その日はお姉様と慕ってくれるくのたまの上級生が遊びに来た日だった。
いつもは華が咲くような可愛らしい笑顔で訪ねてくれるのに、その日は何やら浮かない顔であった。明らかに悩んでいますという雰囲気に縁側座って話を聞いてみる。
初めて聞く単語に思わずオウム返しをした。
「房中術?」
パチパチと目を瞬かせれば、くのたまの子は顔を真っ赤にしてコクリと頷く。
この様子からして何それと聞いたらいけない気がする。いや、何となく想像はつく。今軽く説明された夜に行うこととしたらアレしかなかろう。お姉様大人なので察しはつくのです。
目の前の子は現代でいうならば中学生ほど。そんな歳の女の子からそういった相談されるとは思わず、かける言葉も喉元で溶けて消えてしまった。
「上級生でそういう授業するとは知ってたんです。四年生で座学、五年生になったら実践をする。覚悟はしてたんですけど、いざ実践ってなると勇気が……」
「ああ、うん………あるあるそういうこと」
ねぇよ。
自然に任せて自分が望んだ展開ならわかるけど、授業の一貫で処女散らす気持ちはカケラもわかんないよ。ジェネギャが酷い。忍者だからそういうことも必要だというのはわかってるけど理解には時間がかかる。未来人だもの。
そういった授業が四年生から始まる、すなわち13歳から始まるのもちょっと驚きだ。とはいえ、現代でもそっちの教育は早ければその時期にするだろう。それだけなら何とも思わないが、実践がその一年後は早いにも程がある。未来ならではの思考だからか、ちょっと否定的な気持ちが滲み出てきているのは仕方ない。
「ええっと、私この学校の授業の仕組みとかよくわかってないんだけど……相手は決まってるの?」
「それが、自分で選ぶんですよ……。だから迷ってて……」
「おぉう……」
そらまた難儀な。初めてを貰ってくれる相手を自分で探すとな。
付き合ってる相手とかだったらまだしも、誰とも付き合ったことない子はかなり勇気がいるし、怖いだろう。そういうのは先生達が斡旋してくれるものだろうが、相手を探すことも含めて実習なのだそう。くのたまの実習レベル高すぎて気を失いそう。自分よりも若い子達がハイレベルな授業受けてて何もしてないこっちが灰になりかけてる。
「ちなみに、目星はついてるの?」
「えっと……お願いしたいなぁって人は……」
「おっ、いいじゃん。その人には?」
「言える勇気がなくて……」
「そうよねぇ」
女の子の一生で一度しかない、大事な瞬間をあげたいなら好きな人が一番だ。
くのたまの子の恋する乙女な表情ににっこりしてしまうが、内容が内容なため素直に恋バナできない。頼みたくとも断られたらそれがトラウマになりかねないかもしれない。
「でも…ちょっと頑張ってみます!なのでお姉様、御守りをください!」
「御守り?」
「我儘を言ってるのは承知なんですけど、大人になった私の絵を描いてほしくて……。これから大人になるんです。お姉様が描いてくれた絵みたいな人になれるようにって」
「そんなのいくらでも描いてあげるわよ!!」
自分の絵で勇気が出せるなら百枚でも千枚でも描いてやる。
早速筆を持って、これから大人になるであろう少女の成長をイメージして線を引いていく。きっとこの子は綺麗な笑みで野郎達を魅了していく美人に育っていくに違いない。大人への道を歩く彼女の背を押すように、線の一本一本を丁寧に描いていく。
「はい、完成。どうかな」
「わぁっ……!すごいお姉様!私、こんなふうになれるかしら!」
「なれるなれる。あんたは強くてかっこよくて、さらに美人なくノ一になるよ」
描いた絵を嬉しそうに眺めては大切そうに抱き締め、それを畳んでから小袋に仕舞う彼女を微笑ましく眺める。すると、彼女が興奮した様子で頬を蒸気させてにじり寄ってきた。
「私、お姉様の話も聞きたいです!今までどんな恋愛したんですか?」
「え、えぇ私ぃ……?そんな大したことは……」
「どんな話でもいいです!お姉様のお話聞きたい!」
「うーん、まぁ……ちょっとなら…」
「やったぁ!」
無理だ、こんな純粋な笑みではしゃぐ少女を無碍にはできない。
ここで話すのは何だからと中に促せば、後ろを着いてくる彼女がとんでもない爆弾を放り投げてきた。
「ウフフ、忍たま達は違う相手で二回実習するみたいだから、それに比べたらまだいい方だわ」
「え、忍たまとくのたまは違うの?」
「そうなんです。私達くのたまは大体が男の人相手ですから、実習は男性のみなんですよ。権力者は男ばかりですもの」
「忍たまは?あっちも女相手に引っ掛けるんじゃないの?」
「あら、お姉様。世には女が好きな男ばかりではないのですよ」
「……………ん?」
含み笑いする彼女はすでに大人の色気を放っていた。うっそりと、悪戯心を混じえたその笑みに敵を欺くくノ一の陽炎が見える。
「女人禁制の寺などに忍び込むのは男である忍たまだけ。……寺の者達は女相手の禁欲を強いている。それならば…わかりますよね?」
「よし、この話はここまで!終わり終わり!お姉様何も聞いてませーん!!」
「忍たまは五年生で全て失います」
「はーーーいお姉様マジで何も聞いてないから!!何だっけ?棒注術だっけ?棒に注意する術の話をしてたんだよね?怖いよね、棒って!犬も歩けば棒に当たるって言うもんね!はいもうここからはミュートでいきます!!」
「そうです。尻への棒に注意しなきゃいけない術です。大変ですよね。犬っていうより猫ですけど」
