Novel4 years ago · 2.1w chars · 1 pages

何故かおれだけファンタジー

とーたとーた

dcst沼が深くて抜け出せない。 クロスオーバーやりがち人間がdcst×魔法を書きたくならないはずが無かった…… ノリといきおいで書きました。 ※なんでも許せる方だけどうぞ。 前作のdcst夢へのブクマ評価ありがとうございます。続きは今作も含め未定です。

※以下、必読↓
・dcst夢
・微クロスオーバー(×ハリポタ)
・男主(固定名アリ)
・≠BLD
・捏造・ご都合主義
・魔法の独自解釈・捏造アリ
・時系列・季節感のご都合変更&捏造
・ノリと勢いで書いてる
・なんでも許せる方向け

※以上がダメそうな人はリターン推奨

※読後の苦情はおやめください。
誤字脱字のご指摘はコメント欄ではなくメッセージへ

Prologue

​─────気がつくと大自然の中にいた。

何を言ってるかわからねーと思うが俺も何を言っているかわからない。ただひとつ言えるのは此処が己が先程までいたはずの場所でも、行くはずだった場所でもないということである。

「どこここ」

オーケー。落ち着こうぜまずは深呼吸だ。突拍子もないこの状況に冷や汗をかきながら独りそう口に出した。予想外の出来事が起きるなんていつものことじゃないか。うん。

小学校卒業を目前に魔法学校なんてものに入学させられて早七年。住み慣れた日本ではなく英国の寄宿学校生活が突然始まってキレ散らかしたのはいい思い出だ。当たり前のように皆箒で飛ぶわ絵画や新聞は喋るわのファンタジーすぎてツッコミどころ満載な状況には慣れたものではある。しかしまあ、こいつはちょっとどうしたらいいか分からない。

何せ俺はたった数分前までイギリスにいた。イギリスから日本の実家に帰ろうとしていて、ポートキーを使ってキングス・クロス駅から故郷である日本へ向かう手筈であった。それがどういう訳か向かうはずだった日本の魔法省とは似ても似つかない、大自然の真っ只中に突然転移したのである。なんのこっちゃ。

人の気配は一切ない。樹齢何百年モノと思わしき太い樹木と鬱蒼と茂る草。舗装されてない土臭い地面。辺りを見渡しても人工物らしきものが無い上に、最大にして最悪の問題がひとつ。

「まじか、杖失くしたんですけど」

有り得ない。俺の魔法使いとしての武器であり相棒。入学時ウキウキワクワクで初めての魔法の街でオリバンダーの爺さんから買った大事な杖。それが手元にない。え、どこで落とした?こんなことある??

もしかして:詰んだ

マジでほんとに待って。杖が無くてはどうしようもない。何せホグワーツに電子機器の持ち込みは禁止なのだ。携帯電話なんてものは無論持ち合わせていない。トランクは別便で送ってしまったし、手持ちの鞄の中身はろくなもんが入っちゃいない。暇つぶし用の本と筆記用具。入国書類。それと保温保冷魔法のかかった水筒のみ。ポケットには魔法使いの成人祝いに貰った純銀の懐中時計と、車内販売で友人が買ったバカクソ甘いキャンディだけだ。使えねぇなまじで。

この際もう杖がないのはどうしようもない。

落ち着け。そうだ。杖がなくてもできる魔法だってある。

「​─────嘘だろ」

ワンチャン願い込めながら実家を思い浮かべて"姿くらまし"をしてみた。術そのものは成功だ。

しかし、姿を現したその先に求めた場所は無かった。

確かに実家を思い浮かべて俺は姿くらましをしたはずである。だというのに、目の前には先程とは異なるもののほぼ同様な人の手のつかない自然が広がっていた。魔法の失敗?いや、移動自体は確実に成功しているのだ。こんな自然のど真ん中に飛ばされるなんて信じがたい。ていうか有り得ない。

「……なんだこりゃ。……石像?」

ふと随分とリアルで細かい彫刻の石像があることに気づき、立ち止まった。木々に寄り添うようにまたは土に埋もれるように転がっているソレの数は、ここら一帯を見渡すだけでも数十を超えている。

​─────まさか、

一体づつ異なるポーズや表情。やけに人間味があり、まるで本物の人間が固められたように見えた。本物か?なんて馬鹿な憶測を立てて、己の考えにゾッと背筋が凍る。

石になるといえばバジリスクか?はたまたメデューサか。前者はマジモンで実在していたらしいけど、後者は事実伝説上のものだ。少なくとも文献でしか見たことも聞いたこともない。しかしたとえそんな怪物が日本にいたとしても、これだけ大勢の人を石化なんてさせられるものか。

とにかく人間を探そう。魔法もまともに使えない上連絡手段もない。誰かに助けを求めるしか手はない。どこかに人がいる場所があるはずだ、と道路もない森の中を草木を掻き分けながら歩いた。

*

記憶にある場所へ姿くらましを試しつつ何キロも歩いて人を探し数時間。探せど探せど民家はおろか、生きてる人間すら一人も見つけられていない。ただ、人の形をした石像はそこら中に溢れている。

こんなにわかりやすく富士山があるのだから此処が日本であることは間違いない。が、不可解な点が多すぎる。例えばだ。俺が帰国しようとした時に日本がこのような状況になってしまっていたのだとしたら、もっと早くにイギリスに情報が来るはずである。あの石像たちが人間で、人間が石化してしまったという憶測が正しいのだとしても、建物も道路もない上に自然遺産ばりの環境がこれだけ広がっているというのはおかしい。まるですべての人間が石像になってから悠久の時が経ってしまったかの様な、そう、まるで滅びた世界の様ではないか。廃墟すら残っていないとなると、数百年以上は経っているとみていい。

​────ポートキーによる魔法事故ではない。姿くらましも失敗ではない。しかし、ここは己の知る世界の有り様ではない。

「タイムスリップか?」

もしくは異世界トリップか?それしかもう考えが浮かばない。魔法のある世界だぞ。そんなアホみたいな出来事、たとえ平凡でなんの取り柄もないこんな俺にでも、起きてしまっても不思議ではない。

有り得ない状況に泣きたいところだが、泣き喚いたところできっと誰も助けてはくれないのだろう。ならば前に進むしかない。柄ではないが、気合いで何とかしようと拳をぐっと握る。まずは衣食住をどうにかしなければ。

*

タイムスリップまたは異世界トリップ(仮)をして約一週間。手持ちの時計は正確に動いている様で時間を見るのには困らなかった。24時間ごとにノートに記録をつけて、何日経ったのかを把握する。

