そのメッセージを見た時、ユンギは最近少しだけ度を上げた眼鏡のフレームを持ち上げた。
四角い画面に、一行だけ。
〘終わったよ。〙
シンプルな文字を見つめながら、ソファに沈む。
…さて、なんと返信するか。
スマホが震える少し前。
Xか何か忘れたが、真っ赤な、4万とも5万ともつかない光を見た。それは星屑のようにも見え、信じられないことに、その一粒一粒は人間であり、ステージの、ただ一人を見つめている。
瞳にありったけの期待を込めて。
__何万人もの人から歓声を浴びるってどんな気持ち?
これまで、家族も含め何度となく尋ねられた。だが、上手く言葉にできた試しがない。
「鳥肌が立つよね」
「一言で言えば…感動?」
実のところ、頭を空っぽにして声援を味わうことは滅多にない。いつまでもぼぉっと立っているわけにはいかず、決められた次の進行をミスなくこなさなくてはならない。
それでも。
あまりのエネルギーに、「現実が遠のく」感覚は確かにある。そして、そんな時は…なぜか涙腺に来る。
今、光の中にいる男の目にも涙があった。垂れた目尻が光っていた。
ソファにさらに深く沈み、何となくスウェットのフードをかぶった。
じっとしていると、フードの中、薄暗くなった視界に懐かしい感覚が蘇り、眼裏に星屑を映した。地響きのような歓声を聞いた。今から3年前、自分も確かに、たった一人光の中にいたんだ。
あれはホソクがまだ兵役中のことだ。最初の休暇で相談を受けた。
__転役したら、ツアーをしたい。
「オーケー まず、ストーリーだな」
「セトリは緩急。ソロコンってマジで休む時間ないからさ」
「誰に演出を頼むか、早めに決めないと」
アイツは目を輝かせて聞いていたし、途中から頭の中でどんどんイメージが膨らんでいくのが、手に取るようにわかった。
「でさ、スクリーンなんだけど、」
「……」
「おい、聞いてる?」
「ん?」
見事にキョトンとした顔。
聞いてねぇじゃんって、思い切り腹をくすぐってやったら、ぎゃハハハ……身を捩って笑い転げた。
髪を短く刈った、少年のような顔が忘れられない。
それからは休暇の度にツアーの話をしていたが、転役し、本格的に準備が始まると言ってやれることはだんだん減って、俺の口からは、一にも二にも体調管理しか出なくなった。
聞けば、演出にはそれほど凝らず、歌とダンスで真っ向から勝負するライブだという。つい心配を漏らすと、
「だってヒョンみたいにギターとか弾けないもん。……あ、でも、火はバーって派手に出すよ」と笑った。
世界15都市を巡る全31公演。ソウル3デイズからの滑り出しは上々だったが、海外を転戦するうち、恐れていた通り体調を崩した。当然だ。どんなに気をつけていても、軍で鍛えてきたと言えど、キャパシティ (容量)を超えるエネルギーを使っている。
例えばアスリートは、国際大会の2週間前には現地入りするという。その場の気温、時差にアジャストするのにそれくらい必要だそうだ。それが、俺たちのスケジュールときたら。身体が悲鳴を上げるのも無理はない。
俺の場合、体調不良は喉の違和感からはじまった。すぐにヒリヒリとした痛みに変わり、身体のダルさ、そして発熱…
あの不安と絶望感はちょっと忘れられない。倒れても、代わりにステージをしてくれる仲間はいないという、当たり前の事実がギリギリと心を苦しめる。
だから誇張ではなく、ホソクの不調を聞いた時には胸が潰れる思いだった。メンバーも皆心配してたと思う。ジミンなど一度連絡もしてきた。
「ねぇ、どうしたらいいの? ヒョン経験者でしょ、ねぇ、ホビヒョンに教えてあげてよ!」
ジミンに言われるまでもなく、言ってやりたいこと、俺だから言えることはあったと思う。だけど、どんな言葉も慰めにならないこともまた知っていた。
俺は、たんたんとデスクワークをこなしながら「お前のせいじゃないから」そう、胸のなかで繰り返した。
ん、あーーーー
はい、オシマイ
わざと声を出し伸びをする。
ちょっと切ない記憶とはおさらばだ。まだアンコンがあるとは言え、アイツは無事ツアーを完走したんだから。
フードを下ろし、眼鏡も外すと物思いから覚める。明日からまた勤務。転役を間近に控え急ピッチで引き継ぎを進めなくてはならない。
そろそろ寝よ。
返信……いや、電話にしようか。
そう思ってスマホを取り上げると、柄にもなく少しドキドキした。
ホソクとは2週間ほど前、ビデオ通話で話した。画面に現れたアイツはやけに落ち着いた大人びた雰囲気で、一瞬ドキッとした。撮影帰りなのかまだメイクも落としておらず、普通にめちゃくちゃきれいだった。
どうも調子が狂う。
「ラストは日本?」
「うん、大阪だよ。ドーム。OSAKA Brr Brr…」
「凄いじゃん」
「大丈夫かなぁ…もぉ、ヒョンが、大きな箱でやれって言ったんだからね、ヒョンのせいだ」
口を尖らせ、軽口を叩くホソク。でも一瞬だけ、瞳が不安気に揺れたのが見えた。
その時俺はどう言ったんだっけ。
「システマチックにやるだけ」
「順序通り。わかるよな」
「うん」
「大丈夫、終わるから」
「うん。そうだね」
〘ツアー完走おめでとう。俺たちが帰るまでの期間限定と、時間を惜しむように、死にものぐるいでやってきたよな。そして今、お前は揺るぎない場所を見つけたんだ。ステージという場所を〙
そこまで書いて、ユンギは✕(Delete)ボタンをタタタ…と押した。しばらく書いては消しを繰り返し、送信ボタンを押したときには結局一言になっていた。
〘おつかれ。早く帰ってこい〙























わーキートンさんも行かれてたんですね!私も京セラD2に娘と友人といました!友人が強火3ペンでライブ後胸が一杯で食べられないと言って夕食抜きでした(笑)ほんとにこの人(たち)この世に存在するんだなあとずーっと思ってた気がします。最後に結局「お疲れ、早く帰って」になるのわかるなあ..