「ミュートを突き破ってくんなよ!もうやめて!お姉様これからアイツらのことどんな目で見ていいかわからなくなるから!」
「ちなみに忍たまの五年生はお姉様が来る前に実習終わってます」
「あんたもうその勢いの良さだけは大人だよ。さっさと好きな男に抱かれてこい!」
「その前にお姉様からご教授いただかなきゃ」
その後は何を話したかさっぱり覚えていない。
覚えていることといえば、とりあえず五年生と六年生の見る目が変わっちゃったことくらいだろうか。
五年生と六年生と目が合わせられないまま数日が過ぎた。
こんなことしてはいけないとわかってはいる。わかってはいるのだが、どうしても目が彼らの下半身に行ってしまうという、現代であればセクハラ逮捕待ったなしな己の行動に頭を抱える毎日だ。勘右衛門や兵助が心配そうに顔を覗かせてきたが、その心配の向こうに処女喪失の文字が見えてしまい、全力で土下座したくなった。
最近では土井センともちょっと目が合わせられなくて、自分の中の腐の女が嫌になる。
「また仕事詰め込めばこの邪念も消えるだろうか……」
うんうんと唸りながら気分転換にいつもは通らない道を歩く。
シャド先や木下先生辺りに仕事を貰いに行くか、それとも小松田の手伝いでもするか。
そんなことを考えていたら、突如足元の地面が消え失せ、体が一直線に落下する。すぐに尻に鈍い痛みが生じ、ズキズキと痛む臀部に手を当てて頭上を見上げた。綺麗な円の向こうに見える青空にこの穴を掘り上げた者の顔を思い浮かべる。
「喜八郎ーーーー!!」
目を釣り上げて叫ぶも誰も来ず。
仕方なく立ち上がって辺りを見渡せば、狭いながらも座布団や布などが敷かれていたことからこれが衝撃を緩和していたのだとわかる。これが槍とかだったら今頃確実に死んでた。
「神様がここで反省しろってことなんかなぁ」
自分の邪念をお見通しな神様の穴の中で反省しろというお達しなのだろうか。確かに上級生達へのぎこちない対応は大人としてどうかとは思っていた。彼らは立派な忍者になるために通った道なのに自分勝手な偏見は如何なものか。
郷に入っては郷に従えというじゃないか。そうだ、ここは忍術学園。ここでお世話になっている限り、自分とは認識が違うものでも受け入れなければいけない。受け入れていないわけではないがジェネギャが凄過ぎて理解の範疇を超えていただけだ。そこは頑張ってねじ込まなければ。
「あれ、お姉さ〜ん」
間延びした声が降ってくる。再度見上げれば、青空を阻害するようにこちらを覗き込んでくる者が一人。太陽に照らされた金髪とほんわかした笑顔が春の光を思わせた。
「喜八郎の穴に落ちちゃったんですか〜?」
「ご覧の通りでーす。悪いんだけどタカ丸、脱出手伝ってくれない?」
「今縄持ってきますね〜」
タカ丸が一旦去ってまた日の光が差し込んでくる。とりあえず長時間放ったらかしにならずホッとし、壁に背を預けた。土の匂いと穴に迷い込んできた色なき風におのずと目を閉じる。
この時代にきてどれくらいの経っただろうか。こうして落とし穴の中でも風を感じられるほどゆっくりできてしまうくらい馴染んできた気はする。
勿論、元の時代には帰りたい。スマホはねぇ。電気もねぇ。車もねぇ。チャリもねぇ。クーラーねぇ。暖房ねぇのないことづくしである。けれども、いざ帰るとなると名残惜しくなることは間違いないほど、ここの生活が好きになってることは確かだ。
「入れ込みすぎたかなぁ」
「おやまぁ。誰が僕の掘ったトッシーくんに落ちたかと思えば、鬼姉様でしたか」
再び頭上に影が差すが降ってきた声はタカ丸のものではなかった。この飄々した話し方は心当たりがあり、なんなら今いる穴を掘った張本人に違いなかった。
いかにも不機嫌ですという顔を作って見上げれば、そこにはやはり思った通りの人物が目をパチクリさせて覗き込んでいた。
「はーい、おたくのトッシーくんにはお世話になりましたー」
「これから仕上げにかかるところだったのに。鬼姉様なんてことしてくれたんです」
「これは私のせいになるの?」
それは解せないのだが。
とはいえ制作途中の罠を台無しにしてしまったのは申し訳ない。けれど仕上げをするのであれば穴のまま置いておいてほしかった気持ちもあるので、大人気なく唇を尖らせることくらいしかできない。
すると、喜八郎が少し考え込むように空を見上げてから、何を思ったのか自ら穴に飛び込んできた。
「うおぁっ!?ビックリしたぁ……ここ狭いんだから入るなら入るって言ってよ」
「僕のトッシーくんなので僕が何しようがいいでしょ」
可愛くねぇ子。喜八郎から目を逸らしてこっそり溜息を吐けば、落とし穴を掘った張本人が目の前まで歩いてきては膝を折ってこちらを覗き込んできた。溜息を吐いたことがバレたかと思ったが、代わりに可愛らしい腹の音が懇願するように鳴いた。
「鬼姉様、僕お腹が空きました」
「でしょうねぇ。食堂でもいってらっしゃい」
「トッシーくんを台無しにしたお詫びにうどんが食べたいです」
「奢れってこと??穴に落ちたのこっちなのに?まぁそれくらいならいいけど。今日のランチにうどんなんてあったっけ?」
「違います。ある町に美味しいうどん屋さんがあると兵太夫に聞いたのでそこがいいです」
「町に出るのぉ?」
落とし穴に落とされた上、何故かたかられ、そして町まで行けなんて。この少年、ゴーイングマイウェイを走り過ぎではないだろうか。いや、走るというより掘りまくって作っているほうが正しいかもしれない。
