注意事項
・『Dr.STONE』と『Minecraft』のクロスオーバーです
・主人公は自身をいっぱしのマインクラフターと認識してます
・男主です
以上を許せる寛容な方のみ本文へどうぞ。
マインクラフター
ゲンくんと別れた後。
村へ戻るべく、俺はまた一晩走り続けた。悪路もなんのその。伊達にマインクラフターやってない。幸いなことに方角は既にゲンくんが教えてくれている。ならばあとは突き進めばいいと持っていた土で足場を作ったり時には崖を掘ったりして山を登り降りして直線でさっさと帰る。背中の荷に気遣わなくていい分、ゲンくんを背負っていた時より断然にペースは早い。
そんなこんなで太陽が真上に来るより前に村の近くまで帰って来れた。
ここでちょっと話を一旦脱線させるが、俺の家は円形になっている村の中でも一番端っこ、崖っぷちぎりぎりに建っている。いや正確に言うとそこに建っているのは家ではなく「作業小屋」の方だけど。
俺の家というか寝床というか本拠点はその下、今言った作業小屋から梯子で降りた地下、川に面した洞窟にある。
一応両親が生きていた頃はちゃんと上が家で下が作業小屋というか俺の遊び場みたいな感じだったのだが、俺がマイクラを自覚してかまどで丸石とか原木とか焼くようになったので逆になった。洞窟内に煙が充満して普通に危なかったので。
村の入り口である橋からはまあまあ遠い位置だけど、水面近くに拠点があるおかげで水中探索も釣りもしやすいし、何よりボート移動が便利な場所だ。
村の入り口まで行かずに村の外に出ているのは俺だけかもしれない(というかまあ当然ながら洞窟を作ったり釣り堀を作成したりボートで村外に出たりするのは本来なら全部村長さんとかの許可が要るので俺しかいないで確定である)が、この特権を手放すつもりは毛頭ない。
クラフト用の木材等々を持ち帰ることがよくあるので、徒歩でえっちらおっちら歩くことを考えればボート移動はあまりにも楽過ぎるのだ。
ちなみにこれは完全に余談かつあまり引かないで聞いて欲しい話なのだが、俺は下方向へ移動するときに梯子を使うことはめったにない。水面に着水する方式を採用しているからだ。だってそれなら体を痛めることもないし自由落下なので梯子で降りるより早く下に移動できるんだもん。マインクラフターなら当然だよなあ!? 洞窟が水面近くに生成されているのと、川にほぼ流れがなくて湖っぽくなっているからこそできる無茶である。当然のように全身濡れるけど、まあ別に。基本的に地下の拠点に帰るイコール作業がひと段落して寝に帰る時なので(水)風呂ついでみたいな感覚になっている。
濡れたら困る荷物がある時や冬場はさすがに梯子を使うが、水経由の方が「ダイナミック帰宅!!!」って感じがして俺は好き。ごめん思ったより俺の感性原始時代化しているかもしれない。閑話休題。
というわけで、今日も今日とて崖から飛び降りて川を渡る。荷物はナップザックに入れたものだけなので水から出るように頭の上に掲げておけばオールオッケー。
水をざぶざぶ掻き分けて、洞窟に上がってまず服を脱いで絞り、ブンブンと頭を振って髪からある程度の水気を飛ばす。犬っぽいけどこれが一番手っ取り早いのだ。洗って干してある適当な動物の皮である程度全身の水気をとって、服を着替える。
さすがに二晩走りっぱだったしやや眠い……かもしれない。いやでも今寝るわけにはいかないので、とりあえず気合い入れて梯子を登って上の作業小屋へ。思ったとおりいつもの如くぶわっと熱気が出迎えてくれたので一瞬で髪も乾いた。
作成完了したものを入れるチェストを確認。バケツが三十三個だけ置かれていた。かまどの中で放置されたものを見る。まだ錬成されていない鉄原石がいくつか。なーるほどね、バケツを一スタック作るには鉄が不足して、鉄インゴットを用意しようとしたら木炭が不足したから木こりに行ったと。そういう感じか。
「よっ、と」
ナップザックを作業台の上に乗せる。無意識のうちにどれくらい徘徊していたのか直視したくなくて今まで開けていなかったが、素材は適切な場所に保管するなり稼働の止まっているかまどにセットするなりしなきゃならんので中身を確認しないわけにはいかない。
そして出てきたのが鉄の原石がいくつかと、採掘中に獲得したらしい閃緑岩と花崗岩と丸石、そして原木が十六スタックと五十一。いや多めだなあ!!? えっ俺そんな掘ってたの!? 原木千個越えはやり過ぎだろ!! そりゃ疲れもするわ!! バカか!!
無意識のうちにそれだけ伐採していた事実にもそれに気付かず運んでいた己にも慄きながら、必要な素材は素材チェストへ、原石系と木材はかまどへ放り込めるだけ放り込む。
これ持たされてたゲンくん大丈夫だったかな。このナップザック質量保存の法則とかガン無視だしゲンくんが俺と同じマインクラフターならたぶんきっと問題ないけど、NPCだとワンチャン重過ぎて怪我悪化してたのでは……い、いやでもあれだけ爆睡してたんだからきっと大丈夫だったんでしょ……ここに来てゲンくんが気絶してた可能性に気付いてしまった。うわうわうわどーしよ。いやどーにもならんけど。
とりあえず今度もし会えたら聞いて謝っておこ、と思いながらせっせせっせと荷物を整理する。
「っふぅー」
ようやく一息。ついでにこのまま寝ちゃえとその場で蹲る。
ではでは皆様、おやすみなさーい、と。
マインクラフター
ゲンくんとバイバイしてから早数日。
俺の毎日には素材採取とクラフトの他にもやることが増えた。ずばり、「鍛錬」である。
ゲンくんと約束した以上、御前試合で俺は村の人に勝たなきゃいけない。ゲンくんに怪我をさせた犯人を探してそいつに負けないようにすることも考えたけど、試合が来月となればそんな時間も惜しい。まあ優勝すれば全員倒したってことでオールオッケーだろうと雑に考えて毎日地道に刃を潰した斧をぶん回してるわけだ。
ちなみに今俺が鍛錬をしている場所は前にゲンくんと会ったところよりやや村寄りの辺りだ。がっつり森の中。好きに斧を振り回しても大丈夫だし、帰りに木をこって帰れば木材を調達できるし、近くに綺麗な川が通っていて給水には困らないし。まさに一石三鳥の立地である。
「っふぅー……」
川の水に顔を付けて汗を流す。
斧は木こりで使っていて扱い慣れているから完全なゼロスタートじゃない。けど、やっぱり武器を振り回すっていうのはちょっと疲れる。うーんクロスボウが使えたらなー! 村長さんに御前試合のエントリーしに行った時に飛び道具は禁止と言われたので仕方ないが、遠距離の方がそれこそ狩りでバンバカ使うのである程度自信があったのに。
ゲンくんをあんなにボコボコにした野蛮くん(犯人が分からないので仮名)相手だと思うと、扱い慣れているとはいえ攻撃し慣れているわけじゃない得物じゃやや不安だ。
これはもう誰かと手合わせしたいなー、なんて。
「……マジで村に出てみようかな」
さて、ここでちょっと状況を整理しよう。なんでこんな森のど真ん中で「誰かと会おうかなー」なんて呟いているかについて説明しよう。
あの日、俺は問題なくゲンくんと会話していた。あまりに人との会話というものが久しぶり過ぎて俺の喋りのテンポだったり滑舌だったりは終わってたけど、ゲンくんからはフンとかハアとかではなく生身の人間の声がして、そして俺もそれに普通に対応できていた。
つまり───これからは村人達の声も普通に聞けるようになるかもしれないのだ。いやもしかしたらだけど! でももしかしたらだとしても念願の友達できるかなも叶うかもって思うとちょっとテンション上がっちゃうよね!
