なんか気付いたら転生してた。
それに関しては特に不思議に思ってない。
何でって?それは僕が社畜だったからだ。
あー、とうとう死んじゃったかー。
大体そんな感じの感想しか抱けなかったよね。我ながら納得しかないけど。
なにせ家に帰るのは週に一度あるかないか。毎日終わらない仕事に急き立てられながら気絶するように寝落ちする生活。食事だってカロリーメイトとか忍者飯とか、そんなものばっかり。職場の人間関係にも悩まされてたし、ストレスや隈とはお友達。そりゃあ、そうなるわな。
でもまぁ、そんな僕だけど転生ガチャは割合当たりだったんじゃないかな?とは思ってる。
ちょっと年齢は高いけど、僕を愛してくれる両親がいるし、今世の家はお金持ちそうだし。前世みたく雀の涙みたいな薄給で生活に困窮する事は無さそうだ。しかも、魔法なんてファンタジーまであるのだ。
僕ってばツイてる!
これって前世頑張った分のボーナスステージかも!
そんな世の中舐め腐った考えに浸るくらいには、今の僕の生活に不満なんて無かった。
”無かった”。そう、過去形である。
何故ならそれが間違いだったと、ついこの間判明してしまったので。
「ごらん、ジェームズ。我がポッター家に伝わる家宝の透明マントだよ」
事の切欠は父上だった。
三才の僕の誕生日に、誇らしそうにそれを見せびらかしてきた。
きっと、相手の予想は僕が家宝に興奮して「凄い!」と大はしゃぎすると思ったんだろう。
「む、ジェームズ?ジェームズ〜!??」
「貴方っ!?何やってらっしゃるんです!?」
実際?あまりのキャパオーバーにその場で魔力暴走を起こしながら卒倒したよ。
父上が髪を唸らせた母上に詰め寄られてる姿なんて目に入らないね。
だって仕方なくない!?
まさか自分が有名な児童文学の主人公の父親になってるとか思わなかったんだよ!
やだー!!!
ジェームズ・ポッターってアレでしょ?赤ん坊の主人公遺して二十歳そこそこで死んじゃう人でしょ!?
今世の僕も短命だなんて嫌すぎる!!!
神様なんていやしない!!!
と云うかこういうのって、その作品の熱烈なファンが成るもんじゃないの!?
僕は漫画以外は小説も読まない人間だったから詳しい内容全然知らないんだけど!?
そんな風に内心で絶叫しながら、僕の意識は途切れていったのだった。
さて、あれから一年。
暗鬱たる思いとは裏腹に、今日もすくすくと育ち、ポッター家のたった一人の寵児として溺愛されている僕である。
そう、たった一人の子供。
短命死亡キャラに成り代わってただけでも絶望的なのに、まだ問題があったんだよこの家。
それがコレ!
ポッター家の若人・僕だけ問題!!!
一番歳が近くて三十代とかどういうこと?
少子高齢化なんてもんじゃないよ、一個子他高齢者だよ。
確かにさ?目が見え始めた時に今世の両親年老いてるな?とは思ったよ。
思ったけど、一族全体で子供が殆ど生まれなくて僕だけとは思わないじゃん。
いやぁ〜、よもやよもやの衝撃の事実だよね。
思わずそれを知った時には頭を抱えたわ。
だってポッター家、お金持ちなだけあって抱えてる事業とか山程あるじゃん!!!
これをいずれは全部僕一人で回せと?
嫌だよ!!!
何が悲しくて前世社畜で過労死したのに今世でも過労死フラグを立てなくちゃいけないのか。
僕が望むのは、爺さんになるまでのんびり平和に生きて縁側でお茶でも飲むことなのに。
あとは両親や一族の皆がそこそこ長生きしてくれれば充分なのに。
原作?そんなの知らないね。
今の僕にとっては現実だもの。
僕は、僕と周りの人が心穏やかに過ごせればそれでいーの。
そんな訳で。
特別ミッション・父上を説得しよう!
「あの、父上!若い人を二十人くらい雇いませんか!?」
「む?急にどうしたのだ、ジェームズ?」
「その、僕が大人になったらポッター家の当主になるんでしょ?でもその頃には父上たちは皆結構な年齢だから……何かあったら僕一人じゃ大変そうで……い、今から人を雇って、ポッター家に忠誠を誓うように教育すれば良いんじゃないかな……って……」
勢いこんで話し出したは良いものの、途中でつい尻すぼみになってしまう。
だって父上の圧が!なんか凄いんだよ!?
え、不味かった?
それくらいポッター家次期当主として背負ってみせる気概を見せろ!とか言われちゃう奴?