食べ物は野草やきのこ中心になんとか賄う事ができた。勿論足りないしめちゃくちゃ腹減ったけども、ポケットのキャンディは最後の手段としてとっておいてある。

植物の見分けがつくというのは便利なことであると実践でようやく実感している。こんなところで薬草学の知識が役立つとは思いもしなかった。ありがとうホグワーツ。ありがとうスプラウト先生。学問って活かせば使えるもんだなと感動の連続の毎日だ。

ちなみに、魔法はちょみっとだけ使えた。

杖無しの魔法ではあるが、試しに集めた枝に手をかざして3分くらい集中して念じると火がついたのだ。火おこしの方法なんて知らないからこれは超絶ありがたいことである。ただしハチャメチャに疲れる。なにかの魔法学論文だかなんだかで読んだが、魔法エネルギー=生命エネルギーという理論がある。魔法を使うのには対価が必要であり、その対価とは身体の体力気力の様な部分。魔法使いは魔力としてそのエネルギーを放出することで魔法を使える、という考え方である。その魔力放出を効率良く行う為に杖があるのだ。杖がない状態での魔法というのは、ハチャメチャに効率が悪い上にコントロールが難しい。杖ありの魔法と比べると使用後の疲労がとにかくものすごい。ただ疲れるだけならまだしもお腹が空くのが困ったもので、食料が十分な量を確保できない現状で魔法をそう簡単に使う訳にもいかなかった。

「箒があればなあ」

もう少し遠くまで行けるのに。それどころか空からこの世界の様子が見れる。もしかしたら人がどこかにいるかもしれない。流石に箒をつくる技術はないし、作れたとしても碌な出来にはならないのが目に見えている。空から落下して死ぬなんてのはごめんだ。

地道に歩くしかないというのは中々不便である。現代の公共交通機関のありがたみをヒシヒシと感じる。

「つーか子供の時って杖なしでも魔法使えたよな」

魔力暴走とも言えるが。魔力そのものは身体に宿っているのだから、杖を持たない子供が魔法を使ってしまう事はあるあるである。コントロールが困難だとしても、それも魔法であることに変わりはない。入学して杖を使っての魔法に慣れると、杖ありきの魔法が普通になってしまうのだろう。大人で杖なしに魔法を使ってる人を見たことがない。杖無しの魔法ってすげえ集中力要るし、魔法の出力の効率化とコントロールの為に媒体として杖を使うのだ、たぶん。何か媒体になるものがあれば杖でなくても魔法が多少は使いやすくなるかもしれない。

「杖代わりの媒体なんかねぇかな」と考えながら、特に目的地も無く居住地点から少し離れた辺りを散策する。良さげな木の枝を拾って杖代わりにしてみたら燃えてしまったので、芯の無い木の枝は杖にならないというのはすでに実証済みである。やはり魔力の帯びたものではないと駄目らしい。

「…………足跡?」

足元を見ながら歩いていると、明らかに動物のものでは無い​──人間が歩いた様な痕跡を発見した。まじで?

「───アパレ……あー、くそ。杖がねぇのホント不便だな」

急いで追おうと足跡を現す呪文を唱えかけて、杖無い問題にぶち当たる。魔法使うのが当たり前になってるから癖で手元に杖がなくても条件反射で呪文が口から出るのだ。慣れって怖い。

もうこうなったら地道にこの土を踏んだ足跡を目視で確認しながら辿っていくしかない。敵意がなく、かつまともなコミュニケーションがとれる人間がこの先にいることを願って、俺はひたすら走った。

*

「​───────……村だ」

飛び込んできたその景色に、トリップ(仮)をしてから久々に呆然と立ち尽くした。

人間がどこかにいるだろうという期待は抱いていたものの、ようやく見つけた足跡ひとつ辿ってみたらこんな立派な集落があるとは思いもしない。驚きと戸惑いと、安堵。一人じゃなかった、と他にも人間がいた事実に打ち震えた。

「……はは。キタコレ」

じっくり遠目から見ると、岬の様な形で飛び出た丸い土地に茅葺きっぽい屋根の住居がいくつか建っていた。少なくとも10人以上は人が住んでいそうな様子である。

とにかく近づいてみよう。と、村へ向かって歩いているとやけに明るい色の着物の様な服を羽織った男が木々の隙間から視界に入った。

「!!」

人間だ!とその人影を認識するやいなや、声をかけようと駆け出し叫ぶ。

「​────ちょっとそこの人!ストップ!!」
「ん!?」

羽織りの男は声に気づき駆け寄ってくる俺を目にすると、目を丸くしながら立ち止まる。ストップで止まってくれたということは、少なくとも英語は通じるらしい。

「ありがとう止まってくれて!あっ日本語通じる?」
「えっ、ウン?日本語は通じるけど」
「良かった〜!あの村の人?あ、俺怪しい者じゃないです。色々確認したくて」

白黒に分かれた個性的な髪色の彼は、俺の質問に怪訝そうな顔をした。とにかく警戒されないようにできる限りの笑顔で話しかけたが、逆に怪しまれてたりする?

「​──ん〜、司ちゃんのとこから来たワケじゃなさそうね。もしかして自力復活者?……いや、それにしては服がなんか……んん〜?」
「……復活者?」
「石化自力で解いちゃった人のコト」
「石化……、あの石像ってやっぱマジモンの人間なのか?」
「……えっ、石化のこと知らないの?ジーマーで?​───うそ、キミ石化した人類じゃないの?」
「人類って石化したの?」

マジで?と、石像もしかして人間説当たりじゃんと驚きながらそう返す。予想外の反応返されちゃったとばかりに、羽織りの男は笑みを固めた。

「俺じゃ手に負えなそうね」と呟いて、一緒に来て〜と男は手招きしながら村の方向に歩き始めた。後を追うように着いていくと、村からは少し離れた場所に高台のような小屋。それともう一つ。こっちは頑丈そうな作りの漆喰の壁っぽい建物のある広まった場所へ出た。

「千空ちゃ〜ん、お客さーん」

頑丈そうな建物の入口にひょっこりと顔をのぞかせて、中にいる誰かを男が呼ぶ。数秒置いてのそのそと出てきた人間、同い年くらいのその少年は連れてこられてポツンと立っていた俺を見て、目を丸くした。

