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米花町の(元)住人たち

こんぺいとうの妖精こんぺいとうの妖精

戦慄〜の後日談的な話+米花町(元)住人たちの世間話

「探偵団の子達、みんないい子で可愛かったよねー」
『そうね。でも、あの元太って子は元気すぎ』
「子供はあれくらい元気いっぱいな方がいいよ」

まさかの怜子ちゃんも彼らと会ったと言うことで、そんな会話で盛り上がる。元太くんは、犯人が刺激物を仕込んだ怜子ちゃんのお茶を飲んで喉を痛めてしまったらしい。回復に向かっているとは言え、怜子ちゃんはそれを気に病んでいるようだった。

『……そう言えば、昔のアンタもあんなだったわよね。覚えてる? ピアノのレッスンの帰り、「お腹が痛いから、病院まで案内して」とか言われて不審者についていきかけたの』
「うっ……覚えてるよ……あの後めちゃくちゃ叱られたもん……」

入れ替わりでレッスンに来た怜子ちゃんが怪しいと気が付いて、大人を呼んできてくれたのだ。話を聞いたピアノの先生に怜子ちゃんはものすごく褒められて、私はものすごく叱られたので、子供心に印象深い出来事だった。大人になった今となっては、血の気が引いただろう先生の気持ちもわかるので本当に申し訳ない。
昔の私が元気だけが取り柄のいまいちアホな子供だったことは否定できないけれど、怜子ちゃんは賢くてしっかりしていたので、対比で余計そう見えていたと言うのもあった気がする。

「コナンくんもだけど、哀ちゃん? あの子もすっごく賢かったよね。話し方も大人びてて。それに、えーと、あの男の子……」
『ああ……光彦って子?』
「そうそう! 光彦くん! 光彦くんって、あの子のこと大好きだよね? 歩美ちゃん! 可愛いもんねぇ」
『え? あの子が好きなの、哀って子の方じゃない?』
「えー、歩美ちゃんだと思ったけどなー」

クールで大人っぽい哀ちゃんと、無邪気で可愛らしい歩美ちゃん。どちらが光彦くんの意中の相手だとしても納得だ。でも哀ちゃんはともかく歩美ちゃんはコナンくんが気になってるっぽかったな、なんて考えていると、怜子ちゃんが「そんなことより」と小さく咳払いした。

『あの子の顔、どこかで見たことある気がして調べてみたの』
「あの子って、コナンくん?」

調べたと言うことは、ネットでだろうか。珍しい名前だから、検索にヒットするとしたら本人の可能性が高そうだ。そもそも、帝丹小の子なら怜子ちゃんの家の近くに住んでいるだろうし、登下校の途中に見かけていてもおかしくなさそうだけれど。

「怪盗キッド、わかるでしょ。あの子、何度もキッドから宝石を守ってるらしくて、新聞に載ってたみたい。『キッドキラー』なんてあだ名までついて」
「えっ? キッドの? あー……そっか! そう言えば!」

キッドキラー、のフレーズは私も知っている。怪盗キッドの犯行を何度も阻止している、お手柄小学生。顔はぼんやりとしか覚えていないけれど、言われてみれば確か眼鏡の男の子だった。まさか、コナンくんと同一人物だったなんて。

『……そう言えばアンタ、キッドのファンだったわね』
「そんな、私なんて全然ファンってほどじゃないよ。本気のキッドファンの人ってすごいもん。海外まで追いかけたりするんだよ」

それほど熱心に追っているわけではないけれど、怪盗キッドは割と好きだ。
大胆不敵で神出鬼没。犯行の前にわざわざ予告状を出して、厳重な警備をあざ笑うかのように宝石を奪う。にも関わらず、なぜか盗んだ後は持ち主に返してしまうと言うのはロマンがあると言うか、ミステリアスで心惹かれるものがある。いや、まあ、警察の人達からすると厄介だろうし、後から返したとしても犯罪は犯罪なのだろうけれど……。予告された場所が近くだったときは、友達を誘って見に行ったりもした。

「えー、じゃあ、コナンくん、近くでキッド見たことあるのかな? いいなあ……」

せっかくだから、生で見たキッドの印象を聞いてみたかった。でもまあ、あのときは知らなかったし、知っていてもそんな話をする余裕はなかっただろう。あの紳士的な雰囲気からして正体は素敵なおじさまだと思うのだけれど……知りたいような気もするし、このまま知らずに居たいような気もする。

