井闥山学院高校VS稲荷崎高校。セット0-1。
2セット目を9-15まで消化した辺りで、俺はチラリとベンチを確認した。
(……まだ、交代しねぇのか……)
点差6点。ここまで広げても監督は微動だにせず、タイムアウトすら取らない。どうやら監督はまだ俺を交代させる気はないらしい。
一応交代の可能性があるからか監督の隣に飯綱が座っているが、こちらもアップする気配すらなく、とても楽しそうな顔でこちらを見つめているのでちょっとイラっとした。負けてんのに何笑ってんだテメーは。「三上―!まだ追いつけるぞー!」じゃねえんだよ。ちょっとは焦れよ。
ここまでの試合運び、俺は「無難に手堅く」を信条に進めてきたが、型破りな稲荷崎への攻撃には今一歩届いていないのが現状だ。このままではこのセットを落とすことになるだろうことは容易に想像ができるはずだが、監督も飯綱も、そしてコートの外で待機する控えの部員もなぜそんなに落ち着いているのかわからない。
チームメイトの様子も確認するがコートに立つ彼らもとても落ち着いていて、とてもではないがリードを許しているチームの雰囲気ではない。おいおい、お前らももう少し危機感を持ってくれ。古森~!「三上さん!バレー楽しいですね!」じゃないだろ~?!負けてんのよ今!このままの得点差で進むと負けるんだぞ?!良いのか?!佐久早も古森の言葉を肯定するように頷いてるけど得点見てくれ!他のやつらもリラックスしすぎ。もしかして全員得点板が見えてなかったりする??
これは俺がおかしいのか……?負けてる……んだよな?え?俺の見間違い???……いや見間違いじゃねえわ。ちゃんと負けてるわ。
「はーん!実は試合運び上手いセッターなんかと期待しとったけど全然やん?!セットアップも普通やし!教科書通りのお利口さんのバレー!おもんないなぁ!サム!」
「せやなぁ、ツム。がっっっっっかりやわ」
あと、この双子を誰かどうにかして欲しい。やれ「セットがわかりやすすぎる」だの、やれ「ブロックザル過ぎ」だの、上げればキリがないがマジでずっとこちらを貶してくる。バレーしながらそれだけ悪口言い続けるエネルギー捻出するのは大変だと思うんだが、全然怒りが収まらないのか試合が始まってからずっとプンスコ怒っていてすごいなぁと思う。しかも怒っていてもセットアップが乱れるわけでもないというのがすごい。こちらのスパイクへの対応も素早いし、サーブは……気持ち力んでいる感があってサーブコースがわかりやすいのが気になるが、コート内に入っているので許容範囲だろう。主力だろう双子の気が高ぶっていてなお、安定した試合運びが出来るのはチームとして完成されているからで、素直に「素晴らしい」と称賛したいところだが……。まあ……。
「取り返し付かなくなる前にさっさと飯綱クンと交代したらええのに」
「ホンマ、それ」
大前提、この口の悪さと喧嘩腰の態度がなかったら、だが……。
最初は俺に噛み付いてくる年下が珍しくて放置していたが、こうもずっと続くと飽きてくる。お前ら、もう少し落ち着きというものを学んでこないといつか痛い目を見るぞ。
と、忠告したいのは山々だが、素直に聞くかどうかわからないし、最悪、さらに怒りをヒートアップさせる可能性があるので言えていない。
あと、ずっと気になっていたのだが、俺がこれだけ絡まれて喧嘩を売られて貶されているのに佐久早も古森もベンチに居る飯綱もニコニコしているのが怖い。(もちろん佐久早はわかりやすく笑顔というわけではないが機嫌は悪くない)普段のコイツらなら試合前の煽りですでに殺気立つのだが、今日は全然そんな気配がない。何か企んでいるのかと疑いたくなるぐらいだ。嵐の前の静けさじゃねぇけど、静か過ぎて不気味ですらある。
(なぁにを考えてんのやら……)
飯綱が理由もなく笑っていることほど怖いものはない。どうせなんか俺に都合の悪い事でも考えているのだろうが、試合の中と外ではおいそれと会話することはできないから、その笑みの訳を問い詰めることが出来ないのがもどかしいような気もする。が、このまま知らないままの方が幸せな気もする。うーん複雑。
(さて、どうするべきか……)
現実を見たくなさ過ぎて思考を逃避させていたが、そろそろ本気で何とかしないとまずい。一番いいのは俺と飯綱の交代だが、その意思が監督にないというなら俺がこの状況を何とかするしかない。ここでセットを落として負けても俺は何とも思わないが、この大会で最後にするつもりの同級生たちがいることを考えると、できればこのセットを取って飯綱に3セット目の行方を託す方が精神的に楽である。
それに、そろそろマジでネット越しの双子の煽りが鬱陶しくなってきた。最初は気にならなかったのだが、塵も積もれば何とやらである。積み上げられた“不快”は“こいつらに勝ちたい”という欲に代わって心に火をくべ、俺の闘志となる。
(ま……、あんま気乗りはしねぇけど、やるか……)