「お姉さ〜ん、縄持ってきましたよ〜。あれ、喜八郎までいるの?」
「タカ丸!ありがとう!」
タカ丸が持ってきてくれた縄を使い、ようやく地上に戻ってこられた。穴のそばで一息ついていたところで喜八郎が先程の話題に戻してくる。
「鬼姉様、うどんがいいです。町の」
「喜八郎うどん食べたいの?」
「タカ丸が来る前に落とし穴の中でたかられた」
「朝から落とし穴を掘ってたからお腹空いた〜?それなら俺も一緒に行っていい?」
「タカ丸は嗜める立場ではなくて?」
ちゃっかり便乗してきやがった。何でだ、この前の仕返しか?追いかけてくる女の子達を撒く方法はないかの腹立つ相談に「君のキューティクルに乾杯とか言っとけばいいんじゃね?」とか適当なアドバイスしたからか?ここでたかりのタカ丸は開花させなくていいのよ。
「お姉さんっていろんな子達とお出掛けしてますよね〜。俺もお出掛けしてみたいって思ってたから行きたいなって。ダメですか?」
「それじゃあ鬼姉様、うどん二人分で」
「お前はご馳走になりますっていう立場でしょーが。……いいよ、二人分くらいなら」
ここで思い出してしまった。
そう、この子達、まだ房中術の実践をしていない子達だと。要するにまだ後ろの方は清い体の持ち主だ。ぶっちゃけタカ丸は怪しいけどまぁ綺麗だということにしておこう。
何だろう、この子達がすごく可愛く見えてきたのと同時にこれから大人になっていくと考えると泣けてきた。いろんな意味で。
「いいよ……お姉さんがいくらでも君達にうどん食べさせてあげるよ。だから大人になっても純粋な心は忘れないでね」
「何です急に。気持ち悪」
「お姉さーん?」
喜八郎の気味が悪そうな表情も何とも思わないくらい、今の自分は情緒がおかしかった。
「教科の成績も1番なら、実技の成績も1番!忍たま期待の星!学園のスーパースター、平滝夜叉丸!」
「教科も優秀ながら、過激な火器にかけては忍術学園ナンバーワン!学園のアイドル!田村三木ヱ門!」
片足でくるくる回りながらバチコーンとウインクかましてくる喧しい少年と、媚び売るように目をくりくりにして可愛こぶるこれまた喧しい少年が正門の前で立ちはだかる。
その傍では自分も何か名乗りをあげた方がいいのかと戸惑ってる可哀想な少年が一人。
「お、俺も何か言わないとダメか……?」
「守一郎は別にいいと思うよ〜」
うどん奢る約束をしていたのは二人のはずだったが、いつのまにか三人が追加されていて平然を装おうとする表情筋が痙攣している。
喜八郎が無理やり引っ張ってきた守一郎に関してはもういい。だが呼んでない二人まで来るのは予想外だ。何故ここにいる。何故知ってる。
「みぃぃず臭いじゃないですかレディ鬼ババ!平滝夜叉丸を置いて町へランチなどと!ランチを楽しむなら楽しい会話が何より必須!この学園のスーパースターである私がいなくては始まらない!」
「学園のアイドルである僕を置いてくなんて何をお考えですかお姉様!喜八郎達だけ奢られるのズルいじゃないですか!」
「スーパースターだのアイドルだの、私ゃタッキー&三木ティのマネージャーじゃねぇんだ。いちいち町へランチ行きまーすなんて言うかい」
「「ケチ」」
「実はあんたら仲良しでしょ。絶対ユニット組んで新曲出してるでしょ」
断ってもどうせ着いてくるので、もはや何も言わずに小松田が差し出す出門票にサインをした。
一歩門の外に出れば、すかさずタカ丸が右手を掬い上げてくる。
「お姉さんが逸れないように」
「さすがくノたまにモテるだけあるねぇ」
「仕方ないですねぇ。それなら僕はこっちを持ってあげます」
左手は喜八郎に拘束される。背後で出遅れた滝夜叉丸と三木ヱ門がワーワー騒いでいる中、どうすればいいかわからないまま狼狽える守一郎は思考の末、荷物が入った背中の風呂敷を遠慮がちにキュッと摘んでくる。
「なら俺はここで……」
守一郎の行動が一番グッときた。母性くすぐられた。お前が優勝。何か産んだ気になった。
騒がしい出発となったが、町までの歩みは平和なものだった。山賊に会わず、獰猛な獣にも鉢合わせず順調に足を踏み進め町にやってきた。
「兵太夫が言ってた店は町を抜けて少し歩いたところにあるらしいですよ」
「へー」
委員会の後輩の情報を頼りに喜八郎の後をついて歩き進めていたところ、通り過ぎようとした店の方から大きな物音がした。やがて、物音は激しくなり何かが店の外へと吹っ飛ばされてくる。
「「お姉様!」」
後ろを歩いていた滝夜叉丸と三木ヱ門がすかさず前に出て警戒態勢をとる。
吹っ飛ばされて目を回しているのは見た感じガラが悪そうな男二人だった。これを倒した人物がまだ中にいるということ。巻き込まれる前に通り過ぎようと全員で顔を合わせたところ、店からザリッと足音が聞こえ、中から人影が姿を現した。
「…あ」
滝夜叉丸が目を丸くして声を漏らす。三木ヱ門やその他四年生も同様の表情だ。
この子達をそんな顔にさせる人物を改めて見たところ、他の人よりも少し、いや結構身長が高い女性が驚いたように見返している。
聞かなくてもわかる。間違いなく知り合いだろう。この子達が知っているということは忍術学園の関係者なのかもしれない。とはいえ、見たことない人なので初めてお会いする方だ。
「何故ここにりき……」
「シッ。潜入捜査中なんだ。今は利子と呼んでくれ」
りき……りき……力士?
