※注意※
何番煎じだろうと気にしない、降谷さん逆行ネタです。
以下の注意点が含まれます。
・安定の赤井絶対殺すマンな降谷零
・今度は工藤一家を引き込みたいという思惑から、工藤家に接触する気満々
・まだまだ出てくるのは先だけれど、主人公含めいろんなキャラを懐柔していきます。
・原作の通りには多分進まない
・逆行したら変態ホイホイにクラスチェンジ
・若干の腐向け要素がのちのち入ってくるでしょう(その時は腐向けタグつけます)
一番の注意点は、若いころや幼少期に、逆行零くんと接触した主要キャラの性格が恐らく原作と乖離が発生することでしょう。
出会いのタイミング、順番によって受ける影響はだいぶ変わりますし、唯一の記憶持ち逆行零くんが自分に都合よくなるよう変えていく気でいるので。
つまりは降谷零による、降谷と大事な人と日本に都合がよくなるように原作主要キャラを攻略()していくお話です。
はい、嫌な予感がした方はお逃げください!
逆行前の降谷さんの死にコナン君が絡んでいるのは今後の展開の為なので、ヘイトやら厳しめやらの意図ではありません。
終始降谷さんの視点なので、降谷さんが嫌いなひとは常に罵られておりますがキャラヘイトの意図はございませんので、ヘイト系のタグはつけないでいただけると嬉しいです。
繰り返しますが、原作は崩壊します。
長くなると思いますが、のんびりお付き合いいただけると幸いです。
1
やっと春休みの強化練習が終わったと思ったら、あっというまにゴールデンウィークの合宿が始まった。帝丹高校の柔道部はなかなかの強豪なので、連休となるとこうして学校外の施設を借りて合宿を行うことが多い。今年は監督の伝手で郊外にある大きな体育館と宿泊施設が併設された合宿所を安く借りられたそうだ。
「うっへぇ、すげえな、見てみろよ」
「あん? なんだよ」
昼前に施設に到着してから、早々に練習に入り、ようやく解放されたのが一時間前。風呂に入ってさっぱりして、やっと割り振られた部屋に戻ってこれた。今日は調子が良かったから熱中してしまって、さすがに疲れた。もうすぐ夕飯の時間だから、早々に食堂に移動しようかと思っていたところで、部員達が窓辺で騒ぎはじめたのだ。
仲間が騒いでいたらそりゃあ気になる。近寄って、仲間の肩越しに窓の外を覗けば、絶景が広がっていた。
「へぇー。すっげえ庭だな」
「なー。いかにも金持ちってかんじじゃねぇ?」
ちょうど山の中腹近くに建てられたこの施設は、崖の上にある。三階建ての建物の二階からでも絶景が見渡せるのは知っていたが、まさか他人の家の庭まで眺められるとは。しかもその庭がすごい。洋画なんかに出てきそうな、いわゆる西洋式庭園というやつだった。至る所で薔薇が満開だ。庭の奥に見える洋館もこれまた豪華で、城かと突っ込みたくなるレベルだった。
ちょうど見渡せるのはそのお屋敷の裏側と、庭の一部みたいだけど、それだけでも十分な見応えだった。別にこういうのが好きってわけでもない俺でも思わず感心するくらいだ。女子が見りゃあきっと喜ぶんだろう。あの堅物もあれで結構ああいうのが好きだったり……するんだろうか。
「…………」
パシャ。
去年の夏、プールの短期バイトで金を貯めてようやく買った携帯で、夕暮れに染まる庭園をズームで撮影してみたのは気まぐれだ。別に、あのガリ勉女に送ってやろうとか思ってないし。
「お、なんだよ、珍しいな毛利」
「おう、女子が好きそうだからな! もうすぐ夕飯だから、マネちゃんとか女子部のやつらにでも見せてやろうと思ってよ」
「あー。たしかに。女子部屋からじゃ見えないもんな」
「よぉーし、俺も撮っとこ」
俺のひとことを引き金に、他の連中まで他人の庭を撮影しはじめた。家主にはちょっと悪いような気もしたが、別に悪用しようってんじゃないし許してほしい。健全な男子高校生が、ちょっと女子に話しかけるきっかけにしたいだけなんで。いやほんとに。
内心で言い訳しつつ、俺も負けじともう何枚か写真を撮った。
携帯なんて電話とメールができればいいと思っていたが、店員が熱心に写真がカメラ並にきれいに撮れるおすすめの機種だとかうるさかったから、押し負けたのだ。使ってみて、ズームが結構しっかりできるのにはびっくりしたな。
「……ん? 何だありゃあ」
ふと目についたのは、ズームにした携帯越しに見つけたモノだった。ドーム型のガラス張りの建物だ。ガラスの向こうにも植物が……たぶん薔薇だろう。たくさん薔薇があるってことは温室か。だけどただの温室にあるにしては妙なものが見えた。