ようやく灯った闘志を胸にゆるり、と相手コートを見遣る。ネット越しの相手校の選手一人ひとり視界に入れて、これまでの試合で得たデータを頭に浮かべて整理していく。自陣のチームメイトのデータは今更更新する必要もないが、今回の試合の動きからコンディションを推測しておく。
(嗚呼……、うん。良い感じ)
パチリ、パチリとパズルのピースを当て嵌めるように。
一コマ一コマチェスや将棋の駒を進めるように。
集中する俺の中から雑音が消えて、頭がクリアになっていけば、今まで霧がかかってぼんやりとしか見えていなかった勝利への道筋がはっきりと頭に描かれていくようで、俺は知らず笑みを浮かべた。
(ただ反撃するだけじゃ面白くねぇよなぁ)
舌で唇を舐めて湿らせる。
せっかくの試合だ。今の手堅く無難な戦法で、この面白くない状況を維持したままでも勝てるが、せっかく型に嵌まらない稲荷崎との試合なのだから、少々奇抜な攻めを取り入れても良いかもしれない。だって双子も「教科書通りの攻めで面白くない」って言ってたしな。俺は優しいから、年下のリクエストには応えてやろうじゃねぇか。
フッ、と笑いを載せた息を吐いてまっすぐ双子へ視線を投げる。言葉はないが先程とは違う俺の雰囲気に未だ何事かを喚いていた双子は敏感に気が付いたのか、はたまた俺が今日初めて笑んだからか。それまで飽きることなく開いていた口をぴたりとつぐんで警戒したように身構える。その顔が本当にそっくりで、そしてこれからその顔を歪ませることになるのだと思ったらまた笑えてきて。俺は笑顔のままチームメイトを振り返って宣言した。
「よーし、お前ら。そろそろ反撃するぞ」
俺の宣言にチームメイトは「待ってました」とばかりに声を上げ、手を挙げ応えた。その返事のついでに同級生は「やっとエンジンかかったか―?」「おまえホントにスロースターターだな!」「おっせーんだよ!」などとゲラゲラ笑って俺の肩や背をバシバシ叩き、佐久早は俺の斜め後ろに陣取り、古森は「三上さん指示ください!指示!」とさっきよりも機嫌よく俺に纏わりついた。
そこに緊張の色も焦りの色も一切なく、俺に向ける視線に不安も不満もない。
コイツらと公式試合をするのはほぼ初めてのはずだが、全員が俺の描く“勝利への道”を疑っている様子はなく……。
「勝とう」と視線で誘うコイツらの信頼を面映ゆく感じながら、俺は自分の立ち位置に足を向けた。
再開した試合は銀髪の方の双子のサーブから。
コイツは笛の音から数えて8秒たっぷり使ってサーブをするので受ける側は焦れるのだが、逆に言えば8秒たっぷり使ってこちらも心の準備が出来るということ。
俺の今の位置はサーバーから見て対角線上の前衛。つまりはこのサーブを切れたら俺のサーブターンだ。反撃するのにはなかなか良いタイミングである。
(相手の位置確認。でかいのが前衛に来る守備が厚いローテ、ね)
目の前に双子の金髪の方。横に一番でかいMBの3年選手とエースの4番。一番でかい3年はブロックが上手いし釣りにはなかなか引っ掛からないタイプだから厄介ではある。エースの4番も高さとパワーがあるので競り合いはほぼ負け確。で、セッターである金髪はネット際の駆け引きに強くて、ボールが上がりさえすればどこの位置に居るスパイカーにもボールを上げてくるから厄介だろう。
(難易度高ぇなぁ!)
けど、その方が燃える。攻略のしがいがある。
俺の位置でファーストタッチはまずない。さっきまでの試合を見る限り双子だけあって大人しそうな銀髪も相当な負けず嫌いだろうことがわかる。だからネットインで俺を牽制するより強烈なサーブでサービスエースを狙い点を取ろうとする確率が一番高いだろう。サーブの精度は低くはないが、際を確実に狙えるほどでもない。なら、俺の後ろにいるリベロの古森を避け、反対側の後衛に居る佐久早と真ん中に居るWSの間を速さ重視のサーブで狙うとみた。
(ぃ、よしっ!当たりぃ!)
この予測はすでに後衛3人に伝えてある。
放たれたボールは予想通りの位置、リベロの古森を避けて反対側の佐久早とWSの間、気持ちWS寄りの地点へ。けれどこちらはボールがインパクトした瞬間、WSの部員がバックステップで後退しており、広く開けたボールの着地地点に佐久早が滑り込んでレシーブを返した。
「ナイスレシーブ!」
お手本のようなきれいなAパスに賛辞を送ってから俺はボールの落下地点へ。跳ぶ前に敵味方含めて全員の位置を確認して、跳ぶ。
今日これまでの試合運びでは、この状況で俺が選ぶのはレフトのMBか、レシーブを上げた佐久早の2択。ただ今回は俺の「反撃をする」宣言を向こうは聞いているはずで、何か仕掛けてくると警戒しているはずである。そこにきて俺の指示でサーブの間後退していたWSがライト側前衛へ走り込んで、スパイクのモーションに入るとどうなるか。
結果は、一瞬稲荷崎のブロック待機勢がWSに気を取られることになる。そうなると、稲荷崎のブロック待機勢がWSに釣られてライト側に身体が流れ、中央が手薄になる。
それが、狙い。
(っここ!)