で、そんな風に喜び勇んで善は急げだと興奮する気持ちとは裏腹に、「ゲンくんが特別だっただけで他の村人の声は聞こえないのでは?」とか「数年ぼっちを極めてた奴がイケるわけなくね?」とか考えちゃって前に進めない俺もいる。
意気地なしとか言わないでほしい。俺は数年間ほどずーっと村人さんたちとの交流なんて一切やってきてなかったのだ。マジで。年単位で極めたぼっちマインクラフターが突然他の人に「Hey そこのキミ、俺と手合わせしてくんない?」なんて話しかけられるだろうかいや反語。
「……」
……まあ、まあ、うん。
今日のところは許してやろうよ! いつも通り木をこって原木を回収して帰るとしよう。うんそうだそうしよう。誰かと手合わせは、うん、ほらもうちょっといい時期があると思うと言いますか、まあ今日じゃなくてもいいんじゃないかな! うん! 別に勇気が出なかったわけじゃない、ちょっとお日柄を見た結果だ!
ちなむと俺はさっきみたいな独り言をここ数日で何回か繰り返している。ねえ誰俺のこと臆病者って言ったヤツ! 俺もそう思ってるけどそんなこと言わないで!!
よいせと荷物をひとつに纏めて担ぐ。斧は腰のベルトで挟んで、他はナップザックに放り込んだ。マイクラくんは物の実寸ではなくスタックの種類でサイズを測るから便利だ。インベントリに重さの概念がなくて本当に良かった。質量保存を無視してるあたりなんかかなり某猫型ロボットの四次元ポケットっぽいなーなんて。
「あーーーっ!!」
「へっ?」
と。
突然大きな声を上げられたので思わずそちらを見る。見覚えがあまりないちびっ子がそこに居た。まあ俺にとって人間が大体見覚えがないのはそれはそうなんだけど。服装的にはたぶんうちの村の子だ。いやだとしてもこの間までアレックス激似だった村人の見分けとかあんまつかないんだけど。
ただまあ、こんな見た目の子がいればまあ間違いなく覚えている。なんでこの子は頭にスイカ(?)を被っているんだ。なんだろう、帽子代わりかな。分からないが、なんにせよ珍しいスキンだ。
やはり考えても見覚えのないその子は、大きな声と共にこちらを指差していた。ベタだが後ろになんかあんのかと思って振り返るが何もない。えっ俺のこと指さしてるのかあの子もしかして?
「クレイ、居たんだよー!」
「よくやった、スイカ!!」
「はっ、えっ、!?」
ちびっ子にそう褒め言葉を投げた人が誰か居た。と思う。曖昧なのは、俺がその人を視認する前に視界が思いっきり揺れたからだ。
ハッと気付けばあらびっくり。どうも誰かの肩に担がれているようじゃないか。
「……エッ!!!?!?」
いやいやいやいや待て待て待て待て。
なんで俺は突然誘拐されそうになってんだ??!?! しかも向かってる方角俺の村側なんだけど!!! えっなに!?
戸惑っている間に俺を担いでいる人が跳ねるように移動していく。いやてか跳ねてる。錯覚じゃなくこの子飛んで跳ねてで移動してる。えっ何? しかも俺のこと抱えてる子見る限り細腕の女の子なんだけど待って本当に何??? マジでなんで俺は女の子に誘拐されてんの????
「なになになになに誰誰誰誰」
「ハッ! 貴様、やはり会話できるんじゃないか! 悪いが着いてきてもらうぞ、こちとらきみを探していたんだ!」
「なにぃ……?? なんのはなしぃ……????」
笑うような怒るような調子でそんなこと言われても意味が分からない。やはりって何がだ。探してたってなんでだ。溌剌とした声のハリからして明らかに若いというか具体的に言うと俺より多分歳下なことな推測できるんだけど、そうなるとますます謎が深まるんだけど。え? どこのどちら様ですかこのお嬢さん!!? 左下に「コハク」って書かれていたのでお名前がコハクっていうことだけは分かった。だが他は何も分からない。本当にどこのコハク様ですかこのお嬢さん!??!
あと全然関係ないけどさっき俺を指差したスイカちゃんとやらが手足をスイカに押し込んでスーパーボールみたいにボンボン跳ねたり転がったりしながら着いてきてるのはアレどういう原理!!? いくら子供がちっちゃくてもあの小さな被り物に全身収まってその動きしてんのはヤバすぎだろ!!!!
ツッコミきれないまま拐われて、気付けば何故か村に入るギリギリのところに着地していた。なにぃ……? 俺はマジでなんで村に拐われて帰ってんのぉ……? 何があったのぉ……???
