「ふんふふ〜ん」
「かぐや、危ないからあんまはしゃがないで」
「え〜だってぇ」
踊るようにして私の隣を歩くかぐやの表情は、にこにこが溢れて止まらないような幸せそうな顔だった。こっちまでにやけてしまいそうになるほどに。
「いろはとでぇとするの久しぶりなんだもーん。でぇとだよ、で・え・と」
「あんたねぇ......」
このまま羽が生えて飛んでいきそうなくらいにくるくる回っているかぐや。こんなに可愛い生き物は他にいないと思うほど。
「別にデートじゃないです。スーパー行くだけ」
「でも2人きりでお出かけじゃん?じゃあデートと一緒でしょ」
太陽なんかよりもずっと眩しい笑顔で私にもたれ掛かりながらそんなことを言って。全くもって将来が心配である。
「......あんまりそういうこと簡単に言っちゃだめだからね。勘違いするような人だって出てくるよ」
「いろはにしか言わないから大丈夫!」
いったい私をどうしたいんだろうかこの悪童は。変な人引っ掛けて変なことされないかだけ心配だよほんとに。ネットに居る人って変なの多いし。
「............あっそ。ほら、行くよ」
「あーん待ってぇ」
さっさと会話を切り上げてかぐやの腕を引っ張っていく。このままじゃ恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。
「ほら、さっさと買って帰るよ」
「え〜ゆっくりしようよぉ〜」
スーパーに入ってからも半分くらい抱きついている状態で店を回っていく。カゴを持ってるしずっとくっつきっぱなしという訳ではないが。
「別に時間に余裕がある訳じゃないからね」
「むぅ......」
帰ったら曲作んなきゃだし、動画とか配信の準備もしなくちゃいけない。あと勉強もちゃんとやらないと。
「まあ良いけどさ。あ、いろはそれ取って」
「はいはい」
事前に買うものをきっちり決めてきた訳じゃない。けれど、おおよそ何が必要かは分かってる。スムーズに買い物は進んでいって、きっと大して時間はかからない。私もちょっとだけ、二人で出かけてる時間がもっと長くなれば良いのになんて思ってしまった。
「あれ、ねぇ見逃した?」
「いや無かったよ」
「えぇどうしよ。もう無かったよね」
野菜コーナーを過ぎたところで振り返るかぐや。今日買おうと思っていたのだがネギがなかった。たぶんタイミングの問題で売り切れてたのだろう。
「ちょっとだけ?まあでも最悪明日また来れば良いよ」
「んー......そうだね。しょうがないや」
献立に悩んだり、スーパーの並んだ商品を眺めたり、そんなかぐやをぼんやり見ていると少し思う。主婦ってこんな感じなのかなぁ、なんて。
「あ、いろは!パンケーキ作ろ!」
「えぇ?まだ粉あったでしょ」
「すぐ使うもん」
「全く......まあいっか」
別にかぐやは主婦って感じでもないか。まだ子供のままって感じ。生後2ヶ月経ってないし当たり前といえば当たり前だけど。
「今日は無理だからまた次の週末ね」
「はぁい」
鼻歌混じりのかぐやの上機嫌は加速して、私の周りをくるくる回り出す。可愛いし良いんだけれど、ちょっとだけ恥ずかしい。
「お、お肉安いじゃん。買ってこ」
「今日お肉にするの?」
「どーしよっかなぁ......」
特売のお肉を持ったままうんうん唸るかぐや。体が左右に揺れるのと一緒にアホ毛もぴこぴこ揺れて、何とも可愛いことこの上ない。
「いろは何食べたい?」
「かぐやのご飯なら何でもいい」
「え〜それが1番困るよ〜」
少し優しげな蕩けた笑顔で言うかぐや。いつものやり取りな訳で、ほんとに困っているとかじゃないのだ。カゴの中身から何か美味しいものを作ってくれる。
「んひひっ......ねぇねぇいろは」
「はいはいなんです?」
「なんて言うんだろ......付き合ってるみたいだね?」
「はっ......はぁ?なに急に......別に付き合ってないでしょ」
「えぇー」
どこか不満げな反応のかぐや本人もセリフの途中で微妙な顔をしていたし、近しくとも今の私たちがカップルみたいとは思ってないのだろう。一緒にスーパーに来て今日の夕飯の話をしているのはカップルって感じじゃない。むしろ......