俺は狙った瞬間が訪れたことを確認してトスの体勢から身体を捻って左手でボールを強めに叩いた。
「?!っはぁ?!」
スパイクとロングプッシュの間ぐらいの強さで叩いたボールは咄嗟に手を出した金髪のセッターの指を掠めて飛んでいく。指を掠めたことでボールはやや中央へと逸れ、ちょうどコートの中央、相手選手同士がお見合いをする場所に落ちた。
「三上さんナイスキー!」
途端、会場が湧く。チームメイトが代わる代わるハイタッチしに来て(なお、佐久早は言葉だけだったがきちんと近寄って来て言っている辺り成長を感じた。)、それに応えながら俺は相手コートへと視線を流した。
これまで俺はパスしかせず、自ら点を取る動きは一切しなかった。だから今、誰もが俺がパスを出すと思っていた。その裏を突いたプレイに味方は湧き、相手は驚きと悔しさに顔を歪める。
俺を煽っていた双子も銀髪の方は驚きに目を見開き、金髪の方は悔しさに顔を歪めて俺を見ている。その顔をさせることが出来たという事実に俺は喜びを覚え、今日初めて自主的に双子へと言葉を放った。
「これで『教科書通りのお利口さんのバレー』じゃなくなったろ?」
ニィ、と歯を剥き出しにして笑い、挑発するように問いかける。俺の言葉に双子はあからさまにムッとして何か言おうとしたようだが、一々会話をしてやる義理はない。俺は双子の言葉を聞く前にさっさと身体の向きを変えてサーブ位置へと足を動かした。
(ご挨拶はこんくらいでいいだろ。……あとは、煽られた分を返しておくか)
コート外からサーブのために飛んできたボールをキャッチする。
一応サーブが得意ということで通っているから、ここはサービスエースが2、3本欲しい。そしてそれは出来ればチームに勢いを付けるためにノータッチエースが理想である。
(んー、そういえば、双子の金髪がサーブ強かったな)
さて、なんのサーブを、と考えて、2セット目の最初のサーブを思い出した。金髪のセッターが繰り出すサーブはスピードも威力も十分で、俺たちのチームは最初から3点許してしまったのだ。
それを思い出してしまうとその分をきっちり返したくなるのが性分で、記憶を掘り起こして金髪のセッターの情報を頭に思い描いた俺は良いことを思い付いてエンドラインから足を踏み出した。
(1、2、3、4、5、6歩、っと)
歩数を数えて振り返る。
いつものサーブ位置より気持ち遠めだが、まあ問題ないだろう。遠い分は修正をかければ良いのだから。
(さて、1点目、お返し!)
笛の音が上がってからボールを上げる。足を踏み出す。ボールを目で追いかけながら大きく振りかぶってボールを打てば、ボールは狙い通り正面、相手コートの後衛中央に立つ部員の真横で誰にも触られることなくバウンドした。
『ノータッチエーーーース!!!』
実況が叫ばずとも結果は見ていたから明らかだ。いつもとサーブ位置が違うから若干思った位置寄り中央寄りにズレてしまったが、我ながらスピードも上々のいいサーブが打てたと思う。
(おっし。じゃあ、次)
チームメイトからの賛辞を流し、自分のサーブの出来に満足した俺はまたエンドラインでボールを受け取り、足を踏み出した。
(1、2、3、4歩、っと)
歩数を数えて振り返る。
さっきよりも俺が打つサーブ位置に近いので修正はほぼ要らないことを確認して笛の音を合図にまたボールを上げる。
さっきと同じように大きく振りかぶってからボールを打ち、狙ったのは後衛中央の部員。ただしさっきは普通のジャンプサーブで、今度はジャンプフローターサーブ。さっきと同じ位置に立つ部員の手前で伸びたボールに構えていた部員が咄嗟に対応しきれず……。顔面の真ん前で弾かれて明後日の方向に飛んでいったボールはファーストタッチ以降誰にも触られずに床に落ちた。
『2連続サービスエース!!!』
わっ、とベンチが歓声に包まれた。さっきまでは2点目でボールが上げられて点が取られていたので盛り上がるのも無理はない。が、盛り上がるのはこれからだ。
俺は三度ボールを受け取って4歩歩き、サーブを放った。
『三上、次もジャンフロ!これを角名が……っ上げた!ボール下には宮侑!……上げて……、宮治がバックアタック!が!これを読んでいたか古森が綺麗にレシーブ!上がったボールを……?佐久早がダイレクトで返した!ブロック触ったが弾かれて落ちるー!井闥山連続で得点!井闥山あっという間に3点詰めるー!』
実況の盛り上がりに合わせてチームも盛り上がり、同級生が佐久早とハイタッチをしようとして駆け寄り華麗に躱されたのを見て笑った。佐久早がハイタッチするわけねぇじゃん、ウケる。ただ、躱された同級生も慣れたもので、めげることなく身体を急転換して佐久早に再度突撃し、見事背中を叩くことに成功していた。強ぇなあ、おい。なお、叩かれた佐久早は嫌そうな顔をして古森の後ろに逃げた。相変わらず懐かない猫チャンだな、佐久早は。
「おら、お前ら位置につけ。次いくぞ、次~!」
「「「ウェーイ!」」」
「はーい!」
このままもう少しチームメイトの戯れを見ていてもいいが、あまりやりすぎると佐久早の機嫌が悪くなる。佐久早にはこの後も活躍してもらわねばならないのであまりテンションを下げて欲しくない。ゆえに、俺はさっさとボールを受け取って4歩分コートから離れて次のサーブ準備を始め、俺の声かけにチームメイトも各々の位置に散った。
(さて、次。そろそろこの一連のサーブの意味に気付く奴もいるだろう。……一体何人が気が付いたかな?)
