愛してるぞ、重悟♡と人目を憚らず発言したりとか、食事の件でからかったりとか、萩原さんって絶対横溝さんの事好きだよね?からかってるの?みたいな雰囲気が流れている。
署内が(というか、主に捜一と交通部が)あの二人って…となるくらいにはお二人のやり取りは見慣れたものだ。なのに、いちいちダメージを喰らう自分が本当に情けない。
そんな暇があったら、自分の出来ることをもっと磨いて千速先輩にもっと頼りにしてもらいたい。死ぬだけの恋心ならせめて、憧れの方の役に立つ原動力になってほしい。
もしも私が男だったら。女の私では出来ないことで頼って貰えたかもしれない。千速先輩に堂々と好きだと言えたかもしれない。
もしも私の好きになる人が女の人じゃなかったら。先輩にこんな邪な感情は抱かず、ただの後輩でいられたかもしれない。ただあの暴力的なまでのドラテクや度胸に憧れるだけで済んだのかもしれない。
「ままならない……」
思わずため息を零す。
背後では、おふたりのじゃれ合う声が響いている。
「横溝さんとの食事でレストランに入れなかった、ですか?」
「ああ、そうなんだよ!美味い飯にありつけると思ったんだが……!」
「……ちなみにそれって、良いレストランでした?」
「三ツ星」
「うわ〜……それは……悔しいですね……!」
退勤後、ちょっとした雑談をしていると飛び出てきた横溝さんの本気具合と千速先輩の可愛らしさが伺えるエピソードに、またダメージを受ける。何をやっているんだ私は。
千速先輩から出てくるのは『美味しいご飯を逃した悔しさ』から来る文句なのが惚れた欲目でほっこりエピソードに聞こえる。そして横溝さんへの気持ちが言葉からは伺えないことにも安心してしまう。こういうのを辞めたいって思っているのに。
先輩のお話に自業自得の苦い気持ちを抱きながら相槌を売っていると、噂をすればなんとやら、前からちょうど横溝さんが歩いてきた。
「お、2人とも上がりか?」
「はい。横溝さんもお疲れ様です」
「ちょうどお前の話をしてたんだぞ、重悟」
「な、なんの話だよ……」
「この間のレストランに入れなかった話だ」
「あれは!千速がTシャツにデニムで来たから入れなかったってだけだろうが!」
おふたりのじゃれあいは、外野から見ればもどかしい。私が学生で、おふたりのどちらかと同級生だったら「早く付き合っちゃえよ!」と背中をどついていたであろう程には。
だけど、おふたりとも年上で、上司で、片方は好きな人だ。最悪だ。間女は私である。
だから私は、自分の気持ちなんて押し込んで笑うのだ。
「あはは、横溝さんってば!千速先輩に服装指定しないとですよ!ねえ?」
「そうだぞ!」
「えばるな千速!🌸も千速を甘やかすな!」
甘やかすなだなんて酷なことを仰る。私はこれでも好きな人はベタベタに甘やかしたいタイプなんだ。
仮面を被る。ちょっと人懐っこくて、ある程度は使える、横溝さんと千速先輩の恋路を千速先輩贔屓で応援する、馬鹿な女の仮面を。
໒꒱
20代も後半になってくると、やれ結婚だやれ子供だといわゆる人生のステージアップのイベントが頻発する。かくいう私も、友達の結婚式やらお子さまの出産祝いやらで懐が痛い。だけど幸せのおすそ分けをして貰えるからお呼ばれするのは中々嬉しいことだ。
仲のいい友達にも私のセクシュアリティの話は一切していないので、周囲の評価は仕事人間だ。実際、東都をはじめ主に首都圏の治安はあまり良いとは言えない。恋人やら結婚やら、そういったことは「治安が良くなったら考えるわ」と流すことが出来ている。
進展の兆しを見せない千速先輩と横溝さんをはじめ、私の周りの人たちは割とステージアップのイベントが起きていない方が多い。だからこそ私も仕事人間の顔をして、内心は千速先輩の役に立てるようにとパトロールも訓練も一切手を抜かず仕事を恋人にしていた訳なんだけど。
「婚活パーティ……ですか……」
「そう。マスカレード婚活?とか言うやつでな。顔を隠して見合いをして、マッチングしたら見事豪華ディナーにありつけるって内容だ。🌸は聞いたことないか?ま、そこで殺人事件が起きだからそれどころじゃ無くなったんだが」
「そ、それはなんというか……」