『それに、東都タワーの爆破予告事件あったでしょ。あのとき爆発を止めたのもあの子だったみたい』
「えっ、あの、子どもがエレベーターに閉じ込められちゃったやつ?」

もう数ヶ月前のことだけれど、大事件だったから覚えている。東都タワーに爆弾が仕掛けられて、爆発の予告時間ギリギリまで、警察官と子供がエレベーターに閉じ込められたままになってしまったのだ。

『アンタ、あの日近くに居たんじゃなかった?』
「そうそう。芝公園で台湾フェスやってたんだよね。胡椒餅の屋台に並んでたら、避難してって言われてびっくりしたー」

爆弾は東都タワーごと吹き飛んでしまうような規模だったらしく、付近に居た人間に急遽避難指示が出たのだ。結局爆発は食い止められたけれど、爆弾を解体したのはなんとエレベーターに閉じ込められていた男の子だったらしい。思い出してきた。もし解体に失敗したり発見できず爆発していたら、大勢の人が巻き込まれていたとニュースでコメンテーターが解説していてゾッとした記憶がある。つまり、私がコナンくんに命の危機を救われたのは、あの火事が初めてではなかったと言うことだ。

「コナンくん、本当にすごいんだねぇ……。今回も、犯人の計画通りならホールに居た人達も危なかったんでしょ?」
『そうね。あの子が居なかったら、今頃どうなってたか……』

怜子ちゃんの言葉がそこで途切れた。改めて、怜子ちゃんが無事で本当によかった。それにもちろん、観客の人達も。紙一重で大勢の人を助けたのがあんな小さな子だと言うのはどこか現実味がなくて、不思議な気分になる。でも、それが事実なのだ。

「あれでまだ小学1年生でしょ? 成長したらどうなっちゃうんだろうね。やっぱり高校生探偵とかで活躍するのかなあ? 工藤新一くんとか、大阪の……えーと……服部平次くん? みたいな……」

そう言えば、工藤新一くんって一時期はよく新聞に載ってたのに、最近は全然見かけない。まあ、高校生なら大学受験も控えているだろうし、学業に専念と言うやつだろうか。そんなことを考えていたら、ふと点きっぱなしになっていたテレビの時報が11時を示していることに気が付いた。

「怜子ちゃん、もう寝る時間だよね? ごめんね、長電話になっちゃって」
『ああ……そうね。明日は警視庁に行かなきゃだし……午後は会見もあるし』
「そっか、事情聴取……大変だね」

と言うことは、明日の朝もゆっくり寝ているわけにはいかないのだろう。知らなかったとは言え、長々と話しこんでしまって申し訳ない。もう切るね、と通話終了ボタンを押すためにスマホを耳から離すと、スピーカーから「結月」と怜子ちゃんの声がした。

「あ、 ごめんね。まだ話、途中だった?」
『ううん……ありがと。アンタの能天気な声聞いてたら、ちょっと落ち着いた』
「えーと……どういたしまして?」

いつもより、どことなく弱弱しい怜子ちゃんの声。気丈に振舞っているけれど、やっぱりあんな事件に巻き込まれて消耗しているのだろう。怜子ちゃんを心配して電話したはずが、「光彦くんの好きな子って誰?」なんて脱線してしまったのでちょっと後ろめたかったのだけれど、そう言ってもらえると何よりだ。

「私も、怜子ちゃんの声が聞けて安心した。また電話しようね。おやすみなさい」
『ええ。おやすみ』

プツンと通話が切れる。怜子ちゃん、ぐっすり眠れるといいんだけどな、なんて思っていると、ドアが開いて高明くんが寝室から出て来た。キッチンに向かってコップに麦茶を注いでいるところを見ると、お茶を飲みにきたらしい。もしかすると、私の電話が終わるまで待ってくれていたのかもしれない。

「ごめんね、高明くん。夜遅くに長電話しちゃって」
「構いませんよ。友人が被害に遭ったとなれば、心配するのは当然でしょう」

高明くんはそんな大人な返事をしてくれたものの、ドアを閉めていても声は聞こえてしまっていただろう。この間、かんすけくんと高明くんが話していたときもそうだったし。リビングじゃなく、自分の部屋で電話するべきだった。30分……1時間以上しゃべっていたから、そこそこうるさかったはずだ。申し訳ない。