「どうした?」
「いや、あの温室よー。なんか、中にでっけぇ檻みたいなのねぇか?」
「檻ぃ? ……あー、確かに。つかあれ、檻っていうか、あれに似てるな。鳥籠!」
「ア? あぁー、なるほど、鳥籠ね。確かにそれっぽいわ、あのてっぺんの部分」
つか、温室に鳥籠って。
しかもいくらズームにしてるったって、所詮携帯のカメラだ。望遠レンズ並のズーム機能なんて持っていない。それでも温室越しに目にとまったくらいだから、相当でかいんじゃないか、あれ。そんなでかい鳥籠なんて見たこともない。
「何かでっかい鳥でも飼ってんのかね?」
「さぁなぁ。ただの飾りかもな」
俺には良くわからんが、インテリアデザインとかなんとか、そういうのに詳しい奴とかは突飛な発想をするもんだろ。たぶん。
写真を撮っているうちにどんどん陽が沈んで暗くなってきたので、俺達は携帯をしまって食堂に移動を始めた。所詮男子高校生にとってはきれいな庭なんかより飯の方が重要な関心事なのだ。
俺が妙な鳥籠のことを思い出したのは、夕飯を終えて、思い思い部屋でくつろいでいたときのことだった。なんとなく気になって、窓を開けて薔薇の庭園を遠目に見下ろす。暗くなったせいで、ろくに何も見えない……かと思いきや、何かがきらっと光った。お屋敷の方からだ。
「何だ……?」
携帯のズームで確認してみたが、暗くてよくわからない。どうも、庭に設置されているライトの光が、何かに反射しているようだった。双眼鏡でもあれば……と思ったところで、そういえば顧問の趣味がバードウォッチングだと思いだした。この合宿が決まったときも、山の中だから珍しい鳥とか見れるかもしれない、とか言っていたな。
別にその光の正体なんて放っておいてもよかったが、なんとなく気になったので、俺は消灯になる前に、と顧問とコーチが借りている部屋に向かった。適当に理由を濁して双眼鏡を借りて部屋に戻る。部員達がなんだなんだと騒いだが、面倒なのでぞんざいに流して双眼鏡でさっき光ったあたりを覗いてみると……。
「……望遠鏡?」
お屋敷のある一室の窓から突き出ていた望遠鏡のレンズが、ライトに当たって光っていたのだ。それだけなら、家主が天体観測でもしてんのかですむ話だが、妙なことに、その望遠鏡、庭の方を向いていた。
いったい何を見てるんだ、と思ってしまうのは当然だろう。ほんのちょっとした好奇心で、俺は望遠鏡が向いている方向を双眼鏡で追った。すると、その先にはあのガラス張りの温室があって――。
「アァッ!?」
自分でもびっくりするくらい大きな、剣呑な声が出た。だがそれも仕方ない。なんせ俺が覗く双眼鏡の先に見えるのは、あの鳥籠。そして携帯のズームでは見えなかったその内部は、白いクッションみたいなので埋め尽くされていて、その上に子どもが寝ていたのだ。それも……それも――……。
「首輪と鎖って、変態じゃねぇか!!」
思わず叫んだ俺は悪くねぇよな?
なんだ、どうした、と部員達が騒ぐので、双眼鏡で方向を示してやれば、見た奴はみんな真っ青になった。そりゃあそうだ。なんせ鳥籠の中に子どもが、鎖で繋がれて閉じ込められているのだ。そうしてそれを、望遠鏡で覗いているやつがあの屋敷にいる。
……おい、並べたてるとやっべぇな。犯罪の臭いしかしねぇぞ。
「け、警察だ! 警察に通報してくれ。俺ァ、ちょっと近くまで様子見てくる!」
「えっ、あ、おい、毛利!」
合宿ってことで、見栄を張ってそのまま外に出ても平気な部屋着を寝間着代わりに持ってきておいてよかった。俺は双眼鏡を放りなげ、部屋を飛び出した。
***
すぐそこだと思っていたお屋敷は、徒歩で近づこうと思ったら、山道をぐるっと迂回して麓に下りる必要があったためめちゃくちゃ遠かった。
勢いで飛び出した俺は途中でそのことに気付いて、コーチなり顧問なりに車を出してもらうべきだったと後悔したが、今更とぼとぼと合宿所に引き返すのも格好悪い。結局猛スピードで走り抜け、ようやく合宿所から見えた屋敷の裏手に辿り着いたのは、合宿所を飛び出してからたっぷり三十分はたってからのことだ。
レンガ塀に両手をあてて、よりかかるようにぜぇはぁと呼吸を整える。日中柔道の強化練習をこなしたあとでこれはきつい。せっかく風呂に入ったのも台無しになる汗だくっぷりだ。
数分かかってなんとか息を整えたところで、俺はスウェットのポケットでサイレントモードにしていた携帯が震えているのに気付いた。
着信画面に表示されているのは、三年の主将の名前だった。鬼の主将を無視はできねぇ。急いで出ねぇと!