いや絶対違うな。見た目からしてそんなわけない。りきなんとかみたいな名前の人は聞いたことないし、やっぱり会ったことない人だ。
滝夜叉丸の唇に人差し指を当てた女性だろう人がこっちに気づく。茶色の髪を靡かせて微笑む姿は町の男達を魅了してしまうくらい綺麗だった。
「こんにちは。ご姉弟でお出掛けですか?」
「あ、はい、そうでーす…」
「そうでしたか。お出掛け中にご迷惑おかけして申し訳ないです。店の中で迷惑してる輩がいたものですから。お怪我は?」
「大丈夫っす」
「お詫びにお茶一杯ご馳走するのでよければどうぞ」
「わーい」
喜んだのは誘われたこちらではなく喜八郎だ。どこか楽しげな空気を醸し出すこの子は真っ先に店頭の長椅子に腰掛けた。
我が道をいく喜八郎に呆れつつも、町までの疲労を癒すために一旦休息をとることにした。りきなんとかさんが淹れてくれたお茶を啜っていたところで、また新たな人物が暖簾をあげてこちらを覗き込んでくる。
「おーい利子ちゃーん。そっちは大丈夫だっ………ゲェッ!!?」
首を絞められたニワトリみたいな声を上げたであろう人物は、こちらが振り向く前に暖簾の奥に姿を消した。慌てた様子で消えていったので顔は見えず。だけどどこかで聞いたことある声な気がした。四年生達はというと、どこか呆れたような苦笑いだ。
「どうしたんですか、はん……ぐえっ」
暖簾を上げて中の様子を見たりきなんとかさんが、これまた潰された蛙みたいな声を上げてから店内に吸い込まれた。
我ながら怪訝な顔をしてることは明白で、白い目でお茶を飲んでいたら二人分の足音が店内から響いてきた。
「お待たせしましたぁ〜〜」
「「「「「ブッフォァッッーーーーー」」」」」
形容し難い裏声と左右から繰り出されるお茶のスプリンクラーに言葉も失せる。お金持ちの家の庭にある水を噴き出す彫像も顔負けなスプリンクラーを披露した四年生達はというと、お茶を地面に注いだ後に長椅子に伏せては背中を震わせ始めた。
この子達をこんなふうにさせた張本人を見るべく顔をそちらに向ければ、何と言えばいいのか……伝子と並ぶほど、かける言葉を選ばなければならないくらいのブサイクがいた。
隣のりきなんとかさんも失望したレベルに絶句してる。憧れの人が実はオカマだった真実を見たみたいな顔つきだ。何故か同情する。
「先程はうちの利子ちゃんが失礼しましたぁ。私ぃ、利子ちゃんの姉の助子といいます〜」
「すけこ」
「はぁい助子です」
ネーミングセンスを疑った。そんなすけこましまたいな名前をつける親は多分碌な親じゃない。妹だろう利子は普通の名前なのに姉の名前がクソすぎて同情を超える。その上アホみたいに濃い化粧だ。それに加えて驚くほどのミニスカ。丸ごとブサイクでこっちが泣けてきた。店で迷惑かけたゴロツキよりも迷惑かけそうな顔に心の中で合掌する。
そこで一通り笑い終えた滝夜叉丸が肩を掴んできては気を遣うように首を振ってくる。
「お姉様、そろそろ行きましょう。早くしないと混んでしまいます」
「うん……そだね」
美醜の違いがはっきりわかる姉妹に見送られ、ようやく本来のうどん屋へと旅立つことができた。
だが、未だに笑いの世界から帰還しない奴もいる。
守一郎なんか以前「布団がお山にふっとんだ!おやまー!」の駄洒落を言った時よりも笑い転げているし、三木ヱ門は「ゆり子……お前にはあんな化粧はしないからね!」と忍術学園に置いてきたゆり子に誓いを立てていたし、喜八郎は滝夜叉丸にひっついてまだ震えている。
助子のインパクトが強すぎて四年生が使い物にならない。かろうじて滝夜叉丸とタカ丸が正気に戻っているがこっちも油断したらまた笑いの世界に飛ばされそうだ。
「ところで、助子ってあんたらの知り合い?知った顔な感じだったけど」
途端に四年生達の体が硬直した。そしてギリリとそれぞれが明後日の方向に目を向けてこちらの質問に答えないよう頑張っている。
なるほど、知り合いか。
潜入調査にしては随分目立っていたが大丈夫だろうか。
「おもろい知り合いがいるもんだね」
それだけ言って歩くスピードを早める。
後ろで何か物言いたげな四年生達の視線なんぞ知る由もなく。
不可解な寄り道をした後のうどんはこれまた美味しかった。
帰りは滝夜叉丸と三木ヱ門に手を繋がれた。二人の自慢話を聞き流していれば、いつのまにか四年生と夕飯をとることになっていたらしくこのまま食事の材料を買うこととなった。
材料を買い終えて学園への道を歩いていると道の傍に花屋が見えてくる。店頭のおばさんが持っている薔薇の花を見た瞬間、滝夜叉丸が忍者らしくすごいスピードでこの場から消え去った。
「ああっ!なんと美しい…!まさにこの平滝夜叉丸を引き立たせるにピッタリではないか!日光に照らされたしなやかに翻す花弁の一枚一枚がまさに芸術!スーパースターにこそふさわしい可憐な薔薇…!『忍辱の薔薇』、それは誰?……そう、それはこのわ・た・し!平滝夜叉丸さ!」
ちょっと恥ずかしいから離れておこうか。
花屋の前でくるくる回りながら詩的に語る喧しい少年を遠くで生温い目で見守ってやる。
だが、それに対抗する者が現れた。見なくてもわかる、学園のアイドル様だ。
「フッ、赤い薔薇……滝夜叉丸、喧しいお前にピッタリだな。本当に美しい花が何か知らないの?純粋なものこそ可憐で美しいというのさ。純粋の色、それは白。ならば学園のアイドルである僕に似合う白い薔薇こそが美しい!見ろ、薔薇さえも抱擁してしまうほどの僕の可憐さをね!」
「そのまま棘に刺されまくってしまえばいい」
「なにおう!?」