「千空!」
「あ゛? テメーら今日は砂鉄取りに行ってたんじゃなかったか? なんだその人攫いの構図は」
「スイカがクレイを見つけてくれてな。逃げられないように即刻捕らえてきたぞ!」
「マジか! やるじゃねえかスイカ、コハク!!」
「おっ、クレイ居たのか!」
「居たんだよー!」
「あのごめん待って待って止まって俺何もついてけてない」
とりあえず本当に何が起こったのかさっぱり理解できていない俺に親切に分かりやすく経緯と目的と結果を教えてください誰か。
マインクラフター
さて。
話が大幅に変わるがこれは前振りなのでしっかり聞いてほしい。
今までにもチラチラ言ってきたとおり、俺には村の人たちの声がマイクラの村人特有の「フゥーン」「フーファン?⤴︎」「ハァン⤵︎」「フガァ」みたいな音声で聞こえている。否、聞こえていた。
その音声が、ここにきてついに治った。らしい。
いやなんでこんなふわっとした感想なのかって? そりゃ誰だって唐突に拐われたりなんだりしたらそんな感想にもなるだろう。気付けばぬるっと会話ができていたのだ。一応数年の悩みの種が解決されたんだから本当なら感動的な瞬間だったはずなんだけどなー! それどころじゃなかったんだよなー! まあいいけどさ。
でもまあとりあえずゲンくんにありがとうの気持ちだけ抱いておいとこう。ありがとうゲンくんマジでありがとう! 本当にゲンくんのおかげなのかはよく分からないけどなんとなくゲンくんありがとう! やっぱゲンくんなんだわ! ゲンくんしか勝たん!! っつってね。
ま、とはいえ。今言っていたこれは割と大袈裟な考え方なわけだ。だって今までも言うてそんな生活自体に致命的な支障っていうのはなかったから。
支障自体はなかったけど、俺は人間の声が聞こえなかったせいでマイクラ仕様の村人さん達と交流する気力はマジで湧かなかった。気力がないと言うか、そもそも交流できる相手だと思ってなかったのだ。なんとなーく、「フンファ?」とか「フゥーン」とか言われるからそれを鸚鵡返ししてたけど、なんだろうな、音が出る家電製品みたいな。いやごめん言い方マジで悪かった。でもなんかとりあえずマジでNPCなんだなーって思って皆のことを見てたんだよな。
周りがそんな様子なのに生活に支障が出ないのはおかしいって? 俺もそう思う。でも俺ってば一応これでもいっぱしのマインクラフターだからさ。村人の声がマイクラ仕様であったとしても関係なし、一人でもくもくと生活することくらい朝飯前ってんですよ。ほら、マインクラフターはぼっちで立派に生きていけるもんだし、コミュニケーションを取りたかったらボディランゲージでなんとなく意思疎通ができる生態してるからね。しかもなんなら最近は超イージーなことに字幕まで出てたので周りの人の会話がどんなもんなのか分かってたし。
いやてかそもそも字幕ってなんやねんってなる諸兄らの気持ちも分かる。ウンウン。俺もこの間そのくだりやった。最初に見た時はめっちゃ二度見した。
比喩表現でもなんでもなく、マジのガチで視界の左下の方に文字が出てきているのだ。あのーあれね、実績解除の通知が見えるのと同じ感じね。いやあれが見えてるのがそれはそれで普通の人間としてはおかしいのは分かってるんだけどちょっと上手いこと説明できなくて……。
たとえば、俺は「ハァン?」とか「フゥンフア」とか聴こえている状態で、視界の端に「なとり:元気か?」とか「あるみ:今日は天気が良いわねえ」とかみたいに、何故か会話が見える。見えるようになったのは割と最近、具体的に言うと石神千空関連の通知が来る数ヶ月前くらいからだ。聴覚情報と視覚情報の不一致が甚だしくて当時は混乱待ったなしだった。あーね、マイクラの配布マップで会話劇があるときとかってこんな感じだよね〜とは思ったが残念ながらここは現実である。デデドン。
ちなみにこの字幕、話者の方へ視線を向けてなくても俺のことを意識して発された言葉は文字に起こされる仕様だった。無駄に便利。地面向いてても空見てても視界の隅に字幕が見える。
最近は誰が喋ったか分かりやすいな~と受け入れていたがやはりなんかが本当におかしい。俺の脳味噌がおかしいのかこの異世界がおかしいのか分からないがとりあえず受け入れてしまった俺の適応力がおかしいのは確か。俺のメンタルがタフ過ぎてすまねえ……。
んで。
なんで今この説明をしたかというと、俺を取り囲んでいる人達のひそひそ声が字幕で全力貫通してきちゃってるからに他ならないわけなんだが。
どーしたもんかなぁとぼんやりしながら左下に流れていく彼らの会話ログを見る。会話ができることにとりあえず驚かれているらしい。俺もびっくりしてるところというかむしろびっくりしたかったところなんだけど! 俺もその話題入りたいよすげえタイムリーなんだよこんな衝撃の連続じゃなければ泣いて喜んでたところだったんだよ!!!
「おい、クレイ!!」
「はいっクレイです!!」
思いの外勢いよく呼び掛けられて反射的に大きな声で返事する。ちらっと左下を確認。呼び掛けてきたのはクロムくんというらしい。えーっと昨日までで面識……面識多分ないな……ほぼほぼ初対面だな……いや昨日までで村の皆の顔基本アレックスにしか見えてなかったから確信はないんだけど……。
「お前、なんで今まで村の奴らとお喋りする時にフゥンとかハァンしか言わなかったんだ?」
すっっげえ単刀直入に聞いてくるんですけどこの子。
「んえ……エート……まあ、ちょっと色々あって……」
「色々ってなんだよ!」
色々は色々だよ!
まさか「俺にはきみたちがフゥンとかハァンとか言ってるようにしか聞こえなかったから会話する気にならんくて俺もフゥンハァンで返事してました」とは言いづらい。だって多分この口ぶり的に彼ら視点だと普通に話しかけてたのに俺が「フゥンハァン」って返答してたっぽいもん。もう明らかに俺がキチガイじゃん!! なんでだよ俺視点はみんながそう言ってたから鸚鵡返ししてただけなのに!!
ちょっと旗色が悪いから他の話にさせてもらおう、と思って俺を連れてきたお嬢さんを見る。
「それより、アノ、えーと……なんで俺はここに連れてこられたの?」
「ハッ!! 貴様は物作りにめっぽう向いているだろう? 我々は今人手が足りんからな、カセキと共に物作りチームに加わってもらいたいのだ!」
「カセキ……カセキ爺ちゃん? え、爺ちゃんいるの?」
「おるよー!」
コハクちゃんという子の向こうから小柄な爺ちゃんが出てくる。カセキ爺ちゃんは俺の両親が生きてた頃に何くれと面倒を見てくれた人だ。ここ数年はフゥンとかハァンしか言ってなかったからコミュニケーションがあんまり取れてなかったけど、俺がうっかり大量クラフトしてぶっ倒れてた時に助けてくれたり何か困ったことはないかと偶に小屋の方に見に来てくれたりしていたので俺としてはすごくすごく恩のある人である。今まであんま喋れなかったけど!!