サーブの前に相手のコートを見る。
稲荷崎の面々はサーブ位置に移動する俺の動きを見て後衛が全員1歩前へ進んでいる。思った通りの動きをする稲荷崎に俺は口角を上げてサーブモーションに入った。
『三上、次も……?ジャンフロ!対角線の位置にいた宮治を狙いますが、これは対応された!上がったボールは宮侑に託され、速攻で尾白アランへ!ブロック間に合わないか?!お!これをギリギリワンタッチした井闥山の3年MB田添!良く触った!』
『いやー、早い攻撃。普通だったら決まっていてもおかしくはない攻撃なんで触れただけでもすごいです』
『弾かれ零れたボールはすかさず古森君がフォロー!レフトから角名も来てましたからねぇ。普通はそっち使いますから、古森は良く見てたってことですね。いやぁ、ちゃんと奇襲にも追いついてくるのが素晴らしいですね』
高く上がったボールを見上げながら実況に耳を傾ける。
金髪のセッターは宮侑と言うらしい。へー。
そう、普通だったら今の速攻は決まっていてもおかしくはないよな。実況の言うことは正しい。
でも、宮侑は速攻を仕掛けるだろうことを俺は知っていた ので、すでに対策もチームで共有してあった。ゆえに、ブロックがワンタッチ出来たのも古森がレシーブ出来たのも俺たちにとっては当然の結果である。
まあ、相手さんは攻撃が通らなかったことに驚いてるけど。
(そうだな。決まると思うよな?だって2セット目の4点目ではこの動きはなかったんだから)
クスリ、と笑んでトスを上げる。
すでに佐久早がスパイクのモーションをし始めているのが稲荷崎には見えるだろう。けれど、そんなに佐久早を気にしてたら俺の斜め後ろでスパイクモーションをし始めているWSに気が付くのが遅くなるぞ。
『佐久早かと思ったら後ろから3年WS鈴村!稲荷崎ブロック間に合わず決まったー!稲荷崎ここでタイムアウトです!』
ほら、決まった。
「三上ナイストス!」
「鈴木も、ナイスキー」
「残念!俺は鈴村でーす!」
「鈴木も鈴村もあんま変わんねぇじゃん」
「名前間違えといて反省の色なしかよ!」
「タイヘンモウシワケゴザイマセンデシタ」
「棒読みー?!」
タイムアウトなので水分補給をしにベンチへ。途中でスパイク決めたWSがいたので労ったが名前を間違えた。悪い悪い。
「田島もナイスワンチ」
「俺も名前が違うんだなぁ」
「?そうか?」
「三上、田添な。た、ぞ、え」
「そうか。じゃあ次も頼むわ田園」
「お前もしかしてわざと間違えてる???」
「いたって真面目だ。悪いか」
「俺様何様三上様~!!!」
ブロック決めたMBも声をかけたがまた間違えたらしい。苦笑いで訂正をもらったが俺の意識は次の試合運びに移っているのでちゃんと聞いておらず、また間違えたが田中は「仕方がないなぁ」と笑っていたのでまあ、良いだろう。
なんかなぁ、昔から名前は覚えるのが苦手で、1対1で30分以上会話すれば覚えるんだが、高校に入ってからは常に飯綱か古森か佐久早が側にいて他の部員と1対1であんまり会話が出来てないんだよな。だから俺はほぼバレー部員の名前がわからないが不自由していないのでそのままにしている。間違えても全員訂正するだけで許してくれるし。どうせあと半年の付き合いだし改善する必要性を感じていないのでたぶん卒業するまで俺は部員の名前をロクに覚えることはないだろう。
とまあ、雑談はこのくらいにして。タイムアウトは無限じゃないので次の手を話しておかなければならない。それは皆言われなくてもわかっているようで俺がボトルをベンチに置いたら無駄口を叩いていた口が一斉に閉じてこちらへ注目した。
「いい加減向こうも気が付いたろうから猿真似は終わりにする」
「あ、やっぱり稲荷崎の真似してたんだ」
「サーブのルーティンまで真似る辺り三上は性格悪いよな~」
「よ!性格悪男!」
「喧しい!性格悪くて悪かったな!」
俺が喋り終わるまで黙ってらんねぇのかテメェらは。時間がねぇっつってんだろうが。
俺が睨み付けてもさすがに3年一緒に部活をやっている同級生には全然効かない。ついでに俺の人相の悪さに耐性がある佐久早と古森もいたって普通に俺の話を聞く体勢を取っていて、俺はこれ以上問答を続けて無駄な体力を失いたくないので、なんとか怒りを飲み込んで続きを告げた。
「次のサーブ、1点は取る。が、相手も下手くそじゃねぇし強豪としてのプライドもあるだろうから2点目のサーブは上げるだろ。ちゃんと上がったらたぶんあっちの後衛真ん中にいるMBがライトから、乱れて上がるなら中央4番にトスが上がる可能性が高い。フェイントで双子の銀髪がスパイクモーション入るだろうけど釣られんな。ただし、必ずしもこの予測が当たるとは限らねぇ。一応銀髪も警戒しておけ」