薔薇も喧しいお前達を棘でブッ刺したくなるだろうな。スーパースターとアイドルに取り合われる薔薇に同情するなんて初めての経験だ。
あの二人は置いてさっさと帰ろうか。そう言って四人で足を踏み出したところで薔薇小僧共がすごい剣幕で向かってくる。
「「お姉様!どっちが美しいですか!!」」
「どっちでもいいよ。花屋さんに迷惑かけるんじゃない。……すみません、おバカ二人がご迷惑をおかけしました」
花屋のおばちゃんに頭を下げて、店頭に並ぶ数々の花を見る。現代の花屋に比べればラインナップは少ないが、それでも生き生きとした綺麗な花が多く自然と表情が緩む。
風で揺れる花びらが生き物のように動く様を眺めていたら、髪に何かが差し込まれた。
「俺はこれが似合うと思うなぁ」
腕を宙に上げたまま微笑むタカ丸に目を丸くして見返した。こちらが何かを言う前に残りの四年生達が花屋のおばちゃんに次々と花を注文し始める。
「おばちゃん!あの花ください!」
「三木ヱ門、抜け駆けをするな!それなら私はこれを!」
「おばちゃーん、僕はこれ一本」
「お、俺はこの花を……!」
「あ、これお代でぇす」
いくつかの花をお買い上げした四年生達が一斉に買った花を差し出してきた。
それぞれ違う花を渡そうとする少年達にまたしても目をパチクリとさせる。
「………求婚?」
「違いますよ!アイドルは応援してくれるファンへ感謝の気持ちは忘れないんです!」
「ファンだったんだ私」
「忍術学園のスーパースターは私一人だが、忍術学園のスーパー鬼ババはお姉様しかおりません!同じスーパーの名を持つあなたに敬意を込めて!」
「敬意なのそれは?スーパー鬼ババなんて私以外誰がいんのよ。スーパーバカにしてない?」
「鬼姉様。いつも僕の落とし穴に引っかかってくれてありがとうございます。これお礼でーす」
「っっだっ!?喜八郎、あんた髪にさすならもっと優しくしなさいよ!」
「おっお姉さんに似合うと思って……!」
「あんたら、これが正解。守一郎とタカ丸を見習え」
とはいえ、こうして花を貰えるのは素直に嬉しいものだ。タカ丸に髪に花を編み込んでもらった後、四年生達を力一杯抱き締めてやる。思春期を迎えて恥ずかしがる子もいるが、本気で嫌がる素振りは見られないので感謝の意が伝わるまで腕に力を込めた。
・
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学園に戻ってくれば、は組の子達がいつかの日みたいに膨れ面で出迎えた。
髪の花を見てはより不機嫌そうに頬を膨らませる。風船が量産され、思わず突きたくなって近くにいた三治郎の頬を人差し指で触ってみる。プシューと萎んだので思わず三治郎と二人で笑ってしまった。
「そうじゃなくて!お姉さん、またぼく達を置いていったぁ〜〜!」
「今日はお姉さんに紙芝居読んでもらおうと思ってたのに〜!」
「あんたらとはこの前一緒に出掛けたじゃん。伝子も一緒に」
そう、以前五年生の二人と出掛けた後には組に強請られて外へ行ったのだ。付き添いとして伝子が来たのは予想外だったが。まさかのサプライズに思わず飛び跳ねたのはいい思い出である。は組と同じく付き添いの土井センはげっそりしていたが。
「それに!そのお花何!?」
「ああこれ?滝夜叉丸達がくれたの。綺麗だよねー。私に似合いそうな花を見繕ってくれたんだよ。みんなセンスいいよね」
髪が崩れないように、花が散らないように頭に手を伸ばせば目の前のチビ集団から不機嫌なオーラが増した。
「わたし達だってお姉さんに似合う花選べるもん!」
「明日!お姉さんにお花渡すから出掛けないでよ!」
「みんな!今から外出届出しに行こう!土井先生は出張でいないから山田先生に!」
こちらが引き止める間もなく、は組の子ども達がダンおじの元へと走り去っていった。
花をくれるのは嬉しいが、あの人数だときっと本数も多いだろう。あの様子からして髪に挿しそうな勢いだ。以前ラプンツェ○の話を聞かせたばかりだし、やりかねない。その後に土井センの髪で遊んだんだからさすがにやめてほしい。みんなで傷んだ髪を編み込んだ後、適当な野花を挿したのはかなり最近だ。塔の上のラプンツェ○ならぬ軒の下のドインツェルが完成したのも記憶に新しい。
「なぁお姉さん。飯はどこで食べる?」
「どこでもいいよ」
「じゃあ鬼姉様の長屋でー」
「はいはい。あ、その前に六年生の長屋に寄っていい?」
「六年生に用ですか?」
「まぁね」
滝夜叉丸達には先に行っててもらい、六年生の長屋にお邪魔する。とはいっても外から目的の人物の名を呼ぶだけなのだが。
「お留ちゃーん。いるー?」
とある部屋からガタガタドッシャーンと音がし、やがて障子が開く。
中から顔を覗かせたのは目的の人物である留三郎だ。最近はこっちが勝手に気まずくもあって顔を合わせていなかったため、何だか久々に顔を見た気がする。ぶっちゃけ今でも少しだけ気まずいが。全力で下半身に目を向けないよう意識する。
「アンタか。俺に用か?」
「うん。渡したいものがあってさ。時間大丈夫?」
「おう」
少しぎこちないのが気になるが、こっちも人のこと言えないので黙っておく。縁側まで出てきてくれたお留ちゃんの眼前に風呂敷を差し出した。向こうは何が何だかわからず目を丸くするが、これはいつも彼がやっていることだ。
「これ、お土産。さっき四年生達と町に行ってきたの。お留ちゃん、いつもお土産くれるから今度は私が買ってきた」
「俺、に?」
「そ、いちご大福。伊作と食べて」