「久しぶりじゃなあ、クレイ……こうしてお喋りできるのなんてもう何年ぶりか……」
「わっ、な、泣かないで……ご、ごめんよ爺ちゃん」
俺的には爺ちゃん達がずっとフゥンハァン語で喋ってたんだけど……! 俺はそんな悪くないと思うんだけど……!!
でもやっぱり恩のある相手がよよよ、と泣いているのは忍びないので謝りながら慰める。カセキ爺ちゃんなんか前より縮んでるから余計に罪悪感がががが……。
「えっと、えーっと、爺ちゃんもその、物作りチーム? ってやつなの?」
「そう! チョー面白いもん作れちゃうから! 楽しいんだから!」
「ンン〜〜良かったねエ〜」
爺ちゃんがニコニコで俺もニコニコですよ。カセキ爺ちゃん、背が低くて頭が俺の胸より下にあるからすげえ撫でたくなる。さすがにそんな関係値じゃないから撫ではせんけど。さすがにね!!
「なァに他人事みてーな感想してンだ」
少し離れたところにいた男の子がこちらに話しかける。
特徴的な髪色だ。毛先だけ緑を帯びた白髪。全力で重力に抗ったヘアスタイル。真っ赤な瞳。この村の人ではなさそうだなと視界に入った時から思っていたけれど、確信が今持てた。
「俺ら科学王国はさっきコハクも言った通り万年人手不足でなァ。オトモダチにでもなんでもなってやっから、とっとと協力しやがれってんだ」
左下の字幕。
セリフの前に書いてある話者の名前は───
───石神千空。
「アッッッ石神千空大先生!!!?! いやマジでありがとういつもありがとう本当にありがとうお陰様でガチのマジの本気で助かってるセンキュセンキュ任せて俺ができることなら何でもするから!! とりあえずお近づきの印で手持ちの素材全部献上するね!!!」
何故か全員から「なんだコイツ」って顔をされてしまった。解せぬ。
マインクラフター
「本気で助かってるって何の話だよ」
「え? 俺の生活をめちゃくちゃ豊かかつ便利にしてくれてるじゃん。おかげで毎日楽しく過ごせてるから……」
「あ?」
「えっ?」
凄まじく怪訝そうな顔をされて戸惑う。
あ、あれっ? もしかしてレシピ共有とか実績解除とかって石神千空から俺に向かっての一方的なもんなの?? 俺から通知いってたりとかしない? うーんしてなさそうですね……。
てことはつまりもしやあれら全て石神千空大先生が意図してやってたもんではない……?
「クレイ、きみは村人との関わりが全くなかったと私たちは思っているんだが……千空のおかげだと、一体誰から聞いたんだ?」
うーーーんまさかこれで「なんか視界の端でそういうお知らせの字幕出てんだよねー」なんて説明できるわけがないよね。だってなんか誰一人として「あ、もしかして……」みたいな顔してる奴いないもんね。これ馬鹿正直に答えたらこいつ頭おかしいって思われるよね多分。
えっ待ってつまりもしかして皆マインクラフターなの分かってない!? さすがにこの見た目と言動の個性の立ち方的にNPCではないだろうけど、えっ!?!? プレイヤー自覚してんの俺だけ!!!? まじかよ!!
衝撃的すぎる事実に打ちひしがれているのをひた隠しにしながら、とりあえず今は質問に答えなくちゃと必死で脳味噌を働かせる。
「えーーっと、げ、ゲンくん、あさぎりゲンくんが、教えてくれて」
確か言ってたよね!!? 記憶力に自信がないけど、確かゲンくんも「石神千空さんのおかげで生活豊かになったよね」って話に同意してたよね多分!
必死こいて考えて無理矢理絞り出したそれに、石神千空とコハクちゃんとクロムくんが顔を見合わせた。えっ何。
「……クレイ、テメーあさぎりゲンを知ってんのか?」
「えっうん。この前怪我してたゲンくんと遭遇したツカサテイコクに送り届けてきたよ?」
「!」
何故か全員の目が見開かれた。なになになになにこれ以上俺の心をひりつかせないで今俺頭パンクしそうなんだから! なんか回答ミスった!?
「送り届けてきた? ツカサテイコクに?」
「え、あーいやそんなジャストの場所じゃないらしいけどね? あのー、ちょっと手前側まで……アッ!!!」
「どうした」
話している途中でふと気付いたやつで慌てて手で口を押さえる。がまあ時既に遅しというか当たり前なんだけど出した言葉というのは戻らないわけで。
うわーっ、やらかした! 俺これめっちゃ怪しいじゃん! いやちょっと俺ってば正直者過ぎるから! この場合は正直というより考えなしに話しちゃったという方が正しいんだけど、まあここまで言っちゃったならここで黙る方がより怪しいかと観念して全部説明しきる。
「……そのぉー、ツカサテイコクって、なんか俺らの村の敵? かもしれない? らしいじゃん……?」
「あ゛ー、そうだな」
「いやっごめん、すみません! 俺も利敵行為するつもりはガチでなくて! なんも知らないで怪我人送り届けたらそうなっちゃったと言うかっ!」
ガバっ! と頭を下げる。が、思ったような反応が返ってこない。
ぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開けると、いつの間に移動したのか少し離れたところから遠巻きにこちらを見ている子達と、それから左下に字幕が見えた。
「これは……完全に誤解してるな」
「つかこいつなんでこんな中途半端に知ってるんだよ」
「まあゲンのせいだろうな」
「いやクレイがそもそも村の連中と会話しねーから!」
向こうはヒソヒソと話してるつもりだろうし実際声は聞こえてこないんだけどもうこれぜーんぶ筒抜け。字幕貫通しちゃってる。あと誰ですか最後に俺がぼっちだったのが悪いって言ったの。そういう本当のこと言うのよくないよ!
「ま、思ったより話通じそうだし全部説明してやっていいだろ」
「……おう! 千空がいいなら俺はいいぜ」
「ああ、私も同意見だ」
よく分からないけどなにやら決着が着いたらしい。
手招きされるのでほいほいと近寄った俺は、そこでえげつない量の情報をぶち込まれることになったのだ。
◇◇◇
「……ええーーーと待って待って待って。ええ? 情報量多過ぎなんだけど」
「だよな!! 俺も最初千空から聞いた時全然理解できなかったぜ!!」
「ハッ! めっぽう難しい話だからな、すぐに飲み込めなくても無理はないぞ!」
「いやいやいや……え? 確認させてね?