「はい!なんでそう思うんですか?!レフトに銀島もいますよね?そっちの可能性は?」
「あン?銀島?」
「宮侑の後ろに居るWSです」
「ああ、アイツか。……まー、確かにそいつの可能性もなくはないけど。今日、後衛真ん中のMBは2セット目に攻撃でボールに触ってねぇ。アイツはMBだろうけどスパイカーでもある。体感が安定していて厄介なスパイクは1セット目にこっちはちゃんと対応できてない。連続で点取られてて取り返したいならそっちを使うだろ。コイツはブロックする時ストレート締めとけ。んで、古森が拾う。いいな」
「おっけーでーす!」
「ああ、でも、不意を突くと言う意味ではレフトにいる銀……銀なんちゃら君?も確かにありか。……んー、でもそいつって結構わかりやすい打ち方してる奴だろ?奇襲狙いとはいえ素直なスパイクは反応できたら拾われる可能性が高いからねぇと思う。けど、一応そっちも頭に入れとけ。ブロック指定はしないけどワンチは絶対で」
「「ウイーッス」」
「点取り返すって息巻いてるならエースの可能性が一番高いかもな。あの金髪のセッターだいぶ負けず嫌いだろ。さっき俺が煽ったから今アイツは闘争心剥き出しになってる。だから俺のサーブを出来るだけ早く切るために強引に点を取りに来ることが想定される。あっちのエースは多少乱れてても関係なく安定して強いスパイク打ってきてたし、パワーもあるからブロック吹っ飛ばせるかもだから乱れて打ちにくいだろうって思っても仕切り直しせずエースに打たせる確率は高い。もしエースで来るならブロックはクロス重点的に締める感じでよろしく」
早口になっちまったけどとりあえず言いたいことはおおよそ言えたか、というところで試合再開のホイッスルが鳴った。本当はまだ言いたいことがあったが、まあまあ言えた方だし良いとしよう。あとは隙を見て個々に伝えていけばいいしな。あ、あとこれだけは言っておかないと。
「とはいえ、今言ったことを全部向こうも読んでて、全部読まれていると踏んで違う手を考えてくる可能性もある。なんせ相手は型に嵌まらねぇのが特徴のチームだからな。よって、ブロックはちゃんと見てから飛ぶように!あとブロック指示はこの後全部に言える事だから忘れんな!」
「「「「「ウッス!」」」」」
よーし。じゃあ、行くか。
出来るならサーブで逆転まで行きたいけどそこまでは厳しいかもしれねぇ。でも双子の金髪は思ったより煽り耐性低かったな。あれならもう少し煽って苛つかせてミスを狙えそうだな。よし。ちょっと集中的に煽るか!なんて。
そんなことをツラツラ思いながらコートへと歩きだしたら不意に「三上」と聞き慣れた声に呼び止められたので俺は素直に振り向いた。
振り向いた先には目元を緩ませた飯綱が立っていて、そういえばタイムアウトで戻ってきてからずっと黙っていたな、と思い出す。
いつもの飯綱ならもっと試合の感想とか俺のセットアップの意図とかを聞いてくるはずで。いつもと違って大人しい飯綱は却って不気味に感じていつもなら邪険に扱うのだが、今日はなんというかそういう気配は感じられなくて。ただただ穏やかに笑う飯綱になんと声をかけていいかわからず飯綱の発言を待っていると、飯綱は一言「勝ってこい」とだけ言って拳を差し出してきた。
例えばここで、飯綱が「負けても俺が取り返すぞ」だとか、そういう軽口を叩いてきたなら、俺はいつも通り飯綱に喧嘩腰に対応出来ただろう。
けれど飯綱が放った一言には俺は、このセットを制して井闥山が勝つのだと確信を持っているような響きが含まれていて。思いもかけず寄せられた信頼に眉が寄るものの悪い気はしない。が、それで素直に飯綱の拳に自分の拳を合わせられるような性格はしていないのが俺である。むしろここで拳を合わせるなんてそんな互いを信頼し合っている親友のような真似ができたらそれは俺ではない。恥ずかしいだろ、純粋に。
ただ、ここで拳を合わせないで無視をするというのも大人気ないし、エールを贈ってくれている奴に対して(それがたとえ飯綱であっても)あまりにも失礼というか感じが悪いというか……、人としてそれはどうなんだ?という感じではある。
恥ずかしさを我慢するか、それとも感じが悪いことを承知の上で無視をするか……。
これまでの人生の中で上位に入る難しい選択肢に俺が使える時間はわずか数秒。その数秒で目まぐるしく脳内会議で協議を行った結果、俺が取った行動は…………。
「うるせぇ。てめぇの出番はもうねぇから、黙ってベンチで座ってろ」
そんな風に悪態を吐いて、差し出された拳を力いっぱい叩き落としてコートに向かうことだった。
うるせぇ!!拳を合わせるなんて恥ずかしい真似できるかばーーーーーーか!!!!!!!