「まあ重悟も一緒だったからな。それに管轄は警視庁だったから刑事の数も多くて…………」
ガツン、と頭を殴られた気がした。
横溝さんと一緒に、婚活パーティ。そっか、そうだよね。普通はステージアップする頃だ。それに好き合っているおふたりが、結婚を視野にいれた行動を起こしたって不思議なことは無い。
何にショックを受けているんだろう。千速先輩と横溝さんの恋路を千速先輩贔屓で応援する後輩になるって決めたのに。
私は、先輩がその後何を言ったのか、そして自分がどうやって千速先輩と別れたのか全く覚えていない。気づいたら自分の部屋で呆然と突っ立っていた。頬には涙が伝っている。
情けなく痛む心臓を落ち着かせるために手を握ったり開いたりする。
それでも、涙が止まることはなかった。
「転職ゥ?」
「はい。私もいい歳ですし、ちょっと自分を見つめ直して見ようかなと思いまして……」
数日うだうだ悩んだ結果、人生のステージを変えるのはなにも恋愛に限った話ではないと気づいた。
千速先輩のことは大好きだし、ずっと先輩の役に立ちたかった。そして幸せになって欲しいと心から思ってる。思ってるけど、それを近くで見続けるのは無理だと悟ってしまった。
死ぬだけの恋心を火にくべることすら出来ない、邪な下心を捨てられない邪魔な間女は先輩の近くには要らない。だったら、いっその事離れてみようと思ったのだ。
そうやって、色々なところから集めてきた求人雑誌やらサイトやらを休憩時間中に食堂の端っこで眺めていたら横溝さんに見つかった、というわけだ。
「……色々見てるんですけど、やっぱりこの歳だと中々厳しそうで。資格とかも全然持ってないですし……」
「……警察は、もういいのか?」
「……いいか悪いかでいったら、良くないです。でも、今の私に必要なのは環境を変えることかなって思って」
「千速には相談したのか?」
「いえ、まだ。ある程度目処が経ってからと思ってます。……横溝さんにだって、本当は言うつもりはなかったんですよ」
じとりと横溝さんを見つめると、横溝さんはバツが悪そうに目を逸らした。
「🌸が難しい顔してたからな……。どうしたのかと思って」
「心配してくれたんですか?」
「そりゃするだろ。所属は違えど🌸も俺の後輩ってのには変わりないしな」
「…………横溝さんってほんと……いい人ですよね……」
「はあ?」
これで性格が悪かったり、嫌な人だったらどれだけ良かったことか。そうだったら、私は横溝さんを嫌いになれてた。だけど横溝さんはとても素敵な人だ。千速先輩が好きになるのもわかる程に。
横溝さんの顔を見てより決心がついた。私は、ここからいなくなるべきだ。
「あーあ、なんかバイク関連の仕事とかありませんかねえ。ツーリングを仕事にしたい……」
「それこそ白バイ隊員だろ」
「じゃあ警視庁とかに掛け合ってみようかなあ。横溝さん、口利きとかできないですか?」
「できるわけねーだろ!」
「え〜残念……」
ケラケラ笑っていると、横溝さんはため息をついた後に大きな掌で私の頭を覆った。
……撫でられている。
「まあ、思い詰めてる訳じゃなさそうで安心したよ。千速には早めに言ってやれよ」
「……はい、ありがとうございます」
横溝さんの手は、大きくてあったかかった。
横溝さんになら、千速先輩はきっと幸せにしてもらえるだろう。そしていつか、おふたりが結ばれた時。笑顔で祝福出来るようになっていたい。ただの後輩として、ただ千速先輩に憧れていた、先輩贔屓の後輩として。笑って2人にライスシャワーを浴びせてやるんだ。
横溝さんを見上げると、彼は不思議そうな顔をしていた。
໒꒱
結局、これだ!という転職先は見つからず1週間が過ぎた。優柔不断は良くないと思いつつも、元々バイクに乗ることが好きで白バイ隊員を目指したこともあって中々理想の職場が見つからない。というか今がまさに理想そのものだった。
横溝さんには早めに千速先輩に相談しろと言われているが、何も決まっていない宙ぶらりんな状態で相談なんて引き留め待ちみたいで絶対に嫌だった。
毎日仕事が終わってから求人を眺めたり、物件のサイトを眺めたりしていたから少し寝不足だった。