手に持った風呂敷を凝視して動かないお留ちゃん。もしや甘いのダメだったか?大福がダメなのか、それともいちごがダメなのか。何も言わず微動だにしないのでどんどん心配が募っていく。
「もしかして好きじゃなかった?」
「違っ…食べる!貰う!」
「本当に?無理しなくていいんだからね?……あ、そだ!今度の休みに一緒に町行こ!それならお留ちゃんの好きなものわかるし、次から迷わず買ってこられるし!」
我ながらいい案だと思ったのだが、またしてもお留ちゃんが固まった。これはどっちなんだ。こっちの押しが強かったか、一緒に出掛けるのが嫌なのか。らいぞーみたいに迷いまくってると、お留ちゃんの表情が微かに和らいだ。
「ああ…それ、いいな」
声色から嬉しさが感じられてこっちも自然と口角が上がる。
「それじゃあ、次のお休みにね」
「おう。これありがとうな」
最後にお留ちゃんに手を振って忍たま長屋を出た。途中で会った三年生達にも軽く挨拶し、今度紙芝居する約束を取り付けられてようやく我が家へと帰還した。
「………留三郎、嬉しいのはわかったから早く食べなよ。僕の分もあげるからさ」
夜、始終見ていた伊作につっこまれるまで風呂敷を開けずにニヤけがおさまらないお留ちゃんがいたことは後日仙蔵がしっかりバラした。
長屋に戻り、四年生達と夕飯を食べ終えてからの休息の時間がやってきた。
ゆっくりお茶を飲む勢とぐうたら寝転ぶ勢に分かれ、のんびりする彼らは未だ帰る様子はなさそうだ。
「あんたら、そろそろ帰ったら?」
「んー……起きるのダルいです」
「気持ちはわかる。でも明日授業あるんでしょ」
「喜八郎、疲れたの?タカ丸のここ、空いてますよ〜」
「おじゃ…」
「お邪魔しますっ!」
「俺も!」
喜八郎を押し退けて三木ヱ門と守一郎がタカ丸の懐に飛び込んだ。不貞腐れた喜八郎は目をジトリとさせたまま、視線をこちらに寄越してくる。言いたいことはなんとなくわかるので、一つ溜息を吐いて胴体と腕の間に隙間を作ってやる。
「お姉さんのここ空いてますよ〜」
「お邪魔しまーす」
「ぐおぇっ!?」
弾丸の勢いで飛びついてきた喜八郎に負け、そのまま後ろにいた滝夜叉丸を巻き込んで床に倒れ込んだ。滝夜叉丸がクッションになってくれたのでこちらは痛くないが、滝夜叉丸本人は目を釣り上げて喜八郎を睨みつける。
「き〜は〜ち〜ろ〜!!」
「滝邪魔ぁ」
「お前に言われたくないわっ!」
人を挟んで言い合いをする13歳二人に呆れていると、タカ丸の腕の中から守一郎がシュバッと手を挙げた。
「お姉さん!俺、紙芝居読んでみたい!」
「あ〜、それいいねぇ」
守一郎の主張にタカ丸まで乗ってきた。三木ヱ門は読むより聞く派らしく、二人の主張には乗ってこなかった。
以前から読んでみたかったらしく、二人は期待した眼差しをありったけぶつけてくる。
「いいよ。読んでみたかったなら言ってくれればいいのに。何読みたい?」
「タカ丸さんどれにします?」
「うーん、これとか気になるかな。どんなお話です?」
「あー、これはね………」
「ふむふむ。これにしよっか。滝夜叉丸と三木ヱ門にちょっと似てない?」
「ハハ、確かに」
紙芝居を選ぶ中で名前が出てきた滝夜叉丸と三木ヱ門がちょっと期待したようにソワソワし始めた。
期待させておいて申し訳ないが、多分二人が思ってるような話ではないと思う。
守一郎とタカ丸の準備ができたようで、残ったメンツは二人の前で待機する。未だ人の腰に手を回して猫のようにくつろいでいる喜八郎の頭を撫でながら、楽しそうに紙芝居を捲る二人を笑って見守ることに決めた。
・
・
・
「昔昔、森のそばの小さな家に『ゆきばら』と『べにばら』と呼ばれる二人の女の子が住んでいました」
楽器を奏でるように話し出したタカ丸さんの声に自然と耳が音を掴む。森の中を思わせるような、木々の息吹を感じさせる清々しい声だった。
「優しいゆきばらは小鳥に餌を与え、活発なべにばらは小鳥と一緒に歌を歌います。仲良しの二人にお母さんは言いました。『なんでも二人で分け合って仲良く暮らすのですよ』」
守一郎の辿々しくも一生懸命な読み方に思わず笑みが漏れる。天使のような美声とは言いがたいが、明快で無邪気な話し方が元気を湧き上がらせる。
ゆきばらとべにばらはいつも一緒だ。片時も離れることはない。
守一郎とタカ丸さんが話していたことから、ゆきばらとべにばらは三木ヱ門と滝夜叉丸を想定しているのだろう。視線を向ければ、二人が何とも形容し難い表情で紙芝居を眺めている。ここで話の線を折りたくないのか、文句を言いたげだけれど黙って聞いていた。
「冬が来ました。ゆきばらが暖炉の火を起こし、暖炉の近くで温まりながらお母さんの周りでお話を聞いていたときでした。トントン、と外から音がしました」
「『外は寒いわ。早く中に入れてあげなさい』」
こんな森の中で人が来たらまず怪しいと思わないと。危機感がないのではないか、お母さん。
紙の中の滝夜叉丸、じゃなかったべにばらが扉を開けた途端『キャー!』と悲鳴をあげた。その台詞を言った守一郎が何故か滝夜叉丸の声そっくりで笑ってしまった。
「なんと、雪で真っ白になった大きな熊が立っていたのです」
もはや事件じゃないか。
二足歩行の熊が立っているなんて恐怖以外の何者でもない。それ以上に恐怖だったのは、べにばらが滝夜叉丸に思ってるためか熊が七松小平太先輩に見えてしまったことである。ある意味熊より怖かった。
「『凍えそうで……家に入れてください』」
「『さぁ中に入って。暖炉で毛皮を焦がさないようにね』」