「はい! もしもし、」
『毛利――っ!! てめぇ、何回電話させる気だ馬鹿野郎っ!』
「す、すんません、着信気付かなくてっ」
やばい、もう無視してたっぽい。走ってたから気付かなかったんだろうけど、やっちまった。
『つか何勝手に飛び出してんだ! お前今どこにいんだよ!?』
「は、えーっと、あの合宿所の部屋から見える豪邸の裏手っすよ。今さっき着いたとこッス。あの、ところで、警察に通報してねーんですか?」
近隣にも交番はあるはずなのに、警官のひとりも様子見に来ているようすがねぇ。子どもが拉致……かはわかんねぇが、監禁されてるってのに対応が遅くねぇか?
俺の当然の疑問に、主将はだから、と語気を荒げ……そうになったのをすんでに堪えたようだった。落ち着きを取り戻そうとしたか、ひとつ溜息。
『どうも今朝、誘拐騒ぎがあったらしいんだよ。で、その監禁されてる子っつーのが誘拐された子かもしれねぇらしくてよ』
「えっ」
『お前が飛び出したっつったら、警視庁の人がすぐ合宿所に戻るように言えって。なんかその誘拐犯相当ヤバイ奴みてーだからよ』
「はぁ……」
折角ここまで来たのにすぐ戻れっつーのは納得いかないが、そういう事情なら仕方ねぇか。近所の所轄のお巡りじゃなくて警視庁が動いてるってことは大事なんだろうしな。
『一応、先生達が双眼鏡で確認したあの子の特徴は伝えてあるからよ。すぐ救出するから心配すんなって言ってたぜ』
「いや、まあそれならいいんすけど……」
誘拐されたっていう子と、鳥籠に監禁されてた子の特徴は、たぶん一致したんだろうな。だから警察も慎重になって、すぐに交番のお巡りを差し向けなかったってことか。てことは今頃令状とかとったりしてるんだろうか。あの子は籠の中で横になっていたけど、寝ていただけならいいんだが……。
ガキがひでぇ目にあうのは、気分がわりぃからな。
「じゃあ、俺今からそっちに戻りま……す……、っ!?」
勢いで飛び出しちまった手前気恥ずかしいが、俺にできることはそうねぇだろう、と通話を終えようとしたところで。
俺は屋敷を見上げて、愕然とした。
屋敷の奥から、もくもくと――煙が上がっていたのだ。
『おい、毛利、どうした?』
「あ、か、火事だ! 火事です! 消防車も呼んでください!」
とっさに叫んで、通話を切った携帯をスウェットのポケットに押し込んだ。
冗談じゃねぇ、あのガキ、鎖で繋がれてたんだぞ!?
どのあたりで火がでてんのかわからねぇが、あのままじゃ逃げるにも逃げられねぇ。誘拐犯が拉致した子どもまで連れて逃げてくれるかなんてわかったもんじゃねーじゃねぇか。
「くそっ!」
どこか、どこかねぇか、屋敷に入り込めそうなところは。
塀のまわりをぐるっと、よじ登れそうな場所はないか捜しながら走る。すると一カ所、レンガ塀が良い具合に劣化して、とっかかりになりそうなところがあった。
隙間に指やつま先をひっかけて、塀をよじ登る。ちょうど生け垣が途切れていた部分を乗り越えて、なんとか屋敷の敷地に入り込むことができた。
運良く、温室が近い。火が上がっているのは母屋のようで、火の手がどんどん広がっているのが見て取れる。ちくしょう、カーテンにでも引火したのか? 古い洋風のお屋敷とはいっても、石造りじゃなくて木造っぽいから、燃えやすいのかもしれない。
急いで温室に近づいて、出入りできそうな場所を探す。庭から出入りできるドアを見つけたが、当たり前だが鍵がかかっていてあかない。ガラス張りならハンマーか何かありゃ割れるだろうか。ふとそう思ったが、普通に考えりゃあ強化ガラスだよな。さすがにそんなもん簡単にゃ割れねーか。
中も庭も暗くてよく見えないが、鳥籠は温室の中央付近にあったはずだ。ここからじゃ、子どもの姿は確認できねぇ。
他に出入りできそうな場所は……。温室と屋敷との間をつなぐように小屋が一つあるが、窓も扉もねぇときた。仕方ねぇ。どうにかこの扉をぶち破るしかねぇか。
「おぉぉらぁ……っ!!」
深呼吸をひとつして、勢いよく全体重をかけるように。
俺は渾身の力を込めて、扉に体当たりした。
2
この屋敷の主人は、まごう事なき変態だ。
屋敷の中を探索し始めて十数分。俺は改めて認識を強くした。
あいつは屋敷の主人の部屋には近づかない方がいいとか抜かしていたが、普通重要なものは手近なところに置いておきたくなるもんだろう。そう考えれば、やはり寝室近くの部屋が、奴のお宝の隠し場所である可能性は高い。
そう踏んだ俺は、なんとか屋敷に侵入を果たすと、あいつに教えられたあたりに向かった。
もうすぐ日付も変わりそうな時間とあって、屋敷の中はしんと静まりかえっている。