最悪なことに、それが祟って追跡中にミスをしてしまった。幸い、大事にはならずに被疑者も確保に至った。先輩や他の上司から何か言われることも無かったが、私は自分が許せなかった。
……最悪だ、本当に。
その後は何事もなく終業の時間を迎えたが、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
こんなにブレブレな気持ちでバイクに乗る権利なんてない。早く、はやくどうにかしないと。
不安や焦りを追い出すように何度も拳を作っては解いていると、後ろから声をかけられた。
「🌸」
「……千速先輩」
「今日はもうあがりだろ?ちょっといいか?」
「……わかりました」
ああ、嫌だ。千速先輩に失望されてしまった。
千速先輩からお誘いを受けるなんて、本当なら舞い上がるほど嬉しいのに。いや、そうじゃない。そういうのはもう辞めるんだ。ここに全部置いて出ていかなければ。
凛と伸びた千速先輩の背をフラフラと追いかけていく。
眩しいな、この人はずっと。
思わず目を細めると、1粒だけ涙が溢れてしまった。
千速先輩に連れられて来たのは、県警からほど近い場所にあるファミレスだった。
時間帯的にあまり人は多くなく、かと言って閑散としている訳ではない。向かい合った千速先輩に無言になられるときっとキツいと思うから、人気のあるところに連れてきてもらえて少しホッとした。
千速先輩は手早く2人分のドリンクバーだけ頼むと、暖かい紅茶を2つ持ってきてくれた。
「す、すみません……!私がやるべきなのに」
「なに、気にするな。🌸の時間を貰ってるのはこちらだしな」
千速先輩はニコリと笑って、カップに口をつけた。思わず赤い口紅に目がいってしまい、そんな自分に辟易として私も紅茶を1口飲んだ。温かい。ホッと息をついた。
「……さて、🌸。私になにか言いたいことはあるか?」
「えっ」
言いたいこと。言いたくないことはあれど、今言いたいことはパッとおもいつかなかった。
が、ここで黙るのもおかしいと思い、先程のミスを謝ることにした。
「先程の追跡の際のミス……本当に申し訳ありませんでした。フォローありがとうございました」
「あー、違う違う!それはもう現場で貰った!私の言い方が悪かったな。私に相談したいこと、無いか?」
「相談したいこと……」
もしかして、転職のことだろうか。でもまだ千速先輩に相談するような所まで詰められていない。それを千速先輩に伝えると、先輩は大きくため息をついた。
「重悟から🌸がなにかに悩んでいると聞いてな……。重悟には相談しておいて私にはまだ、というのは些か意地が悪いんじゃないか?妬けるぞ」
「妬けるって……」
変な顔にならないよう、表情筋に力を入れる。
面と向かって言われると、どれだけ辞めようやめようと思っていても辛いものがある。
「やだなあ、横溝さんを独り占めなんてしてないですよ!横溝さんには見つかっちゃっただけです。たまたまです。本当は色々ちゃんと決めてから、一番最初に千速先輩にお話するつもりでした」
「……どうして急に転職するだなんて言い出したんだ?」
「最近、周りが結婚したり子どもが生まれたりで……人生のステージアップをしてるのを見て、私も自分を見つめ直そうと思ったんです」
この質問は予想していたからスムーズに返すことが出来た。それに嘘は言ってない。
自分を見つめ直して、千速先輩が好きだという気持ちを火にくべて、全て焼いて無かったことにすることにした。灰にならずにエンジンになってくれれば良かったけれど、残念ながら私の心はそこまで強くなかったみたいだ。
「ほら、千速先輩もこの間言ってたでしょう?婚活パーティ。あのお話を聞いて、私ものんびりしてる場合じゃない!って思ったんです!」
「🌸は、結婚がしたいのか?」
「え、いや……別にそういう訳では。ただ……」
ただ、あなたが。
「ただ、そういう年になったんだなあと思っただけです」
ただ、あなたが、私ではない誰かの隣で幸せそうに笑っているのを近くでみたくない、哀れな女の逃避なだけです。
「───嘘だな」
「え?」
「いや、敢えて伏せていることがあるだろう。🌸は私と同じくらいバイクが好きなのに、結婚だとかライフステージがどうだとか……たったそれだけの理由で白バイを手放すわけが無い。私を舐めるなよ?🌸。大人しく全部吐くんだな」
