Novel10 months ago · 6.7k chars · 1 pages

一難(事件)去って、

こんぺいとうの妖精こんぺいとうの妖精

夢主のペンネームはとりあえず固定です(続けば安室さんが由来を推理してくれるかもしれない)

「えー……眠りの小五郎、長野に来てたんだ」

何となしにSNSを眺めていたら、『長野駅で眠りの小五郎見た!』なんて目撃情報の投稿が流れてきた。
眠りの小五郎。眠ったように座り込んで推理をする、独特なスタイルの名探偵。数々の大事件を解決したことでメディアにも大きく取り上げられて、今や全国区の有名人だ。私も住んでいた米花町に探偵事務所を構えていて、ここ半年くらい急に名前を聞くようになった。米花町と言うか、私もよく行っていた喫茶ポアロの2階が事務所だ。「時々コーヒーを飲みに来られてますよ」なんて梓ちゃんが言っていたけれど、タイミングが合わなくて会ったことがない。長野駅だったら昨日買い物に行ったのになあ、なんて溜息を吐いていると、コーヒーを飲んでいた高明くんが口を開いた。

「毛利小五郎ですか。そう言えば、君が気にしていたあの村の事件も彼の協力によって解決したらしいですね」
「えっ、そうなの!? 」

そう言えば、一昨日の夕方のニュースで犯人が捕まったって言ってたっけ。
結局、あの土に埋められていた死体以外にも2人も殺されて、全て同一犯────しかも、被害者の身内の犯行だったらしい。だからなのか、あれほど話題になっていたのに「犯人が逮捕された」と言うニュースの後は全然報道されなくなってしまった。かんすけくんなら詳細を知っているはずだけれど、捜査情報だから私には話せないことも多いだろう。と言うか、そもそもかんすけくんの連絡先を知らない。まあ、高明くん経由で聞いてもらえば教えてもらえそうな気はするけれど。

「高明くんはその話、かんすけくんから聞いたの?」
「いえ。ただ、県警の同僚とは今も連絡を取っているので」

それもそうかと納得する。自分の担当じゃなくても、高明くんはあの事件に関心があるみたいだったし。高明くんはあの村の出身ではないにしろ、頻繁に出入りしていたはずだから気にするのも当然だろう。何にしても、無事に解決してよかった。事後処理とかはあるのだろうけれど、これでかんすけくん達捜査一課の人達の忙しさも少しは落ち着くのだろうか? そうだといいな、なんて思いながらポリ、とおやつのじゃがりこを齧る。うーん、限定のやつじゃなく定番のチーズ味にすればよかったかも。

早いもので、高明くんの家に居候するようになって明日で1ヶ月だ。

細かな摩擦は当然あるけれど、突然決まったこの同居生活は意外と上手くいっている……と思う。たぶん、高明くんが忙しくてあまり家に居ないと言うのも大きいのだろうけれど、本当にびっくりするくらいストレスがない。
最近ストレスを感じたことと言えば、相変わらず怜子ちゃんのことをよく知りもしないのにネットで好き勝手言ってる人達に対してだとか────クレカの引き落としがすごい金額になっていたことくらい。明細を見た瞬間ちょっと口から魂が抜けそうになったけれど、それでも本来なら必要だった敷金礼金なんかが浮いた分、かなり出費は抑えられたのだ。金銭面もだけれど、衣食住の心配をしなくていいと言うのはありがたいことである。改めて、あの日高明くんと偶然再会できたことは本当に幸運だった。

「ね、高明くん、何か食べたいものない? 私ごちそうするから、たまには外食しようよ」

さて。感謝の気持ちは、言葉や物にこめてきちんと表現すべし、と言うのが私のモットーである。
高明くんには日頃からこまめに感謝を伝えているつもりだけれど、これだけお世話になっていて言葉だけと言うのも心苦しい。1ヶ月の節目だし、何かちょっと奮発してお礼をしても罰は当たらないだろう。あと、この間の仕事の報酬が入ってちょっとだけ懐が潤っているので自分へのご褒美も兼ねておいしいものが食べたい。私の提案に、高明くんは一瞬考え込むような表情になった。

