠く散り、時間は残されていなかった。

「……コーラス、頼む」

 彼は黙って頷き、両手で巨大スピーカーのケーブルを握りしめた。

「子供たちは死なない」
「檻は破壊される」

 彼女の《新秩序》が世界に刻みつけられる。世界に新たな法則を刻む言葉。その波形を拾い上げ、解きほぐし、自身の個性へ流し込む。

 次の瞬間、轟く声が複製され、五方向へ裂けるように散った。絶対条件を無視した、強制的な拡散。分裂。それはほんの一瞬、奇跡となった。

 分散され希薄な秩序でも、道をひらく程度の強制力は残っていた。遠くで金属の破砕音が連鎖し、叫びが押し潰されていく。五つの戦場が同時に動き、生存率は一瞬で塗り替えられる。

 だがその中心で、コーラスの膝が静かに落ちた。音に変換された秩序は、彼の体内の個性因子に深い傷を刻む。
 強い負荷は彼の体内で暴れまわり、奇跡を強制した罰を刻みつける。これはルールの捻じ曲げ、神の領域へ唾を吐く不道徳。
 分かっていた。これをやれば、自分の個性は二度と扱えないと。

 それでも彼はケーブルを離さなかった。
 この一撃だけが、全ての子供を救う道だったからだ。スターアンドストライプは、友人を抱き上げて己も戦場へ向かう。残された時間は、僅か​───────。

 スターアンドストライプの宣言と同時に、救出作戦は始まった。ある者は身を隠しながら誰にも見つからず子供たちの元へ辿り着き、ある者は敢えて自らの居場所を示し囮になる。

 ペンデュラが聴いた魂の残響が施設の位置を指し示し、ホロ・グリッドの分析により全ての脱出口を破壊。
 トレイルリンクの索敵は敵の位置と子供たちの場所を探り当て、バーストパスが存在しない道を創り上げこじ開ける。

 その導きに従って、ヒーローたちは雷鳴のごとく降り立った。檻は砕け、金属音が跳ね、個性抑制装置は星屑のように散る。

 “神の器”と称され囚われていた子供たちは、偽りの信者たちの手から、ひとり、またひとりと解放されていく。

 恐怖に震える子供たちの呼吸を、ミラーセラピストの個性がそっと整え戦場の喧騒の中に小さな静けさが灯る。

 床に転がる白い羽根。
 脈のない子供の、冷たい指先。
 「ヒーローなんて信じない」と震える声。
 刃物を握り、檻の中でも抗い続けた少女の瞳。
 弟を守ろうとして、一度も泣かずに命を落とした兄の影。

 それでも……生きていた子供たちがいる。取り戻せた声がある。泣きながら「ただいま」と言えた者がいて、その名を呼んで「おかえり」と抱きしめられた者も、確かにいた。

 作戦終了後、TRACE-0の報告書に記されたのは、ただ一行。

「《セラフ計画》、壊滅確認。合衆国、光を取り戻しつつある。」

 勝利と呼ぶには、あまりにも多くが犠牲になった。
 胸を張れる最終章だと言い切ることもできない。

 だが​───────あの檻の灯りを消したのは、確かに自分たちだった。誰かの未来を取り戻すために、誰かが失ってしまった時間を二度と奪わせないために。

 彼らはやっと、この長い闇を終わらせたのだ。

— End —

Comments 16

唐間6 个月前

かにぴ先生の存在しない◯◯シリーズが大好きなので嬉しいです! 使命感に満ちた実績あるチームに陽火くんはどう対処するのか、次回が楽しみです。どうなるんだ……?

イチョウ6 个月前
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P
pet6 个月前

待ってました!!この小説のはじまったばかりでこの海外チームが登場したときから彼等がどう関わってくるんだろう???って思ってたからついに進展がみれて嬉しいです! あかりくんの所為で原作よりヴィラン強化されたからヒーローも強化しなきゃ(世界の修正力

にんじん6 个月前
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そるとめ6 个月前
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しいたけ6 个月前

ずっと気になっていたTRACE-0のお話を読めて感無量です!アメリカのヒーロー達も魅力的だなぁ デクくんなら知ってる名前もあるのだろうか ペンデュラさんの能力とても興味深いです。魂が複数あるとしか思えない個性もあるけどどう見えるのかしら? セラフ計画はキリスト教圏ならではですね。

赤茄子6 个月前
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ラズベビー6 个月前
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柏村うさぎ6 个月前
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もふもふ6 个月前
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朱羅6 个月前
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6 个月前
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Sakuria
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