流石に寝室は避け、その近くをひとつひとつ確認していくと、一カ所鍵のかけられた部屋があった。他の客室なんかはあいていたから、施錠されているというだけでもあやしい。家の中の内鍵だから、そう頑丈なものでも複雑そうなものでもない。ピッキングツールで鍵を開けるのは簡単だった。
薄く隙間を開いて真っ暗な部屋の中に滑り込む。なんだか油っぽい、妙な臭いのする部屋だった。
暗がりにも、やたらあちこちに乱雑にモノが積み上げられているのが解る。うかつに動いたら派手に物音を立てそうだ。闇に慣れた目でも、明かり無しでこの部屋を調べるのは厳しい。
持参したペンライトをつけて、まず手前、それから足下を照らす。慎重に部屋の中央あたりまでやってきたところで、部屋中をぐるりと照らした。
小さな丸い机と、その横にキャンバスがある。
「……絵?」
照らしてみると、それは描きかけの絵だった。まだ着色を始める前らしく、木炭で描かれているのはついさっき見た顔――あいつだ。キャンバスの周りには画用紙が散らばっていて、それにも描かれているのは全部あいつ。だけど少し違うのは、画用紙の方はあんな時代がかった格好はしてなくて、そのへんの子どもがしてるような格好だ。目線は全部明後日の方を向いているから、盗み見て描いてたんだろう。
美術品の蒐集家だと聞いていただけだったが、画家だったのか? いや、でも画家にしては……あんまうまくねぇな。いや、モデルがあいつだってのは解るんだが、解るだけにもうちょっとマシに描けなかったのかと言いたくなるできだ。
描いた奴も納得がいってないのか、何度も修正した後が見えた。
ここは奴のアトリエとかいうものなんだろうか。
もう少し調べてみたが、机の上には絵の具や筆の他にはアルコールランプくらいしかない。アンティークらしい凝ったデザインではあるが、別にお宝ってほどには見えねーな。
たくさんのキャンバスや、石膏像なんかが床や壁際に乱雑に置かれているなか、左側の壁に扉があった。ノブを回してみたが、ここも鍵がかかっている。ペンライトを歯で噛んで手元を照らし、ピッキングで鍵を開けた。
もしかすると、ここにお宝か、人質を隠してるんじゃないか。人が居るとしたら、騒がれないように静かにさせないといけない。
ゆっくりドアを開けて、中をのぞき込む。
「……おい、誰かいるか?」
小さく声をかけてみるが、返事はなかった。
中に入ろうとして、ペンライトの光源が弱まっているのに気付く。ピッキングツールと一緒に組織の男に渡されたものだが、あの野郎、装備の点検くらいしとけよ。明かりもなく小部屋の中を探るのは無理だ。ペンライトは温存することにして、あのアンティークのアルコールランプを借りることにしよう。
そう思って、ランプの近くをさがせばマッチがあったのでそれで灯りをつけた。やわらかい橙色に照らされたキャンバスは、不思議とペンライトで照らしたときよりうまく見える。光源の違いで雰囲気が変わるってやつだろうか。案外そのためのものなのか? このランプ。絵のことは俺はよくわかんねーから、机の上の道具も何のためのものかもわかんねぇ。わかるのは別に金にはならなさそうだってことくらいだ。
アルコールランプを持って、改めて小部屋に入った。窓のない狭い部屋――かと思ったが、狭いと感じるのは扉以外の壁がほとんど棚で覆われていて、ここにもまたところせましと石膏やら何かの瓶詰めやらが並んでいたのだ。人の気配はしないから、人質はいないようだ。じゃあ宝石とかでも隠してるのかと、棚にランプを寄せてのぞき込んで……目玉と目が合った。
透明なガラスの瓶一杯に詰められた液体に、まんまるの眼球がぷかりと浮いていて、それと目が合ったのだ。
「……っ!!」
思わず後ろに後ずさり、壁にぶつかった。本当に、ところせましといろんなモノが並べられていせいで、俺がぶつかった壁の側にあった棚が揺れた。石膏が一つ落ちて、ガシャンと割れる。
しまった。
そう思ったはずなのに、とっさに割れた石膏を見て、思考が止まった。
鼻がひんまがりそうな臭気が、石膏からあふれ出している。
割れた白い破片のすきまから、どろりと腐って皮膚が溶けたようなこどもの顔が、欠けた眼窩が、俺を見上げていた。
「……っ、うっ」
死体を見たことがないって訳じゃねぇ。
俺は物心ついた頃から掃きだめで生きてきたんだ。そこらへんのガキみてぇに安穏とはしていられなかった。食っていく為には他人を食いもんにするのなんか気にもとめねぇ。気に入らねぇ奴はぶっ殺しゃいいと思ってる。
けど、さすがにここまでイカれた奴は見たことねぇぞ!