つまり石化光線とやらで人類と文明は一回ほぼ滅んでて? 石神千空は実は三千七百年前に生きてた子で? つい最近復活して科学文明復興しようとしてんだけど、同じく復活した科学文明絶対拒否マンと仲間割れして? そいつは他の復活者集めてツカサテイコクを作ってて、石神千空は科学王国としてうちの村を乗っ取りに来てて? んで今は巫女さん助けるためにアルファ剤作ろうとしてる……
えっ? ここまでで理解合ってる?」
「あ゛ー理解が早くておありがてえな。アルファ剤じゃなくてサルファ剤な。あとフルネームじゃなくて千空でいいっつーの」
「やったーありがと千空くん! ところで千空くん三千七百年とかえっげつないスケールだねマジで生きててくれてありがとうこれ感謝の木材ですどーぞ!」
「おーおー、おありがてぇ」
原木が入っているナップザックを渡された千空くんは実に楽しそうにククク……と笑ってましたまる。千空くん悪人面似合うね! あっこれ褒めてないよ!!
「いや理解できてんのかよ!!」とか「クレイ、きみ凄いな……」とかはしゃぐクロムくんコハクちゃんにドヤ顔していると普通に櫓から追い出された。この櫓は「科学倉庫」で、今から千空くんはそこで探し物があるらしい。
俺と一緒に追い出されたクロムくんとコハクちゃんとそれから近くにいたスイカちゃんに誘われて、千空くんがなんかやってる間にこの「科学王国」の設備を紹介してもらうことになった。ぶっちゃけそんなに広いスペースではないから俺一人でも回れるとは思ったけど、まあ年下の厚意はありがたく受け取っておこうと黙って着いていく。皆マジで良い子だね。お兄さんお礼に鉄インゴットあげようか? 要らない? あ、そう……。
(……イヤーしっかし、なるほどなー)
うーん。じゃあ前にレシピ解放された復活液って千空くんが石化から復活するためのものだったのかー。
───じゃねえわ。
え、てか時間のスケールまじでやば。でかすぎ。千空くんマジで三千七百とか言ってたよね? 誇張表現じゃないよね? てことは今が西暦二千ナントカ年だとそこから三千前ってのはつまり現在は紀元前千年前頃ってことで、確かがっつり弥生時代頃のはずだ。でも千空くんの見た目と言動的に弥生人ではなさそうというかまあアレはフツーに二十一世紀少年でしょう多分。つまり逆だよね。千空くんがいた頃が西暦二千何年とかで、そこから三千七百年経って今に至ると。
ん? てことはつまり今は西暦五千年くらいってこと? アッ、へぇー! えマジ!??!!
なんでこんなに時代考察して驚いてるのかって、だってマイクラワールドって文明発達の四文字から遠く離れた様相をしてるじゃん? だから俺普通にめっちゃ過去に転生したんだと思ってたんだよ。むしろ逆なのかよ。生まれ直し先がまさかのめちゃくちゃ未来なのかよ。
そもそも何? 一回人類は滅んだって。文明は無くなったって。いや怖。しかも復活した人間同士で殺し合いしてるって。怖々の怖。さすがにこの村出身の俺がそんなに色々理解してビビったらばか疑われるだろと思ってさらりと流しといたけど、え? 怖いが。めちゃ怖だが。俺が人生二周目じゃなかったら普通に恐怖でチビってたが。
えっそんでもってそれを千空くんてば復活させるとか言ってんの? 三千七百年前の、あの前世の俺も知るようなハイテクな現代(現代ではない)文明を!? このマイクラワールドに!!? マジで!!? 目標デカすぎ&ヤバすぎでしょ。俺のレシピにMODが次々当てられて適応してったとしても、この緑豊かな自然しかないところで電波とか電子とかバーチャルとかやってた文明と人類を全復活させるとか言ってんのか千空くん。すげぇなオイ。
いやもうさっきからびっくりが止まらない。ついでにしゃっくりも止まらない。見てほら俺の横隔膜がこんなにも痙攣してる。案内してくれる皆には悪いけどちょっと歩きづらいくらい痙攣してるよほら。
「えっえっな、泣いてるんだよ?」
「泣いているな!」
「おい泣いてるぞこいつ……」
「いやあのワラワラと泣き顔見に来ないでくれる????」
見せもんじゃねーんだけどお! と叫ぶと顔を覗き込みに来ていた子どもたちが楽しそうに離れていった。マジでなんなの……? なんかどの子もさっきから俺に近いんだけど。あ何? 俺もしかして珍獣扱いされてる? 確かに村の中では割とレアキャラだったかもしれないけれども。
まあ俺も村人さん達と会話できるのはそりゃ新鮮だし嬉しいけどさあ! 泣き顔を覗き込むのは違うじゃん!
