Novel3 days ago · 4.1k chars · 1 pages

何度でも、君に落ちる

かみかみ

映画の後のお話です。 週末の午後、月の友人・柚帆が持ち出したのは、学校の保護者インタビューの続き。 大学時代の話を聞かれた樹と冬雨は、なぜか揃って大慌て。 そしてその夜、二人は少しだけ昔を振り返る――。 気に入ってもらえると嬉しいです。 コメント等お待ちしてます。よろしくお願いします。

ある週末の午後。

リビングでは、月とその友人・柚帆が並んで宿題をしていた。ノートと問題集を広げているものの、柚帆のペン先はどこか落ち着かない。ときどきシャープペンシルの頭を机にトントンと打ちつける癖が出ている。

その向かい側のキッチンからは、甘い焼き菓子の匂いがふわりと漂っていた。樹と冬雨が、おやつの準備をしている最中だった。

「ねえねえ」

柚帆が突然顔を上げる。ほんの少しだけ目が輝いている。

「この前の学校行事でさ、保護者インタビューの企画あったじゃん?」

月がノートから顔を上げる。

「うん、あったね」

柚帆はシャーペンをくるくる回しながら、身を乗り出した。

「私、あのときの二人の答えがずっと気になっててさ。今日、ちょっと直接いろいろ聞いてもいい?」

そのタイミングで、キッチンから樹の声が飛ぶ。

「あ、月、柚帆ちゃん。おやつにする?」

のどかな声。だが次の瞬間――

柚帆は、見覚えのないノートを手に立ち上がっていた。

「樹さん、冬雨さん。ちょっといいですか?」

空気が一瞬止まる。

月が「?」と目を丸くし、樹も手を止めた。

「え、どうしたの柚帆ちゃん?」

柚帆は真剣な顔でノートを開く。

「この前のインタビュー、途中で終わっちゃったので……続き、聞かせてほしくて!」

「続き?」

樹が目をぱちくりさせる。

冬雨は静かに手を止めて、柚帆を見た。

柚帆は咳払いをひとつして、ノートを読み上げる。

「あの時、私が『二人が知り合ったのはいつですか?』って聞いたら、冬雨さんは『大学1年の時です』って答えました」

「うん」

「で、朱里ちゃんが『いつから相手のことが好きになりましたか?』って聞いたら、樹さんは『初めて会った時です』って即答して、冬雨さんは『私は少し経ってからです』って言いましたよね」

