Novel2 days ago · 7k chars · 1 pages

破綻

ハルハル

上手く隠してたつもりが全部バレてた挙句🔷に捕まっちゃった🌸ちゃんの話。🔷初書きです!不穏な🔷の話が書きたかった…! ⚠️ ▶︎捏造等色々注意 ▶︎予告なく削除・非公開にする可能性があります ▷素敵な表紙をお借りしました🫶(illust/133256284)

モンドへの配属を言い渡されてからというもの、なんとなく嫌な予感はしていた。
 私がファデュイに入る前に暮らしていた、第二の故郷とも言える国モンド。およそ数年ぶりに帰ってきたこの場所は、記憶の中の景色とあまり変わらなかった。
 穏やかな風と雰囲気、そして西風騎士たちの姿。懐かしい光景とかつての思い出に浸りそうになるが、すぐにそれらを頭の片隅に追いやる。なにせ今回の任務はモンドへの背徳行為そのものであり、裏切りに近しい。不用意な情や思い出は任務成功率を低くするだけだ。
 ファデュイに入った時にもう決めたのだ。こうしてお世話になった、第二の故郷とも言える場所を裏切ることになろうと、大切な人を傷つけることになろうとも、絶対に後悔したり躊躇わないと。そうでなければこれまでやってきたことも、これからやろうとしていることも無意味になる。

◻︎

 幼い頃に両親の都合でスネージナヤから遠いモンドまで引っ越してきた私は、幼少期を冷たい氷の国ではなく穏やかな風の吹くモンドで過ごした。今思えば両親がなんらかの工作任務を割り当てられていたのかもしれないが、まだ幼い私は純粋に見知らぬ国を楽しみ、同年代の子供達と一緒に遊んでいた。
 そんな折に出会ったのがローエンという男の子だった。
 ローエンは私よりも大人びていて、実際の年齢も一つか二つ年上だった。当時の彼は冒険者として色々なところへ赴いていて、そんな彼に当時の私はどういうわけかよく懐いていた。最初こそ軽くあしらわれることも多かったが、私がスネージナヤで暮らしている人間であることや、スネージナヤにしかいない魔物や強敵の話を聞かせたところ、ローエンはそれまでの態度が嘘のように私に話を強請ってきた。
 大人びていて、いつもつまらなさそうに、退屈そうな姿しか見てこなかった私にとって、その姿はとても新鮮なものとして映った。ようやく年相応の姿を見れたというか、少年らしいその姿に幼心ながらどきっとしたのを覚えている。思えばあれば初恋だったかもしれない。
 そんな些細なきっかけから私たちはよく話すようになり、気付けは出会って数年が経とうとしていた。相変わらず冒険者として野外に出ては魔物を相手にしているようだったが、最近ではそれも少なくなった。聞けば詳細までは教えてくれなかったが、色々と考えていることがあるらしい。
 当時の私といえば、騎士団の訓練にちゃっかり参加させてもらうことが多かった。いずれはスネージナヤに帰るとわかっていたから、優しい騎士たちの好意に甘えて最低限の護身術や剣の扱い方を教えてもらったのが懐かしい。なんの用事できていたか分からないが、ふらっと訓練場に来た大団長から「お前は筋がいいな」と頭を撫でられたこともあった。モンドでの暮らしはそんな風にあたたかくて楽しいものばかりだった。
 だからいよいよ両親に「スネージナヤに帰る」と言われた時は寂しかったし悲しかった。
 仲良くしていた友達や騎士団の人にお別れの挨拶をして「また絶対会おうね」なんて涙ながらに別れることを繰り返す。日が傾く頃ようやくほとんどの人に挨拶し終わったけれど、一人だけどうしても会えなかった人がいた。モンドで一番親しくしていたと言っても過言ではない、ローエン。
 出発の日が迫っていたこともあり、ギリギリまで探したが結局最後までローエンと顔を合わせることはできなかった。顔を見てお別れを言いたかったなと思いながら手紙を書き、キャサリンさんに預けてモンドを発ったのが数年前。私がファデュイに入る少し前のことだ。
 ファデュイに入ることは元々私の望んでいたところではなかった。けれど、両親がどちらもファデュイ内のそれなりの地位に位置していて、その娘が少なからず戦闘の才があると分かれば、あとは必然的にファデュイに入るほかなかった。嫌だと言えるほど私には力もなかったし、何よりそれは許されないことだった。
 だからファデュイ入団試験前日のあの夜。モンドの優しい風とは違う、冷たく鋭い風を受けながら誓ったのだ。今後もしモンドで任務をすることになったとしても躊躇わないと。ファデュイとしてやっていくなら、私もスネージナヤの民として、ファデュイとして忠誠を捧げる。中途半端な気持ちでやるのは結局どちらにとってもよくない。そう、あの夜に決意した。