ズ、と鼻を啜る。
「というわけで、今我々が生活している科学王国はこんな感じだ!」
「うん、ありがと。めちゃ分かりやすかった」
とりあえず俺が衝撃を咀嚼している間にひと通り科学王国の設備を紹介してくれた三人へお礼と称していつも持ち歩いている干し肉をプレゼントする。なんかすごい喜んでもらえた。やったぜ。ついでに今見た泣き顔忘れてもらって俺の年上の威厳とか復活させることできませんかね? あっ無理? そう……。
「クレイ、ちょっと手伝ってくれんかのー?」
「ン、はあい」
カセキの爺ちゃんは今は科学研究室を作っているらしい。なんか家の土台と管柱があるなーとはさっきから思ってたけど、まじか爺ちゃんここに家一軒建てるの? ここ地面が若干斜めってるし村の外れというか村の敷地の外だし、建築するのにあんま向いてないと思うよ? いや爺ちゃんが建てれるって思うなら充分建築に相応しい場所なんだろうけどさあ。
「クレイ、建築はお主得意じゃろ? ほら、ワシはガラスで作ってって頼まれたもんがあってのう。頼めるか?」
頷く。頷いてから、これ会話できてなかった時の癖だと気付いて慌てて「分かった」と声に出した。やべー、無言でボディランゲージ会話するのに慣れ過ぎてるよ俺。マインクラフターだからしょうがないんだけど人間としてはアウト。とってもアウト。
回答を聞いた爺ちゃんがにっこりと笑う。
「人手が必要ならクロム達に手伝ってもらいなさい」
「おう! 任せろよ!」
「スイカもお手伝いするんだよ!」
「おお、頼むぞぅ。そんなにデカくなくていいらしいから、頑張ってちょーだいよ。あ、ただコッチ、この発電所ってとこに繋がなきゃいけないみたいだから調整は必要なんじゃけど」
「おっけー」
暫くは意識して言葉にするようにしなきゃなーと反省しながら、コハクちゃんとクロムくんに土台部分を綺麗にしてもらうよう伝えてからスイカちゃんを引き連れて一度村へ帰る。俺の作業小屋に建材がたくさんあるからね。ラボ用に新しく木をきこってくるのもまあアリなんだけど、さっきの千空くんの話聞いてる感じなんかPvP中っぽいし、時間を節約できるなら節約した方が良いだろう。
幸い俺の家で余らせている素材は基本的にすべて生活必需品ではない、俺の「マインクラフターとしてクラフトしたい」という気持ちを満たすだけの「不要なもの」だ。千空くんが望むなら科学復興作業のために全ブッパしたって何も問題はない。
「く、クレイ、これスイカも中入っていいんだよ?」
「えっいいよ?」
何故か恐る恐るのスイカちゃんに「この辺のかまど触ると熱いからこっちの壁際立っててね」と案内してあげて、家に置いてあった予備のナップザックに建材になりそうなもんをどんどん詰めていく。スイカちゃんが自分も持ちたいと申し出てくれたのでバケツをひとつ抱えてもらう。その他はさすがにほら、重そう過ぎて持たせられないって言うか……。
スイカちゃんと一緒にえっほえっほと建材を持って帰っている途中で、ふと思い至る。
「あれっ? そういやゲンくんて結局敵なの?」
だってツカサテイコクの人だよねゲンくん。ツカサテイコクは科学絶対拒否マンがいて千空くん殺したりしてるらしいから、そこから来たっつってたもんね。敵かどうか言い淀んでたからどうかな〜とは思ってたけどもしかしてマジ敵??
「ゲンはいい奴でも悪い奴でもないけど、ひたすらに軽薄なコウモリ男なんだよ!」
「……んーとスイカちゃんその説明誰から聞いたやつ?」
「千空とコハクなんだよ?」
「ン〜〜〜そっかあ〜〜!」
コウモリ男……蝙蝠人間、日和見な奴ってことなのかな。教えてくれたスイカちゃんの頭というかスイカの部分を撫でる。撫でられてる感触は伝わってないだろうけどなんか嬉しそうにしてるからヨシ! ゲンくんが思ったより良い奴じゃなさそうでちょっと悲しいけどまあヨシ!
「あっでもゲンは科学王国がゲットしたんだよ! 重傷だったけど、司帝国が攻めてこないように帰って千空は死んでるって報告しに行ったんだよ!」
「あっそうなの!? じゃあ普通にめちゃ仲間やん」
前言撤回だ。良い奴じゃなさそうとか誰が言ったの? 味方かもとかじゃなくてがっつり仲間じゃん!
えーだってマインクラフターの足で丸一日走り通しの距離って多分まあまあ遠いでしょ。それをあのボコボコ具合で頑張って一人で帰ろうとしてて、そんだけ頑張った理由が「科学王国にツカサテイコクが攻めてこないようにするため」ってマジ仲間思いすぎだろゲンくん。良いヤツ過ぎる。俺も手助けできて鼻が高いよ。ガチで何も知らなかっただけだけど俺超ファインプレーじゃん。
「ただいまー」
「おお! 戻ったかクレイ、スイカ!」
「ってなんだそのデケー荷物!!」
「俺の家にあった建材ー。っし、じゃあとっととラボ作るかあ」
適当に木材と土のブロックを積んで足場にしたり梯子をかけたりしながらトンテンカントンテンカンとラボとなる小屋を作っていく。
実験するらしいから木はあまり使わないほうがいいだろう。腐るのも燃えるのも怖いし。やっぱメインは石かなー。この前作ったモルタルがあったのでそれを塗って補強したり焼き石石ブロック同士をくっつけたりする。十分な建材を持ってきたおかげで材料のクラフトが必要ないので意識も飛ばないしいい感じだ。
ナップザックから建材を取り出すたびにスゲースゲーと騒ぐクロムくんに笑いながら建築を進めていく。
「おっ、さっすがクレイ。もうこんなに出来あがっちゃったのねー!」
「うん、もうほぼ完成。まあ皆が手伝ってくれてたしね、早く済んだよ」
「平然と言ってるが、本当に驚いたぞ。気付いたらあっちもこっちも出来上がっていたじゃないか。私たちが手伝ったとは言うが、ほぼ君一人でやったようなもんだぞ!」
「そうだぜ、俺なんてこの辺の壁にちょっとモルタル塗っただけじゃねーか!」
「いやー、わはは」
ふっふっふ。そりゃマインクラフターなんだから小屋のひとつやふたつ朝飯前ですよ(渾身のドヤ顔)
実は煙突とか電線の処理で困ったのは秘密である。まあ俺だってお世話になっている爺ちゃんと年下の子達の前では格好くらいつけますとも。もう泣き顔晒したり石神千空大先生に歓喜したりしてるとこ見られてるけど、格好つけられるなら常につけておきたい派だ。
「爺ちゃんの方こそ終わった?」
「もうほとんど出来ちゃったわい。んじゃワシ諸々運んでくるね」
「おう!」
「あっ、ねえ爺ちゃんこれ棚こんなもんで足りる? も少し作らなきゃかな?」
「んー、余裕じゃろ。なんならちょっと余るんじゃない?」
「それならそれでいいや。そしたら俺ここに居てもやることないし、一緒に運ぶよ」
「スイカも! スイカも運ぶんだよー!」
今まで集めた素材は土器に入れてあるらしい。さすがに順番とか何がどれに入っているとかは新参者の俺が分かるわけないのでこちらはスイカちゃんや爺ちゃん頼みで言われた通りのものを運び入れる。置いたものをクロムくんがチェックしつつ軽く採取の時のエピソードとか教えてくれるので普通に話が盛り上がった。ちなみにコハクちゃんは別の用事があるとのことで途中で離脱している。
「おうクレイ、お前もなかなか話が分かるじゃねーか!」
「まあね」
俺ってばマインクラフターだからね。そらある程度の素材は集めてますとも!