「いやいやいやいや......」
「......?いろは?何か言った?」
「へ?いや?なにも言ってないよ」
夫婦みたい。たぶん、決して口には出さないこと。そんなことを考えたという事実だけで恥ずかしくて顔から火が出そうなほど。
「ほら、会計行くよ」
「んー」
恥ずかしいのを隠すようにしてかぐやの手を引きレジに向かう。何食べたい、なんて聞いてくれているけれど、もう必要なものはカゴに入り切っている。今から追加で買うものは無い。
「1万超えたか......」
この店はセルフレジ。手早く会計を済ませてしまう。しかしまあ、たぶんかぐやが来る前の生活水準には戻れないんだろうと思うばかりだ。
「半分ちょうだい」
「はい」
会計を終え、荷物を分ける。お互いに全部自分が持つなんて言って譲らなかったのを思い出す。結局今の形に落ち着いて、荷物はいつも半分こ。
「ふっふふーん」
「ふふっ」
かぐやはいつでもどこでもハイテンションというか。どんな時も私に笑顔をくれる。半分ずつに分けた荷物はそんなに重くなくて、心模様と同じように軽やかに思えた。
「夕飯何作ろっかなぁ。ハンバーグかなぁ......麻婆とかも良いかなぁ......」
ひき肉が安かった訳で多めに買ってしまった。最近は中華がお気に入りらしいし四川の覚悟をしといた方が良いかもしれない。
「楽しみにしてるね」
「かぐやちゃんに任せなさい」
歩道の端のブロックの上で踊るようにくるくる回っているかぐやは、どやぁと音が聞こえてくるような声と表情で言う。やっぱり可愛いよなこいつ。
「あっかぐや!」
「うぇ!?」
瞬間、半ば体が勝手に動く形でかぐやを抱きよせる。
「ど、どうしたのいろは。急にそんな......」
「はぁ......はぁ......轢かれるでしょ!」
「ぁ......はぁい」
くるくる回りながら半分後ろ向きに歩いていたかぐや。赤信号の横断歩道に踏み出すところだった。
「ちゃんと周り見て......焦った......」
「ご、ごめんいろは」
「気をつけるなら良いよ......ちょっと強く言っちゃった。私もごめん」
咄嗟のことだったけれど、少し大きな声を出してしまった。まあでも一応かぐやのためでもあると思うし、許してほしい。
「い、いろは。その、離してくれないと歩けない、かも」
「あ......ごめん」
信号はとっくに青になっていたけれど、私は無意識でかぐやを抱きしめて離さないでいた。どうも私は思ったより焦っていたみたい。
「かぐや、手出して」
「はぁい」
かぐやを解放して、互いの空いている手を繋ぐ。ちょっとだけ恥ずかしいけれど、また危ないことになった時にすぐに抱き寄せられる。
「......えへへ。ほんとにデートみたいだね」
「はぁ......もうそれで良いよ」
かぐやが轢かれかけたのに焦って止まなかったけれど、とりあえず今はかぐやは嬉しそうだし良いか。つっこむ余裕も私からは失われて今。
「そ、そっか」
「ねぇ言いだしたのかぐやでしょ。そっちが恥ずかしがんないでよ」
手を握った私たちは、揃って少し顔を赤くして無言で帰路についていた。けれど、そこにあった沈黙は幸福で満ちていた。














彩葉とのデートにテンション高くてすごいご機嫌なかぐやが最高に可愛かったし、早めに終わらせて帰るよみたいなこと言ってるけど、自分もこの時間がもっと続いたらいいのにって思ってるの彩葉が最高に良かったです。やっぱり相思相愛しか勝たんやな。それに、かぐやは彩葉に結構な頻度で愛の言葉をいい