ここにあるのは美術品でも骨董品でもねぇ。
ド変態サイコ野郎のコレクションだ。
あいつ。あの馬鹿。あのお人好し。
あいつもいずれ、ここに加えるつもりなんだろう。あんなふうに、目玉をくりぬいて、瓶詰めにして――……。
「坊や、どこから忍び込んだんだい?」
ねとっと溶けた飴のような、粘着質な不快な声がした。
あれだけ大きな音がしたのだ。そりゃあ起きてもくるだろう。振り向けば、イカれたサイコ野郎が糸のような目をますます細くしている。
「泥棒にしてはずいぶん若いよねぇ。でも子どもなのに、ピッキングまでできるんだ? ただの子どもじゃあないね? どっかの組織から送られてきたのかな?」
とんだへまをした。たぶん組織と俺とを結びつけて考えてやがる。笑う男の手には火掻き棒が握られていた。
「ふぅーん……。人相悪いけど……銀髪は悪くないかなあ。汚さないようにしないと……」
ぶつぶつつぶやきながら一歩一歩近寄ってくる男を警戒しつつ、身構える。ろくに鍛えたこともなさそうな奴だが、大人と子どもの体格差は馬鹿にできない。まして、こんな狭い小部屋にいるのは不利でしかない。出口は男に塞がれているから、なんとかしてすりぬけねーと。
チャンスは一瞬だ。
男が火掻き棒を俺に向かって振り下ろすのを、横に飛び退いて躱す。床に火掻き棒が食い込んでひっかかっている隙に、男の横をすり抜け小部屋を飛び出した。
目についたキャンバスを蹴り倒し、その上に机の上の画用紙とアルコールランプを投げつけた。
ランプが割れ、画用紙やキャンバスに引火した火がぼわっと一気に勢いを増す。
「あ、ああっ! なんてことを!!」
そのあとの男の行動は、半ば予想通りだったが、心情としては理解しがたい。火掻き棒を放り投げ、絵についた火を消そうと必死だ。壁に立てかけられていたキャンバスから引っぺがした布で、ばしばしと炎を叩き消そうとするが、アルコールがしみた絨毯にまで燃え広がり、あっという間に蛇が這うように炎は部屋を這い回る。
ところせましと置かれたキャンバスが余計にまずかったんだろうな。もちろん狙って火をつけたんだが。
男が火を消そうと必死になっている隙にと廊下に飛び出した。
「旦那様……! 今の音はいったい……あっ、おまえは!?」
「ちっ」
使用人らしい初老の男が寝間着姿で駆け寄ってくる。流石に使用人は老婆ひとりじゃなかったらしい。使用人がやってくるのとは別方向に逃げる。行き止まりだが、窓があれば十分だ。窓を破って外に飛び出す。屋敷のすぐ横にうわっていた木に飛び移り、幹を伝って地面まで下りた。
風が吹き込んだことで余計に炎が煽られたのか、もくもくと煙があふれ出している。
いくら何でも火が回るのがはやくはないか。あの部屋はよほど可燃性のモノであふれていたのか。
ちら、と建物の反対がわに視線をやるが、当然木々や建物に遮られてあの温室は見えない。ここから温室まではだいぶ距離があるけど、あいつだって流石に火の手が上がれば気付いて逃げるだろう。あんな鎖、いつでも外せると言っていたのは、嘘には聞こえなかった。火が出れば流石に、いるかどうかも解らない人質のことなんか放って逃げるはずだ。
「……フン」
火事に気付いた近所の住人が起き出したのか、ぽつ、ぽつ、と夜闇に灯りがともる。山の麓での出火だ。遠くからサイレンの音も聞こえてくる。山に燃え広がることも懸念して、近所の連中がすぐに通報したんだろう。こうなってはさっさとずらかるに限る。
どこか後ろ髪を引かれるような思いを振り切って、俺は闇に紛れるように屋敷を抜け出した。
翌日。
半焼した屋敷から屋敷の住人と、おびただしい子どもの骨が発見され――温室からもこどもの刺殺体が発見されたと新聞が報じた。
燃え残りから屋敷の主人が猟奇的な性嗜好の持ち主であることも発覚し、センセーショナルな事件として騒がれたが、殺された身元不明の子どもについては謎に包まれたまま。
俺は組織に、屋敷に忍び込もうとしたら火事になっていたので引き返したと報告した。とがめはなかったし、男と組織が関わっていた証拠は男とともに燃えたようで、組織はすぐにそいつのことを忘れたけれど……。
身元不明の子ども。
刺殺体ってことは、あの老婆が殺したのだろうか。
火事になってしまって、消防車や警察が集まるだろうから。誘拐したことがバレてしまうからと。
そうだとしたら、あいつが死んだのは――……。
いいや、知ったことかと、そう。
死んだ奴のことなどとっとと忘れようとして。その甲斐あって、数年も経つ頃には顔も声もすっかり霞の向こうに消えてしまったというのに。
あの日ちくりと心臓に刺さった棘が痛い。