その熊温まった瞬間いけどんするかもしれないけど大丈夫だろうか。いや、紙の中の世界の熊は七松先輩ではないのでしないだろうけど。
暖炉の前で寝そべる熊を甲斐甲斐しく世話するゆきばらとべにばら。次の紙を捲ったそこには滝夜叉丸が七松先輩の背中に飛び乗る絵が描かれていた。
「『なんて大きな背中なの!』」
「滝夜叉丸、七松先輩の背中に飛び乗るなんて、さすがは体育委員会。度胸あるね」
「喜八郎!貴様もしやべにばらを私に置き換えている訳ではあるまいな!それに熊を七松先輩だなんて……恐ろしいことを考えるな!」
「七松先輩優しいよ。三木ヱ門にまで背中に乗るようすすめてる」
「僕がゆきばらの方なの!?」
熊は毎晩家に来てはゆきばら達の家で過ごすようになった。
「『今日は本を読んであげるわ』」
ゆきばらが本を読む横で嬉しそうに聞いている熊。
「いや、もしかしたら熊は潮江文次郎先輩だったかもしれない」
「そんなわけあるか!」
三木ヱ門が抗議するも物語は進んでいく。
春になったのか、紙の中の世界は緑と花が世界を鮮やかに染めていた。
もう誰もつっこまなくなった二足歩行の熊とゆきばら家族が最後の別れを惜しんでいる。
「『とても楽しかった。悪い妖精が出るから僕は森で暮らすよ。雪が溶けたから悪い妖精が地面の下にある僕の宝物を盗むんだ』」
「『僕は大きくて力が強い。絶対に捕まえてみせるさ』」
「七松先輩と潮江先輩なら秒で捕まえるでしょ」
「喜八郎黙って聞かんか!!」
寂しそうに熊に手を振るゆきばらとべにばら。
そんなある日、ゆきばらとべにばらが森へ薪を拾いに行くと、うんうんと唸る声がしてそちらに向かっていく。そこには木の間に髭を挟まれたいかにも性格悪そうな小さなジジィがいた。
「『二人とも!早く手伝わんか!』」
「えー」
けれど引っ張っても引っ張っても髭は抜けない。もう全部刈り上げた方がいいんじゃないかと思ったところでゆきばらがハサミを取り出した。
髭を切ったゆきばらにジジィはお礼を言うどころかカンカンに怒り出してしまう。
「『よくも大事な髭を切ったなー!覚えてろ!』」
「そっちが助けろって言ったんじゃないか!」
ゆきばら兼三木ヱ門が紙の中のジジィに怒鳴り散らす。まるでゆきばらの心情を代わりに吐き出したかのようだ。
ジジィは近くにあった金貨を入れた袋を担いでさっさとその場から消えていった。
そんなまたある日、今度は川から声が聞こえた。そこにはまたあのジジィ。今度は釣りをしているところに釣り糸が髭に絡まって取れない状況らしい。もう本当に刈り上げた方がいいと思う。
「『ひゃー!は、はなしてくれー!』」
「おじいさんが水に引き込まれる前にゆきばらはハサミで髭を切って助けました」
「三木ヱ門、ハサミ持ち歩いてるんだ。ゆり子ちゃんみたいに。名前あるの?」
「ハサミに名前なんぞつけるか!」
火器じゃないので興味はないらしい。
そこでふと思った。今自分の頭を撫でている彼女は筆とかに名前をつけているのだろうかと。
「鬼姉様」
「んー?」
「鬼姉様は筆に名前つけてますか?」
「名前ぇ?………筆男…とか?」
「筆下ろし?」
「やめろ」
撫で撫でがペシンに変わったので不満を顔に乗せれば同じような表情で見下ろされる。
紙芝居の中ではまたもやジジィが怒って地団駄を踏んでいた。礼も言わずにまたとっとと去っていったジジィにはとことん呆れる。あれが世に言う老害だろう。
「次の日、二人が町におつかいにいくと帰り道の野原にある木の根元がキラキラ光っていました。宝石や綺麗な真珠に二人は目を奪われます」
「おやまぁ。これは七松先輩か潮江先輩が集めていた……」
すると、そこであの老害ジジィが現れた。
「『これはあの間抜けな熊からとってやったんだ。わかったら早く行け』」
「ゆきばらははっとしました。『あなたが宝物を盗む悪い妖精ね!』」
「あの二人から物を盗むとか度胸ありますねぇ」
べにばらもカンカンになって怒っているが、ジジィは二人に宝の番をさせようとする。
そんなジジィが変な呪文を唱えようとしたとき、いつしかの熊が現れてジジィを殴り飛ばした。教育的に悪い絵面ではあるが仕方ない。
熊に殴り飛ばされたことでジジィはスーッと消えていった。当たり前だ。七松先輩と潮江先輩を組み合わせたハイブリッドな熊だ。無事で済まされるわけがない。
「『妖精が消えた途端、そこには熊ではなく美しい王子様が微笑んで立っていたのです』」
「「突然何があった!?」」
滝夜叉丸と三木ヱ門が叫ぶのも無理はない。熊がいきなり王子に変わるなんて、伝子が実はどこぞの国の姫と言われているようなものだ。
「『僕は悪い呪文で熊にされていたのです。悪い妖精が消えたので呪文が解けました』」
「二人は大喜びです。しばらくして、ゆきばらは王子様と、べにばらは王子様の弟と結婚することになりました」
「「何があったパート2!!?」」
王子、自分で妖精やっつけたくせに何故か結婚してる。そんなに三木ヱ門といたかったのか、潮江先輩。
「お城にはお母さんが育てた白い薔薇と赤い薔薇が綺麗に咲いています。お母さんと王子様達と一緒にいつまでも幸せに暮らしました」
───おしまい
「んー……七松先輩は潮江王子様の弟でしたかぁ」
「喜八郎!さっきから訳のわからぬことばかりほざきおって!あれは私でも七松先輩でもないわぁ!!」
滝夜叉丸の訴えに三木ヱ門以外の笑い声が部屋に響いたとき、長屋の扉がトントンと叩かれた。
それに反応したのはこの家の主。彼女は滝夜叉丸と三木ヱ門を見遣ると扉の方を指で示した。
「三木バラと滝バラ。外は寒いわ。早く中に入れてあげなさい」