「そうですね……でしたら、今度の水曜日はどうですか。その日は非番なので」
「水曜日ね。お昼と夜どっちがいいとかある?」
「どちらでも。君の都合がいい方で構いませんよ」
「そしたら、日中は仕事したいし夜でもいい? その方が高明くんも朝ゆっくりできるだろうし。どこか行きたいお店とか……」
「君の方が外食の機会は少ないでしょう。何か食べたいものはないのですか?」
「んー……お肉かお魚?」
「大抵の料理が当てはまりますね、それは」

焼肉……は気分じゃない。2人だとそんなに食べれないし。お寿司とか天ぷらもいいな、と思うけれど高明くんが行く店って高そうだ。あまり高額になると予算的にちょっと厳しいかもしれない。
そもそも、私はまだこの近辺のお店に詳しくないのだ。どこか高明くんのおすすめのお店でとリクエストしてみたところ、高明くんが贔屓にしていると言うイタリアンに連れて行ってもらうことになった。

「あー、なんか……わかる」
「何がですか」
「いや、何て言うか……高明くんが通ってるお店だなあ、って感じ」

いわゆる隠れ家的な店、と言うやつだろう。席数はそれほど多くなくて、淡いブルーを基調にしたインテリアも落ち着いた雰囲気だ。家族連れや大人数での会食と言うよりは、デートや女子会に向いてそう。高明くんがここで食事している姿がしっくり来すぎる。何にしても、せっかく連れてきてもらったのに今の反応は失礼だった。デートだとしたら0点だろう。いや、別にデートじゃないけど。

「ごめん、あまりにイメージ通りだったから圧倒されちゃって……やり直しさせてもらっていい? 『すっごく雰囲気のいいお店だね♡ 連れて来てくれてありがとう♡』」

名誉挽回とばかりにきゅるん、と効果音がつきそうなデート仕様のはにかみ笑顔と媚び媚びの甘ったるい声を繰り出してみたら、高明くんに呆れたように小さく溜息を吐かれた。まあ、大体予想通りの反応だ。私の渾身のキメ顔より、高明くんの方が綺麗だしね。ただ料理のメニュー見てるだけで絵になるってずるい。

「諸伏さん! お久しぶりです」

お店を切り盛りしているご夫婦とは、昔事件で関わったらしい。旦那さんに殺人の容疑がかかっていたところ、その事件を解決して真犯人を突き止めたのが高明くんだったとのことだった。1度お礼を兼ねて是非と言われてお店を訪ねたところ、お店の雰囲気や味が気に入って、その後もプライベートで利用しているのだと言う。
さすが高明くんの行きつけだけあって、聞き慣れない横文字の前菜からシェアしたパスタやピザまで、何もかもおいしかった。そしてリーズナブルだった。都内ならどのメニューも倍近くするだろうな、とこっそり思ってしまったのは内緒だ。
唯一不満を上げるとすれば、「ご夫婦の前で年下の女性に会計させるのは」「長幼の序ですから」とか何とか言って、結局奢らせてくれなかったことだ。約束が違う。これって、むしろもてなされたのは私の方じゃ? と気付いたときには既に車の中だった。あまりにも鮮やかな手口である。

「今日は私が出すつもりだったのに……!」
「君が家に居てくれていることで、僕が助けられている部分もありますからね。お互い様ですよ」

これじゃお礼になってないと眉を寄せた私に、高明くんがそんな風に返す。
私にとっては居心地のいい生活でも、家に他人が居ることで高明くんにはストレスなんじゃないかと心配だったから、そう言ってもらえるのは何よりだけれど。高明くんが言っているのはたぶん、急な雨のとき洗濯物取り込んだりとか、日用品の補充の買い出しとか、そう言った細々としたことについてだろう。どう考えても、路頭に迷いかけていたところを助けてもらった私の方が感謝の度合いは大きいので、ここは私が奢るべきである。そう主張したものの、何だかんだと言いくるめられてしまった。高明くんに口で勝つのは私の頭では無理だ。

「じゃあ……今日はごちそうさまでした。次は私に出させてね」
「どういたしまして。……意外と頑固ですよね、君は」
「高明くんには言われたくない」

車だと高明くんは飲めないから電車で行こうって言ったのに、結局車出してもらっちゃったし。「電車だと行きずらい場所なので」なんて言われて納得したけど、さっきお店の食べログを見たら「駅チカ!徒歩6分★」なんて謳い文句が書いてあった。大嘘である。