◻︎

 宿屋に荷物を置き、友人という体で一緒に来た同期と軽く打ち合わせを済ませる。その後はあくまで観光客としてやってきたので、軽く外を見て回ることにした。
 モンド城内を歩く中で、同期から「やっぱり詳しいね」と純粋に感心された。まあ昔暮らしてたからねと私も笑い、鹿狩りで少し早めの夕食を取る。そもそも今回私がモンドに割り当てられたのも、土地勘があって急にモンドに現れても不自然のない人間だからだ。顔見知りに会っても「久しぶりにモンドの景色が見たくて」なんて言い訳が通じるし、動きやすい。
 夕食を食べ終えたあとは、少し気になるお店があると言う同期と別れ一人宿へと向かう。夕陽で照らされるモンドの景色を見ながら、やっぱりこの国は綺麗だなと思った。それと同時にこの国に害を為そうとしている自分が嫌になる。慣れたはずの気持ちだったけれど、やっぱりモンドを前にすると多少なりとも気持ちが揺らぐのも事実だった。
 夕陽を見上げながら、少し遠回りして帰ろうかなと一度立ち止まる。この先を行くと宿への近道になるから、こっちから行こうと踵を返したところで——私の名前を呼ぶ声が背後から聞こえてきた。
 もしかしたら、とは思っていた。でもいざその声を、記憶の中よりもずっと低い声を聞いた途端、ざわりと胸が騒ぎだす。
 ゆっくりと声の方を振り返ると、夕陽を背に立つその人と目が合った。記憶の中よりも伸びた背丈と、この国では見慣れた服装。

「よお、久しぶりだな」

 ほんの数日ぶり、とでも言うように。片手をひらりと振りながら、ローエンが私に笑いかけてきた。

◻︎

「…ローエン…」

 ゆったりとした足取りで私の前に立つローエンは、私よりもほんの少し背が高くなっていた。でも何より驚いたのはあの頃のような冒険者らしからぬ今の見た目だ。この国で見慣れたと言っても過言ではない西風騎士の服装。

「いつこっちに戻ってきたんだ?」

 観察するようにローエンを眺めている最中で声をかけられ、はっとして顔を上げる。微笑みの形を作っているが、相変わらず何を考えているのかいまいち読めない目をしていた。そこだけは記憶の中のものと変わりない。

「えっ、と今日着いたばっかり。さっき宿に荷物を置いてきたの」
「なら宿まで送ってく。着くまで少し話そうぜ」

 決定、と言わんばかりにローエンが先に歩きだす。慌ててその隣に駆け寄りながら、二人で夕焼けのモンド城を歩いた。

「…騎士になってたんだね。びっくりした」
「まぁな。つっても楽しいことばっかじゃねえけど。お前は?」
「私は…あれからスネージナヤに帰って、のほほんと生きてるよ。騎士団の人から習った護身術のおかげで自衛もバッチリ」
「ファルカに筋があるって褒められてたもんな」

 ぽつぽつとお互いの近況を話し合うが、私の話す内容についてはほとんど嘘だ。ファデュイをやってるなんて言えないし、ましてや任務のために帰ってきたなんて口が裂けても言えない。なので嘘でもない、かと言って本当でもないことをうまく混ぜながら話していく。
 話していくうちに分かったが、ローエンもモンドに帰ってきたのは久しぶりらしい。長い遠征を終えてつい最近戻ってきたそうで、普段はドーンマンポートの方にいるらしいが、今日は用があってモンドの方に来たのだとか。久しぶりに会えたことについては素直に嬉しく、偶然会えて良かった、と本心からの言葉が飛び出してきた。
 数年ぶりに会ったと言うのに驚くほど砕けた雰囲気で話すことができ、気付けは泊まっている宿に着いていた。送ってくれてありがとう、とお礼を言うと気にすんなとローエンが答える。

