<フェルディナンド>
貴族院2年目が始まる………が、私は今、それどころではない。
ローゼマイン出生が目前に迫っているのだ!!
ローゼマインは私が13歳の夏に、つまり貴族院3年と4年の間に生まれる。そして胎内に彼女の命が芽生えるまでに1年を切ってしまっているのだ!彼女の人生を安寧なものにするため、私はそろそろ動き始めねばならない。
まずは女神にお伺いだ。
『女神リーベスクヒルフェよ、私の声が聞こえるか?』
と呼びかけると、今回は一瞬で返事が返って来た。
『こんばんは、クインタ!待っていたのよ!!』
『待っていたのか?』
『そうよ。だって、そろそろマインの事を考えなくてはいけない頃でしょう?』
良かった。女神側もローゼマインの事は気に掛けていた様だ。
『今回、ローゼマインは前回以上の魔力を持って生まれてくるのだな?』
『そうよ~!あなたに釣り合う様にね!』
『それならば、今回は平民のエーファ・ギュンターの元ではなく、上級貴族のエルヴィーラ・カルステッドの元に生まれる様に出来ないだろうか?平民の家庭に生まれると、生後まもなく魔力暴走で命を落とす危険性が高い。とてもではないが、洗礼式まで放置など出来ない。』
『う~~~ん、それなんだけど……アンハルトゥングやエントリンドゥーゲに訊いてみたところ、実の親が変わると、その子は”マイン”ではなくなってしまうらしいのよ。』
『どういう事だ?』
『見た目はマインと同じに出来るけれど、精神の方はだめみたい。だから"違う人間"になってしまうそうよ。その場合はウラノの精神との融合も出来ないんだって。』
そうか……エーファとギュンターの子でなければ、あのマインは生まれないのか。そうか……参った。思わずこめかみに手が行く。
『両親が分かっているのだから、出産後すぐにクインタがその場に行って、マインをあなた方貴族の元に連れてくれば良いじゃない?』
『そんな簡単に子を親元から引き離せる訳がない!あの両親は子への愛情が篤い。特に父親は命をかけても娘を手元から離さないはずだ。それに……私はあの夫婦を悲しませたくない。』
前回、あの夫婦には世話になった。こんな私を家族として扱ってくれた。暖かく、気持ちの良い夫婦だった……。
『そっかぁ。困ったわねぇ。それにね、もう一つ問題があるの。』
『まだ何かあるのか?』
『エルヴィーラとカルステッドだけど、あの夫婦の間にはもう、子は授からない運命だそうよ。』
『なんと………。』
すると、とりあえずローゼマインを下町で保護しつつ、いずれエルヴィーラとカルステッドに引き合わせるしかないか……。私は未成年なので、これを完遂するのは非常に厳しい。
『ただね、出産までは出来るそうよ。』
『は?』
『妊娠、出産は出来るけれど、生まれてもすぐ高み、だそうよ。』
なるほど、そうか。それならば何とかなるやもしれぬ。
『それならば、頼みたい事がある。』
『おや?何か名案を思いついたのかしら?何々?』
『それなんだが・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ということで、女神の協力を得る言質を取った。かなり面倒ではあるが、絶対に成功させる!
<ユストクス>
貴族院2年目が始まりました。今年からは、フェルディナンド様はジルヴェスター様の”お守り”をされなくても良くなりましたので、ずいぶんと楽になられると存じます。
お一人で臨んだ親睦会では次期ツェントである第二王子から直にお声がかかり、ずいぶんと注目されたそうです。
「王子はフェルディナンド様にお礼をなさっておいででしたが……フェルディナンド様は何をなさったのか、お教えいただけませんでした。」
と、親睦会に同行した側近文官見習いが頭をひねっておりましたよ。あぁ、英知の件ですね!さすがにあの事は、たとえ側近にも漏らせませんよね。でも第二王子と”親しい”という事が全領地の前で披露されたのですから、去年と違いフェルディナンド様を粗略に扱う領地はぐっと減るに違いありません。………その代わり、面会依頼はぐっと増えそうですがね………。
今年も成績向上委員会は立ち上げられました。今年からフェルディナンド様が委員長ですので、生徒達の顔が去年より引き締まっている様に感じましたね。なお、フェルディナンド様の側近となったD君が渾身のがんばりを見せ、全コースの参考書を完成させましたので、昨年よりも生徒達の勉強がたいそう捗っている様でした。おかげで座学に関しては、下級貴族も含めほとんどの生徒が一発合格をする様になりましたよ!それで自由になる時間が出来たためか、研究に取り掛かる生徒が増えました。フェルディナンド様は嬉々として幾つか研究テーマを提示し、文官のみならず、側仕えや騎士コースの子まで巻き込んで寮を挙げて研究に取り組む様になりました。エーレンフェスト寮は去年以上に盛り上がりを見せております。生徒達の顔が皆、輝いておりますよ!
そんな中、なぜかフェルディナンド様のお顔に焦りが見えます。他の生徒達の前では上手に隠していらっしゃいますが、私にはわかります。
「フェルディナンド様。何か心配ごとがございますか?」
「う………ユストクス、わかるか?」
「何年お側にお仕えしているとお思いですか!私にはバレバレですよ!」
「そうか………。」
そう言って、フェルディナンド様は私からすっと顔を逸らせます。すると……赤いお耳が見えました。なるほど!