「……私相手に、そんなに気遣ってくれなくていいのに」
「何か?」
「何でも」

思わず口をついた言葉は、走行音にまぎれて高明くんには聞こえなかったらしい。そのことにホッとして、小さく息を吐く。サービスで持たせてもらったコーヒーの紙カップを片手に、窓ガラス越しに流れていく車窓を眺めた。

「素敵なご夫婦だね。インテリアも素敵だったし……高明くんが座ってた席の後ろに飾ってあった犬の絵、可愛かった! 料理も全部おいしかったし。特にあのワタリガニのパスタ、すっごく濃厚だった! それにデザートのパンナコッタも! テーブルに飾ってあったお花、あの、小さい青紫のやつ。綺麗だったけど、あれ何の種類だろ?」
「あの卓上花は恐らくアガパンサスかと。君も気に入ったようでよかったです」

ランチ営業もやってるので是非行ってみてください、なんて高明くんが微笑む。
楽しかったけど。お世辞とかじゃなく、本当においしかったけど。だからこそ、ちょっと困る。こんな調子で甘やかされ続けたら、勘違いしそう。
1枚どころか2枚も3枚も上手だと感じるのは、やっぱり高明くんの頭の良さのせいなのか。学生時代からおモテになっていた高明くんがエスコートに慣れているせいなのか。……それとも、やっぱり6年と言う人生経験の差なのだろうか。

ピルルル、と枕元のスマホがけたたましく鳴る。着信である。んん、と唸りながら腕を伸ばしてスマホを探り当てる。誰だこんな朝っぱらから非常識な、と思ったものの、仕事の電話かもしれない。どうにか気力を総動員して体を起こすと、通話ボタンを押した。偉業だ。

「はい、むろほし……じゃなかった、諸伏です」
『……寝てたわね、その声は』
「あ、怜子ちゃん?」

呆れた口調でも涼やかなその声に、一気に意識が覚醒する。時計を見ると、もうお昼すぎだ。非常識なのはこんな時間まで寝ている私の方だった。怜子ちゃんのモーニングコールで起きられるって贅沢だな、なんて思いながら、ふあと欠伸を噛み殺す。

「今週〆切の仕事があるんだよね。どうしても納得いかない部分があって試行錯誤してたら、明け方になっちゃって」

この仕事は気を抜くとどこまでも不規則な生活を送れてしまうので気をつけているのだけれど、昨夜はついうっかり夜更かししてしまった。最近はいつもより仕事を詰め込み気味だったので、そのせいもあるけれど。

「あ、そう言えば怜子ちゃんのCDのイラストは一昨日高橋さんに送ったけど……もしかしてその件? どこか直したいとこあったりする?」
『いいえ、特に修正とかはないけど……アンタ、あれ、コナンくんがモデルでしょ。5曲目の歌詞カードの』
「えへへ、やっぱり怜子ちゃんにはわかっちゃった? 男の子のイラストが合う詩だったしいいかなーって」

怜子ちゃんに依頼されていたイラストは一昨日納品した。かなり〆切がタイトだったので目を回しそうになったけれど、我ながらなかなかいい感じの出来である。私より絵が上手い人はたくさん居るけれど、私より怜子ちゃんを大好きなイラストレーターはたぶん居ない。

『……私、イラストとかそっち方面は詳しくないから知らなかったけど……アンタって、私が思ってたより有名なのね』
「うーん。まあ、そこそこ名前は知られてる方なのかな? 私自身がって言うより、原作が人気だから七光りって言うか……そんな感じだと思うけど」

今回色々と大きめの出費が重なったタイミングで家なき子になってしまったせいで途方に暮れたけれど、ありがたいことに仕事には困っていない。「あの大人気シリーズ小説の挿絵担当」的な知られ方なので、私自身が有名かと言うと微妙な気がするけれど。

『レコード会社の人……って言うか、デザイン担当の人に驚かれたわよ。「こんなギリギリの納期で、はつい晶生なんて売れっ子がよく受けてくれましたね」って』
「えー……なんか、怜子ちゃんに改まってペンネーム呼ばれると照れちゃうね?」