「どれくらい滞在すんだ?」
「え、あ…二週間くらいかな」
「そんじゃ今度は飯でも食いながらまた話そうぜ」

 またな、と出会った時と同じようにひらりと片手を振るローエンの姿を見送った後、私は自分の部屋へと戻った。懐かしさの余韻を噛み締めながら着替えなどを済ませ、一息ついた後ベッドに腰掛けた。良い意味で随分変わっていたローエンの姿を思い出しながら、ふと疑問が降って湧く。
 私は泊まっている宿をローエンに教えただろうか、と。

◻︎

 ローエンに宿へ送ってもらって以来、私たちはちょくちょく会うようになっていた。
 鹿狩りで一緒にご飯を食べるところから「ちょっと付き合えよ」とモンド城近くの魔物討伐に連れ出されたりなどなど。なんだかローエンが冒険者だった頃を思い出すなあと思いながら、今日も元気に振り回されている。最初にあった気遣いなんて物はとうに無くなっていて、昔と変わらない程に打ち解けられていた。
 けれど、その度に任務のことがちらついてしまうのも事実で。ローエンに振り回されながらも、心から笑えていないような気がするのはきっと気のせいではないだろう。気付けは滞在予定日数の半分を過ぎ、そろそろ明確な任務の成果を持ってスネージナヤに、ファデュイに戻らなければならない。
 実のところ任務達成に向けての準備はここに来るまでにしていた。それもローエンをうまく使うという良心の痛む手段を用いて。目標である騎士団内部の情報収集に向け、さりげなく騎士団本部の現在の間取りや見張りなど、世間話ついでに本当にさりげなく聞いておいたのだ。
 ローエンは勘が鋭い。少しでもボロを出せばあっという間にバレて私の方が騎士団に突き出されてしまう。だからこそ最新の注意を払いながら会話を重ねて、その甲斐あって内部情報を大方把握することができた。おかげで今夜、警備の隙をついて騎士団へ侵入し、目的の情報を手に入れることができた。
 かつての旧友を使ってこんなことをするのは胸が痛んだ。でも今の私はファデュイだ。その事実から目を背けてはいけないし、背けるつもりもない。一度ファデュイとして生きていくことを誓ったのだから迷ってはいけない。そうではなければここまでやってきたことの全てが無駄になるのだから。

◻︎

 無事に当初の目的も達成し、いよいよ今夜モンドを発つことになった。
 宿のオーナーやお世話になった人にお礼を言いつつ、私はいつかの日のようにローエンの姿を探していた。でもあの日と同じくどれだけ探してもローエンの姿が見当たらない。しばらくはモンドにいると言っていたのだが、どこに行ってしまったのだろうか。思い当たる場所を歩き回ってみるも見つからず、気付けばすっかり日も暮れていた。
 次にモンドに来れるのがいつか分からない。今回もまたあの時と同じように直接別れを伝えられないかもしれないという寂しさと、これで良かったのかもしれないという安堵。ただ何も言わずに別れるのはやっぱり寂しかったので、あの時と同じように手紙を書くことにする。ここまでお世話になったお礼や感謝、直接お別れを言えないことへの謝罪。それらを書いた手紙を顔見知りの騎士団の一人に預け、私は宿へ向かった。今頃先に荷物をまとめた同期が宿の前で待っているはずだ。
 陽の落ちたモンド城内を歩き続けること数分。泊まっている宿が見えてきて、建物の前に誰かの影も見えてきた。きっと同期だろうと思いながら「遅くなってごめん」と駆け寄った私は、そこに居た本当の人物を見て目を丸くする。

「ろ、」

 名前を呼ぶ前にガッと顔を掴まれる。臨戦態勢を取る暇もない、目に見えないほど素早い動作だった。

「しーっ…黙っておねんねしてな」

 首元にはしる鈍い痛みと頭の中がひっくり返ったかのような鈍い揺れ。その場に倒れ込みそうになった私を抱き止める手のひらの感触を感じたのを最後に、気を失ってしまった。

◻︎

「…っ、う…」

 鈍い頭の痛み。痛むその箇所を抑えようとしたところで、思い通りに身体が動かないことに気付いた。見ると両手首が肘掛けに乗せられ、その上からロープで固定されている。まさかと思って足元を見やれば、同じように椅子に縛り付けられていた。

「目が覚めたか?」
「っ、」

 音もなく背後から現れた影。くるくるとナイフを手で弄びながら、ローエンはゆっくりと私の前に姿を現した。
 普段と変わらない表情。だからこそ余計に緊張する。最悪の状況も考えながら、私は慎重に声をかけた。