飯綱の拳を叩き落としてから再開した試合。
サーブは変わらず俺からであり、ボールを受け取った俺は迷わず4歩進んで相手コートを振り返る。その際片手でボールをバウンドさせ、ボールを鷲掴んで止める動作を繰り返し、それから相手のセッターに向けて挑発的に笑んで見せた。
(おら、まだお前の真似を続けるぞ)
視線で語りかけてやると金髪は明らかに憤慨したように顔を赤くして冷静さを忘れたようだが、その後ろ、後衛の部員はどうやら違うらしい。俺の動きに対して、真ん中の部員は1歩足を出しただけで位置を変えず、両脇の部員も立ち位置を半歩しか修正しなかったのである。そのことに俺は感心した。
(……ふぅん?全員前に進まないってことは、稲荷崎の中に俺の意図に気が付いて忠告した頭の切れる奴でもいたんだな)
さっき宣言した通り、もう相手のセットアップを真似するのは止めるつもりである。ゆえに、俺が今、相手のセッターのサーブルーティンを真似たのは釣りである。要は「まだ真似をしつつも点を取る気ですよ」と相手に思わせるためのブラフだ。俺の挑発に怒りを顕にし、冷静さを欠いた状態なら俺の動きを見てジャンフロを打つと思ってくれるはずだったのだが、どうやら相手側も一筋縄ではいかない曲者がいるらしい。相手コートの立ち位置がそれを教えてくれている。で、あるならば。俺は少し攻め方を変える必要がある。
(普通のジャンプサーブだと弱いかな)
ふむ、と俺は少し考えてボールを上げた。
ジャンフロとジャンプサーブではボールの落ちる場所が違うので前目に構えてくれればそれだけジャンプサーブで点が取りやすい。しかし、稲荷崎の後衛は俺の動きを見て1人はいつでも前に出られるように片足だけ出し、2人は“1歩”ではなく“半歩”しか前に進まなかった。俺がジャンフロをやらない可能性を考慮しての位置取りである。
正直、「ジャンフロをやらない可能性がある」と思われているならジャンフロを打ってもよかった。そうすればまだ俺は相手セッターの真似をしてサーブ種類を教えるハンデを与えているのだと-所謂“舐めプ”をするつもりなのだと-誤認させられただろうから。ただ、今の状況から考えるとそれだけでは少し面白くない気がした。だから。
『ビックサーバー三上!サーブは宮治狙い!』
『お!手前で急に落ちましたね。……ドライブサーブでしょうか?』
ジャンフロをしない代わりに打ったのはドライブサーブ。本来はエンドラインの際で手前に落としたりするためのサーブだが、今の俺のサーブ精度では際を確実に狙えるほどではない。だから、今日は対角線上にいる双子の片割れの手前に落とすつもりで打ち、ボールは狙いよりやや後ろ寄りに落ちた。まあ、次第点だろ。伸びるジャンフロとは違い、落ちるサーブに銀髪が慌てて前に進んで腕を伸ばす。そうすれば身体の大きさに見合った腕の長さを持つ銀髪なら半歩進んでいた分取れだろう。でも、俺のサーブは半歩しか進んでない状態では取れない位置に落ちるから、銀髪は俺の狙い通りレシーブするために膝を着く羽目になった。これで銀髪はスパイクに参加できない。
『宮治、辛うじて拾ってボールは尾白!上げて……?!宮侑のスパイクだったがブロック3枚に阻まれた!』
『今、井闥山の陣営はレフトからスパイクが来ると確信していた配置でしたね』
ボールは前衛へ。それも銀髪の上げ方が短いからエースが拾う羽目になる。これでエースからのスパイクも潰れた。エースが上げたそのボールを前衛真ん中にいたMBの3年がスパイクすることはない。なぜなら助走距離が確保できないから。下手に俺たちのコートに落とすと反撃を食らう場面で、3年のMBが強引に打つ可能性は低い。ゆえに、選択肢から外す。で、残りはMBの2年とWSの2年、それとセッターの2年の3択。けれど位置的に前衛が邪魔をしてMBはバックアタックしかできない。あのMBのスパイクはネット際でブロッカーたちとの対面の方が効果があるからバックアタックはたぶんない。よって、俺たちの選択肢はレフトからWSが来るか、セッターが来るかの2択だった。
どのみちレフトからくるならこちらは3枚ともレフト側に寄っておけばいい。稲荷崎のWSもセッターも佐久早のように変な回転がかかったスパイクを打つわけではないから3枚いればほぼドシャットできる。今みたいにな。
若干、セッターがライト寄りに突っ込んできてトスを上げる可能性もあったが、密集するライト側に無理に入ってはレフトが手薄になる上に選手同士で接触の可能性が高くなるからそれはしないだろうとの予想だったが、当たってよかった。
「ッア゛ー!!!なんやねん!!!!!」
「侑、落ち着きぃ」
「わかっとります!!!!!」
「わかっとらんから言うてんねやろ……」
ドシャットされたセッターが癇癪を起こしはじめ、エースが宥めようとするものの効果は薄い。まあ、さっきまでは俺のサーブ1回で切れてたのに今は5点目だろ?格下だと思って散々煽って見下してたやつからこれだけサーブで点を取られれば心情的に荒れるのは仕方がないことだ。同点の点数になったのも、苛立つ原因だろうな。が、その感情の揺れをわかりやすく表面に出すあたりまだまだ未熟だな、と思う。
今、金髪のセッターは必ずしもスパイクを打つ必要はなかった。ブロック3枚が来ているのだから、ブロックに軽く当てて仕切り直しを選択するのがベストな判断だったのだ。けれど金髪セッターはサーブ前に俺の挑発を目撃して頭に血が上っていた。そこに来てスパイク直前、後衛の俺と目が合って、その俺が挑発的に笑ったものだから、金髪は冷静な判断を失い、仕切り直しという手段を忘れてスパイクを打った。その結果ドシャットを受けて点を取られたのだ。これ以上ない失態だろう。
で、俺はそんなセッター君に今からトドメを刺すつもりである。
どんなトドメかって?ここで出来るのは口での挑発だろ?
