目が覚める。
カーテンから差し込む朝の日差しがわたしを照らす。
心地よい暖かさに身を委ねたくなるが、それをしてしまってはなにも始まらない。少しの名残惜しさを胸に、ベッドから降り立った。
ぷるる、と隣から鳴き声。その声は「おはよう」と言っているよう。
軽く支度をしながら、りんごを目の前まで持っていく。稀に勝手に食べていたりするから困りものだが。
朝食を摂る。キッチンでの戦利品はわたしの前で香ばしい匂いを立てる。卵焼きにお味噌汁、炊き立てのご飯。シンプルだけど、これが好き。
一口ずつ運ぶ。口に広がる幸福感に今日も1日が始まったなと実感する。
朝食を終えたわたしは髪を纏める。降ろされた長い髪を一つずつ、丁寧にツインテールに……。
…と、思ったけど……今日は変えよう。たまにはイメージチェンジも悪くない。それに、今日は……。
こうして身支度をしたわたしは、1日を始める。
「イカルン、いきますよ」
太陽の光が地を照らしている。
「おはようございます、クレメンタイン」
「ヒアンシーさん、おはようございます!」
昏光の庭で出迎えたのは同僚であるクレメンタイン。彼女の手には段ボールが抱えられており、朝から忙しそうだ。
「それは?」
「家具ですね。最近、患者さんの憩いの場を作ろうと画策しているんです」
彼女はニコニコと頬を緩ませながら言った。
「ふふっ、確かにいいですね!わたしもなにか手伝いましょうか?」
「いいんですか?ではあちらにあるテーブルを……」
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クレメンタインのお手伝いをした後、本来の業務に取り掛かった。注射、健康診断。手慣れた手つきで行う。
所々イカルンがご飯をねだってくるハプニングはあったけど……特に目立ったこともなかった。
「ふぅ……とりあえずひと段落ですね」
「お疲れ様です。あ、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
頂いたお茶をゆっくりと口に運ぶ。温かさが身体中に染み渡る。
そのまま休憩室にあるお菓子に手をつけ、優雅なひと時を堪能する。この時間もかけがけのないもの。
「ヒアンシーさん、このあとは……ああ」
「なんですか、その反応。別におかしいことはないはずですよ」
「そんなそんな…ただ、ふふっ」
揶揄われている気配を察知しつつも、悪い気はしないので放っておく。
時計の針は午後をお知らせしていた。
「じゃあ、わたしはこれで。あとはお願いしますね」
「任せてください!ヒアンシーさんも楽しんでくださいね!」
「……もう」
お茶会も終わり、次の予定へと移行する。手を振るクレメンタインに別れを告げ、わたしは雲石市場へと足を踏み出した。
「前髪よし、忘れ物もなし、イカルンは……」
昏光の庭に預けてきたと思い出した。ぷるる〜、と付いていきたそうにしているのを横目に、ヒソヒソと抜け出してきたのである。
「時間はまだありますね…。なにしようかな…」
予定まであと半システム時間。どうやって暇を潰そうかと考えていたところ……後ろから声がかかった。
「随分と早いんだな」
「ひゃっ!?」
後ろからムニっと、わたしの頬を指がつまむ。突然の衝撃に変な声が出てしまった。
こんなことをしてくる人は1人しかいない。そして、わたしの待ち合わせ相手。
「グレーたん……!」
「あ、怒った」
星穹列車の乗員こと開拓者の穹、通称グレーたん。彼は面白そうに笑ってごめんという風に頬を掻いている。
そんな彼は頬を膨らますわたしの頭をぽんぽんしながらこう問いをした。
「なんでこんな早く来たんだ?まだ結構時間あるけど……あ、もしかして」
意地悪に笑みを浮かべる。
「俺に早く会いたかったとかな、違うか?」
はは、と冗談混じりのように言う。だが、あながち間違えではない。
「そうだっていったら、どうします?」
「……なんか今日は…口が上手いな」
少し顔を赤く染めたグレーたんは、恥ずかしそうに視線を外す。
「でも、俺もヒアンシーに早く会いたかったから早く来たって言ったらどうする?」
「ふふっ、どうもしませんよ。嬉しいなぁって、思うだけです」
「う〜ん…ちょっと勝てないな…」
別に勝負はしてないけど、と付け足す。雑談はここまでにして、そろそろいこう。
「ああ、そうだな。行き先は…」
「アクセサリーショップから、その後は……」
わたしの平穏な1日はまだまだ続く。こんな日がずっと続きますように。
「いきましょう、穹くん。時間は待ってくれませんよ」
わたし達は手を繋いで歩き出した。




