「ああ……そんなこと言ったかも」

樹の耳がじわりと赤くなる。

柚帆の視線が鋭くなる。

「問題は、その次です!」

一気に空気が変わる。

「そのとき、樹さんが『え、そうだったの!?』って驚いたら、冬雨さんが『そうだよ。ほら、6月に公園で……されて、それから好きになったじゃん』って言ったんです」

「……っ」

冬雨の手が一瞬止まる。

柚帆は止まらない。

「朱里ちゃんが『何されたんですか!?』って聞いたら、冬雨さんはすごく焦って『告白!告白されたの!』って言い直して……樹さんも『そうなの』って合わせてた」

そこで柚帆はノートを閉じた。

そして一歩、二人に近づく。

「でも!」

声が跳ねる。

「単に告白されただけなら、“……されて”なんて濁し方するのおかしくないですか?」

月が横で「おお……」と小さく息をのむ。

柚帆は核心を突くように言った。

「ぶっちゃけ、大学1年の6月の公園で、何があったんですか?」

「えっ!?」

樹の声が裏返る。

「な、何って……えっと、その……!」

「柚帆ちゃん、それはもう昔の話で……」

冬雨も珍しく言葉を濁す。

その反応が、逆に怪しい。

「ほら冬雨!学校で変な言い方するから!」

「私のせい?あのとき樹が“したい”って――」

「わーーーっ!!ストップ!ストップ!ストップ!!」

樹が慌てて冬雨の口を両手でふさぐ。

リビングは一気に騒然となった。

月は笑いをこらえながら肩を震わせ、柚帆はさらに目を輝かせている。

「これは……まだ何かあるやつだ」

そのひと言に、キッチンから同時に声が飛ぶ。

「ない!!」
「ないから!!」

しばらくして月がぽつりと言った。

「お母さんってさ」

視線が集まる。

「ママに一目ぼれだったってこと? 顔が好みとか?」

「月!!」

樹の即ツッコミ。

柚帆のペンが走る。

「重要証言です!」

「記録しなくていい!」

さらに冬雨が、さらっと爆弾を落とす。

「でも……前に聞いた時、映画の帰りに雨降って、傘なくてびしょびしょになって、そのあと樹の家で髪乾かしてくれた時……初めて私の事、意識したって言ってたよね?」

一瞬、静寂が落ちる。

樹の動きが止まった。

そしてみるみる耳まで赤くなる。

「冬雨……それ今言う?」

「だって本当じゃん……」

冬雨も頬を染めたまま小さく答える。

柚帆の目が輝く。

「えっ」

月も身を乗り出した。

「じゃあ初対面で好きになったって話は?」

「それは……!」

樹が反論しかける。

しかし言葉が続かない。

月が指を折り始めた。

「最初に一目ぼれ」

「うぅ……」

「雨の日でまた好きになる」

「月……」

「で、公園で告白して」

柚帆がすかさず続ける。

「そこで決定打」

カリカリとペンが走る。

月は満足そうにうなずいた。

「つまり三回落ちてる」

「三回だね」

柚帆も頷く。

樹は顔を覆った。

「なんでそうなるの……」

耳まで真っ赤だ。

月はにやにやしながら言う。

「お母さん、ママのこと好きすぎない?」

「月!!」

即座に返ってきた声も、いつもよりかなり弱い。

冬雨は隣で同じくらい赤くなりながら、ぽつりと言った。

「まあ……私もだから」

今度は樹が固まった。

月と柚帆が同時に顔を見合わせる。

「うわ」

「相思相愛だ」

「だからそういうのやめて!」

珍しく樹が本気で照れながら叫び、冬雨は恥ずかしそうに笑った。

その時だった。

柚帆がふとノートを見返す。

「あ」

嫌な予感がした。

樹と冬雨が同時に顔を上げる。

柚帆は首を傾げた。

「でも結局、一番気になるところ聞けてないですよね」

「え?」

月が言う。

「何が?」

柚帆はノートのあるページを指差した。

「公園」

空気が止まる。

「大学一年の六月の公園」

樹の笑顔が引きつった。

冬雨が視線を逸らす。

柚帆はにっこり笑った。

「結局、何があったんですか?」

「……」

「……」

二人とも黙る。

月が追撃する。

「確かに」

「月まで!?」

「だって気になるじゃん」

柚帆は期待に満ちた目で身を乗り出した。

「告白以外に何かあったんですよね?」

「ない」

樹が即答する。

「本当に?」

「ない」

「でも冬雨さん、“されて”って――」

「言い間違い!」

今度は冬雨が慌てて遮る。

しかし顔は真っ赤だ。

柚帆は確信を深めた。

「絶対何かある」

「ないって!」

「怪しいなあ」

「怪しくない!」

月がぽつりと言う。

「ちゅ~とか?」

その瞬間。

樹と冬雨が同時に立ち上がった。

「ない!!」

「ないから!!」

見事に重なった声がリビングに響く。

一瞬の沈黙。

そして。

月が吹き出した。

「息ぴったり」

柚帆も頷く。

「しかも否定するタイミングまで同じ」

「だから違うって!」

「違うから!」

また綺麗に声が重なる。

月と柚帆は顔を見合わせ、同時に笑い出した。

樹は頭を抱え、冬雨は真っ赤なまま視線を逸らす。

そんな二人を見ながら、月は楽しそうに言った。

「やっぱり仲良しだね」

焼き菓子の甘い香りが漂うリビングに、今度は笑い声が長く響いていた。

その夜。
ドライヤーの音が、やわらかくリビングに満ちている。

樹の手が、冬雨の髪をすくうたびに、少しだけ静けさが揺れた。

「……こうしてるとさ」

冬雨が前を向いたまま、ぽつりと呟く。

「なんか、落ち着くね」

「昔も同じこと言ってた」

樹は軽く笑う。

でも冬雨は、少しだけ間を置いて続けた。

「ねえ」

その声はいつもより少しだけ静かだった。

「映画観た帰りのこと、覚えてる?」

樹の手が一瞬だけ止まりかける。

「……雨の日の?」

「うん」

冬雨は振り返らないまま言う。

「びしょびしょになって、樹の家で髪乾かしてくれた時」

ドライヤーの音が、ほんの少しだけ遠くなる。

「その時さ」

冬雨は少しだけ息を吐いてから、続けた。

「その時はまだ分からなかったけど……あの頃からちゃんと、好きになってたんだと思う」

静かな声。

樹はすぐに返せない。

ただ、冬雨の髪をすくう手だけが、少しだけ優しくなる。

やがて、小さく息を吐いて、ドライヤーを止めた。

静けさが落ちる。

冬雨の髪が肩にふわりと落ちて、光を少しだけ含む。

樹はその横顔を見てしまう。

うなじの線。短くなった髪。昔と同じなのに、少し違う時間の重なり。

冬雨は気づかないふりをしながら、小さく言う。

「……どうしたの」

樹は少しだけ笑って、

「いや」

言葉を選ぶみたいに間を空けてから続ける。

冬雨の肩が、ほんの少しだけ揺れる。

「こうして今も、隣で冬雨の髪を乾かせてるの、本当に幸せ。……冬雨、大好き」

冬雨はすぐに返事をしない。

でも、その沈黙はもう迷いじゃない。

ただ、あたたかいだけの時間。

そしてゆっくり振り返る。

距離は近い。

でも、怖さはもうない。

「……私も」

冬雨は小さく笑う。
そして少しだけ目を伏せた。

「樹のこと、愛してる」

それだけで十分だった。

樹は少しだけ笑って、自然に手を伸ばす。

冬雨は逃げない。

代わりに、ほんの少しだけ目を閉じる。

キスは短く、静かで、でもちゃんと甘い。

離れたあと、冬雨は小さく息を吐く。

「髪、まだちょっと湿ってる」

樹は苦笑する。

「今それ?」

「だって、風邪ひいたら樹が悲しむでしょ」

と口を尖らせる。

そのやり取りに、昔と今がやさしく重なる。

樹はもう一度ドライヤーを手に取りながら、静かに言う。

「じゃあ、もうちょっとだけね」

冬雨は小さく頷く。

「うん、おねがい」

冬雨は素直に頷く。

樹は少しだけ笑う。

ドライヤーの温かな風が、再び二人を包む。

窓の外では夜が静かに更けていく。

もう離れることのない時間みたいに。

おわり

— End —

Comments 2

まあ〜3 天前

初めまして、まあ〜と申します。 いつも素敵な作品をありがとうございます😊 映画の続きを見ている様で、ほっこりとしてます。 次回作も楽しみにお待ちしております🤗

Sakuria
Where every work blooms
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