今日は少し遅めに起きる。それもこれも予算会議の提出書類に追われていたからだ。おやすみは月曜日にずれ込む形で一生懸命書類をさばいて、時々会計委員会のヘルプに行ってみんなが高速で弾くのを横目に、申し訳なくぱちぱちとそろばんを弾かせてもらい、予算会議前になったらぽいと放り出されてしまった。
何でも予算会議と書いて合戦と読む!!!と言い、部外者の私は自室に返されてしまった。
なんだよーーー!!!部屋帰ってもここ数日予算会議で誰とも喋れなくて寂しかったんだからな!!!ちょっとくらい関わらせてくれよ!!!くのたまの子たちが顔見に来てくれたけど私があまりにも酷い顔してたせいでお喋りできなかったんだよ!!!気をつかわせてごめんね!!!天女が学園の予算会議に入るってのも変だけど予算会議の書類はあほみたいにやらせたくせにーーー!!!やらせ逃げだぞーーー!!!
まあでも予算会議はアニメで見たことないけどなんかすごいらしいし一般人が居ても……なのかもしれない。
朝一は予算委員会の怪我人がでるということで昼以降に保健室を訪ねてほしいとのことだったが……暇である。暇なのに頭が架空の計算をずっと処理しているから脳が付かれてなにもできないという惨事である。これも予算会議のせいだ……もう一回寝れるなら寝ちゃおうかな……寝れるかな……寝れる気が、する……
うん!!!よく寝た!!!もう昼前だって!!!???嘘つけ!!!とりあえずおばちゃんのご飯を食べに行くことにする
「あら夢乃ちゃん朝ご飯食べに来ないから心配してたのよ。体調大丈夫?」
「すみません、最近激務が続いて寝こけちゃったんです。体調は問題ありません!今日はAランチでお願いします!」
「Aランチね。新野先生が心配してたから顔出してあげてね」
「はい!」
やっべ~~~!!!新野先生に激務が伝わってしまった。もはやブランチの時間に飯を食うのもいかがなものだろうか。まずいのではないか???いや、でも新野先生も予算委員会で出た怪我人で大変かもしれない。ご飯食べてちょっと土佐日記読んだら行こう。
最近はずっと仕事で土佐日記読んでる暇なかったからな。これを機に日陰ぼっこでもしながら見よっかな。
朝ご飯兼昼ご飯を食べながらどうやったら新野先生に怒られないかを思案する。どう考えても怒られる気がするな。アウト。他のこと考えよう。日陰ぼっこしながら本を読んでそのまま寝て……寝過ごして新野先生に怒られる。アウト。もうだめだ。やめよう。
昼餉を食べて、部屋に戻り土佐日記を読んで時間をつぶし、保健室に向かう。
保健室の戸を叩き、入室する。
「こんにちは、新野先生。定期健診に来ました」
「夢乃さんですね。座ってください」
座り、腕を出して傷を見てもらう。足と喉も見てもらった。
「傷の経過はいい感じですね。毎日薬を塗っているようでなによりです」
「いえ、当然です」
「貴女は大丈夫だと途中で塗るのをやめそうでしたがそんなことはなかったですね。もしかして医者にかかるまでが躊躇してしまうのですか?」
「そうなんです。空気感がどうも苦手で……」
よーくわかってらっしゃる!!!尋問でも始まるかとびくびくしてたがそんなことはなさそうだ。
「夢乃さん、少しだけお話してくださいますか?孫平くんたちのことです」
「かしこまりました。大丈夫です」
孫平くんたちのこと?なんだろう。カウンセリングでも始まるのだろうか。
「まずここにきて4か月ほどですが学園生活はどうですか?」
「楽しく過ごさせてもらっています。ちょっと最近は激務が続きましたが、それでも学業終わりに部屋に来てお喋りしてくれる忍たまやくのたまの子がいるので気分転換になっています」
「そうですか。いい傾向ですね。その中で頼れる人は見つかりましたか?」
「シナ先生、新野先生、吉野様、あとは立花様、尾浜様でしょうか」
「忍たまたちがいますね。なにかありましたか?」
「立花様は色仕掛けの件を謝りに来て、『作法委員会には既に、“天女に危害を加えない”ことを通達した』と。そこまでしてくださって。それに一度潮江様の徹夜が酷いからと、私のそろばんの丸付けをしてくださる代わりに潮江様の手伝いに入ったことがありまして。頼られたから頼ってもいいかなと」
「そうだったんですね。尾浜君はどうですか?」
「尾浜様はある日突然『今日の監視が僕なんですけど、よかったら近くで天女様とお話したいなって』と、言われまして。正直すごい驚いたんですけどでも、お話しているうちに悪い方じゃないなと。色々質問されたんですけど話し方とか聞き方が新野先生みたいで勝手に頼りたいなって思ってるだけなんですけど……」
「なるほど、どんなことを聞かれましたか?」
まーじでカウンセリングだな。長くなりそうだ。ちなみに小松田さんを除外したのは頼ると変な心配をかけそうだからだ。
「監視がいると知って怖くなかったか、とか。どうして全てのことを当然と受け入れるんですか?とかは衝撃でしたね。そんな自覚はなかったのですけど」
「気になりますね。何と返したんですか?」
「それもまた御神様の思し召しである、と。天は全てを見ていますから。止めないということはそれなりの理由があるからでしょう」
「そういえば貴女は天からいらしたと聞きました。天ではどういったことをしていましたか?」
に、新野先生相手にガチ天女ムーブやるんか!!!???いや、やるしかないだろう!!!やるぞ!!!