「自分、スパイク決まらんくて残念やったなぁ。ま、アンタはセッターやから?スパイク下手でもしゃぁないか」
「……………………ア゛……………………?」
にっこり。俺は目が合った金髪のセッターに向けて笑顔を向けて、わざと関西弁で話しかけた。
「でも、どんなに優秀なセッターかて、ボールをセットでけへんかったら怖ない。まずは俺のサーブ、ちゃぁんと上げな話は始まらんよ?」
「……ッハーーーーン゛?!?!?!?!」
金髪セッターの心を乱すのは何も試合中だけじゃなくてもいい。こういう合間にちょっかいをかけることも反則ではないのだ。さっき双子が俺に絡んできたように、今度は俺が絡む。ただそれだけの話。
けれど、双子が俺に話しかけた時と違うのは、相手の反応である。双子は俺や井闥山バレー部を貶すことで俺を怒らせ乱そうとしたが、俺は一切相手にしなかった。けれど今、俺が発した関西弁に金髪は驚くほど敏感に反応し、そして……、ほら。あちらさんはあっという間に感情を爆発させて荒れてくれた。
「このままの調子でいったら、このセット簡単に取れてまうなぁ。ちょっとは頑張ってくれんと、おもんないわ」
「っ!っ!っ!」
俺の必殺技(笑)。関西人でもないのに関西弁、である。
これは自慢だが、俺は外国語をいくつか勉強しているが、外国語が出来て日本語が出来ないなんて恥ずかしいと思っている。だから外国語と平行して日本の地方の方便も勉強している。さすがにまだ東北の方とか九州の方の言葉はマスターできていないが、関西弁はネットを漁れば見本・お手本がいくらでも出てくるのでイントネーションもほぼばっちりな状態で話せるのだ。
そこでクエッション。
東京生まれで東京育ち、先ほどまで明らかに完璧な標準語で喋っていた相手が、突然関西弁で煽ってきた場合、相手の反応はどうなるでしょ~うか!
「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛――……!!!」
「侑!落ち着きぃ!!!挑発や!」
「せや!お前もさっき同しこと言うてたやろ?!」
「わ゛がっ゛どり゛ま゛す゛!!!」
「わかっとんなら怒り抑えぇ!!!」
とっても簡単。ものすごーく怒り出す。
しかも俺の発言はほぼ俺が双子に言われたことなので?つまりは双子は自分たちの発言をブーメランで受けているわけで?因果応報とはまさに今の状況にぴったり当て嵌まるな。ふははは、ざまぁ。
「三上さんめっちゃ楽しそうっすね」
「生き生きしている……」
「普段は飯綱にやられて怒り狂っている分を発散しているようだ……」
「うわぁ、言われたことそのまんま返して……」
「なんか、宮侑が可哀想になってくるな……」
俺が金髪セッターの反応に満足して内心高笑いしているのと、それを見ていたチームメイトがこそこそ話内緒話で悪口を言ってくる。全部聞こえてんぞ、お前ら。面白いぐらい反応してくるのでちょっとやりすぎたかもしれないって俺も思ってんだからドン引きしてんな。距離を取るな!うるせー!性格悪いのは自覚済みだわ!クソが!!!
「おら!お前ら次いくぞ!次!!配置につけ!!!」
煽れば攻撃が単調になって点が取りやすくなるんだから良いだろうが。と、言ったら全員生暖かい微笑みでこちらを見てくるので舌打ちをして目を反らした。言いたいことがあるなら口で言えってんだ。まあ、この場合コイツらが何を言いたいかなんで大体わかるので言わなくても良いのだが、なんとなく居心地が悪くて堪らない。もうこの空気は早々に次のサーブに入って場を誤魔化すしか道はないか、と俺は判断して歩を進めるための1歩を踏み出したのだが……。そういえばまだやり残したことがあることに気が付いて足を止め、おもむろに稲荷崎へと振り向いて目的の人物-双子の片割れである銀髪君-と目を合わせて口を開いた。
「アンタ。そう。そこの銀髪君。さっきナイスレシーブ。あれ、よう取ったな。すごいわ」
「……は?」
「サービスエース取れるかと思ってたんやけど。上げられてビックリした。……けど、上げるならちゃぁんとセッターに届くように上げたり。そうやないとセッター君仕事でけへんやろ?」
「……ッハーーーーン゛?!?!?!?!」
「あ゛!こら治まで怒んな!挑発やって!」
口を吐いて出たのは賛辞に見せかけた嫌み。「きちんと上げられないなんて未熟だな」という意味を込めた煽りはきっちりしっかり届いたようで。さっきまで「自分は関係ありません」とばかりにすまし顔をしていた銀髪君は見事に怒髪天を突いた形相に早変わり。それを見て俺は満足してうんうんと頷いた。
やー、やっぱり片方だけ挑発して片方無視したら可哀想だしな!平等に煽らねぇと!……あ?「シンプルに性格悪い」?喧しいわ。だって、俺はやっぱり『三上亮』だから。煽り芸は披露しておかないとって思ったんだよ!これも作戦の内だし!良いだろ!別に!!!