「……は?」
「うんうん千空ちゃんもそういう反応よね」
「……おいメンタリスト」
「んー森で俺に声掛けてきたんだけど、なーんかバイヤーな感じだから連れてきちゃった♪今までに無いパターンの!あ、そういえば名前も聞いてなかったね〜。俺はあさぎりゲンって名前で、こっちは千空ちゃん。シクヨロ〜」
「え、ああ。俺はナツメ。えっと、よろしく?」

戸惑いながら自己紹介をすると、千空ちゃん、と呼ばれた少年は俺の方をじーっと観察し始めた。こう、なんというか少々変わった髪型をしている。あさぎりゲンに比べ服が随分と原始的だ。

「……ナツメっつったか。テメェどっから来た?​────その服はシルクか?」
「え。……えー、服の素材は知らないけど、俺怪しい者じゃない……って自分から言うのもな。どっから来たっていうか、迷子で」
「迷子だァ?」
「変な事言うかも知れないけど、気づいたらこの世界にいたっつーか。いまが何年で此処が何処なのかもよくわかってない」

そう言うと千空くん?が盛大に眉を顰めた。

「……今から言う質問に応えろ」
「え」
「出身地、年齢、記憶にある西暦は?」
「うん?」
「いいから大人しく答えやがれ」

うーん。すげえ遠慮なくグイグイ来る。戸惑いながらも質問の内容を答えていくと、難しそうな顔をしながらさらに質問を重ねてきた。

「……元いた西暦は俺達が石化した年と一緒みてぇだが……この"石の世界"に"気づいたら"いたんだな?その前何をしたか覚えてるか」
「……えーと。俺英国にいて、日本の実家に帰ろうとしてたとこだったんだけど」
「英国っつーことは飛行機か。搭乗してたのか?」

ふむ、と顎に手を当て考える仕草をしながら、千空は俺にそう尋ねる。普通は飛行機使うって思うよな、そうなるよな。バカ正直にポートキーうんぬん魔法うんぬんを答えるわけにもいかず、濁しながら事実だけを口にした。

「いや、直前は駅にいたんだ。ロンドンのキングス・クロス駅。そっから移動する予定で……んで気づいたらこの世界にいた​──っていうか、さ」

​───────人類石化したってなに?

先程から一番気になっていたそもそもの問題を聞いてみる。そこら中にあった不自然な石像たち。ゲンも千空も石化について当たり前のように口にしているところを見ると、人類が石化したって話は冗談でもなんでもないのだろう。千空は俺の問いに、耳を弄るような仕草をしながら静かに答えた。

「…………地球上にいた全ての人類が石化した。今は西暦5739年だ。約3700年経って、人類が築き上げてきた文明は滅びた。見ての通り自然溢れる原始の世界に逆戻りっつーわけだ」
「は」
「俺らは石化から復活した人類な。あっちの村はまた別だ。今この世界には石化したまんまの人類と、そっから復活した人類。それと石化時運良く難を逃れた人類の生き残りの子孫しかいねぇ」

目の前の彼らはあの石像のように石だったところから復活した人類で、人類の生き残りの子孫とやらと同じく原始に近い生活をしているという。成程そんな中で俺みたいな格好の人間が現れたらそりゃ驚く。ジロジロと訝しげだったのはそのせいか、とようやく合点がいった。

「​───で、そこにきてナツメ。テメェは異質だ。話聞くか限りじゃ石化してたわけでもねぇ。……極めつけにその服装。シルクのシャツに化学繊維のパンツ。そのジャケットも良い布使ってんな?釦は金属か?とにかく、明らかに今ある資源と技術じゃおいそれと作れねぇ代物だ。」
「……あー、もしかしなくても俺めちゃくちゃ怪しいやつだ?」

うわー、と世界の現状と俺が放り投げられた立ち位置に絶句する。千空の言う通り、今の俺の存在は彼らから見て異質そのものだろう。

「怪しすぎまくりだわ。地球上の人類仲良く全員石になったってのにテメーだけが石化してねぇのはどういう理屈だ?いや、そもそも不可解な点が多すぎる。一人石化を逃れたとして、3700年後にいきなり迷子になって湧き出てくるか?」
「ナツメちゃんだけ記憶喪失になっちゃったとか?石化した時の記憶がなくて、石化から気づいたら復活してました〜的な」
「服はどう説明すんだ。荷物は?その鞄の中身は見てねぇが、恐らくこの石の世界に今あるはずのねぇモンが入ってるだろうな」

この千空という少年はものすごく頭が良いのだろう。俺の格好と証言だけなのに、一瞬でここまで考察している。すごく興味津々で俺を観察しながらも、ものすごく怪しんで警戒している感じだ。

「……あのさ。俺なりの考えなんだけど、いい?」
「なんだ」
「いや、俺ね。ぶっちゃけタイムスリップしたのかなって思ってんだよね」
「ええ……?ナツメちゃんジーマーで言っちゃってる?流石にそれは」
「なるほどその可能性は確かにあんな」
「千空ちゃん!!?」

ほほう、と目を輝かせて千空は頷いた。千空の言葉にギョッと驚いたようにゲンが叫ぶ。馬鹿じゃねえのと一蹴されることも予想していたから肯定的な意見が出たことにまず安堵した。

「ド〇えもんだってタイムマシン持ってんだろうが。ありゃ科学の結晶だぞ。お堅ぇどっかの科学者だって真面目にタイムトラベルの研究してるくらいだ。実証はされてねーが、不可能だとも証明されてねぇ」
「えぇえ……?千空ちゃんがそう言うならありなの……かも……?けど、もしそうだとしたらバイヤーすぎない!?ナツメちゃんは過去から3700年後の未来に飛んできちゃったってこと!?」

あわわと慌てるゲンに対し千空は至極真剣な顔でタイムスリップ、いやタイムトラベル?を語る。誰も実用性のあるタイムマシンを作っているわけではないが、タイムトラベルが出来ないことを証明したやつもいない。ならばそれも有り得る、というのだ。

「つーか今んとこそれっきゃコイツの存在を納得させる材料がねぇ。マジで過去から時間旅行してきたってんならその格好も世界中巻き込んだ石化のことを知らねぇのも頷ける。クックック、唆るじゃねぇか……!本物のタイムトラベルだとしたら、理論解明してタイムマシン作んのもいよいよ夢じゃねぇってことだ……!」

タイムトラベルの現象そのものに興味があるらしい千空はものすごい顔であくどい笑みを浮かべている。科学大好き少年らしい。

「ああ〜千空ちゃんスイッチ入っちゃったねコレ。てかナツメちゃんはホントに自分が過去から来ちゃった〜って考えなの?」
「うーん、そのくらいしか考えつかないだけっつーか。もしくは異世界トリップとか?ははは」
「そんなラノベじゃないんだから」
「俺らの現状すでにラノベの設定みてーなもんだろ。筋書きだけで超絶スペクタクルなドラマ一本作れるわ」