「御神様の話し相手や来賓の方々が泊まる場所の掃除、食事などのお世話を主に担当させていただきました。あとは信仰を持っている方々が不遇に会っていないかの確認なども行っておりました」
「そうだったのですね。夢乃さんは帰りたいですか」
「そうですね。あちらに残してきたものがあまりに多すぎるので」
「そうですか。では、今一番したいことはなんですか」
「今一番したいこと、ですか」
うーん思いつかない。三色団子?はちゃうか。誰かとおしゃべりしたい欲はもう今満たされてるし、外に出たい?かな。
「強いて言うなら外に出たいですかね。お給料も貰いましたし服や組紐など必需品を揃えたいですね。あときり丸くんに学園長先生の許可が出たらアルバイト手伝うよって言ったので外に出れるならそれもしたいですかね」
「なるほど。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。お話はもうよろしいのですか」
「はい。聞かせてくれてありがとうございました」
「こちらこそ。では失礼します」
丁寧に礼をし、保健室を出る。ここでも動悸出なかったな。場所がいけないのかな。でも守一郎くんはセーフだったし。まいっか。ここからどうしようかな~~~土佐日記もう少しで終わるから図書室行って、文字の練習最近できてなかったからして、そっからどうしようかな。二度寝しちゃったから早めに寝るのもなぁ。
とりあえず自室に帰り本を手に取る。あと十数ページになってしまったな。
夢子が本を読んでいると部屋の前に影が落ちる。
「天女様、いらっしゃいますか?久々知兵助です」
兵助くん?どうしたんだろう。もしかして……タカ丸さんの豆乳団子を試作してるとか!!!???き、決まったわけじゃない!!!でももしかしたら……!!!
「居ります。どうされました」
「よかった!実はタカ丸さんが天女様と話した時に豆乳団子を作りたいって言っていたのをタカ丸さんに教えていただいて作ってみたんです!夜に豆腐パーティーをするのでぜひ来ていただけませんか?」
と、豆腐地獄やないか~~~い!!!豆腐地獄!!!???今!!!???まあ昼ご飯が早かったからまあまあお腹空いてるけども!!!でも豆乳団子が……!!!豆乳団子をせっかく作ってくれたのなら行かねば……!!!頑張れ!!!私の胃!!!
「とても嬉しいのですが私が参加してしまってよろしいのですか?私胃が小さくてあまり食べられるか不安なのですが」
「ええ!もちろんです!」
「では謹んでお受けいたします」
「ありがとうございます。では19時過ぎにいらしてください」
「かしこまりました。楽しみにしております」
「では!失礼します!」
豆腐地獄に参加してしまった……兵助くん豆腐パーティーができて嬉しそうだったな。ここに来てから豆腐地獄の噂は聞いたけど実際にやってるとかは聞いたことないよな。もしかしたら久々の開催なのかも。
とりあえず時間をつぶすか。夢子は土佐日記をまた手にした。
土佐日記を読み切り、図書室でげんなりした顔の雷蔵くんが本の返却をしてくれた。実は私も豆腐地獄に参加するんだ……!!!一緒に乗り越えような……!!!
次の本は義経記を借りた。歴史上の人物では王道だが義経と弁慶が好きだからあってよかった。
そして部屋に帰り、また本を読み、時間になり次第食堂に向かう。
もう豆腐のいい香りがするな!!!楽しみだ!!!
「失礼します。豆腐パーティーに呼ばれたのですが……」
「天女様!来てくださったんですね」
「えっ天女様!?」
「おほー天女様だ!」
「なんだって!?私は聞いてないぞ!」
「まあまあいいじゃん三郎」
おあーーー三者三様。でも私はここである言葉を言わなきゃいけない義務がある!!!
「不破様がお二人……?」
「こっちが不破雷蔵に変装している鉢屋三郎です」
「おい勘右衛門!」
「いいじゃんか。面白い人だぞ?」
「鉢屋様ですね。初めまして、私夢乃と申します」
「天女様、初めましてじゃないですよ」
「ちょっと、雷蔵」
「こいつ雷蔵とか勘右衛門とかに変装してちゃっかりあってるんですよ」
「もうお前ら!」
「そうでしたか。皆さまが食事を運んできてくださったときですかね?ありがとうございました」
「いえ……」
「天女様も座ってください!今日は麻婆豆腐に豆腐ステーキ、豆腐の照り焼き、豆腐田楽、豆腐ハンバーグ、豆腐の味噌汁、豆腐の白和え、豆腐のサラダ、冷奴、湯豆腐、豆乳鍋、豆乳団子だ!みんな、いっぱい食べてくれ!」
「「「「「いただきます!」」」」」
麻婆豆腐を取り皿に掬い、一口いただく。
「……!美味しいです!久々知様!」
「だろう!今日の豆腐は改良に改良を重ねたんだ!どんどん食べてくれ!」
これならいくらでもいける!!!どんな豆腐もかかってこい!!!
そう思っていた時期が私にもありました。
「む、無理だ」
「もう入らん」
「きついね……」
「もう入らないわ」
安心してくれ、私も入らん。でもみんな入らないと言いながら食べてる。もちろん私もだ。
「天女様……大丈夫ですか……」
「大丈夫ではないです……一言物申したいことができました……」
「えっ怒った!?」
「怒ってはいませんよ」
「そうだぞ八左ヱ門。天女様はもっと水が沸騰するみたいに怒る」
「そんな怒り方してましたか?」
「してましたよ」
「お前いつの間に仲良くなったんだ?」
「ちょっとね」
「ええ。少し」
監視役の勘右衛門くんが監視役として堂々と監視してたことは言わない方がいいかなと思った。なんか怒られちゃいそう。
「ねえ、天女様。俺の団子あげますんで豆腐田楽食べません?」
嘘だろ!!!???勘右衛門くんが甘味を誰かにあげる!!!???そんなに辛いのか……豆腐地獄が……
「本当によろしいのですか。いただいてしまって」
「もちろんです。ちゃんとあげますね」
「では、いただきます」
そこまで言われちゃしゃーないな!!!食べてやろうじゃないか!!!豆腐田楽を食べてやろう!!!もちろんお団子もな!!!
夢子は意を決すると豆腐田楽を手に取り、食べていく。
ぐっ、辛い!なんだかんだ味噌汁でお腹タプタプできつい!!!でも食べるんだ!!!
意地で食べ切る。一つ息をつき、茶で口直しをする。
「尾浜様、お団子いただいてもいいですか?」
「もちろん!」
すると、勘右衛門は団子の入っている椀を上にあげた。
「はい、あげました」
こ、こいつ~~~!!!とんちをきかせやがって!!!この野郎!!!渡すのあげるじゃなくて持ち上げるのあげるだったのか!!!最悪!!!食べ物のことで騙す人大っ嫌い!!!嫌いになれないけど!!!