言葉の節々は強いけれど、声色と表情はとても優しい。
千速先輩はカップにかけたままだった私の手を握った。思わず手を引っ込めようとすると、逃がさないと言うようにギュッと握られた。
まずい、変な汗が出そうだ。
「ほ、本当なんです。本当に、ただ……私……」
「当ててやろうか」
ビクリ、と手が跳ねる。千速先輩は私の手を握ったままだ。
「🌸、自分の癖を知ってるか?」
「癖……?」
「ああ。🌸は悩んでる時や焦っている時に手を握っては緩めてを繰り返しているんだ」
思わず、千速先輩に握られていない方の手を見てしまう。確かに、その行動には覚えがある。だけど癖と言われるほどやっていただろうか。
「よくやっているぞ。例えば上司に怒られた時とか、トレーニングが上手くいかないと言っていた時もやっていたな。それから……私と重悟の話を聞いている時とか」
ぐ、と拳を握った。……これの事か。
「ほら、それだ。気持ちを落ち着かせていたんだろう。つまり、🌸には今の会話の中にも気持ちを落ち着かせようと思ってしまうような事があった。そしてそれは、私と重悟に関係するもの。……違うか?」
「……」
細く、長く、ため息を吐く。顔を上げていられなくて、俯く。千速先輩が視界から消える。
「千速先輩、刑事部でも上手くやって行けますよ」
「生憎と私はバイク一筋でな。🌸もそうだろう」
そう、なんだろうか。
千速先輩への邪な気持ちを自覚してからは、大好きなバイクに乗って先輩のお役に立てたら嬉しいと、先輩にもっと頼られたいという気持ちでいた。ただバイクが好きで、ただ職務に忠実で居られたのって、いつまでだったっけ。
バイク一筋なんかじゃない。ずっと、千速先輩の事ばかり考えていた。千速先輩に、それを知られてしまうのがずっと怖かった。
だけど、そろそろ引導を渡してやろうと思う。勝手に死ぬことを待っていたけれど、今私が、ここで、殺して火にくべて、エンジンになんてせずに灰にしてしまおう。
「私、私……先輩みたいに、バイク一筋なんかじゃないんです。」
「え?」
「私、ずっと千速先輩のお役に立ちたかった。千速先輩の事が──……好き、だから」
視界に力の入った拳が映る。緩めることは出来ない。
「こんなこと言われても、困らせてしまうだけだと思います。でも、ずっと……千速先輩が好きでした。先輩には幸せになって欲しいんです。でも、それを近くで見たくない。だから逃げるんです。
……これが、私が自分の人生を見直した結果です」
本当は、後輩としての憧れに気持ちを少しだけ混ぜ込んで伝えてみようと思ったこともある。だけど千速先輩はとても聡明で、そんなことをしたらすぐに暴かれてしまうと思った。
自分に邪な目を向けてくる後輩なんて、異性でも怖いだろうにそれが同性だなんて……気味が悪いだろう。千速先輩はそんなことをする人じゃないとわかっているけれど、私が好意を滲ませた事に気づかれて、それで避けられたりしたら私は立ち直れない。
結局、私はどこまで行っても自分本位なんだ。
千速先輩が好き。千速先輩に幸せになってもらいたい。
千速先輩が私以外の人に笑いかけているのは嫌。千速先輩が誰かの物になる所なんて見たくない。
千速先輩に嫌われたくない。千速先輩に気味悪がられたくない。
だから、逃げるの。
ああ、私、どうして男の子として生まれて来れなかったんだろう。どうして好きになる人が女の人なんだろう。
何か一つでも違えば、千速先輩にこんな女の心情を聞かせることなんて、なかったのに。
「すみません、泣くつもりなんて、なかったのに」
ボタボタと落ちてくる涙を握った拳で乱雑に拭う。こんなの同情してくださいと言っているようなものだ。同情して欲しいんじゃない。そうじゃないのに。
「🌸」
「っ、はい」
「……私は、少し勘違いをしていたようだ」
「……?」
千速先輩は大きくため息をつくと、空いている手のひらで目元を覆った。
「私はずっと、ただ🌸を傷つけていただけだったんだな」
「……いえ、そんな」
「事実だろう。……私はずっと、🌸が重悟の事が好きだと思っていたんだ」
「……はい?」
いま、先輩はなんて言った?私が?横溝さんを好き?なんで?