まあ俺も魔法使いだから設定ラノベみたいなもんだけど。魔法のことは言わないのが得策だろう。

「​────どっちにせよこれ以上議論したところでナツメの存在は説明のしようがねぇ。コイツは過去から飛んできたタイムスリッパー。もうそういうことにしとけ」
「そういうことにしとけって千空ちゃん……テキトーすぎない?」
「俺ももうそれでいいわ。過去から来ましたよろしく」
「ナツメちゃんまで!?」

千空の言う通り原因の追求が不可能な以上これ以上は考えたところで答えが出ない。恐らくこういうことだろう、で無理やり結論づけておくのが無難だ。

「よし!とりあえずその鞄の中身を見せやがれ!」

行く宛ては無い、ということでタイムスリッパー(仮)な存在となった俺は石神村、という名の科学王国とやらに身を置くことになった。マンパワーゲットだぜ、と千空がウキウキしてたので働く代わりにとりあえず飯は食わせてもらえる。石神村は色々と紆余曲折あり何故か現在は千空が村長らしく、村へ滞在する許可はあっさりと降りた。独りでサバイバル生活をしなくて済むのはありがたいことだ。

「へえ!懐中時計か。随分良いもん持ってんじゃねえか!純銀製だな?」
「わかるんだ」
「見りゃ分かる。……アンティークものだな、これ中身の材質調べても構わねぇか」
「え、分解するってこと?綺麗に戻せんならいいけど」

持っていた鞄の中身は全て千空がチェックしていた。持ち物がいよいよ石の世界じゃ有り得ない文明のものだと解ると、俺がタイムトラベルしてやってきた人間であるとの信憑性が高まった。

「貴金属は貴重だからな。目当てのものがありゃ悪ぃが使わしてもらうことになる。全人類の石化復活がかかってるもんでな」
「貴金属で石化が解けるのか?」
「いや、復活液を作る過程に使う。硝酸+アルコールのナイタール液なら石化した人間の石化を解ける」

聞けば千空は人類の石化を全て解き文明を取り戻すつもりらしい。つい一年前とかそこらまで自分だって石化していただろうに石化した人間を元に戻す薬を作ったというのだから、思考と行動力が人間離れしてる。生きるのに必死で普通の奴ならそこまで考えが至らないだろう。

「硝酸ってことは探してんのはプラチナか?」
「!ククク、話が早くておありがてぇこった!百億万点くれてやるよ。白金さえあれば硝酸作り放題の石化復活し放題だ!持ってんのか?」
「いや持ってない。アクセサリー着けるタイプじゃねぇし、その時計も貰いもんだ」
「チッ」

持ってないことを告げるとすごい残念そうに舌打ちされた。しかしまあ理由がそれならそんな顔になるのも頷ける。

「まあいい。そんな簡単に手に入るとも思ってねぇしな。ん?この本、薬草についてか?随分専門的なの持ってんな。ナツメ、お前英国に何しに行ってた。留学か?」
「いや。寄宿学校通ってたんだよ。祖父があっちの人で、なんかよく分かんねぇけど入らされた。もう卒業したけどな」

というのは他人に説明する時の言い訳に使う文言である。魔法学校から手紙が来て渋々入学しましたなんて言えるわけがない。

「へぇ。とにかく科学の知識はあんな?人手が足んねえ。テメーがそのへん充実してっと超絶おありがえてぇんだが」
「えぇ……俺偏った知識しかないけど」
「スパルタで有名な英国の寄宿学校入れて卒業出来るくらいだ。地頭は悪かねぇだろ」

良いもん見つけたと嬉しそうな顔をする千空により、俺は科学王国民科学チームにお仲間入りすることになった。スーパー科学者千空先生の補佐である。肉体労働よかマシだが、ゲン曰くドイヒー作業が待ってるらしい。

こうして、魔法なんてファンタジーの欠けらも無い生活が始まった。

*

「オウオウオウ!お前がナツメか!俺は科学使いクロム!言っとくがここじゃ俺の方が千空との科学タッグ長ぇんだからな!」
「何を張り合っておるのだお前は」
「声がでけーよ。とっとと作業始めやがれクロム」

科学王国に入って早速、すごい声のでかい元気な少年が宣戦布告してきた。いや科学タッグも何も。千空が科学チームに俺を引き込んだだけで、俺はぶっちゃけ科学とかけ離れた存在なんだが。魔法とか千空信じてなさそうだもんな。

「じゃあクロムは俺の先輩だな。よろしくクロム先輩。」
「お?お、おうよ!いや、先輩なんて照れるじゃねーかクロムでいいぜ!」
「この単純馬鹿め。……ナツメといったか。私はコハク。​───君は千空たちのように石像だったわけではないと聞いたが、一体どこから来たのだ?」

クロムはものすごく単純らしい。ため息混じりに俺に声をかけてきた女の子は、美人だが気の強そうな顔立ちをしている。疑われているのだろうか。なんだか探るような目でそう問うてきた。

「えーと、なんて説明したらいいかな千空」
「あ?時をかける少年」
「いやいやいや映画かよ」
「コイツは過去から吹っ飛ばされてきた21世紀の人間だ。これ以上の説明いるか?説明しようのねぇもん答えられっかよ」

コハクは訝しげな顔をしたものの千空がそう言うならと納得し、よろしくと言葉をかけてきた。千空は石神村の村長だがコハクにとって恩人でもあるらしい。

「まあともかく新しい仲間という事だな。これから皆で食事だ。父上やルリ姉にも紹介しよう」
「ありがとう。コハクちゃん」

石神村は千空たちをいれて総勢40人以上の中々の大所帯で、千空の科学クラフトに主に参加しているメンバーは元はクロムの科学倉庫だったという今いるこの建物のある広場でいつも食事を取るらしい。千空はラボから基本移動せずたまに村のほうまで出向く生活だという。

「まともな食事一週間ぶりだよ。ずっとキノコと山菜食べてた」
「ま、独りのサバイバル生活じゃそんなもんだろうな。むしろよくぞ生き延びたもんだ。ライオンもうろうろしてんぞこの辺」
「は?嘘だろ日本にライオン!?」

おそらくだが動物園から脱走して野生化したらしい。日本の気候でライオンって過ごせるのかと驚くが、確かに日本なら餌になる獲物には困らない。数千年で生き物の生態系にも違いが出ていそうだ。