「…ローエン。この状況は、一体」
「身に覚えがない、なんて言うつもりか?」
「うん。…これ、ローエンがやったんだよね?私にはこんな風にされるような覚えはなにも」

 ばさり、と私の言葉を遮るように何枚かの紙が地面に撒かれた。目線だけでそれが何であるかを確認した私は思わず息を呑む。
 それは私が手に入れた今回の任務目標、騎士団内部に関する情報だった。
 何も言えなくなった私を前にして、ローエンはまた新たな書類を目の前で落としていく。中には私か今回一緒に来た同期でしか知り得ない、見れないはずの情報もあってますます身体が強張っていった。それと合わせて、決定打として騎士団に忍び込んだ時の写真を出されてしまえば、もう言い逃れはできそうにない。

「…いつから、気付いてたの」
「疑問に思ったのはお前がモンドに来た日だ。里帰りにしちゃ妙な時期だったからな」

 だから泊まってる場所も調べて待ち伏せた、と言うローエンに色々納得がいった。だからあの時私の宿の場所を知っていたのだ。

「確信に変わったのは魔物の討伐にお前を連れ出した時だ。うまく後方でびびったふりしてたのかもしれねぇが…よく見りゃ分かる。ちょっと護身術を齧った程度の身のこなしじゃないってな。それこそ俺たち騎士と同じような…訓練を受けた人間の動きだ」

 そんな前から気付かれていたなんて、と驚くと同時に怖かった。確かに魔物討伐の時は意識して前に出ないよう、本来の実力を出さないように動いていたとは言え、そこまで見抜かれていたなんて。それにあの時ローエンは前線で魔物と戦っていた。そんな中で私を観察していたのかと思うと、驚きより怖さの方が勝る。

「なんでお前がファデュイなんかやってんだよ」
「………」

 無言は肯定。それにあの情報を見たのならローエンももう分かっているはずだ。

「…私を騎士団に突き出す?それとも殺す?」

 騎士であるローエンからすれば後者はないと言えるから、きっとこのまま騎士団に突き出されて終わりだろう。このロープも外せないことはないが、それが出来るだけの隙がない。まだ様子見するべきだと思った。

「んなことするわけねぇだろ。何のために今日まで待ったと思ってんだ」

 面倒くさそうに言うローエンの言葉にふと疑問が生じた。魔物討伐の時点で確信に変わっていたのなら、どうしてその時点で私を騎士団に突き出さなかったのだろう、と。

「もう一人お仲間がいただろ?あっちは騎士団に突き出したぜ。お前の名前は出さないよう「お願い」してな」
「…なんで、そんな」
「あいつらとお前を引き離すために決まってんだろ」

 ローエンの手が私の座る椅子の背もたれに触れる。身体を傾け私を覗き込むその目は、ゾッとするくらい冷たい。

「お前の正体に気付いてからずっと考えてたんだよ。お前がファデュイなんかに入るなら、あの時に俺以外誰も知らねえ場所に閉じ込めておけば良かったってな」

 身が竦むような冷たい視線の奥には、ゆらゆらと重い執着の念が渦巻いていた。ゆっくりと顔を近づけてくるローエンを前に、このままじゃまずいと頭の中で警鐘が鳴り響く。同時に今しかないと覚悟を決め、仕込みナイフで両足と両手首のロープを素早く掻っ切った。
 ごめんと思いながらローエンの身体を渾身の力で蹴り飛ばし、ナイフを構えて体勢を整えようとした瞬間。ガッと喉元を押さえつけられ、そのまま壁の方へ押し付けられた。からん、と握っていたナイフが床へ落ちる音が響く。

「お前じゃ俺に勝てねえし、逃げられねえよ」
「っ、離して…!」

 ローエンの手を掴んでみるがびくともしない。呼吸が苦しくない程度に押さえつけられていることからも、まだ手加減してくれているのだろうと言うことが分かった。

「お前が心配することは何もねぇよ。昔できなかったことを、今からやれば良いだけだからな」

 ふわりとこの場に似つかわしくない、甘い香りが広がる。ローエンのまとう香りかとも思ったがそれとも違い、まさかと答えに辿り着いた頃にはぐらりと視界が揺れていた。ローエンの方に向かって倒れた私を、彼は難なく抱き止めてくれる。

「だから良い子でおねんねしてな」

 元素の影響か冷たい手のひらが頭を撫でていく。ろーえん、ともう一度名前を呼んで伸ばした手のひらは、結局届くことはなかった。

— End —

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Sakuria
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