「勘右衛門やめなよ。天女様凄い悲壮な顔してるよ」
「いいんです不破様……高い授業料だと思うことにします……」
「じゃあ天女様!俺のあげますから!」
「いえ!竹谷様はご自分でお食べください!ただでさえ美味しいお団子が豆乳が入ることによりほのかな豆乳の苦みとまろやかさ、コクが感じられて大変美味しいことでしょう!ぜひ!ご自分で召し上がってください!」
「お、おほー」
「す、凄い、熱量が兵助並みだ……」
「なにがそんなに天女を動かすんだ……」
「全ては美味しいお団子のため、布教活動もその一種でしょう」
「だれ第二の兵助連れてきたの」
「あっ!兵助が後方理解者面してる!」
あっめっちゃ某実写化アニメの腕組み顔してる……そんな嬉しかったか……でも全て食べ終わったらお前に物申したいことがあるんだ。
「まあ言ったのは俺だしね、1個だけならあげますよ」
「いいんですか!……いえ、嘘かもしれません。やっぱりご自分でどうぞ」
釣られてしまった……!!!これだからお前は騙されるんだぞ!!!うっ!!!自分の団子は自分で食べましょう。うん。そうしよう。
「いや、その。あー、あげます」
「おい勘右衛門~」
「ちょっとなんだよ勘右衛門~」
「やめてあげなよ二人とも」
顔を上げると顔を真っ赤にした勘右衛門くんがいた。
はぁっ!!!???さっきので照れたんですか!!!???私のお団子への笑顔で!!!???私ラブコメしにきたんじゃねえんだけど!!!ああもう!!!こっちまで赤くなるからやめろよ尾浜勘右衛門!!!
「なんで天女様が赤くなっているんですか」
「移ったんですよ。まずはご自身の顔からどうにかされては」
なんとも言えない空気になってしまった。とりあえずお団子は一個貰おう。さあこの空気!!!どうしてくれよう!!!三郎くん!君が頼りだ!!!どうにかしてくれ!!!八左ヱ門くんでもいい!!!誰か!!!ラブコメみたいな空気の換気を!!!
そう思っていたら後ろからぬっと影が落ちた。
「お前たち変な顔してどうしたんだ?もしかして豆腐足りなかったか」
「「「「「いや、大丈夫です」」」」」
「そうか!足りなくなったら言ってくれ!」
その声をきっかけにみんなで豆腐を食べ始める。なんとか全部食べたところで、茶を啜り、豆乳団子に手を出す。一口齧り、味を確かめる。
美味しい~~~!!!やっぱり豆乳のクセは残ってるけどお砂糖で大分緩和されてる!!!思った以上に苦みがない!!!美味しい!!!
「久々知様、豆乳団子すっごく美味しいですね。もしかして砂糖の比率とか研究されました……?」
「もちろん!作るからには美味しいものを作りたいですからね。もうみんなも食べ終わったころかな?」
「「「「うーい」」」」
みんなお腹がパンパンに膨らんでいる。もちろん私もだ。みんなでぐでっとしていてもう満身創痍だ。一応全部食べ切った……食べきれるとは思わなかった。みんな……やったね……
「じゃあみんな!満腹になったな!じゃあこの豆腐を食べてくれ!」
「「「「ひっ」」」」
兵助くんには物申さなければならない。それは今だろう。夢子は立ち上がった。
「久々知様、お豆腐ありがとうございました。とても心がこもった豆腐ばかりで美味しかったです。ですが、一つだけ言わせてください」
「天女様……?」
「満腹になるまで食べてほしいという気持ちはわかりますが、人には限度があります。満腹になり、お腹を痛めてしまえば豆腐に嫌な気持ちが残ってしまいます。それは嫌ですよね?」
「……!豆腐に嫌な気持ちが残ってしまうのは嫌です!」
「なので今度から腹九分目を目指してはどうでしょうか。誰もが美味しく喜んで食べる豆腐を目指されているのですよね。久々知様ならきっとできるはずです」
「うそだろ」
「おほー!」
「天女様……!」
「でも残ってしまった豆腐はどうしましょう。満腹の時に食べると美味しい出来上がりになっているのですが……」
知らん!!!自分で食え!!!と言いたい気持ちをぐっと抑える。
「そしたらこのお豆腐を空腹時に食べたらどれくらい美味しくなるのか研究されては?久々知様はお夕飯はきっとまだでしたよね。この豆腐なんてどうでしょうか」
「天女様……!!!」
しん、と場が静まり返る。
「……すごい」
呟いたのは勘右衛門だった。そこからみんな、三郎でさえも立ち上がりぱちぱち、と穏やかな拍手が広がる。
え?私歴史変えた???どうした???なにこの某世紀末紀覇権ロボットアニメの最終回みたいなおめでとうって言いそうな空気は???まさか誰も豆腐減らして欲しいって言えなかったのか!!!???
「天女様、これは快挙です」
「豆腐地獄に終止符打った」
「歴史が変わった瞬間見た!」
「そこまでですか?」
まあ同級生が善意ですることを止められない気持ちはわからないでもないが……まあそんなこともあるだろう。
豆腐地獄の片付けを手伝って、私はちょっとだけ早く上がらせてもらった。兵助くんに「また豆腐に関する思いつきがあれば教えてくださいね!」とキラキラした目で言われたが後ろからの圧が強くて笑い返すことしかできなかった。
とっとと風呂に入ってしまい、布団に横になる。まだお腹いっぱいだけど消化してくれるだろう!頑張って!私の胃!