「ローゼマイン様の事ですね。」
私が静かな声でそう言いますと、フェルディナンド様は驚愕の表情を浮かべられました。
「なぜ判った?」
「だから、言いましたでしょう?何年お側にお仕えしているとお思いですかって。」
「ふぅ……其方には隠し事は出来んな。」
「不安な事がありましたら、ぜひ私にお話し下さい!こう見えましても、それなりに人生経験があります。きっとお力になれますよ。」
すると、フェルディナンド様は意を決したお顔をお見せになりました。お話しして下さる決心がついたのですね!
「ローゼマインがあと1年半で生まれる。」
「もう少しですね!リンクベルク家も盛り上がるのではないですか?楽しみですねぇ!!」
「それなんだが………これから言う事は、絶対に漏らすな。ローゼマインにも、だ。」
名捧げ石への命令ですね。身体にピリッとしたものが走りました。
「はい。私の心の奥底に仕舞い込んでおきます。」
「ローゼマインの本当の両親は、平民なのだ。」
「はぁ!?」
あの魔力が豊富なローゼマイン様が平民?どこからどう見ても上位領地の領主候補生か王族にしか見えなかったローゼマイン様が……?
「信じられないであろう?実際、前回、敵対勢力が『平民』と罵っても、誰も相手にしなかった。」
「……さもありなんですよ。」
「もちろん、ただの平民の身食いではないぞ。だから、あれだけの魔力量を持つ事になったのだ。それについては、本人に確認するまでは秘匿事項とする。」
う……まだ秘密を全部明かしてくれないのですか……残念!
「前回は7歳まで平民の元で育てられ、何度も魔力暴走で死に掛けた。また、その影響で体内に魔力の塊が幾つも出来てしまい、それで毒に対し弱くなり、たいへんな目に遭ったこともある。」
あれだけの魔力を持つお方が、魔力の処理が出来ない状態でよくも7歳まで生き延びられたものです。
「女神の話によると、今回は前回よりもさらに魔力量が増えるそうだ。」
「そ、それは……非常によろしくない状況ではないですか!」
「それでだ……其方には”人探し”をしてもらいたい。」
「どなたでしょう?」
「誰、というよりも、ある一定の条件を満たす人物だな。」
「ほぉ?詳しくお聞かせ願えますか?」
これは……かなり面白そうです!ふふ……私の能力も存分に活かせそうです!お任せ下さい、フェルディナンド様!!
<ゲオルギーネ>
「お父様、貴族院からの報告をご覧になりました?今年は去年以上に、生徒全体の成績が上がりそうですわね!」
「ああ。下級貴族も含め、ほぼ全員が座学を一回で合格するなど、貴族院でも前代未聞ではないか?」
「去年の貴族院でフェルディナンドが目をつけ側近に召し上げた子が、兄姉達から聞いた過去の貴族院情報と去年の試験問題の解説をまとめ、各コース毎に参考書を編集したのですよ。それがたいへん効を奏した様だわ。」
「ほぉ……そんな子がいたのか。その様な子を見出すなぞ、フェルディナンドはなかなか慧眼だな。」
「あの子は自身が優秀だけではなく、人を見る目もある様だわ。……その辺も、あのぼんくらとは大違いだわね!」
「……ジルヴェスターは相変わらずか……?」
「……ええ。」
貴族院での快挙を喜ぶお父様のお顔が、話題が変わった途端、急に暗くなられてしまったわ。ジルヴェスターの話題など振らなければ良かったわね……。
「神殿では、孤児院の子供達とはすっかり意気投合して、楽しそうにしているわ。おかげで子供達もずいぶん明るくなったし。それにね、シュツェーリアの盾をシュタープで出せる様になったって、とても喜んでいたわ。……でも、それだけね。執務の方は………だめね。まだ、計算しか任せられない、というかその計算もお覚束ないのだけれど……。」
「そうか……だめか……。もし、其方がエーレンフェストに戻らず、ヴェローニカが存命で、フェルディナンドが害されてしまい……ジルヴェスターが次期アウブに成らざるを得ない状況なら、恐ろしい事になったな。」
「間違いなく、10年かからずに廃領ね。」
「確かにそうなるな………。で、ジルヴェスターはこれからどうするべきかだな。」
「例えば上級落ちさせても、騎士コースを学んでいないので、騎士団は選択肢から漏れますわね。文官なんか、絶対に務まらない!それにどこかのギーベになるのも、ギーベ配も無理でしょうねぇ。」
「だな。このまま魔力供給要員として、領主一族に残すしかないか。」
「今のところ領主一族が少ないですので、対外的にもそれで問題無いと思いますわ。ただ……婚姻相手をどうするか、ですわね。」
「大事な娘さんを、将来の無いジルヴェスターの元に嫁がせるのは気が引けるが……。」
「領内では、ジルヴェスターは旧ヴェローニカ派と認識されていますわよね。ですから、ライゼガング貴族のお嬢様はアウブにならないジルヴェスターの元に嫁ぐ事はありません。だからといって旧ヴェローニカ派に上級貴族はほとんどいない。ですので、魔力の関係からジルヴェスターとの婚姻は無理。つまり、エーレンフェスト内では婚姻相手がいない、という事になります。かと言って、他領の領主候補生の方が何の利も無いジルヴェスターとの婚姻を望む訳がありません。という事で、ジルヴェスターの婚姻はかなり厳しいですわよ。」
「そうか……そうだな。」
お父様、この事を認識していらっしゃらなかった様だわ。悪いけれど、お父様の考えってどうも浅くて甘いわよね。
「他領の上級貴族のお嬢様か……領主候補生でも訳ありの方か、よほど奇特なお嬢様でもいれば、可能性はあると思いますけれどね。」



