「「お姉様!!」」
おふざけで紙芝居の台詞を吐いた彼女に声を上げるも、素直な二人は扉に向かって足を進めていく。
二人は微妙な顔をし、せーのと扉を開いた。その先にいた二つの大きな影に思わず声を上げた。
「「きゃーーーー!!」」
「うぉっ、何だよ急に」
「お姉様!雨宿りさせてくれ!」
話に聞き入っていたせいで外の雨に気づかなかった。びしょ濡れになった潮江先輩と七松先輩が佇む横では固まったまま動かない滝バラと三木バラ。決してそう意味の仲ではないものの、今の話を聞いてしまったものだから変に意識してしまっているらしい。
「うっわ。結構びしょ濡れじゃん。そんな降ってんの?はいこれ、手拭い」
「ん、ありがとう姉さん。まいったぜ、急に降ってくるんだからよ」
「お姉様の長屋が近くにあって助かった!」
「三木バラに滝バラ。あんたらの熊がお迎えに来たんじゃない?」
二人がデロンと絶望を顔に乗せた。
「勘弁してくださいお姉様!それにこれは熊ではなく隈です!」
「誰が熊だ田村よぉ」
「お姉様、あの人は熊ではないです。猪です」
「猪?食べたいのか?」
委員会の先輩後輩の仲良いやりとりに彼女は笑い声をあげた。読み手だったタカ丸さんと守一郎も満足したのか、同様に彼女と笑い合っている。
ところで、彼女は何故先輩方の下半身を見て目に光をなくしたのか。
次の日、いつものように食堂ではおばちゃんがお残し許さない発言を響かせていた。
端の方で静かに食事を楽しむ。周りはは組に囲われており逃げられる隙はない。特に逃げる予定はないが、こうも囲まれていると何かしでかした感があって居た堪れなくなる。
「お姉さん、ご飯の後わたし達に着いてきてくださいね!」
「はいはい。花くれるんでしょ。ちゃんと楽しみにしてるから」
「何だお前達。昨日花を買いに行っておったのか」
「どうやら私に花をくれるらしくて」
近くにいたダンおじにそれとなく事情を話せば、おかしそうに笑ってから「愛されとるな」と言ってくれる。それなら本当に嬉しいけれど。
もう少しで完食しそうなところで、誰かがそばに立ってきたことに気づく。見上げれば、いつしか相談にきて、そしてとんでもない爆弾を落としてくれたくノたまがいた。
「お姉様!私、あの実習終わらせてきました!」
「お!お疲れ様。うまくいった?」
「はい!勇気出してみたら承諾してくれて……それで……」
「うんうん。それ以上は言わんでいいよ。顔見りゃわかるよ」
幸せそうなその顔を見れば成功したことくらいわかる。詳細は一切聞く気はない。人様の夜事情とか知りたくない。特に年下の子のなんて。就職すれば望まないそういった場面もあるだろうし、幸せな夜を過ごせたのなら万々歳だ。
報告に来てくれたのであろう彼女に労いをかけ終えたものの、彼女はまだ去る気配はない。見ればニコニコ笑ってまだ伝えることがあるらしい。何か嫌な予感がした。
「お姉様のお陰です!」
「え、私?」
「はい!なんたって………お姉様が教えてくれた色のテクニックが決め手になったのですから!」
「ブホッ!」
飲み込む寸前だった煮物が一気に逆流する。
食堂はあっという間に静寂に包まれた。下級生は何の話かわからず首を傾げてるが、上級生がとてつもなく気まずい顔をしては目を逸らしている。何故か五年生と六年生あたりから凄まじい気が漂ってくるが、それを誰が出してるのかはわからない。
一番ヤバいのは一つ隣の机に座っている土井センの視線だ。何だあの目は。子ども達に何を聞かせてるんだという目か?それとも別に何かやらかしたか?とりあえずお前を殺すみたいな意味をしてるのはわかった。
「お姉様の誘い文句…あの人あっという間に乗ってくれたのよ!」
「ごめん、一旦黙ろう?お姉様このままだと死んじゃう。身体的にも社会的にも」
「男をその気にさせるさしすせそも役に立ったわ!お姉様の経験談を聞いた甲斐があったわ!あと腕を回すタイミングだったり……」
「ご馳走様でした!!!よしちょっとお話があります!!こちらへいらっしゃいな!!!」
一番まずいのは、この子に何の話をしたか覚えていないことである。上級生達の房中術ショックでそっちに意識を持っていかれたため、この子に教えたことなんて何一つ覚えてやしなかった。
くノたまを連れて食堂を出た後、少しずつ忍たま達が音を取り戻す中、醸し出す澱んだオーラまでも増幅させた者達が約数人。
「雷蔵……私達、まだあっちの実習終わってなかったよね?」
「終わってる終わってる。例え終わってなくてもあの人は絶対に無理だから。多分学園長先生が許さないから」
「……………」
「留三郎〜………息、してないだと!?みんな、今すぐ蘇生をさせないと!!」
「半助……殺気をしまわんか。子ども達が怖がっとる」
「これは失礼しました。…………チッ」
「出とる出とる。天鬼が出とる」
上級生を中心にカオスな空間が漂う中、さっさと朝飯を済ませて食堂を出ていく者が一人。
「おやまぁ鬼姉様、罪なお人ですねぇ」
本当に──────。
前回も同じようなこと聞いたんですけど、やってみたくなったのでもしよければお付き合いください。
YOU達、何型?
A型
B型
O型
AB型
久々に聞いてこの人達はどれに当てはまるかなーって思ってやってみたら見事に分かれてました。最初の台詞はさぶちゃんが言ってるみたいに聞こえてもう重症です。
さて、AB型は誰がいいですかね!!!ちなみにユハルさんはAB型です!!!
(今話で生じた先入観は今後の話に影響されないのでご安心ください)


