今日はだじゃれも考えられそうにないな。おやすみ、世界。
「では、ここで対天女会議を行う。予算会議と孫平の件で遅くなってすまなかった。今のところ害は確認されていないが最近の天女はどうじゃ」
夜。学園長の囲炉裏。薄明りが灯る中で新野が手を上げた。
「では私から本日夢乃さんに簡単なカウンセリングを行いましたが自己抑制、自己軽視は相変わらず見られます。ですが頼れる人を数人あげることができ、孫平くんの件諸々も本人はそれほどショックを受けていないようでした。それはそれで心配ですが。また学園生活も生徒と話ができて前より過ごしやすいと言っていました」
「次は私が。シナです。天女は学園の規律を乱すことなく生活しております。立ち入りが許可されていない場所への立ち入りもなし。また継続して勉強を行ったりと学園に歩み寄ろうとしている点が見られます。くのたまたちが接触した時も特に問題はなかったと聞いています。」
「では私ですね。吉野です。書類作業を最近は頼んでいるのですが機密性の高いと判断したものは自分で処理していいか聞いてくださいます。また会計委員会の手伝いにも積極的に行ってくださり、業務時間を超過しても仕事をする真面目さがあります。まあそこは心配ですが、少なくとも“悪意を持って忍術学園に接触している”ようには見えません」
「僕も夢乃さんの仕事ぶりは見ていました!とっても作業が丁寧で助かっています!」
「次は私ですな。山田です。今のところ天女に害があるとは思えませんな。仙蔵の件でも新野先生の言う通り自己軽視が確認できました。なにか嫌なことをされたらまず逃げるということが、学園に害がない証明になるのでは、と」
「野村です。私も天女の害をなす行動は確認していません。忍たまたちを見てると天女に対して好印象を持っているものが多いですね。天女本人に対しては欲が少なく助けを求める選択肢がないという印象でしたが新野先生の言葉を聞いて安心しました」
「安藤です。私のクラスの子は天女に対して警戒が強かったですが、今は緩和しています。立花くんに聞いたのですがなんでも伝七が勘違いで天女に対して手裏剣を投げたらしく……今は謝罪したとのことです。天女には会計委員会でとても助けられましたし、必要のない書類を見ることもなかったと潮江くんから聞いています。害がないと断定はできませんが少なくとも積極的に害することは確認できませんね」
「斜堂です。うちのクラスは天女に非常に懐いていますね。私個人の印象としては変わらず真面目で勤勉な人でしょうか一人業務も問題なくしっかりやってもらっていますし、他の先生方の言う通り害は今のところないですね」
天女に関わっていた先生の発言が一通り終わる。苦い顔をしていた男はまだ口を開きかねている。
「そうじゃな。土井先生はどうじゃ?」
「私は……」
迷っていたが、意を決したように居住まいを正した。
「私は、今までの天女を許せません。今回の天女も天女。……確かに、私は今回の天女を警戒していました。ですが一貫して今の彼女から悪意は感じません。は組の生徒たちも、“監視対象”ではなく“一人の人”として接し始めていますし、だからこそ“正しく見守る”べきだと思います。数ある天女の一人ではなく、一人の人間として」
囲炉裏がぱちり、と鳴る。
「どうやらみな、あの天女を“天女”としてではなく“夢乃くん”として見始めておるようじゃな」
誰も否定しない。
「もちろん警戒を解くわけではない。天女は天女じゃ。じゃが、必要以上に閉じ込める理由もまた、無くなってきたようじゃ」
その言葉に空気が少し変わる。
「よって今後、夢乃くんの行動制限を緩和する。手裏剣の練習場などの危険なところ以外の解禁。尊奈門の件があったから学園の地図の把握も必要じゃろう。監視も昼のみにしましょう。それが、わしらができる夢乃くんの今までの扱いへの謝罪じゃろう。新野先生、私が聞いておいて欲しいと言った問いはどうなった」
「はい。今一番したいこと、ですね。夢乃さんからは『日用品を揃えたいこと、またきり丸くんのアルバイトを手伝いたい』とのことでした」
「……本当に欲のない子じゃのう。それについては付き添いありでの外出を許可しようと思うのじゃが反対意見があるものはいるか」
沈黙が落ちる。
「よろしいようじゃな」
「学園長先生、日用品なら少し手当てを出した方がよろしいのでは?女性は揃えるものが多いですし」
「シナ先生。そうじゃな。わしのおこずかいから出すか……ただでさえ少ないと言うのに……それはいいんじゃ。夢乃くんに朝、謝罪をしようと思うのだが出れる先生は出てほしい。頼めるか」
「もちろんです。学園に罪があるというなら天女を嫌っていた私たちにもありましょう」
「みな、助かる。暴言を浴びせられる覚悟はしておくように。では、解散!」
今日は襖を叩かれる音で目が覚めた。何時だ今???まだ空暗くない???どしたん???
「天女様、起きてらっしゃいますか?」
「……!シナ先生!どうされましたか?」
「少し朝のお時間をいただきたいのですがよろしいですか?」
「かしこまりました。着替えてすぐ出ますね」
やったーーー!!!朝からシナ先生と会えた!!!これは今日一日いい日になるでしょう!!!っていうか何するんだろう。鐘の掃除とか???わざわざ女性がやることでもないか。
「お待たせしました」
「では、行きましょう」
どこ行くんだろうな。なんかめっちゃ曲がってるけど学園の秘密でも教わるのかな。脱出口とか。そんなん教えられんか。ってかこの道見たことある気がする。もっとぐねぐね曲がってたけどこれって……
見えてきたのは学園長の囲炉裏だった。
う、うわーーー!!!尋問!!!嘘だろ!!!???最近確かにしてなかったけどここにきて尋問!!!???何故!!!???孫平くんのことはお前が引き起こしたんだろう以下略とか止めてね!!!
おろおろと視線を動かしていたら、シナがぎゅっと夢子の手を掴む。
「夢乃さん」
「シナ先生、名前……いいんですか?」
「はい。むしろ呼ばせてください。今から行くところは怖いことは何もありませんよ。シナを信じてもらえますか」
「はい」
即答しちゃったよ!!!だってシナ先生お美しいんだもん!!!信じるしかないじゃん!!!ちくしょう!!!
学園長先生の囲炉裏は怖くない。学園長先生の囲炉裏は怖くない。学園長先生の囲炉裏は怖くない。
きっちり三回唱えてから、夢子は襖越しに声をかけた。
「学園長様、夢乃です」
「うむ、入りなさい」
「失礼致します」
襖を開けるとそこには教職員オールスターズが居た。
なんで!!!???シナ先生怖くないって言ったじゃん!!!これが怖くないって!!!???んなわけあるかい!!!