「だって……🌸は私が重悟と話している時、いつもちょっと無理をしていただろう?しかも🌸がおかしくなったのは婚活パーティでの事件を話してからだ。重悟が婚活に行ったことにショックを受けたものだと……」
「千速先輩、刑事部でも上手くやって行けますよ」
「私はバイク一筋だ」
隠したかったことがもう全部バレていてため息も笑いも全く出てこない。無だ。
反対に、千速先輩は眉根を寄せてなにかに耐えるような顔をしている。
外野から見たらめちゃくちゃカオスな空間じゃないのかな、ここ。
「安心してください。横溝さんのことは恋愛的には好きではありません。というか、そもそも私が好きになるのは女性なので」
「大前提から全て覆されたじゃないか……!」
「はい、だから心配せずとも横溝さんは、」
「違う、重悟のことじゃない!🌸の事だ!」
「えぇ?」
千速先輩は大きく息を吸って、そして吐いた。ため息のような深呼吸のような息継ぎだった。
「私は!🌸が重悟を諦めるように仕向けてたんだ!」
「……はい、そうですね?でも私は横溝さんはお父さんみたいだなとしか思ってません」
「そんな風に思ってたのか……。いや、今はそこはどうでもいいんだ!私は、🌸が重悟を諦めて……そして、その失恋の隙に付け込もうとしていたんだ」
「…………えっ」
「ふふ、狡い女だろう。諦めさせるのは私なのに。……すまなかった」
「えっちょ、やめてください!顔上げてください!!」
頭を下げた千速先輩に動揺して両手をバタバタと動かせば、空いていた方の手も先輩に握りこまれてしまった。
「答え合わせをさせてくれ、🌸。私の自惚れで無ければ、転職は私が重悟と結婚することになったら耐えられないと思ったから。それくらい、私のことが好きだからか?」
「……はい」
「じゃあどうして私と重悟の仲を応援するような事をしたんだ?」
「き、嫌われたくなかったから……。せめて他の人よりちょっと頼れる後輩になりたかったから、です」
「そうか。……そうかぁ」
千速先輩が俯く。長い髪が先輩の顔を私の視界から遮った。
「私は、🌸にも重悟にも悪いことをしてしまったな……」
「千速先輩……」
「……改めて言わせてくれ。思い詰めさせてしまって、すまなかった」
「えっ!いえ!私が勝手に拗らせてただけなので……。あの、気持ち悪くないんですか?」
「🌸がか?そんなわけないだろう。🌸はずっと可愛い後輩だよ」
「可愛い……」
「いや、今のは違うな」
千速先輩は軽く咳払いをすると、私の手を離して向かい合っていた席から私の隣に移動してきた。ち、近い。
「🌸、お前はずっと、私の可愛い想い人だよ」
「えっ、うわっ」
千速先輩の腕が背に回る。好きな人の体温が、私を包んでいる。
「私を、好きになってくれてありがとう」
「──っ」
なんて甘美な響きなんだろう。
ずっと、表に出していいものでは無いと思っていた。何度も何度も燃やして無くしてしまおうと思っていた気持ちだった。無くならないならせめて、千速先輩の役に立たせるためのエンジンになって欲しかった。
それが、千速先輩に受け入れられている。ありがとうと言って貰えている。
ああ、なんてあたたかいんだろう。
「ち、千速先輩のこと、まだ好きでいても良いんですか?」
「むしろ好きでいて貰えないと困るな。──……お前のことが好きだよ、🌸」
「……先輩……」
灰にして砕いたはずの恋心は、千速先輩の手によってまた灯りがともされた。それはまるでランタンのようにあたたかくて、優しい光のようだった。
「……なんだ、返事はくれないのか?」
「現実感がなくって……」
「ふむ、じゃあ驚かせたらいいか?」
「えっ、そこは普通頬をつねるとンむ」
千速先輩は事も無げに私の唇を塞いできた。一拍遅れて出てきた悲鳴も、全部千速先輩に食べられてしまった。
「な、なななな、なんてことするんですか!?」
「なんてことって、キスだが」
「て、展開が早すぎる!先輩近いです!ぎゃあ、やめて!!」
「なんだ、照れているのか?🌸は私のことが好き、私は🌸のことが好き。じゃあ恋人同士だろ!」
「そ、そうかもしれないけど!もっとこう順序とかあ!!」
「順序は飛ばしてないだろ!手を握って、告白して、付き合って、キス。な?」
とても楽しそうに笑う千速先輩の顔は、今まで見たことの無い顔で。これが恋人に見せる顔かと、腑に落ちてしまった。
「これからよろしくな、可愛い恋人さん!」
焦がれた人に受け入れてもらえる事がこんなに嬉しい事だったなんて、私は知らなかった。
「──はい、ぜひ、末永く!」
千速先輩が灯してくれた火は、そのまま身体を巡って私の顔を赤く火照らせたのだった。
……ちなみに、千速先輩のあまりの猛攻に耐えきれずに横溝さんを巻き込んでしまうのだが、それはまだ先の話だ。





