俺の口が悪いのは今に始まったことではないし、こうすることで双子がメンタルに揺らぎを生じてこのあとの試合運びが有利になるのだからいいではないかと俺は思う。それなのにチーム内の同級生連中は「わざわざ宮治にまで怒らせなくてもよかったんじゃね?」「な~。ま~たそうやって作んなくていい敵作って……」「後で飯綱に怒られるぞ~」などと微妙な顔をして小言を言う。なんでチームに有利な状況を作ってんのに文句を言われなきゃいけないんだと憤慨した俺は、むしゃくしゃした気持ちを発散するために怒りが収まりきっていない兄弟2人に向けて放った。
「宮下兄弟だっけ?このセットで俺が君たちには敵わないって教えてくれるんだろ?なら、手加減してくれてるのはありがたいけど、あと10点しかないんだから、早く本気出さないと終わっちまうぞ」
「「!!!!ッハーーーーン゛?!?!?!?!」」
ユニゾンする怒声。俺は胸のすく思いと達成感を覚えて今度こそサーブするために歩みを進めた。
なお、チームメイトは「やれやれ」みたいな反応をしていてムカついた。腹立つ~!
☆ツンデレ成り主
ローテンションで試合を淡々と進めていたが、この度稲荷崎の双子の煽りに我慢の限界を迎えて本気を出し始めた男。チームメイトが全然自分の味方をしてくれないのでイライラしたので双子をバチボコにする決意をした。有言実行なのでこのあと逆転からのリードを保ったまま25-20ぐらいで普通に勝ち星を掴み取る。
成り主は能力はあるけどテンションに左右されがちなのでやる気のスイッチがオンにならないと能力の半分以下しか出せない。でもスイッチさえオンになればどんなボールも次へ繋げるセットをすることが出来るし、細かく試合の進行を予測して対策を立てることが出来る。その能力は井闥山のバレー部員にはミニゲームでバレているため皆成り主が準1軍でも文句が出ない理由である。
なお、調子が良いとマジで未来でも見てきました?レベルで次に起こることを予測し出して「次レフト2歩分向こうで待機」とか「気持ちライトに注意しつつ中央でブロック」とか「こうきてこうなってボールが飛んでくるからお前は気持ちあっちよりにレシーブ上げろ」とか指示が細かくて正確なので後輩の間で密かに「神の目を持つ男」と中二病もびっくりの二つ名を付けられてひっそりと信仰を集めているのだが成り主はご存じない。もし知ったら白目を剥いて気絶するしバレー辞める。ちなみに、対飯綱戦が1番「神の目」(笑)が発動しやすい。
飯綱の純度120%のエールに照れて拳を叩き落とすが、最後の悪態が飯綱の中では「俺が井闥山を優勝させてきてやるからよく見ておけ」に変換されていることを成り主は知らない。
☆成り主の初公式試合を心のアルバムにしかと記録するのに夢中な飯綱
最初やる気がなくても稲荷崎の双子の煽りに勝手に闘志燃やし始めるんじゃないかと思ってたから静観していた男。でも思ったより成り主は双子の煽りを全然気にしてないし途中までやる気を全く見せない普通のセットアップしかしない成り主に「ちょっとつついて無理矢理やる気出させようかな」と画策していた。でも途中から自分でやる気出し始めたのでニコニコ試合観戦していた。
タイムアウトの時は成り主の試合を見れてテンション上げすぎて一周回って穏やかな菩薩のような心境に至っていた。成り主にエールを贈ったら照れた様子で勝利宣言してくれたのでもっとテンション上がった。この後試合に勝てたら皆で成り主を胴上げでもしようと思っているが成り主に怒られるから止めた方がいいと思う。
☆エンジンかかった成り主にテンションぶち上がった佐久早と古森
一緒に試合できたはいいけど成り全然楽しそうじゃなくてしょんぼりしていた男たち。
稲荷崎の双子の煽りに成り主が怒ってやる気を出してくれることを願っていたがそれも空振りっぽくてがっかりしていたら気が付いたら成り主がやる気になってて嬉しくなった。
実はやる気になった成り主の指示が嬉しくて試合中いつもより能力値が2.5倍ぐらいになっていた。今ならどんなボールも捌けるし打ち抜けるし拾えると思っている。
これは内緒の話だが、実は「神の目を持つ男」と最初に呼び始めたのは古森である。
☆実は試合を観に来ていた赤葦京治
負けちゃったし成り主と話せなかったけど成り主の学校の決勝戦は見ておこうと思ってスター選手と一緒に観戦していた男。
そうしたら2セット目に成り主出てきたし相変わらず淡々とスムーズに試合運んでんな、とは思ったが、同時にテンション低いからこれは負けるかな……と冷静に分析していたのに、途中から急にやる気を出した成り主に首を傾げながら、でも全力の成り主の試合を観れて嬉しくなった。
試合中の宮兄弟の様子から「また先輩が煽り芸披露して敵を作ってる……」と推察して苦笑い。成り主は中学の時からテンション上がると相手を煽って敵を作るタイプの人間だったのでちょっと懐かしく思った。
このあと、井闥山の優勝を見届けてお祝いのメールを送るついでに、久しぶりにどこかで会えないかお伺いを立てる予定である。



