夢子が座布団の横に座ろうとするのを、「よければ座布団に座っていただけますかな」という学園長の声が静止した。
「本日は来ていただき感謝する」
「いえ、学園長様の命ですから」
「夢乃くんに、申し上げなければいけないことがあるのじゃ。聞いてくれるか」
そう言われ、頷くと、その場にいた全員が頭を下げた。
「今まで過酷な環境に身を置かせてしまいすまなかった。これは学園全体の謝罪じゃ。どうか、許して欲しい」
「そんな!?学園長様!山田様!シナ先生まで!どうかお顔をお上げください!」
「いや、これはせめてもの謝罪、受け取っていただけなくても構いません。ですが、私たち学園教職員一同、あなたに危害を加えないことの証明だと思っていただきたい」
「……」
……そんなこと言われたって、遅いよ。
先生方から直接危害を加えられたことは、土井先生の一件くらいしかないけどさあ。生徒って自分の意思を持ってるんだよ。
そんなに謝罪をするなら生徒に危害を加えるのを止めさせて欲しかった。生徒は、自分の意思で私を傷つけていたし。
辛かった。悲しかったんだよ。好きなキャラに傷つけられてそれを受け入れ続けるの。
アニメの中で笑っていた子たちが、私を“天女”として警戒して、仇みたいな目で見てくるのが悲しかった。でも、涙すら出なかった。それが当然だと思っていたから。
優しくしてくれる子がいるたび、「この子もいつか私を嫌うのかな」って思ってしまう。
新野先生やシナ先生でさえそうだ。信用しているからこそ、いつか自分の元からいなくなってしまいそうで怖い。
怖かった。でも、怖いと言えなかった。言うことすら反発と受け入れられそうで、死ぬかもしれなくて、怖かった。
嫌がったら生意気な天女だと言われそうな気がして。泣いたら情緒不安定な天女だと言われそうな気がした。みんなに馴染めない気がした。
気を抜くと、この学園で過ごすのが怖いと思ってしまう。友好的な生徒も、もちろんいる。でもいつ失望されるかわからなくて怖い。接してると嬉しいけど離れると怖い。
それに土井先生の件以降、男性と一対一で一緒になる時に体が強張るのと動悸を感じる。
でも、もうそれ以外にここで生きていくすべを私は知らないから。気にしてちゃ心が先に壊れるのを知っている私は、今日も恨みの連鎖を止めるべく天女としての行動をする。
「……顔を、あげてください」
夢子がそう言うと、教師陣は顔をあげる。
「私はなにも恨んでおりません。全ては御神様の思し召しだったのでしょう」
そう言って、優しく微笑んだ。
教職員誰もこの言葉が本心からのものだとは思わなかった。自己犠牲、自己軽視、自己抑制の言葉が頭に胸に、深く刺さった。
「そうですか。ありがとうございます。時に天女様、今一番されたいことを新野先生から聞いたのですが外に出て日用品を揃えたいとな」
夢子のそれまでの黒い感情が吹き飛んでいく。
え???どうして???日用品???確かに欲しいけど。
「これで今までの詫びになるとは思っておらん。少しだが包んでおいた。これで買い物するといい。ただし、付き添い付きでな」
か、金!!!金だ!!!服2着これで買えるかな???あとお団子!!!雑渡さんがいっつも持ってきてくれるお団子買いたい!!!
「よろしいのですか?」
「ああ。好きなように使ってくれ。もちろんアルバイトも支障が出ない範囲で許可しよう」
「ありがたく存じます。この場をお借りして申し上げるのですが、もしよろしければシナ先生、一緒に行ってくださいますか?」
「もちろん、私でよければ」
「……!ありがとうございます」
やった~~~!!!シナ先生とのデート!!!わーーーい!!!嬉しい!!!いつ行こうかな。おやすみ被る日あるかな???
「シナ先生は今日、おやすみじゃったな」
「そうですね」
まじか。じゃあ行くの当分先になりそうだな。
「よし!思いついたーーー!学園長権限で夢乃くんを一日わしのおつかいに任命する!!!一日麓の町を見てくるように!!!」
ええ~~~!!!そんなことしていいの!!!???まじでありがたいけども!!!いいんですか!!!
シナ先生の方を見るとにっこりと微笑んでくださった。
よし!!!シナ先生が微笑んだなら万事よし!!!買い物じゃーーー!!!
「ありがたく存じます」
「いえ。当然のことです。では解散!」
みんなが散り散りに解散する。私はお給料を持っていくから門の前で十分後集合になった。
草履は藁のくたくたのこれしかないからこれで行くとして、着物はどっちのほうが可愛いかな。うーん……やっぱりピンクか?シナ先生のもピンクのお着物持ってたしそれで行こう!
お給金は貰った時の小さい袋があるからそれもったら完璧!
集合場所に行くと、シナ先生はもういらっしゃってた。でも「今来たばかりですよ」と言ってくれた。いい女……
ここに来て初めて書く出門表。それだけ学園のみんなから信頼されたのかな。と、思ってしまう。思うことはあってもその信頼をまだ信じれない自分がいるが。
シナ先生と二人で麓の町へ行く時に少しおしゃべりをした。「お金の使い方や相場がわからないから教えてほしい」とか「最近会ってないけど、くのたまの子たちは元気ですか」とか「部屋に足りないものはありませんか?」とか。来客が増えたので座布団と外掃除が増えたので安いものでいいので足に合う草履が欲しいと言ったら、「あなたは欲が少ないですね。自分のものを増やしてもいいでしょうに……それらは学園で手配しましょう」と言ってくれた。優しい。頼るべきはシナ先生。
町に着くと活気にあふれている様子に驚いてしまう。
「ここはにぎやかですね」
「奥に進めばもっとにぎやかになりますよ。買いたい物は決まってますか?」
「はい!服2着に、メモ、組紐、きんちゃく……でしょうか。足りますかね?」
「学園のお給金はいい方なんですよ。余裕をもって買えます」
「でしたら……欲を言って申し訳ないのですが、町の奥から三軒目の左側にあるお団子屋さん?に行ってみたくて。よろしいでしょうか?」
「あそこですね。ぜんざいが人気の。夢乃さんは甘いものが好きなのですか?」
「はい!大好きです!お団子が特に好きで……よく雑渡様が買ってきてくださるので」
「雑渡昆奈門が……まあ……意外ですね」
「私の団子を食べる顔が面白いらしく。よく持ってきてくださいますね。あっ!学園のことは聞かれてませんので!」
「心配してませんよ。夢乃さんがそういったことをする人だとは思っていません」
「シナ先生……」
やっぱり持つべきはシナ先生なんだって。くのたまの子たちに私のことをあまり害がない存在って言ってくれてたおかげでくのたまからの石を投げられたりの被害は未だにない。シナせんせ~~~!!!大好きだよ~~~!!!