この石はどこに多くあるだとかこれは初めて見ただとか逆にこれはないのかだとかあーだこーだ言いながら作業している間に気付けば夜になってしまった。
人間との会話……楽しい……! ぼっち歴が長過ぎてこうやって会話が盛り上がるの本当に嬉しいし毎回噛み締めちゃうんだけど。早く慣れていきたいところではあるんだけど。口元が思わず緩んでしまうのを止められない。
「クレイ、お前今日どこで寝るんだ?」
「寧ろ逆にきみたちがどこで寝てんの?」
「そのへん」
そのへん?????
まさかこの子達ベッドとかいう概念ないのか? てか家に帰らないでこの辺りで寝てるの??
聞くと、千空くんは余所者だから村の中に入れないらしい。門番の子曰く「ルールはルール」だと。そうだったんだ……俺そのルール初知りだよ……。
まあそれなら簡単にベッド代わりになるものでも作るか、とラボから少し離れたところでまず作業台をクラフトする。
羊毛がないからベッドのレシピは解放されてない。けど、木枠くらいならパパッとクラフトできる。レシピ参照できてないから強度も若干不安だけど、俺が乗って歪みも軋みもないから大丈夫だろう。
「クレイ? 何やってるんだよ?」
「えーっと、まあ多少お役に立とうかなーと」
幸いなことに数年集めたクッッッッソ大量の羽毛が俺の家にある。この村の周りで水鳥を捕まえられるから、あいつら捕まえて食べる時に捌くついでに羽取ってたんだよな。昔羽ペンとか作れねえかなーと思って羽集めた時期があって結局ペンは作れなかったけどその癖が残っていて、ただ収集するだけになっていたのだ。もちろん保管にあたってこれでもかってくらい煮沸消毒はしてある。いや良かったー、たまに干したりしてて。おかげですぐ使えそうだ。
大急ぎでチェストごと羽を持ってきて、それをせっせと動物の皮で作った超でかい袋の中に詰め込んで、さっき作った木枠の上に羽毛を詰め込んだそれを乗せる。よし、思ったよりでけえわ。これベッド四個分くらいいけるな。同じサイズの木枠をこれまた三個ほどクラフトして二×二で連結する。理論上はこれで四人寝れるし、皆細くてちっこいから詰めればもう少し多く寝れそうだ。ズレないように紐で固めて上からもう一枚皮でできた布を被せる。
「クロムくーん」
「ん? あっクレイ、おめーなんで会話してる途中でどっか行ったんだよ!」
「ごめんごめん、寝床クラフトしに行ってたわ。あっちに作ったから、良かったら試しにちょっと寝そべってくれない?」
「いいぜ!」
快諾してくれたクロムくんと、ウキウキしてる爺ちゃんを連れてベッドの方へ戻る。
「ってなんだこれ! すげーデケェんだけど!」
「おほー!」
「ふふーん、やったぜ。これ今即席で作った頭の悪いクソデカ寝床。何人までいけるかとか強度とか見たいから試しにそこに寝てくれると助かる」
「おう! ってスイカがもう寝てるじゃねえか」
えっいつの間に。
スイカちゃんが来たタイミングも寝たタイミングも全然分からんけどまあいいかとスヤってる彼女を避ける形で爺ちゃんとクロムくんが寝っ転がる。と、ものの数秒でクロムくんから小さないびきが聞こえ始めた。
「えっ」
慌ててカセキの爺ちゃんを見るが、こちらも既に寝ている。えっこわい。だってそれはなんかもう気絶じゃない?
とりあえずベッドはびくともしてないし皆寝てもすっかすかなので強度と広さは問題なさそうだが、今度は別のところが不安になってきた。え羽毛の成分で人間は気絶するとかないよね? さすがにこの二人がめっちゃ疲れてたからとかそういう話だよね? ね??
とりあえず寝ている彼らの体が冷えないようにと風下のちょっと離れたところに焚き火を組んでいると、「クレイ?」とコハクちゃんが寄ってきた。
「クロムやスイカを見なかったか?」
「ああ、二人ならそこで今もう寝てて……」
「……なんだあれは?」
「俺が作った寝床……えーーーっと、野郎との雑魚寝が気にならないなら、良かったらコハクちゃんもあそこで寝る?」
「いいのか!」
いやそんなめちゃくちゃ興味あります! って顔で見られたら提案もしたくなりますよそりゃあ。
どうぞと手で示すとコハクちゃんがスイカちゃんの近くにいそいそと乗る。そして五秒後には彼女からも寝息が聞こえるようになった。えーん怖いよー、こんな即席も即席でクラフトしたベッドにどんな威力がついちゃってるわけ? 何の効果で皆こんな即落ちなの???
「……クレイ? 何してんだテメーそんなとこで」
「自分で作った寝床の凄さに慄いてた……エなんかマジで皆即寝なんだけど何これ……」
後ろから話しかけてきた千空くんに示す。
驚いた様子の千空くんがみんなが寝ているベッドの材料を聞くので正直に答える。と、羽毛の多さに怪訝そうな顔をされた。まあ確かになんで今までこんなに集めてたんだって話だよね。
弁解しつつ羽ペンを作ろうとして作れなかったエピソードまで話すと笑い飛ばしながら「水鳥よりもっと羽軸がでけえやつ狙え」なんてアドバイスまで投げてくれた。さすが千空様々である。今度やる時ちょっと協力してくれよめっちゃ成功しやすそうじゃん。
「あ゛ー、これは……こりゃこいつら全員寝るわな」
「えそんなに?」
「あ゛ぁ。はは、まさか文明が滅んだ後の世界で人をダメにするベッドに乗るたあ思わなかったぜ」
はい??
人をダメにするって、あれか。ビーズクッションの。えっいやあそこまでの密度も細かさもないよ!? いくらなんでも寝返り打てるようになってると思うよ!?