じくじくと痛んで、いつまでも抜けてくれなかった。
3
零が誘拐された晩遅く、郊外のある体育施設から一報が入った。
隣接する屋敷の庭に温室があり、その中に子どもが監禁されているようだ、というのだ。
発見された子どもの容姿が零と一致していた為、俺はすぐさまその屋敷へと向かった。道中、部下に調べさせた情報を車内で受け取ったが、容疑者は美術品のコレクターとして有名で、裏でもだいぶ顔の利く男であったらしい。
俺達公安が追っている組織とも取引があるのではないか、と疑いを持って調べ始めていたところだったようで、情報はすぐ集まった。まさかここであの組織が絡んでくるとは思っていなかったが、そうなると慎重に動くべきか。
近隣の交番から人をやるのは止めて、警視庁公安部の部下だけ動かすことにして正解だった。本来誘拐なら捜査一課の仕事なのだが、一課のやつらにあの師範連中を止められるとも思えないからな。
……と思っていたら、無線で、その師範連中が容疑者の屋敷にバイクで爆走して接近中と報告があがって、俺は車内で頭を抱えた。
「どこのどいつだ、情報漏らしたのは!」
思わず叫んだが、だいたいわかっている。あの道場に通っている連中は警察関係者が多いのだ。門下生の誰かから聞き出したか、警察無線で話しているのを聞き耳立てて聞いていたか、はたまた警察無線を違法傍受していたんだろう。
門下生の間で零やヒロは孫か息子か弟かというような扱いで、猫かわいがりされているものだから、率先して情報を流すやつがいてもおかしくはなかった。
さらには屋敷から火の手が上がっているという報告まであり、俺の意識が一瞬遠のきかけたことも無理はないと言いたい。
とにかく俺が着くまで師範連中を屋敷に近づけるなと、先行している部下に指示を出したが、果たしてどこまで効果があるものやら。
そう危惧していたのだが、幸い、現場に到着したのは師範連中と俺とほぼ同時だった。
これは警察の仕事だから、と言ったところで聞いてくれるわけもない。
とにかくも、零を確保しさえすれば、このモンペどもも引きさがってくれるはずだ。
「庭の温室に監禁されていると情報が……」
「温室だな!」
ひとつ情報を渡せば、燃えている母屋など目もくれず、正門を突破し庭に突入していく。流石に民間人を暴走させたままにするわけには行かないので、俺もその後を追いかけた。
報告に聞いていた温室は、庭の一角、生け垣とレンガ塀で区切られた場所にあった。他の庭とまったくつなげていないあたり、半閉鎖空間とも言うべき場所だ。そんな生け垣だが、半分以上人間を辞めている師範連中はひとっとびで飛び越えていったが、俺はまともな人間なのでそうはいかない。レンガ塀をよじ登り、生け垣をかいくぐり、どうにか侵入……したときには、新城師範が温室の強化ガラスでできた壁を正拳突きで打ち砕いていた。
ガラスの割れる轟音が響き、再び意識が遠のきかけるが、必死につなぎ止める。
破壊された壁際に、高校生くらいの民間人の姿もあったので、なおさらこれ以上の連中の暴走を放置はできない。
「あんたたちなぁ! 少しは穏便に……」
「零――! 無事かーっ!」
「零くん、どこだい!?」
「零ちゃーんっ!」
「聞け!」
こっちの言葉など気にもとめず、破ったガラスを蹴散らしながら、温室の中に突進していく三人を、俺も追いかける。高校生が呆然としたままついてきたが、それを咎めている余裕はなかった。
温室は俺が想像していたよりも広く、やたらと薔薇で埋め尽くされていた。そうして、その中央にどかりと鎮座しているのは、大きな鳥籠だ。
天井部分から降り注ぐ月光が、思いの外明るい。
――おかげで、胸くそ悪い光景もはっきりと目に映った。
白いクッションが敷き詰められた鳥籠の中に、零がいる。
こちらを見て少し驚いた顔をしている子どもの首には、鎖のついた首輪がしっかりとはめられていた。着せられている服だって、見たことのない、その辺で売っているとは思えないような代物だ。
「あれ、師匠たち……と、黒田さんも」
「ふ、ざけやがって変態がぁ――!!」
吠えたのは新城師範だ。
気持ちは実によく解るし、腹立たしいのは俺も同じだが、だからといって仮にも証拠品である鳥籠の柵をねじ曲げて穴をあけるのはやめていただきたい。ふんぬ、じゃねぇ。どう報告すりゃいいんだ、これ。零、お前もすげえって顔で見るな。将来できるようになるかな、とか思ってんじゃねぇだろうな。あ、思ってるなこいつ。
「零ちゃぁーんっ!! 無事ね!? 怪我はないね!? 酷いことされてないネ!?」
「変態はどこだぁー!?」