僕に激甘な両親なら、僕の負担を減らす為なら!と即答でオッケーしてくれるとばかり思っつてたのに。
断られたらどうしよう?
なんて、段々と不安になっていた僕だったけど。
結論を言おう、それは杞憂だった。
「〜はっはぁ!聞いたかユーフェミア!?私たちの息子は天才に違いない!」
「ええ、フリーモント!こんなに幼いのに、先々の家の事を考えられるなんて!我が家は安泰ね!」
グワッと重力を感じたかと思えば、父上に抱き上げられていた件。
そのままクルクルと母上も混ざって踊り始めた。
アッ、凄い。
純血名家二人の溢れた魔力が花やら鳥やらを周囲にポンポンと生み出しているや。
うわ〜、大人の魔力暴走って優雅〜!
そんな風に現実逃避しながら、「とりあえず説得は成功してよかったな」なんて思う僕であった。まる。
それからまた一年。
すくすくと育ち、イケメンの品格が出てきた五歳児のジェームズ・ポッター君である。
僕の要望通り、ホグワーツ卒の若くてやる気に溢れた有能な人材を三十人くらい雇ったポッター家は今とても慌ただしい。
将来、次期当主たる僕の側近となるよう、その教育の真っ最中なのだ。
両親だけでなく、跡継ぎがいない分家の皆もウキウキで鍛え上げてるからね。
よしよし、これで将来の僕の負担が減る!
やったね!
まぁ、破れぬ誓いまでやって人材を選抜したと聞いた時はビックリしたけど。
そこまでしなくて良くない?
最低限の犯罪(横領、情報漏洩、殺人、性犯罪)とかしなけりゃ、そこまで縛らなくてもさ。
けれど、こればっかりは一族の大人たちは頑として首を縦に振らなかった。
先の戦争を体験している年代だから、だろうか?
僕を、引いてはポッター家を存続させる為には必要な措置だって言い切られちゃったんだよね。
しかもそれ、双方合意済みだったし。
後で、雇われた人たちに聞いたらさ。
「その程度の誓いで、仕事と衣食住の確保が出来るなら安いもんです!」とか満面笑顔で言われちゃったし。
魔法界の就活、そんなヤバいの?
破ったら死ぬような魔法契約結んでおいて、これがマシと言い切るなんて…。
アレかな?
前世に噂で聞いた、云百社と面接受けても振り落とされるブラック企業しか無いってこと?
前世の僕が働いてた職場も大概だったけどさぁ…。
労基まる無視な勤務実態とかね?
でも就職までは割合スムーズに進んでたからなぁ。
就活すら出来ないとか、どうやって食べてけって言うのさ?
思わずカルチャーショックに唖然としちゃったよね。
そしてそんな魔法界だからこそ、超エリートコースな魔法省や聖マンゴに落ちた人は働き口に炙れていたそうだ。
貴族とかの伝手がない普通の家の人や、そもそもマグル生まれで魔法界の就職がよく分かってない人とかが。
更に悪いことに、二十年ほど前には魔法界・マグル界の戦争もあった。
魔法界は働き先を紹介する側の貴族の多くが家を建て直すだけで精一杯になったり、新規事業で人を雇用する力が無くなったとか。
マグル界はそもそも戦争を機に、互いの身の安全の為に家族と決別してたり、すっかり様変わりしたマグル社会に馴染めなくなったりとか。
それで、ここ二十年ほど。
魔法使いの就職はとんと厳しいらしい。
その日暮らしの食べ物すら手に入れられないとか、定住の場所とか無いと聞いて開いた口が塞がらなかったよ。
強いて言うなら、ここ五年程は魔法界一の経済力を持つマルフォイ家のお陰でその割合は少しだけ減ったらしいけど。
ただ、それも。
純血貴族や、その伝手を持ってる人が優先されてたから、マグル生まれとかは本当に行き場がなくて大変だったとか。
うわー、魔法界ヤバ過ぎ?
真っ当に働く気のある人が普通の生活すら送れないって……。
景気が悪いって次元ですらなくない?
魔法界って割と閉鎖的な感じもしてたし、複雑な事情が絡み合って雁字搦めになってたりしない?
そりゃあ、破れぬ誓いを雇う条件にするようなウチでも喜んで雇われるわ。
あくまで側近だし、結婚相手じゃないからってマグル生まれも半分くらい雇ってるもんな。
泣いて感謝される筈だよ。
マジで魔法界の雇用状況悪過ぎでしょ、もぉ!
元社畜としては、同情を禁じえない有様だ。
せめてウチで雇ってる人たちの福利厚生はキッチリするよう父上に頼んでおくからね…!
そう、僕が誓ったのは言うまでもない。




