「滅多に遭遇しねぇがな。気ぃつけろよ」
「いやライオン相手にどう気をつけろと」
「日本刀やろうか」
「え、日本刀あんの?マジで?欲しい」

ぐだぐだと話をしながら食事の準備を進めていく。食卓は海が目の前なのもあってか魚ばかりだ。それでも久々のタンパク質が心が踊った。

暫くして村の方からやってきた元村長でコハクちゃんの父親のコクヨウさんと姉のルリちゃん。さらに作業を一段落した科学クラフト細工担当のカセキ爺さんと門番の金狼銀狼の二人にぞくぞくと紹介されて、改めて滞在することを認めてもらい村の仲間になった。皆いい人達そうである。雰囲気があたたかくてのどかだ。

「……平和な村だね」
「ククク、そうでもねぇぞ。これからちーとばかし厄介な戦争が起きる予定なもんでな」
「は?戦争!?」

ぽつりと呟いた俺の言葉に対し、とんでもないことを千空が口にした。戦争って文字通りの戦争か?穏やかじゃなさすぎる話である。

「テメーにはまだ話してなかったな」と、千空は戦争についてのくだりをざっくりかつご丁寧に説明し始めた。

曰く、純粋な若者だけを復活させ旧世界の既得権益者たち大人を排除したいという思想のもと、獅子王司という男が文明の発展を阻止しようと科学王国の転覆を狙っている、らしい。獅子王司は千空が復活させた高校生ながら最強の格闘家で、驚くことに千空は一度その男に殺されているという。

「​─────なんだその選民思想。いや、汚ぇ大人が嫌だから復活させたくないって気持ちはわかるけどさ。ほんとに高校生か?」
「普通ならそこまでしないんだろうけどねー。でもそれを実行しちゃうのが司ちゃんなのよ。カリスマ性もあるせいかゴイスー強い若者バンバン復活させて出来た武力集団率いちゃってんの。ソレにこっちは科学で対抗しようって話」
「つまり戦争の構図は獅子王VS千空ってこと?」
「んな単純な将取り合戦じゃねぇ。武力帝国VS科学王国、人類70億人の命運をかけた戦いだ」

獅子王司が勝てば科学で全人類を救おうとしている千空は再び消されてしまう。千空が死ねば石像破壊が止まらないどころか、文明の復興など到底不可能だ。

「なるほど、そりゃ間違いなく"戦争"だ。勝てば官軍ってわけね」

戦争は勝ったやつが正義だ。勝者が歴史をつくる。千空が勝てば獅子王司の根城にある硝酸を生み出す洞窟も手に入り、人類石化からの復活が一気に進む。これはたしかに負ける訳にはいかない。

「そういうこった。悠長にしてる暇はねぇぞ。ナツメ、テメーも科学王国に入ったからにはアホほど働いてもらうから覚悟しやがれ」
「そりゃもちろん働くけどさ。科学で対抗ってことは、なんか武器とか作ってるってこと?まさか核兵器とかじゃねーよな」

出会って間もないが石神千空という人間は桁外れの科学力を持ってる。有り得なくはないかもと恐る恐る聞いてみれば、返ってきたのは予想の斜め上ふっとんだ回答だった。

「あぁ?んなもん作るかよ。俺らが作んのは"ケータイ"だ。"携帯電話"」
「は?…………はぁ!?」
「わかる〜!わかるよその反応ナツメちゃん……!こんな石の世界でさぁ、ケータイ作りますとか何言っちゃってんのって感じよね。ジーマーでバイヤーなのよ千空ちゃんて」
「いやいやいやマジで?」

そんな発想ある?こんな現代みたく設備もろくに整ってない世界で最新の電子機器を一から作る?頭おかしいレベルだろ。

「そりゃ通信技術があれば一気に有利にはなるだろうけど、作ろうとすんのがやべーよ。てかそもそも作れるモンなの?」
「ククク、どんなに無理そうに見えても再現辿れば100億%ゴールに着く!それが科学だ」
「ごめん。まっったく完成が想像できないけど、どうなのゲン」
「俺もね?ばかじゃないのと思ったんだけどね。なーんか千空ちゃんならワンチャン作れちゃうかもな〜って」
「まーじで……」

やべえな色んな意味で。本当にこんな世界でケータイを作れたとしたら、歴史的瞬間に立ち会うことになる。

「とんでもねぇ場所にきちゃったな」

科学王国恐るべし。

*

再現性を辿ればどんなものでも100億%ゴールに着くと千空は言った。正しい手順を踏めば作れる、というのなら俺の望むものも作れるのも可能なんじゃなかろうか?と、千空のトンデモ科学クラフトを前にしてふと考える。しかしまあ、杖を作って欲しいだなんて言い出せるわけもないんだけど。いや待てよ。杖の芯って魔法生物由来とかじゃねーとダメなんだっけ?じゃあどっちしろ無理じゃん。素材GETの難易度くそ高いじゃん。

今日はマンガン電池を泣きながら拵えていたゲンのヘルプにルリちゃんと共に入り、800個という馬鹿みてぇな数を黙々と作る作業をしていた。集中すること早数時間。日が暮れたところで続きは明日と切り上げて、千空達の寝泊まりする科学倉庫に向かう。クロムを除く石神村の皆は作業を終えると村へ戻るが、千空とゲン、クロム。そして新しく仲間になった俺は科学倉庫で寝泊まりしている。男所帯4人はなかなかにむさ苦しいが、気兼ねないので気持ち的には楽だ。

「……あれ。千空とクロムは?」
「天文台のほうで科学談義してるよ〜。談義っていうか千空ちゃんの科学解説かな」
「また?飽きないなぁあの二人」

科学大好きタッグは昼間の作業ですでに科学尽くしなのに、日が暮れてもひたすら科学に没頭している。クロムは知識の吸収も良く発想力もあるから千空も教えていて楽しいのだろう。ゲンや俺は細かい部分はついていけない。

「ナツメちゃん此処での生活も慣れてきたみたいね」
「うん、だいぶ」

すっかり毎日のルーティーンも出来上がりつつあり、生活に馴染んできたところである。頷く俺にゲンは良かった良かったとニコニコ笑みを浮かべたかと思うと、すっと突然表情を変えた。

「ところでさぁナツメちゃん。​────なんか隠してる事ない?」
「……なんかって?」
「これでもメンタリスト名乗っちゃってるからね〜。ナツメちゃんがこの世界に来た……迷子になった経緯話した時、違和感があったのよ」
「…………」
「ナツメちゃん。嘘はついていないけど、本当のことを話していない。でしょ?」