「師匠、落ち着いて。変態は変態でもずっと絵を描いてるだけの変態でしたから」
新城があけた穴から、さっそく鳥籠の中に飛び込んで、ぎゅうぎゅう零を抱きしめて怒濤の質問攻撃をカマした李を、宥める零の方がよっぽど冷静だった。いつも思うが、こいつは変態に付け狙われすぎて危機感が麻痺しているんじゃないか。犯罪被害に遭ったガキの態度じゃねぇぞ。しかも……。
じっとよく零を観察すると、口元によだれのあと。
「てめぇ、寝てたな?」
「……夜は寝るものですよ、黒田さん」
もっともだ。もっともな言葉だが、こっちが胃をすり減らす思いで必死に探し回っていた間、この馬鹿は暢気にすやすやと眠りこけていたのだと思うと腹立たしい。恐ろしい思いだの、不安な思いだの、そんなものは全く感じていなかっただろうことが態度から察せるだけによけいに。
「いっだ!!」
無言でげんこつを食らわせたのは当然の行動だ。
「ひどい、なんで被害者の僕が殴られるんだ」
「やかましい、人にさんざん心配かけて、暢気に惰眠むさぼってる奴が悪い」
「そんなむちゃくちゃ……あ」
「なんなんだい、あんたたち!?」
しわがれた老婆の叫び声に、全員がそちらを向いた。犯人の一味が、騒ぎを聞きつけて様子を見に来たのだろう。
「警察だ。拉致監禁の現行犯で署まで同行願おうか」
「そ、そんな……アタシは……! だ、旦那様が、」
自分は命令されただけだ、と慌てふためく老婆を見る零の目に恐怖はない。誘拐犯に怒り心頭だった師範連中が動かなかったのもそのせいだろう。もっともいくら怒り狂っていたとしても、無力な老婆に手を上げるような連中ではないので、何かしたとしてもとっ捕まえて俺達警察に突き出すくらいだろうが。
体格のいい男たちがずらりと揃っている中、逃げ切れないと察したのか、老婆は消沈してへたりこんだ。消防車も到着したようで、炎上している母屋への消火活動も始まりそうだ。
駆けつけた部下達に老婆を拘束するよう指示を出していたところ、くん、と零に袖を引かれた。
「黒田さん、あの子は?」
「ああ……。無事だよ、やっこさんが拉致したのはお前だけだ」
「そうですか、よかった」
良くねぇ。いや、たしかに幼児が誘拐されないのは良いことだが、そうじゃねぇだろ、こいつはほんとに。
「あ。そうだ。僕と同じ年頃の子どもが、黒田さん達が来る少し前に忍び込んできたんですよ。たぶん泥棒かなんかだと思うんですけど、火事がおきてるんですよね? ちゃんと逃げてるかな」
「あぁ!? そういうことは先に言え! おい、母屋を捜索しろ、ガキが忍び込んでるかもしれねぇ!」
「屋敷の主人の寝室、火元の方向なんでそっちも捜索したほうがいいですよ」
「なんで寝室の場所知っている!?」
「え、だってあのひとそこから双眼鏡でずっとこっち見てたんで」
「気付いてたんなら逃げるか隠れるかしろ!」
「くさりに繋がれてた子どもに無茶いわないでくださーい」
「てめぇあんなの自力で鍵開けできただろうが!!」
思わずもう一度げんこつかました俺は何も悪くない。乱暴はやめるね、と李師範やら柳本師範やらに怒られたが知ったことじゃない。逃げられるのに逃げなかったこの馬鹿が悪いのだ。
ここまで、呆然と成り行きを見ているしかなかった高校生が、零を発見して通報した高校の生徒だとようやく知ったのは、事情聴取の最中でのことだった。
***
調査の結果、半焼した屋敷から大量の子どもの遺体や身体の一部が発見された。瓶詰めにされた目玉や石膏像にされた子どもや若い女などを見て、あまりの異常犯罪にぞっとしたのは関わったもの全員だろう。
俺達が追っている組織と窃盗品の取引をしていた証拠も出てきて、ことはどんどん大きくなる。単なる子どもの誘拐として片付けられるものではなく、俺達はすぐに情報統制をすることに決めた。こと組織が関わっているとなると、生き残っている人間がいると知られればやっかいだ。
すぐに部下に指示をだし、報道陣には火事により生存者無しと発表させた。零が誘拐されたことを知っているものたち――児童養護施設や宮野家には、表向き別の説明をすることにする。この美術品蒐集家とはまったく関係ない、別の変態に捕まっていて、すぐに自力で逃げ出したが見知らぬ土地で道に迷い、さまよっていたところを交番の警官が保護した。そんな筋書きをつくり、零にも、誰に何を聞かれてもそう答えるよう言いつけた。
こんなとき、普通の子どもならうっかり真相を漏らしてしまいそうで、一定期間は監視をつけたりしたくなるものだが、相手は零だ。説明せずとも、虚偽申告の理由を察して頷いた。これであいつが余計なことを口走ることはないだろう。変な話だが、そのへんの同僚である警察官よりもこのあたりの口の堅さは信頼できる。