「服屋がここがおすすめですね」
「いらっしゃい、綺麗なお嬢ちゃん」
「ありがとうございます。着物を2着ほど見たいのですが」
「あいよ!こっちが余所行き用でこっちが普段着だ!」
めっちゃ色がある!!!????しかも某鬼を滅する系バトル漫画みたいな服がいっぱい!!!迷っちゃう!!!まじでドシンプルな奴でよかったのに!!!???
「可愛くて迷ってしまいますね……」
「そうですね、こんな色なんてどうですか」
シナ先生が当ててくれた色はエメラルドグリーンのように美しいものだった。
「いいですね!あとはこれとか可愛い色ですね」
「随分大人っぽい色を選ぶんですね。もう少しこんな色とかも似合いそうですが」
私は23歳だぞ!!!この室町では行き遅れもいいところ!!!年相応の恰好をしなければ……
あ、そう言えば年ごまかして「天界年齢で1歳です」とか言おうとしたんだけど普通に23って言った方がいいよな。
「私はもう23なので、年相応のものがいいかと」
「まあ!もっとお若く見えるのに!でしたらその色がいいですね」
お若く見えるのは私が金をかけて化粧水やら美容液やらを塗り込んだ肌のおかげですね。室町謎パワーでその肌が維持されているのはありがたい。
「見立てが間違っていなくてよかったです……シナ先生?そちらは余所行きのものでは?」
「1着持っておいて損はありません。私からのこれまでの生活のご褒美です。色んな不遇が遭ったと思いますけど、よく耐えましたね。私はあなたがここにいてくれて、あなたと一緒に町を歩けて嬉しく思います」
「シナ先生……!」
そんなこと言われたら泣いちゃうよ。私、頑張った。恨みを連鎖させないように無駄な抵抗もしなかった。偉いんだ。凄い、頑張ったんだ……!
「ああ、そんなに涙を溢れさせては零れてしまいますよ」
「いいんです。嬉しいんです。シナ先生の気持ちが嬉しくて、ちょっと泣いちゃいました」
「ほら、涙を拭いて、こんな色も夢乃さんにお似合いですよ」
「はい!」
そこから淡いエメラルドグリーンと紫の着物を買い、余所行きの深い臙脂色のを送ってもらった。
のにだ!
「シナ先生、私持ちます」
「こういうのは力のある人に任せなさい」
「そんな、でも」
「年上の言うことは聞いておくものよ」
し、シナ先生~~~!!!惚れてまうやろ~~~!!!どれだけ魅了すればいいんだ!!!わ、私、今、シナ先生に魅了されてる……!!!くのいちの先生はここまでの技術がないとできないのか……尊敬……
「じゃあ次は文房具屋さんね」
「はい!」
そのままメモと組紐ときんちゃくと、シナ先生のおすすめで手ぬぐいを買い、お団子屋に行く。
「夢乃さんはお団子がいいかしら」
「そうですね」
「じゃあお団子2串お願いします」
「ここの代金は出させてください」
「だめです。年上に出させて?こういったことくらいにしか使わないのよ」
「でもシナ先生に出してもらってばっかりで、私なにも返せません……」
「そうねぇ。あなたが健やかに生きること。困ったら私なり新野先生なりに相談していつか帰ってしまう日まで元気でいること、なんてどうかしら」
「シナ先生……」
もう全てがメロいよ……何食べたらそんなにメロくなるの……?胸か、胸が足らんのか……!