「親しい友人なのですね」
「え? うん。幼稚園からの付き合いだし……」
「……そうでしたか」

「親しい友人」なんて、怜子ちゃんが聞いたら顔を顰めそうだな、なんてこっそり苦笑する。正確に言えば、学校も違ったし高明くんとかんすけくんみたいにずっと一緒ってわけではないけれど……あ、でも、高明くんたちも大学は別々だからずっと一緒ってわけでもないんだっけ。

「もしかして、高明くんって怜子ちゃんのファンだったりする?」
「いえ……そう言うわけではないのですが。君から、彼女について話を聞いた記憶がなかったもので」

意外そうな表情をした高明くんにもしやと思って聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
なるほど。高明くんくらい記憶力がいいと、そう言う部分も気になってしまうものらしい。ヒロちゃんも前にちょっと話しただけのこととか覚えてるタイプだったもんな、なんて思い出す。昨日の夕飯の献立を思い出すのにも数秒かかるタイプの人間からすると、ちょっと羨ましい。

「あー……そうだね。高明くんには話したことなかったかも」

中高時代、ヒロちゃんにはよく「怜子ちゃんがね」と話を聞いてもらっていたけれど。怜子ちゃんにも指摘された通り、当時の私は自分が知る限り1番かっこいい「大好きなアキくん」と1番綺麗な「自慢の友達の怜子ちゃん」の間にロマンスが芽生えることを恐れていたので(由衣ちゃんも美人だけれど、昔からかんすけくん一筋だったし)、高明くんの前では怜子ちゃんの話を出さないようにしていたのだろう。今思うと無駄な努力と言うか、余計な心配だった気もするけれど。
昔の自分のことながら、恋する乙女っていじらしいよね、なんて頷く私に、高明くんは怪訝そうな顔をしていた。

翌日のお昼頃。怜子ちゃんから聞いていた通り、堂本さんが記者会見を開いて事情を説明した。堂本さんの隣に座る怜子ちゃんはちょっと顔色が悪そうに見えたけれど、記者の人達の質問に毅然と答えていた。画面の前で祈りながらハラハラと見守るしかできない私は、堂本さんが怜子ちゃんは人命を最優先に行動したのだと言ってくれたのにホッとしたり、意地悪な質問をする記者にクッションを握り潰したりと忙しかった。

堂本ホールのコンサートに纏わる炎上は、どうやら私が把握していた以上に燃え広がっていたらしい。

海外の有名な演奏家が怜子ちゃんの行動を強く非難していて、国外でも話題になっていたようだ。『当日急に舞台に穴を空けておいて、代役が演じているタイミングで乱入する』と言うセンセーショナルなトピックは、音楽関係者以外にも飛び火して、それはそれは大変なことになっていたらしい。
そんなマイナスなイメージが広まっていたからところに、この会見だ。明かされた真実は、SNSで流れていた噂とは大きく違っていた。自分勝手だと思われていた行動は、実は会場に居る人達の命を救うためだった、と言う種明かし。そもそもコンサートに穴を空けてしまった理由だって、犯人に襲われて拉致されたと言う怜子ちゃんには非がないもの。しかも、堂本さんが説明するまで自分からは一切弁明しなかった。まさに事実は小説より奇なり、と言いたくなるドラマチックなエピソードは同情と感動と尊敬を生んで、一躍怜子ちゃんは時の人になった。
ネットで好き勝手批判していた人達は、手のひらを返して怜子ちゃんを女神様のように崇めているし(炎上が収まったことは安心したけれど、ちょっと釈然としない)、ここ数日の怜子ちゃんはワイドショーに歌番組にと引っ張りだこだ。怜子ちゃんとしてはこんな形で注目されるのは不本意らしいのだけれど、演奏を邪魔してしまった千草ららさんとの共演は引き受けることにしたのだと言う。とりあえず、全部リアタイするつもりだし録画予約もした。