零から聴取した情報により、忍び込んできていた子どもというのが、組織の関係者である可能性が浮上したので、念のため「温室にいた子どもも刺殺体で発見された」と発表させた。母屋と温室では離れており、そこまで火や煙が届かなかったことは、現場を見れば一目瞭然だったからだ。
当然と言えば当然だが、その「銀髪の子ども」は見つからなかった。半焼した屋敷を検分した結果、どうも争ったあとがあったので、その子どもと揉めた際に火が出たのだろう。
肝心の変態は、キャンバスの残骸を抱えた状態で、焼死体で発見された。使用人の老人がひとり一酸化炭素中毒で重体となり、搬送先でなんとか息を吹き返したが、彼も余生は別人として、公安の監視下で過ごすことになるだろう。老いたふたりの使用人は、あの屋敷の主人と、組織との取引関係を知っている貴重な生き証人なのだ。生存が知られれば、奴らはとどめを刺しにくるだろう。そう囁けば、二人は悄然と処罰を受け入れた。
本来は拉致監禁の共犯として実刑を受けるべきところだが、組織絡みの人間が刑務所に紛れ込んでいるとも限らない。あの二人には、保護施設が刑務所代わりだと思って大人しくしていてもらおう。
残る問題は、零を発見した高校生だった。
合宿所から屋敷を伺っていた生徒達には、中に居た子どもは死んでいたという発表を信じさせるのは難しくなかった。通報のあとは、教師達が双眼鏡を取り上げていたため、温室内の様子は誰も継続して見ていなかったおかげだ。
だが現場まで来てしまっていた高校生――毛利小五郎に関してはそうはいかない。
事情聴取が終わる頃を見計らい、担当官と交代したとき、毛利はすっかり疲れ切った様子だった。無理もない。もう何時間も話を聞かれていて、もうすぐ夜も明けようかという頃なのだ。
「こんな時間まで、すまないな」
「あ、いえ……」
「本来なら、未成年である君から話を聞くのは、日を改めてからにするべきなんだが、今回は事情があってね」
真向かいのパイプ椅子にどかりと腰を下ろし、正面からまだ少年と青年の中間にいる毛利と向き合う。毛利は柔道部というだけあって、年の割にしっかりした体格をしており、俺に対して萎縮しつつも、目を逸らすことはなかった。
「端的に言う。今夜見聞きしたことは生涯他言しないと誓ってほしい」
「それは……」
「まだ君は知らないだろうが、零……鳥籠に居た子どもだ。あの子も含め、今回の事件に関わったものは加害者も被害者も皆死亡したと発表している」
「えっ」
毛利の顔には、はっきりと何故、と疑問が浮かんでいた。
「実は、あの屋敷の主人はとんだ異常性癖の殺人犯だったんだ。君も外にでれば嫌でも耳にするだろうが、気に入った子どもや女性をこっそり拉致しては、絵を描いたり彫像を作ったりして、飽きたら気に入った身体の部位だけ切り取ってホルマリン漬けにしたり……」
「うぇっ」
「胸部から上だけ切り取って、石膏で覆って石膏像にして飾ったりしていた」
「ひぃっ」
「……そんなとんだ変態野郎にとっ捕まっていたんだ。零は絵を描かれていただけで、服も老婆が用意したものに自分で着替えただけだと言っているが、あの容姿だ。ゲスな勘ぐりをするやつはいくらでも出てくるだろう」
「それは……確かに」
「しかもあの男は美術品の蒐集家として有名人でね、こんな醜聞、マスコミの格好の餌食だ。未成年の場合加害者でも被害者でも実名報道は控えられるが、こんな大事件だ、絶対とは言えん。あんな幼い子どもが、性犯罪の被害者として世間に晒されるなど……」
「だ、ダメでしょう、それは!」
「そうだろう、君もそう思うだろう?」
「そんなの報道されたら、一生ついてまわっちまいますよ! 解りました、そういうことでしたら俺、絶対誰に聞かれても口外しません!」
「そうか、ありがとう。それじゃあこの書類にサインしてくれないか」
「はい、守秘義務ってやつですね! 喜んで!」
きりりっと顔を引き締めて叫ぶ毛利少年は、ちょっと、いや、だいぶ、心配になるくらいちょろかった。
いくら被害者の人権を慮ってのことであったとしても、警察が死亡情報という重大事を虚偽報告するなど普通あり得ないのだが、正義感に燃える毛利にはこれっぽっちも疑う気配がない。
俺としては扱いやすくてありがたいが、大丈夫か、こいつ。
――余談だが、毛利が神妙な顔で「報道を懸念してるだけなら、あのばあさんまで死んだことにする必要なかったっすよね」とこっそり聞きに来たのは、数年後――彼が警察学校に入校したあとのことである。




