でも、シナ先生の言葉にお約束は出来ない。私は私の気持ちがわからないときがあるから、ちゃんと相談できるかわからない。自分でも体の反射はわかってもそれが何故かを傷つかず受け止めるには時間がかかる。
「ごめんなさいシナ先生。それはお約束できないかもしれません」
「あら、どうして?」
自分の気持ちがわからない。いつも私のためを思って優しくして下さるシナ先生になら言える気がした。
「その……自分の気持ちがよくわからなくて、困った時があまりよくわからなくて、どうしたらいいのかわからなくて、ご期待に添えないかもしれません」
夢子がそう言うと、シナは夢子の頭をそっと撫でた。
「少しずつでいいのよ。少しでもあなたがあなたのための行動が取れるようになることが私の喜びです」
ああ、涙が出てしまう。泣くつもりなんてなかったのに。そんな私でも肯定してくれるあなたがどれだけ私の希望であるか知らないでしょう。依存しないように最近、困りごとは忍たまに頼んでいるのは知らないでしょう。シナ先生がいなくて、会えなくて寂しい思いをしているのを知らないでしょう。
あんなに助けてくれたのに最近会えなくて寂しかったです。お忙しいのはわかっています。
でも会わなくてよかったとも思うんです。会って優しい瞳を見てしまえば父と母を思い出してしまうから。
でも、お会いしたかった。だから今日は、すっごく嬉しかったのに。
それを伝える言葉を、私の最大限の思いを伝える言葉がこの世には一つしか思いつかなかった。
「あらあらまた泣いちゃって。ほら、手ぬぐい使って?」
「ありが、とう。ございます。嬉しい、んです、嬉しすぎて、言葉が、見つからなくて。シナ先生の、言葉が、嬉しくて、ごめん、なさい」
「いいのよ。大丈夫、気持ちは伝わっているわ」
「あり、がとう、ございます、大好き、です」
その言葉にシナは大変驚いた。この子が好意を言葉にすることなどないと思っていたからだ。自分の殻に籠もり、自己軽視と自己犠牲で静かに身を削っている子だと思っていた。だからこそシナは手を差し伸べた。学園に対して誠実である姿勢に、味方がいない孤独さに手を差し伸べたいと思い差し伸べた。
それからもこの子のために動いてきた自覚がある。最近は忍たまとも交流を始めて保護者代わりはもう終わりかなと寂しく思っていた。
だがここで、改めて夢子の思いを知る。
自分の気持ちがよくわからなくて、困った時があまりよくわからなくて、どうしたらいいのかわからない。とても重症だと思った。新野先生に相談案件だなと思っていたら、大好きです。なんて言われて。
嬉しかった。でも逆にこの子がようやく絞り出した本音が恨みつらみではないことに驚いた。それに心配にもなった。やはりこの子のなかではまだ私ほど濃く関わった人間でないと信用できないのかと。夢子と一番に関わっていた自覚はある。だからこそ、夢子の精神性を嘆いた。
シナは夢子の手を取る。
私がいます、と言ってしまいたかった。でもそうしたらこの子の頼れる人が私だけになってしまいそうで。皆さんも、怖くないんですよと伝えたかった。
「ありがとう。そんな風に思ってもらえて、私はとても嬉しいわ。でもだからこそ、一人で抱え込まないで」
「一人で、ですか」
「今は難しいかもしれない。でも新野先生や忍たまたちと話して見えてくるものもあるわ。もちろん私もいるわ」
「……はい!」
「涙が止まったみたいね」
ちょうどその時にお団子が来る。
食べたお団子の味はちょっとしょっぱかった。
そのあと学園長先生のおつかいを済ませ、学園へと帰る。
シナ先生が学園長におつかいのものを持って行ってくれると言うのでありがたくお願いした。
そして自室に戻る。とんでもないほど疲れた。学園に対するやるせなさはある。でも私は今ここでしか生きていけないのだから飲み込むしかない。
でも、シナ先生とのおでかけは楽しかったな。いっぱい泣いちゃったけど。でもちょっとすっきりした。目も冷やしたしもう赤くはないだろう。
そろそろお昼だな。お昼食べて少ししたら事務室でお仕事しようかな。仕事していた方が色々紛らわせそうな気がする。
おばちゃんのところでお昼を食べ、義経記を読んで、昼の業務が始まりそうなところで事務室に行く。
「おはようございます吉野様、小松田様。学園長のおつかいが終わりましたので戻ってきました」
「夢乃さん!?今日はおやすみでいいですよ」
「そうだよぉ学園長先生がおやすみくれたんだから休みなよ」
「いえ、そういうわけには。それにすることもありませんしね。私にお仕事させてください」
「……無理は、してませんか?」
「はい」
嘘だ。している。でもしなければ生きていけない。
___荷を降ろしてみませんか
新野先生の言葉がふいに浮かんだ。
「……すみません。嘘をつきました。ちょっと無理しています」
「なら休んでください。それでまた明日会いましょう」
「そうですね!夢乃さん、また明日~」
ここはこんなにも温かいところだっただろうか。私が少しきついと言えば助けてくれるのか。事務室の二人はこんなにも優しかったのか。私が見えていなかった物が見えてくる。
助けられたことは何度もあるけど、初めて自分から頼ったからまだよくわからない。でもこの二人なら、どんなことでも頼ってもいい気がした。
自室に戻り、義経記を読み、合間に字の練習をしていたらもう外は真っ暗になっていた。空腹を感じても億劫で食堂に行くか迷ったがなんとか向かう。
そして夕餉を食べ、風呂に入り、布団に入る。
この学園で、どう身を振ったらいいのかはまだわからない。本当に頼れる人もシナ先生と新野先生しか浮かばない。でも、事務室で言えた自分の本音は大事にするべきだと思った。
今日は疲れた。もう寝てしまおう。寝れるかどうかわからないが。
おやすみ、世界。また明日。
今日も今日とて同じ時間に起きる。今日はお仕事だ。少し体が重い気がするが昨日のストレスだろう。こういうのって新野先生に報告した方がいいのかな。でもいつストレスがなくなるかわからないし言わない方がいいだろう。
朝餉を食べ、義経記を読み、事務室で吉野先生に挨拶をする。今日の仕事は書類仕事らしい。どうやら予算会議で決まったあれこれの処理の書類が溜まっているんだそうだ。どうやらそろばんも必要らしい。
自室にそろばんを取りに行き、作業を始める。途中なぜかちらちらと吉野先生が見てくるがなにがあったんだろう。昨日の件心配してくれてるとか?そうだったらいいな。でもそれだったら言うよな。もっと気になることでもあるのかな。
気にしててもしょうがない。さっさと捌いちゃおう。
小松田さんが来る時間になって門番しに行くかと思ったら書類仕事初めてちょっと、いや大分びっくりした。墨ひっくり返したら終わりだぞ!!!???と思ったらお昼前にお茶をひっくり返してびしょびしょにしてた。吉野先生にはめっちゃ怒られてた。どんまい!机は拭いておくからね!!!
そのあと三人で昼餉に行く。未だに吉野先生はこちらを窺っている。まじでどうしたんだろう。なんかあったかな?
昼餉を食べ、茶を啜ると、吉野先生が話しかけてきた。
「あの、夢乃さん」
「はい。どうされましたか?」
「先日新野先生とお話しする機会がありまして。夢乃さんは新野先生は様付けでなく先生で呼んでいるとか」
「そうですね。先生呼びしてもいいですよと言われたので」
「……その、私も先生で呼んでくれますかね?」
「あ!吉野先生いいな~僕も小松田くん?さん?どっちでもいいから呼んで欲しいな」
そんなことだったか~~~!!!まあよかった。みんな可愛いということで。小松田さんは言うまでもないとして、吉野先生。あなたも可愛いんですよ!!!