あっもしかして村の皆このレベルの柔らかい寝床に今まで寝れてなかった感じ……? うっっわまじかちょっ待ってなんかダメージあるわ。年下の子達のが健やかに過ごせてない……やばい……待ってろよ今度羊見つけてこんなバカみたいな寝床じゃなくて上等なベッドをクラフトしてやるからな……。ちなみに俺は普段は寝床を置くスペースがないので適当に藁の上に動物の皮を被せて寝ているか作業小屋で蹲って寝てる。
「……」
まあ、なんにせよ喜んで寝てもらえてるならいっかと思って、ベッドの角の方に寝っ転がって気の抜けた顔をした千空くんにおやすみなさいの声を掛ける。
「おめーは……」
「や、さすがにそこにあと一人は乗らんでしょ。俺割とまだ元気だし、ついでだから火の番でもしてるよ」
「そーか」
皆そこそこに余裕持って寝ているけど、追加であと一人が寝るとぎゅうぎゅうになりそうだ。千空くんだって全身は乗せずに別との縁から足は出してて上体しか寝れてないし。それ体痛めるからやめた方がいいと思うよ俺。
「……クレイ。お前も適当なところで寝てろよ。明日以降はがっつりあれこれ作ってもらうからな」
「わかっ……返事する前に寝てるのマジ??」
スピースピーと実に可愛らしい寝息が聞こえてきて笑う。
てかなんかいつの間にか俺もなし崩し的に千空くんの科学革命軍のチームに入れられてるっぽいね? 別にいいけど、というかむしろ嬉しいくらいだけどさ。
「……」
パチパチと弾ける焚き火の炎を眺めながら、ぼーっと意識を飛ばす。
今日はかなり激動の一日だった。皆とお喋りできるようになった感動を噛み締める間もなかったくらいだ。誘拐はされるし、えげつない情報を渡されるし。ここ数年間ぼっちでもくもくと素材採取とクラフトだけして過ごしていた奴とは思えない濃ゆさの一日だった。
短時間かつさらっと流されたけど普通に泣いちゃったのは多分、それだけ心が動かされちゃったからなんだろう。
故に。一人で静かな夜に浸されると、気持ちがやけに浮つく。
どことなく昼間の忙しさが他人事のような気がして、本当に俺の身にあったことなのか自信がなくなるというか。ハッと起きたら実は森の中で一人なんじゃないかって、これはクラフト中に見ているだけの、記憶にも残らない夢なんじゃないかって。
ああそうだ、残念なことにこの浮わつきはあまりポジティブな意味ではない。それでもこうしてそわつくのはきっと、もうひとりぼっちに戻りたくないからだ。
「……!!」
頭をブンブンと振る。変な感傷を振り切るように、必要ない部分だけ振り落とすように。原動力となる程度ならいいけど、足を引っ張るほど重い感情は邪魔なだけだ。大丈夫、俺が一人で孤独に耐えた夜が何度あったと思ってんの。これくらいの気持ちとの付き合い方なんてもう知り尽くしていると言っても過言! 残念! でもやり過ごし方くらいはもう知っているのだ。
こういうときは、とりあえず体を動かすことあるのみ!
(っしゃ、せっかくだしなんかお仕事やろ!)
そうと決まれば、とパッと立ち上がって移動する。月明かりがあって良かった。おかげでまあまあ周りを見渡すことができる。
あまり大きな音は立てない方がいい。静かに、素早く、なるべくみんなから離れた場所へ。作業台を運び出してチェストをひとつ作る。一個だけなのでクラフト時間もそこまでかからない。
新品のチェストを持って除冷窯へ向かい、フラスコやらビーカーやらを取り出して、割らぬよう丁寧かつ慎重にそれらをチェストへ移す。夕方に土器を運んでいる頃はまだ冷め切ってなかったが、さすがにこんな時間なのでどのガラスも十分に固まっていた。
えーこれ作り方今度教わった方がいいかなー。ガラスのレシピ自体はこの前解禁されてるから俺でも作れるけど、こういう細工というか造形のレシピはまだ来てないから多分作れないんだよな。ちなみに今出来上がってる諸々は全部カセキの爺ちゃんが作っただけあって形も大きさも均一だし何一つとして歪みがない。かっけえよ。さすがですカセキの爺ちゃん。
よいせ、とチェストごとガラス製品を持ち上げる。マイクラではチェストを運ぶ時はチェストを破壊して中の物が散らばる仕様だったが、現実ではリアル的な処理が優先されるらしくて中に物を入れたまま抱えて持ち上げることが可能なのだ。マイクラのシュルカーボックスみたいな感じ。それを運んで、今日俺が作っていたラボへ持っていく。
どういう順番で棚にあるといいのかな。とりあえずなんか特徴的というか変な形してるやつより三角フラスコとか丸底フラスコとかビーカーとかの方が使用頻度は高いか、となるべく手前に置く。てか爺ちゃんマジですげえな、こんな原始的なマイクラワールドでこんなにも理科的な実験器具って作れていいもんなん?? マジですげえよ。
「……うーむ」
全ての説明をされた時。明るくて眩しい少年少女の思いを聞いて、衝撃は受けたけど率直に俺は素敵だと思った。三千七百年前の科学を甦らせる。人類文明を再興する。全人類を復活させる。素晴らしい。理想的だ。
それをまっすぐ宣えるほど魅力的な人間性をしている彼らに、「ひとりになりたくないから仲間に入れて」とは言いたくない。既にチームの一員としてカウントされてるっぽい気はするけど、俺だって役に立てるなら役に立った上で仲間になりたい。
ポジティブな言い方をするなら、俺の力を皆に認められたい。
正直な言い方をするなら、俺の唯一無二な何か価値を出して、彼らに捨てられないようにしたい。
(とりあえず今は爺ちゃんのスペア的な感じっぽいもんなー)
ことん、ことん。ガラスでできたそれらを置きながら唇を尖らせる。
敢えて勝ち負けの言い方をするけど、今のところ爺ちゃんより勝ってる部分がほぼないんだよな俺。若さとか? でも俺より爺ちゃんの方が体力も筋力もあるだろうしな。技術と器用さは言わずもがな。さすがに何十年と職人やってる爺ちゃんには勝てない。長時間クラフトについてはワンチャン勝てるかもだけど、それやってる時って俺の意識ほぼないし、そもそもクラフトなんて短時間であればあるだけ良いだろうからあんま強みでもないしなー。
俺って何ができるんだろ。また除冷窯に引き返してさっき運びきれなかった器具をチェストに入れ直しながらぼんやりと考える。ひとりで呑気に気儘にクラフト生活してたせいで今まであんまり考えたことなかったな。ぼっちで生きていく力というのは充分あると思うけど、他の人に役に立つことという観点でできることが少ないのかも。
「……ま、いっか」
明日以降千空くんが俺に仕事を振ってくれるみたいだし。それをこなしながら、ちょっとずつ俺もこのチームで自分のできることを探していこう、うんうん。

























なんだったんだフゥンハァン期……