確信めいた問いだった。疑われることのないよう話していたつもりだったが、心理のスペシャリストには違和感を抱かせていたらしい。カマをかけるわけでもなく単刀直入にきたところを見ると、ゲンの中での俺はただの"敵"ではないのだろう。一応の信用はしているが、100%の味方であるという確証さは得られていないからこそのこの言葉だ。

「……ゲンは、俺をどう見てる?」
「んー。千空ちゃんはすっかりタイムトラベル説で納得してるしそれ以上考えるつもりは無いみたいだったけどね。まあそれもありかなって思ったけど。でもね〜、それにしたって一番おかしいのはナツメちゃん自身の反応なのよ」
「俺の?」
「そ。ジーマーで時間を超えてこんな石の世界に来ちゃったとして、ナツメちゃんの反応は冷静すぎた。普通はさ、もうちょっと取り乱したりすると思うのね?でもナツメちゃんはあまりにあっさり現実受け止めすぎてる感じがしてね〜。人間理解できない環境に放り込まれれば少なからずパニックになる。冷静ぶってても隠れた感情、動揺した様子はどこかに表れんのよ。千空ちゃんみたいな飛び抜けた人間は別よ?でもね、そんなホイホイあのレベルの人類いてたまるかってハナシ」
「……」

ゲンは俺の表情一つ一つを逃さないようにしているのか、まっすぐにこちらを見て反応を逐一伺いながら口を動かした。

「タイムスリップしたかも〜なんて結論に至る前にさ。辺り一面自然が沢山!さらに変な石像がある!なんでこんなところに!?まさか誘拐されて変な場所に置き去りにされたのか!はたまた盛大なドッキリか〜?!とか、目の前の状況に対してそういう発想がまず浮かぶ。大抵の人間はね」
「俺が普段からタイムスリップに夢見てた少年だったのかもしれないだろ」
「どんな夢よ。とにかく意味不明な状況に置かれて、初めて出会った生きてる人間が俺だったわけでしょ?ナツメちゃんの第一声はここはどこなんだとかどこそこに連絡したいから携帯貸してくれとかじゃあなかった。人類石化に巻き込まれてない人間がこの状況でとる行動ってそんなもんよ?こーんな歩いても人っ子一人居ない世界にぽつんと孤独に一週間!​────迷子だったにしては、行動があまりにも落ち着きすぎてる」

たしかに、この突然の異様な状況においての"一般人"がとる言動ではなかったかもしれない。と、これまでの俺の態度を省みる。魔法というファンタジーな世界に身を置いて、不可解で奇妙な現象に対する耐性がついたのだろう。もっとマグルらしいリアクションをすべきだった。ここまで怪しまれてしまっていたとは。

「……つまりゲン。お前はハナから俺のこと疑ってたわけだ?すげーなメンタリスト。友好的すぎてぜんっぜん気づかなかったよ」

ゲンが危惧しているのは、俺が"未知の組織から送り込まれたスパイの様な存在ではないか"とか、そういったことだろう。旧現代レベルの服装と持ち物。例えばすでに何年も前に石化から復活した人類が作り上げた国があってそこから来た人間だとか。むしろ3700年前に人類が石化した原因、黒幕に関わる人間ではないか、とか。

タイムトラベルしてきた人類ですなんて眉唾モノの話を信じるよりもよほど現実的な話だ。反対の立場なら俺だって疑ってかかる。ゲンからの疑いもその理由も理解できたが、この疑惑を晴らす術がない。魔法のことを話すか?と一瞬頭に浮かぶがそれはだめだ。

「​────俺は人類石化について本当に一切知らなかったし関与していない。これは断言する。お前らと同じ時代に生きていた人類であることも嘘じゃない」

やはりマグル相手にそう簡単に魔法使いの存在を晒すわけにはいかない。現状魔法省なんてものは機能していないが今後世界が復興し文明を取り戻す中で俺という火種ひとつが原因で魔法の存在が世間に露見することは避けたい。

「……いきなりこんな世界に飛ばされたら、まあ"普通の人間"なら確かに戸惑うだろし……そうだな。そう考えると俺の言動は落ち着きすぎてた。怪しいよな、確かに。客観的に見ればさ」
「自分で言っちゃう〜?……で、そういうのをパッと言えちゃうとこも怪しいんだよねぇ」

困ったような顔をわざとらしく浮かべながら、ゲンは首を傾げる。俺の次の言葉を待っているのだろう。続けざまに質問してくるでもなく、その場に沈黙がおりた。

怪しい、と言われてしまえばそれまでだ。ここで俺が仮に隠していることなんてないと言い張ったとて、逆に怪しまれることになるだけである。

「​─────そうだな、……最初の質問に戻る。……お前らに隠していることがあるかないかで言ったら"ある"」
「!」
「が、それは隠さなきゃいけないもんなんだよ。俺の保身を天秤にかけても、そう簡単には明かしてやれない秘密だ」
「それは秘密を明かすことでナツメちゃんにペナルティがある……って言ってるようなもんだけど?」
「俺に課されるペナルティがあるんじゃない。場合によっちゃ俺を含めた全ての……コミュニティ全体にデメリットが降り掛かる」

魔法の存在をマグルに知られてはならない。魔法使いであることを自ら明かしてはならない。大昔から決められた暗黙の了解だ。マグル政府とのやり取りだとかマグルと婚姻する場合とかはまた別の話である。

「……どうしても話せない。から、俺の疑いが晴れないなら追い出されても文句は言えないし、処遇はお前らに任せるよ」

頑なに口を噤む俺を、ゲンはまっすぐに見つめた。真意を測っている様だった。どんだけ問われようと、言えないもんは言えないのでどうしようもない。

「​─────そこらで止めとけ。メンタリスト」
「!千空」
「……千空ちゃん!ヤダな〜、見られちゃった。いつからいたの?」
「とっくに気づいてやがったクセによく言うぜ。……ったく、あれ以上の議論は要らねぇっつったろ。はなから話す気もねぇ奴にいくら追求したって無駄だ」