「そんな、よろしいのですか?」
「もちろんです!」
「ええ。様付けだと距離がある気がしまして……」
「では、吉野先生、小松田さん、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
「よろしくお願いします」
昼餉を食べ追わりちょっとお喋りしてから業務再開。やっぱりそろばん早くなってるかもしれない。会計委員会には及ばないけどそこそこ良い線いってるんじゃないでしょうか!!!どうでしょう!!!
そして早めに業務をあがらせてもらう。吉野先生には「昨日の今日ですからね、無理はなさらないでください」と言われた。うーんストレスってバレてるのかな。学園長の囲炉裏にもいたしバレてるのかも。
でも吉野先生呼びと小松田さん呼びできたの嬉しいな。しかも今日は給料日!めっちゃ嬉しい。金の重みが日々の疲れを癒してくれる。今日は何しよう。とりあえず自室で義経記でも読むか。
あ、本と言ったらきり丸くん!外出許可がでたからアルバイト手伝えるよって言わないと。もう少ししたら行こうかな。
よし、放課後の鐘も鳴ったし、いざ図書室へ!
図書室に行く途中できり丸くんが居たので話しかける。
「こんにちは、きり丸様」
「こんにちは、夢乃さん。どうしたんすか?」
「実は学園長先生に付き添いが居るなら外に出てもいいよって言われたんです。もちろんアルバイトも。なのでご報告です」
「アルバイト手伝って貰えるってことでいいんですか!」
「もちろんですよ」
「じゃあ4日後の放課後とかどうですか!」
「空いていますよ。楽しみにしていますね」
「よっしゃー!俺も楽しみにしてます!じゃあ俺委員会あるんで!ありがとうございます!」
きり丸くんはぱたぱたと廊下を走っていく。元気だなぁ。きり丸くんとアルバイトか……楽しみだな。私も文字の練習しよっと。
自室に戻り、文机の前に座り、炭を擦る。文字を書こうと紙を置いたところだった。
「すみません~」
「天女様って」
「いらっしゃいましゅか?」
そ、その声はくのたまのユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃんではないか!!!私が予算会議前のボロボロの時に会いに来てくれたけど「お疲れのようですので……」と帰ってしまった三人じゃないか!!!えーーー!!!やだ!!!嬉しい!!!天女ここです~~~!!!
「居りますよ。予算会議の前はろくにおもてなしできずすみません」
「いえいえ!お顔が2徹目の潮江文次郎先輩ほど酷かったので!体調は大丈夫ですか?」
「はい。ぐっすり眠ることができたので」
「よかったです!よかったらお話していってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
三人を部屋に通してお話をする。なんだか学園長先生の件と言い気を張ることが多かったからなんだかゆったりとした、でも過ぎるのが早い時間だ。みんなの話も聞けてとっても充実した日だった。夕焼けが見え始めたところで、ユキちゃんが「あっ!」と言った。
「いけない!私もう帰らなきゃ!宿題途中だった!」
「そうだ!気分転換に散歩してたら」
「天女様のこと思い出して来たんでしゅ……」
か、可愛い……!!!まだ子供なんだなって言うのを勝手に感じてしまう。課題のこと忘れちゃったのかぁ。そっかぁ。可愛いね……
「ふふっ、そうだったんですね。ではお開きにしましょうか。皆さん、宿題頑張ってください」
「ありがとうございます!では失礼します!」
そう言って襖は閉められてしまった。最近本当に人が来なかったから嬉しかったな。それにくのたまの子は気を張らなくていいから助かる。過ごしやすかったなぁ。
私もちょっと早いけど食堂に行っちゃおっかな。なんだかんだこの時間か閉まる30分前に行くことが多いけど。人が少ないんだよ人が。ゆっくり座って食べたいからね!!!
食堂に行くと今日のご飯は青椒肉絲だった。このシャキッとしたピーマンが美味しいんだよね。
母さんがよく分量よりも多いピーマン入れてくれたんだけど、その時に油が薄い緑色になるのを見るのが好きだったな。
だめだ。学園長先生の件があってからネガティブになってる。新野先生に相談しなきゃだめなんだろうけどな……医者に行くのが嫌で……一回行っちゃえば通院とかは義務感があっていくけど。行くまでが長いんだよな行くまでが。本当に徒歩数分なのに渋っちゃう。あーいつ行こう。でもいつ行こうって思ってる間に改善しちゃうんだよね。
夕餉を食べ、夜風にあたりながら星を数え、渋りに渋ったお風呂に入り、布団を敷く。
言い訳をさせてほしい。疲れた時って人はお風呂に入るの渋りがち問題を提唱させてほしい。お風呂キャンセル問題ですね。特に私含めその時点でメンタルがやられている人は。まじで億劫なんだ。風呂の扉開けて脱衣所で30分くらいぐったりしてようやく入れるんだ。私はそこまで酷くないけど。まあ!!!入れたからいいってことで!!!よし!!!
あー本当に参ってる。どうしよう。心因性の体調不良またやらかして大問題にしたくないんだが。でも新野先生のカウンセリング受けて悪化したらとどうも考えてしまう。今の事務室って予算会議後の処理で忙しいから。これもあるな。いや、新野先生の元へ行くのを渋っている理由にすぎない。
夢子は布団に入る。
どうしたらいいんだろうな。あ、お布団入ったら眠くなっちゃった……明日考えよう……
「どうしたものかのぅ」
「ヘムヘム?」
「ヘムヘム。それがな夢乃くんが辛い顔をしておったからな。学園でできることを考えているんじゃ。あんな顔をさせたのはわしの責任じゃ。どうしたものかのぅ……」
「ヘム!ヘムヘム!」
「頼れる人を作るのはどうかとな?じゃがわしらが今歩み寄ったところであの子を傷つけるだけじゃろうて」
「ヘム!ヘムヘムヘム」
「なるほど!思いついたぞ~~~!!!」

























ここまで一気読みしました! いや〜面白いです!設定もさることながら、キャラたちとの関わり方に思わず惹き込まれました。 なんて応援したくなる主人公なんでしょう…!