「もしもし? 怜子ちゃん? どうしたの?」
『ちょっと、聞きたいことがあって。……今話せる?』
「うん。平気だけど……あっ、ちょっとだけ待って」

夕食の後、そんな怜子ちゃんから電話があった。怜子ちゃんが事前に確認もなしにこんな時間に電話をかけてくるなんて珍しい。前回の反省を活かして部屋に戻ろうとリビングを横切ると、ちょうど高明くんの肩越しにテレビの画面が見えた。

「高明くん、その録画まだ消さないで! 私も見たい!」
「どれですか?」
「一昨日のNスペ! 『ヒグマ定点カメラ』!」

またヒグマですか、なんて言いながら高明くんがリモコンの操作を取り消したくれたので、満足して自分の部屋へ引っ込む。しっかりドアを閉めて落ち着いて電話する体制が整ったところで、再びスマホを耳に当てた。

「ごめんね、お待たせ」
『……』
「もしもーし? 聞こえてる? 切れちゃった?」
『……切れてないわよ』
「あ、よかった」
『……あの「アキくん」と2人で住んでるって言うから、どうなってるかと思ってたけど……会話に色気がなさすぎて驚いただけ』
「だから言ったでしょ。そんなんじゃないって」

スピーカーの部分は手で覆っていたのだけれど、さっきの会話が聞こえていたらしい。絶対ないと否定したのに信じてもらえていなかったのはちょっとショックだ。まあ、私に対して怜子ちゃんの信用がないのは今更なので仕方ないかもしれない。

「それで、えっと、聞きたいことって?」

私と高明くんの同居生活より、怜子ちゃんの話だ。さっきまで、生放送の歌番組に出ていたはず。何か嫌なことがあったのかな、なんて不安になったけれど、怜子ちゃんが教えてくれたのは予想と反対のすごくいいニュースだった。

『……新しくCDを出さないかって話が来たの』
「えっ! すごいね! おめでとう!」
『まあ、このタイミングでオファーが来たのは、私の歌がどうこうって言うより話題性だろうけど……』
「そんなことないよ! 怜子ちゃんのアメイジング・グレイス、動画サイトで再生回数5倍になったってニュースになってたもん!」
『クラシック以外に一般受けする曲もってオーダーはされてるけど……選曲は私の希望も反映するって話だし、割と条件が良くて……』
「すごいすごい! 『今はクラシックは売れにくいからなかなかCD出ない』って言ってたもんね!? 発売いつ頃になるの? 絶対買うね!」
『ありがと。それで……』
「何歌うの? 私あれがいいな、グリーンスリーブス! 音楽の授業のときすっごい綺麗だったし……あっ、もしかしてポップスのカバーでもいいの?」
『とりあえず話聞きなさいよ』

テンションが上がって話しすぎたせいか、ピシャリと言う怜子ちゃんの口調は冷たい。はい、と口を閉じて、ついでに背筋も伸ばす。しばらくの沈黙の後、怜子ちゃんはポツポツと話し出した。

『……ジャケット、表は私の写真なんだけど……何か希望はあるかって言われたの。それで……裏面と歌詞カード、アンタに描いてもらえたらって……』
「えっ……?」

思わずぱちぱちと瞬きを繰り返す。何だか今、夢みたいな言葉が聞こえた気がする。えーと、そう。怜子ちゃんが新しく出すCDのジャケットと、歌詞カードのイラストを、私が。……私に?

「えっ、そんな、大事なCDでしょ……いいの?」
『……嫌ならいいわよ。別に』
「嫌なわけないよ! やる! 絶対やる!」
『……アンタ、他の仕事も抱えてるでしょ? スケジュールも確認せず安請け合いして大丈夫なの?』
「調整する! だって、怜子ちゃんと一緒のお仕事なんて絶対やりたいよ!」

レコード会社としては話題になっているタイミングで発売したいだろうから、通常よりスケジュールがタイトそうだと想像はつくけれど。でも、こんな機会、またあるかどうかわからない。せっかく怜子ちゃんが頼んでくれたのだ。めちゃくちゃ嬉しい。絶対やりたい。

『……じゃあ、話通しておくわね。正式な依頼はレコード会社の方から行くと思うから』
「うん、頑張るね!」

怜子ちゃん大好き、と思わず告白すると、「あっそ」と素っ気ない返事が返って来た。つれない。

— End —

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雨宮5 天前
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E2L11 个月前
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ING11 个月前
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Sakuria
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