いつの間に上から降りてきていたのか。千空は壁に背を預けるようにしながら佇みこちらへ顔を向けていた。静かな表情だ。ゲンの俺に対する行動に驚いてすらいない。

「……その様子だと、千空も俺のこと疑ってはいたんだね」
「まぁな。タイムトラベルしてきた人間……可能性としては大アリだがな。​────石化からの自力復活者がまさか広い世界で俺一人だとは思っちゃいねぇ。そう考えればこの石の世界にテメーの服や持ち物が作れる文明レベルの組織やら国やらがすでにどこかにあると推測するほうがよっほど現実的だ」
「……」
「ククク、流石にテメーがその文明の先駆者とは思ってねぇがな」

千空はまるでこの状況を楽しむように愉快そうな表情を浮かべながらそう言った。やはり俺はスパイまがいの何かだという疑いがあったらしい。

「じゃあ例えば、俺が石化の黒幕じゃないか?とか。そういうのは考えなかった?」
「は、それこそ有り得ねぇな。そんなタマじゃねぇだろナツメ。テメーはよ」

疑われてるのに、信用されている。なんともおかしな状況だ。彼らは確信しているのだ。俺が"敵"かもしれなくても"悪人"ではないことを。

「はは。そこまで言われちゃうと、隠し事してんのすげー罪悪感あんね」
「だったら素直に話すか?テメーにその気があんなら聞いてやるよ。その"秘密"とやらを」
「いやでもなぁ。それはなあ……」

千空たち一部の人間に口止めをお願いするならば、事情として話すのはありなのだろうか。俺がうーん、と唸っていると千空が口を開く。

「テメー個人にペナルティがあるわけではなく、明かせばコミュニティ全体のデメリットになる……って言ってたな。つーことは、だ。デメリットをメリットが上回れば話すんだな?」
「いやメリットって言ったって、何がデメリットかも千空たちは知らないのに?つーかバレてメリットになった事例がねーよ」
「じゃあその事例とやらを教えやがれ」
「ちょ、千空ちゃん?これ以上の追求はよせとか言ってたのに俺よりガンガン根掘り葉掘り聞いてない??」

初めはゲンが仕掛けたことだというのに、いつの間にやら千空主導の尋問会になってしまっている。

「事例……いやこれ言うとほぼ答えみたいなもんだし、つーか科学っ子の千空にはちょっと言いづらいどころの話じゃねーわ」
「あ?なんでだよ」
「だって千空、幽霊とか信じないタイプだろ」

石神千空は科学の申し子だ。魔法とかいう物理法則ガン無視のマジカルパワー炸裂ワールドの事を理解してもらえるとは思えない。科学じゃ何も無いところから水や炎は出せないし、人は箒で空を飛ばない。

「何言ってやがる。霊現象だろうが何だろうがそこに再現性があるなら百億%信じるわ」
「……ファンタジーな現象でも?」
「それが科学で解明出来る可能性のあるもんならな。つーか目の前で再現されたもんなら信じねーはずねぇだろ。俺は自分の目は疑わねぇ。幽霊サマにはまだお目にかかったことはねぇがな」

ククク、と悪どく口角を上げて千空はそうきっぱりと言った。なるほど。千空は自分の科学で解明出来ないものは信じていないが、そもそも科学で解明出来ないものなどこの世に無いという考えなのだ。少なくとも俺の素性を知って、魔法の存在を知って、頭ごなしに否定するような人間ではない。

「話聞いてる限り、ナツメちゃんが隠したがってるのってそーゆー普通なら信じてもらえない感じの異端のもの?それをコミュニティ全体で抱えてるってこと?」
「……誘導尋問かよ。コレだんだん答え引き出されるやつじゃん」
「ってことはイイ線いってんのね♪だってここまで来たら知りたいじゃない」

ニヤニヤしながら千空とはまた違った悪どい表情でゲンが俺に詰め寄る。もうこのままの流れで俺が白状するのを確信しているかのようだ。

なんか、最早この二人に隠し通せる気がない。追い出されても文句は言えないとは言ったが、正直石の世界で独り生きていくのは不可能だ。杖も無くろくな魔法も使えない状態で、せっかく手に入れたこの村への滞在権を失いたくはない。

もう、腹を括ってしまおうか。

「​─────"魔女狩り"だよ」
「あ?」
「異端は排除される。人間は己の理解の及ばない力を恐れるもんだろ。だから何千年も何百年も隠してきた。自分からバラすなんてことは勿論タブーだ。俺らが怖がってんのはそれだ。」
「……魔女狩り、って」
「それはヒントか?ナツメ」

俺の口から出た言葉に、二人は訝しげな表情を浮かべた。いまいち意図を飲み込めてない、そんな顔だ。

「ヒントっつーかほぼ答えだよ」
「​────まさか自分が魔法使いだって言うんじゃねぇだろうな」
「……そのまさかっつったらどうする?」
「ちょ、ナツメちゃんジーマーで言ってる?…………えっ、ガチな話?」

疑念、困惑、動揺。俺が至極真面目な声色で話すものだから、千空もゲンも俺がおふざけで言っているわけではないと思ったようだ。しかしそう簡単にはいそうですかと納得できるわけもなく、口を噤んだ。

「ガチだよ。俺が"そう"だってことは証明できる。ただ、俺の素性をけして外部、千空とゲン以外の人間に漏らさないこと。それを約束してくれたなら、千空の目の前で"再現"する」
「……目の前で魔法を見せるって?」
「ああ」
「ククク、面白ぇ……!見せてもらおうじゃねぇか。インチキじゃないマジックをよ」

*

「唆るぜこれは!!!!」

瞬間移動、もとい姿くらましを披露してみせると千空はテンション爆上がりの興奮しまくり状態になった。テレビ出演出来ちゃうレベルのメンタリスト兼マジシャンのゲンから見ても、種も仕掛けもない一瞬での人体の移動。その距離100m。短い距離での実践だが隠し布も箱もない状態で目の前でパッと消えてパッと離れた場所に現れた俺の魔法に、千空もゲンも"魔法"を信じた。

「もう一回見せろ!ナツメ!もう一回!!」
「そう言ってもう五回目なんですけど……流石に疲れるわ」
「じゃあ他の魔法だ!次見せろ!次!」
「なにこの千空どうしよう」
「ん〜、タネも仕掛けも無いしジーマーでガチのマジックだったけど、科学少年千空ちゃんがこんなにあっさり魔法の存在認めちゃうとは思わなかったね〜」

ゲンは驚きと困惑を見せたが、千空はキラキラ唆るぜスマイルで魔法に早速興味津々だ。信じるとは言っていたが、ここまでの反応をされると逆に恐縮というか。とにかくびっくりである。ゲンも俺の魔法への驚愕よりも千空のリアクションに意識が持ってかれている。