そして、今の仕事は大半がその小説関連のものなので、『売れっ子』と言うフレーズも違和感があるけれど。でもまあ、定期的に一定量の仕事があるおかげで条件の悪い仕事はお断りできる────要は選り好みできてしまうので、売れっ子と言えばそうなのかもしれない。

『それで……流れで、アンタが高校の同級生だって話したのよ。そうしたら、面倒なことになって……』

はあ、と怜子ちゃんがらしくなく弱々しい溜息を吐く。どうやらかなりお疲れの様子だ。何かあったの?と尋ねてみたところ、ポツポツと怜子ちゃんが打ち明けてくれた話は、私にとっても予想外のものだった。

「テレビ番組ですか」
「そうみたい」

しっかり者の怜子ちゃんはこれまでは仕事の調整なんかも自力でやっていたのだけれど、今回の騒動で急にオファーが増えて、さすがに限界を感じてレコード会社と契約することになったのだと言う。そして、例のCDの宣伝も兼ねてドキュメンタリー番組に出ることになったらしい。
内容としては、怜子ちゃんの半生────つまり、幼少期や学生時代や留学先の縁の場所を怜子ちゃんが辿って、当時の関係者から思い出話を聞く、と言うよくある感じの。怜子ちゃん本人としては気が進まないみたいだけれど、ファンにとっては嬉しい企画だろう。私も放送されたら絶対見たい。

「『怜子ちゃんが長野に来て、一緒に観光』もしくは『私が東京に行って、一緒に映画やショッピング』のどっちからしいんだけど……」

その一環として、番組制作側は「オフの日に友人と一緒にリフレッシュする秋庭怜子」の映像が撮りたいらしい。それで、ピアノ教室が一緒で、中高時代の同級生で、仕事でも関わりがあって、一応そこそこ知名度がある。怜子ちゃんにそんな「友人」が居るとわかって、ちょうどいいから是非、と声がかかったようだ。
私としては、スケジュールは調整できるし、費用に関しても番組側持ちらしいので、そこもクリアだ。なので、問題ないと言えばないのだけれど。

「怜子ちゃんの役に立てるならって思うけど……私だけ顔にモザイクかけてもらうってわけにもいかないだろうし……やっぱり、テレビに出るのはちょっとなあ、って」

顔出しで活動しているイラストレーターも居るのは知っているけれど、全体からすれば少数派だ。そこまで有名なわけじゃないし、顔出ししたところで生活に支障が出ることはないだろうけれど、やっぱり抵抗がある。最近は特に、ネットなんかですぐ身元が特定されたりするし。

「だから結局、番組の最後に渡すサプライズイラストだけ引き受けることになりそう」

怜子ちゃんへのサプライズイラストを、本人から依頼されている。怜子ちゃん自身も「茶番よね」なんて言っていたけれど、サプライズって何だっけ、と考えさせられる一件である。顔出しは無理だけど、それくらいなら協力できそう。ついでに私がCDのジャケットのイラストを担当したことも触れてもらえるらしいのでメリットもあるし。

「と言うわけでごめんね、ちょっと忙しくなりそうで……来週おばあちゃんちにスイカのお礼しに行こうって言ってたの、延期してもらってもいい?」
「……それは構いませんが。君、ここのところ少し仕事詰めすぎじゃないですか」
「おまわりさんに心配されるほどじゃないかなあ!?」

私よりも、高明くんの方が「それ労働基準法大丈夫なの!?」と不安になるような勤務形態だ。警察官はみんなこんなものですよ、なんて言っていたけれど、だとしたら全国の警察関係者のみなさんはもっと体を労ってほしい。切実に。

「だって、今は頑張ってお金貯めなきゃだし。これをきっかけに、仕事増えるかもしれないしね!」

貯金ガッツリ減っちゃったし、仕事運向いてきてる気がするし、仕事に没頭してると余計なこと考えなくて済むし。今はきっと、そう言う時期なのだろう。なので、無理しない程度にガツガツバリバリやりたい。
理想は高く。目指せ自活!猫が飼えるオートロック物件!なんて意気込んでいた私は、まさかそのテレビ番組をきっかけにあんなトラブルが起きるなんて予想もしなかったのだった。

— End —

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琥珀10 个月前
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H
hiro10 个月前
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銀条月咲10 个月前
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ふくろう10 个月前
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戒李10 个月前
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Sakuria
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