「千空ちゃん。とりあえず一旦落ち着こ?ほら、そもそもの話まだ終わってないじゃない。ナツメちゃんがどこから来たのか〜ってさ」
「ああ。そういやそうだったな。忘れてたわ」

ため息混じりのゲンに指摘され、千空は思い出したとばかりに興奮していた様子を落ち着かせ俺に向き直った。

「えーと、最初に話した大体のことはそのまんまなんだけど。まあ飛行機とかじゃなくて、いわゆる魔法アイテム使って日本に帰ろうとしてたとこだったんだよ」
「魔法アイテム?」
「そ。ポートキーっていうそれ掴むと目的の場所へ一瞬で飛べるっていうアイテム。これはさっきの瞬間移動みたいなのとは違って、術者以外、つまり魔法が使えない人間でも作動すると移動できちゃうやつな」
「じゃあ、俺らでもそれ使えば英国から日本までひとっ飛びってこと!?ゴイスー便利アイテムじゃない!」

ほええ〜、と感心したようにゲンが叫ぶ。千空は頭の中で色々と考えながら聞いているようで、ふんふんと頷きながら目を輝かせていた。

「で、その魔法アイテム掴んで移動しようって瞬間に俺は気づいたらこの世界にいたってわけ。元いた西暦はお前らと一緒。これは間違いない」
「学校の話は?寄宿学校へ通ってたって言ってたな。そこは魔法と関係あんのか?」
「ある。俺日本生まれ日本育ちの親は魔法使いでもなんでもない一般家庭の子供だったんだけど。魔法使えるのわかって何故か英国の魔法学校から入学案内が届いたんだよ」
「魔法学校ってすごいファンタジーな話ね。ん?魔法使いって血筋関係ないの?」
「いやあるよ。親も子供も先祖も魔法使いっつー何代も続く魔法使いの家系とか。俺はなんていうか、隔世遺伝みたいな。普通の親から突然変異で魔法使えるやつが生まれるパターンね」

祖父がわりかし有名な神社の神主してたからそういう"生まれやすい"要素はあったのだろう。が、祖父はあくまでマグルで祈祷をしたり穢れを祓ったりする程度の力だった。俺の魔法使いの素質は何故か日本寄りではなかったらしく、英国の魔法学校の入学者リストに名前が載ってしまったのだろうと日本の魔法省の職員が言っていた。

「​────話まとめるぞ。つまりお前のいう隠したいコミュニティってのは魔法が使える人間共のことで、今この世界に活動している人間の組織があるわけではねーってことだな?」
「ああ。魔法使いの存在が世間にバレて今後の復興した世界に影響が出るのは困る。ま、個人的には別に隠す義理はないんだよな。ただマグルにバラすなは暗黙のルールだからさ」

こうして結局二人にはバラすことになったが、彼らは少なくともその存在を言いふらしたり迫害したり魔法を悪用しようとする人間ではない。その点はひとまずは安心して良いだろう。

「結局のところナツメちゃんはタイムトラベルなわけ?その移動の魔法アイテム?が、とんでもない誤作動で時空越えちゃった的な?」
「いや、それがそうとは限んないんだよな。ポートキーにはその時まだ触れてないんだよ。触れようとした瞬間に飛ばされた。あれは触んない限り作動しないから、まあなんつーかとりあえず原因不明のマジカル現象が起きた」
「ええ、んなテキトーな……魔法ってそーゆーの多いの?」
「自分の身にこういう形で起こったのは初だけど。トンデモミラクルファンタジーはよくある」

うん。よくある。教科書にも載るような大規模な魔法事故とか。人づてに聞いたやべーエピソードとか。魔法ってミラクル。

「とはいえ俺だってまさか石の世界、しかも未来?に時間旅行するとは思ってなかったし。ていうかそもそも此処が元いた世界の未来かなんてわかんねぇじゃん。お前らみたいに石化体験もしてないし」
「あー、前も言ってたけど異世界トリップ説ね。うーん、魔法をこうして生で見ちゃうと、ジーマーでソレの可能性もあるかもね」
「パラレルワールドへの転移か。時空を超えてきた魔法使いよか、異世界から来た魔法使いのほうがしっくりくるもんはあんな」

ぶっちゃけそっちの説が有力な気がしなくもないのだ。この石の世界に放り出されてから、いわゆる魔力らしきものを一度も感知していない。人類が石化して何千年と経っていようが、古代からいる魔法生物が今更廃れるとは到底思えない。だというのに自然が豊かになって住みやすいだろう環境に、妖精の類ひとつも見かけていないのだ。日本固有種の龍とか大蛇とか長寿の生物は生きていてもおかしくないのに、何故かその気配を微塵も感じられない。

「魔法の存在が俺らの知る旧現代に実際あったのかを確認する術もねぇからな。ナツメがタイムトラベルしてきた魔法が使える人類なのか。そもそも別次元からやってきた人類なのか。こればっかりは解明は不可能だ。まあ今後テメーの同族が復活した人類の中にいるかいないかで答えは出るだろ」

つーわけでこの話終わりな、と千空は首をゴキゴキ鳴らしながら会話を終わらせた。千空の言う通り、俺がどうしてこの世界に来たのか。ここは俺の知る世界の未来なのかはわからない。家族や友人がもし石化していたとして、無事に形を保っているのか。再会はできるのか。不安はあるが、現時点ではどうしようもない事をこれ以上考えても無駄だ。

千空の言葉にゲンも頷き、パンっと手を叩く。

「よし、とりま話も終わったことだしそろそろ寝よ千空ちゃんナツメちゃん。明日も忙しそうだしね」
「ククク、やることは山ほどあんぞ。とりあえずゲンとナツメはマンガン電池あと500な」
「ドイヒ〜〜、……ナツメちゃん魔法で作れたりしない?」
「無理。手作業のほうが早えよ」

ていうか杖無いし。いやほんと杖無い問題は解決してないしどうしよう。そのうちどうにかして杖の代わりを探すとして、とりあえずは目の前のことである。

決戦へ向けて科学王国が勝利を掴む為に全力を注ぐ。それが俺の今やるべきことだ。

「しかしアレな。科学王国なのに俺だけ魔法使いなのすげー場違い感あんな」
「それ自分で言っちゃう?」

千空の科学を前にしたら俺の魔法なんて些細すぎる力だ。しかし俺が魔法使いであることはどう足掻いても変わらない。科学の力で戦おうっていうのに一人だけコレジャナイ感。

でもまあ、こんな世界も悪くない。

何故かおれだけファンタジー。

— End —

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